第3章 国際潮流を踏まえた国内外での取組
3-1 国際的な原子力の利用と産業の動向
世界では東電福島第一原発事故後、脱原発に転じる国々も現れた一方で、電力需要増大への対応と地球温暖化対策の両立がグローバルな課題として認識される中で、英国のように原子力を継続的に発電に利用する方針を示している国があります。また、アジア、中近東、アフリカ等では、新たに原子力開発が進展している国もあります。さらに、中国やロシア等を中心に、これらの新興国に対して積極的に自国の原子力発電技術を輸出する動きも見られます。このように社会・経済全体がグローバル化する中、世界における我が国の原子力利用の在り方が問われています。我が国の原子力関連機関は国際感覚の向上に努め、国際的知見や経験を収集・共有・活用し、様々な仕組みを我が国の原子力利用に適用していく必要があります。
(1)国際機関の動向
① 国際原子力機関(IAEA)
IAEAは、原子力の平和的利用を促進すること、原子力の軍事利用への転用を防止することを目的として、1957年に国連総会決議を経て設置されました。IAEAには2019年2月時点で171か国が加盟しています[1]。IAEAは全加盟国で構成される総会、35の理事国で構成されIAEAの実質的な意思決定機関である理事会、及び事務局の3つの組織で構成されます。事務局内には事務局長の下、「原子力エネルギー局」「原子力安全・セキュリティ局」「原子力科学・応用局」「技術協力局」「保障措置局」「管理運営局」の6つの局(Department)が設置されています[2]。
原子力エネルギー局では、持続可能な原子力エネルギー開発を促進するため、世界中の既存・新規の原子力発電計画を支援する取組を行っています[3]。原子力安全・セキュリティ局では、加盟国における強靱で持続性のある世界の原子力安全・セキュリティ枠組みを促進することを通じて、電離放射線の有害な影響から人々や社会、環境を守る活動を行っています[4]。原子力科学・応用局では医療、食糧、環境、水資源から産業まで、幅広い分野にかかる原子力科学技術の向上に取り組んでいます[5]技術協力局では、対象国・地域における原子力科学・技術の利用を支援し、持続可能な開発に向けた課題への取組に資することを目的として、技術協力活動を実施しています[6]。保障措置局では、加盟国における保障措置を確立・改善し、また保障措置を実施しています[7]。
このように、IAEAは発電のほか、がん治療や食糧生産性の向上等、非発電分野も含めた様々な目的のために原子力技術を活用する取組を行っており、このような原子力利用の考え方を「Atoms for Peace and Development(平和と開発のための原子力)」としています(天野元事務局長による1 )[8]。IAEAは、国連が2015年9月の国連総会で採択した「持続可能な開発目標」(SDGs2 )の達成に貢献するため、各国における原子力の平和的利用を支援しています。特に2018年11月28日から30日には、非発電分野を中心とした原子力の平和利用の分野における原子力科学技術の応用と、SDGs達成に向けた取組促進を目的とした、この分野で初めての閣僚会議「原子力科学技術閣僚会議」が開催され、我が国が共同議長を務めました[9]。同会議の詳細は、第7章7-2「放射線利用に関する国際的な動向」に記載しています。② 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
OECD/NEAはOECDの専門機関として、1958年に欧州原子力機関(ENEA3 )として発足し、1972年に我が国が欧州以外の国として初めて参加したことを受け、現在の名称に改められました。OECD/NEAは、参加国間の協力を促進することにより、安全かつ環境的にも受け入れられる経済的なエネルギー資源としての原子力エネルギーの発展に貢献することを目的として、原子力政策、技術に関する情報・意見交換、行政上・規制上の問題の検討、各国法の調査及び経済的側面の研究等を実施しています。OECD/NEAには2019年3月時点で33か国が参加しています[10]。OECD/NEAは、加盟各国代表により構成される運営委員会により運営されています。また、運営委員会により選出された事務局長以下の職員にて事務局を構成しています。現在の事務局長は米国のウィリアム・マグウッド氏です。さらに、個々の課題について運営委員会を支援するため、加盟国からの専門家により構成される以下の9つの常設技術委員会及び一つの管理委員会が設けられています。OECD/NEAは原子力安全、放射性廃棄物管理分野を中心に、数多くの共同プロジェクトやデータベースを実施・運用しています。各分野で実施中・運用中の共同プロジェクト及びデータベースプロジェクトは表 3-1のとおりです。[11]
- 放射性廃棄物管理委員会
- 放射線防護及び公衆衛生委員会
- 原子力施設安全委員会
