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令和5年度版原子力白書の公表に当たって


原子力委員会委員長 上坂 充


 我が国における原子力の研究、開発及び利用は、原子力基本法にのっとり、これを平和の目的に限り、安全の確保を旨とし、民主的な運営の下に自主的に行い、成果を公開し、進んで国際協力に資するという方針の下、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩、産業の振興、地球温暖化の防止を図り、人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与するべく行われています。


 原子力白書は原子力行政のアーカイブであるとともに、「原子力利用に関する基本的考え方」や、原子力委員会による「決定」や「見解」の内容をフォローする役割も担っており、毎年作成することとしています。今回の白書は、おおむね令和5年度の事柄を取りまとめ、広く国民の皆様にご紹介するものです。


 今回は特集として、「放射線の安全・安心と利用促進に向けた課題の多面性」について紹介しました。昨年度のALPS処理水の海洋放出により、放射性物質の安全性等について国内外で議論が巻き起こりましたが、その背景の一つとして、放射線に関する正確な知識が必ずしも国民に幅広く浸透しておらず、漠然と不安を感じていることが挙げられます。他方で、我々は日常生活を営む上で日々、自然放射線を一定量受けて生活しており、また、放射線は医療、工業、農業等においても利活用が図られており、今日の生活基盤を支える技術ともなっています。こうした中、今後、更なる放射線の利用促進を図るためには、安全性の確保はもとより、社会的受容性、経済性など多面的な側面を考慮して取組を進める必要があります。


 放射線を取り扱う場合は、代替手段との比較などリスクとベネフィットを科学的かつ多面的に評価した上で、国民と共有すること、また、自然放射線量等を参考に、放射線に科学的根拠をもって向き合い、安全に活用していくことも重要です。加えて、国などの原子力・放射線関係者は、公正性・客観性を十分に踏まえて、情報提供や国民との誠実な双方向の対話等を通じて、国民の信頼を得る努力を粘り強く継続していかなければなりません。


 また、白書全体にわたってコラムを充実させました。例えば、諸外国のサプライチェーンの現状や、ロシア・中国の原子力プラント建設の動向について紹介するなど、25個のコラムにわたって様々な情報をわかりやすくまとめています。


 原子力白書が、原子力政策の透明性向上に役立つことを期待するとともに、原子力利用に対する国民の理解を深める際の一助となれば幸いです。


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