45原委第29号
昭和45年2月5日
内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の原子炉の
設置変更(高速実験炉の設置)について(答申)
昭和44年7月2日付け44原第3491号(昭和45年1月29日付け45原第325号および昭和45年2月4日付け45原第635号で一部訂正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。
記
標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に、適合しているものと認める。
なお、各号の基準の適合に関する意見は、別紙のとおりである。
(別紙)
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準の適合に関する意見
(平和利用)
1 この原子炉は、動力炉・核燃料開発事業団が高速増殖炉の開発を目的として設置するものであって平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。
(計画的遂行)
2 この原子炉の設置は、「原子力開発利用長期計画」に定める方針にのっとっており、原子力の開発に十分な意義を有するものであると考えられるので、わが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。
(経理的基礎)
3 この原子炉の設置に要する資金は、動力炉・核燃料開発事業団法に基づく政府出資金により調達する計画になっており、この原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。
(技術的能力)
4 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉を設置し、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。
(災害防止)
5 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉の位置、構造および設備は、核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。
動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の原子炉設置変更
(高速実験炉の設置)に係る安全性について
昭和45年1月30日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会委員長
西田 信一殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の原子炉設置変更
(高速実験炉の設置)に係る安全性について
昭和44年7月3日付け44原委第209号(昭和45年1月29日付け45原委第24号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。
Ⅰ 審査結果
動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の原子炉の設置変更(高速実験炉の設置)に関し、同事業団が提出した「原子炉設置変更許可申請書」(昭和44年6月30日付け申請および昭和45年1月20日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。
Ⅱ 審査内容
1 変更計画の概要
本変更は先に重水臨界実験装置の設置許可を受けた大洗事業所に新たに高速実験炉を増設しようとするもので、立地条件および施設の概要は次のとおりである。
1.1 立地条件
(1)敷地および周辺環境
本原子炉施設は、茨城県東茨城郡大洗町成田町の動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の敷地内に設置される。 敷地面積は約480,000m2で水戸市の南々東約14kmに位置し、日本原子力研究所、大洗研究所に隣接している。敷地およびその周辺は海抜40m前後の比較的平坦な山林および畑地である。本施設の東方約200mに国道51号線が通っておりその先は県有地である海岸が太平洋に面している。
(2)地質
本敷地の地質は第4紀に属し、上部より順次ローム層、砂層、粘土層、砂礫層があり、その下は硬質砂層となっている。原子炉建屋基礎底面は地表面下約32mで硬質砂層に設置されるが、この層は長期支持力1,000トン/m2以上が期待でき、建物の重量および地震荷重に対して十分余裕がある。
(3)海象
