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核融合会議報告書 核融合炉開発の進め方について


昭和56年9月30日
原子力委員会核融合会議

(解説)

 本報告書は昭和56年9月30日に核融合会議において取りまとめられ、昭和56年10月6日に原子力委員会へ報告されたものである。

昭和56年9月30日
原子力委員会
  委員長 中川 一郎殿
核融合会議
座長 宮島 龍興

 核融合会議は昭和53年4月に「核融合炉開発に関する長期戦略」について提言を行ったが、その後、内外の研究が急速に進展し、核融合制御の科学的実証の見通しが得られつつある状況を踏まえ、同提言の見直しが必要と判断し、「核融合炉開発に関する長期戦略レビュー分科会」(昭和55年2月設置)を設け、昭和56年3月同分科会から報告書を受理した。

 当会議は同報告書を基に、学界、産業界等から意見を徴しつつ、かつ昭和55年11月文部省学術審議会が行った大学等における核融合研究の長期的推進に関する建議内容を十分考慮に入れて審議を行い、ここに「核融合炉開発の進め方について」をとりまとめた。

 この趣旨が、現在原子力委員会において進められている原子力研究開発利用長期計画の改訂に関する調査審議に十分反映されるよう提言するものである。

1. 核融合研究開発の意義

 核融合エネルギーはその主体となる燃料を海水から取得することができ、科学的実証を経て、これが実用化された場合には豊富なエネルギーの供給を可能とするものであり、人類の未来を担う有力なエネルギー資源の一つとして役立つものと広く期待されている。特に我が国にとり、将来のエネルギー問題の解決に積極的貢献をなし得るという観点から、核融合研究開発は大きな意義を持つものと考えられる。

 核融合の研究は着手されて以来着実に進歩を重ね、今日では具体的に核融合炉を念頭においた研究開発段階に入りつつある。核融合研究開発の当面の目標は、核融合がエネルギー資源として役立ち得ることを科学的に実証し、最適な核融合制御技術を確立することであり、究極的には、核融合を経済性があり、かつ高い環境保全性や安全性を持つエネルギー資源として実現することである。

 しかしながら、その実現には長期にわたる広範な基礎研究や技術開発を、段階的に規模を拡大しながら継続的に実施していくことが必要であり、我が国が核融合のような大規模な先端的技術の開発に積極的に取り組むことは、新しいエネルギー資源の開発のみならず、関連する一般的技術の進歩へ貢献することにもなり、その波及効果は極めて大きい。

2. 研究開発の現状

 1970年代のトカマクに関する研究開発の成果やその蓄積により、日本、米国、欧州共同体(EC)及びソ連において、現在大型装置が建設されており、これら装置による研究が順調に進めば、世界が過去四半世紀の間、研究開発の目標としてきた核融合制御に関する科学的実証(臨界プラズマ条件の達成)が1985年頃には果たされるものと考えられる。一方これと並行してトカマクの改良研究、並びにトカマク以外の磁気閉込め及び慣性閉込めの研究もまた世界で広範に進められており、他方、核融合炉が現実に構想されるようになるに伴い、炉材料、超電導磁石及びトリチウム燃料等に係る炉工学技術の開発が精力的に行われ、国際協力においても既にいくつかの成果がみられる現状である。

 我が国の核融合研究は昭和30年代のプラズマ物理の基礎研究から出発し、大学、関係省庁研究機関等における20余年の研究開発の歴史を経て、今日世界的な水準に達している。即ち、トカマクに関する研究では、日本原子力研究所や名古屋大学プラズマ研究所等の実験装置によって、ダイバータ効果、中性粒子入射加熱による高ベータプラズマ、高周波による加熱及び電流維持、低安定係数放電、非円形プラズマの制御等の面において優れた成果を挙げてきている。

 トカマク方式を用いた臨海プラズマ試験装置JT-60の建設及び関連する技術開発は順調に進んでおり、これにより得られる大型装置技術の蓄積は大きく、将来の核融合炉開発の基盤を着実に形成しつつあるといえよう。またJT-60計画は不純物制御、長時間パルス運転等の特徴を有することから米国、EC、ソ連の同種装置と互いに補完し合いながら、科学的実証に相当する臨海プラズマを実現にするものと期待される。しかしながら、トカマク方式については、誘導環状電流の崩壊防止対策及びその制御技術の確立が課題であり、また実用に至るまでには定常運転への性能改善が必要である。

