1.我が国における原子力発電の動向
原子力委員会は,我が国の原子力開発利用の推進を図るに当たって,これを国民の理解と協力の下に計画的かつ総合的に遂行していくため,「原子力開発利用長期計画」(以下,長期計画と略する。)を策定し,適宜その見直しを行ってきている。
本章では,1987年6月に改定された長期計画に示された各分野毎に,我が国の原子力開発利用のこの1年間の進捗状況を振り返る。
(1)軽水炉等による原子力発電の動向
①原子力発電の現状
我が国の原子力発電は,1989年に入って2基が運転を開始したことにより,1989年6月末現在,運転中のものは37基,発電設備容量は2,928万キロワットとなっている。これに建設中や建設準備中のものも含めた合計は53基,4,590万8千キロワットである。
原子力発電は,1988年度末現在,総発電設備容量(電気事業用)の17.4%,1988年度実績で,総発電電力量(電気事業用)の26.6%を占め,主力電源として着実に定着してきている。また,1988年度の設備利用率は71.4%で,1983年度実績で70%を超えて以来,6年間引き続いて70%台の高い水準で推移している。1988年度は,比較的定期検査が集中したこと,年度中に新規に運転開始するプラントが少なかったこと,故障・トラブルに対する措置等が主な要因となって,過去最高を示した前年度の77.1%に比して低くなっているものの,依然として高水準を示している。
②原子力発電の経済性
1988年度運転開始ベースのモデルプラントについて,耐用年を通じた発電原価を通商産業省が試算した結果によれば,原子力発電が9円/キロワット時程度,石炭火力発電が10円/キロワット時程度,石炭火力及びLNG火力発電が10~11円/キロワット時程度となっている。
現時点においては,化石燃料価格の低迷により,以前に比べて他の電源との発電原価は接近してきているものの,原子力発電は依然として最も経済性の高い電源となっている。
③立地の促進等
政府及び事業者は,原子力施設の立地を促進するため,各種メディア,原子力モニター制度等を活用して,地元住民を始めとする国民の理解と協力を得るための努力を重ねている。
また,立地地域の振興対策の拡充を図るため,電源三法の活用等が逐次図られている。
1986年に発生したチェルノブイル原子力発電所事故以降,国民全体に,原子力発電の安全性,放射能汚染等に対する不安が広がったため,これに対し,原子力発電の安全性,必要性等に係る説明会,パンフレットの配布等を適宜実施している。
④軽水炉技術の研究開発
我が国では,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が一体となって,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
これらの成果は,現在運転中又は建設中の在来型軽水炉の一層の改良に反映されるとともに,特に,第3次計画においては改良型軽水炉(ALWR)の開発が進められた。東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号機(1996年運転開始予定)及び7号機(1998年運転開始予定)は,このALWRの初号機であり,原子炉圧力容器内蔵型冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等の新技術が採用されている。
また,軽水炉は長期にわたって原子力発電の中核を担うこととなると考えられるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,更なる安全性の向上を目指しつつ高度化を図っていくため,炉心の高機能化,燃料の高性能化,新素材の活用等の検討が進められている。
電気事業者においては,ウラン資源の有効利用及び使用済燃料の発生量低減のため燃料の高燃焼度化の実用化を進めており,関西電力(株)高浜発電所3号機及び4号機を始めとして,他のプラントにも拡大していく計画である。
⑤原子炉の廃止措置
原子炉の廃止措置に関する技術開発については,実際の商業用発電炉の廃止措置が必要となる時期を考慮し,1990年代後半に向けて技術の向上を図ることとしており,1981年度から,日本原子力研究所が動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。
同研究所では,1986年度から約6年間の計画でJPDRの解体実地試験を行っており,現在,すべての燃料体の搬出を終えて,炉内構造物の解体工事を実施している。
(財)原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な炉内構造物切断技術,解体廃棄物処理技術等について確証試験を進めている。
また,1988年12月に,官民の参加により(財)原子力施設デコミッショニング協会が設立され,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行うこととしている。
電気事業者においては,原子炉の廃止措置費用について,世代間負担の公平を図るため,発電を行っている時点で,引当金を積み立てる方式によって料金原価に算入することとし,1989年3月期決算から原子炉廃止措置費用引当金の計上を開始した。
(2)核燃料サイクルの確立
①核燃料サイクル事業化の進展
我が国の核燃料サイクルの研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として進められてきたが,このうち,燃料加工については,既に民間における事業化が行われており,多くの実績を積み重ねている。また,ウラン濃縮,軽水炉使用済燃料再処理,低レベル放射性廃棄物埋設についても,民間における事業化の段階を迎えつつあり,日本原燃産業(株)及び日本原燃サービス(株)が,青森県六ヶ所村において核燃料サイクル施設の事業化計画を進めている。
ウラン濃縮については,日本原燃産業(株)が,1988年8月の事業許可を受けて,1991年頃の操業開始に向けて建設を進めている。軽水炉使用済燃料の再処理施設,低レベル放射性廃棄物埋設施設については,現在,科学技術庁において安全審査中である。
このように,我が国における核燃料サイクル施設の事業化計画は,着実に進展しつつある。
②ウラン濃縮