この付近の海は、鹿島灘沖を北東に向って流れている“くろしお”本流と、釧路沖から金華山沖を南下する“おやしお”との混合水域である。またときには対島暖流が三陸沿岸を南下してこの海域に達することもある。過去の海流の調査によれば夏と冬の海流の模様はかなり異なる。夏は表層では流向が一定せず、軌跡はわん曲したものが多いが、3m層では南ないし南西流がほとんどであり、冬は表層では北東および南東流が卓越している。
津波、高潮は過去の例から最悪の場合でも数m程度であり、海抜約40mの台地に建設される本原子炉には影響ない。
(4)気象
敷地および周辺の風については、4ヵ年の現地観測および水戸気象台気象資料によれば、この地方は海向けの風が70~80%を占める冬型と陸向けの風が50~70%となる夏型とに大別される。
年間では北西と北東の二つのピークがあるが、北東風が最も多く、その頻度は12~13%である。
年間の平均風速は2.6m/sであり、静穏の出現頻度は数%である。
大気の安定状態(英国気象局法によるE・F・G型)の出現類度は30%である。
(5)地震
茨城県近海の太平洋岸は本州のなかでは大地震の活動度が少ない地域の一つである。過去の記録からみると大洗周辺は、関東、三陸沖および日光付近の地震多発地帯の中間付近に入っており、それぞれの地域で発生した大地震による震害は大洗周辺までに及んでいない。
過去、大洗地点に最も大きな地震動を与えたと考えられるのは、磐城沖に発生した地震(マグニチュード約7.5)であるが、被害をもたらすにはいたらなかった。
(6)水理
当敷地内地下水は、南西部から北東部に現地表から60m~90m程度の深い部分にわたって鹿島灘に向って流れているものと推定される。表流地下水は現地盤から10m~13m付近に比較的薄い粘土層があり、この層より上部の表流地下水の一部は海に向って流れ、他は敷地中央部窪地に集合して涸沼に向って流れているものと推定される。
本施設の用水は、日本原子力研究所大洗研究所および当敷地内の施設用水源として、那珂川から取水し、窪地を利用して作られる貯水池(容量約250,000トン)から供給されることとなっており、本原子炉に必要な用水は十分確保される。
1.2 原子炉施設(概要)
本原子炉は、熱出力50MWのナトリウム冷却高速中性子型炉である。
炉心部は円筒形の胴部に半球形の底部を付したステンレス鋼製容器に収められている。炉心は、炉心燃料集合体とそれを囲む半径方向ブランケット燃料集合体および反射体より構成される。炉心燃料集合体は、ウランプルトニウム混合酸化物ペレットの炉心燃料部の上下に減損ウラン酸化物ペレットのブランケット燃料部を配置した燃料要素を組み合わせたものであり、また半径方向ブランケット燃料集合体は減損ウラン酸化物ペレットを収めた燃料要素を組み合わせたものである。燃料の装荷量は炉心燃料として約23W/O濃縮ウラン約770kg、プルトニウム170kg、ブランケット燃料として減損ウラン8.3t(ウラン量)である。
制御棒はボロン-10を濃縮した炭化硼素のペレットをステンレス鋼管で被覆し、たばねたもので、6本設けられる。駆動は上方から電動機により行なわれる。
原子炉容器の上部には、冷却材ナトリウムの自由液面のカバーガスとして用いられるアルゴンおよび放射線遮蔽を兼ねた大、小2つの回転プラグがあり、炉容器内外の種々の燃料取扱設備と組み合わせて頻繁に燃料交換の行なえる構造となっている。
原子炉容器の外側には遮蔽グラファイトがあり、このグラファイトは安全容器内に納められる。
主冷却系は1次系2回路、2次系2回路が設けられ、2次系は主冷却器で空冷される。また、主冷却系で炉心の冷却ができなくなった場合に崩壊熱を除去するため補助冷却系1次系,2次系各1回路が設けられている。
原子炉格納施設としては、原子炉本体および1次冷却系を収容する鋼製格納容器が設けられる。その外周にコンクリート壁が設けられ、これらの間の下半分は二重格納構造のアニュラス部としている。
そのほか、放射線管理施設、廃棄物処理施設燃料貯蔵設備等が設けられる。
2.安全設計および安全対策
本原子炉は、以下のような種々の安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安定性を有するものであると認める。
2.1 核、熱設計および動特性
本原子炉は、構造材、冷却材および燃料の熱膨脹ならびにドップラ効果にもとづく負の出力係数を持ち、反応度外乱に対して自己制御性をもっている。
