原子力委員会

 昭和34年9月21日から約2ヵ月間にわたって海外先進諸国の核燃料検査技術の調査を行なった核燃料検査技術調査団の報告書概要を掲載した。また昭和34年3月30日核融合専門部会からの原子力委員会あての答申に基づき組織された核融合研究委員会の報告書(B計画報告書)を掲載した。

核燃料検査技術調査団の報告書概要

 標記調査団は昭和34年9月21日から約2ヵ月間にわたり海外先進諸国の核燃料検査技術の調査を行なった。以下にその概要を記す。

1.まえがき
 核燃料検査技術調査団は原子力委員会の決定に基づいて団長高木昇以下11名で編成され、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、西ドイツの核燃料の製造、加工所における検査および試験研究機関における検査技術開発研究の状況ならびに数ヵ所の原子炉における受入検査の実態を調査するため昭和34年9月21日東京を出発し、約2ヵ月にわたり35ヵ所を調査した。

調査団構成員

団長   高木昇(東大教授)

団員

  浅田忠一(原電)
  上田隆三(原研)
  木村丈太郎(三菱原子力)

  近藤 豊(住友金属)

  高橋治男(日立)

  太郎良 績(古河電工)

  中村 康治(原燃)

  三浦 誠(原子力局)

  山添久勝(原産)

  藁谷 尚(東芝)


 調査団の目的はもちろん核燃料の検査であるが、核燃料のように完全性が要求され、かつはなはだ高価なものでは単に最終製品としての燃料要素または燃料集合体についての検査のみでは不十分かつ不経済であるから、検査は燃料要素または燃料集合体の部材受入れから始まる製造工程の各段階における検査がまた重要である。したがってわれわれは製造工程から見学調査する必要があった。
 また原子炉運転者が炉の安全操業および経済性の見地から燃料受入れに際していかなる立場でいかなる検査を実施しているかを調査することも重要な目的であった。
 本調査にあたっては在外科学アタッシェおよび在外公館の関係官の援助により、またUSAEC,UKAEA,CEA,AECLの各当局のほか訪問先研究所、会社の好意ある配慮によってそれぞれ短時間の訪問ではあったが、きわめて能率的に、よく討論、見学による調査の実をあげることができた。またこのことに関しては在外各商社の協力も得た。

2.各国の概況

 省略

3.燃料加工と検査
(1)品質管理(Q.C)
 原材料と部品の受入れにあたっては、規格値の設定とそれにもとづく分析、寸法検査、欠陥検査などの諸種の検査を必要に応じて抜取りまたは全数に適用するとともに、本質的にバッチ作業の多い燃料加工において製品品質の変動を避けるための最小限の工程検査によって品質管理を行なっている。検査の方法、内容は燃料の設計、目的および検査技術それ自身の、ならびに製造技術の進歩、変化に伴って変更しうるものである。しかしながら、少なくとも製品の完全性の証明は残された問題として、各国とも使用済燃料に対する金相学的試験、材料試験および照射挙動の測定等を精力的に行なっており、燃料の改善と合わせて品質管理の方式の改善に努めている。

(2)検査技術検査は判定手段であるから、燃料製作者も使用者も双方が納得するものでなければならない。また検査そのものに偏差や意見をはさみうるものであってもならない。したがって検査は明確、単能的でかつ信頼度の高いものでなければならない。たとえば寸法検査のごときは簡単なgo-nogoゲージを用い、ヘリウムリークテストなどもgo-nogo式警報制度になっている。しかし大部分の検査技術はなお単能、明確化の必要があり、また検出限界の向上および特定形式の燃料要素または燃料集合体への適用のための研究も必要である。調査先のあるものでは試作と検査方法の研究とを並行的に進めていた。たとえば渦流探傷技術のごときは原理的にはすでに知られているものであるが、生産工程への編入、欠陥、検出限界の設定と、検出結果の燃料体の実効性に対する関係づけなど現在なお研究中のようであった。

(3)使用者の燃料検査に対する考え方
 イギリスでは、使用者として製作者を十分信頼するが、同じく国家機関であるにもかかわらず、CEGBは工場立入および検査を実施しようと考えている。この場合技術的にはCEGBはAEAの援助をうけている。BNL、ANL、AECLのようにそう使用する燃料を民間会社に製作させている場合それぞれにMetallurgy Divisionを持ち、試作経験をもっているので、製品規格、作業標準を与えて製作させ、必要に応じて係員の派遣による検査および指導を行なっている。Calder HallやVallecitosでは原子炉運転者の立場からの受入検査は簡単な検査を行なっているにすぎないが、同時に燃料の開発研究のため検査結果と炉内挙動の関連づけのための諸種の試験に協力している。AMF(USA)のごときコンサルタント的な役割を果すものでは、燃料に関する規格および検査法を国立研究所の例から設定して、下請加工メーカーに立会検査制度をもっている。

