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昭和56年度原子力関係経費の見積りについて



昭和55年9月5日
原子力委員会

 I 昭和56年度施策の概要

 エネルギーの安定的確保は、国民生活水準の維持向上及び社会経済の発展にとって必要不可欠の課題である。最近の国際石油情勢は、中長期的には逼迫化傾向が避けられない。このような情勢の下で、先進消費国においては、一連の国際会議を通じ、石油代替エネルギーの生産及び利用を拡大し、石油依存度を低減させていくことが合意されている。特に6月に行われたヴェニス・サミットにおいて、石油代替エネルギーとしての原子力については、安全性の確保に万全を期しつつ、利用の拡大を図るべきであるとされ、今や原子力は、エネルギー問題解決のための極めて重要な担い手であることが各国共通の認識となっている。

 資源小国の我が国としては、これら先進消費国の中でも特に輸入石油への依存度が高いため、他のどの国にも増して石油消費の節約を図りつつ、石油代替エネルギーの開発を進め、石油依存度の低減のための努力を積み重ねていかねばならない。

 また、在来の石油火力等に比べ低廉な原子力発電の推進は、物価抑制に貢献するだけでなく、石油輸入のための外貨流出の低減による国際収支の安定にも資することができる。このような見地から、石油代替エネルギーとして最も期待される原子力の研究開発利用をエネルギー政策上の最重要課題として推進していく必要がある。

 我が国における原子力の利用については、原子力発電の規模が電源構成の約12%に達し、電力供給の重要な柱となっており、また、放射線利用も、医療、農業、工業等広い分野で進められている。エネルギー源としての原子力発電については、今後の厳しいエネルギー情勢を考慮すると着実に規模の拡大を図っていかねばならないが、それに伴い克服すべき現実の課題が多くなってきている。

 すなわち、我が国は、従来から、安全の確保を大前提として原子力発電の推進等原子力の研究開発利用を推進してきたところであるが、今後とも安全の確保には万全を期していかなければならない。国民の安全性に対する不安が必ずしも払拭されていないことからも、まず、原子力発電所等の安全運転の実績を積み上げていく必要があり、国としては、原子力安全規制行政の充実を図り、安全研究の推進をはじめとする安全確保対策の強力な展開を図るとともに、万一の事態に備えた防災対策の整備充実に努めることが必要である。

 また、原子力発電所等の立地難の打開を図るためには、安全確保対策とともに、電源三法を中心とする立地地域に対する財政的支援措置の充実を図ることはもとより、地域の実情に応じたよりきめの細かい施策を展開し、原子力に対する地域住民の理解を一層深め、かつ、地域の振興との調和を図って、その開発利用の推進に対する協力を得ていかなければならない。

 以上の安全確保のための施策の充実及び立地促進のための施策の拡充強化が当面の原子力発電推進のために最も重要であると考える。

 更に、中長期的観点から、原子力発電を拡大していくに当たっては、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物処理処分等の核燃料サイクルを早期に確立する必要があるほか、高速増殖炉をはじめとする新型動力炉の開発、核融合の研究等を精力的に推進していく必要がある。これらの研究開発は今後ますます大型化していくため、必要な資金及び人材を確保し、十分な成果が挙げられるよう、計画的、かつ、効率的に推進することに留意せねばならない。

 一方、原子力を取り巻く国際情勢については、本年2月に国際核燃料サイクル評価(INFCE)が終了し、その成果を踏まえ、国際プルトニウム貯蔵等に関する外国間協議や原子力協定改訂のための二国間交渉等が行われつつある。今後の核燃料サイクルをめぐる新たな国際的秩序は、このような多国間及び二国間の協議を通して形成されていくこととなり、我が国としても、エネルギー供給源としての原子力の開発と核不拡散との調和を図るため、この新秩序の形成に貢献していかなければならない。