1次冷却材の温度は定格出力運転時において炉容器入口で約370℃、出口で約435℃であり、燃料の最高被覆温度および中心温度はそれぞれ約560℃および約1,580℃である。仮に設計過出力(116%)の場合でも炉心・燃料の最高温度は約1,830℃で、溶融点よりかなり低く一次冷却材のナトリウムの温度は約540℃で沸とうは起らない。ナトリウムの循環周期が長く、熱系の熱容量が大きいために熱系の変動が原子炉に与える影響は非常に緩慢であり、プラント全体として各種外乱に対する温度変化はゆっくりしたものであり、安定である。
なお、本原子炉の核設計に用いられる種々の定数等はFCAを用いて確認することとなっており、炉心の流量分布等は、実験により、確認することとなっている
2.2 燃料
本原子炉の燃料は、炉心燃料集合体とその外側に配置されるブランケット燃料集合体よりなる。
炉心燃料集合体は、ウラン・プルトニウム混合酸化物の炉心燃料ペレットとその上下を減損ウラン酸化物の軸方向ブランケット燃料ペレトをステンレス鋼管(外径6.3mm)で被覆した燃料要素91本をスパイラル・ワイヤにより、間隔を保ち対辺間距離約80mmの正六角形断面のステンレス鋼製ラッパチューブ内に配列し下部をノックピンで固定したもので全長は約3mである。
炉心燃料部のウラン濃縮度は、約23W/Oであり、ウラン・プルトニウムの混合比(PuO2/(PuO2+UO2))は約0.18である。燃料被覆材の設計は、燃料の使用寿命中の必要強度および耐食性の点で妥当と考えられ、被覆管内の自由体積も、燃料集合体の最高燃焼度約25,000MWD/Tに対応し得るように配慮されている。
半径方向ブランケット燃料集合体は、減損ウラン酸化物ペレットをステンレス鋼管(外径15mm)で被覆した燃料要素19本を、炉心燃料集合体と同様に対辺間距離約80mmの正六角形断面のステンレス鋼製ラッパチューブ内に配列、固定したものである。
燃料集合体は、燃料集合体の下部で支持構造物により支持される。温度上昇による燃料集合体の曲りによる出力係数はスペーサーパットを集合体の側面に取付けることにより負に保つようになっている。
また、炉心燃料集合体は、出力分布に対応して流れる冷却材により冷却されるが、冷却材の流れによる浮上りは、高圧、低圧の二つのプレナムを設け、その圧力差により防止している。
なお、燃料の照射および模擬燃料集合体の冷却材流動試験を行ない、燃料集合体の性能を確認することになっている。
2.3 計測および制御系
(1)中性子計装
中性子計測設備は起動系、中間出力系、線形出力系からなり、検出器は原子炉容器外側の遮蔽グラファイトの中に設けられる。
また、安全操作を行なうための信号は起動系は1 out of 2、中間出力系、線形出力系は2 out of 3方式の論理回路を形成し、信頼性を高めている。
(2)プロセス計装
プロセス計装により、必要な個所の温度圧力、流量および液面等が測定される他、ナトリウム漏洩、ナトリウム純度等が監視される。
(3)安全保護系
安全保護系として原子炉格納施設の隔離、スクラム、調整棒一斉挿入および異常表示の各系があり、また各種インターロック系が設けられる。これらの安全保護系は多重設備としてフェイルセイフの機能をもたせて安全性を高めるよう配慮されている。
(4)反応度制御系
反応度制御は制御棒により行なわれる。制御棒は安全棒3本、調整棒3本よりなる。調整棒は出力調整、臨界点調整、燃料の燃焼による反応度低下に対する調整に使用される。制御棒は上部から電動機によって引抜挿入され、スクラム時には電磁石の励磁を切りはなし、重力とバネ力で急速に挿入し原子炉を停止する機構となっている。
本原子炉の燃料交換時の冷却材温度250℃における最大過剰反応度は、3.9%ΔK/K以下で制御棒の反応制御能力は6.6ΔK/K以上であり、制御棒1本が炉心に挿入できない場合でも常に停止できるよう設計されている。
なお、本原子炉は制御棒以外の反応度制御設備を設けることが困難であるので、制御棒およびその駆動機構について、その機能を実験により確認することとなっている。
(5)その他、破損燃料検出装置、燃料出口温度測定装置が設けられ、燃料の破損、燃料チャンネル閉塞が監視される。
2.4 原子炉容器および冷却系配管
原子炉容器はステンレス鋼製で、ナトリウムを保持する部分の外側はジャケットで覆われて2重容器を形成する。また内壁には必要な個所に熱しゃへい板を設けサーマルショックを減少させるよう考慮されている。再臨界事故を考慮して原子炉容器の外側に安全容器を設け、原子炉容器に漏洩が生じても、炉心が露出するのを防ぐ構造となっている。
冷却系配管は、1次冷却系および補助冷却系の一部を二重構造としてナトリウム漏洩の際のバックアップならびに漏洩検出を行なうようにしてある。
格納容器内の冷却系配管のある雰囲気は窒素とし、原子炉容器内の上部はアルゴンガスのカバーガスが満され、ナトリウムの化学反応が起らない構造としている。また、一次冷却系配管に漏洩が生じても、原子炉容器内のナトリウムの流出を防ぐため、サイフォンプレーカが設けられる。
