47原委第112号
昭和47年3月9日 |
内閣総理大臣 殿 |
原子力委員会委員長 |
開西電力株式会社高浜発電所の原子炉の設置変更(1号および2号原子炉施設の変更)について(答申) |
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昭和47年2月3日付け47原第750号(昭和47年3月6日付け47原第2334号で一部訂正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 |
記 |
標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に、適合しているものと認める。
なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は、別添のとおりである。
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関西電力株式会社高浜発電所の原子炉の設置変更
(1号および2号原子炉施設の変更)に係る安全性について
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昭和47年3月6日
原子炉安全専門審査会 |
原子力委員会 |
委員長 木内 四郎 殿 |
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原子炉安全専門審査会 |
会長 内田 秀雄 |
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関西電力株式会社高浜発電所の原子炉の設置変更(1号および2号原子炉施設の変更)に係る安全性について |
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当審査会は、昭和47年2月3日付け47原委第32号(昭和47年3月3日付け47原委第110号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。 |
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Ⅰ 審 査 結 果 |
関西電力株式会社高浜発電所の原子炉の設置変更(1号および2号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「高浜発電所原子炉設置変更許可申請書(1号および2号原子炉施設の変更)」〔昭和47年1月25日付け関原発第60号をもって申請(昭和47年3月3日付け関原発第68号をもって一部訂正)〕に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。 |
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Ⅱ 変 更 事 項 |
本変更は、高浜発電所の1号および2号原子炉施設を変更しようとするもので、その内容は次のとおりである。 |
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(1)燃料の濃縮度の変更 |
燃料濃縮度(初装荷炉心平均)を約2.8w/oから約2.7w/oへ変更する。この変更に伴い初装荷炉心の実効余剰増倍率は0.21(△K)以下から0.20(△K)以下へ、制御系の反応度制御効果は、実効増倍率の変化にして0.22(△K)以上から0.21(△K)以上へ変更される。
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(2)燃料の最高中心温度の変更 |
設計過出力(112%)の場合の燃料の最高中心温度を約2,560℃から約2,470℃へ変更する |
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(3)高圧注入ポンプの容量の変更 |
容量を約34m3/h/台から150m3/h/台へ変更する。
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(4)ほう酸ポンプの追加 |
ほう酸ポンプを1台追加し、3台とする。 |
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(5)原子炉停止回路の追加 |
原子炉の停止回路に中性子束変化率高(出力領域)を追加する。 |
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(6)安全保護回路の変更 |
制御棒クラスタ落下時の安全保護回路である制御棒クラスタ自動引抜阻止およびタービンカットバックの連動回路を廃止し、警報回路のみとする。
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(7)制御棒吸収材の変更 |
吸収材の種類をボロン・カーバイトから銀・インジウム・カドミウムとする。 |
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(8)制御棒クラスタの変更 |
制御棒クラスタを約45から約48とし、出力分布調整用制御棒クラスタを約8から約5とする。これにともない、各々の駆動装置の数も変更される。
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(9)液体廃棄物廃棄設備の変更 |
1号炉についてはほう酸回収装置として蒸発濃縮器と脱ガス塔を一体化したものに変更し、2号炉については、廃液蒸発装置を1基追加し2基とする。
なお、この追加の廃液蒸発装置は、1号および2号原子炉両方に使用されることになる。 |
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(10)アニュラス空気再循環設備の変更 |
アニュラス空気再循環ファンの容量を約20,400m3/h/台から約6,800m3/h/台に変更する。
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Ⅲ 審 査 内 容 |
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1 安全設計および安全対策 |
以下に示すように、本変更により原子炉の安全性を損うことはない。
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(1)変更(1)について |
本変更は詳細設計の結果によるもので、制御棒クラスタおよび化学体積制御設備よりなる反応度制御系により、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも、常に炉心の実効増倍率を0.99(△K)以下に抑えるだけの停止余裕が確保される。