 以上の原子力をめぐる内外情勢を踏まえ、昭和56年度においては、以下の施策を講じ、原子力研究開発利用の総合的かつ積極的な推進を図るものとする。

 なお、今日の原子力研究開発利用の推進の緊要性からみて、十分な資金及び人材が必要であるが、厳しい財政事情を考慮して、必要経費の見積り額等について極力圧縮を図ったところであり、政府は来年度の予算編成に当たっては、このような事情を十分考慮し、必要経費の確保を図られたい。また、原子力研究開発については、その投資の懐妊期間の長さ等から、長期的観点に立って取り組む必要があり、特に、質の高い研究者等を継続的に確保できなければ十分な研究開発の成果は期待し得ない。したがって、昭和56年度においては人材の確保については格段の配慮がなされるべきであると考える。

1. 安全確保対策の総合的強化

(1) 原子力安全規制行政の充実

 原子力安全委員会においては、安全確保総合調査及び公開ヒアリングの充実等を図り、行政庁の行った安全審査の再審査(ダブルチェック)等に万全を期するとともに、国際的に行われる安全基準策定作業等に積極的に協力しつつ、我が国の審査基準の充実を図る。

 行政庁における安全規制については、原子力施設の安全審査及び検査の充実強化を図るとともに、運転管理専門官の原子力発電所への派遣等により運転管理監督体制の強化を図る。

 更に、原子力安全規制行政に関する国際協力を推進する。

(2) 安全研究の推進

 安全規制の裏づけとなる各種データの蓄積及び原子力施設等の各種の安全審査基準、指針のより定量化、精密化を図ることを目的として以下の安全研究を推進する。

① 工学的安全研究

 原子力施設については、日本原子力研究所において、国立試験研究機関の協力を得て、引き続き、緊急炉心冷却実験装置による沸騰水型軽水炉の冷却材喪失事故実験(ROSA-Ⅲ計画)、加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-Ⅳ計画)、原子炉電線材料等の健全性に関する研究、原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故時の試験研究、実用燃料照射後試験施設(大型ホット・ラボ)による燃料の安全研究等を実施する。

更に、国際協力による安全研究として、引き続き、ハルデン計画、LOFT計画、デモランプ計画、バッテル計画等に参加するほか、新たに、スーパーランプ計画に参加する。

 核燃料施設及び輸送容器については、日本原子力研究所を中心に、遮蔽安全性実験、臨界安全性実験等を実施するとともに、各種安全解析コードの開発に係る安全研究を進める。

② 環境安全研究

 放射線医学総合研究所を中心に、環境放射能の挙動に関する研究、低レベル放射線による晩発障害、遺伝障害、内部被曝に関する研究等を推進する。特に、プルトニウムの内部被曝研究を強化するための内部被曝実験棟の建設を昭和58年度の完成を目途に進めるとともに、人体に対する放射線のリスクの評価解析を行う。

 また、防災対策関連の研究として、日本原子力研究所を中心に環境放射能予測システムに関する研究等を推進する。

(3) 防災対策の強化

 原子力施設の万一の緊急時に備えて、緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制及び緊急医療体制の整備、関連研究の推進等防災対策の充実強化を図る。

(4) 原子力施設等における従事者の放射線障害防止対策の充実強化

 原子力施設等における従事者の放射線被曝による障害の防止対策の充実を図るため、引き続き線量登録管理体制の充実に努めるとともに、被曝低減化に関連する研究開発等を推進する。

 また、放射線利用の拡大普及に対処して、放射性同位元素等に関する安全規制体制の充実強化を図る。

(5) 環境安全の確保

 原子力施設周辺はもとより、一般環境の放射能水準調査、原子力軍艦の寄港及び外国の核実験に関連する放射能調査等を引き続き行い、環境放射能の監視に万全の措置を講ずる。

 また、原子力利用に係る環境保全に万全を期するため、原子力発電所等の立地に際し、温排水等に係る環境審査を引き続き実施する。

(6) 放射性物質輸送の安全確保

 放射性物質の輸送の増大に対処し、輸送の安全確保を図るため、核燃料物質の輸送の安全性評価のための調査検討を進めるとともに、国際原子力機関(IAEA)における放射性物質安全輸送規則の改訂事業に積極的に参加する。