原子炉容器および配管はわが国の法令を満足するように設計製作される。
また、材料の疲労および応力集中などの解析を行ない十分耐えることを確認するとともに、ナトリウムによる腐蝕質量移行等を考慮し、材料の選定をすることとしている。
2.5 燃料取扱および貯蔵設備
燃料取扱は、炉内の燃料交換を行なう燃料交換機、炉内燃料貯蔵ラックとトランスファーロータ間を燃料集合体を移送する燃料出入機、新燃料、使用済燃料を移送する際の中継、貯蔵、冷却を行なうトランスファロータが設けられ、これらにより行なわれる。これらの機器には必要なインターロックを設けられるとともに、取扱中ナトリウムが化学反応を起さないよう配慮すると同時に放射線のしゃへいを考慮した構造となっている。
燃料は炉内燃料貯蔵ラック、トランスファロータ、新燃料貯蔵設備、使用済燃料貯蔵設備に貯蔵される。新燃料貯蔵設備は50本、使用済燃料貯蔵設備は200本の貯蔵能力があり、また、炉内燃料貯蔵ラックは30本、トランスファロータは40本収納できる構造となっている。
2.6 ガス系設備
ガス系は、アルゴンガス系と窒素ガス系に大別される。
アルゴンガスは、ナトリウムに直接触れる系でナトリウムの自由液面カバーガスとして用いられる他、主循環ポンプの軸、および制御棒駆動装置等のシールガス、燃料交換、機器修理の際の浄化等に用いられる。アルゴンガス系は供給系、1次ガス系、2次ガス系および燃料受入貯蔵系に区分される。放射性の一次ガス系のうち、一次ナトリウムカバーガスは、ペーパートラップを通り循環し、原子炉正常運転時はガスの供給および排気はほとんどない。機器のシールガスには、清浄アルゴンが用いられる。
窒素ガスは、ナトリウムの漏洩により火災発生のおそれのある格納容器内のナトリウム機器配管が設けられる部分の零囲気として用いられる他、1次冷却系の予熱、加熱等に用いられる。
2.7 電源設備
原子炉施設に必要な通常の電力は、商用66KV1回線を受電し、供給される。外部電源喪失時には、緊急負荷に対し100%の容量のディーゼル発電機2台により、給電されるほか、蓄電池が設けられ、全直流無停電負荷に供給される。
2.8 その他ナトリウム系関連施設
冷却材純化設備、ナトリウム充填およびトレン設備、消火設備が設けられる。
2.9 廃棄物処理
(1)気体廃棄物
本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は1次アルゴンガス系と燃料取扱系から出てくるものであるが、それらのガスはガス集合管に集められ、フィルターを通し、放射能濃度を測定し排気筒から放出される。放射能濃度の測定の結果、規定濃度以上である場合はガス貯留タンク(圧力9kg/cm2g容量20m33基のうち予備1基)に圧入貯蔵し、規定濃度以下に減衰させた後にフィルターを通し排気筒から放出されることになっている。
(2)液体廃棄物
液体廃棄物は放射能濃度によって区分して処理される。低レベルのものは法令に定める濃度以下に稀釈して放出され、その他は凝集沈澱または濃縮処理を行なう。
(3)固体廃棄物
固体廃棄物は、放射能の程度により区分し、固体廃棄物の格納貯蔵施設に貯蔵保管される。
なお、これらを海洋投棄する場合は、関係官庁の承認を受けることとしている。
また、金属ナトリウムが付着している固体廃棄物は、あらかじめ脱金属ナトリウム設備により処理し、保管中火災が起ることを防止する。
2.10 放射線遮蔽
遮蔽については、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が法規に規定された許容量を十分下まわるように設計される。
2.11 放射線監視
本原子炉施設における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。また、個人被ばく管理に必要な機器も備えられる。敷地境界付近については固定モニタにより放射能監視が行なわれ、敷地周辺の居住地域については、サンプリング法により定期的に放射能監視を行なうことになっている。
2.12 放射性物質の放出防止
事故時においても、放射性物質の放射による従業員および周辺の居住者の放射線被ばくを極力抑制するため、次の施設が設けられる。
(1)原子炉格納施設
原子炉格納施設は、銅製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間は密閉格納構造のアニュラス部を構成する。格納容器を貫通する配管および配線はアニュラス部に集められる。
(2)アニュラス排気設備
