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第1章 「安全神話」から決別し、東電福島第一原発事故の反省と教訓を学ぶ

1-1 福島の着実な復興・再生と事故の反省・教訓への対応

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)事故は、福島県民を始め多くの国民に多大な被害を及ぼし、これにより、我が国のみならず国際的にも原子力への不信や不安が著しく高まり、原子力政策に大きな変動をもたらしました。放射線リスクへの懸念等を含む、こうした不信・不安に対して真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を一層進めていくとともに、事故の発生を防止できなかったことを反省し、国内外の諸機関が取りまとめた事故の調査報告書の指摘等を含めて、得られた教訓を生かしていくことが重要です。
 また、事故から12年が経過した現在も、多数の住民の方々が避難を余儀なくされ、風評被害等の課題が残る等、事故の影響が続いています。東電福島第一原発事故及び福島の復興・再生は我が国の今後の原子力政策の原点です。福島の復興・再生に向けて全力で取り組み続けることは重要であり、引き続き以下のような取組が進められています。

  • ・ALPS1処理水の処分を含む東電福島第一原発の廃炉と事故状況の究明
  • ・放射性物質に汚染された廃棄物の処理施設、中間貯蔵施設の整備と、廃棄物や除去土壌等の輸送、貯蔵、埋立処分等
  • ・避難指示の解除と、避難住民の方々の早期帰還に向けた安全・安心対策、事業・生業の再建や風評被害対策等の生活再建に向けた支援への取組
  • ・福島イノベーション・コースト構想や福島国際研究教育機構を始めとした、復興・再生に向けた取組

(1)東電福島第一原発事故の調査・検証

① 東電福島第一原発事故に関する調査報告書

 事故後、国内外の諸機関が事故の調査・検証を行い、多くの提言等を取りまとめ、事故調査報告書として公表してきました(表 1-1)。

 国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」という。)の報告書では、規制当局に対する国会の監視、政府の危機管理体制の見直し、被災住民に対する政府の対応、電気事業者の監視、新しい規制組織の要件、原子力法規制の見直し、独立調査委員会の活用、の七つの提言が出されました。提言を受けて政府が講じた措置については、国会への報告書を当面の間毎年提出することが義務付けられており2 、政府は年度ごとに報告書を取りまとめ、国会に提出しています。2021年度に政府が講じた主な措置は、2022年6月に閣議決定された「令和3年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」に取りまとめられています。

 政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(以下「政府事故調」という。)の報告書においても、安全対策・防災対策の基本的視点に関するもの、原子力発電の安全対策に関するもの、原子力災害に対応する態勢に関するもの、被害の防止・軽減策に関するもの、国際的調和に関するもの、関係機関の在り方に関するもの、継続的な原因解明・被害調査に関するものの7項目についての提言が出されました。政府は、これらの提言を受けて講じた措置についても、報告書を取りまとめています。


表1-1 東京電力福島原子力発電所事故に関する主な事故調査報告書
報告書名 発行元 発行年月
東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調) 2012年7月
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調) 2012年7月
福島原子力事故調査報告書 東京電力株式会社 2012年6月
福島原発事故独立検証委員会
調査・検証報告書
福島原発事故独立検証委員会(民間事故調) 2012年2月
福島原発事故10年検証委員会
民間事故調最終報告書
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ 2021年2月
福島第一原子力発電所事故
その全貌と明日に向けた提言
-学会事故調 最終報告書-
一般社団法人日本原子力学会
東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(学会事故調)
2014年3月
学会事故調最終報告書における提言への取り組み状況(第1回調査報告書) 一般社団法人日本原子力学会
福島第一原子力発電所廃炉検討委員会
2016年3月
福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会報告における提言の実行度調査-10年目のフォローアップ- 一般社団法人日本原子力学会
学会事故調提言フォローワーキンググループ
2021年5月
The Fukushima Daiichi Accident Report by the Director General 国際原子力機関(IAEA) 2015年8月
The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: OECD/NEA Nuclear Safety Response and Lessons Learnt 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA) 2013年9月
Five Years after the Fukushima Daiichi Accident: Nuclear Safety Improvement and Lessons Learnt 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA) 2016年2月
Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Ten Years On Progress, Lessons and Challenges 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA) 2021年3月

(出典)各報告書等に基づき作成


② 事故原因の解明に向けた取組

 国会事故調や政府事故調、国際原子力機関(IAEA 3 )事務局長報告書等において、事故の大きな要因は、津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあるとされています。