2. 原子力発電の推進

(1) 軽水炉の改良・標準化等の推進

 現在、建設、運転が進められている軽水炉について、信頼性の向上、保守点検作業の的確化、作業員の被曝低減化等の観点から、自主技術による改良・標準化推進のための調査を行うとともに原子力発電所に係る品質保証対策のための調査、原子力発電検査機器の開発のための調査及び民間におげる原子力発電支援システムの開発の助成を行う。

 また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、ポンプ信頼性実証試験等を実施する。

 更に、作業員の被曝低減化のための確証試験及び技術開発を実施するとともに、高性能燃料について確証試験に着手し、その実用化の保進を図る。

 このほか、原子力発電所の廃炉の時期に備えて、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして廃炉の技術開発を推進するとともに、発電用原子炉の廃炉に使用される設備について確証試験を実施する。

 また、原子力発電所の新立地方式に関する調査を行う。

(2) 原子力発電所等の立地の促進

 原子力発電の円滑な推進のためには、原子力発電をはじめとする原子力の研究開発利用について、広く国民の理解と協力を得ることが極めて重要である。このため、前述の安全確保対策の強化を図るほか、以下の施策を進める。

① 広報活動等の強化

 原子力研究開発利用に対する国民の理解を求め、原子力発電をはじめとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため、テレビ、出版物等の活用、公開ヒアリング、講演会、各種セミナーの開催、オピニオンリーダーに対する資料送付、原子力映画の作成、原子カモニター制度の活用などにより、広報活動を積極的に推進する。

 更に、原子力発電所等の立地を円滑に進めるために、立地予定地域の有識者を対象とした原子力講座等の開催を図るとともに、原子力発電所立地の初期段階における地元住民の理解と協力を得るための施策を推進する。

 また、電源立地調整官等の機能的活動により、原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに、運転に入った原子力発電所の立地県については、原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進める。

② 電源三法の活用

 「発電用施設周辺地域整備法」等の電源三法を活用し、原子力発電施設等の周辺往民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備を進めるとともに、施設周辺の環境放射能の監視、温排水の影響調査、立地予定地点の環境調査、防災対策、原子力発電施設等の安全性実証試験等を推進し、原子力発電施設等の立地の円滑化を図る。

 更に、昭和56年度から、新たに次のような施策を推進する。

イ 原子力発電施設等の周辺地域の住民、企業等に対する立地協力交付金制度、電源立地地域の地元雇用の促進、地域産業の振興等の地域振興対策のための交付金制度及び電源立地促進対策交付金により整備された公共用施設の維持等のための交付金制度を創設し、原子力発電施設等の立地対策の抜本的な強化を図る。

ロ 既存の制度についても、電源立地促進対策交付金についての交付対象施設の拡大等を行い、放射線監視交付金及び温排水影響調査交付金について交付期間の延長を行うとともに、設備の更新にも使用できるようその使途を拡大し、また、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金について緊急時の周辺環境への影響調査を交付対象に追加する等内容の充実を図る。

3. 核燃料サイクルの確立

(1) ウラン資源の確保

 動力炉・核燃料開発事業団による海外ウラン調査探鉱活動を強化するとともに、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動に対する助成策の拡充強化を図り、ウラン資源の確保に努める。

 また、ウラン資源開発のための研究開発を動力炉・核燃料開発事業団において推進するとともに、低品位ウラン鉱の処理技術の企業化のため、新技術開発事業団による委託開発を進めるとともに、海水ウランの回収システムについて、金属鉱業事業団において開発調査を行う。

(2) 濃縮ウランの確保

 遠心分離法によるウラン濃縮技術の早期確立のため、動力炉・核燃料開発事業団においてパイロットプラントを完成させ、運転を進めるとともに、原型プラントの詳細設計を行う。また、より高性能の遠心分離機の開発、遠心分離機量産化技術の開発等を引き続き進める。

 更に、民間企業による化学法ウラン濃縮技術の試験研究及びシステム開発調査に対して引き続き助成を行うとともに、ウラン資源国との協力等の観点から、国際共同濃縮事業についての調査を進める。