アニュラス排気設備は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備によりアニュラス部を常に負圧に保つとともに、原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時には、アニュラス部の空気をフィルタで濾過したのち排気筒から放出する。
(3)隔離弁
原子炉格納容器を貫通する主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。
2.13 耐震上の考慮
建物、構築物は剛構造とし、剛強な基礎を設け、良質な地盤に支持させる。機器、配管類はそれを支持する建物、構築物と一体となるよう剛な構造とすることを原則としている。
また、すべての施設はAs・A・B・Cの4種のクラスに分離され、それぞれに応じて耐震設計が行なわれる。
このような方針に従い以下に述べるように設計された建物、構築物、機器、配管類は、敷地における地震活動性、地盤状況等からみて耐震上安全であると考える。
(1)設計震度等
① AsおよびAクラス
原子炉容器、炉内構造物、1次冷却系等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設、周辺公衆の災害を防止するための緊要な施設はAクラスとする。
建物、構築物は、基礎底面(地表面下約32m)における最大加速度0.15gの地震波(設計用地震波)に対する動的解析による水平方向震度と建築基準法に定める震度(この場合、地域による低減は行なわない)の3倍の震度に対して、それぞれ安全であるよう設計される。また、垂直方向の震度、地震力は基礎面における水平方向震度の1/2%を一律に適用して求め、水平方向の震度、地震力と同時にかつ不利な方向に作用するものとして安全であるよう設計される。
機器、配管類に対する水平方向震度地震力は設計用地震波に対する動的解析によって求められる値とする。
ただし、当該施設が明らかに剛構造とみなせるものについては、その支持建物、構築物の据付位置の水平方向最大震度を1.2倍とした値により水平震度、地震力を定めて安全であるよう設計する。垂直方向の震度、地震力は据付位置の垂直方向震度の1.2倍した値により定め、水平方向と同時にかつ不利な方向に作用させる。
格納施設、制御棒駆動機構のような安全上特に緊要な施設については、Asクラスとし、Aクラスの扱いのほかに、設計用地震波の1.5倍以上の強さのものに対して動的解析を行ない、その機能が保持されることが確認される。また格納容器については設計用地震時応力と事故時の内圧、温度条件との組合せに対してもその機能を保持することが確認される。
② Bクラス
As、Aクラス以外で高放射性物質を含む施設および2次冷却系をBクラスとする。
建物、構築物は建築基準法に定める震度の1.5倍、機器、配管類については1.8倍の震度に対して安全であるよう設計される。
③ Cクラス
上記As、A、Bクラス以外の施設をCクラスとする。
Cクラスは建物、構築物に対する水平方向震度は建築基準法に定める震度、機器、配管類については、建築基準法に定める震度の1.2倍の震度に対して安全であるよう設計される。
(2)設計法
建物、構築物については、前記(1)の設計震度等を適用し、建築基準法に準拠して耐震設計が行なわれる。機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾性、そ性等を考慮した解析により耐震設計が行われる。
3 平常運転時の被ばく評価
平常運転時における被ばく線量の評価は次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対して、放射線障害を与えることはないものと認める。
(1)気体廃棄物
平常運転時の気体廃棄物の放出は、貯留タンクによる減衰、気象条件による放出管理をし、公衆の被ばくをできるだけ少くすることとしている。
平常運転時の最悪条件として、2%の燃料が破損している状態で1年間全出力運転をした場合考える。貯留タンクに14日間貯留したのち、80m排気筒から放出した場合、風向頻度20%、年間平均風速3m/sec、安定度D型として、気体放射性物質の放散による敷地境界(原子炉中心から約700m)の被ばく線量を評価すると、法に規定されている年間許容被曝線量の0.1%程度となる。
(2)液体および固体廃棄物
安全対策の項で述べたように、液体廃棄物の放出および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策を講じることになっている。
4 各種事故の検討
本原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のように対策がなされており、本原子炉は、十分な安全性を確保し得るものであると認める。
