3-3 グローバル化の中での国内外の連携・協力の推進
IAEAは、創設から60周年を迎える2016年に、気候変動対策や持続可能な開発という国際社会が直面する2つの最優先課題の解決において、原子力発電が重要な役割を果たすとの評価を示しています。東電福島第一原発事故後も、発電を含め原子力利用を維持する先進国、導入・拡大する途上国が存在しています。このため我が国は、グローバル化の中での原子力利用において、平和利用と核不拡散の担保、安全の確保及び核セキュリティの担保を前提として、国際協力・連携を進めていくことが重要であると考えています。我が国は東電福島第一原発事故後も、途上国、先進国との間で、二国間、多国間の協力を推進するとともに、国際機関の活動にも積極的に関与しています。
(1)国際機関への参加・協力
IAEAやOECD/NEAにおいては、原子力施設及び放射性廃棄物処分の安全性、原子力の開発や核燃料サイクルにおける経済性、技術面での検討等、技術的側面を中心に、これに政策的側面を併せた活動が行われています。
① 原子力安全の高度化
IAEAを中心として、加盟国の原子力安全の高度化に資するべく国際的な規格基準の検討・策定が行われています。IAEA憲章に基づき、原子力施設、放射線防護、放射性廃棄物及び放射性物質の輸送に係るIAEA安全基準文書 20 が作成され、加盟国において国際的に調和のとれた安全基準類の導入等に貢献しています。我が国も安全基準類の継続的な見直し活動に協力しており、2015年11月と2016年4月に開催された第38回、第39回の安全基準委員会には、我が国から原子力規制委員会の更田委員(当時)が参加しています。IAEA安全基準文書の体系や概要については、第1章1-2「原子力安全対策」に記載しています。② 原子力発電の導入に当たっての基盤整備
IAEAは、原子力発電の新規導入国向けに、導入に当たって検討課題となる項目(19項目)と、導入の各段階における達成目標を記したマイルストーン文書(2015年版が最新)を作成し、原子力導入を支援しています [22] 。IAEAは、マイルストーン文書に示された19項目を使って原子力導入において必要なインフラについて評価する総合原子力インフラレビュー(INIR 21 )を実施する等、基盤整備に関する取組を継続して行っています。我が国では、これらIAEAの活動に対して特別拠出金により支援を行うほか、IAEAと協力して、世界各国の将来の原子力エネルギー計画を策定・管理するリーダーとなる人材の育成を目的とする「IAEA原子力エネルギーマネジメントスクール」のアジア版を2012年以降毎年、我が国で開催しています。2017年7~8月に東京、福島、茨城で開催された第6回マネジメントスクールでは、原子力委員会の岡委員長をはじめ様々な専門家による原子力利用に関する講義や原子力関連施設の見学、研修生によるグループワーク等を行いました [23] 。③ OECD/NEAを通じた原子力安全研究
我が国では、原子力の研究・開発に必要なデータ等の提供といったOECD/NEAのデータバンク事業への参加に加え、「東電福島第一原発事故のベンチマーク研究(BSAF)プロジェクト」等の共同研究に参加しています。2012年に開始されたBSAFは、シビアアクシデントの解析コードの高度化、炉心溶融した東電福島第一原発1~3号機の現状の分析、廃止措置に関する情報の提供を目的としています。2015年にはプロジェクトの第2フェーズが開始されており、我が国も含めた11か国が参加しています [24] 。
また、我が国は、各国規制機関の協力強化、新設計原子炉の安全性向上のための参考となる規制実務、基準確立を目的としてOECD/NEAが2006年に開始した多国間設計評価プログラム(MDEP 22 )にも参加しています。MDEPには2018年2月末時点で16か国及びIAEAが参加しています [25] 。④ 福島県IAEA緊急時対応能力研修センター
