ラジオアイソトープおよび放射線の利用は、その研究開発の進展に伴い、工学、農学、医学等多分野においてますます拡大、活発化しており、今後も実用面における大規模かつ広汎な利用が著しく進展するものと期待されている。
このラジオアイソトープおよび放射線の利用ならびにこれらに関する研究は、現在、日本原子力研究所、国立研究機関、大学および産業界等多方面において進められているが、将来予測される放射線利用の円滑な進展を図っていくには、これら多分野の協力により、体系的、総合的に研究開発を推進することが必要である。
このためには将来にわたってどの方面に利用が活発化していくか、どの分野への利用が期待されているかを確実に予測することは重要な課題である。
このような観点から1980年代におけるラジオアイソトープおよび放射線利用の展望を得、これにより研究開発の効果的な推進およびラジオアイソトープの安定供給等の方策の立案に必要な基礎資料を得ることを目的として原子力局内に「ラジオアイソトープおよび放射線利用に関する技術予測委員会」を設け、昭和46年6月より鋭意検討を進めてきたが、ここに結果を取りまとめ報告書を作成した。 |
1 実施要領 |
(1)予測事項
ほぼ1980年のラジオアイソトープおよび放射線利用の姿
(2)予測方法
ラジオアイソトープおよび放射線利用関係の科学者、技術者等を中心とした1,000名に対し、デルフアイ法によるアンケート調査等を3回実施する。
(3)解 析
デルフアイ法による調査結果をクロス・インパクト・マトリクス法により解析する。
(4)実施期間
46年6月〜47年10月 |
2 予測結果の概要 |
(1)ラジオアイソトープの製造
252Cf線源、原子炉の余剰中性子、専用高中性子束炉および小型加速器の利用あるいは核燃料等固体廃棄物からの分離等、RI製造法が多様化するとともに、これらによって短寿命RI、超プルトニウム元素、各種特殊標識化合物等の製造が活発化するとし、これに伴い、従来よりその大部分を輸入に依存していたRIも将来は国産RIが国内需要量の1/2を占めると予測されている。
また、短半減期RIの地域別製造と供給体制が整うとしている。
(2)農業利用について
農業面への利用については現在大部分についてすでにその利用方式が型定化し始めているため、将来、特に革新的な利用方法は予測されていないが、放射線照射により昆虫を不妊化させ、農薬利用の代替としての利用が活発化すること、放射線照射食品が一般の保存食品なみに実用化されることが挙げられている。
(3)工業利用について
最も期待されている分野である。照射源としての機器の開発が挙げられ、大電流加速器、三次元照射加速器、化学用原子炉等が開発されるとしている。
産業面への利用としてはプラスチックの放射線崩壊による処理法、放射線照射による石油の直接脱硫法が実用化され、また現場工程解析、腐食、摩耗の管理が普及するとしている。
(4)医学利用について
中性子線、陽子線等によるがんの放射線治療法が実現するとともに、放射化分析技術が臨床医学で大きな意味をもつことが予測される。
また、全身シンチカメラの普及、がん親和性核種、標識化合物が開発され、またRIを用いる診断装置がX線診断装置なみに普及する等、医学利用は特に著しい発展が予想されている分野である。
(5)放射線障害防止ならびに廃棄物処理について
低線量被曝量の評価、一般環境および医療による被曝線量の管理、全国的環境放射能レベル分布図の作成によるレベル変動の管理等が確立するとしており、一連の環境放射能問題について強い関心が示されている。
また廃棄物処理の分野ではマグマや宇宙への投棄、さらには放射能の消減、半減期の短縮といった革新的な技術の発展が期待されている。
(6)新しい技術の開発について
新しい技術開発の分野では、海底で使用する熱源装置(90SR使用)が実用化され238PU使用の心臓ペースメーカーが開発されるといったエネルギー源としての利用が大きく取りあげられている。 |
〔参 考〕 |
技術予測の手法 |
(1)デルファイ法
デルファイ法は、多数の人に同一内容のアンケートを数回くりかえし、アンケート回答者の意見を収れんさせる手法である。
2回目以降のアンケートには、前回の結果を回答者にフィードバックするので回答者は全体の意見の傾向をみながら、再度質問課題を再評価できることが、普通のアンケートと異なる最大の特色である。
デルファイ法の名前は、アポロ神殿のある古代ギリシャの地名であって、多くの神々がここに集まって未来を占なったことから命名されたものでその手法はアメリカのランド・コーポレーションが開発したものである。
(2)クロス・インパクト・マトリクス法
デルファイ法では予測しようとする技術間の相互作用が全面的には考慮されていないという難点をもつ。
この点を改良して技術の相互作用による波及効果をとりいれるのが、クロス・インパクト・マトリクス法であり、これは米国のIFF(Institutefor the Future)で開発されたものである。
クロス・インパクト・マトリクス法とは、その名の示すように技術相互間の影響(クロス・インパクト)をマトリクス状に表わした表(クロス・インパクト・マトリクス表)を作り、その表にもとづいて、技術の波及効果を模擬した実験(シミュレーション)を行なうものである。 |