 原子力規制委員会では、国会事故調報告書において未解明問題として指摘されている事項について継続的に調査・分析を行っており、2014年10月に「東京電力福島第一原子力発電所事故の分析 中間報告書」を、2021年3月に「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ~2019年9月から2021年3月までの検討~」を公表しました。2023年3月には、2021年3月の中間取りまとめに盛り込んだ内容の一部に対して更なる検討等を加えた「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2023年版)」を公表しました。今後の廃炉作業の進捗等に伴って明らかにされる事項等の存在も念頭に、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)の取組も踏まえつつ、原子力規制委員会において調査・分析を継続することとしています。なお、原子力規制委員会は、事故分析と廃炉作業を両立するために必要な事項について関係機関と公開で議論・調整する場として「福島第一原子力発電所廃炉・事故調査に係る連絡・調整会議」を設置しており、2022年度は当該会議が2回開催されました。

 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA4 )は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)を運営機関として「福島第一原子力発電所の原子炉建屋及び格納容器内情報の分析(ARC-F5 )」プロジェクトを2019年1月から開始しました。同プロジェクトは、詳細に事故の状況を探り、今後の軽水炉の安全性向上研究に役立てることを目的としたものです。2022年7月には、後継となる「福島第一原子力発電所事故情報の収集及び評価(FACE6 )プロジェクト」の第一回の会合がフランスのパリで開催され、プロジェクトの展望と課題、損傷した原子炉内部に関する最近の研究について議論されました。また、OECD/NEAは、「福島第一原子力発電所の事故進展シナリオ評価に基づく燃料デブリと核分裂生成物の熱力学特性の解明に係る協力(TCOFF7 )プロジェクト」の第2フェーズを2022年8月から開始しました。2017年から2020年までの第1フェーズで得られた成果をベースに東電福島第一原発以外も含めた検討を行うなど、範囲を拡大した取組が実施されます。2023年2月には東京で第一回会合が開催されました8


(2)福島の復興・再生に向けた取組

① 被災地の復興・再生に係る基本方針

 東電福島第一原発事故により、発電所周辺地域では地震と津波の被害に加えて、放出された放射性物質による環境汚染が引き起こされ、現在も多数の住民の方々が避難を余儀なくされるなど、事故の影響が続いています。このような状況に対処するため、政府一丸となって福島の復興・再生の取組を進めています(図 1-1)。

 2021年4月には、「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の下に「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」が設置されました。廃炉・汚染水・処理水対策チームは東電福島第一原発の廃炉や汚染水・処理水対策への対応、原子力被災者生活支援チームは避難指示区域の見直しや原子力被災者の生活支援等の役割を担っています。復興庁は、復旧・復興の取組として、長期避難者への対策や早期帰還の支援、避難指示区域等における公共インフラの復旧等の対応を行っています。環境省は、放射性物質で汚染された土壌等の除染や廃棄物処理、除染に伴って発生した土壌や廃棄物を安全に集中的に管理・保管する中間貯蔵施設の整備、ALPS処理水に係る海域モニタリング等に取り組んでいます。福島の現地では、原子力災害対策本部の現地対策本部、廃炉・汚染水・処理水対策現地事務所、復興庁の福島復興局、環境省の福島地方環境事務所が対応に当たっています。



福島の復興に係る政府の体制(2023年3月時点)

図1-1 福島の復興に係る政府の体制(2023年3月時点)

(出典)復興庁「福島の復興・再生に向けた取組」(2023年)


 東日本大震災から12年が経過する中、2021年度から2025年度までの5年間は「第2期復興・創生期間」と位置付けられています。2021年3月には「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興の基本方針」が閣議決定され、福島の復興・再生には中長期的な対応が必要であり、第2期復興・創生期間以降も引き続き国が前面に立って取り組むことが示されました。避難指示が解除された地域における生活環境の整備、長期避難者への支援、特定復興再生拠点区域の整備、福島イノベーション・コースト構想の推進、福島国際研究教育機構の取組、事業者・農林漁業者の再建、風評の払拭に向けた取組等を引き続き進めるとともに、新たな住民の移住・定住の促進、交流人口・関係人口の拡大等を行い、第2期復興・創生期間の5年目に当たる2025年度に復興事業全体の在り方の見直しを行うとしています。

