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国際トカマク炉(INTOR)計画について



日本原子力研究所

1 はじめに−その準備期間

 JT−60(日本)など大型トカマク装置の建設が各国において開始されはじめた1977年頃から、トカマクの実験成果の進展にも裏打ちされて、その次の世代のトカマク装置についての検討が、いわゆるトカマク先進4カ国、日、米、ソ、ECにおいてはじめられていた。

 1977年10月、MITのRose教授の呼びかけにより各国代表者(日、米、EC、IAEA)が会合し、各国の経験を持寄って、国際設計チームをつくり次期装置を検討しようという方針が出され、同教授からIAEAにその趣旨の申入れが行われた。これが国際トカマク炉(INTOR)計画発足のきっかけとなった。IAEAではIFRC(国際核融合研究評議会)の勧告を受けて、上記4ケ国にINTOR計画への参加を呼びかけ、ソ連も積極的な反応を示し、1978年11月に、原研の森茂現理事を議長としてINTOR計画が発足した。

 それに先立つ1978年8月のIAEA・IFRCにおいて、INTOR計画の基本的な考え方が次のように定められた。

1 INTOR計画はIAEAの主催により各国が参加するワークショップ形式でスタートし、段階(フェーズ)を設けて、その都度、チェックアンドレヴューを行いながら次の段階へ進む。

2 当面は、実際の建設は前提としない。

3 各国およびIAEAからの各1名の幹事による運営委員会を設け、議長を置く。

4 ワークショップの費用はそれぞれの派遺元(国、研究機関)が持ち、IAEAは事務局をつとめる。

 また、炉の設計の基本的条件としてIFRCから次の事項が要請された。

1 現在建設が進められている大型トカマク装置群から将来に向って現実的な範囲内で最大限の歩幅(maximum reasonable step)をとること。

2 将来炉の各コンポーネントを基本的には備えていること。

3 INTORを用いて将来炉に関連した試験が行えること。

 さらに、INTORの基本仕様が次のように設定された。

1 D−T燃焼のトカマク炉であること。

2 Q値(核融合出力/炉心加熱入力)>5

3 長時聞制御が可能であること。

4 炉工学試験(材料、トリチウム生産、超電導など)が可能であること。

5 発電を行うこと。

 これらの設定条件のもとでワークショップは設計作業を開始した。これまでのワークショップの活動を第1表にまとめて示す。なお、各セッションの間には、各国において、次のセッションに備えて膨大な作業(いわゆるホームタスク)が行われたことは言うまでもない。

第1表 INTORワークショップの経過

2 フェーズ0

 フェーズ0(1978年11月〜1979年12月)においては、INTORを設計するに当って、現時点における物理的および技術的基盤の認識を行う目的で、詳細なデータベース・アセスメントが第2表に示す16の分野について行われた。更に各分野における必要なR&D項目を抽出した。

 さらに、このようなデータベース・アセスメントを行う場合に対象となる炉の指標パラメータが、IFRCの要請条件を踏えて設定された。それを第3表に示す。このフェーズ0における討議を経て、最終的には同表にあるようなパラメータが提案された。フェーズ0の結果によりまとめられたINTORの特徴は第4表に示した通りである。

第2表 INTORフェーズ0においてデータベース・アセスメントが行われた分野

第3表 INTOR主要パラメータの推移

第4表 INTOR(フェーズ0)の特徴

 フェーズ0においては、日本はINTOR−Jと呼ばれる概念設計を行い、ワークショップに提案した。この設計を中心として、ワークショップの全般にわたって日本はアメリカと共にリーダーシップを取る形となり、日本のトカマク研究の進展ぶりを強く印象づけた。特に、ダイバータの物理的、工学的検討、炉構造、電源設計においては日本の成果が全面的に取り入れられた。

 フェーズ0のデータベース・アセスメントにより、INTORのようなトカマク炉を建設することは、核融合炉開発上、科学的、技術的に極めて重要で且つ妥当なステップであることが明らかにされた。さらに、現在、各国で進められている研究開発およびINTORのための特定の研究開発によって得られる技術基盤の上に立てば、1990年頃の完成を目指して、INTORを建設することは可能であることが示された。