我が国におけるウラン濃縮の国産化については,長期計画においては,当面,遠心分離法を推進することとしており,動力炉・核燃料開発事業団が中心となってその研究開発を進めてきた。同事業団は,岡山県人形峠のパイロットプラントに続き,原型プラントの建設を民間の協力を得て進めていたが,1988年4月にその第一期分が,1989年5月には第二期分が操業を開始し,合計200トンSWU*/年の能力を有するプラントが完成した。日本原燃産業(株)は,これらの成果を踏まえ,1988年10月,青森県六ヶ所村に商業プラントの建設を開始した。
同事業団と民間との協力により進められている新素材高性能遠心機の研究開発に関しては,今後,その実用化を図っていくため,1989年度に実用規模カスケード試験装置の建設に着手し,1991年度の運転開始を目途とする旨の内容の報告書を,1989年5月に原子力委員会ウラン濃縮懇談会が取りまとめた。
一方,遠心分離法に続くウラン濃縮に関する新技術としては,レーザー法と化学法の研究開発が進められている。
注)* SWUは,分離作業単位(SeparativeWorkUnit)の略。1トンSWUは,天然ウランを濃縮する際に,必要とする濃縮度の濃縮ウラン1トンを得るための仕事量を表す基本単位である。ウラン濃縮度を高める程,また廃棄濃度を低くする程,SWUは大きくなる。
このうち,レーザー法については,日本原子力研究所とレーザー濃縮技術研究組合が原子レーザー法の研究開発を進めており,同研究組合は,日本原子力研究所東海研究所構内において1989年6月から実験機の建設に着手している。
また,動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所は,分子レーザー法の研究開発を進めており,工学実証試験,レーザーの高度化等を実施している。
さらに,旭化成工業(株)は,国の助成を受けて化学法の開発を進めている。
③軽水炉使用済燃料再処理
軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われてきた。同事業団の東海再処理工場は,1977年9月に運転を開始して以来,初期のトラブルを克服し,近年では,順調に運転を行っており,1988年度までの累積再処理量は約392トンに達している。
我が国で発生する使用済燃料の再処理については,上記東海再処理工場のほか英国及びフランスに委託しており,1988年度には,約460トンの使用済燃料が両国に運ばれている。日本を含め海外からの使用済燃料を再処理するため,英国ではセラフィールドに,また,フランスではラ・アーグに,新たな再処理工場の建設が進められている。
将来的には,国内の再処理需要については,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と日本原燃サービス(株)が計画を進めている青森県六ヶ所村の再処理工場により対応することとしている。また,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処理するまでの間適切に貯蔵・管理することとしている。
日本原燃サービス(株)は,1997年頃の運転開始を目指して,同再処理工場(処理能力は年間800トン)を建設する計画であり,動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の運転によりこれまで培ってきた技術蓄積を生かして所要の検討を進めていたが,1989年3月,再処理事業指定申請を科学技術庁に提出した。
④放射性廃棄物処理処分
〔低レベル放射性廃棄物〕
原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち,気体及び一部の液体廃棄物については,所定の濃度以下であることを確認し,大気中または海水中に放出している。その他の液体及び固体廃棄物については,発生量を極力低減した後,適切に減容し,固化する等の処理を行って,各発電所等の敷地内に安全な状態で貯蔵されている。1989年3月現在,その累積量は200リットルドラム缶に換算して約74万本分となっている。
低レベル放射性廃棄物の最終的な処分については,陸地処分及び海洋処分を基本的な方針としている。
このうち,陸地処分については,日本原燃産業(株)が1992年頃の運転開始を目指して,青森県六ヶ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する計画を進めている。また,海洋処分の実施については,関係国の懸念を無視して強行はしないとの考え方の下に慎重に対処することとしている。
〔高レベル放射性廃棄物〕
再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,これまで動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場で発生したものが,厳重な管理の下に同工場のタンク内に貯蔵されており,その量は,1989年3月末現在,溶液の状態で,343m3となっている。これに加え,将来は,日本原燃サービス(株)が青森県六ヶ所村に建設を計画している民間再処理工場の運転開始に伴い高レベル放射性廃棄物が生じる。
これらの高レベル放射性廃棄物については,安定な状態にガラス固化し,その後,海外再処理に伴い返還される予定の高レベル放射性廃棄物ガラス固化体と同様に,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。なお,日本原燃サービス(株)は,青森県六ヶ所村に建設予定の再処理工場の敷地内で,海外から返還される予定の高レベル放射性廃棄物を貯蔵することを計画しており,1989年3月,廃棄物管理の事業許可申請を科学技術庁に提出した。
ガラス固化技術の開発については,フランスにおいて実用化されているなど実績が積み重ねられており,我が国においても,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められてきている。同事業団は,この成果を踏まえ,1991年度の試験運転開始を目指して,1988年6月に東海再処理工場に付設してガラス固化プラントの建設に着工した。
さらに,同事業団では,ガラス固化した高レベル放射性廃棄物の貯蔵及び処分技術の試験研究等を行う「貯蔵工学センター」を北海道幌延町に設置することを計画している。
高レベル放射性廃棄物の地層処分については,動力炉・核燃料開発事業団を中核機関として研究開発及び調査を行い,その後,処分事業の実施主体が選定する予定地における処分技術の実証を経て,処分場の建設・操業・閉鎖を行う計画である。