- 原子力規制活動委員会
- 原子力法委員会
- 原子力開発・核燃料サイクルに関する技術的経済的検討委員会
- 原子力科学委員会
- 核データ及びコードの開発・応用及び妥当性検証のための管理委員会
- 原子力施設の廃止措置及びレガシー廃棄物管理委員会
2018年にOECD/NEAは設立60周年を迎え、4月に記念式典が開催されました。記念式典では、高いレベルの安全性を担保しつつ、原子力発電が柔軟性、コスト効率性を更に高めていくために、2050年を見据えた将来のロードマップを検討する原子力革新2050(NI2050* )イニシアティブや、原子力教育、スキル、技術フレームワーク(NEST5 )等の取組を通じて、加盟国を支援していく方針が示されました[12]。
表 3-1 OECD/NEAで実施・運用中の共同研究プロジェクト及びデータプロジェクト 分野 プロジェクト 原子力安全
- NEA 事故シミュレーションのための先進的な熱水力試験ループ(ATLAS-2)プロジェクト
- NEA ヨウ素挙動プロジェクト(BIP-3)
- NEA 東電福島第一原発事故のベンチマーク研究(BSAF)プロジェクト
- NEA CABRI 国際プロジェクト(CIP6)
- NEA複数火災区画火災試験 (PRISME7-2) プロジェクト
- NEA ハルデン炉プロジェクト
- NEA 原子力安全のための水素影響緩和試験プロジェクト フェーズ2 (HYMERES-2)
- NEA 炉心流量喪失試験(LOFC8) プロジェクト
- NEA一次冷却系ループ試験設備(PKL-4) プロジェクト
- NEA 燃料デブリの分析に関する予備的研究(PreADES)プロジェクト
- NEA ソースターム評価・緩和 プロジェクト フェーズ 2 (STEM-2)
- NEA スタズビック被覆管健全性プロジェクト(SCIP-3)
- NEA 熱水力、水素、エアロゾル及びヨウ素挙動に関するプロジェクト フェーズ 3 (THAI-3)
- NEA 熱水力、水素、エアロゾル及びヨウ素挙動に関するプロジェクト フェーズ 3 (THAI-3)
核科学
- 先進燃料の熱力学– 国際データベース (TAF-ID13)
- 福島第一原子力発電所の事故進展シナリオ評価に基づく燃料デブリと核分裂生成物の熱力学特性の解明に係る協力プロジェクト (TCOFF)
放射性
廃棄物管理放射線防護
- 職業被ばく情報システム (ISOE16) プロジェクト
(出典)NEAウェブサイト、NEA joint projectsに基づき作成
③ 世界原子力協会(WNA)
世界原子力協会(WNA17 )は、原子力発電を推進し、原子力産業を支援する世界的な業界団体であり、情報の提供を通じ、原子力発電に対する理解を広めるとともに、原子力産業界として共通の立場を示し、エネルギーを巡る議論に貢献していくことを使命としています。WNAには、世界の主要な原子炉ベンダー、原子力発電事業者に加え、燃料サイクル全般、エンジニアリングや建設、研究開発を行う企業・組織等、原子力産業全体をカバーする幅広いメンバーが参加しています。WNAに加盟する事業者による原子力発電電力量は、世界の原子力発電の約70%を占めています[13]。WNAの意思決定機関である理事会は、サプライヤー、原子力発電事業者、その他一般の各産業から各2名以上の理事及び3名の名誉理事で構成されます[14]。
WNAの活動は、「原子力産業界の相互協力」、「一般向けの原子力基本情報やニュースの提供」、「国際機関やメディアなど、エネルギーに関する意思決定や情報伝播に影響を持つステークホルダーとのコミュニケーション」の3つの分野に分類されます。 原子力産業界の協力に関する活動としては、2019年3月時点で15のワーキンググループが設置され、経済面や安全性、環境問題その他様々な問題において、原子力産業としての意見形成を図っています。これらのワーキンググループは、IAEAやOECD/NEAをはじめとする原子力関連の国際機関との協力において、原子力産業界を代表して活動します。
また、世界原子力大学を通じて、IAEAや後述する世界原子力発電事業者協会(WANO18 )、OECD/NEAと協力して原子力教育の強化・リーダーシップの育成を行っています[13]
④ 世界原子力発電事業者協会(WANO)
WANOは、1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を契機に、自社・自国内のみでの取組には限界があると認識した世界の原子力発電所事業者によって1989年に設立されました[15]。
