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動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設の一部変更に係る安全性について(答申)


53原委第498号
昭和53年9月12日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和53年7月10日付け53安(核規)第205号(昭和53年8月19日付け53安(核規)第231号により一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 動力炉・核燃料開発事業団が設置する再処理施設に係る安全性に関し、同事業団が提出した「再処理施設の一部変更に係る安全性に関する書類」(昭和53年7月8日付け及び昭和53年8月16日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、別添の核燃料安全専門審査会の報告書のとおり、安全上支障がないものと認める。


動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設の一部変更に係る安全性について

(別添)

昭和53年8月21日
原子力委員会
   委員長 熊谷太三郎殿
核燃料安全専門審査会会長
山本 寛

 本審査会は、昭和53年7月11日付け53原委第407号(昭和53年8月19日付け53原委第483号により一部訂正)をもって、審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査の結果

 動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設の一部変更に関し、同事業団が提出した「再処理施設の一部変更に係る安全性に関する書類」(昭和53年7月8日付け提出及び昭和53年8月16日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、「Ⅲ審査の内容」に示すとおり、再処理施設の一部変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本変更は、動力炉・核燃料開発事業団が同事業団東海事業所再処理施設の敷地内に、放射性廃液のアスファルト固化に関する技術開発を行うため、以下に述べるアスファルト固化技術開発施設を設置するものである。

 アスファルト固化技術開発施設は、アスファルト固化処理施設、アスファルト固化体貯蔵施設及び付属排気筒から構成される

 本施設でアスファルト固化を行う放射性廃液は、廃棄物処理場の低放射性廃液蒸発処理系で発生する濃縮液(以下LA-濃縮液と略称する)、廃棄物処理場の化学沈殿処理系で発生するスラッジ(以下スラッジと略称する)及び極低放射性廃液蒸発処理開発施設(以下Z-施設と略称する)の蒸発処理系で発生する濃縮液(以下Z-濃縮液と略称する)である。

1 位置

(1) アスファルト固化処理施設は、低放射性廃液蒸発処理開発施設(以下E-施設と略称する)及びZ-施設の南側に隣接して設置する。

(2) アスファルト固化体貯蔵施設は、低放射性固体廃棄物貯蔵場の南側に設置する。

(3) 付属排気筒は、Z-施設の東側に道を隔てて設置する。

2 建家及び設備

(1) アスファルト固化処理施設

 本建家は、建築面積約850m2、地上4階、地下2階の鉄筋コンクリート構造とする。

 地下には、原料廃液を受入れる廃液受入貯槽並びに本施設で発生する低放射性廃液を受入れる中間貯槽、凝縮液貯槽及び低放射性廃液中間貯槽等を配置するセルの他、アスファルト貯槽を配置するアスファルト貯蔵室、放射性配管分岐室等を設ける。1階には、エクストルーダ(脱水混合器)、アスファルト充てん設備を配置するセルの他、試薬調整槽を配置する試薬調整室、トラックエアロック等を設ける。2階には、反応槽、供給槽を配置するセルの他、制御室、安全管理分室等を設ける。3階には、槽類換気室、サンプリング室、排気フィルタ室等を、4階には真空フィルタ室、排風機室、試薬調整室等を設ける。

 また、アスファルト固化処理施設と廃棄物処理場、E-施設及びアスファルト固化体貯蔵施設とをそれぞれ地下で接続するトレンチを設ける。

(2) アスファルト固化体貯蔵施設

 本建家は、建築面積約2,250m2、地下1階(一部地下2階)、地上1階(一部地上3階)の鉄筋コンクリート構造とする。

 地下には、貯蔵セル、移送セル、保守区域等を、1階には、貯蔵セル、移送セル、トラックエアロック等を、2階には、制御室、安全管理分室、クレーンホール等を、3階には、入気室、排気室、分電盤室等を設ける。

(3) 付属排気筒

 付属排気筒は、地上高さ約90m、頂部外径約2.8m最下部外径約7.6mの鉄筋コンクリート構造とする。

3 工程

(1) アスファルト固化処理工程

 再処理施設で発生するLA-濃縮液、スラッジ又はZ-濃縮液を廃液受入貯槽又は反応槽に受入れ、次いで反応槽で水素イオン濃度等の調整をしたのち、供給槽を経てエクストルーダに供給し、アスファルト貯槽から供給する溶融アスファルトと共に脱水混合する。

