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発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針について


昭和53年9月29日
原子力委員会

 当委員会は、昭和53年9月21日付けをもって原子炉安全技術専門部会から「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」について報告を受けた。

 当委員会は、同報告書の内容を検討した結果、次のとおり「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」を定める。


発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針

 はしがき

 本指針は、発電用軽水型原子炉の設置許可(変更許可を含む)に際し、原子炉の安全評価を行うための審査上の指針として作成したものである。

 したがって、安全審査においては申請内容が本指針に適合していることを確認する必要があり、本指針に適合していれば、原子炉施設の基本設計の方針の安全評価は妥当と判断され、また、原子炉立地条件として周辺公衆との離隔に関する評価は妥当と判断されるものである。

 本指針は、現在使用されている発電用軽水型原子炉を対象としているが、基本的考え方は他の炉型においても審査の参考となりうると考える。

 なお、安全評価が本指針に適合しない場合があっても妥当な理由によるものであることが明らかにされればこれを排除するものではない。また、本指針は設計の改良、経験の蓄積など新たな知見が得られた場合には、必要に応じて適宜見直しがなされるべきものである。

 1 安全評価の目的

 原子炉の安全設計の基本方針の妥当性は「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査張針」により、また原子炉の立地条件の適否は「原子炉立地審査指針」によりそれぞれ審査されるが、本指針は、これらの審査の過程で行なう安全評価の審査指針を示すものである。

 原子炉施設の設計の基本方針の妥当性を確認するための安全評価を行なうに当っては、原子炉施設の「通常運転」の状態を超えた事象、すなわち、「運転時の異常な過渡変化」について評価を行い、ついでこの運転時の異常な過渡変化の範囲を超える事象、すなわち「事故」について評価を行わなければならない。

 一方、立地条件の適否を判断するためには「原子炉立地審査指針」に従い、重大事故及び仮想事故について評価を行わなければならない。

 本指針は、このような観点から、それぞれの事象の安全評価に当って、想定すべき事象及びその事象の解析に際しての基本的条件、判断基準等を示したものである。

 2 評価すべき範囲

2.1 運転時の異常な過渡変化及び事故

 2.1.1 運転時の異常な過渡変化

 原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障又は誤動作若しくは運転員の単一誤操作などによって、原子炉の通常運転を超えるような外乱が原子炉施設に加えられた状態及び、これらと類似の頻度で発生し、原子炉施設の運転が計画されていない状態にいたる事象を対象とする。

 2.1.2 事故

 前記「運転時の異常な過渡変化」を超える異常状態であって、発生頻度は小さいが、発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出の可能性があり、原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要のある事象を対象とする。

2.2 重大事故及び仮想事故

 原子炉立地審査指針に基づき、原子炉立地条件の適否を評価する観点から想定する必要のある事象を対象とする。

 3 評価すべき事象の選定

 原子炉の運転時の異常な過渡変化、事故、重大事故、仮想事故の各々に対して前の章で示した目的、範囲に従って評価の対象とすべき代表的事象を選定しなければならない。

3.1 運転時の異常な過渡変化及び事故

 3.1.1 運転時の異常な過渡変化

 前記2.1.1に基づき、原子炉施設が制御されずに放置されると、燃料又は原子炉冷却材圧力バウンダリに過度の損傷をもたらす可能性のある事象を想定し、これら事象が発生した場合における安全保護系、原子炉停止系等の設計の妥当性を確認するという観点から選定する。具体的な事象を以下に示す。

(1) 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化
(2) 炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化
(3) 原子炉冷却材圧力又は原子炉冷却材保有量の異常な変化
(4) その他必要と認められる運転時の異常な過渡変化

 但し、類似の異常な過渡変化が二以上ある場合には、最も厳しい事象で代表させることができる。

 3.1.2 事故 

 前記2.1.2に基づき、原子炉施設からの放射線による敷地周辺への影響が大きくなる可能性のある事象を想定し、これらの事象が発生した場合における工学的安全施設等の設計の妥当性を確認するという観点から選定する。具体的な事象を以下に示す。

(1) 炉心冷却能力の低下
(2) 冷却材喪失
(3) 廃棄物処理設備の破損
(4) 主蒸気管又は蒸気発生器伝熱管の破損
(5) 燃料取扱いに伴う事故
(6) 制御棒の抜け出し等による事故
(7) その他必要と認められる事故

 但し、類似の事故が二以上ある場合には、最も厳しい事象で代表させることができる。

3.2 重大事故及び仮想事故

 3.2.1 重大事故

 前記2.2に基づき、上記3.1.2の解析結果を参考としてそれらの事故の中から放射性物質の放出の拡大の可能性のある事故をとり上げ、技術的に最大と考えられる放射性物質の放出量を想定することとし、格納容器内放出に係る事故及び格納容器外放出に係る事故をそれぞれ想定する。

 3.2.2 仮想事故

 前記2.2に基づき、重大事故としてとりあげられた事故について、より多くの放射性物質の放出量を仮想した事故を想定する。

 4 判断基準

4.1 運転時の異常な過渡変化及び事故

 4.1.1 運転時の異常な過渡変化

 想定した事象の発生に伴う過渡現象下において、炉心は損傷に至る前に収束され通常運転に復帰できる状態にならなければならない。それぞれの事象に応じてこのことを判断する基準は、以下のとおりとする。

(1) 最小限界熱流束比又は最小限界出力比が許容限界値以上であること。

(2) 燃料被覆管は機械的に破損しないこと。

(3) 燃料ペレットの保有熱量は許容限界値を超えないこと。

(4) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は最高使用圧力の1.1倍以下であること。

 4.1.2 事故

 想定した事故事象によって外乱が原子炉施設に加わっても、事象に応じて炉心の溶融の恐れがないこと及び放射線による敷地周辺への影響が大きくならないよう核分裂生成物放散に対する障壁の設計が妥当であることを確認そなければならない。このことを判断する基準は、以下のとおりとする。

(1) 炉心は大きな損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であること。

(2) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の1.2倍以下であること。

(3) 格納容器バウンダリにかかる圧力は、設計圧力の1/0.9倍以下であること。

(4) 周辺の公衆に対し著しい放射線被曝のリスクを与えないこと。

4.2 重大事故及び仮想事故

「原子炉立地審査指針」に適合しなければならない。

 5 解析に当って考慮すべき事項

5.1 運転時の異常な過渡変化及び事故

 5.1.1 解析に当って考慮する範囲

 運転時の異常な過渡変化及び事故の解析に当っては、当該原子炉の通常運転範囲全域について考慮しなければならない。すなわち、サイクル期間中の炉心燃焼度変化や燃料交換等による長期的な変動及び運転中予想される異った運転モードを考慮して解析しなければならない。

 解析すべき事象についてはその事象が発生してから収束される迄の間の計測制御系、安全保護系、工学的安全施設等の作動状況及び運転員の操作の態様を十分に検討した上解析しなければならない。

 5.1.2 解析に使用するモデル及びパラメータ

 解析に当って使用するモデル及びパラメータは評価の結果がきびしくなるように選定しなければならない。但し、評価目的の範囲内で合理的なものを用いてもよい。

 さらに、モデル及びパラメータの選定に当っては次のような注意が必要である。

(1) 圧力バウンダリの圧力、炉心の核熱特性、周辺公衆に対する放射線被曝等事象が多岐にわたる場合には、選定するモデル及びパラメータは着目する事象毎に観点を変えて評価しなければならない。

(2) パラメータに不確定因子が考えられる場合には、これをカバーするために適切な安全余裕を見込まなければならない。

 5.1.3 故障等の仮定

 各事象の解析に当っては、以下の事項を満足させなければならない。

(1) 解析に当っては、想定された事象に加え、作動を要求される安全系の機能別に結果を最も厳しくする単一故障を仮定しなければならない。

 機器の故障については、事故発生後短期間における動的機器の単一故障又は長期間における動的機器若しくは静的機器の故障を考えるものとする。但し、静的機器にあっては単一故障を仮定したときに所定の安全機能を達成できるように設計されている場合、その故障が安全上支障がない期間内に除去若しくは修復が出来る場合、又はその故障の確率が十分に低い場合は仮定から除外してよい。

(2) 事象の影響を緩和するのに必要な運転員の手動操作については、適切な時間的余裕を考慮しなければならない。

(3) 事故の解析に当って、工学的安全施設の作動が要求される場合には、外部電源の喪失を考慮しなければならない。

 5.1.4 計算手法

 各事象の計算に当っては使用される各種計算コード等については主要な入力とともに、使用の妥当性を確認しなければならない。

5.2 重大事故及び仮想事故

 重大事故及び仮想事故の解析に当っては、「原子炉立地審査指針」の趣旨にのっとって行なわなければならない。

 6 運転時の異常な過渡変化及び事故の具体的な事象

 評価すべき運転時の異常な過渡変化及び事故についての具体的な事象は以下のとおりとする。

6.1 運転時の異常な過渡変化

 6.1.1 炉心内の反応度又は出力分布の異常な過渡変化

(1) 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)
(2) 出力運転中の制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)
(3) 制御棒クラスタ落下及び不整合(PWR)
(4) 1次冷却材中のほう素の異常な稀釈(PWR)
(5) 起動時における制御棒引抜き(BWR)
(6) 出力運転中の制御棒引抜き(BWR)

