第7章 放射線・放射性同位元素の利用の展開
7-1 放射線利用に関する基本的考え方と全体概要
先端的な科学技術や工業、医療、農業等の幅広い分野にわたる放射線及び放射性同位元素(RI1)の利用(放射線利用)は、社会基盤を支える重要な技術となっています。
放射線には、アルファ線(α線)、ベータ線(β線)、ガンマ線(γ線)、エックス線(X線)、中性子線、重粒子線等の様々な種類があり、それぞれ異なる性質を持ちます。また、放射線を発生する物質や装置には、RI、原子炉、加速器等があり、医療機関、研究機関、教育機関、民間企業等において目的や手段に応じて適切に使い分けています。
放射線及びRIは、既に幅広い分野で利用され、社会基盤を支える重要な技術となっており、今後も更なる国民の福祉や生活の質の向上、社会基盤の維持向上、環境や食糧問題等の地球規模の課題解決に資することが期待されます。
放射線利用を進めていくに当たって、それが国民生活の向上や社会基盤維持・向上、産業の競争力強化等に貢献しているという認識を広めていくことが必要となっています。
7-1-1 放射線の種類
放射線は、電離放射線と非電離放射線の二つに分類されます。電離放射線は、原子や分子から電子を引き離しイオン化(電離)する能力を持ちます。電離放射線には、α線やβ線、陽子線など電荷を持った粒子線、中性子線のような電荷を持たない粒子線、X線やγ線などの電磁波が含まれます。一方、非電離放射線には、電離能力が弱い可視光線やマイクロ波等が含まれます。一般には、電離放射線を放射線と称しています(図 7-1)。
図 7-1 放射線の種類(出典)環境省,放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)(2025年)を基に内閣府作成
7-1-2 放射線源とその利用、供給
放射線を放出するもの、発生させる装置には、RI、原子炉、加速器等があります。それら放射線源から得られる放射線はそれぞれ異なる特徴があり、目的や手段に応じて使い分けて利用されています。
7-1-2-1 放射性同位元素(RI)
原子番号が等しく質量数が異なる元素(原子核の陽子数が同じであるが中性子数が異なる元素)を同位体といいます。同位体のうち放射性壊変を起こして放射線を放出するものを放射性同位体又は放射性同位元素(RI)といいます。RIの原子核は不安定であり、その特性に応じた期間で一定の割合で崩壊し、その際に放射線(α線、β線、γ線、中性子線等)を放出します。RIは物質それ自体が放射線源となります。放射線の種類はRIの種類により決まっていて、その特徴に応じて利用されます。RIは自然界にも存在しますが、利用の際は一般的に、加速器や原子炉等で製造されます。
加速器でのRI製造は、加速された荷電粒子(陽子、α粒子等)をRIの材料となる物質に照射して行います。照射によってターゲット物質中の原子核が変換され、新しい放射性同位元素が生成されます。例えば、国立研究開発法人理化学研究所(理化学研究所)のRIビームファクトリーは、二次粒子線2のRIビームを利用して、水素からウランまでの全元素を、世界最大の強度のRIビームとして発生させる加速器施設です(図 7-18)。RIビームファクトリーでは、様々なRI製造が行われており、公益社団法人日本アイソトープ協会を通じて国内の大学や研究機関等に頒布されています。そのほか、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST3)、東北大学先端量子ビーム科学研究センター4が、加速器によるRI製造に取り組んでいます。
原子炉でのRI製造は、原子炉の中にRIの材料となる物質を入れ、原子炉内の中性子を照射することにより行われます。現在、我が国でRI製造・供給を行うことのできる研究用原子炉は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)のJRR-35、京都大学研究用原子炉(KUR6)の2基です。JRR-3では、モリブデン99(Mo-99)及びルテチウム177(Lu-177)の製造試験が実施されています。2024年度は、小線源治療に使われる金198(Au-198)グレイン7について国内需要の4割、イリジウム192(Ir-192)線源8について国内需要の全数を製造出荷した実績があります。
供給されるRIの形態には、容器に密封されたRI(密封RI)と、密封されていないRI(非密封RI)の二つがあります。密封RIは、非破壊検査や計測等の装置、医療機器や衛生材料の滅菌等に使用されています。非密封RIは、生態科学や地球環境化学等の研究分野において動植物等生体内の元素の移動現象や地表の物質の移動現象を追跡できる感度の高いトレーサーとして利用されているほか、医療分野において放射性医薬品等に利用されています。
RIを使用する事業所は2024年度末時点で7,380か所あります(図 7-2)。民間企業では、化学工業、パルプ・紙製造業、鉄鋼業、電気機器製造業等の幅広い業種において使用されています。2005年以降、民間企業の使用事業者数が増えており、これは、2005年に「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(脚注12参照)」で導入された設計認証制度9によって、これまで規制されていなかった機器が改正後に使用の許可若しくは届け出の対象となったことが主な要因です。
図 7-2 RIを使用する事業所数の推移(出典)規制の現状参照表【表2】機関別使用事業所数の推移,原子力規制委員会ウェブサイト(2025年)を基に内閣府作成
7-1-2-2 研究用原子炉
研究用原子炉は、RI製造、燃料・材料照射等にも利用されるとともに、学術研究や産業利用に関わる幅広い研究、施設や装置の利活用を通じた人材育成等が行われています。現在、我が国で稼働している研究用原子炉の主な施設として、原子力機構のJRR-3、NSRR10、京都大学のKUR などがあります。