東電福島第一原発事故後、IAEAと我が国は事故対応と国際的な原子力安全強化のため緊密に協力してきました。2012年12月の原子力安全に関する福島閣僚会議においてIAEAと外務省が署名した「東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた福島県と国際原子力機関との間の協力に関する覚書」及び「緊急事態の準備及び対応の分野における協力に関する日本国外務省と国際原子力機関との間の実施取決め」に基づき、2013年5月、IAEAは、福島県内に原子力事故対応等のためのIAEA初となる緊急時対応援助ネットワーク(RANET 23 )の研修センター(CBC 24 )を指定しました [26] 。我が国のIAEAへの拠出金を通じて、放射線モニタリング、リスクコミュニケーション、原子力技術を活用した建造物の強度測定に関する機材(非破壊検査機材)活用、自然災害に対する準備及び対応能力の向上等をテーマに、各国の原子力事故対応等に関わる政府関係者に向けたワークショップが開催されています。本事業を通じて、福島の経験を国際社会に共有することを通じ、国際的な原子力安全に貢献が期待されるとともに、権威ある国際機関の拠点として世界各地より来訪者を受け入れ、福島の復興に貢献することが期待されます。
なお、IAEAは2017年9月、国内2例目となるCBCとして、量研機構放射線医学総合研究所(以下「量研機構放医研」という。)を指定しました [27] 。コラム ~IAEA総会~
IAEA総会は、毎年1回、加盟各国の閣僚級代表が参加してウィーン(オーストリア)のIAEA本部で開催されています。2017年9月18~22日に第61回総会が開催され、日本政府代表として松山内閣府特命担当大臣が出席し、政府代表として初日に一般討論演説を行い、以下のような我が国の取組について説明し、原子力の平和利用の促進と核不拡散の強化に一層貢献していく決意を改めて表明しました [28] 。
・日本の原子力政策(「原子力利用に関する基本的考え方」等の策定、プルサーマルの推進等を通じたプルトニウムの着実な利用、プルトニウム管理状況の公表等を通じた透明性や信頼性向上の取組、核燃料サイクルの推進)
・東電福島第一原発事故後の取組(廃炉・汚染水対策や環境回復の着実な進展の説明及び日本産食品の安全確保の取組紹介と輸入規制撤廃の呼びかけ)、原子力安全強化(廃棄物合同条約レビュー会合への参加や福島県IAEA緊急時対応能力研修センターの活動の支援、IRRSフォローアップミッションをはじめとするIAEAピアレビューミッションの受入れ)
・グローバル課題(天野IAEA事務局長が掲げる「平和と開発のための原子力」への支持及びIAEAによる技術協力への日本の貢献)
・核セキュリティの強化(IAEAの中心的役割への支持及び日本の貢献、IPPAS 25 フォローアップミッションの受入れ)
・核不拡散体制強化のための取組(アジア地域の不拡散強化に向けた日本の取組及び北朝鮮の核問題に関するIAEAの対応の支持)等
また、松山大臣は、イランの核合意への我が国の支持とイラン向け保障措置トレーニングの実施について述べ、原子力の平和的利用の促進及び核不拡散の強化に一層貢献していく決意を改めて表明しました。IAEA 総会に出席する松山内閣府特命担当大臣(中央)と岡原子力委員長(右)
(2)二国間原子力協定及び二国間協力
① 二国間原子力協定に関する動向
原子力発電の導入に当たっては核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保が不可欠です。我が国はそうした観点から、二国間原子力協力を行う相手国に対しIAEA保障措置制度に関する追加議定書等の関係条約の締結を求めるとともに、必要な場合には相手国における核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保のための基盤整備支援を行っています。また、二国間原子力協定は、特に原子力の平和利用の推進と核不拡散の確保の観点から、原子炉のような原子力関連資機材等を移転するにあたり、移転先の国からこれらの平和利用等に関する法的な保証を取り付けるために締結するものです。2017年12月時点で、我が国は、カナダ、オーストラリア、中国、米国、フランス、英国、ユーラトム、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、UAE及びインドとの間で原子力協定を締結しています [29] 。なお、我が国を含む主要国(米国、フランス、英国、中国、ロシア、インド)における、二国間原子力協定に関する最近の主な動向は以下のとおりです(表3-1)。
表 3-1 諸外国における二国間の原子力協定に関する最近の主な動向(過去3年間) 国名 経緯等 日本-インド
2017年7月 日本とインドの原子力協定が発効
英国-インド
2015年11月 英国エネルギー・気候変動省とインド原子力庁が民生原子力分野での共同訓練・知見共有の促進に係る覚書に署名
中国-南アフリカ
2015年11月 中国国家核安全局と南アフリカ国家原子力規制局が許認可や検査等での情報交換に係る技術協定に署名
ロシア-ガーナ