(3) 使用済燃料の再処理及びプルトニウム利用

 再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の操業を行うとともに、プルトニウム転換施設の建設等所要の施設整備を行う。更に、同事業団において再処理の改良技術、放射性物質の放出低減化技術等の研究開発を進める。また、民間再処理工場の設計・建設に必要な技術確証調査を引き続き行うとともに、新たに環境安全等に関する試験研究を開始する。

 プルトニウム利用については、軽水炉へのプルトニウム実用規模利用の実証に関する調査、動力炉・核燃料開発事業団によるプルトニウム加工技術の開発、プルトニウム燃料の照射試験等を行う。

(4) 放射性廃棄物の処理処分

 低レベル放射性廃棄物の海洋処分の安全性の確認と処理処分技術の確立を図るための試験的海洋処分を内外関係者の理解を得て実施する。また、陸地処分についても、保管パッケージ及び施設の基準化のための調査を行うとともに、陸地処分試験の準備を進める。

 再処理施設で発生する高レベル放射性廃液については、動力炉・核燃料開発事業団を中心に、固化処理の技術開発、固化貯蔵パイロットプラントの設計等を進めるとともに、地層処分等に関する調査研究を進める。また、日本原子力研究所においては、処理処分に関する安全評価試験を引き続き実施する。更に、放射性廃棄物処理処分対策に必要な調査を進める。

 また、海外再処理に伴う返還固化体に関し、その技術仕様についての検討を行うとともに、我が国への受入れが円滑に行えるように受入システムに関する調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団においてハンドリング、冷却等の試験を行う。

4. 動力炉の開発

(1) 新型動力炉の開発

 長期的観点に立った核燃料の有効利用を目指す次代の新型動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を、動力炉・核燃料開発事業団が中心となって、日本原子力研究所等の協力のもとに進める。

 高速増殖炉実験炉については、7.5万kWの定格運転を継続するとともに、照射用炉心への移行のための炉心改造に着手する。

 同原型炉については、設計研究、炉物理、炉体構造、燃料・材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を進めるとともに、昭和62年度臨界を目途に、建設を進める。

 また、高速増殖炉原型炉用プルトニウム燃料製造施設の建設に着手するとともに、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、所要の研究を進める。

 新型転換炉については、原型炉の定格運転を継続し、運転経験を蓄積するほか、使用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進めるとともに、実証炉については、合理化設計及び関連する研究開発を進める。

(2) 多目的高温ガス炉の研究開発

 製鉄、水素製造等非電力部門への核熱エネルギーの利用を目的とする多目的高温ガス炉の開発については、日本原子力研究所において、プラント機器の安全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を引き続き行うとともに、実験炉の詳細設計を進める。

 また、炉心耐震試験、高温構造試験等の実施及び被覆粒子燃料、黒鉛材料等の研究開発を進める。 更に、半均質臨界実験装置(SHE)の炉心を改造し、実験炉の炉物理研究を行う。

5. 核融合の研究

 人類究極のエネルギー源である核融合動力炉の実現を目指し、その前提となる臨界プラズマ条件を達成するための研究を推進する。

 日本原子力研究所においては、昭和59年度の運転開始を目途に、臨界プラズマ条件達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を進める。また、トーラスプラズマの研究、非円形断面トーラスプラズマの研究、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学、炉工学技術の研究開発等を進めるとともに、臨界プラズマ試験装置等の核融合研究施設の建設用地の確保等、引き続きサイトの整備を行う。また、トリチウムの製造、取扱技術の研究開発を拡充強化する。

 電子技術総合研究所においては、高べータ・プラズマの研究のため、昭和57年度完成を目途に圧縮加熱型核融合装置(TPE-2)の建設を進める。理化学研究所においては、プラズマの診断・真空技術の基礎的研究を進める。金属材料技術研究所及び名古屋工業試験所においては、材料の基礎的研究を行う。

 なお、超電導磁石技術については、日本原子力研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等において研究開発を拡充強化し、特に大型超電磁石については、OECD-IEAの大型超電導磁石国際協力計画(LCT計画)に基づき、日本原子力研究所が分担するLCTコイルの製作を進める。