また、「もんじゅ」サイトを活用し、中性子ビーム利用を主目的とした新たな試験研究炉の検討が進められており、2022年12月に試験研究炉計画の詳細設計段階以降における実施主体として原子力機構が選定されました11。この試験研究炉は、原子力分野の新たな研究開発や人材育成の中核的拠点となっていくことを目指して検討が進められています。7-1-2-3 加速器、X線発生装置等
加速器は、電子、陽子、重陽子、重元素の原子核等の粒子を加速して直接ビームとして取り出したり、試料に照射したりする装置です。また、電子の軌道を曲げる際に発生する非常に強い電磁波として放射光を発生させることもできます。加速器は粒子を直線的に加速する線形加速器と、円軌道を描かせながら次第に加速する円形加速器に大別されます(図 7-4)。一般的には円形加速器が多く利用されています。加速器は大型のものが一般的でしたが、X線や電子線を発生する加速器は小型化・軽量化が進められ、レントゲンや非破壊検査等、利用対象が広がっています。なおX線は、X線発生装置で陰極と陽極の間に高電圧をかけ、陰極から出た熱電子を高速で陽極と衝突させ発生させることができます。
「放射性同位元素等の規制に関する法律」(放射性同位元素等規制法12)の許可を受けて使用されている放射線発生装置(加速器)は、2019年3月末時点で1,747台です(図 7-3)。このうち1,310台は医療機関に設置され、がん治療等に利用されています。そのほか、放射性同位元素等規制法の規制対象とならない低エネルギー電子加速器、イオン注入装置等も民間企業等に多数導入され、コーティング、殺菌・滅菌や半導体製造等に幅広く利用されています。
図 7-3 放射線発生装置の使用許可台数(2019年3月末時点)(出典)公益社団法人日本アイソトープ協会,放射線利用統計2019(第3版)(2021年)を基に内閣府作成
図 7-4 加速器のエネルギーと種類(出典)上坂充,放射線生物学,丸善出版(2022年)
7-2 様々な分野における放射線利用
放射線は、その特性を生かして工業、医療、農業、先端的な科学技術、環境保全、核セキュリティ等の様々な分野で利用され、国民の福祉や生活水準向上等に大きく貢献しています。物質の構造解析や機能理解、新元素の探索、重粒子線やα線放出RI等によるがん治療を始めとして、今後発展していくことが見込まれます。国や大学、研究機関、民間企業が連携して、先端的な利用技術の研究開発や、そのための装置の開発が進められています。
7-2-1 放射線の利用分野の概要
放射線は、私たちの身近なところから最先端の科学技術研究まで社会の様々な分野で広く利用されています(図 7-5)。
国際原子力機関(IAEA13)が2024年9月に公表した原子力関連技術の動向に関する報告書「Nuclear Technology Review 2024」においても、放射線利用の技術動向が紹介されています。工業製品、医療、農業を始め様々な分野での利用が拡大しています。
図 7-5 様々な分野における放射線利用の具体例(出典)河地有木,RIイメージングの研究について~植物RIイメージング研究と未来の農業に資する栽培技術の創出に向けて~,第12回原子力委員会[資料第1号](2025年)、基本コンセプト,J-PARCウェブサイト(2025年)、国産初の次世代フォトンカウンティングCTを目指した臨床研究開始,国立がん研究センターウェブサイト(2025年)、医学部附属病院,山形大学ウェブサイト(2025年)、先端半導体研究センターについて,産業技術総合研究所ウェブサイト(2025年)、作物研究部門,農業・食品産業技術総合研究機構ウェブサイト(2025年)、侵入生物データベース,国立環境研究所ウェブサイト(2025年)を基に内閣府作成
7-2-2 工業分野での利用
放射線の照射により、強度、耐熱性、耐摩耗性等の機能性向上のための高分子材料の改質が行われています。例えば、自動車用タイヤの製造では、加硫工程の前にゴムに電子線を照射することにより、部分的に架橋して強度を増しつつ、形状を保持しながら高品質なラジアルタイヤが製造されています。半導体加工では、X線、電子線や中性子線等を照射することにより、電気的特性の制御や硬化などの材料の特性向上が行われています。また、放射線化学の応用として、極端紫外線(EUV14)を用いて、非常に細い回路や素子の加工を可能とする最先端半導体の量産技術に注目が集まっています。2024年12月、Rapidus株式会社が北海道千歳市に建設中の最先端半導体の開発・生産を行う工場に、我が国で初めてEUV露光装置が搬入されました。
製品を製造したり検査したりする際、部材や製品の厚さ、密度、水分含有量等の精密な測定や非破壊検査等においても、放射線が利用されています。特に、今後インフラのメンテナンスの効率化は非常に重要となっています。老朽化した社会インフラのコンクリート構造物の内部損傷や劣化状態の調査にX線を用いた非破壊検査が行われています。高速道路等の橋梁は、強度の高いプレストレストコンクリート(PC15)構造が多く採用されており、構造強度にとって重要なPC鋼材(鋼線)の設置状態等を把握するためX線透過検査が進められています(図 7-6)。そのほか、製造工程管理、プラントの設備診断、エンジンの摩耗検査、航空機等の溶接部検査等にも広く利用されています。このような測定や検査に用いられるRI装備機器は、2019年3月時点で、厚さ計が2,357台、レベル計が1,235台、非破壊検査装置が971台設置されています16。
図 7-6 X線透過法によるPC鋼材の透過画像(出典)NEXCO東日本,3.95MeV 高出力X線源によるPC橋のグラウト充填調査について,第36回原子力委員会[資料第1号](2024年)
また、製品や材料にγ線や電子線を照射することにより、残留物や副生成物を残すことなく、確実に滅菌を行うことができます(表 7-1)。そのため、注射針等の医療機器、マスク等の衛生用品、化粧品の原料や容器、ペットボトル等の滅菌に広く利用されています。