4.1 反応度事故
(1)起動事故
運転員の誤操作または機器の誤動作により臨界未満の状態になる炉心から制御棒を連続的に引抜いた場合、起動系のスクラムが働かなかったとしても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、中性子高スクラムにより原子炉は停止する。この場合、出力領域の中性子高により停止したとしても 燃料被覆が破損することはない。
(2)出力運転時制御棒引抜事故
原子炉を100%出力で運転している際に炉心に完全に挿入されている制御棒1本を連続的に引抜いた場合、中性子高スクラムが働き炉は停止し、燃料被覆の破損、ナトリウムの沸騰は起らない。
(3)燃料装荷事故
原子炉を停止して燃料取替作業を実施している際に、作業員の誤操作燃料取扱機器の誤動作、さらに燃料取扱時の諸インターロックの不動作、が同時に起り、炉心燃料が落下し、これがたまたまもとの位置に挿入されたとしても制御棒が引抜かれた状態での燃料取替作業を行なうことは不可能な構造となっており、臨界に達することはない。また、落下により燃料の一部が破損しても希ガス以外の核分裂生成物はナトリウムにトラップされ、空気中に放出される量は極めて僅かである。
(4)1次冷却材流量の急上昇事故
定格出力運転中、1次系ポンプの駆動モータの速度制御素子が故障して、ポンプの出力が増大し、ナトリウム流量が増した場合、冷却材の温度が下ることにより、反応度が加わるが、出力はスクラムレベルまで到達せず、冷却材は初期温度以上にはならない。
(5)2次冷却系ナトリウム流量の急上昇事故
定格出力運転中2次冷却系のナトリウム流量が急上昇し、1次系のナトリウムの温度が低下した場合、冷却材の温度が下がることにより、反応度が加わるが、(4)と同様に問題とはならない。
(6)主冷却器空気流量の急上昇事故
運転中、誤って主冷却器の送風機の回転数を増すか、動翼の角度を変えるか、もしくは停止中の送風機を起動した場合、主冷却器出口ナトリウム温度低によりプラント制御系が働き空気流量が調節されるがこのプラント制御系が働かないとすると、2次系を介して約100秒後から1次系のナトリウム温度が低下してくる。これによる反応度の増加は最悪の場合でも中性子高スクラムが働いて、燃料破損は起らない。ナトリウムの凝固についても十分な時間余裕があり対処できる。
(7)燃料スランピング事故
高燃焼度に耐える低密度のセラミック燃料を用いたとして、何らかの原因で1燃料集合体の燃料が急激に理論密度に近い高密度となり下方に落下して反応度の印加をもたらした場合、炉は中性子高スクラムが働き停止されるが燃料の温度上昇も小さくこの事故により新たな燃料の破損はない。
4.2 機械的事故
(1)1次冷却系ポンプ出力喪失事故
運転中、1次系1回路の循環ポンプが電気的あるいは機械的に停止した場合、原子炉は1次冷却材流量低スクラムにより停止され、燃料の被覆が破損することはない。
(2)2次冷却系ポンプ出力喪失事故
運転中、2次系1回路の循環ポンプが電気的あるいは、機械的に停止した場合、原子炉は、2次冷却材流量低の信号により自動停止され、出力、燃料温度および冷却材原子炉出口温度等はいずれも初期値以上にはならない。
(3)主冷却器送風機出力喪失事故
運転中、空冷式主冷却器の送風機が電気的あるいは、機械的原因により停止した場合、2次冷却系を介して約70秒後から1次冷却材の温度が上昇を始める。原子炉は原子炉入口冷却材温度高により自動停止され出力、燃料温度および原子炉出口冷却材温度は初期値を越えない。
(4)1次冷却系における破損事故
1次冷却管の内管にヒビ、ワレが生じナトリウム漏洩事故が発生した場合、内管と外管の間の必要な個所に備えられている漏洩検出器により直ちに検出し、原子炉を停止させる等の適当な措置がとられる。また、さらにナトリウムの流出が進行し、2重管内の空間が流出したナトリウムによって満されたとしても、原子炉容器のナトリウムレベルは、ナトリウム補給系によって、補給されることにより、1次冷却系出口ノズル以下に下ることはない。
さらに外管破損が起った場合でも1次冷却系のサイホンブレーカーの作動によって、ナトリウムレベルは1次冷却系出口ノズル以下に下ることはないので、炉心がナトリウムから露出することはない。
この際炉心の冷却はただちに補助冷却系によって行なわれるので被覆管および冷却材の異常な温度上昇は生じない。
(5)原子炉停止中における1次冷却系破損事故
原子炉停止後、保守のため地下の窒素ガス雰囲気が通常の空気におきかえられている状態において、前項と同じく外管からのナトリウム流出事故が生じた場合、流出したナトリウムは200m2の炉室地下にたまりナトリウム火災が生じるが、表面数cmで燃焼するだけで鎮火する。この分の冷却材中に存在する放射性物質が格納容器外に漏洩しても敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は十分低いので支障がない。