 6.1.2 炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化

(1) 1次冷却材流量の部分喪失(PWR)
(2) 1次冷却系停止ループの誤起動(PWR)
(3) 蒸気負荷の急増(PWR)
(4) 2次冷却系の異常な減圧(PWR)
(5) 蒸気発生器への過剰給水(PWR)
(6) 蒸気発生器への主給水喪失(PWR)
(7) 外部電源喪失(PWR、BWR)
(8) 給水加熱喪失(BWR)
(9) 再循環停止ループ誤起動(BWR)
(10) 再循環流量制御系の誤動作(BWR)
(11) 再循環ポンプの故障(BWR)

 6.1.3 原子炉冷却材圧力又は原子炉冷却材保有量の異常な変化

(1) 1次冷却系の異常な減圧(PWR)
(2) 出力運転中の非常用炉心冷却系の誤起動(PWR)
(3) 負荷の喪失(PWR、BWR)
(4) 主蒸気隔離弁の閉鎖(BWR)
(5) 給水制御系の故障(BWR)
(6) 圧力制御装置の故障(BWR)
(7) 主給水流量の喪失(BWR)

6.2 事故

 6.2.1 炉心冷却能力の低下

(1) 1次冷却材流量喪失事故(PWR)
(2) 1次冷却材ポンプ軸固着事故(PWR)
(3) 再循環ポンプ軸固着事故(BWR)
(4) 主給水管破断事故(PWR)

 6.2.2 冷却材喪失

(1) 1次冷却材喪失事故(PWR)
(2) 冷却材喪失事故(BWR)

 6.2.3 廃棄物処理設備の破損

(1) 放射性気体廃棄物処理施設の破損事故(PWR)
(2) 放射性気体廃棄物処理施設の破損事故(BWR)

 6.2.4 主蒸気管又は蒸気発生器伝熱管の破損

(1) 主蒸気管破断事故(BWR)
(2) 主蒸気管破断事故(PWR)
(3) 蒸気発生器伝熱管破損事故(PWR)

 6.2.5 燃料取扱いに伴う事故

(1) 燃料取扱事故(PWR)
(2) 燃料取扱事故(BWR)

 6.2.6 制御棒の抜け出し等による事故

(1) 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)
(2) 制御棒落下事故(BWR)

 7 重大事故及び仮想事故の具体的な事象

 評価すべき重大事故及び仮想事故についての具体的な事象は以下のとおりとする。

7.1 冷却材喪失事故

 7.1.1 1次冷却材喪失事故(PWR)
 7.1.2 冷却材喪失事故(BWR)

7.2 蒸気発生器伝熱管破損事故(PWR)
7.3 主蒸気管破断事故(BWR)

解説及び付録

 解説

 本指針を適用するに当って、運用上の注意事項ないしは解釈を明らかにしておく必要がある、と考えられるので解説を以下のとおり掲げた。

1 安全評価の目的にある「想定すべき事象」の選定と分類について

 原子炉プラントを異常な状態に導く可能性のある多数の事象のうち、プラント内部に生ずるものは、概ね、機器系統等の故障、破損あるいは運転員の誤操作等によるものである。これらの事象を整理し、プラントの設計とその評価に当って考慮すべきものとして抽出された事象を「DBE(Design Basis Event)」と呼ぶことにする。

 あるDBEの発生を仮定した場合、その後の経過は、プラント内の各機器系統の動作状況(すなわち、故障、誤操作等の有無)で異る。1つのDBEと、DBEの発生に従属してその機能が損なわれる可能性のある系統の動作の状況、ならびに外部電源の状況を組み合わせたものを「想定すべき事象」と呼び、本指針3章でいう「評価すべき事象」とはこの事象を指している。

 想定すべき事象のうち、プラント寿命期間中に1回以上発生する可能性があると思われるものを「運転時の異常な過渡変化」と呼ぶ。運転時の異常な過渡変化は、概ね、外部電源喪失、プラントの動的機器の単一の故障又は誤動作あるいは運転員の単一の誤操作が原因となるものである。発生する可能性(発生頻度)はより低いが、プラント及び周辺公衆により重大な影響を与える恐れのある想定すべき事象を「事故」と呼ぶ。

 類似の運転時の異常な過渡変化又は類似の事故が二以上ある場合には、結果が最も厳しくなるもので代表させることができる。但し、この場合には、類似の事象全体の発生頻度によって上記の分類を行わなければならない。付録には、以上の考察に基づき、現在の発電用軽水炉の設計の妥当性を検討する見地から解析することが適当と考えられる異常な過渡変化及び事故について、具体的な解析条件等を示してある。

2 事故解析の判断基準の1つに上げた「周辺公衆の放射線被曝のリスク」について

 本指針の事故解析は、原子炉施設に関する基本設計方針の妥当性を評価するために行うものであり、特に事故時において放射性物質の放散を伴う可能性のある施設に対する事故解析の判断基準として4.1.2(4)で「周辺の公衆に対し著しい放射線被曝のリスクを与えないこと」を定めた。ここでは、被曝線量の評価を事故の発生頻度との兼ねあいを考慮して行おうとするものである。

 「著しい放射線被曝のリスク」についての具体的な運用は以下によることとする。

 ICRPによれば、公衆に対する年間の全身被曝線量として0.5レムを勧告しているので、これを発生頻度が小さい事故の評価にも適用することとしたが、周辺公衆の全身被曝線量の評価値は発生事故当り0.5レムを超えなければ「リスク」は小さいと判断する。

 また、一次冷却材喪失事故のようにその発生頻度が極めて小さい事故に対しては、全身被曝線量の評価値が上記の値をある程度超えてもその「リスク」は小さいと判断できる。

 なお、周辺公衆の甲状腺被曝についても、全身被曝と同様な考え方に基づいて評価するものとする。

3 解析に当って考慮すべき事項のうち「解析に当っての単一故障」について

 原子炉プラントに包含される様々な系統のうち、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」でいう「安全上重要な構築物、系統及び機器」の一部をなすものであって、かつ、想定すべき事象により生じる異常な状態を速やかに収束させ、又はその拡大を防止し、あるいはその結果を緩和することを主たる機能とするものを、以下「安全系」と呼ぶこととする。安全系を具体的に示すと、非常用炉心冷却系、格納容器(隔離弁を含む)及び格納容器雰囲気浄化系等の工学的安全施設(非常用電源を含む)、原子炉停止系並びに安全保護系が入る。安全系に属しない系統は「プロセス系」と呼ぶことにする。同一の系統であっても、要求されている機能によって安全系に属することもあり、プロセス系に属することもあり得る。例えば、制御棒は、反応度又は炉心内出力分布を制御する時はプロセス系であり、異常時に原子炉を停止させるために用いられる時は安全系に属することになる。

 本指針5.1.3は、想定すべき事象に加えて、作動を要求される安全系に単一故障を仮定することを求めている。安全系に属する各系統は、設計指針8によって単一故障を仮定してもその安全機能を損なわない設計となっている。本指針5.1.3の要求は、安全系の設計が設計指針の要求を満足していることを確認するとともに、作動を要求されている諸系統間の協調性や、手動操作を必要とする場合の運転員の役割り等も含め、安全系全体としての機能と性能を確認しようとするものである。

 単一故障の仮定を考慮すべき範囲は、当該想定事象に対して安全機能を果すべき系統全般すなわち、当該事象に対して作動が要求される全ての安全系であって、補助施設や非常用電源も含む。

 単一故障の仮定は、当該事象に対して果たされるべき安全機能の観点から結果を最も厳しくするものを選定し、かつ、これを適切な方法で示さなければならない。1つの想定事象について2つ以上の安全機能が要求される場合には、機能別に単一故障を仮定しなければならない。例えば、冷却材喪失事故に対しては、安全系は炉心冷却、格納容器冷却、放射能放出低減などの安全機能を要求されるが、この場合、それぞれの機能について作動を要求される系統に順次単一故障を仮定して解析を行わなければならない。

4 解析に当って考慮すべき事項のうち「手動操作における時間的余裕」について

 一般に運転員の信頼度は、DBEの態様によって異り、かつ、発生直後に低下し、時間と共に回復することから、操作を必要とする時点と操作完了迄の時間的余裕、運転員に与えられる情報、必要な操作等を考慮して個々の想定すべき事象ごとに判断すべきものである。

 その考察の結果、運転員に十分な信頼度が期待し得ると判断される場合にはその動作に期待してよい。但し、事象の発生が検出されてから短時間に操作が完了できると見込まれる場合であっても10分以内を期待してはならない。