 エクストルーダで脱水混合したアスファルト混合体はターンテーブル上で空ドラム缶に充てんし、コンベア上に装荷して冷却固化したのち、ドラム缶のふたをし、フレームに4体ずつ収納する。

 次いで、固化体はフレームごとカスクに収納し、50tクレーンを用いてトラックエアロックへ移送し、同エアロック内で運搬車に積載し、アスファルト固化体貯蔵施設へ搬出する。

(2) アスファルト固化体貯蔵工程

 カスクに収納して運搬車に積載したアスファルト固化体を、アスファルト固化体貯蔵施設のトラックエアロックから50tクレーンを用いてカスクごとクレーンホールのトラップドア上に装荷する。

 次いで、トラップドアを開き、上記固化体を収納したフレームを移送セル内の台車上に吊り下ろし、貯蔵セル入口まで移送したのち、2tクレーンを用いて貯蔵セル内に移送し貯蔵する。

(3) 気体廃棄物処理工程

 アスファルト固化処理施設の槽類及びエクストルーダからの廃棄は、洗浄塔で洗浄し、フィルタでろ過したのち、セル換気と合流させる。

 セル換気は、建家換気と合流させ、建家換気は、フィルタでろ過したのち付属排気筒より排出する。

 アスファルト固化体貯蔵施設のセル換気及び建家換気は、それぞれフィルタでろ過したのち排出口より排出する。

 なお、アスファルト充てん室の充てんノズル近傍の廃気は、局所集気し、粗ろ過したのちセル換気に合流させる。

(4) 液体廃棄物処理工程

 エクストルーダで発生する気相の凝縮液は、オイルセパレータで油分を除去し、凝縮液貯槽に送り、次いで廃棄物処理場の中間受槽、又はZ-施設の廃液受入貯槽に送ったのち、それぞれ蒸発処理される。

 また、管理区域の床ドレン、手洗廃水等は低放射性廃液中間貯槽に集め、放射能濃度に応じて、廃棄物処理場の中間受槽に送ったのち、蒸発処理されるか、若しくはZ-施設の廃液受入貯槽に送ったのち、蒸発処理されるか、又は粗調整槽に送ったのち、中和処理される。

4 施設の能力

(1) アスファルト固化処理施設のエクストルーダの廃液蒸発能力は約200l/時である。

(2) アスファルト固化体貯蔵施設のアスファルト固化体の貯蔵能力はフレーム(200lドラム缶封入アスファルト固化体を4体収納)4段積で約10,000体である。

Ⅲ 審査の内容

 本変更にあたっては、以下のとおり適切な配慮がなされているので、変更に伴う安全性は確保されるものと判断する。

1 施設の安全性

(1) 耐震性

 アスファルト固化技術開発施設の耐震設計は、「再処理施設の安全性に関する書類」の“6.1.2.1 耐震構造”に記載されている方針に従い行うこととしている。

 すなわち、付属排気筒は、耐震分類A類で、アスファルト固化処理施設の建家及びアスファルト固化体貯蔵施設の建家は、耐震分類B類で設計することとしている。

 また、廃液受入貯槽、エクストルーダ等の主要工程機器及び放射性の液体配管は、耐震分類B類で、アスファルト貯槽、試薬調整槽等の試薬、ユーティリティ関係の機器及び配管は、耐震分類C類で設計することとしている。

(2) 放射線のしゃへい

 アスファルト固化技術開発施設の放射線のしゃへい設計は、「再処理施設の安全性に関する書類」の“10.1放射線のしゃへい”に記載されている方針に従い行うこととしている。

 すなわち、建家内の各場所における作業の種類、内容等に応じてホワイト区域、グリーン区域、アンバー区域及びレッド区域に区分し、この区分に応じしゃへい設計の基準とする所定の線量率を定めることとしている。

 また、本技術開発施設は基本的に鉄筋コンクリートによるしゃへい構造で設計され、建家外壁面における外部放射線量率は、1週間につき30ミリレムを下まわるように設計することとしている。

