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ウラン濃縮国産化専門部会報告書 昭和56年8月3日
原子力委員会
ウラン濃縮国産化専門部会
昭和56年8月18日
原子力委員会
委員長 中川 一郎殿
ウラン濃縮国産化専門部会
部会長代理 大島 恵一
本専門部会は、昭和55年10月17日付原子力委員会決定に基づき、ウラン濃縮国産化の進め方について鋭意審議を行ってきましたが、このほどその結論を得たので、ここに報告いたします。 はじめに
原子力発電の推進は、エネルギー政策上の最重要課題の一つであるが、我が国は、原子力発電に必要なウラン濃縮役務の全量を海外に依存している。 濃縮ウランの国産化を図るため、原子力委員会は、昭和47年8月、遠心分離法によるウラン濃縮パイロットプラントの建設、運転までの研究開発を「国のプロジェクト」としてとりあげ、これを強力に推進する旨の決定を行った。 その後、動力炉・核燃料開発事業団を中心に、遠心分離法ウラン濃縮技術の開発が進められてきており、パイロットプラントについては、本年秋には建設を終了する予定であり、既に一部運転の成果も得られているところである。 当専門部会は、動力炉・核燃料開発事業団におけるこれまでの研究開発の成果、今後の経済性達成等の見通し、化学法等遠心分離法以外のウラン濃縮技術の現状、ウラン濃縮をめぐる最近の国際情勢等に関する検討を行い、これらを踏まえ、遠心分離法によるウラン濃縮商業プラントの建設、運転に至るまでのウラン濃縮国産化の進め方をとりまとめた。 本報告書においては、ウラン濃縮国産化を推進していく上で基本となる考え方を示したので、この考え方に沿って、関係者間の協議を経て、具体的施策が展開され、早期に濃縮ウランの国産化が図られるよう希望する。 1. ウラン濃縮役務の需給バランス
(1) 今後の原子力発電規模の拡大に伴い、我が国におけるウラン濃縮役務の需要量も増大していくこととなり、各電力会社の推定値を積算すれば、昭和65年に年間約8,000トンSWU(注)、昭和70年に年間約10,000トンSWU、昭和75年に年間約12,000トンSWUのウラン濃縮役務が必要となる見通しである。 (2) 一方、各電力会社は、米国エネルギー省との契約により、合計5,100万キロワットの原子力発電に必要なウラン濃縮役務(約6,000トンSWU/年)を確保しており、また、フランスのユーロディフ社との契約により、昭和55年から昭和64年までの10年間にわたり約900万キロワットの原子力発電に必要なウラン濃縮役務(約1,000トンSWU/年)を確保している。 (3) 上記の契約により、昭和60年代中頃までに我が国が必要とするウラン濃縮役務は満たされいる。それ以降については不足が生じ、その不足量は余剰濃縮ウランの保有量にもよるが、単年度のバランスの上からは、昭和75年において年間5,000トンSWUを上まわるものと見られている。 (注)「トンSWU」とは、ウラン濃縮役務の量をあらわす単位であり、100万キロワットの原子力発電所が毎年必要とする約30トンの濃縮ウランを作るためには、約120トンSWUのウラン濃縮役務が必要である。 2. ウラン濃縮国産化の意義
我が国は、現在のところ、ウラン濃縮役務の全量を海外に依存しているが、大規模な原子力発電開発計画を持ち、原子力平和利用の先進国である我が国としては、今後、次のような観点から、濃縮ウランの国産化を進めていく必要がある。 (1) ウラン濃縮役務の安定供給の確保
海外にウラン濃縮役務を依存した場合、供給国の政策の変更、海外濃縮工場の事故等我が国のコントロールし得ない理由により供給が不安定となる恐れがあり、これらを避けるためには、ウラン濃縮役務の自給化を図る必要がある。 また、我が国がウラン濃縮工場を有することにより、引き続き供給の一部を海外に依存する場合でも我が国のバーゲニングパワーが確保され、ひいては海外依存分の供給の安定化が期待される。 (2) 我が国の自主性の確保
濃縮ウランの国産化を図ることは、濃縮役務を海外に依存していることから生ずる諸々の制約を軽減し、我が国の自主的核燃料サイクルを確立する上での中心的課題である。 世界のウラン濃縮市場の状況をみると、ウラン濃縮役務の供給は、少数の供給者による寡占状態にあり、将来のウラン濃縮事業への新規参入はますます困難になるものと考えられる。このような状況にあって我が国が早期の濃縮ウランの国産化を図り、自主性を確保するとともに、さらには、国際的役割を果たすことが重要である。 (3) 回収ウランのリサイクル利用
再処理工場で回収されるウランは、プルトニウムと同じく貴重な国内燃料資源であり、これを国内の濃縮工場で再濃縮してはじめてそのメリットが生きてくることになる。 今後の民間再処理工場の運転により大量のウランが回収されてくることになるが、そのリサイクルを国内で完結させるためにも、国内にウラン濃縮工場が必要である。 (4) 原子力産業の振興に対する寄与
遠心分離法によるウラン濃縮技術は、精密機械技術、プロセス技術等を集大成するものであり、我が国の産業基盤からみて、民間の活力を十分に生かすことによってウラン濃縮事業が国際競争力を持つ産業分野となることが期待される。今後、ウラン濃縮国産化計画を円滑に進めていくことにより、ウラン濃縮事業が我が国原子力産業の中核として育成され、将来においては、ウラン濃縮役務を海外に供給していくことも期待される。 3. 遠心分離法ウラン濃縮技術の評価
動力炉・核燃料開発事業団が、学界、産業界の協力を得てこれまで進めてきた遠心分離法ウラン濃縮技術の研究開発の成果を評価すれば次のとおりである。 (1) 遠心分離機