5 重大事故及び仮想事故の想定について

 重大事故及び、仮想事故を想定する目的は、対象となる原子炉と、周辺の公衆との離隔が適正に確保されていることを示すことである。最小限度必要とされる離隔距離は、当該原子炉の基本的構造、出力その他の特性、並びに安全系を含む様々な安全上の対策等によって変化すべきものである。従って、重大、仮想事故の選定に当っては、この趣旨が適切に考慮される必要がある。

 たとえば、仮想事故の選定に当って、炉心の核分裂生成物の多重防壁のすべてが、無条件に機能しないと仮定すると、離隔距離は事実上原子炉出力のみで定まってしまうことになり、その他の重要な因子は無視されることになる。このような仮定は、最小限度必要とされる離隔距離を判断すると言う見地からは、適切とは言い難く、従って立地審査指針が必須な仮定として求めているものではない。

 以上の見地から、現在の軽水型動力炉に関しては、その構造、特性並びに安全上の諸対策を考慮して、放射性物質の放出の拡大の可能性のある事故の態様として、格納容器内放出と格納容器外放出の二種類を考え、それぞれについて、3.1.2の解析結果を参照して、周辺公衆との離隔を評価する観点から技術的に見て合理的に最大と考えられる放射性物質の放出量を想定することをもって重大事故とする。さらに重大事故としてとりあげられた事故について、これを超える放射性物質の放出を工学的な観点から仮想することをもって仮想事故とする。

付録

 本審査指針に基づき運転時の異常な過渡変化、事故並びに重大事故、仮想事故を評価する際の参考とすべき具体的な解析条件等を以下に示す。

1 運転時の異常な過渡変化及び事故の具体的な解析

1 運転時の異常な過渡変化

 1.1 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化

  1.1.1 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)

(1) 制御棒制御系または制御棒駆動装置の誤動作などにより未臨界状態から制御棒クラスタが連続的に引抜かれ、中性子束が急速に上昇する場合を想定する。

(2) このため未臨界状態で最大反応度効果を有する2つの制御棒クラスタバンクが設計上許容される組合せおよび最大速度で同時に引抜かれるものと仮定する。

(3) この仮定により本文4章の判断基準4.1.1(以下「4.1.1」という)(3)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.1.2 出力運転中の制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)

(1)制御棒制御系または制御棒駆動装置の誤動作などにより出力運転中に制御棒クラスタが連続的に引抜かれ、中性子束が上昇する場合を想定する。

(2)このため定格出力運転中に最大反応度効果を有する2つの制御棒クラスタバンクが設計上許容される組合せ及び最大速度で同時に引抜かれる場合までを含んだ仮定を行う。

(3)この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.1.3 制御棒クラスタ落下及び不整合(PWR)

(1) 制御棒制御系又は制御棒駆動装置の故障等によって制御棒クラスタが引抜き位置から炉心内に落下し、局部的に原子炉出力が減少し出力分布が悪化する場合並びに、同様な故障によりバンク内の制御棒クラスタが不揃いに駆動され、出力分布が悪化する場合を想定する。

(2) このため制御棒クラスタ落下の解析は、定格出力運転中に最大の反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下すると仮定する。

 また、制御棒クラスタ不整合の場合として、バンクD制御棒クラスタがバンク挿入限界にあり、そのうち1本の制御棒クラスタが全引抜位置にあるものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.1.4 1次冷却材中のほう素の異常な稀釈(PWR)

(1) 化学体積制御設備の誤動作から純水が1次冷却材中に注入され、炉心内のほう素濃度が下り反応度が添加される場合を想定する。

(2) このため原子炉の起動時または定格出力運転時に十分なほう素濃度を有する1次冷却系へ最大流量で純水が補給されるものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.1.5 起動時における制御棒引抜(BWR)

(1) 原水炉の起動時(冷態停止時も含む)に制御棒駆動系の誤操作により制御棒が連続的に引抜かれた場合を想定する。

(2) このため臨界状態の原子炉で制御棒価値ミニマイザが許容する最大価値を有する制御棒1本が機構上可能な最大速度で連続的に引抜かれるものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(3)の基準を満たすことを確認する。

  1.1.6 出力運転中の制御棒引抜(BWR)

(1) 原子炉の出力運転中に制御棒駆動系の誤操作により制御棒が連続的に引抜かれた場合を想定する。

(2) このため出力運転時の原子炉で熱的制限値にある燃料集合体の近傍の制御棒1本が連続的に引抜かれ制御棒引抜監視装置により阻止されるものと仮定する。ここで引抜き速度は解析結果がきびしくなるように、中性子束と熱流束の平衡状態が保たれるほど十分遅いものとする。

(3)この仮定により4.1.1(1)、(2)の基準を満たすことを確認する。

 1.2 炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化
  1.2.1 1次冷却材流量の部分喪失(PWR)

(1) 出力運転中に1次冷却材ポンプが停止することにより1次冷却材流量の部分的な喪失を引き起し、1次冷却材温度の上昇とともに燃料温度の上昇を起こす現象を想定する。

(2) このため定格出力運転中に1次冷却材ポンプ1台の電源が失なわれ、停止した1次冷却材ポンプの慣性を考慮して1次冷却材流量が減少するものとすること。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.2 1次冷却系停止ループの誤起動(PWR)

(1) 1次冷却材ポンプ1台が停止している状態で部分負荷運転を行っているときに停止ループが誤起動され、低温の冷却水が急速に炉心へ導入されることから反応度が添加され原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(2) このため1ループ停止時の最大出力運転時に停止中の1次冷却材ポンプが起動され、停止回路の流量は短時間に定格に達するものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.3 蒸気負荷の急増(PWR)

(1) タービンバイパス弁、蒸気加減弁、又は主蒸気逃し弁の誤動作により蒸気流量が過大になることにより1次冷却材の温度が低下し反応度が添加され原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(2) このため定格出力運転中に上記の弁のうちの1個が全開になり、蒸気流量の増加があるものと仮定する。その場合減速材温度係数や制御棒の操作状況によりケースに応じた評価を行う。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.4 2次冷却系の異常な減圧(PWR)

(1) タービンバイパス弁、主蒸気逃し弁第2次冷却系の弁のうち1個が誤って全開し蒸気が放出され、1次冷却材の温度低下から反応度が添加される場合を想定する。

(2) このため原子炉が高温停止状態において最大容量の弁1個が全開したとする。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.5 蒸気発生器への過剰給水(PWR)

(1) 蒸気発生器の給水制御弁の誤動作などによって給水が過剰となることによって1次冷却材の温度が低下し、炉心へ反応度が添加され、原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(2) このため定格出力運転中に給水制御弁1個が全開し、蒸気発生器1台に制御弁全開容量の流量で給水されると仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.6 蒸気発生器への主給水喪失(PWR)

(1) 主給水ポンプまたは復水ポンプの電源喪失あるいは給水設備の誤動作などによって蒸気発生器への給水が停止することにより熱除去能力が低下し、1次冷却材温度及び圧力が上昇する場合を想定する。

(2) このため主給水ポンプが全て停止したと仮定し、タービンバイパス弁あるいは、主蒸気逃し弁は動作せず主蒸気安全弁のみ動作するものとする。

(3) この仮定により4.1.1(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.7 外部電源喪失(PWR、RWR)

(1) 送電系統または所内電源設備の故障などにより外部電源が喪失し、運転状態が乱される場合を想定する。

(2) このため所内常用電源が喪失したと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.8 給水加熱喪失(BWR)

(1) 給水加熱器への蒸気がたたれ給水温度が徐々に低下し、炉心入口サブクーリングの増加から原子炉出力が増加する場合を想定する。

(2) このため給水加熱器の加熱機能喪失時の最大給水温度変化分だけ給水温度が低下すると仮定する。また再循環系は手動運転モードとする。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.9 再循環停止ループ誤起動(BWR)

(1) 停止中の再循環ループを予熱せずに誤起動させ、炉心入口サブクーリングの増加から出力が上昇する場合を想定する。

(2) このため停止している再循環ループには合理的に考えられる温度の循環水が満たされているとして、原子炉の約50%程度の出力運転中にこの循環水が炉心に入り、急激に炉心流量が増加するものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.10 再循環流量制御系の誤動作(BWR)

(1) 再循環流量制御系の誤動作によって再循環流量が増加する場合を想定する。

(2) このため再循環流量制御系に増加要求信号が発生したとし、流量増加率は速度制限器等によって抑えられる値とする。原子炉は流量増加量を厳しく評価するため自動流量制御範囲の下限で運転中と仮定する。

(3)この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.2.11 再循環ポンプの故障(BWR)

(1) 再循環ポンプ駆動モータの電源が喪失し、炉心流量が減少する場合を想定する。

(2) このため、1台の再循環ポンプ駆動モータの電源が失なわれた場合を仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)の基準を満たすことを確認する。

 1.3 原子炉冷却材圧力又は原子炉冷却材保有量の異常な変化
  1.3.1 1次冷却系の異常な減圧(PWR)