表 7-1 放射線滅菌方法の比較 項目 電子線滅菌 γ線滅菌 EOG注滅菌 装置種類 電子加速器 放射線源の露出装置(コバルト60) ガス滅菌釜 対象材料 耐放射線性 耐放射線性 耐熱性(60℃程度) 処理方法 連続式 連続式 バッチ式 処理時間 数秒~数分 数時間 数時間 処理単位 連続大量処理が可能 大量処理(電子線滅菌より少) 釜容量単位 後処理 不要 不要 エアレーション・残留ガスのため放置が必要 環境対策 なし 大量の放射性元素を使用
線源等の廃棄物処理が問題発がん性や環境汚染などの規制あり 注:エチレンオキサイドガス(Ethylene Oxide Gas)
(出典)電子線滅菌の性質、原理、ほかの滅菌法との比較,住重アテックス株式会社ウェブサイト(2025年)を基に内閣府作成
7-2-3 医療分野での利用
医療分野では、診断、治療に放射性物質を使った医薬品の利用も進められています。診断では、レントゲン検査、X線CT検査のほか、PET検査やSPECT検査、骨シンチグラフィ等の核医学検査(RI検査)が広く実施されています。治療では、高エネルギーX線・電子線治療、陽子線治療、重粒子線治療、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT17)、小線源治療が進められています。また、放射性医薬品による核医学治療(RI内用療法)等は、今後の更なる進展が期待されるがん等の治療の領域の一つです(特集参照)。
原子力委員会の「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用推進アクションプラン」(2022年決定)では、今後10年間に実現すべき四つの目標、「Mo-99/Tc-99mの一部国産化による安定的な核医学診断体制の構築」「国産RIによる核医学治療の患者への提供」「核医学治療の医療現場での普及」「核医学分野を中心としたラジオアイソトープ関連分野を我が国の『強み』へ」を掲げ、それに向けた具体的なアクションプランを提示しています。また、おおむね1年ごとに関係省庁等から報告を受けてその進捗状況をフォローアップすることとしています。また、同アクションプランにおいては、重要RIの国内原子炉や加速器等を活用した製造や研究開発の取組の強化が示されています。原子力機構の高速実験炉「常陽」についても、運転再開後の医療用等のRI製造への利用に向けた取組について示されています18。
がん治療の治験等の研究が進められているアスタチン211(At-211)については、2027年度の大量安定供給開始を目指し、大阪大学核物理研究センターがアルファ線核医学治療社会実装拠点を整備し、企業と連携して抽出、精製、合成に至るまでの共同研究を実施します。
我が国では、主要なRI医薬品のテクネチウム99m(Tc-99m)の放射平衡上の親核種(原料に相当)であるMo-99の全量を海外から輸入しています。しかし、製造に用いられる原子炉の老朽化や故障、供給元からの輸送トラブル等の課題を抱えており、製品供給が不安定な状況です。そのため、Mo-99の国内製造に向けた取組が進められています。Mo-99の国産化を目指し、国内外の供給側と需要側との間をつなぐ必要な機能について内閣府を中心に検討が進められています(図 7-7)。図 7-7 中間的な事業体の要件(出典)内閣府,重要ラジオアイソトープの国産化を踏まえたサプライチェーンの強化に関する委託調査,第23回原子力委員会[資料第1号](2024年)
7-2-3-1 核医学検査
核医学検査(RI検査)とは、対象となる臓器や組織に集まりやすい性質を持つ化合物にRIを組み合わせた医薬品を経口や静脈注射により投与し、放出されるγ線をガンマカメラやPETカメラを用いて体外から検出し画像化する検査方法19です。γ線の分布や集積量等の情報から、病巣部の位置、大きさ、臓器の変化状態等を精度よく知り、様々な病態や機能を診断することができます。核医学検査では、内部被ばく線量を極力抑えるために半減期の短いRIが選択されます(表 7-2)。脳の血流を見ることのできるSPECT検査ではより精巧な認知症診断が可能となります。
7-2-3-2 粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)
粒子線の照射による腫瘍の治療として、水素原子核を加速した陽子線を利用する陽子線治療と、ヘリウムよりも重い原子核20を加速した重粒子線を利用する重粒子線治療が行われています(図 7-8)。照射された粒子線は、体内組織の特定の深さで停止する直前に周囲へ与えるエネルギーが大きくなる性質があり、エネルギーを与える深さをコントロールすることによりがん細胞を集中的に攻撃することができます。
重粒子線には生物効果(殺細胞効果)や直進性が高いという優れた特性がありますが、治療装置は大型です。このため、QSTでは「量子メス21」と呼ばれる小型治療装置の研究開発が進められています。世界初となるマルチイオン22を用いた重粒子線がん治療が特定臨床研究として開始され、1例目となる治療が2023年に実施されました。陽子線治療及び重粒子線治療は、一部保険適用対象となっており、先進医療として実施されているものもあります。2022年度、2024年度には粒子線治療の保険適用範囲が拡大されました。粒子線治療を実施している医療機関は、図 7-9のとおりです。
図 7-8 重粒子線治療用加速器(シンクロトロン)(出典)重粒子線医学講座,山形大学ウェブサイト(2025年)
図 7-9 粒子線治療を実施している医療機関(2024年度末時点)(出典)先進医療を実施している医療機関の一覧,厚生労働省ウェブサイト(2025年)を基に内閣府作成
7-2-3-3 中性子線ビームを利用したホウ素中性子捕捉療法(BNCT)
