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昭和55年度原子力開発利用基本計画について(答申)


55原委第63号
昭和55年3月28日

  内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

昭和55年度原子力開発利用基本計画について(答申)

昭和55年3月27日付け55原第22号をもって付議された標記の件については、審議した結果、原案どおり議決したので日本原子力研究所法第24条の規定に基づき答申する。


昭和55年度原子力開発利用基本計画

 Ⅰ 基本方針


 エネルギーの安定的確保は、国民の生活水準の維持向上及び社会経済の発展にとって必要不可欠の課題である。最近の国際石油情勢は、昨年来の米-イラン関係の緊張、昨年12月に開催されたOPEC総会での価格統一化に関する合意の不成立等を背景に極めて流動的であり、石油需給も中長期的にひっ迫化の傾向にある。このような情勢の下で、一次エネルギーの大宗を輸入石油に依存している我が国としては、石油の安定的確保に努める一方、他のどの国にもまして石油消費の節約を図りつつ、石油代替エネルギーの開発及び利用を進めることにより、石油依存度の低下を図ることが極めて重要である。このため、石油以外の化石エネルギー資源にも乏しいという我が国の特殊の事情から、石油代替エネルギーとして最も期待される原子力の開発及び利用をエネルギー政策上の最重要課題として推進していく必要がある。

 我が国における原子力の利用については、既に運転中の原子力発電所の規模が21基、約1,500万キロワットに達し、総発電規模の約12%を占め、今や我が国の電力供給の重要な柱となっている。これに、建設中及び建設準備中のものを加えると、原子力発電規模の合計は35基、約2,800万キロワットになるが、新規立地地点における立地難等から、原子力委員会が長期計画に示した昭和60年度の原子力発電規模の目標の達成については、当初の見込みに比べ遅れが見られるに至っており、今後、着実に原子力発電を拡大していくためには、一層の努力が必要である。

 更に、我が国が過去二十数年間にわたって努力を傾注してきた原子力の研究開発は、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物処理処分等核燃料サイクルの確立、高速増殖炉をはじめとする新型動力炉の開発、核融合の研究等それぞれ大型化、実証化等の段階を迎えており、今後、実用化を推進すべく一層の努力を傾注する必要がある。

 また、原子力利用の一分野である放射線利用は、医療、農業、工業等広い分野で進められており、今後ともその利用の拡大が期待される。

 このような原子力の開発利用を進めるに当たっては、原子力に関する厳重な規制と管理を実施してきており、特に、昨年3月米国で発生したスリー・マイル・アイランド(TMI)原子力発電所事故の教訓を原子力の安全確保に反映させるなど、安全確保のため鋭意努力してきたところであるが、今後とも原子力の安全確保には万全を期する必要がある。

 原子力を取り巻く国際情勢については、近時、核不拡散強化を目的とする国際的制約が強まる傾向にあるが、昭和52年10月以来、原子力平和利用と核拡散の防止の両立のための方途を求めて開催されてきた国際核燃料サイクル評価(INFCE)においては、再処理及びそれによって得られるプルトニウムの利用等を推進するという我が国の原子力平和利用に支障のない形で最終的な取りまとめが行われたところである。

 しかしながら、INFCEは技術的、分析的研究の場であり、その結果は参加国政府を必ずしも拘束するものではないので、今後、INFCEの結果を踏まえて行われる二国間又は多国間の協議等を通じて、核拡散の防止と原子力の平和利用をめぐる新しい国際的秩序が形成されていくことになる。我が国としては、自主的核燃料サイクルの確立に努めるとともに、この新秩序の形成に積極的に貢献していくことが必要である。

 以上の原子力をめぐる内外情勢に適切に対処しつつ、原子力政策の積極的な展開を図る必要があるが、昭和55年度においては、以下の基本方針により、具体的施策を講じ、原子力開発利用の総合的推進を図るものとする。


