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中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)について(答申) 第53原委第440号
昭和53年7月28日
内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
昭和53年1月17日付け53安(原規)第7号(昭和53年6月19日付け、53安(原規)第194号及び昭和53年7月20日付け、53安(原規)第226号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 記 ① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。 ② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。 (別添)
昭和53年7月21日
原子力委員会
委員長 熊谷太三郎 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について
当審査会は昭和53年1月17日付け53原委第23号(昭和53年6月19日付け53原委第361号及び昭和53年7月20日付け53原委第431号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。 Ⅰ 審査結果 中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉設置変更(原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「島根原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和53年1月10日付け申請及び昭和53年6月13日付けと昭和53年7月14日付け一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。 Ⅱ 変更内容 1 燃料集合体の変更
第6回燃料取替時に従来の8×8型燃料集合体(以下タイプⅠ燃料集合体という)とともに仕様を一部変更した8×8型燃料集合体(以下タイプⅡ燃料集合体という)を最大8体装荷する。 (1)ウラン235平均濃縮度
タイプⅠ燃料集合体 約2.6wt%
タイプⅡ燃料集合体 約2.0wt%
(上部約2.1wt%、下部約1.9wt%)
(2)燃料棒外径
タイプⅠ燃料集合体 約1.3㎝
タイプⅡ燃料集合体 約1.2㎝
(3)燃料集合体当りの燃料棒の本数
タイプⅠ燃料集合体 63
タイプⅡ燃料集合体 62
2 原子炉格納施設の変更
原子炉格納施設に窒素ガス注入方式による可燃料ガス濃度制御系(注入容量約40Nm3/h)を設置する。 3 使用済燃料貯蔵設備の変更
使用済燃料貯蔵設備の貯蔵能力を約290%炉心分に変更する(変更前は約190%炉心分)
Ⅲ 審査内容 1 燃料集合体の変更
第6回燃料取替時にタイプⅡ燃料集合体を最大8体装荷することに伴い、以下の検討を行った。 なお、タイプⅡ燃料集合体はタイプⅠ燃料集合体等と同様に従来の設計方針に基づいて構造及び性能の設計がなされている。 (1)機械設計
タイプⅠ燃料集合体とタイプⅡ燃料集合体の構造上の主な相違は、タイプⅡ燃料集合体では燃料棒の被覆管外径が約2%減少していることである。これに伴い、表面熱流束及びペレット温度は若干増加する場合もあるが、被覆管の半径に対する肉厚の比も増加しており、被覆管にかかる応力はほとんど変らない。 また、そのため、燃料寿命中に予想される出力変動による累積疲労に対し、タイプⅠ燃料集合体と同様十分な疲労寿命を有している。 タイプⅡ燃料集合体では、ペレットと被覆管の力学的相互作用に起因する被覆管の破損を防止するため、タイプⅠ燃料集合体と同様に、ペレットの直径に対する長さの比の減少、チャンファ付きペレットの採用、延性の大きい被覆管材の採用等設計上の考慮が払われており、更に、タイプⅡ燃料集合体においては、ペレット直径に対するギャップの比がタイプⅠ燃料集合体より増加しているので、相互作用は緩和される傾向にある。 タイプⅡ燃料集合体では上下で燃料濃縮度が異なるため濃縮度境界面において出力差が生じるが、これは既に使用実績のあるスペーサ支持用燃料棒及び部分的にガドリニアの入った燃料棒における出力差よりも小さく、これにより被覆管に生じる応力も小さい。したがって、タイプⅡ燃料集合体の濃縮度境界については特に問題ない。 その他、タイプⅡ燃料集合体の燃料棒の曲がり、冷却材の流れによる微小振動、スペーサによる支持方法等についても検討したが、被覆管のフレッティング腐食、燃料集合体の寸法、形状の安定性等はタイプⅠ燃料集合体と大差ない。 以上のことから、本変更に係る機械設計は問題ないと判断する。 (2)核設計