WANOは本部を英国ロンドンに置き、米国のアトランタ、ロシアのモスクワ、フランスのパリ、及び東京に地域センターを設置しています。すべての会員はいずれかの地域センターに所属します。東京地域センターには、我が国の事業者のほか、中国、台湾、韓国、インド、パキスタンの原子力発電事業者が所属しています。WANOの運営組織である理事会は、各地域センターの代表者3名ずつ(うち1名は地域センター理事長)で構成されます[16][17]。WANOは、世界の原子力発電所の運転上の安全性と信頼性を最高レベルに高めるために、共同でアセスメントやベンチマーキングを行い、さらに相互支援、情報交換や良好事例の学習を通じて原子力発電所の運転性能(パフォーマンス)の向上を図ることを使命としています[18]。こうした使命に基づき、WANOでは原子力発電所に対し、他国事業者の専門家チームによるピアレビューを実施しているほか、原子力発電所の運転経験・知見の収集分析・共有、各種ガイドライン等の作成、ワークショップやトレーニングプログラムの提供などを実施しています。中でもピアレビューはWANOのプログラムの中核であり、東電福島第一原発事故後は従来6年に1度の頻度であったピアレビューを4年に1度とし、レビュー実施から2年後にフォローアップを実施しています[19]。
(2) 海外の原子力発電主要国の動向
① 米国
米国は2019年3月時点で98基の実用発電用原子炉が稼働する、世界第1位の原子力発電利用国であり[20]、原子力発電に対してはおおむね共和・民主両党の超党派的な支持が得られています。2017年1月に発足したトランプ政権も、原子力支援に非常に前向きな姿勢を示しています。同年6月のエネルギー週間における演説でトランプ大統領は、原子力をクリーンかつ再生可能であり、発電に伴い炭素を排出しないエネルギー源であるとし、その再興と拡大を開始するとの意向を示しました。また、2018年4月に米国エネルギー省(DOE19)は、先進原子力技術開発プロジェクト13件に対して6,000万ドルの資金を提供することを発表するなど[21]、研究開発の実施や支援、及び税制面での支援などを通じて、新型炉の開発・実用化や原子炉の新設プロジェクトに向けた取組を支援しています。
米国において、原子力安全規制はNRCが担っています。NRCは、我が国でも導入に向けた取組が進められている、稼働実績とリスク情報に基づく原子炉監視プロセス(ROP)などを導入することで、合理的な規制の施行に努めています[22]。また原子力安全の向上のために、産業界の自主規制機関である原子力発電運転協会(INPO)や、原子力産業界を代表する組織である原子力エネルギー協会(NEI)も、安全性の向上に向けた取組を進めています。 連邦議会も、法律の制定やDOE予算の決定により、原子力を支援してきました。米国の政府予算は、毎年歳出法を制定することで連邦議会により決定されますが、トランプ政権の成立後、議会は一貫して政権の予算要求を上回る原子力分野の研究開発予算をDOEに割り当てています。法律の制定という面では、2018年9月、先進的な原子力技術開発等を促進する「原子力イノベーション能力法」が[23]、2019年1月にはNRCに対して先進炉のイノベーションや実用化に資する許認可プロセスの確立を求める「原子力エネルギーイノベーション及び近代化法」が成立しています[24]。
なお米国では、シェール革命により天然ガス価格が低下したことに伴い、経済性を主な理由として既設炉が運転許可の満了を待たずに早期閉鎖される事例が見られていますが、これを回避するための支援策が連邦政府によって検討されているほか、電気事業が自由化されている州において、温室効果ガス排出削減目標達成等の目的で、独自の原子力支援策を講じる例が見られています。
② フランス
エネルギー資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約7割を原子力発電で賄う原子力立国ですが、前オランド政権下で、2015年にエネルギー転換法が制定され、国内の原子力発電の割合を現行の75%から2025年までに50%に縮減する目標が規定されました[25]。2017年に就任したマクロン現大統領もこの方針を踏襲したものの、2017年11月に送電系統運用会社が、この目標を実現するためには、既存の石炭火力発電所の維持とガス火力の新規建設が必要との分析結果を提示したことを受け[26]、2025年までに温室効果ガス排出を増やさずに原子力比率を低減することは困難であると判断しました。2018年11月末に公表した多年度エネルギー計画案では、2035年までに原子力比率50%を達成すること、そのために最大で14基の90万kW級原子炉を運転許可期限の来たものから閉鎖する一方で、新規原子力発電所の検討を2021年から開始する方針を示しています[27]。