2015年6月 ロシアとガーナが原子力協定に署名
ロシア-サウジアラビア
2015年6月 露ロスアトムとサウジアラビア・アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市が原子力協定に署名
ロシア-メキシコ
2015年7月 ロシアとメキシコの原子力協定が発効(2013年12月に署名)
ロシア-カンボジア
2017年9月 ロシアとカンボジアが原子力協定に署名
インド-スリランカ
2015年2月 インドとスリランカが原子力協定に署名
インド-スペイン
2015年4月 インド外相とスペイン外務・協力大臣が原子力協定の協議促進で合意
(出典)各国関連機関発表に基づき作成
② 米国との協力
我が国と米国は、日米原子力協定を締結し様々な協力を行ってきました。同協定は2018年7月に当初の有効期間を満了しますが、その後は、6か月前に日米いずれかが終了通告を行わない限り、存続します 27 。
同協定は、我が国の原子力活動の基盤の一つを成すものであるのみならず、日米関係の観点からも極めて重要です。
また、2012年4月の日米首脳会談を受けて、包括的な戦略的対話を促進し、民生用原子力の安全かつ安定的な利用、グローバルな核不拡散分野における共通の目的の推進及び東電福島第一原発事故への対応に関連した共同の活動を進めるために、「民生用原子力協力に関する日米二国間委員会」を設置しました。その下には、核セキュリティ、民生用原子力の研究開発、原子力安全及び規制関連、緊急事態管理、廃炉及び環境管理の5項目に関するワーキンググループが設置されています。2017年5月には、米アイダホ国立研究所において、第5回民生用原子力の研究開発ワーキンググループ(CNWG 28 )が開催され、日米双方の研究開発の動向の紹介、各分野における協力の進捗状況の報告が行われました。また同年6月には、同研究所において、第8回核セキュリティ作業グループ(NSWG 29 )会合が開催されました。NSWGでの具体的協力分野は、原子力機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN 30 )の研修プログラムの開発や、核鑑識技術、核物質の魅力度評価手法の研究開発等、11の分野にわたり、そのうち3つの分野については活動が終了しています [31] 。
また、米国とは2017年11月の日米首脳会談に際して、日米経済対話の枠組みの中で「日米戦略エネルギーパートナーシップ」を進めていくとの認識で一致するとともに、新興市場における開発を支援するため、エネルギー、インフラその他の重要な分野における投資機会に関し協力するとのコミットメントを強調しました [32] 。③ フランスとの協力
我が国とフランスとは、原子力規制、核燃料サイクル、放射性廃棄物管理等の分野において、長年にわたり協力関係を構築してきました。2017年3月には、経済産業省とフランスの環境・エネルギー・海洋省との間で、民生用原子力協力に関する意図表明が署名されました。また、2011年10月の東京での日仏首脳会談における両国首脳の主導により設置された「原子力エネルギーに関する日仏委員会」の第7回会合を、2017年11月に東京にて開催し、両国の原子力エネルギー政策、原子力安全協力、使用済燃料の管理を含めた核燃料サイクル、放射性廃棄物の管理、高速炉を含めた研究開発、廃炉及び除染並びに産業協力につき、意見交換を行いました [33] 。産業協力では、アレバNP社(現フラマトム社)と三菱重工業(株)が次世代の中型炉のATMEA1の開発、設計及び普及を行うため、2007年にATMEA社を設立しており、ATMEA1はトルコのシノップにおいて建設が計画されています。また、高速炉協力では、日仏両国は長年にわたり開発を牽引しており、我が国は2014年に、フランスが開発を進めるASTRID 31 計画に参加しています。ASTRIDへの日仏協力の詳細は、第8章8-2に記載しています。④ 英国との協力
⑤ その他
2012年4月の日英首脳会談を受けて開始された、両国政府高官による「日英原子力年次対話」の第6回年次対話が、2017年10月に英国にて開催され、研究開発、広報、原子力安全・規制、廃炉・除染、原子力政策の5つの分野において、両国の協力に関する協議が行われました [34] 。前述のとおり、英国は2016年の国民投票の結果を受けて、2019年3月にEU及びユーラトムから離脱する予定ですが、2017年8月の日英首脳会談に際して発出された「繁栄協力に関する日英共同宣言」では、英国が、同国における原子炉の新設計画への我が国の産業界の関与を歓迎することや、民生用原子力セクターにおける日英両国企業の補完的な強みは、相互利益のための更に戦略的なパートナーシップを追求する機会を両国にもたらすものであるとの認識が示されました [35] 。1)文部科学省による放射線利用技術等国際交流(講師育成・研究者育成)
