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原子力部会報告〔1〕(要旨) エネルギー安全保障確立のために
総合エネルギー調査会原子力部会
はじめに
1 石油代替エネルギーの開発導入が急務となっている現在、当部会は、原子力の位置付けと長期的方向を明確化するとともに、とりわけ、エネルギー安全保障確立の一環として、原子力の安定供給を支える核燃料サイクル自立化への具体的方途について基本政策小委員会専門委員会の中に分科会を設け、詳細な検討を行ってきた。以下がその要旨である。又、原子力発電そのものをめぐる諸課題(安全性、信頼性の確保策、立地対策等)については引き続き検討を進めることとしており、その結果は別途報告される。 2 原子力開発の推進の前提として安全の確保に万全を期することが何よりも重要である。当部会の審議の過程において生じた敦賀発電所の事故は、その意味において不幸な出来事であった。幸いに放射能による汚染の人体への影響はない程の微量なレベルであったが、我々は、今回の事故を貴重な教訓として、放射性廃棄物設備を含む発電所の安全確保、運転管理について官民あげてさらに最大限の努力を傾注し、原子力開発に対する国民の理解と信頼の確保に努めることが緊要であると考えている。 Ⅰ 原子力開発の基本的方向 1 原子力の安全性の確保
原子力開発の大前提として、敦賀発電所の事故をも踏まえつつ、官民の最大限の努力によって安全性の確保について万全を期することが何よりも緊要である。 2 原子力の石油代替エネルギー開発における位置付け
①エネルギー供給の安定性 ②経済性等の特性を有し、エネルギー供給の安定的確保、産業経済発展への貢献等の観点等から、石油代替エネルギー開発における中核かつ最も有望な存在である。 開発目標規模 昭和65年度5,100~5,300万kW
70年度7,400~7,800万kW
石油代替エネルギー供給目標(55.11.28)及び電事審需給部会中間報告(54.12.7)による
3 原子力開発の長期的方向
(1) 今後も軽水炉中心の開発が進むが、ウラン資源の有効利用等の観点からFBRを開発し、プルトニウム利用の推進を図る必要があり、FBRの実用化等のための、より具体的なプログラムを早期に策定していくべきである。 (2) FBRが実用化するまでの間は熱中性子炉(ATR及び軽水炉)におけるプルトニウム利用は意味をもつ。(上記についての具体的政策の方向についてはさらに継続・審議する)
Ⅱ 原子力発電開発の推進 すでに商業化されている原子炉(軽水炉)の開発推進を図っていく上での重点課題として、①原子力発電の安全性の確保・信頼性の向上 ②原子力発電立地の推進 ③中長期的課題として、新立地方式、廃炉問題等があげられるが、これらに関する政策をさらに充実するための具体的施策を検討していくことが重要である。(上記について、発電分科会において検討中であり、別途報告される)
Ⅲ 核燃料サイクル自立化への道 ①ウラン資源の有効利用、②エネルギー供給の安定性確保(エネルギー・セキュリティの確保)、③我が国の原子力産業振興を通ずる産業構造の高度化等の観点から、我が国における核燃料サイクルの確立が重要であり、とりわけ80年代は核燃料サイクルの各局面において研究開発の段階から事業化へと産業化の進展が期待され、そのための具体的政策の展開が必要である。 1 ウラン資源の長期安定供給確保
1990年代初頭頃までのウラン所要量は主として長期契約により確保しているが、長期的展望に立って安定供給を確保していくことが重要である。 このため、下記のような積極的ウラン資源政策の展開を図る必要がある。 ① 開発輸入の推進-自主探鉱開発あるいは経営参加により新規調達分の1/2を確保することを目安とする。 ② 供給源の多様化の推進-とりわけ安定供給源と目されている国との関係を強める。 ③ ウラン資源引取り体制の確立-開発輸入促進のため、ウラン備蓄の推進体制とリンクした引取り体制を確立する。 ④ ウラン資源調達のための総合的推進調整機能の整備-良質なプロジェクトを評価し、調整する機能を強化するとともに関係業界の技術、資金力を結集する体制を検討する。 2 ウラン濃縮の事業化