 更に、日米等二国間及びIAEA等多数国間の核融合研究についての国際協力を推進し、我が国の核融合研究開発の効率的実施に資することとする。

6. 原子力船の研究開発

 原子力船の研究開発については、日本原子力船開発事業団(本事業団の名称が日本原子力船研究開発事業団(仮称)となった場合は同事業団、以下同じ。)において、原子力第1船「むつ」の遮蔽改修工事及び安全性総点検に伴う改修工事を進めるとともに、新定係港の建設に着手する。また、改良舶用炉の設計及び評価に関する研究を進める。

 更に、船舶技術研究所においては、原子力船についての基礎的研究を進める。

7. 放射線利用の推進

 放射線の医学利用については、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンを用いた速中性子線及び陽子線によるガン治療研究を引き続き進めるとともに、診断用の短寿命ラジオアイソトープの生産利用技術の開発を推進する。また、国立衛生試験所、国立病院等においても放射性医薬品に関する研究、ガン治療研究等を推進する。

 食品照射研究については実用化の見通しを得ることを目標に、日本原子力研究所、国立試験研究機関、理化学研究所等が協力して、照射技術、毒性試験及び遺伝的安全性試験の研究開発を進める。

 更に、日本原子力研究所において、放射線化学関係の研究、ラジオアイソトープの生産等を推進するとともに、国立試験研究機関においても、電子技術総合研究所における放射線標準に関する研究に必要な加速器の整備、農業技術研究所等におけるラジオアイソトープを利用した動植物の代謝機構の研究の推進等放射線利用に関する研究を強化する。

 また、ラジオアイソトープ廃棄物処理対策の推進を図ることとし、同廃棄物の共同処理施設の安全性等調査を実施する。

8. 原子力研究開発利用の基盤強化

(1) 基礎研究等の充実

 我が国独自の原子力技術の研究開発を進めるため、その基盤となる基礎研究等を、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において大学との連携を図りつつ推進する。

 日本原子力研究所においては、材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施するとともに、タンデム型重イオン加速器の運転を行い、材料の照射損傷、核データ等の研究及び核融合等の開発に資する。

 また、理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて、重イオンに関する各種研究を継続するとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリングサイクロトロンの建設を進める。

 このほか、国立試験研究機関においても、核融合炉材料等の基礎研究を実施する。

(2) 科学技術者等の人材の確保

 原子力関係科学技術者の資質向上のため、その養成訓練については、大学に期待するほか、海外に留学生として派遣する。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。

 更に、長期的観点から、原子力研究開発の推進に必要な研究者等の人材確保に努める。

9. 国際協力の推進

 昭和55年2月に終了した国際核燃料サイクル評価(INFCE)の検討結果を具体化するため、国際原子力機関(IAEA)を中心に、国際プルトニウム貯蔵(IPS)、国際使用済燃料管理(ISFM)、核燃料の供給保証(CAS)等に関する国際的検討が活発化していることに対応し、我が国としては、原子力の平和利用と核不拡散を両立させつつ、我が国の自主的な核燃料サイクルの確立を図るという基本方針に立脚し、これらの検討に積極的に参加する。また、日豪原子力協力協定改訂交渉等については、我が国の原子力の平和利用の円滑な推進に支障のないよう適切に対処していく。

 国際的な研究開発協力については、原子炉の安全研究、核融合に関する日米協力のほか、新型動力炉、多目的高温ガス炉の研究開発、保障措置技術等の各分野に関し、米国、西ドイツ、フランス、ソ連との二国間協力等を進める。また、米国、フランスとの二国間規制情報交換を進める。

 更に、国際原子力機関(IAEA)を中心として進められている原子力発電所の安全基準作成事業に参加するなど、国際原子力機関、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)等の国際機関の活動に積極的に参加する。

 発展途上国に対する技術援助については、昭和53年8月加盟した「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練に関する地域協力協定」(RCA)に基づく協力を中心に進めるとともに、発展途上国のニーズ等の調査を行う。