 したがって、核融合研究開発の現段階としては、トカマク以外の各種閉込め方式についてもその特色に着目しつつ、多角的な観点からの研究を推進しておくことが重要である。このため我が国では早くから大学、国立試験研究機関等において、ヘリオトロン、ピンチ、開放端、慣性閉込め等各種閉込め方式の研究開発について独自の歴史を築いており、その結果ヘリオトロンEによる無電流プラズマの安定な閉込め、タンデムミラーにおける静電ポテンシャルの形成、レーザーによる燃料球の安定圧縮等多くの成果を挙げてきている。また現在大学関係で検討、準備を進めている核反応プラズマ研究計画は、科学的実証の次の段階へ向けての重要な基礎研究の一つとして期待されている。このほか、大学等においては、炉心技術、炉工学技術を問わず、基礎的な研究開発が広範に行われており、人材養成の面を含め層の厚い基盤を形成している。

 このような研究開発の進展に伴い、産業界とこれらの研究機関との協力による成果は国際的にも評価を受けており、核融合研究開発における産業界の役割はますます重要になりつつある。

 国際協力は1979年頃から急速な盛り上がりをみせ、臨界プラズマ試験装置の次の段階の装置として国際原子力機関(IAEA)の場で検討が行われている国際トカマク炉(INTOR)に係る国際協力においては、我が国もこれに積極的に参加し、主導的役割を果たしており、INTORについて100秒を超すD-T燃焼の設計の可能性が示される等、知識の世界的な集大成に大きな成果を挙げてきている。このほか、我が国は国際エネルギー機関(IEA)の場で行われている各種の炉工学技術の共同研究に参加するとともに、日米、日ソ協力を進めており、特に日米協力は今後の我が国の国際協力の柱になると考えられる。

 国際協力を含む我が国全体の核融合研究開発の総合的推進及び連絡調整については、原子力委員会核融合会議がその任に当たり、関係省庁及び機関の協力により、これまでに挙げた成果には著しいものがある。

3. 今後の核融合研究開発の進め方
(1) 基本的な考え

 核融合炉は現在の技術的な推論から21世紀の早い時期に実用化が可能とみられるところから、我が国としてはこれを目途として国際協力の成果を踏まえつつ、自主技術の確立を図ることとする。

 核融合のような大規模な研究開発に取り組むに当たっては、国の総合的なエネルギー研究開発政策の中でその適切な位置付けを行うとともに、努力の集約を図るため、計画の最終目的に至るまでの目標を段階的に設定することが必要である。核融合制御の科学的実証を目前にした現在、次段階の目標は核融合が炉として実現し得ることを示す技術的実証(自己点火条件の実現等)であり、これが示されて始めて核融合をエネルギー資源の一つとして考慮し得ることになる。

 この目標を実現するための次段階の装置の具体的建設計画、実施体制等は、JT-60等の運転実績、核反応プラズマ実験等の成果、トカマク改良研究及びトカマク以外の閉込め方式の研究成果、関連技術の開発状況並びに国際協力の動向等を考慮して最終的に決定されるべきである。次段階装置により技術的実証が得られる時期としては昭和70年代初頭を目標とする。

 また国際協力については、研究基盤の拡充、開発資金の低減を図るとともに、我が国も国際社会に応分の貢献を果たすとの観点から、今後とも相互裨益及び自主技術確立の原則に立ちつつ、我が国の計画との整合性を充分に考慮に入れ、積極的に取り組むこととする。

(2) 次段階の装置について

 上記の基本的考えに沿って次段階装置による研究開発目標を示すと以下の通りである。

① 核融合を動力炉に利用することを技術的に実証するため、D-T燃焼、自己点火及び基本的な炉工学技術の確証を図り、

② 材料技術、トリチウム生産技術、遠隔保守技術、並びに安全性、信頼性、耐久性及び安定性の向上のための技術等について総合的な試験を行い、知見を得る。

 昭和53年4月の提言においては、これらの目標を達成するための試験を炉心工学試験装置と実験炉とで行うことが考えられていたが、内外の核融合研究の進展状況等を考慮すると、これらの試験を一つの装置(以下実験炉と仮称する。)で実施するよう企画することが適当であり、今日の判断としては、その実験炉にトカマク方式を想定して研究開発を行うことが妥当と考える。