文部科学省は1985年から原子力分野での研究交流制度を実施しており、近隣アジア諸国の研究者を我が国の研究機関や大学へ受け入れて、研究炉や放射線利用施設等を用いた実習等を行うとともに、我が国の研究機関や大学からアジア諸国へ原子力の専門家を派遣してきました。
また、同事業では、アジアを対象とした原子力講師の育成事業を実施しており、アジア各国で原子力人材養成に関わっている者を我が国に受け入れて研修を行っています。これに加えて、我が国より相手機関に講師を派遣し、講師育成のための研修を実施しています(図3-1)。図 3-1 招へい者の実習の様子
(出典)左:日本原子力科学機構 講師育成事業ニュースレターVol.4(2018年3月) [36]
右:原子力安全研究協会
文部科学省研究者育成事業(原子力研究交流制度)ニュースレター第4号(2018年3月) [37]
2)経済産業省による原子力発電導入支援に関する取組
経済産業省資源エネルギー庁は、原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対し、我が国の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2016年はトルコ、カザフスタン、ポーランドといった国について、原子力発電導入国等からの研修生の受入れ、我が国専門家等の外国への派遣等を通じて、原子力発電導入に必要な法制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備の支援を行いました。3)原子力規制委員会原子力規制庁による原子力発電所の安全規制に関する国際研修事業
原子力規制委員会原子力規制庁では、ベトナム、トルコといった原子力新規導入国を対象に、現地の規制当局に対する研修を通じた人的交流を行っています。またアジア原子力安全ネットワーク(ANSN 32 )等を通じて情報発信も行っています。4)外務省による各国に対する非核化協力
旧ソ連時代に核兵器が配備されていたウクライナ、カザフスタン、ベラルーシの3か国は、独立後、非核兵器国としてIAEAの保障措置を受けることとなりました。しかし、技術的基盤を欠いていたため、我が国は3か国に対して国内計量管理制度確立支援や機材供与等の協力を実施し、非核化への取組を支援してきました。
(3)多国間協力
① 主要国との多国間協力
2010年6月に発足した国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC 33 )は原子力安全、核セキュリティ、核不拡散を確保しつつ、原子力の平和利用を促進するための互恵的なアプローチを目指し、参加国間の協力の場を提供することを目的としています。我が国も、原子力の平和利用の拡大に向けて、我が国の経験と知見を活かしながら各国と協力する方針を表明しています [38] 。
IFNECは、2017年12月末時点で、参加国34か国、オブザーバー国31か国、オブザーバー機関4機関で組織されています。その組織は、各参加国/機関の閣僚級メンバーで構成される執行委員会、アルゼンチン、フランス、中国、日本の4か国の局長級メンバーにより構成され活動を実施する主体である運営グループ、特定分野での活動を実施するワーキンググループの3階層で構成されており、我が国は、運営グループに参加し、副議長を務めています。
2017年11月には、第8回執行委員会会合がパリで開催され、我が国からは進藤内閣府原子力政策担当室次長(運営グループ副議長)が政府代表として出席しました。執行委員会会合では、運営グループ、基盤整備作業部会及び燃料供給サービス作業部会の活動や、我が国がアルゼンチンと共同議長を務める「原子力発電所の供給国と需要国との間の対話を促進するためのアドホックグループ」の活動状況が報告されました。同グループの活動はIFNEC会合全般を刺激して成功裏に終わったとして、同グループは1年間の活動任期延長が認められました。
〈IFNEC第8回執行委員会会合 共同声明のポイント〉 [39]