10. 保障措置及び核物質防護対策の強化

(1) 保障措置

 核兵器の不拡散に関する条約に基づく国内保障措置体制の拡充強化のため、核物質に関する情報処理、試料の分析、査察等の事務を充実強化するとともに、諸外国との協力を図りつつ、保障措置の有効性向上のための技術の研究開発を推進する。

(2) 核物質防護

 原子力開発利用の進展に伴う核物質防護の重要性の増大に対処するため、国内の核物質防護体制の充実強化のための施策を推進する。


 Ⅱ 見積りの概要

 昭和56年度において、以上の施策を進めるために必要な原子力関係経費は総額約2,857億円(一般会計約1,882億円、電源開発促進対策特別会計約975億円)、国庫債務負担行為限度額約2,329億円(一般会計約1,226億円、電源開発促進対策特別会計約1,103億円)と見積られる。

 原子力関係機関別の見積りについては「Ⅲ 概算要求総表」に示すとおりであるが、主要な原子力研究開発機関別の見積りの概要を示せば以下の通りである。

1. 日本原子力研究所

 日本原子力研究所の総事業費は約890億円であり、これに必要な政府支出金は約840億円(国庫債務負担行為限度額約714億円)である。また、必要な人員増は総計108名である。

 うち、原子力施設の工学的安全研究及び放射性廃棄物の処理処分の研究等環境安全研究に必要な経費は約88億円(国庫債務負担行為限度額約33億円)であり、30名の増員を行う。また、核融合の研究開発に必要な経費は約392億円(国庫債務負担行為限度額約567億円)であり、52名の増員を行う。更に、多目的高温ガス炉の研究開発に必要な経費は約54億円(国庫債務行為負担限度額約67億円)であり、18名の増員を行う。

2. 動力炉・核燃料開発事業団

 動力炉・核燃料開発事業団の総事業費は約1,678億円であり、これに必要な政府支出金は約1,316億円(一般会計約818億円、電源開発促進対策特別会計約498億円)、国庫債務負担行為限度額約1,519億円(一般会計約416億円、電源開発促進対策特別会計約1,103億円)である。また、必要な人員増は総計187名(一般会計129名、電源開発促進対策特別会計58名)である。

 このうち、高速増殖炉及び新型転換炉の開発に必要な経費は総額約862億円であり、これに必要な政府支出金は約702億円(国庫債務負担行為限度額約1,681億円)である。また、必要な人員増は61名である。 また、ウラン濃縮技術の研究開発に必要な経費は約235億円(国庫債務負担行為限度額約6億円)であり、29名の増員を行う。

 更に、再処理施設の運転等に必要な経費は総額約414億円であり、これに必要な政府支出金は約215億円(政府保証借入金89億円、国庫債務負担行為限度額約64億円)である。また、必要な人員増は38名である。

3. 日本原子力船開発事業団

 原子力船「むつ」の遮蔽改修工事、安全性総点検に伴う補修工事、新定係港建設、船用炉研究等に必要な経費は総額約73億円であり、うち政府支出金は約72億円(国庫債務負担行為限度額約60億円)である。また、必要な人員増は20名である。

4. 放射線医学総合研究所

 内部被曝実験棟の建設及び粒子加速器の医学利用、低レベル放射線の影響、トリチウムの生物影響等の特別研究の拡充強化等に必要な経費は約55億円(国庫債務負担行為限度額約21億円)であり、必要な人員増は6名である。

5. 国立試験研究機関

 原子力施設の安全研究、核融合、食品照射、放射線の医学利用に関する試験研究及び施設等の維持運営等、原子力研究に必要な経費は約19億円である。

6. 理化学研究所

 核融合、食品照射、環境放射線、重イオン科学、サイクロトロン等の研究及び重イオン科学用加速器の建設等、原子力研究に必要な経費は約11億円である。

Ⅲ 概算要求総表

1. 原子力関係予算概算要求総表


2. 科学技術庁一般会計概算要求総表


3. 科学技術庁原子力関係予算概算要求重要事項別総表


4. 各省庁(科学技術庁を除く。)一般会計概算要求総表


5. 電源開発促進対策特別会計原子力関係予算概算要求総表



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