 実験炉の建設には多くの克服すべき技術課題があり、それらの研究開発、臨界プラズマ試験、核反応プラズマ研究、国際共同研究等の成果を総合しながら設計研究を協力に推進することが必要である。実験炉の設計は昭和60年代前半に完了することを目途とする。そのため必要な研究開発、設計研究には関係省庁研究機関、大学が協力して取り組むこととする。特にこれまで装置制作の面から研究開発を支えてきた産業界は、蓄積してきた技術、経験等を共通の財産として活用し、設計及び関連技術開発の段階から重要な役割を果たしていくことが期待される。

(3) トカマク以外の方式の研究推進

 トカマク以外の方式については研究を促進してその進展を見守り、実験の成果を吟味し、必要に応じ装置の増強や研究の統合を図る等により積極的に推進する。個々の方式については、常に厳密な評価、選別が行われることが必要であり、当面の方策としてはそれらが臨界プラズマ条件達成の見通しを示し、炉として構想できると判断される段階に達した時点で、トカマク方式との比較検討を行い、段階的に進めるものとする。

(4) 長期にわたる技術開発、人材養成等

 想定される実験炉に直接関連する技術開発を行うとともに、長期にわたる均衡ある開発推進のためには、核融合炉に至る基盤的な技術開発や核分裂路技術等関連技術の活用を積極的に進めていくことが必要である。

 また、トリチウム及び強磁場等の人体、環境への影響等安全性に関する研究を一層進めるとともに、材料資源の確保方策、経済性等についても検討を行う必要がある。

 なお、核融合分野のみならず広く他分野にも関連する横断的な技術課題については、国として総合的な研究開発を進めることが望ましい。

 さらに核融合のような長期にわたる大規模な研究開発を進めるに当たっては、重要な課題である人材の養成に関して適切な施策の充実が肝要である。

(5) 組織体制に対する考え

 こうした核融合炉の開発を進めるに当たっては、これまで研究開発が個々の歴史を持つ特徴がある研究機関によって進められてきた経緯があること、及び核融合が持つ研究開発課題には、広範囲かつ複雑に関連する課題が数多くあることから、当面は各々の研究機関が持つ特徴を生かしつつ、総合化を目指して推進することが効果的であると考えられる。

 即ち、日本原子力研究所においては、JT-60による臨界プラズマ条件達成に努めるとともに、トカマク方式を用いた自己点火条件の達成等を目指した設計研究、研究開発を行い、大学、関係省庁研究機関等においては、各種閉込め方式の研究や核反応プラズマ研究計画の推進等炉心技術、炉工学技術を含む広い関連分野における先駆的、基礎的研究を行い、併せて人材の養成に努めるものとする。

 実験炉の建設については、その建設計画が決定される時点で適切な実施体制を確立するものとする。

 その間にあって、核融合会議は、関係省庁研究機関、大学及び産業界が各々の機能を生かし、一層総力を結集できるような連携強化にイニシアチブを取り、各省庁が責任を持って遂行する成果を見守り、研究開発の段階に応じて、これに適切な調整、推進の役を果たすものとする。

(別紙)
核融合会議構成員(昭和56年9月現在)敬称略
向坊 隆 原子力委員
宮島 龍興 理化学研究所理事長
石坂 誠一 通商産業省工業技術院長
石渡 鷹緒 科学技術庁原子力局長
内田岱 二郎 東京大学工学部教授
大山 彰 動力炉・核燃料開発事業団参与
岡村 総吾 日本学術振興会理事
垣花 秀武 名古屋大学プラズマ研究所長
柴田 俊一 京都大学原子炉実験所教授
関口 忠 東京大学工学部教授
橋口 隆吉 東京理科大学工学部教授
伏見 康治 日本学術会議会長
松浦 泰次郎 文部省学術国際局長
松平 寛通 放射線医学総合研究所生物研究部長
森 茂 日本原子力研究所理事
安河内 昴 日本大学理工学部教授
山中 千代衛 大阪大学レーザー核融合研究センター所長
山本 賢三 名古屋大学名誉教授

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