BNCTは、中性子線を利用して腫瘍を治療する方法です(図 7-10)。BNCTでは、中性子と核反応(中性子を捕獲)しやすいホウ素10(B-10)を含み、悪性腫瘍に集積する性質を持つ医薬品を患者に投与した後、患部にエネルギーの低い中性子線を照射します。中性子は医薬品が集積していない正常な細胞を透過しますが、医薬品が集積した悪性腫瘍の細胞では医薬品中のB-10に捕獲され、分裂してリチウム7(Li-7)とα線を放出し、これらが悪性腫瘍の細胞を攻撃します。Li-7とα線が飛ぶ距離はごく短く、一般的な細胞の直径を超えないため、悪性腫瘍の細胞のみを選択的に破壊することができます。
現在では、病院内に設置できる加速器を用いた小型BNCTシステムが実用化されています(図 7-11)。2020年6月から、大阪医科薬科大学と総合南東北病院において、小型加速器による一部の腫瘍23に対するBNCTの保険診療が開始され、現在ではこれらのほか、国立がん研究センター等三つの医療機関で治験が開始されています24。
図 7-10 BNCTのイメージ(出典)内閣府作成
図 7-11 BNCT治療の施設(南東北BNCT研究センターの例)(出典)南東北BNCT研究センター,治療の仕組み, 南東北BNCT研究センターウェブサイト(2025年)
7-2-3-4 核医学治療
核医学治療(RI内用療法、標的アイソトープ治療)とは、対象となる腫瘍組織に集まりやすい性質を持つ化合物に粒子線(α線やβ線)を放出するRIを組み合わせた医薬品を患者に投与し、体内で腫瘍に放射線を直接照射して治療する方法です(図 7-12)。核医学治療では、周囲の正常な細胞に影響を与えないようにするために、粒子線の飛ぶ距離が短く、体内に長く留まらないように半減期が短いRIが選択されます。
図 7-12 α線放出RIによる治療例(出典)内閣府,医療用等ラジオアイソトープ(RI)製造・利用促進の検討について(案),第1回医療用等ラジオアイソトープ製造・利用専門部会[資料3](2021年)
現在、多数のRI医薬品が開発され、一部は既に国内において保険診療に用いることが可能となっています25(図 7-13、表 7-2)。また、アクチニウム225(Ac-225)やアスタチン211(At-211)のようなα線放出RIを用いたがん治療の研究も進められています。近年、RI医薬品を用いて治療(Therapeutics)と診断(Diagnostics)を合わせて行う「セラノスティクス」(Theranostics)が注目され始めています。
「第4期がん対策推進基本計画」(2023年閣議決定)でも、粒子線治療や核医学治療等の放射線療法に係る安全な提供体制の在り方について検討するとしており、RIを用いた核医学検査・核医学治療の重要性が増してきています。
2024年2月には、原子力機構と国立がん研究センターの間で、放射性同位元素で標識された薬剤の研究開発及びサプライチェーンの構築の推進に係る協力協定が締結されました。
図 7-13 非密封RIを用いた核医学治療件数(年間)の推移(出典)公益社団法人日本アイソトープ協会,第9回全国核医学診療実態調査報告書(2023年)を基に内閣府作成
表 7-2 代表的な核医学用RIと種類 利用目的 核種 国内承認 半減期 製造装置 主な適用 PET
検査用F-18 ○ 110分 サイクロトロン 悪性腫瘍、虚血性心疾患など Cu-64 - 12.7時間 原子炉
サイクロトロン乳がん、前立腺がんなど Ga-68 - 67.7分 サイクロトロン 前立腺がん、リンパ腫など Zr-89 - 78.4時間 サイクロトロン 乳がん診断など SPECT
検査用Tc-99m ○ 6時間 原子炉
電子ライナックγ線源脳血流検査、腎疾患診断など I-123 ○ 13.2時間 サイクロトロン パーキンソン病診断、心疾患診断など Ga-67 ○ 3.3日 サイクロトロン 悪性腫瘍診断、炎症診断など β線内用
治療用Y-90 ○ 64時間 原子炉 リンパ腫 I-131 ○ 8日 原子炉 甲状腺がん、甲状腺機能亢進症 Cu-67 - 61.8時間 サイクロトロン 髄膜腫、神経芽細胞種など Lu-177 ○ 6.6日 原子炉 ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍など α線内用
治療用Ra-223 ○ 11.4日 ウラン壊変生成物 骨転移のある前立腺がん At-211 - 7.2時間 サイクロトロン 卵巣がんなど Ac-225 - 9.9日 ウラン壊変生成物
サイクロトロン
電子ライナックγ線源前立腺がん、急性骨髄性白血病など 小線源
治療用I-125 ○ 59.4日 原子炉 前立腺がんなど Ir-192 ○ 73.2日 原子炉 前立腺がん、舌がんなど (出典)佐久間一郎/秋吉一成/津本浩平,医用工学ハンドブック, 株式会社エヌ・ティー・エス(2022年)を基に内閣府作成
7-2-4 農業分野での利用
植物にγ線やイオンビームを照射して多様な突然変異体を作り出し、その中から有用な性質を持つものを選抜することにより効率的に品種改良を行うことができます(図 7-14)。これまでに、大粒で日本酒醸造に適した米、黒斑病に強いナシ、斑点落葉病に強いリンゴ、花の色や形が多彩なキクやバラ、冬でも枯れにくい芝等、多数の新品種が作り出されてきました。新品種は、農薬の使用の低減による環境負荷の低減や農業関係者の負担軽減につながるとともに、消費者の多様なニーズに合った商品開発にも貢献しています。近年ではカドミウムの吸収性が低い新たなイネの品種も出てきています。
図 7-14 放射線照射による品種改良のイメージ(出典)さまざまな品種改良の方法,バイオステーションウェブサイト、放射線育種場,旧国立研究開発法人農業生物資源研究所ウェブサイトを基に内閣府作成
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構では、放射線育種場において外部からの依頼による農作物等への照射も行っていましたが、2022年度で照射業務を終了しました。現在、γ線照射はQST高崎量子技術基盤研究所等において、イオンビーム照射は理化学研究所仁科加速器科学研究センター、QST高崎量子技術基盤研究所及び公益財団法人若狭湾エネルギー研究センターにおいて行われています。