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(2)変更(2)について |
本変更は、出力密度の再検討およびピーキングファクターの再評価を行なった結果、十分この値を保持できることが判明したため、変更したものである。
本変更により、1次冷却材喪失事故時における燃料被覆管の健全性はより増大することになる。 |
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(3)変更(3)について |
高圧注入ポンプは充てんポンプと共用されるため従来の記載では充てんポンプとしての容量が記載されていた。容量はその揚程によって異なっているため、実際の使用条件に合った容量に記載の変更を行なったもので、高圧注入ポンプは十分な能力があり、安全性には問題はない。 |
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(4)変更(4)について |
ほう酸ポンプの1台の追加により、常用1台、予備2台となり、1台補修中においてもなお1台の予備が確保できる。これにより、原子炉の運転を支障なく継続できる。
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(5)変更(5)について |
出力領域における中性子束変化率高によるスクラム回路を設けることによって、異常な中性子束変化に対処し、より早い原子炉スクラムを行なわせる。これにより、原子炉の安全性は一層向上する。
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(6)変更(6)について |
本変更により、制御棒クラスタ落下時には自動制御により、制御グループの制御棒クラスタが引抜かれ、出力は直ちにもとへもどる。その際出力分布に歪みが生じ、部分的に出力密度が高くなるが、最大出力運転時でかつ、最大反応度効果を有する制御棒クラスタが落下したときでもDNB比は1.3を十分に上まわり、原子炉の安全性は損なわれない。さらに、中央制御室で発せられる警報により、制御棒はすみやかに正常にもどされ、安全に原子炉の運転を継続できる。 |
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(7)変更(7)について |
本変更によっても制御棒クラスタは十分その機能を発揮できるように製作される ことは、すでに運転中の多くの加圧水型炉によっても明らかであり、安全性に支障はない。 |
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(8)変更(8)について |
出力分布調整用制御棒クラスタが5本の場合、軸方向の出力分布調整が一層行ない易くなり、原子炉は安定した運転ができるようになる。したがって、本変更により原子炉の安全性は損なわれない。 |
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(9)変更(9)について |
1号炉のほう酸回収装置の変更については、これによって装置の機能が従来と変わるものではなく、安全性に支障はない。
廃液蒸発装置の追加については、これにより廃液の処理が強化され、環境に放出される放射能の量の減少がはかられることになる。 これらの変更によって原子炉の安全性は損なわれることはない。 |
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(10)アニュラス空気再循環設備の変更 |
本変更により、本設備の作動が必要とされる1次冷却材喪失事故時には、アニュラス部での空気再循環によるよう素の除去能力が低下することになるがその被ばく評価におよぼす影響はわずかであり、変更後のファン循環容量によっても十分安全性は確保される。
なお、本変更にともない、平常運転時の気体廃棄物による被ばく評価についても「ガス減衰タンクからの放出ガス」に加えて「原子炉格納容器換気空気」、「原子炉補助建屋換気空気」を考慮した再検討を行なった。 |
その結果は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。 |
平常運転時の年間放出限度は、ガス減衰タンクからの放出ガス、格納容器換気系および補助建屋換気系からの換気空気を考慮して、1、2号炉合算で67,600Ci(γ線エネルギー約0.05MeV相当)としている。これは1次冷却材中の希ガス濃度を約365μCi/cc(γ線エネルギー約0.05MeV相当)で1年間継続したと仮定し、廃棄物処理系で発生する気体廃棄物はガス減衰タンクで30日間減衰後放出するとした場合の値である。 |
気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法令に定める値をこえないようにすることはもちろんのこと、ガス減衰タンクからの放出は原則として風向が人の居住していない海側で、風速が敷地内の海抜66mおよび241mの高さに設置された風速計でそれぞれ2m/sec、5m/sec以上の時を選んで放出するようにし、できるだけ被ばく線量を少なくすることとしている。 |
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被ばく線量の評価に当っては、年間の風向、風速出現頻度の実績から、着目地点への風向出現頻度および放出形態を考慮して年間の被ばく線量を計算すると、敷地境界で最大となるのは、1,2号炉より南南東約800mの地点であって、その地点における被ばく線量は1、2号炉合算でγ線約1.1mrem/年、β線約2.2mrem/年となる。また、敷地内を通る道路(1、2号炉より東約200m)においてもその値は同上の条件でγ線約2mrem/年、β線約6.7mrem/年であり周辺監視区域外の許容被爆線量(500mrem /年)に比較して十分下回っている。さらに実際の運転時にはこれより下回ることが予想される。なお、敷地内外に放射線監視設備を設けて十分な監視を行なうこととしている。 |
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2 災 害 評 価 |
本変更に係る原子炉は、以上のように安全性を確保し得るものと認めるが、さらに本変更に関連ある1次冷却材喪失事故について「原子炉立地審査指針」(以下立地指針という)に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は、次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当なものであり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。 |
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(1)重 大 事 故 |