(1) 加圧器逃し弁又はスプレイ弁が誤って全開する場合を想定する。

(2) このため定格出力運転時に加圧器逃し弁又はスプレイ弁のうち効果の大きい弁1個が全開し、定格容量に余裕をみた値で冷却材が吹き出すものと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.2 出力運転中の非常用炉心冷却系の誤起動(PWR)

(1) 誤操作又は誤動作により非常用炉心冷却系が作動した場合を想定する。

(2) このため定格出力運転中に、非常用炉心冷却水が1次系に注入されると仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.3 負荷の喪失(PWR、BWR)

(1) 電力系統の擾乱、タービンまたは発電機の故障等により主蒸気流量の急減が起り原子炉圧力が上昇する場合を想定する。

(2) このため定格出力運転中に外部負荷の完全喪失が起ると仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.4 主蒸気隔離弁の閉鎖(BWR)

(1) 原子炉水位低等原子炉系の異常、または運転員の誤操作等により主蒸気隔離弁が閉鎖し、原子炉圧力が上昇する場合を想定する。

(2) このため主蒸気隔離弁が想定される最短時間で閉鎖したと仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.5 給水制御系の故障(BWR)

(1) 給水制御器の誤作動等により、給水流量が急激に増加し、サブクーリングの増加によってボイドが減少し、原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(2) このため、瞬時に想定される最大給水流量で給水されると仮定する。また、再循環系は手動運転モードとする。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.6 圧力制御装置の故障(BWR)

(1) 圧力制御装置が誤信号を発し主蒸気流量が最大となる場合を想定する。

(2) このため圧力制御装置の一系統から最大出力信号が発生した場合を仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

  1.3.7 全給水流量の喪失(BWR)

(1) 給水制御器の故障、あるいは給水ポンプのトリップにより部分的な給水流量の減少、または全給水流量の喪失が起こり原子炉水位が低下する場合を想定する。

(2) このため定格出力運転中に給水ポンプがトリップし、同ポンプの慣性を考慮した時間内に給水流量が完全喪失すると仮定する。

(3) この仮定により4.1.1(1)、(2)、(4)の基準を満たすことを確認する。

2. 事故

 2.1 炉心冷却能力の低下

  2.1.1 1次冷却材流量喪失事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉出力運転中に1次冷却材ポンプが同時に全台とも停止することにより、1次冷却材流量の喪失を引き起こし、その結果、炉心の冷却能力が低下し、1次冷却材温度及び原子炉圧力の上昇を起こす事故を想定する。

(2) 事故の評価

 解析は以下の仮定により行う。

 a.原子炉出力、1次冷却材平均温度及び原子炉圧力の初期値は、初期のDNBRが最小となるように、それぞれ定格出力に余裕をみた出力、定常運転時の最高温度及び最低圧力を選ぶ。

 b.減速材密度係数及びドップラ係数は結果がきびしくなる値を選ぶ。

 c.1次冷却材ポンプの有する慣性を考慮して1次冷却材流量減少を評価する。

(3) 判断基準

 本文4章の判断基準4.1.2(以下「4.1.2」という)(1)、(2)の基準を満たすこと。

  2.1.2 1次冷却材ポンプ軸固着事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉出力運転中に、1台の1次冷却材ポンプの回転軸が瞬間的に固着することを想定する。この場合、残りの1次冷却材ポンプは運転を継続するが、1次冷却材流量の減少率が大きいため、その結果、炉心の冷却能力の低下によって、1次冷却材温度、燃料被覆管温度及び原子炉圧力の急激な上昇を起こす事故を想定する。

(2) 事故の評価

 解析は以下の仮定により行なう。

 a. 原子炉出力の初期値は定格出力に余裕をみた出力とする。

 b. 原子炉圧力の時間変化の評価に当っては原子炉圧力の初期値は定常運転時の最大圧力とする。

 c. 減速材密度係数及びドップラ係数は結果がきびしくなる値に選定しなければならない。

 d. 原子炉圧力変化の評価では加圧器スプレイ弁、加圧器逃し弁及びタービンバイパス弁は、不動作とし、原子炉停止後の蒸気発生器への給水は行われないものとする。

 e.燃料被覆管温度が高くなるように、燃料と被覆管とのギャップ熱伝達係数を定めるものとする。

(3) 判断基準

4.1.2(1)、(2)の基準を満たすこと。

  2.1.3 再循環ポンプ軸固着事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉出力運転中に、1台の再循環ポンプの回転軸が固着することにより、炉心流量が急減し、炉心の冷却能力が低下する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 解析は以下の仮定により行う。

 a. 初期条件は定格出力に余裕をみた出力、定常運転時の最高温度及び最大圧力とする。

 b. ボイド反応度係数及びドップラ係数は結果がきびしくなる値に選定しなければならない。

(3) 判定基準

4.1.2(1)、(2)の基準を満たすこと。

  2.1.4 主給水管破断事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉運転中に主給水配管の破断が生じ、主給水流量の喪失と蒸気発生器の保有水の放出から1次系の過度の加熱が生ずるような事故を想定する。

(2) 事故の評価

 解析は以下の仮定により行う。

 a. 初期条件は定格出力に余裕をみた出力、定常運転時の最高温度及び最大圧力とする。

 b. 全ての蒸気発生器への主給水は、主給水管破断発生と同時に喪失するものとする。

 c. 外部電源は、使用できないものとする。

 d. 1次系からの除熱は、健全蒸気発生器への補助給水により行うものと仮定するが、補助給水が破断孔から喪失するのを防止するための運転員操作に要する時間は十分な余裕を見た値とする。

(3) 判断基準

4.1.2(1)、(2)の基準を満たすこと。

 2.2 冷却材喪失

  2.2.1 1次冷却材喪失事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉圧力容器に接続されている1次冷却材主配管の1本が原子炉運転中に破断し、原子炉圧力容器から冷却材が喪失する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 非常用炉心冷却系の機能および性能の評価は、「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」により行う。

 ii) 原子炉格納容器の健全性の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

  b. 破断箇所は、内圧計算においては、1次冷却材ポンプ吸込側配管を考える。

  c. 外部電源は使用できないものとする。

  d. 事故時に発生する水素、酸素の量は、水-金属反応による水素発生量をi)項の評価結果の5倍または燃料被覆管の0.23ミル(約0.0058㎜)厚さが反応した場合のいずれか大きい方とし、また冷却材の放射線による水分解等を考慮するものとする。

 iii) 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

  b. 事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は、破損すると評価された燃料の燃料ギャップ内蔵量に対して、希ガス100%、よう素50%とする。

  c. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち有機よう素が占める割合は4%とし、残りの96%は無機よう素とする。

  d. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち、無機よう素については50%が原子炉格納容器や同容器内の機器等に付着し、原子炉格納容器からの漏洩に寄与しないものとする。有機よう素、希ガスについてはこの効果は考えない。

  e. 原子炉格納容器スプレイ水による無機よう素の除去効率は、実験に基づいて評価された値とする。有機よう素、希ガスについては、この効果は考えない。

  f. 希ガス及びよう素については、原子炉格納容器からの漏洩を考慮する。漏洩率は、事故時の原子炉格納容器圧力に対応する漏洩率を下まわらない値とする。

  g. 原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、残りの3%はアニュラス部外から生ずるものとする。

  h. アニュラス空気再循環設備によう素用フィルタが設備されている場合は、よう素除去効率は設計値とする。

 アニュラス部の負圧達成迄の間は根拠が明らかでない限りよう素用フィルタのよう素除去効果を考慮しないものとする。

 また、負圧達成後もアニュラス排気風量の切換えまでは、再循環は考慮しない。

  i. 事故期間中、非常用炉心冷却水再循環系(以下「再循環系」という)からは、補助建家へ設計漏洩率で漏洩があるものとする。

  j. 再循環水中の放射能量は事故直後、破損すると評価された燃料の燃料ギャップよう素内蔵量の50%が溶解したものとする。

  k. 再循環系から補助建家に漏洩したよう素の気相への移行率は5%とし、補助建家内でのプレートアウト等によるよう素沈着率を50%とする。

  l. 再循環系が設置される補助建家内換気系によう素用フィルタが設備されている場合のよう素除去効率は設計値とする。

  m. 原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器内の核分裂生成物の存在位置および原子炉格納容器等の遮蔽を考慮して評価する。

  n. 事故の評価期間は原子炉格納容器内圧が原子炉格納容器からの漏洩が無視出来る程度に低下する迄の期間とする。

  o. 環境への放射性物質の放出は排気筒より行われるものとする。

 iv) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

 a. 非常用炉心冷却系はその機能と性能が「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」の基準を満たすこと。

 b. 4.1.2(3)、(4)の基準を満たすこと。

 c. 原子炉格納容器内の水素及び酸素の濃度は、事故評価期間中少くともどちらかは次の値未満であること。

   水素 4%
   酸素 5%

  2.2.2 冷却材喪失事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉圧力容器に接続されている再循環系配管の1本が原子炉運転中に破断し、原子炉圧力容器から冷却材が喪失する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 非常用炉心冷却系の機能および性能の評価は「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」により行う。

 ii) 原子炉格納容器の健全性の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は定格出力に余裕をみた出力で長期間運転していたものとする。

  b. 外部電源は使用できないものとする。

  c. 配管破断時に圧力容器から原子炉格納容器に流出する流量はその放出エネルギーが最大となるよう見積ること。

  d. 事故時に発生する水素、酸素の量は、水-金属反応による水素発生量をi)項の評価結果の5倍または燃料被覆管の0.23ミル(約0.0058㎜)厚さが反応した場合のいずれか大きい方とし、また冷却材の放射線による水分解を考慮するものとする。

 iii) 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は事故直前まで定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

  b. 事故発生時の冷却材中の核分裂生成物の濃度は、運転上許容されるⅠ-131の最大濃度に相当する濃度とし、その組成を拡散組成とする。

  c. 事故発生後新たな燃料破損が生じない場合には原子炉圧力の減少に伴う破損燃料からの放出の対象となる核分裂生成物の量はⅠ-131については、実測データの平均値に適切な余裕をみた値とし、その他の核分裂生成物についてはその組成を平衡組成として求め、希ガスはよう素の2倍の放出があるものとする。