食品照射では、食品や農畜産物にγ線や電子線等を照射することにより、発芽防止、殺菌、殺虫等の効果が得られ、食品の保存期間を延長することが可能です。我が国では、施設の老朽化、Co-60の調達コスト等の問題などを踏まえ、2022年度で照射は終了しましたが、海外では、香辛料、生鮮物等の滅菌に放射線が利用されています。
害虫駆除にも放射線が利用されています。γ線照射によって不妊化した害虫を野外に放ち、交尾しても子孫が生まれない確率を上げ、数世代かけて害虫の数を減少させ、最終的に根絶させるという方法です。殺虫剤で駆除しきれない場合にも駆除が可能となるという優れた特徴や、大量の殺虫剤散布による駆除で懸念される人や環境への影響がないという優れた特徴を持ちます。我が国では、沖縄県と奄美群島においてキュウリやゴーヤ等のウリ類に寄生する外来種のウリミバエの根絶、また、沖縄県においてサツマイモの害虫である外来種のアリモドキゾウムシの不妊虫放飼法による根絶が報告されるなどしています。7-2-5 科学技術分野での利用
科学技術分野では、物質科学、宇宙科学、地球科学、考古学、環境科学、生命科学等、幅広い学問分野において、構造解析、材料開発、追跡解析、年代測定などに放射線が利用されおり、また、新しい研究領域や融合領域の開拓、先導的・革新的成果の創出が期待されています。高エネルギー物理、原子核物理、中性子科学等における新たな発見のためにも、放射線(特に量子ビーム)が利用されています。量子ビームは、電子、中性子、陽子、重粒子、電磁波(電離放射線)、ミュオン、陽電子等を細くて強いビームに整えたものの総称です。それぞれの線源と物質との相互作用の特徴を生かして、物質の構造や反応のメカニズムの解析等が行われています。また、不安定核ビームは、不安定核そのものが原子核物理の研究対象であり、その反応は原子力工学にも応用されています。量子ビームを取り出すことができる主な加速器施設や原子炉施設(量子ビーム施設)は図 7-15のとおりです。
2024年度は、文部科学省の量子ビーム利用推進小委員会において、大型放射光施設SPring-826、X線自由電子レーザー施設SACLA27の中間評価、3GeV高輝度放射光施設NanoTerasuのビームラインの計画的な増設等について議論されました。
図 7-15 主な量子ビーム施設(出典)文部科学省
7-2-5-1 中性子ビーム等の利用
量子ビームのうち、大強度パルス中性子源28を使った中性子ビームの利用実験が可能な代表的な施設に、大強度陽子加速器施設(J-PARC29)の物質・生命科学実験施設(MLF30)があります(図 7-16)。
J-PARCでは、加速器で加速した陽子ビームを用いて大強度のパルス中性子を生成し、電気的に中性であり物質を透過しやすい性質や、自転による磁石の性質を持つこと、大強度・短パルスであることなどを利用した実験が行われています。ここでは、物質の結晶・構造解析、磁気的な性質などを調べ、特殊環境でも利用可能な合金の開発や、高効率エネルギー材料の研究を始めとする物質・材料科学などの分野で学理から産業応用まで貢献しています。また、世界最高クラスの中性子実験施設として知られており、国内に限らず海外からの研究者にも利用されています。
MLFには、中性子ビームを利用する装置だけでなく、ミュオンを取り出して利用する装置もあります。ミュオンは電子と同じ仲間の素粒子であり、電磁的な相互作用をします。ミュオンの特性を利用した研究手法31は、物質の磁気的な性質や物質中に存在する微量の水素原子の存在状態の探索等の研究において非常に有効なツールとなっています。また、中性子やミュオンのビームを用いて電解質中のイオンの動きを非破壊で把握するなど、リチウムイオン電池の研究開発に活用している事例もあります。このような電池の大容量化、劣化、安全性に関する研究開発は、電気自動車や再生可能エネルギーの普及のために重要な役割を果たすことが期待されています。
また、ミュオンは物質検知やイメージングにも応用されています。例えば、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID32)により、宇宙線ミュオンを用いて燃料デブリを原子炉外から透視する技術開発が進められました。また、燃料デブリ中に存在する核燃料物質の検知が可能となる技術の開発などが民間事業者にて進められています。
原子炉中性子を利用した実験が可能な代表的施設に原子力機構のJRR-3があります。JRR-3は、2021年に運転を再開して以降、継続的・安定的な運用を達成しており、原子炉から得られる中性子ビームを利用した様々な試験装置が学術研究のみならず、医療、産業分野等(医療用RI製造、エンジンの燃費向上を目的としたオイル挙動分析、タンパク質の構造決定、超高強度鋼板の開発等)に幅広く利用されています。また、2024年には原子炉構造材等に対する中性子照射試験を原子力機構の廃棄物安全試験施設(WASTEF33)と連携で実施し、JMTR の廃止措置により国内で途絶えていた中性子照射試験を一部再開しました。
図 7-16 J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)の実験装置配置概要(出典)J-PARCセンター
7-2-5-2 放射光の利用
放射光とは、光速に近いスピードで直進する電子等の荷電粒子が磁石などによって進行方向をかえられた際に発生する電磁波(電離放射線)を指します。放射光を用いることで、物質の種類や構造、性質を詳しく知ることができます。