回転胴の高周速化及び長胴化が達成された結果、遠心分離機の分離性能は著しく向上してきており、我が国の遠心分離機は、分離性能的には、国際的水準に達しているものと判断される。 また、遠心分離機の信頼性については、これまでに実施された寿命試験、パイロットプラントの部分運転等によりほぼ目標値を達成しており、今後のパイロットプラントの運転により、一層のデータの蓄積が図られるものと期待される。 (2) カスケード技術
パイロットプラントのこれまでの運転では、設計値通りの濃縮度及びカスケード分離能力が確認されており、濃縮プラントの設計に必要なカスケードのデータは、相当蓄積されてきている。 (3) 遠心分離機以外のプラント機器・設備
六ふっ化ウラン処理系、計装システム、高周波電源等遠心分離機以外のプラント機器設備については、パイロットプラントの建設段階の進展に応じ、合理化努力が払われており、今後のパイロットプラントの運転を通じ、その評価がなされるものと期待される。 (4) 総合評価
これまでのパイロットプラントの建設、運転等の研究開発の成果からみて、我が国の遠心分離法ウラン濃縮技術は、性能面及び信頼性の面においては、確立されつつあると評価される。 一方、経済性の面においては、今後の技術開発の進展に期待されるところが大きく、国際競争力のあるウラン濃縮商業プラントを建設するためには、遠心分離機の量産技術を開発することなどによりコストの低減化を達成するとともに、プラント機器・設備の大型化、合理化を実現し、総合的に信頼性及び経済性を有する濃縮プラントを開発することが技術的課題として残されている。更に、今後とも、これら技術的課題の解決と並行して、諸外国における技術開発の進展に伍して、遠心分離機の一層の性能向上等を図っていくことが重要である。 4. ウラン濃縮国産化の目標
前述のウラン濃縮国産化の意義からすれば、ウラン濃縮商業プラントの建設に進み得る技術が確立された後可能な限り早期に、国産化が図られることが望ましい。 パイロットプラント以降商業プラントまでに解決すべき技術的課題、ウラン濃縮需給バランスの見通し、遠心分離機の製造体制等を総合的に勘案すれば、我が国におけるウラン濃縮国産化の目標は、次のように設定することが妥当と考えられる。 昭和60年代前半に商業プラントの運転を開始し、昭和60年代末に1,000トンSWU/年の規模とし、昭和75年頃までに最低3,000トンSWU/年程度の規模とする。 5. ウラン濃縮国産化の推進方策
(1) 基本的考え方
ウラン濃縮事業は、経営の効率性、他の核燃料サイクル事業との関連等の観点からみて、民間において実施すべきものと考える。 一方、ウラン濃縮の事業を推進していくに当たっては、その特殊性から、国際関係、情報管理、保障措置等の分野において、国が関与すべき問題が少なくないので、国は、これらに対し適正に対応するとともに、必要に応じ財政上の支援を行うことにより、ウラン濃縮及びその関連事業が民間事業として健全に発展していけるような条件整備に努めるものとする。なお、効果的な保障措置の適用については、国及び民間の緊密な協力が必要である。 また、動力炉・核燃料開発事業団において蓄積された技術を民間のウラン濃縮事業主体等に円滑に移転していくことは、ウラン濃縮国産化を進めていくための要であり、この点に関する特段の配慮が必要である。 (2) 原型プラントの位置付け
ウラン濃縮国産化を進めていくためには、今後、遠心分離機及びその量産技術に関する開発を引き続き進めること、商業プラントに先立って原型プラントの建設運転を行うことなどが必要と考えられる。 原型プラントは、パイロットプラントと商業プラントの間に位置付けられるものであり、次のような目的を達成しうる規模、内容を有するものと考えられる。 ① 遠心分離機の量産技術を開発し、製造コストの低減化の見通しを立てる。 ② プラント機器・設備について商業プラントに向けての大型化、合理化を図る。 ③ 信頼性、経済性の面から最適なプラントの建設、運転のシステムを確立する。 なお、ウラン濃縮事業をめぐる国際的な情勢をみるとき、我が国がウラン濃縮事業に参入していくことを早期に明確にする必要があり、この観点からも、原型プラントの早期着手が望まれるところである。 (3) 原型プラントの推進方策
(イ) 基本的な考え方
原型プラントの建設運転は、動力炉・核燃料開発事業団が実施したパイロットプラントの経験を十分に踏まえて実施されるものであると同時に、その成果は民間が実施する商業プラントに直接反映されることになる。 原型プラントは技術開発要素が多く、その建設及び運転は商業プラントより割り高であり採算ベースに乗らないこと、技術開発の最終段階としてのリスクが残されていることなどから、国は、民間の積極的な協力を得て、原型プラント計画の推進を図ることが適当である。 また、原型プラントは、相当な生産能力をもつ濃縮プラントであり、その濃縮役務は適正な価格で電力業界が引き取るとともに、原型プラントは将来、ウラン濃縮事業の一部として活用されるべきである。 (ロ) 原型プラントの具体的推進方策
原型プラントを早期に着手するという観点から、技術開発を推進している動力炉・核燃料開発事業団が、当面、原型プラントの建設、運転に当たり、商業プラントを実施する民間がこれに積極的に協力していくことが現実的である。 この場合、動力炉・核燃料開発事業団及び民間が緊密な連繋を図り、原型プラントの具体的計画を確立していくことが前提となる。 なお、原型プラント計画を円滑に進めていくために必要な技術開発については、引き続き動力炉・核燃料開発事業団を中心に推進していくことが望ましい。 ウラン濃縮国産化専門部会構成員
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