 なお、この燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、事故後瞬時に放出の対象となる量の全量が放出されるものとする。

 また、燃料破損が生ずる場合は、事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は破損すると評価された燃料の燃料ギャップ内蔵量の全量が放出されるものとする。

  d. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち、有機よう素が占める割合は4%とし、残りの96%は無機よう素とする。

  e. 無機よう素については、50%が原子炉格納容器や同容器内の機器等に付着し、原子炉格納容器からの漏洩に寄与しないものとする。有機よう素、希ガスについては、この効果は考えない。

  f. 原子炉格納容器内に放出された核分裂生成物がサブレッションプール水に溶解する割合は、無機よう素については実験等で実証された値又は分配係数で示して100とする。有機よう素、希ガスについては、この効果は考えない。

  g. 原子炉建屋への原子炉格納容器内雰囲気の漏洩率は設計上定められた最大値とする。

  h. 平常運転時に作動している原子炉建屋換気空調系は、原子炉水位低、ドライウェル圧力高、あるいは原子炉建屋放射能高の信号により非常用原子炉建屋内ガス処理系に切換えられるものとする。原子炉建屋におけるフォール・アウト、プレート・アウトの除去効果は無視し、放射性崩壊のみを考える。

  i. 非常用原子炉建屋内ガス処理系のフィルターのよう素除去効率は設計値を用いて評価を行うものとする。

  j. 非常用原子炉建屋内ガス処理系の容量は設計で定められた値とする。

  k. 事故の評価期間は格納容器内圧が格納容器からの漏洩が無視出来る程度に低下する迄の期間とする。

  l. 原子炉格納容器より原子炉建屋内に漏洩した核分裂生成物は非常用原子炉建屋ガス処理系で処理された後、主排気筒より環境に放出されるものとする。

 iv) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って行うものとする。

(3) 判断基準

 a. 非常用炉心冷却系の設計はその機能と性能が「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」の基準を満たすこと。

 b. 4.1.2(3)、(4)の基準を満たすこと。

 c. 原子炉格納容器内の水素及び酸素の濃度は、事故評価期間中少くともどちらかは次の値未満であること。

   水素 4%
   酸素 5%

 2.3 廃棄物処理設備の破損

  2.3.1 放射性気体廃棄物処理施設の破損事故(PWR)

(1) 事故の想定

 気体廃棄物処理設備中最大の放射能量を有する水素廃ガス減衰タンク又はガス減衰タンクの貯蔵放射能量の全量が放出される事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 水素廃ガス減衰タンク破損事故の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で運転されていたものとする。

  b. 体積制御タンクから連続的に水素パージによって、希ガスが水素廃ガス減衰タンクに貯蔵されるものとする。

  c. 体積制御タンク内の1次冷却材中の希ガス濃度は設計上想定した燃料被覆管欠陥率を基に評価する。

  d. 稼動率は80%を考慮する。

  e. 水素廃ガス減衰タンクが複数基ある場合はこのタンクへの充てん切換えを考慮する。

  f. このタンク1基に蓄積される最大の全希ガス量が補助建家内に放出されると仮定する。

 ii) ガス減衰タンク破損事故の評価は以下の仮定により行なう。

  a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で運転されていたものとする。

  b. 原子炉停止に伴ない1次冷却材の脱ガス操作により、1次冷却材中の希ガスの全量がガス減衰タンクに移行すると仮定する。ガス減衰タンクに移行終了時点迄の放射性崩壊は考慮し得るものとする。

  c. 1次冷却材中の希ガス濃度は設計上想定した燃料被覆管欠陥率に基づく平衡放射能濃度を使用する。

  d. ガス減衰タンク1基に蓄積される最大の全希ガス量が補助建家内に放出されると仮定する。

 iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

 4.1.2(4)の基準を満たすこと。

  2.3.2 放射性気体廃棄物処理施設の破損事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉運転中、気体廃棄物処理系の一部が破損し、減衰ラインにホールドアップされていた希ガス又は空気抽出器排ガス系からの希ガスが放出される事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は、次の仮定により行う。

  a. ホールドアップ塔の第1塔の入口配管又は空気抽出器排ガス系出口配管に破損が生じるとする。

  b. 破損が生じた時点における空気抽出器排ガス系の希ガスの放出率は運転上許容される最大値とする。

  c. 減衰ラインにホールドされていた希ガスの破損個所からの放出量は隔離時間を考慮してきびしくなるように評価する。

  d. 建屋換気系モニタ等により、空気抽出器排ガス系及び破損個所は、操作に要する時間を十分見込んだ時間後に隔離されるものとし、この間の空気抽出器排ガス系よりの希ガスの放出を考慮する。

  e. 環境への放出は希ガス・ホールドアップ塔室換気系の作動の有無を考慮してきびしくなるように評価する。

 ii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

4.1.2(4)の基準を満たすこと。

 2.4 主蒸気管又は蒸気発生器伝熱管の破損

  2.4.1 主蒸気管破断事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉格納容器外で主蒸気管が原子炉運転中に破断し、破断口から冷却材の流出が起こり、核分裂生成物が環境へ放出される事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 解析は、以下の仮定により行う。

  a. 原子炉は定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

  b. 主蒸気管のうち1本が原子炉格納容器外で瞬時に完全破断すると仮定する。

  c. 主蒸気隔離弁は、主蒸気流量大の信号により、設計で定められた時間遅れを持って閉鎖を開始し、最大の設計閉鎖時間で全閉するものとする。

  d. 流出流量は流量制限器により、設計上決まる流量に制限されるとし、また主蒸気隔離弁の部分で臨界流となるまでは、流量制限器で臨界流になるとし、弁の影響を考慮しない。

  e. 事故と同時に、常用所内電源が喪失するとする。したがって再循環ポンプは即時にトリップするものとする。

  f. 解析は、「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」等の要求を満足する計算コードを用いて行う。

 ii) 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 事故発生時の冷却材中の核分裂生成物の濃度は、運転上許容されるⅠ-131の最大濃度に相当する濃度とし、その組成を拡散組成とする。蒸気相のハロゲンの濃度は液相の濃度の1/50とする。

  b. 事故発生後、原子炉圧力の減少に伴う破損燃料からの放出の対象となる核分裂生成物の量はⅠ-131については実測データの平均値に適切な余裕をみた値とし、その他の核分裂生成物についてはその組成を平衡組成として求め、希ガスはよう素の2倍の放出があるものとする。

  c. 主蒸気隔離弁閉鎖前の燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、主蒸気隔離弁閉鎖前の原子炉圧力の低下割合に比例して放出されるものとするが、追加放出された核分裂生成物が主蒸気隔離弁閉鎖までに破断口から放出されることはないものとする。

  d. 主蒸気隔離弁閉鎖後の燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、原子炉圧力の低下に伴い徐々に冷却材中へ放出されるものとする。

  e. 燃料より放出されるよう素のうち有機よう素が占める割合は4%とし、残りの96%は無機よう素とする。

  f. 燃料棒から追加放出される核分裂生成物のうち、希ガスはすべて瞬時気相部に移行するものとする。有機よう素は気相部に移行する迄に、加水分解等により減少するので、1/10が瞬時気相部に達するものとする。有機よう素から分解したよう素、無機よう素、及びよう素以外のハロゲンが気相部にキャリー・オーバーされる割合は2%とする。

  g. 主蒸気隔離弁のうち1個が閉鎖しないものとし、閉鎖した残りの主蒸気隔離弁からは蒸気が漏洩するものとする。閉鎖した主蒸気隔離弁の漏洩率は設計漏洩率とし、その値は圧力、温度に依存して変化するものとする。

  h. 主蒸気隔離弁閉鎖後、残留熱除去系あるいは逃がし安全弁等を通して崩壊熱相当の蒸気がサプレッション・プールに移行するものとする。

この蒸気に含まれる核分裂生成物は被曝には寄与しないものとする。

  i. 事故後原子炉圧力は、原子炉隔離時冷却系及び原子炉停止時冷却系によって除熱し24時間で直線的に大気圧にまで減圧され、主蒸気系からの漏洩は停止するものとする。

  j. タービン建屋内に放出された無機よう素及びよう素以外のハロゲンがタービン建屋内の壁面や床等にフォール・アウト、プレート・アウトされる割合は50%とする。希ガス及び有機よう素に関してはこの効果は考えないものとする。

  k. 主蒸気隔離弁閉鎖前に破断口より放出された核分裂生成物は放出された冷却材とともに環境に放出され放射性雲を形成するものとする。

  l. 主蒸気隔離弁閉鎖後に主蒸気系より漏洩した核分裂生成物は大気中に地上放散されるものとする。

 iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

 a. この事故により新たな燃料破損が生じないこと。

 b. 4.1.2(1)、(4)の基準を満たすこと。

  2.4.2 主蒸気管破断事故(PWR)