大型放射光施設SPring-8は、微細な物質の構造や状態の解析が可能な施設であり、生命科学、環境・エネルギーから新材料開発まで広範な分野において、先端的・革新的な研究開発に貢献しています。研究成果にX線ナノビームを用いた磁石の結晶構造解析があります。資源が偏在する貴重な希土類元素を用いない高性能永久磁石の開発に向けて成果を上げています。また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故後の復興や廃炉作業においても利用されています。粘土鉱物へのセシウム取り込み過程を追跡する福島環境回復研究にはX線吸収微細構造(XAFS35)が利用され、燃料デブリの形成過程の解明にも放射光が利用されています。2025年1月には、2号機から試験的に取り出された燃料デブリがSPring-8等の研究機関に輸送されました。なお、世界では放射光施設の第4世代への高度化が進められている状況を踏まえ、第3世代のSPring-8を現状の100倍以上の輝度を実現する第4世代施設「SPring-8-II」へとアップグレードして国際競争力を維持発展させるための計画が2024年度より着手され、2029年度の共用開始を目指し整備が進められていきます。
X線自由電子レーザー36施設SACLAは、非常に幅の狭いパルス光を利用できるため、X線による試料損傷の影響の低減が期待できるとともに、物質を原子レベルの大きさで、かつ非常に速く変化する様子をコマ送りのように観察することが可能です。SACLAの研究成果として、光合成による水分解反応を触媒とするタンパク質複合体の構造解明研究があります。この研究成果は人工光合成開発への糸口となるもので、エネルギー、環境、食糧問題解決への貢献が期待されています。
3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(図 7-17)は、我が国初の第4世代施設であり、高輝度な軟X線を用いて、物質の機能に影響を与える電子状態の可視化が可能であり、学術研究だけでなく産業利用も含めた広範な分野での利用が期待されています。地域パートナーが整備したコアリションビームラインでは、既に企業ユーザーの活用がなされ、タイヤやリチウム硫黄電池の原材料について、極めて高い解像度で観察することに成功するなど多くの成果が得られています。また、2025年3月からは「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」37に基づく共用が開始されています。同施設は、触媒化学や生命科学、磁性・スピントロニクス、高分子科学などの分野において、機能可視化により新材料・デバイスの創出や研究開発の加速などにつながるなど、日本の競争力の強化に大いに期待されています。2024年度からは、4本目の共用ビームラインの増設にも着手しています。
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NanoTerasu上空写真 蓄積リング エンドステーション図 7-17 3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(出典)QST
7-2-5-3 RIビームの利用
量子ビームのうち、不安定な放射性同位体をビーム状に整えたものがRIビームです。RIビームの利用によって、新たな原子核モデルの構築、元素の起源の解明といった根源的な研究や、新しいRI技術による新産業の創出に貢献することが可能となります。
理化学研究所 仁科加速器科学研究センターのRIビームファクトリー(図 7-18)を利用した大きな研究成果として、新元素「ニホニウム」が理化学研究所を中心とするグループにより発見されました。
宇宙における元素の起源や生成、素粒子の振る舞いの解明等の学術的、基礎的な研究から、植物の遺伝子解析による品種改良技術への適用、RI製造技術の高度化研究等の応用・開発研究まで、幅広い領域での活用が進められています。
図 7-18 RIビームファクトリー(出典)仁科加速器科学研究センター,理化学研究所でのRI製造の取り組み,第24回原子力委員会[資料第2号](2021年)
コラム ~考古学分野における放射線利用~
放射線の利用は、自然科学分野だけでなく考古学等の人文・社会科学分野においても活用されています。
文化財について研究する手法の一つとして、放射性同位元素である炭素14(C-14)の検出による年代測定があります。二酸化炭素を取り込んで生きる植物は、その組織内に炭素が存在します。生きている植物組織内においては、C-14の割合は一定ですが、木材等に加工されるなど植物としての生態機能が止まった後は、C-14はβ崩壊により窒素14(N-14)になることで減少していきます。他の炭素の同位体との比率を測定することにより、C-14の半減期(約5730年)から年代を推定することができます。
また、X線CTによる調査も主に文化財の修復目的で行われます。文化財には、内部構造を備えたものもあります。こうした内部構造は、X線CT撮像で内部を立体的に可視化することにより解明されることもあります。しかし、文化財においてはX線を照射することは劣化につながることもあるため、真に調査が必要なものか判断した上で調査が実施されます。
聖徳太子立像の像内納入品(X線撮像)(出典)X線CTスキャン装置を用いた仏像調査,文化庁ウェブサイト(2021年)
7-3 放射線利用環境の整備
放射線・RIを安全かつ適切に利用するために、様々な規則が定められています。これらの規則は、国際的に合意された放射線防護体系の考え方を取り入れており、科学的知見に基づき策定される国際基準等に照らし必要な更新が行われます。原子力委員会が取りまとめた「原子力利用に関する基本的考え方」(2023年改定)では、核医学・放射線診療分野におけるラジオアイソトープ等の利用拡大に備えて、早期に医療用放射性廃棄物の処理・処分の規定を整備することを重点的取組の1つとしています。
また、放射線防護や線量評価等を実施する際に根拠となるデータを得るための調査・研究や、原子力災害に備えた専門的な被ばく医療人材の育成も進められています。
7-3-1 放射線利用に関する規則
我が国では国際放射線防護委員会(ICRP38)の勧告を踏まえ、放射線業務従事者は実効線量が定められた5年間の平均が20mSv/年、いかなる1年も50mSvを超えないこと(女性は妊娠の可能性を考慮して3か月で5mSvを超えないこと)などの限度が定められています39。一般公衆については、ICRPの勧告では「1年あたり1mSv」と実効線量の限度を定めています。我が国では、一般公衆について実効線量の限度は定められていませんが、事業所境界の線量限度や廃棄排水の基準40は1mSv/年を基に設定しています(図 7-19)。