 更に、アスファルト固化体を収納するキャスクは、固化体収納時におけるキャスク表面及び表面から1mの距離における放射線量率がそれぞれ200ミリレム/時及び10ミリレム/時を超えないように設計することとしている。

(3) 放射線の被ばく管理

 アスファルト固化技術開発施設の放射線の被ばく管理は、「再処理施設の安全性に関する書類」の“10.2放射線の被ばく管理”に記載されている方針に従い行うこととしている。

 すなわち、施設内には、管理区域を定め所定の出入管理を行うこととしている。

 本施設では、従業者の作業環境を常に監視して安全を確認するとともに、放射線レベルの異常な上昇を迅速に発見してその事態にすみやかに対処できるように、固定式の放射線監視装置を設置し、これらの監視をZ-施設建家内の第2安全管理室で行う(警報については分析所2階の安全管理室にも送る)こととしている。

 また、アスファルト固化体は、ドラム缶に封入し、固化体の搬出、運搬、貯蔵中に放射性物質の漏洩がないようにすることとしている。

 一方、付属排気筒からの排気は、排気モニタリング設備により連続的に放射性物質濃度を測定監視することとしている。

(4) 施設の包蔵性

 放射性廃液は、原則として容器、コンクリートセル、建家の順に包まれるように設計することとしている。

 廃液受入貯槽、反応槽、凝縮液貯槽等を収納するセルの必要な部分には、水密性を確保するためにステンレス鋼内張りを施すとともに、漏出の有無の監視設備、漏出液の処理設備等を設け万全の対策を講じることとしている。

 アスファルト固化技術開発施設の換気は、「再処理施設の安全性に関する書類」の“6、3、4換気設備”に記載されている方針に従い行うこととしている。

 すなわち、本施設では空気圧をホワイト区域、グリーン区域、アンバー区域、レッド区域の順に低くし、後者の3区域を負圧に保ち、かつ換気の流れを汚染の可能性の低い方から高い方へ流れるようにするとともに、各換気系については、空気圧を建家換気系、セル換気系、槽類換気系の順に低くするよう設計することとしている。

 また、送排風機は、必要に応じ予備を持つとともに、停電時には、非常用電源からの給電を受けることとしている。

 更に、送排風機には、各室、各セルの負圧バランスがくずれないように起動順位をつけてインターロックするとともに、万一の場合にも逆流が生じることのないよう必要に応じ逆止弁をつけることとしている。

(5) 火災・爆発の防止

 本施設の建家は、鉄筋コンクリート構造とし、内部諸設備も不燃性、難燃性の材料を主体として設計することとしている。

 一方、火災・爆発という観点からみると、その原因として、施設内でのアスファルトの使用が考えられるが、本施設においては、火災・爆発が発生することのないよう設計及び操作上、下記の対策を講じることとしている。

 (i) 引火点約250~350℃のアスファルトの加熱には、蒸気を使用した間接的な加熱方式を採用し、加熱蒸気の飽和温度を215℃以下にする。

 (ii) アスファルト貯槽等のアスファルトを取扱う機器、配管等は、必要に応じて接地する。

 (iii) エクストルーダへ供給する廃液は、あらかじめ反応槽で水素イオン濃度を調整する。

 (iv) ドラム缶に充てんした脱水混合アスファルトは、十分冷却するため、アスファルト充てん室に所要時間保持し、かつ、同室には十分な換気を施す。

 以上のように、本施設においては、十分な火災・爆発の防止設計及び防止対策が講じられることになっており、火災・爆発のおそれは考えられないが、万一の場合を考慮し、アスファルト充てん室及びエクストルーダ室には、炭酸ガス吹き出し設備を、アスファルト固化体の貯蔵セル及びアスファルト貯蔵室には、水噴霧設備を設けるほか、その他の場所についても消防法等に定める消火設備、火災報知器を設置することとしている。

 なお、アスファルト固化処理施設及びアスファルト固化体貯蔵施設の位置は「Ⅱ変更の内容」に示すとおりであり、これらの施設に対し、周辺施設からの類焼および飛来物による事故の発生は考慮する必要がないものと考える。