1 安全確保対策の総合的強化

 原子力発電の拡大等原子力の開発利用の本格的進展に対応していくためには、原子力発電所等の安全な運転実績を集積しつつ、TMI事故の教訓をも踏まえ、原子力の安全確保対策等を一層拡充する必要がある。

 このため、原子力安全委員会機能の一層の充実、安全基準の整備・充実、原子力施設の安全審査、検査及び運転管理監督体制の整備強化、並びに、放射性同位元素等の規制の整備・充実等原子力安全規制行政の充実を図る。

 また、安全規制の裏づけとなる科学技術的知見を蓄積し、各種安全審査基準、指針等の一層の整備・充実に資するため、軽水炉等原子力施設の工学的安全研究及び放射線障害防止に関する研究等環境安全研究を推進する。

 更に、核燃料サイクルの確立、新型動力炉の開発等技術開発の進展に即応して、これらについての安全確保に十分配慮するものとする。

 原子力施設の万が一の緊急時における防災対策の充実・強化を図るため緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制及び緊急医療体制の整備、関連研究の推進等を図る。

2 核燃料サイクルの確立

 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン調査探鉱活動の強化、ウラン濃縮技術開発の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。

 これらの推進に当たっては、今後とも核拡散を防止するため、所要の措置を講ずるものとする。

3 動力炉の開発等

(1) 限られたウラン資源の有効利用を図る観点から、プルトニウムを燃料とし、かつ、消費した以上のプルトニウムを生成し、将来の発電用原子炉の本命として位置付けられる高速増殖炉の開発を推進するため、実験炉の運転成果、原型炉のための研究開発を踏まえ、昭和55年度においては、原型炉の建設に着手する。また、高速増殖炉が実用化するまでの中間段階において核燃料サイクル上有効な役割を果たすものと期待される新型転換炉については、昭和55年度においては、原型炉の運転実績、実証炉の調整設備等を基に、実証炉の開発に関する今後の施策の確立に資するため、新型転換炉に関する技術的、経済的評価等を行う。

(2) また、核熱エネルギーを製鉄、水素製造等の発電部門以外にも利用するため、多目的高温ガス炉について、実験炉の詳細設計に着手するとともに、引き続き、関連研究開発を行う。

(3) 更に、原子力発電の信頼性の一層の向上等を図るため、軽水炉の改良・標準化等を進め、我が国の国情に適した軽水炉技術を確立する。

4 核融合の研究開発

 実現された暁には半永久的なエネルギーの供給を可能にするものとして期待される核融合の研究開発を推進するため、臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を強力に進めるとともに、国際協力を含め、各種関連研究開発を行う。

5 原子力船の研究開発

 原子力船については、一般商船としての実用化は遅れているが、商船の高速化、大型化及び石油消費の節減の観点から、将来、原子船が活用される時代になることに備え、原子力船技術の開発を進める必要がある。

 このため、日本原子力船開発事業団を日本原子力船研究開発事業団に改組し、原子力船1船「むつ」の建造を進めるとともに、舶用炉の最適化に関する研究等を行う。

6 放射線利用の推進

 医療、工業、農業等多くの分野における放射線利用の多様化、高度化を促進するため、医療分野におけるサイクロトロンによるガン治療、各種疾病の診断に関する研究開発、工業分野における放射線化学の研究、農業分野における食品照射の研究等を推進する。

7 原子力開発利用の基盤強化

(1) 基礎研究等の充実

 基礎研究は大型研究開発プロジェクトの基盤として、また、新しい技術開発の源泉として極めて重要であり、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において、大学と緊密な連携の下にその推進を図る。

(2) 科学技術者等の養成訓練

 原子力開発利用の進展に伴い、原子力に係る科学技術者等、特に安全性、環境保全などの分野における科学技術者等の必要性が増大しているため、その養成訓練を推進する。

8 国際協力の推進

(1) 今後、二国間交渉、多国間協議等において行われる核拡散の防止と原子力の平和利用をめぐる諸問題の検討に積極的に対応し、核不拡散のための国際的努力にはできる限り積極的に貢献するとともに、INFCEの結論が尊重され、我が国の原子力平和利用の円滑な推進に支障のないよう関係国の理解を得るよう努める。