② 放射線影響への対策

1) 避難指示区域の状況

 東電福島第一原発事故を受け、年間の被ばく線量を基準として、避難指示解除準備区域9 、居住制限区域10 、帰還困難区域11 が設定されました。避難指示の解除は、①空間線量率で推定された年間積算線量(図1-3)が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信等の日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便等の生活関連サービスがおおむね復旧すること、子供の生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議の3要件を踏まえて行われます。2020年3月には、全ての避難指示解除準備区域、居住制限区域の避難指示が解除されるとともに、帰還困難区域内に設定された特定復興再生拠点区域12 の一部区域13 の避難指示も解除されました。2022年6月には大熊町と葛尾村、同年8月には双葉町、2023年3月には浪江町の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、富岡町、飯舘村は2023年春頃の避難指示解除を目指し、帰還環境整備が進められました14 (図1-4)。
 帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域外については、2020年12月に決定された「特定復興再生拠点区域外の土地活用に向けた避難指示解除について」(原子力災害対策本部)に基づき、意向を有する地元自治体を対象として、土地活用に向けた避難指示解除の仕組みを運用しています15。また、2021年8月に決定された「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」(原子力災害対策本部・復興推進会議)に基づき、2020年代をかけて、帰還に関する意向を個別に丁寧に把握した上で、帰還に必要な箇所を除染し、避難指示解除の取組を進めていくこととしています(図1-2)。2023年2月には、特定復興再生拠点区域外において避難指示解除による住民の帰還及び当該住民の帰還後の生活の再建を目指す「特定帰還居住区域(仮称)」を創設する「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、第211回国会に提出されました。「特定帰還居住区域(仮称)」は、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成していた、かつ、事故前の住居で生活の再建を図ることができること、③計画的かつ効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることを要件とし、帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で設定されます。これにより、避難指示解除の取組を着実に進め、帰還意向のある住民の帰還の実現・居住人口の回復を通じた自治体全体の復興を後押ししていくこととしています。


特定復興再生拠点区域外の避難指示解除の流れ

図1-2 特定復興再生拠点区域外の避難指示解除の流れ

(出典) 内閣府原子力被災者生活支援チームにおいて作成


空間線量から推計した年間積算線量の推移

図1-3 空間線量から推計した年間積算線量の推移

(注)黒枠囲いのエリアは帰還困難区域。
(出典)文部科学省「文部科学省による第4次航空機モニタリングの測定結果について」(2011年)及び原子力規制委員会「福島県及びその近隣県における航空機モニタリングの結果について」(2023年)に基づき内閣府原子力被災者生活支援チーム作成


避難指示区域の変遷

図1-4 避難指示区域の変遷

(出典)内閣府原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域の見直しについて」(2013年)、第11回原子力委員会資料第2号 内閣府原子力被災者生活支援チーム「福島における避難指示解除と本格復興に向けて」(2022年)等に基づき作成


2) 食品中の放射性物質への対応

 2012年4月に、厚生労働省では、より一層の食品の安全と安心の確保をするために、事故後の緊急的な対応としてではなく、長期的な観点から新たな基準値を設定しました。この基準値は、コーデックス委員会16 が定めた国際的な指標を踏まえ、食品の摂取により受ける放射線量が年間1ミリシーベルトを超えないようにとの考え方で設定されています(図1-5)。


食品中の放射性物質の新たな基準値の概要

図1-5 食品中の放射性物質の新たな基準値の概要

(出典)厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値」(2012年)


 食品中の放射性物質については、原子力災害対策本部の定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(2011年4月策定、2023年3月改正)を踏まえ、17都県17 を中心とした地方公共団体によって検査が実施されています。農林水産物に含まれる放射性物質の濃度水準は低下しており、2018年度以降は、キノコ・山菜類、水産物を除き、基準値を超過した食品は見られなくなっています(表1-2)。
 福島県産米については、2012年から全量全袋検査により安全性の確認が行われてきましたが、カリウム肥料の追加施用による放射性物質の吸収抑制等の徹底した生産対策も奏功し、2015年からは基準値を超えるものは検出されていません。そのため、2020年産米からは、被災12市町村18 を除く福島県内全域において、全量全袋検査から旧市町村19 ごとに3点の検査頻度で実施するモニタリングへと移行しています。また、2022年度産米から広野町と川内村についてもモニタリングへと移行しています。
 また、厚生労働省は、全国15地域で実際に流通する食品を対象に、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量の推定を行っています。2022年2・3月の調査では、年間上限線量(年間1ミリシーベルト)の0.1%以下と推定されています20
 諸外国・地域では、東電福島第一原発事故後に輸入規制措置が取られました。2022年7月26日時点で、規制措置を設けた55の国・地域のうち、43の国・地域で規制措置が撤廃され、輸入規制を継続している国・地域は12になっています(表 1-3)。2022年度は、英国とインドネシアで輸入規制措置が撤廃されました。風評被害を防ぐとともに、輸入規制の緩和・撤廃に向け、我が国における食品中の放射性物質への対応等について、より分かりやすい形で国内外に発信していくなどの取組を継続しています21


表1-2 農林水産物の放射性物質の検査結果(17都県)
品目 基準値超過割合
2020年度注1 2021年度注1 2022年度注1

(~12 月31 日)