・執行委員会は、新しく創設されたアドホック需給国関係グループの活動を評価する。2017年11月に開催された「グローバル・サプライチェーンとローカライゼーション:需要国側との対話」会議の成功を評価し、TOR(TermsofReference)に示された課題に継続して取り組むため、その活動を翌年まで更新することを認める。
・執行委員会は、燃料供給サービス作業部会が、多国間貯蔵構想及び各国の取り組むバックエンドにおけるデュアル・トラック・アプローチの発展に取り組むよう求める。
・執行委員会は、基盤整備作業部会が過去実施した核セキュリティ、原子炉の廃炉、損傷を受けた核施設の廃炉と修復、人材育成、ステークホルダー参加、小型モジュール炉、原子力安全及び緊急事態対応策の分野の業績を認める。また、基盤整備作業部会が、新しい原子炉の技術に対して規制面のアプローチを取り扱う会合開催の試みを歓迎する。
・執行委員会は、運営グループが、新規参加国への呼びかけを積極的に行い、IFNECの活動を支える財政上の課題に応えること、また、作業部会の共同議長と協力して、原子力の国際協力に関わる重要なトピックを選定し、幅広くステークホルダーに係わるワークショップや会議を計画し開催することを奨励する。
② アジア地域をはじめとする途上国との多国間協力
我が国の開発途上国との協力は、相手国の原子力に関する知的基盤の形成、経済社会基盤の向上、核不拡散体制の確立・強化、安全基盤の形成等に寄与することを目的としています。
我が国はアジア地域における地域協力として、アジア原子力協力フォーラム(FNCA 34 )、IAEAの原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA 35 )、IAEA技術協力基金(TCF 36 )、IAEA平和的利用イニシアティブ(PUI 37 )やANSN、ASEAN 38 +3(日中韓)、IAEAの原子力マネジメントスクール(アジア地域版の開催)や導入国の原子力基盤整備支援等に係る活動等に貢献しています。1)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)における協力
地理的に我が国に近い近隣アジア諸国は、経済的にも我が国と密接な関わりがあり、農業・工業・医療の各分野での放射線の利用、研究炉の利用、原子力発電所建設や安全な運転体制の確立等多くの課題を共有しています。
FNCAは、原子力技術の平和的で安全な利用を進め、社会・経済的発展を促進することを目的とした、我が国主催の地域協力関係です。我が国と、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの12か国が参加しています(IAEAがオブザーバー参加)。また、毎年1回、「大臣級会合」(協力推進のための政策対話を実施)、「スタディ・パネル」(政策課題や技術課題に関する情報交換)、「コーディネーター会合」(協力プロジェクトの審議)の3つの会合を内閣府主催で開催しています。また、文部科学省により、放射線利用を中心とする4分野で8件のプロジェクトが実施されています [40] 。図 3-2 第18回FNCA大臣級会合の様子(2017年10月、カザフスタン)
(出典)文部科学省「第18回FNCA大臣級会合開催報告」 39
イ)大臣級会合
大臣級会合では、FNCA各国の原子力所管の大臣級代表により原子力技術の平和利用に関する地域協力のための政策対話を行っています。
2017年10月11日には、第18回FNCA大臣級会合が内閣府・原子力委員会とカザフスタン・エネルギー省の共催によりアスタナ(カザフスタン)で開催されました。我が国からは岡原子力委員会委員長らが出席したほか、FNCAに参加するその他11か国の大臣級及び上級行政官等が出席しました。また会合では「環境保全への原子力科学技術の応用」をテーマに円卓討議が行われ、以下の内容の共同コミュニケが採択されました [41] 。ロ)スタディ・パネル
FNCAでは、従来、放射線利用等非発電分野での協力が主でしたが、参加国におけるエネルギー安定供給及び地球温暖化防止の意識の高まりを受け、原子力発電の役割や原子力発電の導入に伴う課題等を討議する場として、2004年以降、スタディ・パネルを開催しています。
2018年3月には、原子力の法的分野に関し、豊富な知識や経験を有する国際機関等との連携を通じてFNCA参加国の理解を深めるため、「原子力安全に関する法的枠組み」及び「公衆参加に関する法的枠組み」というテーマについて講演と質疑などのワークショップをが開催されました。
〈第18回FNCA大臣級会合(2017年)で採択された共同コミュニケの内容〉
行動1:促進するべきテーマと活動