(2) また、原子力の研究開発分野における国際協力が重要な課題となっており、原子炉の安全研究協力、核融合に関する日米協力、国際機関の活動への積極的参加等二国間、多国間の国際協力を推進する。

9 保障措置及び核物質防護対策の強化

 核兵器の不拡散に関する条約に基づき国内保障措置を引き続き実施するとともに、最近の国際的な核不拡散強化の動向を踏まえて国内保障措置体制及び核物質防護体制の一層の拡充・強化を図る。

10 国民の理解と協力を得るための施策の推進

 原子力発電の推進等原子力の開発利用に対する国民のより一層の理解と協力を得るためには、安全性の確保を大前提としつつ、原子力発電所の安全運転の実績を積み上げ、関係者相互の信頼関係を築いていくことが最も要請されている。

 このため、既にに述べた安全確保対策に万全を期すとともに、地元住民及び一般国民との、あるいは、関係者相互の意思疎通や意見交換に努め、また、広報・公聴活動等を通じ、原子力に関する知識の普及の強化及び国民の意見の吸収を図る。更に、電源三法の適切な活用により、それぞれの地元における固有の事業に配慮しつつ、地元住民の福祉向上に一層資するよう措置する。


 Ⅱ 具体的施策


1 安全確保対策の総合的強化

(1) 原子力安全規制行政の充実

 原子力の安全確保のための規制については、各行政庁において法令に基づき、一貫して厳正な安全規制を行うため、審査、検査及び運転管理監督体制の強化を図る。原子力安全委員会においては行政庁の行う設置許可等に関する安全審査について審査(ダブルチェック)を行うほか、設置許可等の後の各段階における重要事項についても審議し、行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い、原子力の安全確保に万全を期する。

 原子力安全委員会の審査・審議に当たっては、必要に応じ原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会における調査審議に際し、独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実を図り、客観性、合理性の確保に努めることとする。また、原子力発電所等主要原子力施設の審査を行う際には、当該施設の安全性に関し、公開ヒヤリングを開催する。

 また、放射線利用の拡大普及に対処して、放射性同位元素等の規制法令の整備及びその実施体制の整備等により、放射線障害防止のための規制の充実を図る。

 安全規制に必要な各種安全基準及び指針の整備については、発電用軽水炉、核燃料施設等に関し、前年度に引き続き更に、拡充・整備を図るとともに新型動力炉に関しても鋭意安全基準及び指針の整備を図っていくこととする。

 また、安全審査、安全基準・指針の作成等に当たり、TMI事故の教訓を反映させるとともに、ヒューマンクレジットに関する調査等を実施することとする。

 なお、原子力全般に共通する安全問題について専門家によるシンポジウムを開催することとする。

(2) 安全研究

① 工学的安全研究

 軽水炉に関する工学的安全研究については日本原子力研究所を中心に国立試験研究機関等の協力の下に、総合的、計画的に実施する。特に日本原子力研究所においては、緊急炉心冷却実験装置による沸騰水型軽水炉の冷却材喪失事故実験(ROSA-Ⅲ計画)、原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故時の試験研究、実用燃料照射後試験施設(大型ホット・ラボ)による実用原子炉燃料の試験等の安全研究を実施する。また、TMI事故に関連する研究として、加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSE-Ⅳ計画)等を開始するとともに、引き続き原子炉電線材料等の健全性に関する研究等を進める。

 核燃料施設に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所を中心に、臨界安全性に関する研究、しゃへい安全性に関する研究、再処理施設の安全評価に関する研究等を実施する。