農畜産物 0% 0% 0%
0% 0% 0%
豆類 0% 0% 0%
野菜類 0% 0% 0%
果実類 0% 0% 0%
注2 0% 0% 0%
その他地域特産物 0% 0% 0%
原乳 0% 0% 0%
肉・卵(野生鳥獣肉除く) 0% 0% 0%
キノコ・山菜類 1.4% 1.2% 0.9%
水産物注3 0.02% 0.03% 0.02%

(注1)穀類(米、大豆等)について、生産年度と検査年度が異なる場合は、生産年度の結果に含めている。
(注2)飲料水の基準値(10Bq/kg)が適用される緑茶のみ計上。
(注3)水産物については全国を集計。
(出典)農林水産省「令和4年度の農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(令和4年4月~)」に掲載の「平成23年3月~現在(令和4年12月31日時点)までの検査結果の概要」に基づき作成



表1-3 諸外国・地域の食品等の輸入規制の状況(2022年7月26日時点)
規制措置の内容/国・地域数 国・地域名
事故後輸入規制を措置

55
規制措置を撤廃した国・地域

43
カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、豪州、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン、モーリシャス、カタール、ウクライナ、パキスタン、サウジアラビア、アルゼンチン、トルコ、ニューカレドニア、ブラジル、オマーン、バーレーン、コンゴ民主共和国、ブルネイ、フィリピン、モロッコ、エジプト、レバノン、アラブ首長国連邦(UAE22 )、イスラエル、シンガポール、米国、英国、インドネシア
輸入規制を継続して措置

12
一部の都県等を対象に輸入停止

5
韓国、中国、台湾、香港、マカオ
一部又は全ての都道府県を対象に検査証明書等を要求

7
欧州連合(EU)、欧州自由貿易連合(EFTA23 (アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン))、フランス領ポリネシア、ロシア

(注1)規制措置の内容に応じて分類。規制措置の対象となる都道府県や品目は国・地域によって異なる。
(注2)タイ及びUAE 政府は、検疫等の理由により輸出不可能な野生鳥獣肉を除き撤廃。
(注3)北アイルランドについては、英EU 間の合意に基づき、EU による輸⼊規制が継続。
(出典)農林水産省「原発事故による諸外国・地域の食品等の輸入規制の緩和・撤廃」(2022年)に基づき作成


③ 放射線影響の把握

1) 放射線による健康影響の調査

 福島県は県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的に、県民健康調査を実施しています(図1-6)。この中では基本調査と詳細調査が実施されており、個々人が調査結果を記録・保管できるようにしています。国は、交付金を拠出するなど、県を財政的に支援しています。
 国は2015年2月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間取りまとめを踏まえた環境省における当面の施策の方向性」に基づき、事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進、福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、リスクコミュニケーション事業の継続・充実の取組を進めています。
 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR24 )は2021年3月に、東電福島第一原発事故による放射線被ばくとその影響に関して、2019年末までに公表された関連する全ての科学的知見を取りまとめた報告書を公表しました。同報告書では、被ばく線量の推計、健康リスクの評価を行い、放射線被ばくによる住民への健康影響が観察される可能性は低い旨が記載されています25 。また、同報告書はUNSCEARの2013年報告書の主な知見と結論を概して確認するものであった、としています。


福島県における県民健康調査の概要

図1-6 福島県における県民健康調査の概要

(出典)ふくしま復興ステーション「県民健康調査について」


2) 東電福島第一原発事故に係る環境放射線モニタリング

 東電福島第一原発事故に係る放射線モニタリングを確実かつ計画的に実施することを目的として、政府は原子力災害対策本部の下にモニタリング調整会議を設置し、「総合モニタリング計画」(2011年8月決定、2023年3月改定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して放射線モニタリングを実施しています。その結果は原子力規制委員会から「放射線モニタリング情報26 」として公表されており、特に空間線量率については、全国のモニタリングポストによる測定結果をリアルタイムで確認できます。
 また、原子力規制委員会では、帰還困難区域等のうち、要望のあった浪江町、大熊町、富岡町、楢葉町、葛尾村、双葉町の区域を対象として、測定器を搭載した測定車による走行サーベイ及び測定器を背負った測定者による歩行サーベイも実施しています(図 1-7)


富岡町における走行サーベイ及び歩行サーベイの結果(2021年9月6日~8日測定)

図1-7 富岡町における走行サーベイ及び歩行サーベイの結果(2021年9月6日~8日測定)

(出典)原子力規制委員会「帰還困難区域等を対象とした詳細モニタリング結果について」(2022年)