・環境保護、保健・医療、農業分野を中心に原子力科学技術の応用に関連するFNCAの活動を更に加速し、「放射線育種」、「放射線治療」、「気候変動科学」等の既存プロジェクト、並びに原子力の安全・保安等、各国の持続可能な発展につながるであろう将来的なプロジェクトを積極的に支持する。
行動2:国際機関との協力の促進
・特に法的枠組みの分野において、IAEA、OECD/NEA等、関係国際機関との協力を更に推進する。加盟国において原子力法の分野での取組強化の重要性の認識が高まる中、法的枠組みの強化は2018年のスタディ・パネルのテーマとして取り上げられることとなった。
行動3:FNCAの知識管理及び広報機能の強化
・知識共有と広報機能を強化するためにFNCAウェブサイト機能を改善し、加盟国の使いやすさを高める、といったような仕組み作りに取り組む。
行動4:環境保全問題に取り組むための支援と協力
・制度整合化等、環境保全をテーマとして円卓会議で取り上げられた課題に取り組むための協力、更に現在進行中の活動や今後必要に応じて将来設定されるであろう新たな活動における協力体制を強化する。
・また、モニタリングの技術のみならず、直接環境汚染に取り組むための技術の推進を推奨する。
ハ)コーディネーター会合
FNCAの協力活動に関する参加国相互の連絡調整を行い、協力プロジェクト等の実施状況評価や計画討議等を行う場として、コーディネーター会合を年1回我が国で開催しています。各国ともプロジェクトの実施に責任を持つコーディネーターを1名ずつ選出しており、我が国では、和田智明・公益財団法人科学技術広報財団理事が務めています。
2018年3月には第19回コーディネーター会合が開催されました。同会合では、各プロジェクトについての活動報告が行われたほか、2017年度に終了する既存プロジェクト2件(バイオ肥料と電子加速器利用)を融合させた新規プロジェクト(農業、環境、医療応用のための放射線加工と高分子改質)、及び放射線育種の新規フェーズを新たに開始することが合意されました。更に新規プロジェクトとして、原子炉設置に関わるリスクコミュニケーション戦略の研究プロジェクトが提案されましたが、採択基準を満たさなかったことから、内容を見直した上で、次回のコーディネーター会合に再度提案することが推奨されました [42] 。ニ)プロジェクト
FNCAでは現在、以下の4分野で8件のプロジェクトが実施されています。プロジェクトごとに、通常年1回のワークショップ等が開催されており、それぞれの国の進捗状況と成果が発表・討議され、次期実施計画が策定されます。
A)放射線利用開発:産業利用・環境利用(放射線育種、加速器利用、気候変動科学)、健康利用(放射線治療)
B)研究炉利用開発(研究炉利用)
C)原子力安全強化(放射線安全・廃棄物管理)
D)原子力基盤強化(核セキュリティ・保障措置)コラム ~FNCA賞の創設~
FNCAでは、その使命達成に向けて顕著に功績を挙げたFNCAプロジェクトに参加するチームを称え、さらに、その成果を参加国間で共有していくことを目的としてFNCA賞を創設しました。2017年に開催した第18回の大臣級会合において、FNCA賞の第1回表彰式を行い、オーストラリアの研究炉ネットワークプロジェクトチームが最優秀研究チーム賞、バングラデシュ「放射線腫瘍学」、マレーシア「放射線育種」と「人材養成」の2チーム、フィリピン「電子加速器利用」チームが優秀研究チーム賞を受賞しました。
<バングラデシュ「放射線腫瘍学」チームの取組>
放射線治療プロジェクトでは、アジア地域で罹患率が高いがんの治療成績の向上を目標に、標準的な治療手順(プロトコール)の作成や放射線治療の普及等の国際的な協力活動を行ってきました。例えば、FNCAで作成した子宮頸がんの治療プロトコールは、標準的な治療プロトコールとしてアジア各国で広く使用されています。
本プロジェクトに参加するバングラデシュ「放射線腫瘍学」チームは、国内の医療機関において、子宮頸がんや上咽頭がん治療に対する標準プロトコールとしてFNCAプロトコールを普及させ、治療成績の向上に貢献しました。
<マレーシア「人材養成」チームの取組>
人材養成プロジェクトでは、アジア地域での原子力技術の平和的で安全な利用を進める上で基盤となる人材養成について、各国のニーズを踏まえた教材の共同作成やトレーニング支援等の国際的な協力活動を行ってきました(2016年に本プロジェクトは終了)。