3 フェーズ1

 フェーズ1(1980年1月〜1981年7月)ではフェーズ0において検討した技術的基盤の上に立って、概念設計が進められた。第3セッションにおいて、共通の設計仕様が定められ、各国はそれに従って概念設計を行い、それを持ち寄って、相互に検討し合い、1つの設計にまとめていった。

 フェーズ1のワークショップは第1図に示すような構成で運営された。

 フェーズ1において主な論点となったものは、ダイバータの選択、炉構造、ブランケットの設置とその構造などであった。各セッションにおいて、非常に真剣な討議が行われ、メンバー全員が、設計をまとめようと、必ずしも、自己の意見に沿わなくても協力し合った。この結果、平均出力約400MWのINTORが技術的に実現可能であることを示すことが出来た。

 第5表に概念設計でまとまった主要パラメータを示す。

第1図 INTORワークショップ(フェーズ1)組織図

第5表 INTOR(概念設計)の主要パラメータ

 また、第2−A図に断面図を、第2−B図に平面図を示す。

更に、概念図を第3図に示す。

 第5表の主要パラメータ以外の技術的なINTORの特徴は次の通りである。

1 プラズマパラメータを現在の理論的、実験的情報に基づいて選定したこと。

2 ダイバータをシングルヌルポロイダル磁気ダイバータとしたこと。

3 ダイバータ板はほぼ1年で交換することとし、第1壁は炉寿命期間保ち得ること。

4 トリチウム増殖ブランケットを外周部および上部に、初めから設置すること。

5 ブランケットのトリチウム親物質としてリチウムセラミックを用いたこと。

6 超電導コイル用の真空容器をコイル系全体に被せる構造としたこと。

7 1動作(主半径方向)の移動によるブランケット分解方式としたこと。

8 材料試験、ブランケットモジュール試験、発電デモンストレーションを行い得るように試験領域を設けたこと。

 第1フェーズ全体を通して、日本は、プラズマベータ値の限界に関する理論的解析、プラズマ粒子の磁場リップルによる損失の解析、ダイバータの物理的解析とその工学的構造、炉構造全般、リチウムセラミックブランケット方式の検討、安全性解析などに対する寄与が大きかった。

 なお、フェーズ1の報告書は8月にIAEA、IFRCに提出され、本年末に出版される予定である。

 INTORワークショップは、今後フェーズ2A(本年7月から1年半)に入り、フェーズ1で明らかにされた問題点の分祈評価とそれに基づく設計の最適化を行う予定である。

第2−A図 INTOR断面図

第2−B図 INTOR平面図

第3図 INTOR概念図

4 まとめ

 概念設計によってまとめられたINTORは、トカマク原型炉への技術的基盤について見通しを与えた。

 ワークショップ全体を通じて検討された主要課題の1つにINTORに対するトリチウム調達の問題がある。フェーズ0においては、INTORの運転計画を3段階に分け、トリチウム増殖ブランケットの装荷は第3段階の1つのオプションとすることとなり、トリチウムは原則的には外部から供給されるものとしていた。しかし、フェーズ1ではその費用を考えるとき、出来る限り自己供給をはかるべきであるという意見が強まり、最終的には運転の初期からトリチウム生産を行うブランケットを装荷することとなった。

 ワークショップフェーズ0およびフェーズ1全体を通して、IAEAにおける作業量は約550人・週、各国機関における作業量は約150〜250人・年にのぼった。

 日本における作業は原研を中心として行われたが、フェーズ0においては京都大学原子エネルギー研究所、名古屋大学プラズマ研究所の協力があった。また、ワークショップ全体を通して、産業界から、三菱グループ(三菱電機(株)、三菱原子力工業(株)、三菱重工(株))、東芝グループ(東芝(株)、NAIG)、(株)日立製作所、富士グループ(富士電機製造(株)、川崎重工(株))の多大な協力を得た。特にフェーズ1においては、東芝、川崎重工、日立からの寄与が大きかった。

 ワークショップにおいては体制、背景の異った国々が集り、しかもワークショップ形式で1つの巨大システムの概念をまとめ上げていくという作業形態は、工学、技術の分野ではおそらく前例がないであろう。それにも拘らず、概念設計をまとめ得たことはIAEAおよび参加メンバーの協力の賜物であり、議長国日本としても多とするところであった。このような設計作業が国際協力の形で可能であることを示した意義は大きい。



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