また,高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,含まれる有用元素の資源化という新たな可能性を目指して,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1988年9月「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」を取りまとめた。これによると,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離を行い,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換を行うための研究開発を長期的視野に立って,官民の力を結集して計画的かつ効率的に推進することとしている。
(3)プルトニウム利用への展開我が国は,ウラン資源の有効利用を図り,エネルギーの安定供給に貢献するため,使用済燃料の再処理により得られるプルトニウムの利用体系の確立を目指すこととしている。その際,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉の利用を基本とするが,当面は軽水炉及び新型転換炉において一定規模でのプルトニウム利用を進めることとしている。
原子力委員会は,1989年5月「核燃料リサイクル専門部会」を設置して,軽水炉でのプルトニウム利用の進め方,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工体制の整備,海外からのプルトニウム返還輸送の進め方等について,検討を開始した。
①軽水炉によるプルトニウム利用及び新型転換炉
我が国における軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,電気事業者を中心に進められており,現在,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の少数体実証計画が進められている。これに続いて,実用規模の実証計画を1990年代前半を目途に進め,その後,本格利用に移行することとしている。
新型転換炉(ATR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,現在,原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
また,これに続く実証炉については,電源開発(株)が1999年の運転開始を目指して,青森県大間町に電気出力60万6千キロワットのATR建設のための準備を進めている。
②高速増殖炉
我が国における,高速増殖炉(FBR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきている。同事業団の実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)は,現在まで順調に運転されており,各種技術データが得られている。この成果を踏まえ,同事業団では民間の協力を得て,1992年の臨界達成を目指して福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めている。
実証炉については,日本原子力発電(株)を中心として,1990年代後半の着工を目途に,実証炉関係の研究開発,基本仕様の選定等を行うこととしている。また,日本原子力発電(株)は,動力炉・核燃料開発事業団から開発技術の円滑な移転を受けるため,1989年3月,同事業団との間に「高速増殖実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」を締結した。
また,動力炉・核燃料開発事業団の大洗工学センターを中心として原型炉「もんじゅ」,大型化等に関する研究開発が実施されており,民間においても所要の研究開発が進められている。
③高速増殖炉使用済燃料の再処理
高速増殖炉使用済燃料の再処理は,高速増殖炉の増殖の特性を発揮させ,燃料の有効利用を図るために不可欠である。
この技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,実規模モックアップ試験,高レベル放射性物質研究施設における基礎的データの蓄積等が図られている。
高速増殖炉時代の核燃料サイクルの要となる高速増殖炉使用済燃料再処理の研究開発は,高速増殖炉の研究開発と整合性を図りつつ行うこととしており,今後は,工学規模でのホット試験を経て,2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントを建設することとなっている。
④MOX燃料加工
プルトニウム利用体系を確立するためには,多量のプルトニウムの安全取り扱い技術を含めて所要の研究開発を進め,MOX燃料加工の実用化を図る必要がある。
MOX燃料加工については,動力炉・核燃料開発事業団が行ってきており,現在,供給能力は,新型転換炉原型炉「ふげん」用燃料製造施設10トン/年及び高速増殖炉用燃料製造施設5トン/年となっている。1989年3月には,同事業団が1966年にMOX製造の技術開発に着手して以来累積100トンMOXの製造を達成した。これらに続き,現在,新型転換炉実証炉用燃料製造施設(40トン/年)の建設が進められている。
また,電気事業者によるプルサーマル実用規模実証計画用燃料加工については,動力炉・核燃料開発事業団の施設を活用し,その設備増強等により対応することとしている。その後の本格利用については,原則として民間が事業主体として実施することとなっている。
⑤プルトニウムの輸送
海外再処理によって回収したプルトニウムの国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備を図ることとしている。
回収プルトニウムの国際輸送の方法としては,航空輸送及び海上輸送が考えられる。1988年7月に発効した新日米原子力協力協定では,一定のガイドラインに従う航空輸送に対し,包括同意が得られた。また,その後の日米両国の交渉を経て,同年10月には,一定のガイドラインに従う海上輸送についても包括同意が得られることとなった。
現在,航空輸送については,動力炉・核燃料開発事業団において輸送容器に関する検討を進める一方,米国原子力規制委員会(NRC)において,具体的な試験基準案の作成が進められている。また,海上輸送については,将来の輸送を想定した所要の準備が進められている。
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