 海洋モニタリングについては、データの信頼性及び透明性の維持向上のため、IAEAとの協力により、2014年から、東電福島第一原発近傍の海洋試料を共同採取の上、それぞれの分析機関が個別に分析を行い、結果を比較する分析機関間比較を実施しています。2022年6月にIAEAが公表した2021年の実施結果をまとめた報告書では、海洋モニタリング計画に参画している我が国の分析機関が引き続き高い正確性と能力を有していると評価されました。ALPS処理水に係る海域モニタリングについては、2021年3月にモニタリング調整会議の下に「海域環境の監視測定タスクフォース」を設置し、関係機関で連携して取り組んでいます。2023年2月にはトリチウム等に係るモニタリング結果等を掲載する「ALPS処理水に係る海域モニタリング情報」サイト27 が公開されました。また、ALPS処理水の安全性に関するIAEAのレビューの一部として、我が国のALPS処理水に係る海域モニタリングの結果の裏付けを行うためIAEAが分析機関間比較評価を行います。

④ 放射性物質による環境汚染からの回復に関する取組と現状

1) 除染の取組

 「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき、福島県内の11市町村の除染特別地域については国が除染を担当し、そのうち帰還困難区域を除く地域については2017年3月に面的除染が完了しました。その他の地域については、国が汚染状況重点調査地域を指定して市町村が除染を実施し、2018年3月に面的除染が完了しました。また、特定復興再生拠点区域では、区域内の帰還環境整備に向けた除染・インフラ整備等が集中的に実施されています。

2) 除染に伴い発生した除去土壌及び放射性物質に汚染された廃棄物の処理28
イ) 除去土壌及び廃棄物の処理における役割分担

 放射性物質汚染対処特措法に基づき、除染特別地域において発生した除去土壌等及び汚染廃棄物対策地域29(以下「対策地域」という。)の廃棄物については、国が収集・運搬・保管及び処分を担当することとされています。その他の地域については、8,000Bq/kg超の廃棄物は国が、それ以外の除去土壌及び廃棄物は市区町村又は排出事業者が、それぞれ処理責任を負うこととされています。
 なお、放射能濃度が8,000Bq/kg以下に減衰した指定廃棄物については、通常の廃棄物と同様に管理型処分場等で処分することができます。指定解除後の廃棄物の処理については、国が技術的支援及び財政的支援を行うこととしています。

ロ) 福島県における除去土壌等及び特定廃棄物の処理

 福島県内の除染に伴い発生した除去土壌等については、中間貯蔵施設に輸送され、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることとされています(図 1-8左)。2023年3月末時点で累積約1,346万m3の除去土壌等(帰還困難区域を含む)の搬入が完了しており、2022年1月に環境省が公表した「令和5年度(2023年度)の中間貯蔵施設事業の方針」では、特定復興再生拠点区域等で発生した除去土壌等の搬入を進めること等が示されています。
 福島県における除去土壌等以外の廃棄物については、放射能濃度が8,000Bq/kgを超え環境大臣の指定を受けた「指定廃棄物」と、対策地域にある廃棄物のうち一定要件に該当する「対策地域内廃棄物」の二つを、合わせて「特定廃棄物」と呼びます(図 1-8右)。2023年3月末時点で約41万tが指定廃棄物として指定を受けており、2023年3月末時点で対策地域内の災害廃棄物等約333万tの仮置場への搬入が完了しました。これらの災害廃棄物等は、仮設焼却施設により減容化を図るとともに、金属くず、コンクリートくず等は安全性が確認された上で、再生利用を行っています。特定廃棄物のうち、放射能濃度が10万Bq/kgを超えるものは中間貯蔵施設に、10万Bq/kg以下のものは富岡町にある既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)に搬入することとされており、2023年3月末時点で累計269,376袋の廃棄物が管理型処分場へ搬入されています。また、当該処分場に搬入する廃棄物のうち放射性セシウムの溶出量が多いと想定される焼却飛灰等については、安全に埋立処分できるよう、セメント固型化処理が行われています。


福島県における除去土壌等及び特定廃棄物の処理フロー

図1-8 福島県における除去土壌等及び特定廃棄物の処理フロー

(出典)環境省「被災地の復興・再生に向けた環境省の取組」(2022年)に基づき作成

ハ) 福島県における除去土壌等の中間貯蔵及び最終処分に向けた取組

 福島県内の除去土壌等及び10万Bq/kgを超える特定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設が整備されています。中間貯蔵施設については、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」(平成15年法律第44号)において「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」こととされています。県外最終処分の実現に向けて、最終処分量を低減するため、除去土壌等の減容・再生利用に係る技術開発の検討が進められるとともに、除去土壌再生利用の実証事業を実施してきました。

 2022年度は、飯舘村長沼地区における実証事業で、農地造成、水田試験及び花き類の栽培試験を実施しました。これまでに飯舘村長沼地区の実証事業で得られた結果からは、空間線量率等の上昇は見られず、盛土の浸透水の放射能濃度は概ね検出下限値未満となっています。また、福島県外においても実証事業を実施すべく、関係機関等との調整を開始しました。