(6)燃料交換事故
燃料取扱中の燃料体の落下による局部的損傷および燃料出入機に附属する冷却装置の故障による燃料の溶融が考えられるが、燃料の移動は気密構造の燃料出入機により行なわれる。もし落下したとしても多量の放射性物質が原子炉格納容器内へ放出されることはない。また燃料出入機コフインの空気強制冷却系が故障しても、自然冷却で除熱されるので、燃料被覆管を破損することはない。
(7)気体廃棄物処理設備の破損事故
気体廃棄物処理設備の貯留タンク等が破損しても放射性気体の大部分は換気設備により濾過された後、排気筒を経て放出される。この場合、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は十分低いので支障がない。
(8)その他の事故
電源の喪失、制御棒駆動系の故障、主要弁類冷却材流量の局部的閉塞事故、原子炉サービス系の破損事故、2次冷却系、補助冷却系の破損等があっても十分な対策がなされている。
5 災害評価
本原子炉はすでに述べたように種々の安全対策が構ぜられることになっており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全性を確保し得るものと認めるが、さらに、「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次の通りで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、「原子炉立地審査指針」および「プルトニウムに関するめやす線量」に示された線量を十分に下まわっているものと認める。
5.1 重大事故
燃料が最高燃焼度に達した状態で内蔵されている核分裂生成物の2%相当量が放出される程度の破損が起るとする。その後もさらに引続いて原子炉が2週間運転され、その廃ガスを貯留タンク1基に9kg/cm2まで加圧滞留させ続けた時にタンクが瞬時に破損したとする。
そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定をして線量を計算する。
① 貯留タンクに滞留されていた放射性物質は、放射性よう素約32Ci希ガス約30,000Ciであり、瞬時に地下のタンク室に放散される。放散された気体廃棄物は、タンク室の内圧上昇から20%が地上放出し、残りは、高さ80mの排気筒から放出される。
② 大気中への拡散に用いる気象条件は、大気安定度はF型とし、拡散幅30°放出点における風速は2m/secとする。
以上の条件を用いて計算した結果、敷地外で線量が最大となるのは敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対し、約3.5rem、全身に対して約1remである。これらの被曝線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。
5.2 仮想事故
熱出力50MWで運転中に炉心(最大300l)から冷却材である全ナトリウムが瞬時になくなったと仮定する。この結果炉心が溶融し、溶けた燃料が重力落下して反応度が挿入される。ただし、ナトリウム喪失後も熱出力は50MWに保たれると仮定し、またスクラムは働かないとする。解析の結果では、再臨界事故時の有効破壊エネルギーはTNT換算で約15kgとなるが、安全容器は破壊されず、ナトリウムはそれによって保持され、炉心崩壊熱除去のためには遮蔽体冷却系の作動が確保されている。
そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて線量を計算する。
(1)全炉心燃料が2.50a/0の燃焼度に達したとき、炉心の100%溶融により、炉心に内蔵されている核分裂生成物中の希ガス100%、ヨウ素10%(このうち有機状のもの・・・・・・10%)、固体1%が瞬時に格納容器内に放出される。
(2)冷却材(ナトリウム)250kgが格納容器内に噴出して空気と瞬時に反応し、ナトリウム火災が発生する。
(3)格納容器内に浮遊するヨウ素のうち無機状のものは排気筒に到る過程で等価半減期1時間でプレートアウトする。
(4)格納容器からの漏洩率は事故後30分まで3.35%/日、30分から5時間までは1.92%/日、それ以降は1.72%/日とする。