4.検査技術の現況

(1)化学分析
 アメリカのニューブルンスビク研究所をはじめ各研究所で分析法の研究が行なわれて分析技術そのものはほとんど完成されたものとみられ、会社、研究所間で試料交換によって検定しているようであったが、試料採取法、試料の前処理法についてはまだ問題があると考えられた。量産的なものについては品質管理の結果に基づく約束をしているものもあるが、少量試作品についてはまだ便宜的なものがあった。
 ウランの同位元素分析、ガス分析、極微量不純物の分析などをはじめ経験を積み重ねることが必要と考えられた。

(2)金相学試験
 試験の方法そのものはわが国におけるものと異ならないが、特に試料採取法、再現性ある試料処理法について習熟の必要があると考えられた。

(3)材料試験
 新しい燃料系の開発には疲労、クリープをはじめ諸種の材料試験が厳格に適用されているが、すでに流れている燃料についてはその構成部材の抜取り試験の程度である。

(4)化学的試験
 腐食試験、オートクレーブ試験、ブリスター試験などは素材および製品要素について全数試験されている例が多い。またもちろん新燃料開発の段階でも重視される。これらの試験はその性質上長時間を必要とし、その結果の再現性または信頼性についてまだ検討を要するものがあるようである。したがって装置的には比較的簡単な原理ではあるが、燃料の形に従っていろいろの寸法のものが、何台かをユニットとして設置されている。

(5)非破壊検査

(a)超音波探傷
 超音波探傷法は素材、製品について欠陥検査および厚さ測定の手段として広く用いられている。アルミニウム系、マグネシウム系等の合金については鋳造ビレット、加工材の健全性試験は一応確立されたもののようであるが、金属ウランおよびその合金は超音波減衰と結晶面反射の問題があって、大型インゴットについての適用は研究中で、小型鋳造棒、加工材については検出信号と欠陥との関係づけを研究するほか、超音波の減衰を利用して、金属ウランの結晶粒度測定法の研究を行なっている。クラッドまたはボンド不良の検出には水浸透過法を広く適用し、自動記録方式をとっている。この場合の検出限界は0.2mmφ程度というものもあるが、あるところでは良好な結果をまだ得ていないというものもあった。
 ANLでは広い周波数の範囲の超音波について、可変の波数を用いるパルス信号による燃料の内部欠陥の検出についても研究中であった。特にある特定の形式の燃料体についていかなる方法と形式を採用するかに問題が残されている。
(b)ラジオグラフィー
 X線を使用する溶接内部欠陥検査はいずれの場合も全数検査され、それぞれ固有の燃料について試験条件と判定標準をもっている。この標準の作成と条件の確定のための研究が行なわれたことはいうまでもない。
 ウランはX線を透過しがたいので、高圧X線またはγ線を利用することは研究中であった。
 コールダーホール型およびG-3型燃料の Pre-pressurizing処理でAntirat Chetting grooveにキャンを圧着する作業の良否の判定にもX線ラジオグラフィーが適用されている。
(c)渦流探傷法
 管の内部欠陥の検出法として測定装置の研究開発の結果、これをいかに工程検査または素材受入検査に適用するかについて、Search coilの設計、装置化の研究段階に入っている。この方法が大径のたとえば黒鉛スリーブの内部欠陥の検出に適用しうるかどうかをORNLでも研究中であった。
 現在のところ、薄肉細径のチューブ(ペレットチューブ等)の受入検査については一部において採用されていたが、一般的にいってこの方法が定常検査法として採用するところまでいたっていないようであった。
(d)ヘリウムリークテスト
 接合の完全性を検査する手段として感度もよく、実用されている。この検査法は研究段階を終ったものとみることができる。
(e)寸法検査
 一般に用いられている方式がそのまま採用されており、たとえば、量産的なものに対してはgo-nogoゲージが多く採用されるなど、特記すべき事項はなかった。
 しかしながら燃料の特性として寸法精度は高く要求されているので、原則として全数検査が行なわれていた。
(f)表面汚染検査
 α線測定による表面汚染直接検査が単純な形状の燃料を対象として行なわれており、すでに実用化の段階にあると考えられた。
 しかしながら、コールダーホール型燃料、G-2、G-3型燃料等、複雑な形状の燃料については、この種の検査法の採用が困難なため、ウラン棒製造工程とキャンニング工程を隔絶し、汚染の機会をなくすとともに、燃料要素洗浄液の管理およびキャンニング工場に出入する作業者に対する管理が厳重に行なわれていた。
(g)外観検査
 重要視されている検査項目であって、工程中各所において全数検査の手段として採用されている。検査者による個人差をできるかぎり少なくするため、検査者に対する検査を随時行なうなど、実施については細心の配慮がなされていた。
(h)その他の検査法
 種々の検査法が研究され、そのあるもの(たとえば霜試験法は実用段階から遠ざかりつつある)は改廃されているものもある。

