第9章 核不拡散
2.核不拡散に関する国際的協議

(1)国際核燃料サイクル評価(INFCE)後の諸問題

 1977年から1980年にかけて行われたINFCEの結果を受けて,国際プルトニウム貯蔵(IPS),国際使用済燃料管理(ISFM),核燃料等供給保証(CAS)等の国際的制度に関する多国間での検討事項について,国際原子力機関(IAEA)を中心に検討が行われてきており,その一部は最終報告書がとりまとめられ,今後の取扱いについて検討されている。

① 国際プルトニウム貯蔵(IPS)
 IPSはIAEA憲章の規定に基づき,再処理により抽出されたプルトニウムのうち余剰なプルトニウムをIAEAに預託し,国際的な管理の下で貯蔵することZ-こより,プルトニウムが軍事目的に転用されることを防ごうとする構想であり,1978年12月よりIAEAの専門家会合が開始された。
 再処理により抽出されたプルトニウムの有効利用を図ることとしている我が国としては,プルトニウム管理に関する何らかの国際的コンセンサスができることは極めて有意義であると考えている。このため,我が国としては,本構想の検討審議に際して,IPS制度と現行の保障措置制度との整合性を図りつつ,その実施に当たっては,現行の保障措置制度が最大限に活用され,過度な追加的負担が課せられないこと及び核拡散を十分防止しつつも我が国のプルトニウム利用が阻害されることのない構想の構築を目途として対応してきた。
 最終的には,我が国と同様の立場を取る西側諸国案,開発途上国案,資源国等案の調整がつかず,三論併記の形で報告書がまとめられ,1982年10月専門家会合レベルの検討を終了した。
 その後,IAEA理事会の場で,IPSの今後の取り組み方について検討がなされたものの調整がつかず,1984年2月,1984年度の予算は凍結するという決定がなされて以降特段の動きは見られない。

② 核燃料等供給保証(CAS)
 核燃料等の供給保証については,それが十分に行われるならば,不必要な濃縮や再処理の施設を建設するインセンティブが減少し,結果として核不拡散に寄与することになる。一方,開発途上国の中には,原子力供給国が必要以上に原子力資材,技術の移転を制限しているとの不満がある。
 このため,1980年6月,IAEA理事会により,核不拡散を確保しつつ原子力資材,技術及び核燃料サービスの供給をいかに保証するかを検討し理事会に助言する「供給保証委員会(CAS)」が設置され,供給保証に関する今後の国際協力の在り方について国際的合意を築く努力が重ねられている。現在,8つの検討テーマが考えられており,次の3つのテーマについては,すでに各々ワーキング・グループを設け検討がなされている。
 i)核不拡散と国際協力の原則
 ii)緊急時バックアップ措置
 iii)原子力協定等の改正メカニズム
 このうち,後2者については,ワーキング・グループにおける結論が1983年9月及び12月に出された。

③ 国際使用済燃料管理(ISFM)
 ISFM構想は,核不拡散の観点とともに,原子炉から取り出される使用済燃料が将来,世界的にみて再処理供給量及び貯蔵容量を上回ることが予想されることから,これを国際協力の下に貯蔵し管理しようとするものであり,1979年6月よりその検討が開始された。その結果,1983年4月に最終会合が開催され,IAEAの役割を含めた最終報告書が取りまとめられ,暫定貯蔵に適した種々の貯蔵技術,使用済燃料管理を促す要因が明らかにされた。


(2)NPT再検討会議と原子力平和利用国連会議

①NPT再検討会議
 「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)第8条3には,この条約の運用を検討するため,発効の5年後に締約国の会議を開催すること,及び,その後5年毎に必要に応じて締約国の過半数が提案する場合には同趣旨の会議を開催することが規定されている。
 この規定を受け,過去1975年,1980年及び1985年と3回のNPT再検討会議が開催されている。
 第3回再検討会議は,1985年8月27日から約4週間にわたり,スイスのジュネーブにおいて開催された。同会議においては,NPTの有効性を再確認し,引き続きNPTに基づく核不拡散体制を維持.強化していく趣旨の「最終宣言」がコンセンサスで採択された。
 この宣言においては,NPTの一層の普遍化,条約に加盟していない非核兵器国における全原子力施設へのIAEA保障措置の適用呼びかけ,核兵器国における保障措置対象施設拡大の方向での検討要請等が言及されている。また,非核兵器国への原子力供給政策の基礎として受領国によるフル・スコープ保障措置の受諾を志向することの必要性が指摘されるとともに,開発途上国への技術協力・援助の強化が求められている。
 第4回再検討会議は1990年8月20日~9月14日の間ジュネーブで開催される予定である。

②原子力平和利用国連会議(PUNE)
 本会議は,1977年の第32回国連総会におけるユーゴスラビアを中心とする非同盟諸国による「経済的社会的発展のための原子力平和利用国連会議」開催提案を発端とするものである。1980年及び1981年の国連総会決議により,原則として1983年に開催することが決定されたが,その後の準備委員会の決定に基づき,1987年3月23日から4月10日にかけてスイスのジュネーブにおいて開催された。同会議には世界106ヵ国,IAEA,OECD/NEAなどの国際機関等が参加し,原子力平和利用における国際協力の原則,国際協力促進のための方法と手段,発電分野および非発電分野における原子力の役割等に関し討議が行われた。同会議においては,国連総会に提出する報告書が全体会議で採択されたほか,原子力分野の国際協力に関する各国の政策・経験・研究成果等に関して詳細な情報交換がなされた。


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