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第24回IAEA総会における代表演説 原子力委員長・科学技術庁長官
中川 一郎
(昭和55年9月22日)
![]() 議長
私は貴下が第24回IAEA総会の議長に選出されたことに対し、衷心よりお祝いの言葉を述べたいと思います。今次総会が貴下の豊かな経験に基礎をおいた優れた指導力により、成功裡に終了することを確信するものであります。
議長
私は、世界経済の発展を維持するためには、エネルギーの供給が妥当な価格で確保される必要があり、これが1980年代における大きな課題であることを十分に認識しております。
石油危機以降、各国においては、エネルギーの長期安定供給を確保すべく努力が払われ、エネルギーの節約はもとより、石炭資源の活用、太陽エネルギー等再生可能エネルギー利用技術の開発が鋭意が進められているところでありますが、エネルギー問題解決のためには、代替エネルギーの本命である原子力開発利用の促進が不可欠であるとの認識はすでに確立されたものと考えます。 とりわけ、わが国のようにエネルギー資源に乏しい国にとって、原子力の重要性は疑う余地のないところであります。わが国ではIAEAの誕生と概ね同じ時期に原子力開発に着手したところでありますが、関係者の不断の努力及び国民の理解により、わが国の原子力発電規模は、現在21基約1,500万kWに達するに至りました。これはわが国の総発電設備の約12パーセントに相当するものであります。わが国では原子力発電規模を1990年に5,300万kWに拡大するという見通しがなされております。更に、原子力がエネルギー源として主要な役割を果しうるためには、ウラン資源のもつ潜在的エネルギーを最大限に利用することが可能とされなければなりません。このため、わが国では、新型転換炉及び高速増殖炉の開発に積極にとりくみ、原子力開発に着手した早期の段階から、プルトニウム利用への道をひらく努力を続けております。またウラン資源の有効利用の点で重要なもう一つの柱は核燃料サイクルの確立であります。再処理については、東海村再処理施設では近く本格運転を開始しようとしており、更に、わが国の需要に見合う規模の新しい再処理工場の建設準備が、民間レベルで進められております。また、ウラン濃縮については、人形峠のパイロット・プラントにおいて、少量ではありますが、すでに濃縮ウランを生産し、商業規模で生産するための技術的見通しが得られております。私は原子力開発を進めていかなければ、我々の未来はないとの強い決意のもとに、国民の叡智を結集して原子力開発利用の推進を図る所存であります。 議長
次に原子力開発の推進をめぐる大きな問題の一つとして、安全確保の問題を述べたいと思います。我が国の20年余にわたる原子力開発の歴史の中で、我々は、その揺らん期より安全を旨とし、原子力開発の推進を図ってまいりましたが、これは、安全性の確保こそが原子力開発推進についての基本的要件として認識してまいったからであります。
昨年、米国でおきましたスリー・マイルアイランド原子力発電所の事故は、原子力安全性の確保に取り組む我々に対し、更に一層の努力を促すよい警鐘となったと考えられます。この事故の教訓を踏まえ、我が国においては、運転管理監督体制の強化、安全基準の見直しを図るとともに、万一の事故に備えた防災対策の強化等を図り、安全確保に万全を期して参りました。 また私は、来月末にストックホルムにおいて開催されるIAEA主催の「原子力発電所の安全性に関する国際会議」において実りある議論がなされ、各国の安全確保対策に反映されることを期待しており、同時に原子力安全研究の分野における国際間の協力が一層発展することを願うものであります。 議長
次に核拡散防止問題に触れたいと考えます。わが国においては、原子力開発利用が核不拡散の政策のもとに進められてきたことは論をまたないところであります。しかしながら、世界における原子力開発が急速に進展しつつある現状からして、核拡散の危険に関する国際的な懸念が増大していることも事実であります。従って核不拡散を確保しながら原子力開発を促進する方策が求められています。
INFCE(インフセ)は、これに対する一つの試みでありました。この作業を通じ、原子力平和利用に関する共通の認識がはぐくまれたことはINFCEの画期的成果であります。また各国の原子力事情に対する相互理解が深まり、当初存在した核燃料サイクルに関する見解の相異の幅がせばめられたことは極めて有意議でありました。今後もこのように原子力平和利用に関する共通の認識を深めつつ新たに生じた問題を協議していく態度が必要でありますが、その場を提供するのはIAEAが最も適当であり、そのための中心的役割を果していかねばなりません。核拡散防止を確保するためには、IAEAによる保障措置が重要な役割を担っております。INFCEにおきましても、保障措置が最も実効的であり重要であると確認されたことは、IAEA及び関係諸国のかねてからの努力の結果であるといえましょう。私は更に、保障措置が効率的で有効なものに一層改善されていくことを願うものであり、そのためには保障措置に関する研究開発が促進されなければなりません。わが国はIAEAと協調しつつ保障措置の改善のための研究開発を進めてきたところでありますが、その努力を一層大きいものとしていきたいと思っております。また、他方IAEAによる保障措置が核不拡散の一手段としてより有効なものとなるためには、核兵器国、非核兵器国を問わず、またNPT加盟国、非加盟国を問わずあまねくそれが受入れられる必要があります。これに関し、第二回NPT再検討会議においてNPT非加盟国に対し、フルスコープ・セイフガードを受入れるよう呼びかけが行われるとともに、まだボランタリーサブミッションをしていない核兵器国に保障措置を受けるよう強い要請がありましたが、私はこの意義を重視するものであります。 