このように原子力縮減の方向性は示されていますが、フランス政府は原子炉等の輸出を支持しています。フランスでは2001年に設立されたAREVASA社が、総合的な原子力事業を行ってきましたが、2011年の東電福島第一原発事故後の同社の経営状況の悪化を受けて、政府は原子力産業界の再編を進め、同社傘下の原子炉等製造会社AREVANP社(現在は機能の一部をフラマトム社に移管)が、我が国の三菱重工業(株)他の出資も受け入れ、2018年1月1日に国営電力会社であるフランス電力(EDF20)の傘下に入りました。フラマトム社が開発した欧州加圧水型原子炉(EPR21)は、既に中国で1基運転が開始されているほか、フランス、フィンランド、中国でそれぞれ1基ずつ建設が進められています[28][29][30]。
③ ロシア
ロシアは、2030年までに発電電力量に占める原子力の割合を25%に高め、これまで発電に用いていた国内の化石燃料資源を輸出に回す方針です。
2019年2月時点で、国内で6基の原子炉が建設中です(うち2基は浮揚式)。また、2018年内に、2基の原子炉が商業運転を開始しています。ロシアは海外進出にも積極的で、2019年2月時点で、ソビエト崩壊以降に輸出された炉として、ウクライナで2基、イランで1基、中国で3基、インドで2基のロシア製原子炉が運転中です。中国で1基、ベラルーシで2基、インドで2基、バングラデシュで1基、トルコで1基のロシア製原子炉が建設中で、さらに12基の建設が契約締結済みです。このほかにも、中東、アジア、東欧、アフリカなど世界各地から発注を受けています。ロシアは原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストを賄う融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も提案しており[31]、初期投資費用の確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。
④ 中国
中国では、発電源に占める石炭の割合が高く、旧式の石炭火力発電所が大気汚染の原因となっているため、原子力発電の開発に積極的であり、2019年2月時点で13基の原子炉が建設中です。また、2018年1月から2019年1月までの期間に、8基の原子炉が商業運転を開始しています。これには、米ウェスチングハウス(WH)社製のAP1000が4基、フランスのフラマトム社が開発したEPRが1基含まれています。また、国産第3世代炉である華龍1号の建設も進められています[30][32]。
中国は海外進出にも積極的で、既に中国が輸出した原子炉4基がパキスタンで運転しています。また、華龍1号は輸出も進められており、パキスタンで2基の建設が進められています[33]。さらに仏EDFと協力して英国・ブラッドウェル原子力発電所でも華龍1号を建設する計画です。英国では、今後の建設を見据えて華龍1号の一般設計評価(GDA22)が進められています[34]。その他、アルゼンチンでも華龍1号の建設契約が締結されています[35]。
⑤ 英国
英国政府は原子力を英国経済の生産性向上と成長に不可欠であるとともに、エネルギーミックスにおいて極めて重要な電源と位置付けており、2018年12月にはヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC23)の建設が開始されました。HPCの建設プロジェクトには、EDFと中国広核集団(CGN)の中仏両企業が出資しています。両社はHPCのほかサイズウェルC及びブラッドウェルB原子力発電所で、計5基の原子炉の新設を計画しています[34]。
なお英国は2016年6月の国民投票の結果を受け、EU離脱及びユーラトム脱退の意思をEU側に通知したことに伴い、IAEAと2018年6月に保障措置協定及び追加議定書、米国と5月に、オーストラリアと8月に、カナダと11月に二国間協定を締結しました。
⑥ 韓国
韓国では、2019年2月末時点で、23基、2,180万kWの原子力発電所が運転中で、総発電量に占める原子力発電の割合は27%となっています。また5基、700万kWの原子力発電所の建設が進められています[20][36]。韓国政府は原子力発電技術の国産化と次世代炉の開発等、これまでは積極的な原子力政策を進めてきました。しかし2017年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、新増設を認めず設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する漸進的な脱原子力を進める方針を掲げました。政府は2017年10月、建設中の新古里5、6号機については建設継続を認めましたが、計画段階にあった6基の新設は白紙撤回し、設計寿命満了後の原子炉の運転延長を禁止する脱原子力ロードマップを決定しました。