(5)格納容器からの漏洩は配管等の貫通するアニュラス部に主に生ずるが、ここでは一部はドームから漏洩するものとし、その漏洩率は上記の時間経過にしたがって、それぞれ約0.006%/日、0.004%/日、および0.003%/日とする。なお、アニュラス部に漏洩したものはアニュラス排気系でチャーコールフィルターにより濾過されるが、この場合ヨウ素全体に対する濾過効率は90%とする。
(6)大気中への拡散に用いる気象条件は、現地の気象データーをもとに、高さ30mのドーム部よりの漏洩については地上30m以下に均一分布、排気筒よりの放出分については被曝に最大効果を示すB型、拡散幅30°、風速2m/secとする。
以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、
全ヨウ素が約300Ci(131Ⅰ換算)
希ガスが約77,000Ci(0.5Mev換算)
である。敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は甲状腺(成人)に対し、約2.1rem、全身に対して約0.14remである。これらの被曝線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、全身25remより十分小さい。また全身被曝線量の積算値は最も人口密度の高い方向について行った結果は約5万人remであり、国民遺伝線量の見地から定められためやす線量の200万人remより十分小さい。
(7)プルトニウム障害
核分裂生成物と同じ拡散の仮定を用いて線量を計算する。
ただし、次の仮定は核分裂生成物の場合と異っている。
① 仮想事故に伴って格納容器内の空気中に放散されるプルトニウム量はエアロゾルの飽和濃度0.1g/m3中の約12%とする。
② 格納容器内に浮遊するプルトニウムは排気筒に到る過程で等価半減期10時間でプレートアウトする。
③ アニュラス排気系によるプルトニウムの濾過効率は90%とする。
以上の解析の結果から、大気中に放出されるプルトニウムは約0.2gである。
敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における被曝線量は肺に対して、約3.3mrad、骨に対して約0.5mrad、肝臓に対して約2.6mradである。
これらの被曝線量は「プルトニウムめやす線量」に示されているめやす線量より十分小さい。
6 技術的能力
動力炉・核燃料開発事業団は、設立の趣旨に則り、設立以来国内の有能な原子力関係技術者の採用に努め、技術的能力のかん養に努力して来ている。
高速炉関係の業務には、すでに原子炉の設置運転の経験を有する技術者多数が携わっており、今後も高速実験炉の建設計画に合わせて増員されることとなっている。
また、海外の既存高速炉および国内の既存原子炉施設に技術者を派遣し、養成訓練も行なわれている。
なお、本実験炉の建設、運転に当っては、日本原子力研究所等国内の諸機関との連絡を密にし、それらの協力を受けることとしている。
これらの点から、本実験炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するものと認める。
Ⅲ 審査経過
本審査会は、昭和44年7月8日第71回審査会において、次の委員からなる第54部会を設置した。
審査委員 |
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三島 良績 |
東京大学 |
青木 成文 |
東京工業大学 |
安藤 良夫 |
東京大学 |
植田 辰洋 |
東京大学 |
江藤 秀雄 |
放射線医学総合研究所 |
大崎 順彦 |
建築研究所(昭和44年9月9日就任) |
小平 吉男 |
日本気象協会 |
吹田 徳雄 |
大阪大学 |
高島 洋一 |
東京工業大学 |
竹越 尹 |
電気試験所(昭和45年1月16日部会委員辞任) |
都甲 泰正 |
東京大学 |
弘田 実弥 |
日本原子力研究所 |
調査委員 |
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飯田 国広 |
東京大学 |
海老塚 佳衛 |
東京工業大学 |
大崎 順彦 |
建築研究所(昭和44年9月9日辞任) |
西脇 一郎 |
電気試験所 |
同部会は、昭和44年7月21日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともにA(炉関係)B(装置、プラント関係)、C(環境関係)の各グループを設置して、審査を開始した。
以後、部会および審査会において次表のように審査を行なってきたが、昭和45年1月26日の部会において部会報告を決定し、同年1月30日第77回審査会において本報告を決定した。

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