タイプⅡ燃料集合体は、タイプⅠ燃料集合体に比べて、集合体平均の濃縮度が低く、燃料集合体の無限増倍率が燃焼のほぼ全期間にわたって低くなっている。このため、タイプⅡ燃料集合体を装荷した炉心の反応度停止余裕については問題ない。 タイプⅡ燃料集合体は、濃縮度を上下2領域とし、上部の濃縮度を下部より高くすることにより軸方向出力分布を平坦化している。しかし、炉心内においては、燃料集合体に隣接した制御棒の挿入状態や周囲の燃料集合体の燃焼履歴の相違により各燃料集合体の出力分布は異なっており、これらの差に比べてタイプⅡ燃料集合体を最大8体装荷したことによる平坦化の効果は小さく有意なものではない。 スクラム反応度曲線は主として炉内の出力分布と制御棒の位置との相対関係によって決まるが、前述のとおりタイプⅡ燃料集合体の装荷による炉心出力分布に及ぼす影響は小さいため、スクラム反応度曲線はこれによっても変らない。 タイプⅡ燃料集合体では、燃料集合体横断面でのボイド発生領域に対するボイド非発生領域の面積比が増加するため、ボイド係数の絶対値は若干減少する。しかしながら、炉心のボイド係数は、タイプⅡ燃料集合体の装荷体数が少ないので、これを装荷しない場合とほとんど変らない。 さらに、タイプⅡ燃料集合体はタイプⅠ燃料集合体に比べてドップラ係数の絶対値は小さくなる傾向にあるが、その差は無視できる程度である。 以上のことから、本変更に係る核設計は問題ないと判断する。 (3)熱水力設計
タイプⅡ燃料集合体の流路断面積はタイプⅠ燃料集合体より約2%広くなっているため、タイプⅡ燃料集合体への冷却材流量はわずかに増加する。これにより、タイプⅠ燃料集合体の冷却材流量はわずか減少する傾向にあるが、タイプⅡ燃料集合体の装荷体数が少ないため、この影響は無視できる程度である。 タイプⅡ燃料集合体の熱水力的な限界出力の評価はタイプⅠ燃料集合体と同じ手法で行われている。この評価の妥当性については、タイプⅠ燃料集合体の場合と同様、試験によって確認されている。 タイプⅡ燃料集合体は濃縮度が低く、反応度価値はタイプⅠ燃料集合体よりも低いため、タイプⅡ燃料集合体の集合体出力はタイプⅠ燃料集合体より大きくならず通常運転時の線出力密度及び限界出力比はタイプⅠ燃料集合体より厳しくならない。 また、タイプⅡ燃料集合体の装荷体数が少ないため、タイプⅠ燃料集合体の集合体出力をはじめ通常運転時の線出力密度及び限界出力比に対する影響は無視できる程度である。 以上のことから、本変更に係る熱水力設計は問題ないと判断する。 (4)その他
従来の燃料集合体とタイプⅡ燃料集合体を混合装荷した炉心の安定性に影響する熱水力特性、すなわち、燃料集合体の圧損特性、燃料棒の熱的な時定数等を検討した。 熱水力特性のタイプⅠ燃料集合体とタイプⅡ燃料集合体との相違はすでに混在使用の実績のあるタイプⅠ燃料集合体と7×7型燃料集合体との相違に比べてかなり小さく、タイプⅠ燃料集合体に加えてタイプⅡ燃料集合体を装荷した炉心の安定性は従来の運転範囲に十分包含されるものである。 また、運転時の異常な過渡変化時及び事故時の特性についても検討したが、線出力密度の最大値及び限界出力比の最小値はタイプⅠ燃料集合体に生じ、その値は従来の評価結果と変らない。 以上のことから、本変更に係る混在炉心の特性は問題ないと判断する。 2 原子炉格納施設の変更
本変更は、原子炉格納容器内の可燃性ガスの発生源として冷却材喪失事故後における非常用冷却水の放射線分解をも考慮して、これら可燃性ガス濃度を余裕をもって制御するため、可燃性ガス濃度制御系を設置するものである。 本系統は、冷却材喪失事故が発生した場合に、原子炉格納容器内雰囲気中の水素ガス濃度を4vol%以下、または、酸素ガス濃度を5vol%以下に維持できるように設計される。 水素または酸素ガスの燃焼限界に関する各種の実験結果から、水素または酸素ガス濃度のいずれか一方が前述の制限値以下に維持されるなら、燃焼反応は生じないことが確認されている。 本系統は、窒素ガス発生装置、窒素ガス注入ラインおよびパージ・ラインから構成されており、事故後、時間経過に応じ、あらかじめ定めた流量で窒素ガスを原子炉格納容器内に注入し(プログラム注入方式)、可燃性ガスの濃度を希釈、制御するものである。また、非常用所内電源系のみの運転下、または、外部電源系のみの運転下で単一故障を仮定しても、その機能を失うことのない設計となっている。 本系統の容量を定めるにあたっては、十分な安全余裕をもった前提条件が用いられている。すなわち、水の放射線吸収に対する水素ガス及び酸素ガスの発生割合としては、G(H2)=0.5(分子/100eV)及びG(O2)=0.25(分子/100eV)が用いられているが、この値は、水の放射線分解に関する各種実験結果からみて、十分な安全余裕をもったものである。