原子炉容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約700mm)1本が原子炉入口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を仮定する。解析の結果では、二酸化ウランの溶融温度に達することはなく、燃料被覆がジルカロイの溶融温度に達することもない。また、燃料被覆管の最高温度は約1,180℃であり、その健全性が大きくそこなわれることもなく、ジルコニウム-水反応もきわめてわずかしか起らない。 |
原子炉格納容器内の圧力は、1次冷却材の放出により急上昇するが、原子炉格納容器スプレイ設備により冷却され、内圧は容器の許容最高圧力をこえることなく、すみやかに大気圧近くまで減少する。
そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて計算する。 |
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①燃料ペレットは溶融温度に達することはないが全部の燃料棒の被覆に破損が生じたとし、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%、固体核分裂生成物0.02%相当分の放出があるものとする。なお、格納容器内に放出されたよう素のうち10%は有機よう素であり、また残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとする。
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②原子炉格納容器内に浮遊するよう素はアルカリ性スプレイにより、大部分が除去されるが、その除去効率は無機よう素に対して等価半減期100秒とする。
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③原子炉格納容器からの漏洩率は事故後24時間まで0.3%/日、その後3日間は0.135%/日とする。
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④原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部で生ずるものとする。
なお、アニュラス部に漏洩したものはアニュラス空気再循環系を経て再循環し、その一部はアニュラス部の負圧維持のため排気筒から放出される。このアニュラス空気再循環系に設置されるよう素フィルタの除去効率は90%とする。なお、事故後アニュラス部の負圧の達成までに10分間を要し、この間はアニュラス空気再循環設備のフィルタは有効でなく格納容器からアニュラス部に漏洩してきた気体は、そのままアニュラス上部より放出されるものとする。
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⑤大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ(地上約80m)現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象の手引」(以下気象手引という)を参考にして、高さ80m以下均一分布、水平方向拡散幅30°有効拡散風速1.5m/secとする。
解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約28Ci(Ⅰ-131換算。以下同様)希ガス約3,440Ci(γ線エネルギー0.5Mev相当。以下同様)である。
敷地の外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約800m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対して約1.3rem、全身に対して約0.09rem(β線約0.03rem)である。
この被ばく線量は「立地指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。
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(2)仮想事故 |
重大事故と同じ事故について安全注入設備の炉心の冷却効果を無視して炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があると仮想する。
また原子炉格納容器の効果について重大事故と同じとし、次の点について重大事故 の場合と異なる仮定をして被ばく線量を計算する。 |
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①全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス100%、全よう素50%、
固体核分裂生成物1%相当分が原子炉格納容器内に放出される。
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②国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして大気安定度F型、水平方向拡散巾30°、一定、風速1.5m/
secとする。
解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約1,370Ci、希ガス約172,000Ciとなる。
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敷地外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約800m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約16rem全身に対して約4.1rem(β線約1.1rem)である。
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この被ばく線量は、「立地指針」に仮想事故時のめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、および全身25remより十分小さい。なお、全身被ばく線量の積算値は25万人-remであり、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人-remより小さい。
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Ⅳ審 査 経 過 |
本審査会は、昭和47年2月4日の第99回審査会および昭和47年3月6日の第100回審査会において審査の結果、本報告書を決定した。 |