(1) 事故の想定

 蒸気発生器とタービンの間の主蒸気管の破断が起き、蒸気が流出する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 解析は以下の仮定により行う。

  a. 減速材密度係数が大きく、1次冷却系の冷却による炉心への影響が最も大きいサイクル末期について解析を行なう。

  b. 原子炉の初期条件は高温停止状態とし、反応度停止余裕は原子炉スクラム時に最大の反応度効果をもつ制御棒クラスタ1本が完全引抜き位置で固着したときの値とする。

  c. 主蒸気管の破断箇所によって事故現象の様相が異なる場合には、その異なるケースについて解析を行うこと。解析では完全破断を仮定し、また、外部電源はある場合とない場合を想定する。

  d. 減速材密度係数及びドップラ係数はそれぞれ減速材密度及び出力の関数として考慮する。

  e. 蒸気発生器での完全な気水分離を仮定する。

(3) 判断基準

 4.1.2(1)、(2)の基準を満たすこと。

  2.4.3 蒸気発生器伝熱管破損事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉の出力運転中に蒸気発生器伝熱管の破損により、1次冷却材の漏洩が最大となるよう伝熱管1本の両端完全破断の事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 解析は以下の仮定により行う。

  a. 初期条件は漏洩量が大きくなるようにし、原子炉出力は、定格出力に余裕をみた出力で、原子炉圧力は定常運転時の最高圧力とする。

  b. 蒸気発生器伝熱管は、1本が瞬時に完全両端破断を起すものとする。

  c. 外部電源はある場合と無い場合とを想定する。

  d. 事故終結のための運転員操作は、操作に要する時間を十分見込んで評価するものとする。

 ii) 事故時の放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行なう。

  a. 原子炉出力は定格出力に余裕をみた出力で長期間運転していたものとする。

  b. 2次系へ流出する放射能源としては、次の2通りを仮定する。

   b-1) 設計上想定した燃料被覆管欠陥率を用いて計算した通常運転中に1次冷却材中に存在する核分裂生成物の希ガス及びよう素。

   b-2) b-1)項の損傷燃料被覆管から新たに1次冷却材中に追加放出されるとする核分裂生成物の希ガス及びよう素。この追加放出量は事故後1次冷却系の減圧に比例して1次冷却系に放出されるとする。

  c. この1次冷却材内核分裂生成物のうち、蒸気発生器を隔離するまでの間に1次冷却系から2次系へ流出する放射能量は1次冷却材中の濃度に依存するものとする。

  d. 2次系に流出して来た希ガスについては、全量が大気中へ放出されるものとする。

  e. 2次系に流出してきたよう素については気液分配係数100で蒸気と共に大気に放出されるものとする。

  f. 破損蒸気発生器隔離後2次系弁からの蒸気漏洩により、よう素が大気に放出されるものとする。弁からの蒸気漏洩率は設計漏洩率とし、以後は隔離後24時間で直線的に大気圧まで減圧する2次系圧力に対応して弁からの蒸気の漏洩があるものとする。

 iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

 a. この事故により新たな燃料破損が生じないこと。

 b. 4.1.2(4)の基準を満たすこと。

 2.5 燃料取扱いに伴う事故

  2.5.1 燃料取扱事故(PWR)

(1) 事故の想定

 燃料取替作業中、燃料取扱装置の機械的故障によって、取扱い中の燃料集合体が使用済燃料ピットに落下し、燃料集合体の機械的破損を生じる事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 燃料取扱事故の評価は次の仮定により行う。

  a. 燃料交換に際し、使用済燃料ピット内で取扱中の燃料集合体1体が想定される最高の位置から落下したとする。

  b. 落下による燃料の破損は実験的裏付けがなければ最大限の破損を見込む計算によること。

 ii) 事故時の放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 燃料ギャップ内の核分裂生成物の量は原子炉が定格出力に余裕をみた出力で長時間運転された、取替炉心のサイクル末期の最大出力集合体について行う。

  b. 燃料取替作業は、原子炉停止後適切な冷却及び所要作業期間後に行われるものとし、原子炉停止後の放射能の減衰は考えてよい。

  c. 破損した燃料棒のギャップ内の核分裂生成物の全量が使用済燃料ピット水中に放出されるものとする。

  d. ピット水中に放出された希ガスは全量がピット水中外に放出されるものとする。

  e. ピット水中に放出されたよう素の水中での除染係数は500とする。

  f. ピット建家雰囲気に対しよう素除去系がある場合は、同系のフィルタのよう素除去効率は設計値とする。

 iii) 環境に放出された放射性物質の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

4.1.2(4)の基準を満たすこと。

  2.5.2 燃料取扱事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉内の燃料の取替作業中、燃料つかみ機によって燃料集合体を運搬している際に、つかみ機の故障、破損等によりその燃料集合体が落下し、炉心内の燃料集合体上部に衝突して燃料棒の機械的破損を生じる事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 燃料取扱事故の評価は次の仮定により行う。

  a. 燃料取替作業に際し炉心上で取扱中の燃料集合体1体が、想定される最高の位置から炉心上に落下したとする。

  b. 落下による燃料の破損は実験的裏付けがなければ最大限の破損を見込む計算によること。

 ii) 事故時の放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 燃料ギャップ内の核分裂生成物の量は原子炉が定格出力に余裕をみた出力で長期間運転された取替炉心のサイクル末期の最大出力集合体について行う。

  b. 燃料取替作業は原子炉停止後適切な冷却及び所要作業期間後に行われるものとし、原子炉停止後の放射能の減衰は考えてよい。

  c. 破損した燃料のギャップ内の核分裂生成物の全量が水中に放出されるものとする。

  d. 放出された希ガスは全量がプール水中から空気中へ放出されるものとする。

  e. プール水中へ放出されたよう素の水中での除染係数は500とする。

  f. 原子炉建屋内放射能高の信号等により非常用原子炉建屋内ガス処理系が作動するものとする。

  g. 非常用原子炉建屋内ガス処理系フィルタのよう素除去効率は設計上許される最小の効率とする。

  h. 非常用原子炉建屋内ガス処理系の容量は設計で定められた値とする。

  i. 原子炉建屋内に放出された核分裂生成物は非常用原子炉建屋内ガス処理系で処理された後排気筒から環境に放出されるものとする。

 iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行うものとする。

(3) 判断基準

4.1.2(4)の基準を満たすこと。

 2.6 制御棒の抜け出し等による事故

  2.6.1 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉運転中に制御棒クラスタ駆動装置圧力ハウジングが破断し、制御棒クラスタが炉心から飛び出し、急激な反応度添加と厳しい出力分布の歪をもたらす事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 解析は以下の仮定により行う。

  a. 原子炉の初期条件は、最も厳しい燃料エンタルピを与えるような冷却材温度、原子炉圧力及び出力分布等を選定しなければならない。

 さらに、被覆が破損する燃料棒本数が最大となる場合についても解析を行わなければならない。

  b. 全制御棒クラスタバンクは炉心出力状態に応じて許容される最大挿入位置にあり、そのうち、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が事故想定上考え得る最大速度で飛び出すとする。

  c. 原子炉のスクラムは、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が完全引抜位置に固着して挿入されないものとし、かつ、スクラム遅れ時間及びスクラム速度は結果がきびしくなる値を採用する。

  d. ドップラ係数及び減速材反応度係数は結果がきびしくなる値を採用する。

  e. 燃料挙動解析にあたっては、1ドル以上の反応度投入がある場合には燃料エンタルピ(ペレット半径方向平均)が非断熱計算で180cal/gUO2(燃料棒内圧が冷却材圧力を下廻るか、または上廻ったとしても2.5㎏/cm2以内の場合)、同じく120cal/gUO2(燃料棒内圧が冷却材圧力を2.5㎏/cm2以上上廻る場合)をそれぞれ超える燃料棒クラスタの被覆は破損したものとする。