本プロジェクトに参加するマレーシア「人材養成」チームには、同国原子力庁が参画し、我が国が提供した英語に翻訳した放射線の副読本も活用しつつ、中学校において放射線教育を推進してきました。2016年8月に、FNCA人材養成プロジェクトのワークショップをマレーシアで開催し、実際の授業を見学するなどマレーシアの中等学校における放射線教育の現状を紹介し、参加国間でその成果等の共有を図りました。マレーシアの中学校でのワークショップの様子
2)原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)における協力
RCAは、IAEAの活動の一環として、アジア・大洋州地域のIAEA加盟国を対象とし、原子力科学技術に関する共同の研究、開発及び訓練の計画を、RCA締約国政府間の相互協力及びIAEAとの協力により、締約国の適当な機関を通じて促進及び調整することを目的とした枠組みです。RCAの下で実施されるプロジェクトには、2018年2月末時点で、我が国を含むFNCAの参加国11か国(カザフスタンを除く)に加え、カンボジア、フィジー、インド、ラオス、ミャンマー、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、パラオ、シンガポール及びスリランカの、計22か国が参加しています [44] 。
2016/2017年のサイクルでは、農業、医療・健康、環境、工業の4分野で14件のプロジェクトが実施されています。我が国は保健・医療分野において、がんの放射線治療に関するプロジェクトの主導国を務めています [45] 。
近年、RCAとFNCAの協力強化に向けた議論がなされており、現在、放射線加工・放射線治療・放射線育種分野における協力が実施されています [46] 。3)IAEA技術協力基金(TCF)及びIAEA平和的利用イニシアティブ(PUI)
IAEAの二大目的は原子力の平和利用の促進と核不拡散であり、原子力の平和利用の促進の一環として、途上国を中心に保健・医療、食糧・農業、水資源管理、工業等の非発電分野及び発電分野における技術協力活動を実施しています。
TCFは、IAEA技術協力活動の主要財源であり、IAEAは、原子力に関する専門性を活かした技術協力活動を行っています。天野IAEA事務局長は、2015年から「平和と開発のための原子力(AtomsforPeaceandDevelopment)」を掲げ、IAEAとしても原子力科学技術を活用した途上国への技術支援を重視し、SDGsの達成に取り組んでいます。
PUIは、2010年5月に開催されたNPT運用検討会議において、原子力の平和利用分野におけるIAEAの技術協力活動を促進するための追加的な財源として設立されました。PUIに対しては、24か国及び欧州委員会(EC 40 )が拠出を行っており、これまでに1億2千万ユーロ以上が拠出されています(2018年3月末時点) [47] 。我が国もこれまでに、発電分野のみならず、保健・医療、食糧・農業、水資源管理、環境等の非発電分野のプロジェクトに対し、合計3,200万ドル以上(イヤーマーク、政府開発援助、米国に次ぐ拠出額)を拠出しています。2015年のNPT運用検討会議においても、PUIに対して今後5年間で2,500万ドルの拠出を表明しました [48] 。4)ASEAN、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)における協力
ベトナム、マレーシア等では原子力発電の新規導入を目指しており、ASEAN、ASEAN+3(日中韓)及び東アジア首脳会議(EAS 41 :ASEAN+8(日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド、ロシア、米国))の枠組みにおける原子力協力が活発化しています。
ASEANの枠組みでは、2008年に設立された原子力安全サブセクター・ネットワーク(NEC-SSN 42 )において、原子力発電に関する情報共有や技術支援が実施されています。NEC-SSNは2016~2020年にかけて、公衆への情報提供、人材育成、原子力安全、原子力緊急時対応・準備等の分野において、IAEAやFNCA等の国際機関等との協力を進める方針です。2017年4月にはフィリピンにおいて、NEC-SSNの第7回年次会合が開催されました [49] 。また、ASEAN+3及びEASの枠組みでは、2017年9月に開催された第14回ASEAN+3エネルギー大臣会合の共同声明で、ASEAN加盟国における民生用原子力プログラムの安全かつ効率的な開発が改めて強調され、原子力発電に対する国民理解の向上と公教育の推進に重点を置く協力を促すことが盛り込まれました [50] 。また、同時に開催された第11回EASエネルギー大臣会合で採択された共同声明では、2040年までの世界エネルギー需要を見据え、エネルギーの安定供給を確保し、よりクリーンなエネルギーと技術的に中立なアプローチを推進し、EAS地域のエネルギー需要の増大の大半に対応するため、EASの協力の継続的な重要性が改めて強調されました [51] 。5)アジア原子力安全ネットワーク(ANSN)における協力