(1) ウラン濃縮国産化の必要性
① 現在全量海外に依存している。 ② 原子力エネルギーの安定性(エネルギー・セキュリティ)をさらに確保する。 ③ 国産化への技術基盤が整いつつある。 (2) ウラン濃縮役務の需給見通し及び濃縮事業化へのスケジュール
① 昭和60年代半ば以降供給不足が予想されるので60年代半ばを操業開始の目標時期とし、以後段階的に拡大75年頃には少なくとも3,000tSWU/年程度の商業プラントを建設することを目標とする。 (tSWU=濃縮役務単位、110tSWUは100万kWの発電所が1年間に要する濃縮役務量にほぼ相当する。)
② 商業プラントに到るまでに、濃縮プラントの性能、信頼性、経済性等について商業化への確かな見通しを得るため、原型プラントの建設運転が必要であり、原型プラントの建設は、パイロットプラントにつづく遠心分離機の生産の継続の必要性等からすみやかに行うことが有効である。その規模は概ね200~250tSWU/年程度が妥当であろう。 (3) 遠心分離機の供給体制
濃縮の事業化には、遠心分離機の供給体制の整備が必要であり、量産効果等を得るために、重電メーカー3社の協力による集中的量産体制が重要である。 (4) 化学法によるウラン濃縮
将来遠心法と補完しうるものとして研究開発の継続が必要である。 (5) 濃縮国産化に関する核燃料サイクルの自主性の確保、事業リスクの軽減等の観点から助成策が必要である。 3 ウラン備蓄の推進
(1) 備蓄の必要性
エネルギーの安全保障という観点から、ウラン供給の安定性をより確保するため、天然ウラン・濃縮ウランを併せて概ね1年間の使用量に相当するウラン備蓄をもつことが必要であろう(主要国も備蓄を実施している)。 (2) 備蓄のあり方
基本的には国内で備蓄することが望ましい。又、今後、備蓄形態に応じた保管方法、備蓄場所等の具体的スキームを検討する必要がある。エネルギー供給安定化のための、民間関係業界の備蓄の努力を国が支援することが重要である。 4 商業再処理工場の立地推進について
(1) 再処理事業推進の必要性
ウラン資源の有効利用、使用済燃料の管理の観点から使用済燃料を再処理するため、昭和65年度頃の運転開始を目途に商業再処理工場の建設を推進する必要がある。 (2) 商業再処理工場の立地推進
① 立地推進の重要性
現在日本原燃サービス(株)が立地の準備作業中であるが再処理事業の重要性にかんがみ、その立地の円滑化のため、国としても強力な支援を行う事が重要である。 ② 立地推進のための国の支援方策
(ⅰ) 国民的課題としての位置付け及び初期段階のPA確保
(ⅱ) 電源3法の活用等地元の理解を得るための方策
(ⅲ) 商業再処理工場の立地・建設に係る各種の許認可の効率的な履行
(ⅳ) 既存の権利との利害調整及び立地の円滑な推進に資する助成措置施策の確立
(ⅴ) 上記の各施策のための関係省庁・地方自治体との密接な連携と協力体制の整備
5 核燃料サイクルの長期的課題
次の点について今後検討を加えて行くことが肝要である。 (1) プルトニウム燃料加工-その実用化に向けての体制整備等に関する関係者間での検討を進める。 (2) 減損ウラン(再処理後回収されるウラン)-減損ウランの有効利用策の確立に努めていく。 (3) 劣化ウラン(天然ウラン濃縮後の残渧ウラン)-FBRのブランケット燃料等としての利用可能性を探る。 6 バックエンドに係るコスト負担等について
使用済燃料、放射性廃棄物の処理処分等、バックエンドに係る将来のコスト負担につき、引当金制度等の資金対策を検討する必要がある。 Ⅳ 放射性廃棄物の処理処分 1 低レベル放射性廃棄物対策の推進