 減容・再生利用技術の開発に関しては、2022年度も大熊町の中間貯蔵施設内に整備している技術実証フィールドにおいて、中間貯蔵施設内の除去土壌等も活用した技術実証を行いました。また、2022年度は双葉町の中間貯蔵施設内において、仮設灰処理施設で生じる飛灰の洗浄技術・安定化に係る基盤技術の実証試験を開始しました。

 そして、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向け、減容・再生利用の必要性・安全性等に関する全国での理解醸成活動の取組の一つとして、2022年度は2021年度に引き続き、全国各地で対話フォーラムを開催しており、これまで、第5回を広島市内で2022年7月に、第6回を高松市内で同年10月に、第7回を新潟市内で2023年1月に、第8回を仙台市内で同年3月に開催しました。さらに、2022年度も引き続き、一般の方向けに飯舘村長沼地区の実証事業に係る現地見学会を開催したほか、大学生等への環境再生事業に関する講義、現地見学会等を実施する等、次世代に対する理解醸成活動も実施しました。

 加えて、中間貯蔵施設にて分別した除去土壌の表面を土で覆い、観葉植物を植えた鉢植えを、2020年3月以降、首相官邸、環境省本省内の環境大臣室等、新宿御苑や地方環境事務所等の環境省関連施設や関係省庁等に設置を進めています。なお、鉢植えを設置した前後の空間線量率にいずれも変化は見られていません。

ニ) 福島県以外の都県における除去土壌等及び指定廃棄物の処理

 福島県以外では、2022年12月末時点で9都県30 において約2.4万tが指定廃棄物として指定を受けています。指定廃棄物が多量に発生し、保管がひっ迫している宮城県、栃木県及び千葉県では、国が当該県内に長期管理施設を設置する方針であり、また、茨城県及び群馬県では、8,000Bq/kg以下になったものを、指定解除の仕組み等を活用しながら段階的に既存の処分場等で処理する方針が決定されるなど、各県の実情に応じた取組が進められています(図 1-9)。


福島県以外の都県における除去土壌等及び指定廃棄物の処理フロー

図1-9 福島県以外の都県における除去土壌等及び指定廃棄物の処理フロー

(出典)第2回原子力委員会資料第1号 環境省「東日本大震災からの被災地の復興・再生に向けた環境省の取組」(2021年)


⑤ 被災地支援に関する取組と現状

1) 早期帰還に向けた支援の取組

 避難指示区域からの避難対象者数は、2023年4月時点では約8千人31 となっています。事故から12年が経過し、帰還困難区域を除く地域では避難指示が解除され、福島の復興及び再生に向けた取組には着実な進展が見られる一方で、避難生活の長期化に伴って、健康、仕事、暮らし等の様々な面で引き続き課題に直面している住民の方々もいます。復興の動きを加速するため、早期帰還支援、新生活支援の対策、安全・安心対策の充実、帰還支援への福島再生加速化交付金の活用、帰還住民のコミュニティ形成の支援等の取組に、国と地元が一体となって注力しています。
 帰還困難区域においては、2018年5月までに、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村の特定復興再生拠点区域復興再生計画が認定されました。このうち、大熊町、葛尾村は2022年6月に、双葉町では同年8月に、浪江町では2023年3月に、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されました。また、富岡町、飯舘村は2023年春頃の特定復興再生拠点区域の避難指示解除を目指し、帰還環境整備が進められました32

2) 生活の再建や自立に向けた支援の取組

 2015年8月に国、福島県、民間の構成により創設された「福島相双復興官民合同チーム」は、12市町村の被災事業者や農業者を個別に訪問し、専門家によるコンサルティングや国の支援策の活用等を通じ、事業再開や自立を支援しています。また、分野横断・広域的な観点から、生活・事業環境整備のためのまちづくり専門家支援や、域外からの人材の呼び込み、域内での創業支援にも取り組んでいます。2021年6月には、浜通り地域等15市町村の水産仲買・加工業者への個別訪問を開始し、販路開拓や人材確保等の支援を実施しています。