ANSNは2002年に開始したIAEAの活動の1つで、東南アジア・太平洋・極東諸国地域における原子力安全基盤の整備を促進し、原子力安全パフォーマンスを向上させ、地域における原子力の安全を確保することを目的としています [52] 。参加国間での原子力安全に関する情報や既存・新規の知見を蓄積、分析、共有するため、原子力安全基盤構築に向けた協力活動のための人的ネットワークとサイバーコミュニティの構築に向けた活動を行っています。ANSNには我が国、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ及びベトナムが加盟しているほか、準加盟国としてパキスタン、協力国・機関としてオーストラリア、フランス、ドイツ、米国及びECが参加しています [52] 。我が国は米国及び韓国とともに活動資金を拠出しています。
- 安全原則(Safety Fundamentals)、安全要件(Safety Requirements)、安全指針(Safety Guides)の3段階の階層構造となっており、各国の上級政府職員で構成される安全基準委員会で承認を経て策定されます。現在、約130報の安全基準文書が策定されています [53] 。
- Integrated Nuclear Infrastructure Review
- Multinational Design Evaluation Programme
- Response and Assistance Network(緊急時対応援助ネットワーク):2000年にIAEA事務局により設立された原子力事故又は放射線緊急事態発生時の国際的な支援の枠組みです。現在参加国は日本を含む31か国です。
- Capacity Building Centre
- International Physical Protection Advisory Service(国際核物質防護諮問サービス)
- http://www.aec.go.jp/jicst/NC/photo.htm
- (日米原子力協定第十六条1及び2)
1. (略)この協定は、三十年間効力を有するものとし、その後は、2の規定に従って終了する時まで効力を存続する。
2. いずれの一方の当事国政府も、六箇月前に他方の当事国政府に対して文書による通告を与えることにより、最初の三十年の期間の終わりに又はその後いつでもこの協定を終了させることができる。- Civil Nuclear Energy Research and Development Working Group
- Nuclear Security Working Group
- Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation and Nuclear Security
- Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration
- Asian Nuclear Safety Network
- International Framework for Nuclear Energy Cooperation
- Forum for Nuclear Cooperation in Asia
- Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology
- Technical Cooperation Fund
- Peaceful Uses Initiative
- Association of Southeast Asian Nations(東南アジア諸国連合)
- http://www.fnca.mext.go.jp/mini/18_minister.html
- European Commission
- East Asia Summit
- Nuclear Energy Cooperation Sub-sector Network
< 前の項目に戻る | 目次に戻る | 次の項目に進む > |