  f. 圧力サージ計算は、燃料から冷却材への熱伝達、金属-水反応、冷却材中での熱発生に基づいて行う。なお制御棒駆動装置圧力ハウジングの破損による減圧効果は見込まない。

 ii) 事故時の放射性物質の移行と放出量の評価は2.2.1(2)iii)と同様の仮定により行う。

(3) 判断基準

 a. 事故時の燃料内出力パルスのうちピーク出力部エンタルピ(ペレット半径方向平均)の最大値は断熱計算で230cal/gUO2を超えないこと。

 b. 燃料エンタルピ(ペレット半径方向平均)の最大値は禁断熱計算で230cal/gUO2を超えないこと。

 c. 4.1.2(2)、(4)の基準を満たすこと。

  2.6.2 制御棒落下事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉が臨界もしくは、臨界近傍にある際に制御棒駆動軸から分離した制御棒が炉心から落下し、急激な反応度添加と厳しい出力分布の歪をもたらす事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 燃料棒の熱的な破損の評価は以下の点定により行う。

  a. 原子炉の初期条件は、最も厳しい燃料エンタルピを与えるような冷却材温度、原子炉圧力及び出力分布等を選定しなければならない。

 さらに、被覆が破損する燃料棒本数が最大となる場合についても解析を行わなければならない。

  b. 最大反応度効果を有する制御棒1本が最大挿入位置から事故想定上考え得る最大速度で落下するとする。

  c. 原子炉のスクラムは、最大反応度効果を有する制御棒1本が完全引抜位置に固着して挿入されないものとし、かつ、スクラム漏れ時間及びスクラム速度は結果がきびしくなる値を採用する。

  d. ドップラ係数及び減速材密度係数は結果がきびしくなる値を採用する。

  e. 燃料挙動解析にあたっては、1ドル以上の反応度投入がある場合には燃料エンタルピ(ペレット半径方向平均)が非断熱計算で180cal/gUO2(燃料棒内圧が冷却材圧力を下廻るか、または上廻ったとしても2.5㎏/cm2以内の場合)、同じく120cal/gUO2(燃料棒内圧が冷却材圧力を2.5㎏/cm2以上上廻る場合)をそれぞれ超える燃料棒の被覆は破損したものとする。

 ii) 破損した燃料棒からの放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

  a. 原子炉が高温待機状態にある時に制御棒落下事故が発生したとする場合は、原子炉は事故発生の30分前まで定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

  b. 原子炉が冷温状態にある時に制御棒落下事故が発生したとする場合は、原子炉は事故発生の24時間前まで定格出力に余裕をみた出力で長期間運転していたものとする。

  c. 破損した燃料棒を有する燃料集合体に含まれる核分裂生成物の量は最大出力の集合体に含まれる量と同じであるとする。

  d. 破損した燃料棒からは、燃料キャップ中の核分裂生成物の全量が冷却材中に放出されるものとする。

  e. 破損した燃料棒から放出された希ガスはすべて瞬時気相部に移行するものとする。

  f. 破損した燃料棒から放出されたよう素の4%は有機状であるとし、気相部に移行する迄に、加水分解等により減少するので1/10が瞬時気相部に達するものとする。有機よう素から分解したよう素及び無機よう素が気相部にキャリー・オーバーする割合は2%とする。

  g. 主蒸気隔離弁は設計で定められた時間遅れを持って閉鎖を開始し、最大の設計閉鎖時間で全閉するものとする。

  h. 復水器へ移行した核分裂生成物のうち無機よう素の50%はフォール・アウト、プレート・アウトするものとし、浮遊している核分裂生成物は、復水器及びタービンの自由空間に対し0.5%/日の漏洩率でタービン建屋内へ漏洩するものとする。

  i. タービン建屋内に漏洩した核分裂生成物は、タービン建屋内換気空調系が作動する場合はこれにより主排気筒から環境に放出されるものとする。タービン建屋内換気空調系もしくはこれに代わる設備がない場合はタービン建屋からの漏洩を考えるものとする。

 iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って評価を行なうものとする。

(3) 判断基準

 a. 事故時の燃料内出力パルスのうちピーク出力部エンタルピ(ペレット半径方向平均)の最大値は断熱計算で230cal/gUO2を超えないこと。

 b. 燃料エンタルピ(ペレット半径方向平均)の最大値は非断熱計算で230cal/gUO2を超えないこと。

 c. 4.1.2(2)、(4)の基準を満たすこと。

Ⅱ 重大事故及び仮想事故の具体的な解析

1 冷却材喪失事故

 1.1 1次冷却材喪失事故(PWR)

(1) 事故の想定

 1次冷却材喪失事故のうち、事故の程度が最大となる1次冷却材主配管が瞬時に完全破断する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 事故時の放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

重大事故の場合

 a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

 b. 事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蓄積量に対し希ガス2%、よう素1%の割合とする。

 c. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち有機よう素が占める割合は10%とし、残りの90%は無機よう素とする。

 d. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち無機よう素については50%が原子炉格納容器や同容器内の機器等に付着し、漏洩に寄与しないものとする。有機よう素・希ガスについてはこの効果は考えない。

 e. 原子炉格納容器スプレイ水による無機よう素の除去効率は、実験に基づいて評価された値に余裕を持った値とする。例えば設計により評価された等価半減期が50秒以下の場合において等価半減期を100秒と評価するのは妥当とする。有機よう素・希ガスについては、この効果は考えない。

 f. 希ガス及びよう素については、原子炉格納容器からの漏洩を考慮する。漏洩率は、事故後24時間は事故時の最大格納容器圧力に対応する漏洩率を下まわらない値を仮定し、24時間以降は最初の24時間に仮定した漏洩率の50%とする。

 g. 原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、残りの3%はアニュラス部外から生ずるものとする。

 h. アニュラス空気再循環設備によう素用フィルタが設備されている場合は、よう素除去効率は設計値に余裕を持った値とする。例えば、設計よう素除去効率が95%以上の場合に於て、よう素除去効率を90%と評価するのは妥当とする。但し、アニュラス部の負圧達成迄の間は根拠が明らかでない限りよう素フィルタのよう素除去効果を考慮しないものとする。

 また、負圧達成後もアニュラス排気風量の切換までは、再循環は考慮しないこと。

 i. 事故期間中再循環系からは、補助建家へ厳しく見積った漏洩率による漏洩があるものとする。

 j. 再循環水中の放射能量は事故直後、よう素の炉心内蓄積量の1%が溶解したものとする。

 k. 再循環系から補助建家に漏洩したよう素の気相への移行率は5%とし、補助建家内でのプレートアウト等によるよう素沈着率を50%とする。

 l. 再循環系が設置される補助建家内換気系によう素用フィルタが設備されている場合は、その除去効率は設計値に余裕を持った値とする。例えば設計よう素除去効率95%以上の場合によう素除去効率90%とすることは妥当とする。

 m. 原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については、格納容器等の遮蔽を考慮し評価する。なお直接線量およびスカイシャイン線量の評価にあっては原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量の炉心内蓄積量に対する割合は希ガス2%、ハロゲン1%、その他0.02%と仮定する。

 n. 事故の評価期間は格納容器内圧が格納容器からの漏洩が無視出来る程度に低下する迄の期間とするが、最低30日間とする。

 o. 環境への放射性物質の放出は排気筒より行われるものとする。

仮想事故の場合

 放射性物質の移行と放出量の評価における仮定は、以下の項目を除き重大事故と同様とする。

 b. 事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量の炉心内蓄積量に対する割合は希ガス100%、よう素50%と仮定する。

 j. 再循環水中の放射能量は事故直後、よう素の炉心内蓄積量の50%が溶解したものとする。

 m. 原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については、格納容器等の遮蔽を考慮し評価する。なお、直接線量およびスカイシャイン線量の評価にあたっては原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量の炉心内蓄積量に対する割合は、希ガス100%、ハロゲン50%、その他1%と仮定する。

  ii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って行うものとする。

(3) 判断基準

 「原子炉立地審査指針」による。

 1.2 冷却材喪失事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉圧力容器に接続されている再循環系配管の1本が原子炉運転中に瞬時に完全破断し、原子炉圧力容器から冷却材が喪失する事故を想定する。