このほか、放射線利用に関する法規制は図 7-20のようになっています。
図 7-19 放射線防護体系(出典)内閣府作成
図 7-20 放射線利用に係る放射線関係法令(出典)厚生労働省,放射線による健康障害防止に係る法令について,エックス線装置に係る放射線障害防止対策に関する検討会 第1回[資料3](2024年)を基に内閣府作成
放射性同位元素等規制法は、RIや放射線発生装置の使用等を規制することにより、放射線障害を防止し、及び特に危険性の高いRI(特定RI)を防護することによって、公共の安全を確保することを目的としています。ほかにも、放射線障害等から労働者を保護する「労働安全衛生法」、放射線やRI等を診断や治療の目的で用いる際の基準等を定める「医療法」、医薬品等の安全性等の確保のために必要な規制を行う「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)等に基づいて、厳格な安全管理体制の下で放射線利用が進められています。我が国の放射線利用に関する規則は、国際的に合意された放射線防護体系(図 7-21)の考え方を尊重し取り入れています。
図 7-21 放射線防護体系(出典)環境省,放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)(2025年)
医療機関において使用される放射性医薬品のうち、一部の未承認放射性医薬品等41は医療法と放射性同位元素等規制法による二重規制を受ける状況となっていました。この二重規制を解消するため、2022年11月には放射性同位元素等規制法施行令が改正され、2024年1月に施行されました。この改正によって、一部の未承認放射性医薬品等は放射性同位元素等規制法の規制対象から除外されました。
放射線利用を進める上では、それに伴い発生する放射性廃棄物を適切に取り扱うことも重要です。研究開発施設等から発生する RI 廃棄物の処理・処分については、放射性同位元素等規制法における廃棄に係る特例により「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)と放射性同位元素等規制法との間で処理・処分の合理化が図られました42。
また、「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用推進アクションプラン」に基づき、医療機関から発生する放射性廃棄物について、処理・処分の合理化を図るための検討が進められているほか、既存のPET製剤用の4核種43以外に、今後、使用の可能性のある新規PET製剤について、通常の廃棄物として廃棄可能とする条件や方法についての検討が進められています。7-3-2 放射線防護に関する研究と原子力災害医療体制の整備
原子力規制委員会では、放射線源規制・放射線防護による安全確保のための根拠となる調査・研究を推進するため、2017年度から2021年度にかけて「放射線安全規制研究戦略的推進事業」を実施し、原子力規制委員会が実施する規制活動におけるニーズ、国内外の動向や放射線審議会等の動向を踏まえたテーマに沿った研究が実施されました。
2022年度からは「放射線防護のための線量及び健康リスク評価の精度向上に関する研究」が開始され、2026年度まで実施される予定です。本研究は、放射線規制関連法令等への反映を目的とし、放射性物質を体の中に取り込んだときの被ばく線量を適正に評価するための「内部被ばく線量評価コード」の開発と、放射線被ばくによる健康リスクを適正に評価するための「放射線健康リスク評価コード」の開発を行っています。
原子力規制委員会は、従来の緊急被ばく医療体制を十分に活用しつつ、救急医療及び災害医療体制が原子力災害時にも有効に機能するよう「原子力災害拠点病院等の役割及び指定要件」(2024年9月一部改正)を定めています。この指定要件に基づいて、国又は原子力災害対策重点区域44内の道府県により、原子力災害拠点病院、原子力災害医療協力機関、原子力災害医療・総合支援センター、高度被ばく医療支援センター及び基幹高度被ばく医療支援センターが指定又は登録されています(図 7-22)。2025年3月末時点で弘前大学、福島県立医科大学、QST、福井大学、広島大学、長崎大学の6機関が高度被ばく医療支援センターに指定されています。2024年9月の改正では、原子力災害時に全国規模で要員の派遣調整を行える体制を構築するため、全国規模での活動体制を有する原子力災害医療協力機関を国が指定する枠組みが新設されました。
QSTは、原子力災害時の医療体制で高度専門的な被ばく医療を行う高度被ばく医療支援センターにおいて中心的、先導的な役割を担う「基幹高度被ばく医療支援センター」の指定を2019年に受け、内部被ばくの個人線量評価、高度被ばく医療支援センター及び原子力災害医療・総合支援センターの医療従事者や専門技術者等を対象とした高度専門的な教育研修、原子力災害医療に関する研修情報等の一元管理等を行っています。
原子力機構は、外部被ばくや内部被ばくの線量評価に関する研究や関連する基礎データの整備等を進めており、より正確な線量評価が可能となる線量評価システムや日本人のポリゴン45型詳細人体モデルの開発等を行っています。核医学検査や核医学治療に伴う患者の被ばく線量評価のための米国核医学会の線量計算用放射性核種データ集の改訂に貢献する等の成果も上げています。また、近年では建物を考慮した放射性物質の拡散に係る線量評価も実現し、そのシステム46を無償で公開しています。
図 7-22 原子力災害医療の実施体制(出典)内閣府作成
脚注
- Radioisotope
- 加速器により加速された粒子ビームと標的物質との衝突で発生するRIビーム
- National Institutes for Quantum Science and Technology
