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自治省消防庁消防研究所 放射性物質輸送容器の耐火性に関する試験研究
放射性物質の利用の進展および原子炉・原子力発電所の増加に伴い、放射性物質および核原料・核燃料・使用済核燃料の輸送も年々増加している。 これらの放射性物質等の輸送は、公衆の通行する一般公道で行われるため、輸送中に万一事故などを起し、輸送容器が破損すると、内部の放射性物質等の漏出による放射線被ばくおよび放射性汚染など、一般公衆の生命および財産の損害等に与える影響は極めて大きいことが予想される。 このような放射性物質輸送容器の輸送中における安全性を確保するため、国際原子力機関(IAEA)による「放射性物質の安全輸送規則」1973年版があるが、これに基づいて、わが国においても放射性物質および核原料・核燃料物質の輸送関係の諸法規等が整備されている。これらの諸法規の中で、B型輸送容器は、輸送中の事故で想定される特別の試験条件として、落下衝撃、火災、浸漬などがあり、とくに火災条件である800℃、30分間の加熱に対しても安全であることが要求されている。 この研究は、放射性物質および核燃料物質等の輸送を対象とした種々の輸送容器の熱的安全性の評価に必要な知見を一層蓄積するとともに熱解析コードの開発に資することを目的とし、原子力発電用軽水炉の使用済燃料を対象とした鋼製外殻、遮へい鉛層、ステンレス鋼製の三層構造を有する円筒型原型輸送容器(重量約80t)を想定し、これを縮尺した一連の容器モデルによる炉内加熱試験を行った。この試験結果を解析すると共に、原型輸送容器についても理論計算により、800℃30分火災に対する安全性は、外殻と鉛層との間の微少空隙による熱コンダクタンスの値によって左右されることがわかった。 また、現在は輸送容器の緩衝断熱材として使用される可燃性断熱材(セロテックス、積層合板、バルサ材等)および不燃性断熱材(バーミキュライト、ファインフレックス等)を用いた輸送容器モデルの耐火試験を行い、断熱材の熱的性能の評価および伝熱計算方式の検討を実施している。 1例として医療用照射線源輸送容器の炉内加熱による耐火試験結果について紹介する。図1は鋼製外容器の内側に可燃性断熱材である米松合板を積層加工し、内部に照射線源容器(約1.2ton)を収納した輸送容器の構造を示す。この輸送容器は800℃、30分間の加熱後、炉外に取出し長時間(約15時間)自然放冷し、この間の容器各部の温度経過を測定した。この容器内各部の最高温度および到達時間を表1に示す。表から輸送容器内の線源容器の放射線しゃへい鉛の温度は加熱後3時間では約44℃であったが、加熱後約12時間後には53℃まで上昇したことがわかる。 現行の試験基準では、輸送容器のいかなる燃焼であっても、内部温度が下がるか、または加熱終了後3時間を経過しなければ人工的に冷却してはならないことになっている。したがって燃焼が継続している輸送容器の場合加熱終了後3時間の温度で安全性の判定をすることになる。しかし、実験結果より輸送容器内に可燃性断熱材を使用している場合は、安全性の評価の対象となる内部の最高温度の到達時間が3時間より、さらに長時間を要することもあることが明らかになった。 今後、断熱材の実験結果のとりまとめを行うと共に、種々の燃料(ガソリン、ヘキサン等)の火災事故時の熱的条件に関する検討、輸送車輌(トラック、トレーラー等)および特殊火災環境(トンネル内等)を想定した火災性状の検討等、輸送の実態に即した輸送容器の耐火性に関する研究が進められる予定である。 以上の結果は、国の輸送物安全審査およびIAEA規則の改訂等に貢献が期待される。 図1 医療用照射線源輸送容器構造図(単位 mm) ![]() 表1 木材層内側表面と線源容器の最高温度および到達時間 ![]() |
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