(1) 基本方針
できる限り早期にサイト外での処分を行うための体制を確立する。その際海洋処分と陸地処分を併せ行う。又減容処理技術をなお一層促進する必要がある。 (2) 海洋処分
① パブリックアクセプタンス(PA)
② 国際制度〔NEA(OECD原子力機構)監視機構〕への参加が重要である。 (3) 陸地処分
① 海洋処分に適しないものについては陸地処分を行うが、そのための具体的プログラムを早急に確立すべきである。 ② 形態としては地中処分又は施設による貯蔵であるが、処分用地の確保、PA上の観点からまず集中貯蔵施設によるサイト外の貯蔵が現実的であり、60年代初期の実施を目途として施設貯蔵による陸地処分計画の推進を図ることが適切である。 ③ PAの確保と立地推進のための国の施策として初期段階からのPAの確保及び実施後のモニタリング等の監視体制の確立の必要性、電源3法活用の検討、資金対策を検討する必要がある。 (4) 本格的処分の実施主体
電気事業者等の共同実施体制又は専業体制の検討が必要である。 (5) 減容処理技術の開発をすすめる。 2 高レベル放射性廃棄物対策の推進
(1) 安全に管理しつつ最終的には人間の生活環境から隔離するため地層に処分することが必要であり、現在動燃、原研を中心に研究開発中である。この成果を将来の再処理工場の廃棄物貯蔵施設に反映する必要がある。 (2) 海外返還廃棄物(海外再処理委託に伴い英仏から返還される廃棄物)
その受入は我が国の高レベル放射性廃棄物の一元的な管理の観点から商業再処理工場内の貯蔵施設に受入れることが適当
Ⅴ 原子力の新たな利用-原子力の多目的利用 (1) 多目的利用の必要性
非電力分野での代替エネルギー導入に貢献するとともに、原子力のメリットを地元へ還元する。 (2) 軽水炉の多目的利用については従来の原子力開発路線を基本としつつ、化学繊維・紙パルプ等工場及び海水淡水化、融雪、地域暖房等、地域社会のユーティリティでの利用について、中小型炉を中心に可能性調査を行なう。 (3) 高温ガス炉の多目的利用についての研究開発を促進する。 Ⅵ 原子力産業の展望と政策の方向 1 原子力産業の現状と課題
原子力機器、核燃料サイクル事業を含む高度の技術集約型複合産業として発展しつつある。 (1) 機器産業-ほぼ国産化を達成したが、未だに累積赤字をかかえている。 今後は経営基盤安定化、品質保証、人材確保、養成等さらに長期的努力が必要である。 (2) 加工-ほぼ国産化達成、いっそうの自主技術化の必要性、経営基盤の強化も重要である。 (3) その他の核燃料サイクル部門(濃縮、再処理等)産業化への移行の段階にある。 2 原子産業政策の展開
(1) 研究開発や産業化へのプロセスにおいて、円滑に我が国の原子力産業を育てて行くためには資金対策及び国の助成が重要である。 (2) 研究開発成果の事業化主体への円滑な移転スキームを検討する。 (3) 長期的視点に立って市場におけるニーズの把握、技術開発等の輸出基盤を醸成することが重要である。 Ⅶ 原子力政策の国際的展開 (1) 基本的認識
原子力推進への気運が国際的に盛り上がってきている。INFCE(国際核燃料サイクル評価)では原子力の平和利用と核不拡散の両立、一国単位の核燃料サイクル保有の意義が認められ、ベネチヤサミットにおいては原子力開発推進について国際的合意が得られた。さらに最近再処理問題等米国の原子力政策も前向きに変化しつつある。 (2) 基本的認識を踏まえた我が国原子力政策の方向
① 原子力開発の推進による世界の原子力開発及び石油代替エネルギー開発導入へ主体的に寄与する。 ② 自主的核燃料サイクル確立によってエネルギー・セキュリティの確保を図る。 ③ 国際協力を推進する。 (3) 核不拡散を我が国原子力政策の最重要課題として国際問題に対応することが重要である。 |
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