また、ジルコニウム-水反応による水素ガスの発生量についても厳しい仮定が用いられている。 これらの条件を基に冷却材喪失事故後における原子炉格納容器内可燃性ガス濃度の時間変化を検討した結果、本系統の容量は妥当であり、本系統により原子炉格納容器内の可燃性ガス濃度を制限値以下に十分抑制できると判断する。 また、原子炉格納容器内に窒素ガスを注入するに伴って原子炉格納容器内圧が徐々に上昇するが、原子炉格納容器設計圧力の1/2に達すると、パージ・ラインから非常用ガス処理系を経て排気筒から排気することによって圧力上昇を抑制することができる。 窒素ガス注入に伴う圧力上昇は緩やかであり、パージ開始までには原子炉格納容器内の核分裂生成物の放射能は大幅に減少しており、パージに伴う大気への放出放射能の増加は少ない(Ⅲ.4「災害評価」参照)。 なお、原子炉格納容器内可燃性ガス濃度がプログラム注入方式で予想している濃度よりも低いことが確認される場合には、窒素ガスの注入量を減ずることによりパージ開始時間を遅らせ、前述のパージに伴う大気への放出放射能の増加を小さくすることもできる。 3 使用済燃料貯蔵設備の変更
本変更は、従来からの燃料プールの基本的な設計方針を変えない範囲で、貯蔵ラックとしてステンレス鋼製の30体貯蔵ラック及び80体貯蔵ラックを用いて、使用済燃料貯蔵設備の貯蔵能力を約190%炉心分から約290%炉心分に増大させるものである。 貯蔵ラックは、貯蔵燃料の臨界を防止するために、適切な燃料間距離をとるとともに、貯蔵ラックの材料を従来用いていたアルミニウムに比べて熱中性子吸収断面積が十数倍大きいステンレス鋼とすることになっており、計算上通常状態で新燃料を貯蔵した場合を仮定しても実効増倍率は0.90以下に、また、燃料間距離が貯蔵ラック内で最小になる貯蔵状態を仮定しても実効増倍率は0.95以下に保たれる。 燃料プール水は、既設の冷却系によって通常状態での貯蔵量が最大(約190%炉心分)の場合52℃以下に保たれ、更に、100%炉心分を追加した場合でも残留熱除去系を併用することによって十分冷却される。 以上のことから、本変更は問題ないと判断する。 4 災害評価
今回の原子炉格納施設の変更に伴い、「原子炉立地審査指針」に基づく重大事故及び仮想事故として冷却材喪失事故を想定した解析が行われている。 解析にあたっては「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」、「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」等の新しい指針等がとり入れられている。 解析結果によれば、重大事故において排気筒から大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約1.1×102Ci(I-132換算値、以下同じ)、希ガス約3.1×103Ci(γ線実効エネルギー0.5MeV換算値、以下同じ)であり、このうち、事故後70日目以降になされる原子炉格納容器からのパージによって付加される量は、よう素約0.2Ci、希ガス約9Ciである。 また、仮想事故において排気筒から大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約1.1×104Ci、希ガス約3.1×105Ciである。このうち、事故後40日目以降になされる原子炉格納容器からのパージによって付加される量は、よう素約3.9×102Ci、希ガス約2.9×103Ciである。 敷地境界における最大被曝線量は、重大事故の場合甲状腺(小児)に対し約1.2rem、全身に対しγ線約3.7mrem、仮想事故の場合甲状腺(成人)に対し約29rem、全身に対しγ線約0.37remとなる。以上の被曝線量はいずれも「原子炉立地審査指針」に示された目やすとしての線量を十分下回っている。 また、国民遺伝線量の見地から、仮想事故の際の全身被曝線量の積算値を算出している。これによれば、全身被曝線量に積算値は約6.9万人・remであり、国民遺伝線量の見地から目やすとして示されている参考値を十分下回っている。 Ⅳ 審査経過 本審査会は、昭和53年1月23日第166回審査会において次の委員よりなる第131部会を設置した。
同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和53年2月6日第1回会合を開き、審査方針等の検討を行った。以後、部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和53年7月14日の部会において部会報告書を決定し、同7月21日の第172回審査会において本報告書を決定した。 | ||||||||||||||||||
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