3) 新たな産業の創出・生活の開始に向けた広域的な復興の取組

 2015年7月、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」において、30年から40年後の姿を見据えた2020年の課題と解決の方向が提言として取りまとめられました。2020年を提言の中期的な目標年としていたことから、2021年3月に同有識者検討会の提言が見直され、持続可能な地域・生活の実現、広域的な視点に立った協力・連携、世界に貢献する新しい福島型の地域再生という基本的方向の下、創造的復興を成し遂げた姿が示されました。
 これらの取組の一つにも挙げられている「福島イノベーション・コースト構想」は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すものです。廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の六つの重点分野において、取組を推進しています。ロボット分野では、ロボットやドローンの実証等の拠点として「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市、浪江町)の運営を支援しており、エネルギー分野では、「福島水素エネルギー研究フィールド」(浪江町)において再生可能エネルギー由来の水素製造を行う等の取組を行っています。
 さらに、福島イノベーション・コースト構想を更に発展させ、福島を始め東北の復興を実現するための夢や希望となるとともに、我が国の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献する、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」として、「福島国際研究教育機構」(F(エフ)-REI(レイ)33 )の整備に向けた取組が進められました(図 1-10)。
 2022年3月に、復興推進会議において「福島国際研究教育機構」の基本構想が決定され、同機構が持つ研究開発機能、産業化機能、人材育成機能、司令塔機能の内容等が示されました。また、同年5月に公布された「福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)の一部を改正する法律」(令和4年法律第54号)において、福島国際研究教育機構の設立と同機構の研究開発等に関する基本計画の策定が法定化されました。同年8月には機構の研究開発等に関する基本計画である「新産業創出等研究開発基本計画」が決定され、9月には機構を浪江町に立地することが決定されました。11月からは福島国際研究教育機構設立委員会が開催され、2023年4月の機構設立に向けた準備がされました34


福島国際研究教育機構(2023年4月設立)の概要

図1-10 福島国際研究教育機構(2023年4月設立)の概要

(出典)第1回福島国際研究教育機構設立委員会資料3 復興庁「福島国際研究教育機構(F-REI)の概要及びこれまでの設立準備状況について」(2022年)


4) 風評払拭・リスクコミュニケーションの強化

 2017年に復興庁を中心とした関係府省庁において取りまとめられた「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」では、科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことなどに主たる原因があるとしています。同戦略に基づき、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から、政府一体となって国内外に向けた情報発信等に取り組んでいます。例えば、「知ってもらう」取組として、復興庁作成のUNSCEARの報告書解説動画「【医師がやさしく解説】国連機関発表/福島の原発事故による放射線の健康影響35 (2021年12月公開)」などのメディアミックスによる情報発信や、学校における放射線副読本36 の活用の促進等を実施しています。
 取組状況については、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」において継続的なフォローアップが行われています。2021年8月に開催された同タスクフォースでは、同年4月に「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(以下「ALPS処理水の処分に関する基本方針」という。)が公表されたことを受け、安全性のみならず、消費者等の「安心」につなげることを意識しつつ、届けて理解してもらう情報発信を関係府省庁が連携して展開すること等の考え方に立った「ALPS処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ」を取りまとめました。2022年4月26日には同パッケージが改訂され、関係府省庁において情報発信等の取組が強化されています37
 また、復興庁は、風評被害の払拭と風化対策を図るための情報発信の手法を考える「持続可能な復興広報を考える検討会議」を設置し、2023年3月に議論の結果を取りまとめた報告書を公表しました。今後、同会議での有識者等による提案や助言を反映して、関係府省庁がそれぞれ取組を実施していきます。例えば、外務省が海外に向けて専門家や地元漁業者のインタビュー等を交えてALPS処理水について説明する番組や動画を放送・配信することや、農林水産省が海外の専門家に対して水産物の安全性に関するモニタリングの方法や結果等について説明することが盛り込まれています。


5) 原子力損害賠償の取組

 我が国においては、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度である「原子力損害の賠償に関する法律」(昭和36年法律第147号)が制定されています。同法に基づき、文部科学省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」(以下「審査会」という。)において、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のために、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針(以下「中間指針」という。)を順次策定するとともに、必要に応じて見直しを行ってきました。直近では、東電福島第一原発事故に伴う7つの集団訴訟に関して、東京電力の損害賠償額に係る部分の高裁判決が2022年3月に確定したことを受け、審査会の専門委員による各高裁判決の詳細な調査・分析を踏まえ、同年12月に中間指針第五次追補を策定しました。
 中間指針第五次追補では、損害額の目安が賠償の上限ではないことはもとより、中間指針で示されなかったものや対象区域として明示されなかった地域が直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものはすべて賠償の対象となるとしています。さらに、東京電力に対し、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応を求めています。
 原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給等の確保を図るため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF38)は、原子力事業者からの負担金の収納、原子力事業者が損害賠償を実施する上での資金援助、損害賠償の円滑な実施を支援するための情報提供及び助言、廃炉の主な課題に関する具体的な戦略の策定、廃炉に関する研究開発の企画・進捗管理、廃炉等積立金制度に基づく廃炉の推進、廃炉の適性かつ着実な実施のための情報提供を実施しています。また、原子力損害賠償紛争解決センターにおいては、事故の被害を受けた方からの申立てにより、仲介委員が当事者双方から事情を聴き取り、損害の調査・検討を行い、和解の仲介業務を実施しています(図 1-11)。
 東京電力は中間指針等を踏まえた損害賠償を実施しており、2023年3月末時点で、総額約10兆7,200億円の支払を行っています。