ただし、国産炉の海外輸出は引き続き推進しています。韓国電力公社(KEPCO24)は2012年から、アラブ首長国連邦(UAE25)のバラカ原子力発電所において4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めてきました。図 3-1と図 3-2はそれぞれ、バラカ原子力発電所建設プロジェクトの全体計画と2018年5月時点の進捗状況を示しています。バラカ原子力発電所建設プロジェクトは、当初の計画から大きな遅れがなく進められています(コラム「アラブ首長国連邦UAEの原子力プログラムの進展」を参照)。また韓国政府はその他にも、サウジアラビア、チェコ等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしています[36]。サウジアラビアとは2015年に10万kW級の中小型原子炉(SMART26)の共同開発の覚書を締結しています。ヨルダンには0.5万kWの研究用原子炉を建設し2017年に完成しています。
図 3-1 バラカ原子力発電所建設プロジェクトの全体計画
(出典)第43回原子力委員会定例会議資料第3号 斎藤建彦「アラブ首長国連邦UAEの原子力プログラムの進展」(2018年)
図 3-2 バラカ原子力発電所建設プロジェクトの進捗状況(2018年5月時点)
(出典)第43回原子力委員会定例会議資料第3号 斎藤建彦「アラブ首長国連邦UAEの原子力プログラムの進展」(2018 年)
カナダでは、2019年2月末時点で、19基、1,360万kWの原子力発電所が運転中で、総発電量に占める原子力発電の割合は約15%となっています。運転中の原子炉のうち18基はオンタリオ州に立地しており、同州の半分程度の電力を賄っています[20][37]。 カナダでは、SMRの開発や実用化に向けた取組も積極的に進められています。2018年11月には、州政府や電気事業者等で構成される委員会により、SMRによる低炭素社会の実現や国際的な開発競争における主導権の確保に向けたロードマップが策定されました。ロードマップでは、SMRの実証と実用化、政策と法制度、公衆の関与や信頼、国際的なパートナーシップと市場の4分野で、連邦・州政府や事業者らに、資金やリスクシェアの体制、効率的な許認可制度の構築等を促す勧告を提示しています。またロードマップは次のステップとして、関係する当事者に対して、SMR行動計画の策定等のコミットメントを伴う具体的な行動が必要であると結論付けています[38]。ロードマップの策定以外にもカナダでは、カナダ原子力研究所(CNL*27)が同研究所の管理サイトにおけるSMRの実証施設建設・運転プロジェクトを進めているほか、安全規制機関であるカナダ原子力安全委員会(CNSC28)は小型炉や先進炉を対象とした許認可前ベンダー設計審査を進めています。
(3) 原子力産業の国際的動向
我が国では、2006年10月の(株)東芝による米国WH社買収を皮切りに、(株)日立製作所と米国ゼネラルエレクトリック(GE)社がそれぞれの原子力部門に相互に出資する新会社GE日立ニュークリア・エナジー及び日立GEニュークリア・エナジー(株)を設立し、さらに、三菱重工業(株)も仏AREVA NP社(現在は機能の一部をフラマトム社に移管)と100万kW級中型炉の開発販売を行う合弁会社ATMEAの設立を発表しました。
このうちWH社は2017年3月に米国連邦倒産法第11章に基づく再生手続を申し立てました[39]。(株)東芝も、原子炉建設事業では機器供給やエンジニアリング等に特化する方針であり[40]、2018年8月に、カナダに本拠を置く投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズ(BBP)へのWH社の全株式の譲渡を完了しています[41]。また同年11月には、子会社である英国ニュージェネレーション(NuGen)社を解散し、英国における原子炉新設事業から撤退することを公表しました[42]。さらに(株)日立製作所も、2019年1月に、英国における原子力発電所建設プロジェクトの凍結を公表しています[43]。
海外企業について、米国では、WH社とGE社が海外受注の獲得に向けて活動しています。フランスのEDFは、中国、インド、英国におけるEPRの建設・運転に関わっています。またAREVA社は、フィンランドでEPRの建設に関わっています。ロシアでは2007年12月に国営企業ロスアトムの傘下に全事業を一元化されており、韓国は第3世代+炉である韓国型軽水炉KPR1400を開発し、国内建設に続いてUAEで4基建設し、さらに海外展開を図ろうとしています。また中国の原子炉メーカーも、海外からの導入技術を踏まえ、100万kW級の国産炉の開発や輸出を進めています。
今後も、世界においては、各国の企業グループが、既存市場及び新興市場において、国境を越えた激しい受注競争を繰り広げていくことになると考えられます。
コラム ~アラブ首長国連邦(UAE)の原子力プログラムの進展~