- 2024年4月に、電子光理学研究センターとサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターが統合、改組
- Japan Research Reactor No.3
- Kyoto University Research Reactor
- 体内に一時的又は半永久的に挿入して治療を行う診療用放射線照射器具。舌がん等の頭頸部がんの治療に用いる
- 病巣部に一時的に挿入して治療を行う診療用放射線照射器具に使用。前立腺がんや舌がん等の治療に用いる
- 放射性同位元素装備機器の放射線障害防止のための設計、使用、保管及び運搬等に関する条件について、原子力規制委員会の認証を受けることができる
- Nuclear Safety Research Reactor
- 第8章8-3-3「原子力機構の研究開発施設の集約化・重点化」を参照
- 2017年、特に危険性の高いRI(特定RI)の防護対策が法の目的に追加され、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」から改名
- International Atomic Energy Agency
- Extreme Ultraviolet Radiation
- Pre-stressed Concrete
- 公益社団法人日本アイソトープ協会,放射線利用統計2019(第3版)(2021年)
- Boron Neutron Capture Therapy
- 常陽については、第8章8-2-4-1「高速実験炉原子炉施設(常陽)」を参照
- 用いるRIが陽電子放出核種の場合はPET(Positron Emission Tomography)、γ線放出核種の場合はSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)
- 一般に治療に利用されているのは炭素原子核
- https://www.qst.go.jp/site/qst-kakushin/39695.html
- 現在の炭素イオンビームを用いた重粒子線治療を高度化し、腫瘍の悪性度に応じて最適な種類のイオンビームを組み合わせて用いるマルチイオン治療により、細胞殺傷効果を更に高めつつも副作用を低減することが期待されている
- 切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌
- https://www.antm.or.jp/information/bnct/
- ヨウ素131(I-131)、イットリウム90(Y-90)、ラジウム223(Ra-223)、ルテチウム177(Lu-177)を用いた医薬品は、医療機関等で保険診療に用いられる医療用医薬品として、薬価基準に収載されている品目リスト(2024年12月6日適用)に掲載。なお、ストロンチウム89(Sr-89)を用いた医薬品「メタストロン注」については、2007年に薬価基準に収載されたものの、製造販売終了に伴い2020年4月1日以降は除外
- Super Photon ring-8 GeV
- SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser
- 100万分の1秒等の短い時間(パルス)に極めて大量の中性子を繰り返し発生させる装置
- Japan Proton Accelerator Research Complex
- Materials and Life Science Experimental Facility
- ミュオンスピン回転・緩和・共鳴法(µSR)
- International Research Institute for Nuclear Decommissioning
- the Waste Safety Testing Facility
- Japan Materials Testing Reactor
- X-ray Absorption Fine Structure:物質にX線を照射することで得られる吸収スペクトルを解析する手法
- X線レーザーを作る方式の一つ。従来の物質中での発光現象を使う方式ではなく、電子を高エネルギー加速器の中で制御して運動させ、それから出る光を利用する方式で、原子からはぎ取られた自由な電子を用いてX線レーザーを作ることがX線自由電子レーザーと呼ばれる由来
- 特に重要な大規模研究施設(特定先端大型研究施設)の計画的な整備及び運用並びに中立・公正な共用が規定。量子ビーム施設では、NanoTerasu以外にSPring-8、SACLA、J-PARCが特定先端大型研究施設として規定
- International Commission on Radiological Protection
- 厚生労働省電離放射線障害防止規則等
- 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等の規制に関する法律等
- 特定臨床研究、再生医療等、先進医療、患者申出療養に用いるもの
- 第6章6-2-1-2「放射性廃棄物処分の安全確保」を参照
- 炭素11(C-11)、窒素13(N-13)、酸素15(O-15)、フッ素18(F-18)の4核種。これら核種の廃棄物は封をしてから7日間管理区域内に保管した後、非放射性廃棄物として廃棄できる
- 原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針における、原子力施設ごとに設定される原子力災害を重点的に実施すべき区域
- ポリゴンと呼ばれる多角形の面を組み合わせることで物体の形状を近似的に再現する手法をポリゴン技術という
- 局所域高分解能大気拡散・線量評価システム LHADDAS: Local-scale High-resolution Atmospheric Dispersion and Dose Assessment System




















