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所内巡視雑感



原子力委員会参与
(日本原子力研究所理事長)
藤波 恒雄

 原子力研究所に着任して以来約5ヵ月になる。このところ出来るだけ週に一度は現場に出向いて、各部各室の人達の話を聞き、実際を見ることに努めている。

 原研発足初期の事情については、当時科学技術庁で担当課長として、その事業計画や予算業務に関係したので割によく知っているつもりであるが、その後20年余経った今は、その規模内容とも大変な様変りである。勿論その間も、仕事の関係上原研の歩みについて見聞する機会も少なくなかったが、何といっても第三者としてであって、自然その時々の新規プロジェクトの話や特定の施設中心の駆け足視察、いわば氷山の一角、原研の顔の一部を見ていたに過ぎない。

 これからの私にとっては、それでは済まされない。近年の原研は予算規模においても、職員数や組織の面でも立派な大人の「体格」に成長した。しかし重要なのは、その「頭脳」や「内臓機能」の状態であり、当事者としては、その中味をよく把握し自覚しておかねばならないと思うからである。

 順次各部を回って見聞を重ねる毎に、24年の経歴をもつ総合研究所としての裾野の広さと蓄積の深さを感ずる。各研究部門で育てられ蓄積された知見と人材を基として、各種安全研究や実証試験に、また多目的高温ガス炉や核融合の研究開発にと自信をもって取組んでいる現場を見て、原研も、ようやく「地力」がついて来たなという実感が得られた。

 各部の説明の内で一様に訴えられることに、人員不足の問題がある。たしかに、原研は予算規模の伸びの割に定員の増加は少ない。諸外国の同種研究所に較べても、少人数で賄っていると言ってよいであろう。勿論、予算急増の要因である大型研究施設の整備に当っては請負発注の形で産業界のマンパワーが活用されているし、また所内の業務でも一部外部委託をしたり、外部機関との共同研究、大学、メーカー等からの外来研究員、業務協力員の受入等の方途も講じている。このことは一面で関係各界との連繋を緊密にする効果をもつわけであり、今後も拡大活用すべき途と考えるが、これだけの大世帯を有機的に運営するためには、新規プロジェクト面への増員、配置転換だけでなく、他一般部門についても年令構成のことも考慮して、逐年或る程度の充足を続ける必要を感ずる。

 一方施設面でみると、NSRR、実用燃料試験用大型ホットラボ、タンデム加速器等々新鋭設備が次々と設置されるかたわら、JRR−2など臨界以来20年の老体が今もなお最有力の研究試験炉としてJMTRなどと共に内外のニーズに応えてフル稼動しており頼もしく感ずる。今のところ部分的改修等で機能を維持しているが、これらは何れ抜本的対策が必要となろう。

 研究施設の拡大、高度化、研究活動の活発化に比例して、これらを支援する安全、保安等の管理部門、技術、建設部門或いは計算センターや技術情報部門等々の仕事の重要性と負担も増大するわけであり、齟齬を来たさないよう、それぞれが抱える問題についても充分配意しなければならない。

 ともかく、このように立派に成長した原研を今後益々各方面のお役に立つよう、末永く活力を維持し向上させるためには、常にバランスのとれた「栄養補給」と新陳代謝をし、「自律神経」を正常に保ち、「体力」の増進に努めなければならないと思う次第である。



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