(6) 誤操作の防止及び故障対策

 本施設には、誤操作、故障等によって重大な事故が発生する恐れのある工程はないが、誤操作、故障のないよう設計及び操作上、下記の対策を講じることとしている。。

 (i) 工程中の主要な貯槽には、温度、比重、液面等の指示計又は、記録計、液面上限警報、液面上限制御系等を設置し、貯槽の状態を監視する。

 (ii) エクストルーダには、温度記録調節計を設置し、脱水混合温度を監視し調整する。

 (iii) エクストルーダからドラム缶への充てん系には、液面上限制御系及び液面上限警報を設置し、アスファルトのドラム缶への充てん操作の自動停止及び警報監視を行う。

 (iv) アスファルト充てん室内のコンベア、グラブツール(つかみ具)、ターンテーブル等の諸設備は、自動シーケンス制御で運転する。

 (v) アスファルト充てん室の開閉とコンベアの移動は、インターロックする。

 (vi) グラブツールのドラムつかみ機構、せん回機構等の駆動機構、コンベアの駆動機構は、セル外より駆動させることとし、手動操作もできるようにする。

 (vii) 本施設で使用する電力は、商用電力でまかなうが商用電力が停電した場合には、非常用電源から必要な個所に給電できるようにする。

2 周辺環境への影響

(1) 平常時の影響

 本施設で発生する放射性液体廃棄物は、廃棄物処理場又はZ-施設に送り処理した後、海洋に放出する。

 この放出放射能量は、大きく見積っても、本変更前の再処理施設から海洋へ放出される放射能量の1%程度であり、本変更は「再処理施設から低レベル廃液の海への放出に係る詳細な審査(昭和52年)」において行った、低レベル廃液の海洋への放出に係る評価に有意な影響を及ぼすものではない。

 また、本施設で発生する放射性気体廃棄物は、フィルタでろ過した後、付属排気筒より大気中に放出する。この放出放射能量は、大きく見積っても、本変更前の再処理施設から大気中へ放出される放射能量の1×10-6%(Kr、3H(付属排気筒からの放出は無視できる)を除いた場合1%)程度であり本変更は、「再処理施設の設置に係る安全審査(昭和44年)」(以下44年安全審査と略称する)において行った、気体廃棄物の大気中への放出に係る評価に有意な影響を及ぼすものではない。

(2) 事故評価

 本施設には、これまで述べたように十分な安全設計及び安全対策が講じられることになっており、周辺公衆に影響を与える事故は発生しないと考えられるが、万一、事故が発生した場合を想定し、周辺公衆への影響を評価した。仮想事故としては、放射性物質及びアスファルトが存在し、かつ、工程中一番温度が高いエクストルーダにおける火災事故を想定した。

 事故により大気中に放出される放射能量は燃焼するアスファルトの量、換気系の除染係数を十分厳しく仮定して計算し、44年安全審査と同様の方法で、呼吸による内部被ばく線量及び放射性雲のγ線による外部被ばく線量を評価した。

 この結果、被ばく線量が最大になるのは、大気安定度Aに対して、付属排気筒の南方400mの地点であって、全身線量は2×10-3レム、甲状腺線量は3×10-3レム(成人)及び1×10-2レム(小児)となる。

 以上のとおり、エクストルーダにおける仮想事故の影響は、44年安全審査において評価された濃縮ウラン溶解槽における仮想臨界事故及び分離第一抽出器における有機溶媒の仮想火災事故の影響に比べ十分小さい。

Ⅳ 審査の経過

 本審査会は、昭和53年8月21日の第11回審査会において、前記変更について審査を行い、同日本報告書を決定した。これらの変更については、昭和53年7月17日、7月28日及び8月9日の再処理部会における審議を経ている。

 なお、同部会の委員は以下のとおりである。

部会委員
(部会長)高島 洋一 東京工業大学
青地 哲男 日本原子力研究所
伊沢 正実 放射線医学総合研究所
市川 龍資 放射線医学総合研究所
稲垣 道夫 金属材料技術研究所
今井 和彦 日本原子力研究所
清瀬 量平 東京大学
坂上 治郎 お茶の水女子大学(名誉教授)
左合 正雄 東京理科大学
鈴木 正敏 金属材料技術研究所
内藤 奎爾 名古屋大学
林 正夫 電力中央研究所
日野 幹雄 東京工業大学
藤井 正一 芝浦工業大学
益子 洋一郎 前工業技術院東京工業試験所

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