INFCE後の国際的な粋組み作りとしてすでにIAEAにおいて国際プルトニウム貯蔵及び国際使用済燃料管理の検討が進められ、わが国も積極的に参画しております。これらの構想が実現し主目的である核不拡散に貢献するためにはこれを関係国が十分に納得しかつ原子力利用の円滑化に資するものとする配慮が肝要と考えます。INFCE後の問題のもう一つの大きな柱として供給保証の問題があります。昨年のニューデリー総会で行われたエクランド事務局長の呼びかけに応じ、関係者の間で協議が重ねられた結果、本年の6月理事会において供給保証委員会が設置されましたが、これは誠に時宜を得たものでありました。供給保証と核拡散防止は、相互に表裏一体の関係にあるという一般的原則が認められた今、各国とも核不拡散に対する努力と同量の努力を供給保証のためにも払う必要があります。私は、この問題がIAEAの場において率直にかつ十分議論され、原子力平和利用の円滑な進展に資するべく、各国間の相互の信頼関係が一層強固になっていくことを期待しています。 核物質の防護も、核物質のもたらしうる危険を防止する上で重要であると考えております。我が国としても、核物質の防護に関する体制の整備等に積極的にとりくんでおります。 核不拡散問題の最後にあたり、先般ジュネーヴにおいて開催された第2回NPT再検討会議に触れたいと思います。わが国は核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという“非核三原則”を国是として堅持しており、また、昭和51年6月に核不拡散条約を批准して以来、その義務を忠実に履行してまいりました。このようなわが国の姿勢は核兵器廃絶というわが国民の願いに基づくものであり、わが国はこのような決意の下に、原子力の平和利用による国民福祉の向上と人類の幸福への貢献に力を尽してきたわけであります。私は、究極的な目標である核兵器廃絶に向ってすべての国がわが国と志を一にすることを強く望むものであります。かかる観点から、わが国は、再検討会議において、包括的核実験禁止をはじめとする核軍縮の促進を強く訴えた訳であります。この再検討会議において実質的な最終宣言が採択されなかったことは遺憾であります。しかしながら、会議において表明された不満は、主としてNPTの規定の実施振りに関するものであり、NPT自体の有用性、重要性を疑問視する国はなく、各国ともその維持、強化の必要性を支持、確認したことは留意されるべきであります。また、NPTが核拡散を防止しつつ原子力平和利用を促進するための国際的法的枠組として極めて重要であることには何らかわりはありません。核不拡散を担保しつつ原子カ平和利用の促進をはかることは極めて重要であり、わが国は、そのための国際的努力に引き続き積極的に参加してゆく所存であります。 議長
次に私は開発途上国に対する技術援助が強化されるべきであると考えます。原子力平和利用の成果はあまねく世界中の人々によって享受されるべきであり、IAEAにより行われている開発途上国への技術援助は誠に重要な意義を有しております。このためわが国はIAEAを通じ専門家の派遣、フェローシップの供与により協力するとともにIAEAの技術援助任意拠出金に対し、過去一貫して分担額の100%ないし、それ以上の拠出を行って参りましたし、今後も引き続き努力する所存であります。他方、私は受領国における自助精神が、与えられた技術援助を種として、より大きな効果を生むために極めて重要であることを指摘したいと思います。
この点わが国が1978年に加盟した、「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基く計画はその精神に沿って加盟国の積極的な意欲のもとに進められていることに満足の意を表する次第であります。わが国は加盟国にとって緊要な課題を解決することに重点をおき、放射線及びアイソトープを食糧保存に利用するとともに、工業及び医療に応用することを柱とした援助に努める所存であります。その一つとして、わが国が主導的役割を果すことになっている食品照射プロジェクトが4カ国の参加を得てスタートし、既に第1回プロジェクト委員会が開催されたことを喜びとする次第であります。更にRCA協力活動を効果的かつ恒常的なものとする必要性から、域内でのRCA活動の拠点として「研究訓練のためのアジア地域センター」を設立すべく加盟国間で検討が進められています。今月わが国がRCA加盟国に派遣した今後のRCA活動に関する調査団は本件の検討に貢献するものと期待していますが、これらの活動はわが国がこの問題に積極的に協力する姿勢を示すものであります。 議長
以上述べましたとおり今日ほどIAEAがその活動を推進するに当って、多様な課題に直面している時はないと思います。また同時に、これほどまでにIAEAの活動に期待が寄せられたこともないと思います。これまでIAEAにおいては各国間に利害の相違があったとしても対立の形をとらず、常に加盟国に共通の問題として解決しようとする協調の精神がとられて参りました。このような貴重な伝統はIAEAが今後に期待される役割を遂行してゆく時に大きな資産であり、是非とも維持されなければならないと考えます。昨今の世界の経済情勢が厳しいおり、IAEAに与えられる人的、財政的資源は当然限りのあるものであります。この意味で事務局にはIAEAの憲章の目的に向って、従来にも増して努力を傾注されんことを要望致します。同時におれわれ加盟国は、IAEAが人類の福祉と繁栄に貢献する国際機関として発展するよう協力すべき義務を負っていることを銘記すべきであると思います。
終りに臨み、私はIAEAの困難かつ重要な事業遂行に当って、エクランド事務局長がこれまで示されてきた高い見識と指導力に対し深く敬意を表するものであります。 |
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