 また、機械技術研究所、建築研究所等の国立試験研究機関においては、核燃料輸送容器の構造強度、耐火性等、地震の実測データの収集分析等について安全研究を実施する。

 更に、国際協力による安全研究として燃料の性能及び信頼性等に関する研究を行うハルデン計画、冷却材喪失事故の研究を行うLOFT計画、燃料照射研究を行うデモランプ計画及びバッテル計画等に参加するほか、日本原子力研究所の安全性研究炉(NSRR)と、米国、西独、及び仏国の安全性実験施設との間の研究員の相互派遣、情報の交換等を行う。

② 環境安全研究

 放射線障害防止に関する調査研究として、放射線医学総合研究所を中心に、低レベル放射線による晩発障害、遺伝障害、内部被ばくに関する研究等を推進する。

 特に、プルトニウム等の内部被ばく研究を強化するため、内部被ばく実験棟の建設を進める。

 放射線医学総合研究所以外の国立試験研究機関等においては、低レベル放射線による哺乳動物系における突然変異の検出法に関する研究、植物における突然変異の誘発に関する研究等を実施する。

 また、環境放射能に関する調査研究として、放射線医学総合研究所、その他の国立試験研究機関、日本原子力研究所、地方公共団体試験研究機関等において、環境放射線モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究並びに一般環境、食品及び人体内の放射能の挙動と水準の調査を行うほか、TMI事故に鑑み、防災対策関連の研究として、日本原子力研究所において新たに環境放射能予測システムに関する研究等に着手する。

(3) 防災対策の充実

 原子力発電所等の万が一の緊急時には、災害対策基本法により、迅速、かつ適切な対策がとられることとなっているが、防災対策を一層充実するため、昨年7月中央防災会議において「原子力発電所等に係る防災対策上当面とるべき措置」を決定するとともに、原子力安全委員会においても緊急技術助言組織を設置する等所要の措置をとってきたところである。昭和55年度においては、国と県、国と発電所等を専用回線及びテレファックスで結ぶ緊急時連絡網、モニタリングポストの増設等による緊急時環境放射線監視体制及び県の病院等における緊急医療体制の整備を図るほか、日本原子力研究所等において地方自治体職員等のための防災研修コースを設けるなど、教育、訓練体制を整備し、また、関連研究の推進等防災対策の充実強化を図る。

 なお、原子力防災特有の技術的、専門的事項については調査審議を行い、防災体制の一層の充実強化を図る。

(4) 原子力事業従業員の線量管理対策の充実

 原子力事業従業員の被ばく線量管理については、原子炉等規正法、放射線障害防止法、労働安全衛生法等に基づき、今後とも厳重に行うこととするほか、原子力事業従業員の線量登録事業の一層の充実を図る。

 更に、軽水炉の改良・標準化の一環として、定期検査等における従業員の被ばく線量の低減化の検討を行う。

2 核燃料サイクルの確立

(1) ウラン資源の確保

 動力炉・核燃料開発事業団によるアフリカ諸国、オーストラリア、カナダ等における単独又は諸外国の機関との協力による共同の海外ウラン調査探鉱活動を強化するとともに、金属鉱業事業団の出融資制度等民間企業による海外ウラン探鉱開発活動に対する助成策の拡充強化を図り、ウラン資源の確保に努める。

 国内探鉱については、動力炉・核燃料開発事業団で東濃地区の月吉鉱床の精密試錐等を行う。

 更に、ウラン資源開発のための研究開発として、動力炉・核燃料開発事業団において、UFまでの製錬転換試験等を行うとともに、製錬・転換パイロット・プラントの運転を開始する。

 また、リン鉱石中、海水中等のウラン等の回収技術に関する研究等を進める。

(2) ウラン濃縮

 遠心分離法によるウラン濃縮技術の早期確立のため、動力炉・核燃料開発事業団において、昭和56年度の完成を目途にパイロット・プラントの建設を進めており、既に昨年9月、一部(遠心分離機1,000台)は、運転を開始したが、55年度中に更に遠心分離機3,000台分の運転を開始する。