UAEでは現在、同国初となる原子力発電所「バラカ原子力発電所」の建設が進められています。 UAEは2008年に「原子力平和利用の評価と開発可能性に関するアラブ首長国連邦の政策(原子力白書)」を発表し、原子力プログラムに着手しました。2009年には同国の首長国原子力会社(ENEC29)が韓国電力公社(KEPCO)とバラカ原子力発電所の建設契約を結びました。同発電所では、4基の韓国炉ARP1400(140万kW)が建設される計画であり、1号機は2018年3月に竣工しました。運転会社であるナワエナジー(ENEC子会社)における運転員訓練などの準備に時間を要しており、運転開始は当初予定より遅れていますが、同機は2020年5月頃に運転許可を取得し、2021年9月頃に商業運転を開始する見込みです[44]。
UAEではIAEAが推奨するマイルストーンアプローチに基づいて法令や規制体制、人材育成をはじめとする原子力発電導入の基盤整備を行っています。また2010年にはUAE政府によって、IAEAや原子炉供給国である韓国に加え、米国、日本を含む原子力先進国の専門家からなる国際諮問委員会(IAB30)が設置され、同委員会は半年に1度、UAEの原子力計画をレビューして助言を提供してきました。同委員会は1号機が完成に近づいたことを受け、2017年10月に活動を終了しました。このようにUAEでは緊密な国際協力の下で順調に原子力開発が進められ、東電福島第一原発事故後の最初の原子力発電新規導入の事例として、注目されています。
バラカ原子力発電所建設の進捗状況 ユニット 建設開始 建設進捗率(2018年12月現在) 1号機 2012年7月 100%(2018年3月竣工) 2号機 2013年5月 95% 3号機 2014年9月 91% 4号機 2015年9月 82% (出典)首長国原子力会社(ENEC)ウェブサイト情報より作成31
- 2009年12月より事務局長を務めてきた天野之弥氏は、2019年7月18日に逝去されました。
- Sustainable Development Goals
- European Nuclear Energy Agency
- Nuclear Innovation 2050
- Nuclear Education, Skills and Technology
- Cabri International Project
- Propagation d’un incendie pour des scénarios multi-locaux élémentaires (英語表記:Fire Propagation in Elementary Multi-room Scenarios)
- Loss of Forced Cooling
- Cable Ageing Data and Knowledge
- Component Operational Experience, Degradation and Ageing Programme
- Fire Incidents Records Exchange
- International Common-cause Failure Data Exchange
- Thermodynamics of Advanced Fuels – International Database
- Co-operative Programme for the Exchange of Scientific and Technical Information Concerning Nuclear Installation Decommissioning Projects
- Thermochemical Database
- Information System on Occupational Exposure
- World Nuclear Association
- World Association of Nuclear Operators
- Department of Energ
- Electricité de France
- European Pressurized Reactor
- Generic Design Assessment
- Hinkley Point C nuclear power station
- Korea Electric Power Corporation
- United Arab Emirates
- System-integrated Modular Advanced ReacTor
- Canadian Nuclear Laboratories
- Canadian Nuclear Safety Commission
- Emirates Nuclear Energy Corporation
- International Advisory Board
- https://www.enec.gov.ae/barakah-npp/construction-program/
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