(2) 事故の評価

 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

重大事故の場合

 a. 原子炉は定格出力に余裕をみた出力で長期間運転していたものとする。

 b. 事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蓄積量に対し、希ガス2%、よう素1%の割合とする。

 c. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち有機よう素が占める割合は10%とし、残りの90%は無機よう素とする。

 d. 原子炉格納容器内に放出されるよう素のうち無機よう素については、50%が原子炉格納容器や同容器内の機器等に付着し、原子炉格納容器からの漏洩に寄与しないものとする。有機よう素、希ガスについては、この効果は考えない。

 e. 原子炉格納容器内に放出された核分裂生成物がサプレッション・プール水に溶解する割合は、無機よう素については分配係数で示して100とする。有機よう素、希ガスについては、この効果は考えない。

 f. 原子炉建屋への原子炉格納容器内雰囲気の漏洩率は設計上定められた最大値とする。

 g. 平常運転時に作動している原子炉建屋換気空調系は、原子炉水位低、ドライウェル圧力高、あるいは原子炉建屋放射能高の信号により非常用原子炉建屋内ガス処理系に切換えられるものとする。原子炉建屋におけるフォール・アウト、プレート・アウトの除去効果は無視し、自然崩壊のみを考える。

 h. 非常用原子炉建屋内ガス処理系のフィルタのよう素除去効率は設計値に余裕を持った値とする。例えば、設計よう素除去効率が99%以上の場合において、よう素除去効率95%とすることは妥当とする。

 i. 非常用原子炉建屋内ガス処理系の容量は設計で定められた値とする。

 j. 原子炉格納容器より原子炉建屋内に漏洩した核分裂生成物は非常用原子炉建屋内ガス処理系で処理された後、排気筒より環境に放出されるものとする。

 k. 事故の評価期間は格納容器内圧が格納容器からの漏洩が無視出来る程度に低下する迄の期間とするが、最低30日間とする。

仮想事故の場合

 放射性物質の移行と放出量の評価における仮定は以下の項目を除き重大事故と同様とする。

 b. 事故後、原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量の炉心内蓄積量に対する割合は希ガス100%、よう素50%と仮定する。

  ii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散評価については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って行うものとする。

(3) 判断基準

「原子炉立地審査指針」による。

2 蒸気発生器伝熱管破損事故(PWR)

(1) 事故の想定

 原子炉の出力運転中に蒸気発生器伝熱管1本が完全両端破断を起した事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 蒸気発生器伝熱管破損による放射性物質の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

重大事故の場合

 a. 原子炉は、定格出力に余裕をみた出力で長期間運転されていたものとする。

 b. 2次系へ流出する放射能源としては2通りを仮定する。

  b-1) 設計上想定した燃料被覆管欠陥率を用いて計算した通常運転中に1次冷却材中に存在する核分裂生成物の希ガス及びよう素。

  b-2) b-1)項の損傷燃料被覆管から新たに1次冷却材中に追加放出されるとする核分裂生成物の希ガス及びよう素。この追加放出量は事故後1次冷却系の減圧に比例して1次冷却系に放出されるとする。

 c. この1次冷却材内核分裂生成物のうち蒸気発生器を隔離するまでの間に、1次冷却系から2次系へ流出する放射能量は1次冷却材濃度に依存するものとする。

 d. 2次系に流出してきた希ガスについては全量が大気中へ放出されるものとする。

 e. 2次系に流出してきたよう素については有機よう素及び無機よう素の割合は有機よう素1%無機よう素99%とする。有機よう素は全量が大気中に放出され無機よう素の放出については気液分配係数100で蒸気と共に大気中に放出されるものとする。

 f. 破損蒸気発生器隔離後は放射能の大気放出はないと考えられるが、評価上は2次側弁からの蒸気漏洩により無機よう素が大気へ放出されるものとする。弁からの蒸気漏洩率は設計値に余裕をみた値とし、以後は隔離後24時間で直線的に大気圧まで減圧する2次系圧力に対応して弁からの蒸気の漏洩があるものとする。

仮想事故の場合

 放射性物質の移行と放出量の評価における仮定は、以下の項目を除き重大事故と同様とする。

 b. 2次系へ流出する放射能源としては次の2通りを仮定する。

  b-1) 設計上想定した燃料被覆管欠陥率を用いて計算した通常運転中に1次冷却材中に存在する核分裂生成物の希ガス及びよう素。

  b-2) b-1)項の損傷燃料被覆管から新たに1次冷却材中への追加放出に寄与する核分裂生成物の希ガス及びよう素。この追加放出は事故後すぐに1次冷却系に放出されるとする。c.この1次冷却材内核分裂生成物のうち、蒸気発生器を隔離するまでの間に1次冷却系から2次系へ流出する量はその時流出する1次冷却材量の全保有水量に対する割合と同じ割合であるとする。

 f. 破損蒸気発生器隔離後は、2次系弁からの蒸気漏洩により無機よう素が大気に流出されるものとする。弁からの蒸気漏洩率は設計値に余裕をみた値で30日間続くものとする。漏洩期間中の放射性崩壊は考慮してよい。

  ii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って行うものとする。

(3) 判断基準

 「原子炉立地審査指針」による。

3 主蒸気管破断事故(BWR)

(1) 事故の想定

 原子炉格納容器外で主蒸気管1本が原子炉運転中に瞬時に完全破断し、破断口から冷却材の流出が起こり、核分裂生成物が環境へ放出される事故を想定する。

(2) 事故の評価

 i) 事故経過の解析は次の仮定により行う。

  a. 原子炉は定格出力に余裕をみた出力で長期間運転していたものとする。

  b. 主蒸気管のうち1本が原子炉格納容器外で瞬時に完全破断すると仮定する。

  c. 主蒸気隔離弁は、主蒸気流量大の信号により、設計で定められた時間遅れを持って閉鎖開始し、最大の設計閉鎖時間で全閉するものとする。

  d. 流出流量制限器により、設計上決まる流量に制限されるとし、また主蒸気隔離弁の部分で臨界流となるまでは、流量制限器で臨界流になるとし、弁の影響を考慮しない。

  e. 事故と同時に、常用所内電源が喪失するとする。したがって再循環ポンプは即時にトリップするものとする。

 ii) 事故時の核分裂生成物の移行と放出量の評価は次の仮定により行う。

重大事故の場合

 a. 事故発生時の冷却材中の核分裂生成物の濃度は、運転上許容されるⅠ-131の最大濃度に相当する濃度とし、その組成を拡散組成とする。蒸気相のハロゲンの濃度は液相の濃度の1/50とする。

 b. 事故発生後、原子炉圧力の減少に伴う破損燃料からの放出の対象となる核分裂生成物の量は、Ⅰ-131については実測データに基づく値に安全余裕を見込んだ値を使用し、その他の核分裂生成物についてはその組成を平衡組成として求め、希ガスはよう素の2倍の放出があるものとする。

 c. 主蒸気隔離弁閉鎖前の燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、主蒸気隔離弁閉鎖前の原子炉圧力の低下割合に比例して放出されるものとし、追加放出された核分裂生成物の1%が破断口から放出されるものとする。

 d. 主蒸気隔離弁閉鎖後の燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、原子炉圧力の低下に伴い徐々に冷却材中へ放出されるものとする。

 e. 燃料より放出されるよう素のうち有機よう素が占める割合は10%とし、残りの90%は無機よう素とする。

 f. 燃料棒から追加放出された核分裂生成物のうち、希ガスはすべて気相部へ移行するものとする。有機よう素は気相部に移行するまでに、加水分解等により減少するので、1/10が瞬時気相部に達するものとする。有機よう素から分解したよう素、無機よう素、及びよう素以外のハロゲンが気相部にキャリー・オーバーされる割合は2%とする。

 g. 主蒸気隔離弁のうち1個が閉鎖しないものとし、閉鎖した残りの主蒸気隔離弁からは蒸気が漏洩するものとする。閉鎖した主蒸気隔離弁の漏洩率は設計値に余裕をみた値とし、その値は圧力、温度に依存して変化するものとする。

 h. 主蒸気隔離弁閉鎖後、残留熱除去系あるいは逃がし安全弁等を通して崩壊熱相当の蒸気がサプレッション・プールに移行するものとする。この蒸気に含まれる核分裂生成物は被曝には寄与しないものとする。

 i. 事故後原子炉圧力は、原子炉隔離時冷却系及び原子炉停止時冷却系によって除熱し24時間で直線的に大気圧にまで減圧され、主蒸気系からの漏洩は停止するものとする。

 j. 主蒸気隔離弁閉鎖前に破断口より放出された核分裂生成物は大量の冷却材とともに環境に放出され放射性雲を形成するものとする。

 k. 主蒸気隔離弁閉鎖後に主蒸気系より漏洩した核分裂生成物は大気中に地上放散されるものとする。

仮想事故の場合

 放射性物質の移行の放出量の評価における仮定は、以下の項目を除き重大事故と同様とする。

 d. 主蒸気隔離弁閉鎖後の燃料棒からの核分裂生成物の追加放出に関しては、主蒸気隔離弁閉鎖直後にこれらすべての核分裂生成物が瞬時に冷却材中へ放出されるものとする。

 g. 主蒸気隔離弁のうち1個が閉鎖しないものとし、閉鎖した残りの主蒸気隔離弁からは蒸気が漏洩するものとする。閉鎖した主蒸気隔離弁の漏洩率は、設計値に余裕をみた値とし、この漏洩率は一定とする。

 h. 事故後原子炉圧力は長時間、逃がし弁設定圧に保たれるものとし、主蒸気系からの漏洩は無限時間続くものとする。

  iii) 環境に放出された放射性物質の大気中の拡散評価については「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」に従って行うものとする。

(3) 判断基準

 「原子炉立地審査指針」による。


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