また、新たにパイロット・プラントに続く原型プラントの概念設計を行うとともに、より高性能の遠心分離機の開発、遠心分離機量産化技術の開発等を引き続き進める。

 さらに、民間企業による化学法ウラン濃縮技術の試験研究及びシステム開発調査に対して、新たに助成を行うとともに、日本原子力研究所において、レーザー法等によるウラン濃縮に関し、基礎的研究を進める。

 また、ウラン資源国との協力の観点から、日豪ウラン濃縮共同研究を推進し、第2段階に移行する。

(3) 使用済燃料の再処理及びプルトニウム利用

① 再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においては、施設の性能及び安全性を十分に確認した上で、東海再処理施設の操業を開始するとともに、プルトニウム転換施設の建設等所要の施設整備を行う。さらに、再処理の改良技術、放射性物質の放出低減化技術等の研究開発を進める。また、今後増大する再処理需要に対処するため、民間再処理会社による再処理工場の建設計画を推進することとし、このため動力炉・核燃料開発事業団における技術及び経験の円滑な移転を図るとともに、新たに同再処理工場について技術確証調査等を実施する。

 なお、当分の間、国内再処理能力を上回る需要については、海外再処理委託により対処する。

② プルトニウムについては、これを高速増殖炉等新型動力炉の燃料に利用するため、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム加工技術の開発、プルトニウム燃料の照射試験等を行う。また、軽水炉へのプルトニウム利用に関しては、軽水炉のプルトニウム実用規模利用の実証に関する調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団において解析評価等を行う。

(4) 放射性廃棄物の処理処分

 原子力発電所、再処理施設等の原子力施設から発生する気体状及び液体状の放射性廃棄物については、環境への放出量の低減化を図るため、放射性希ガスの除去技術の開発等の研究開発を一層推進する。

 低レベル放射性固体廃棄物については、今後、発生量増大が予想されることから、その一層の減容化に努めるとともに、最終的処分方法として海洋処分及び陸地処分の早急な確立を図ることとし、海洋処分については本格的処分に先立ち、海洋処分の安全性を確認するため試験的海洋処分の実施を図る。

 陸地処分については、環境安全評価に資する調査、試験研究等の一層の推進を図り、試験的陸地処分の実施に備える。

 これらの推進については、(財)原子力環境整備センター等の活用等により行うものとする。

 さらに、高レベル放射性廃棄物処理処分対策については、動力炉・核燃料開発事業団等において、ガラス固化処理の技術開発、固化貯蔵パイロット・プラントの概念設計等を進めるとともに、処分に適した地層について机上調査等を進める。

 また、日本原子力研究所において、処理処分に関する安全評価試験を引き続き実施する。

 また、日本原子力研究所等において、廃炉技術に関する調査研究を実施する。

3 動力炉の開発等

(1) 新型動力炉の開発

 長期的観点に立った核燃料の有効利用を目指す次代の新型動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を、動力炉・核燃料開発事業団が中心になって日本原子力研究所等の協力のもとに進める。

① 高速増殖炉

 高速増殖炉の開発については、実験炉について7.5万KWの定常運転を進めるとともに、10万KWの照射用炉心への移行のための諸準備を行う。同原型炉については、設計研究、炉物理、炉体構造、燃料・材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を進めるとともに、地元の受入れ体制が整い次第、仮設工事等の建設の諸準備を進め、昭和62年度臨界を目途に、本体政策に着手する。

 また、高速増殖炉の研究開発の効率的な推進を図るため、米国、西独、フランス等との情報の交換を行うなど海外との研究協力を推進する。

② 新型転換炉

 新型転換炉の開発については、原型炉について定常運転を継続し、運転経験を蓄積するとともに、実証炉の調整設計及び燃料・材料、部品機器、安全性等の研究開発を実施し、これらを基に、実証炉の開発に関する今後の施策の確立に資するため、新型転換炉に関する技術的、経済的評価等を行う。

 また、高速増殖炉及び新型転換炉に使用するプルトニウム燃料の開発のため、プルトニウム燃料製造施設の整備、運転を行うとともに、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、所要の研究を進める。

