2.原子力の安全研究
原子力の安全性を今後とも高い水準に維持していくため,原子力開発利用の拡大と多様化に対応して,安全基準・指針等の整備や安全審査に当たっての判断資料となるデータを蓄積し,安全審査等に資するための原子力安全研究が積極的に推進されている。
(1)原子力施設等の安全研究原子力施設等の安全研究には,軽水炉,新型動力炉,核燃料施設等の安全研究がある。
これらの原子力施設等の安全研究は,軽水炉施設の高度化,核燃料サイクル事業の本格化,高速増殖炉等の新型動力炉の開発の進展等原子力開発利用の多様化に対応し,また,最新の科学技術的知見,原子力施設の運転経験の蓄積等を踏まえ,長期的視点に立って,計画的かつ総合的に推進する必要がある。
このような観点に立って,原子力安全委員会原子力施設等安全研究専門部会は1985年9月,新しい原子力施設等安全研究年次計画(昭和61年度〜65年度)を取りまとめた。同計画では,水炉(軽水炉及び重水炉)の安全性,高速増殖炉の安全性,再処理施設等核燃料施設の安全性,放射性物質輸送の安全性,原子力施設の耐震安全性及び原子力施設等の確率論的安全評価等の6分野にわたり,今後推進すべき安全研究課題等を定めている。同計画は,原子力安全委員会のソ連原子力発電所事故調査報告書の指摘を反映するため,1988年3月に見直しがなされ,現在計画に沿って,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団,国立試験研究機関等において研究が実施されている。
さらに,軽水炉の工学的安全研究については,国際協力を積極的に進めており,我が国が中心となりROSA-IV計画等を推進する一方,OECD/ハルデン計画, OECD/LOFT計画等に参加している。
原子力利用の本格化に伴い,国民の健康と安全の確保を図るとの見地から低線量放射線の人体への影響に関する研究,原子力施設に起因する放射能による人体への被ばく線量の推定評価に関する研究など,環境放射能に関する安全研究は,ますます重要になってきている。
これらの環境放射能の安全研究は,各研究機関の有機的連携を保ちつつ,総合的・体系的な観点に立ってこれを推進することが重要である。
このような観点に立って,原子力安全委員会環境放射能安全研究専門部会は,環境放射能安全研究年次計画(昭和61年度〜65年度)を取りまとめた。環境線量,生物影響,特定核種の内部被ばく及び安全評価の4分野にわたり,今後推進すべき安全研究課題等を定めている。
上記年次計画については,1988年3月に原子力安全委員会のソ連原子力発電所事故調査特別委員会報告書の指摘を反映するため見直しがなされ,現在,これに沿って放射線医学総合研究所を中心に,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,国立試験研究機関等において研究が実施されている。
(3)放射性廃棄物処分の安全研究放射性廃棄物の処分計画の具体化に対応して,処分に係る安全規制に必要な安全基準・指針,安全評価手法等の整備に必要な研究を推進することは極めて重要な課題となっている。放射性廃棄物処分の安全研究には低レベル放射性廃棄物並びに高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物の処分に係る安全研究がある。
低レベル放射性廃棄物の処分に係る安全研究については,1983年7月に,原子力安全委員会が,低レベル放射性廃棄物安全技術研究年次計画を取りまとめ,1989年3月に,研究の成果及び陸地処分方策の具体化を踏まえて,同年次計画の見直しを行った。
また,高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物の処分に係る安全研究については,1985年8月に同委員会は,高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(昭和61年度〜65年度)を取りまとめ,1987年8月に同研究の成果等を踏まえ,同年次計画の見直しを行った。
放射性廃棄物の処分に係る安全研究は,これらの計画に沿って,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等各研究機関により,有機的連携を保ちつつ,計画的かつ総合的に進められることとなっている。
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