(6)サーマルサイクル、照射試験
 定常的な燃料の製作においてこれらの方法が定常的に採用されているのはごく限られた例しかなかったが、燃料の実効性の判定および新しい燃料の開発のためには必須の試験法である。

 新しい燃料系(たとえば合金、化合物というような系)開発のための基本研究として小試料のサーマルサイクルおよび照射試験が行なわれることはもちろん、燃料要素または燃料集合体の開発、改良のためには諸種の物理的、機械的試験のほか、終局的には炉内照射試験を必要とし、この際材料試験炉などの研究炉では中性子密度、温度、時間等が実用の条件と著しく異なるから、同型式の実用炉内で実用試験を必要とするということは、特にイギリスで強調していたところで、多額の費用を投じて原子炉から取り出される燃料の1.5%(近い将来に2%まで)をホットラボラトリーに入れて諸種の検査を行なうという説明であった。

5.総  括

 以上簡単に各国別および検査技術的に述べてきたが、さらにここで別の立場から総括する。

(1)燃料形態と検査
 金属棒型燃料 燃料棒およびキャンそれぞれの健全性、結晶粒度等を品質管理的に検査したのち、組立加工後特に溶接の健全性、寸法、Pre-pressurizingによる結合を含む機械的、金属的結合の健全性、モレ試験表面汚染試験が最も重視されている。
 板状燃料 心材中の核分裂性物質の均一度試験、ロールボンドによる結合性試験、心材の位置の正確な決定およびクラッド材料の厚さ試験および表面汚染試験が重要で、燃料要素組立のろう接の場合のリチウム汚染、接合の完全さ、寸法検査が重視されている。
 UO2ペレット・シース型燃料 UO2ペレット製造の品質管理として寸法、密度、O/Uの統一が重視され、ペレット装入後の溶接および集合体組立に際してはモレ試験、ラジオグラフィー、寸法検査が重視されている。

(2)機能からみた検査技術
 部材検査 品質管理の常として購入素材および製造工程中の検査は当然重視されるところであって、比較的簡単でかつ信頼度の高い検査機械が駆使されている。最も重視するものは内部欠陥検査であるが、その適用方法にまだ研究余地がある金相学試験をはじめとする破壊検査も統計的基礎のもとに適用されている。
 完成品検査 厳重な品質管理を経てきた燃料要素または燃料集合体であっても、モレ試験、寸法試験は全数適用され、必要に応じオートクレーブ試験、ラジオグラフィー表面汚染試験が適用されている。

(3)生産者の検査と使用者の検査
 生産者はもちろん与えられた規格の品質、形状の健全な製品を作るための工程検査および完成品検査を行なう。
 使用者は規格および製作仕様の確保のための立入検査、受入検査を実施している。概括していえることは原子炉そのものが研究開発の段階であり、したがって燃料型式および寸法もまちまちであって、検査技術をいかに適用するかという研究、検査の結果から工程をいかに改善するかの研究および検査法そのものの研究も行ないつつあるのが現状のようである。少なくとも検査とは原理的にはともかく実用上は汎用ということが考えられないものであって、いわば経験と統計によって成立するものであるからいまなおデーターの集積に努力が向けられている段階である。
 特に検査結果の燃料の実効性との関連づけが最終的に必要であるがこのためにはきわめて多数の試験のくりかえしと、炉内試験およびその後の精密な試験が必要であり、はなはだ高額の経費と時間を要するであろうが、このことによって初めて完全な意味での燃料開発の目的を達成するものであることを痛感した。