(2) 多目的高温ガス炉の研究開発

 製鉄、水素製造等非電力部門への核熱エネルギーの利用を目的とする多目的高温ガス炉の開発については、日本原子力研究所において、プラント機器の安全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を引き続き行うとともに、実験炉の詳細設計を開始する。

 また、炉心耐震試験、高温構造試験、伝熱流動試験等の実施及び被覆粒子燃料、黒鉛材料、耐熱金属材料等の研究開発を進める。

(3) 軽水炉の改良・標準化等の推進

 現在、建設、運転が進められている軽水炉について、信頼性の向上、保守点検作業の的確化、作業員の被爆低減化等の観点から、自主技術による改良・標準化推進のための調査、高性能燃料技術基準確立のための調査及び原子力発電機器の品質保証対策のための調査を行う。

 また、原子力発電機器を開発するための調査を行うほか、民間における原子力発電所運転管理等支援システムの開発を助成する。

 更に、原子力発電所の地下立地方式の安全性に関する調査を行う。

4 核融合の研究

 核融合については、大学における各種研究の進展をも総合的に考慮しつつ、日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発等を計画的に推進する。

 日本原子力研究所においては、臨界プラズマ条件達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を進める。また、中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)によるトーラスプラズマの研究、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学、炉工学技術の研究開発等を進めるとともに、臨界プラズマ試験装置等の核融合研究施設の建設用地の確保等、引き続きサイトの整備を行う。

 電子技術総合研究所においては、高ベータ・プラズマの研究のため、圧縮加熱型核融合装置(TPE-2)の建設を進める。理化学研究所においては、プラズマの診断・真空技術の基礎的研究を進める。金属材料技術研究所及び名古屋工業試験所においては、材料の基礎的研究を行う。

 なお、超電導磁石技術については、日本原子力研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等において研究開発を拡充強化し、特に大型超電導磁石の開発については、OECD-IEAの大型超電導磁石国際協力計画(LCT計画)に基づき、日本原子力研究所が分担するLCTコイルの製作を進める。

 さらに、昨年から開始された米国のダブレット-Ⅲを使った日米間の共同研究等の二国間協力及びIAEA等多数国間の核融合研究についての国際協力を推進し、我が国の核融合研究開発の効率的実施に資することとする。

5 原子力船の研究開発

 日本原子力船開発事業団において、原子力第1船「むつ」の遮蔽改修工事及び安全性総点検を早急に進めるとともに、同船の新定係港に関する調査を行う。

 更に、日本原子力船開発事業団を日本原子力船研究開発事業団に改組の上、従来の「むつ」開発業務に加えて、原子力船の開発に必要な研究として舶用炉の最適化に関する研究を行う。

 また、船舶技術研究所においては、原子力船についての基礎的研究を進める。

6 放射線利用の推進

 放射線医学総合研究所においては、サイクロトロンを用いて、速中性子線によるガンの治療研究及び陽子線による研究を引き続き進めるとともに、短寿命ラジオ・アイソトープの生産、利用の技術開発を推進する。

 日本原子力研究所においては、放射線科学関係の研究、ラジオ・アイソトープの生産及び利用を推進する。

 国立試験研究機関においても、電子技術総合研究所で放射線標準に関する研究に必要な加速器の整備を行うなど、放射線利用に関する研究を強化する。

 また、食品照射研究については、実用化の見通しを得ることを目標に、日本原子力研究所、国立試験研究機関、理化学研究所等が協力して、照射技術、毒性及び遺伝的安全性の試験研究を進める。

7 原子力研究開発利用の基盤強化

(1) 基礎研究等の充実

 我が国独自の原子力技術の研究開発を進めるため、その基盤となる基礎研究等を、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において大学との緊密な連携のもとに推進する。

 日本原子力研究所においては、材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施するとともに、タンデム型重イオン加速器の運転を行い、材料の照射損傷、核データ等の研究及び核融合等の開発に資する。

 また、理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて重イオンに関する各種研究を開始するとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリングサイクロトロンの建設に着手する。