原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援

図1-11 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援

(出典)経済産業省「平成26年度 エネルギー白書」(2015年)に基づき作成


 なお、2023年2月に原子力委員会が決定した「原子力利用に関する基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)では、原子力事業者と国との役割分担の在り方等について、引き続き慎重な検討が必要であるとしています。また、国際的な原子力損害賠償体制構築に向けて、我が国が締結している「原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)」について、近隣諸国を始めとする各国に対しても締結を働きかけるなどの対応を図っていくこととしている、と記載しています(表 1-4)。


表 1-4 諸外国の原子力損害賠償制度の概要

原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援

(出典) 原子力委員会 第1回原子力損害賠償制度専門部会「諸外国の原子力損害賠償制度の概要」(2015 年)を基に作成。



  1. Advanced Liquid Processing System
  2. 国会法(昭和22 年法律第79 号)附則第11 項において規定。
  3. International Atomic Energy Agency
  4. Organisation for Economic CO-operation and Development/Nuclear Energy Agency
  5. Analysis of Information from Reactor Building and Containment Vessels of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
  6. Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Accident Information Collection and Evaluation
  7. Thermodynamic Characterisation of Fuel Debris and Fission Products Based on Scenario Analysis of Severe Accident Progression at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
  8. 各プロジェクトの詳細は、第1 章1-3 コラム「OECD/NEA による過酷事故研究の取組」を参照。
  9. 年間積算線量が20 ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された区域。
  10. 年間積算線量が20 ミリシーベルトを超えるおそれがあると確認された区域。
  11. 2012 年3 月時点での年間積算線量が50 ミリシーベルトを超え、事故後5 年間を経過してもなお、年間積算線量が20 ミリシーベルトを下回らないおそれがあるとされた区域。
  12. 将来にわたって居住を制限するとされてきた帰還困難区域内で、避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す区域。
  13. JR 常磐線の全線開通に合わせ、駅周辺の地域について、先行的に避難指示を解除。
  14. 2023 年4 月には富岡町、同年5 月には飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示を解除。
  15. 2023 年5 月には飯舘村の特定復興再生拠点区域外の公園用地の避難指示を解除。
  16. 消費者の健康の保護等を目的として設置された、食品の国際規格等を作成する国際的な政府間機関。
  17. 青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県。
  18. 田村市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村及び川俣町(旧山木屋村)。
  19. 1950 年2 月1 日時点の市町村。
  20. 詳しいデータは厚生労働省ウェブサイト「流通食品での調査(マーケットバスケット調査)」を参照。(https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/market_basket_leaf.pdf)
  21. 第1 章1-1(2)⑤4)「風評払拭・リスクコミュニケーションの強化」を参照。
  22. United Arab Emirates
  23. European Free Trade Association
  24. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
  25. 第3 章コラム「UNSCEAR の報告書:東電福島第一原発事故による放射線被ばくの影響」を参照。
  26. https://radioactivity.nra.go.jp/ja/
  27. https://shorisui-monitoring.env.go.jp/
  28. ここで示す濃度基準の対象核種は放射性セシウム(セシウム134(Cs-134)及びセシウム137(Cs-137))。
  29. 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村の全域並びに南相馬市、川俣町及び川内村の区域のうち警戒区域及び計画的避難区域であった区域。2022 年3 月31 日に田村市において汚染廃棄物対策地域の指定を解除。
  30. 岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県。
  31. 市町村から聞き取った情報(2023 年4 月1 日時点の住民登録数)を基に、内閣府原子力被災者生活支援チームが集計。
  32. 2023 年4 月には富岡町、同年5 月には飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示を解除。その他の避難指示解除の状況については、第1 章1-1(2)②1)「避難指示区域の状況」を参照。
  33. Fukushima Institute for Research, Education and Innovation
  34. 福島国際研究教育機構は2023 年4 月1 日に設立された。
  35. https://www.youtube.com/watch?v=
  36. 2021 年に改訂(2022 年一部修正)し、最新の状況を踏まえた時点更新や復興が進展している被災地の姿の紹介(ALPS 処理水に関する記載の追記等)を行うなど内容を充実。
  37. ALPS 処理水の海洋放出に関する理解醸成に向けた取組については第5 章5-4(3)「東電福島第一原発の廃炉に関する情報発信やコミュニケーション活動」を、ALPS 処理水の海洋放出に関しては第6 章6-1(2)①「汚染水・処理水対策」を参照。
  38. Nuclear Damage Compensation and Decommissioning Facilitation Corporation

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