 この他、国立試験研究機関においても、核融合炉材料等の基礎研究等を実施する。

(2) 科学技術者等の養成訓練

 原子力関係科学技術者の養成訓練については、大学に期待するほか、海外に留学生として派遣し、その資質向上に努める。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。

 また、長期的観点から、原子力発電所等の運転員の養成を図るなど運転員の資質向上を図る。

8 国際協力の推進

 国際核燃料サイクル評価(INFCE)は、昭和55年2月に終了したが、我が国としては、今後、東海再処理施設の運転に係る日米協議、既に進められつつある日豪の原子力協力協定改定交渉、国際プルトニウム貯蔵制度等に関する多国間協議等において、INFCEの結論が尊重され我が国の原子力平和利用の円滑な推進に支障のないよう対処する。

 国際的な研究開発協力については、原子炉の安全研究、核融合に関する日米協力のほか、新型動力炉、多目的高温ガス炉の研究開発、保障措置技術等の各分野に関し、米国、西独、仏国、ソ連等との二国間協力等を進める。また、米国、フランスとの二国間規制情報交換を進める。

 さらに、IAEAにおける原子力発電所に関する安全基準作成計画及び放射性物質安全輸送規則の改訂事業並びにOECD-NEAにおける原子力施設安全規制国際協力事業に参画するなど国際機関の活動に積極的に参加する。

 開発途上国に対する技術援助については、一昨年8月加盟した「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練に関する地域協力協定」(RCA)に基づく協力を中心として適切な協力に努める。

9 保障措置及び核物質防護対策の強化

 核兵器の不拡散に関する条約に基づく国内保障措置の体制の下、核物質に関する情報処理、試料の分析等の業務を実施するとともに、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団等において保障措置の改良に関する研究開発をはじめとする所要の研究開発を進め、国内保障措置体制の一層の充実を図る。

 また、核物質防護については、原子力発電所、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団の施設をはじめとする各種原子力施設の防護措置を一層拡充・強化するとともに、関連調査研究等を進め、国内核物質防護制度の整備・充実を図る。

10 国民の理解と協力を得るための施策の推進

(1) 広報活動等の強化

 原子力研究開発利用に対する国民の理解を求め、原子力研究開発利用を一層円滑に推進するため、「原子力の日」を中心にした行事のほかに、テレビ出版物等の活用、講演会、各種セミナー等の開催、オピニオン・リーダーに対する資料送付、原子力映画の作成、原子力モニター制度の活用などにより、広報活動を積極的に推進する。

 さらに、原子力施設等の立地を円滑に進めるために原子力施設の立地予定地域の有識者を対象とした原子力研修会等の開催を図るとともに、電源立地企画官の機能的活動による原子力発電所の立地に係る地元調整を推進する。

 また、運転に入った原子力発電所の立地県については、原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進める。

(2) 電源三法の活用

 「発電用施設周辺地域整備法」等の電源三法により、原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備を進めるとともに、施設周辺の環境放射能の監視、温排水の影響調査、防災対策等を推進する。

 このため、電源立地促進対策交付金について、交付限度額の引き上げなどを行うとともに、広報対策交付金に代え新たに、広報・安全等対策交付金を創設し、原子力施設の立地する県及び市町村等の実施する広報及び安全等のための事業を助成する。

 また、防災対策を充実するため、放射線監視交付金の交付限度額を引き上げるとともに、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金を新設し、緊急連絡網の整備、緊急医療体制の整備等を行う。

 さらに、原子力発電施設等の安全性に関する周辺住民の不安感を解消するため、日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター等において大型再冠水効果実証試験、耐震信頼性実証試験等を実施する。

11 昭和55年度原子力関係予算の概要

 昭和55年度における原子力開発利用を推進するために必要な原子力関係予算及び人員は次表のとおりである。

(1) 科学技術庁一括計上分及び各省庁行政費(一般会計)

(2) 電源開発促進対策特別会計


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