(2)日加原子力協力協定の動き
日加協定は昭和35年に発効以来,10年間の有効期間を経た後も,6カ月前の廃止の事前通告がないことにより自動延長されている。
日加原子力協定は,主としてカナダからのウラン輸入を目的としているが,現在,カナダからの申し入れにより,協定改訂交渉中であり,昭和52年始めより,カナダからの日本向けウラン輸出は停止されている。
カナダの原子力協定改訂交渉は,昭和49年12月及び51年12月に発表された保障措置強化を目的としたカナダの新ウラン輸出政策に基づき,日本のみでなく欧州諸国とも並行して行われている。
我が国とは,52年1月(東京)及び52年5月(オタワ)の交渉後,協議を続けているが,合意に達していない。
日加協定改訂交渉で問題となっているのは,「二重規制」の問題である。
現在,我が国がカナダからウランを輸入するといっても,実際は,ウランは,いったん米国へ輸出され,そこで濃縮され,米国からの我が国への濃縮ウランの輸入という形をとる。したがって,我が国にとって輸入される濃縮ウランに対する国際的な規制は,これまで,日米協定に基づき日米間で移転される核質物に対するものとして受け入れられており,米国のみが再処理に対する規制を含め,発言権を有している。これに対するカナダの主張は,ウラン原産国として,カナダ自身が最後まで規制権限を有したいというものであり,ここに,「二重規制」の問題が発生する。
「二重規制」は,核燃料サイクルの持つ国際性の点から,問題があると考えられる。すなわち,核燃料は,ウラン鉱として掘られ,それが濃縮され加工されて燃料となり,一度原子炉で燃やされた後,再処理されて,再び燃やされるという核燃料サイクルを何回も回ることにより,有効に利用されるが,「二重規制」が国際的慣行になった場合には,この核燃料サイクルの各段階において,関与する国の規制権限が一つずつ加重され,何回か回転する間には,各国の規制権が雪ダルマのようにふくれ上がり,その一々に事前許可を取るという場合には,原子力の平和利用が,実際上,阻害されるおそれが出てくる。核燃料サイクルで,外国との関係が深い我が国にとって,特にこれは重要な問題である。
この「二重規制」が原子力の平和利用を阻害するという点は,つとに,国際的に認識され,核物質の国際的管理に際しては,原産国籍を問わずに,単一の在康記録に基づくこととし,多重規制に伴う困難を取り除くべきであるという「単一在庫」の概念が,昭和45年の国際原子力機関保障措置委員会でのカナダ代表の発言を含め国際的支持を受け,現在の国際原子力機関保障措置体制の基本的理念の一つとなっている。
以上から明らかなように,原子力の平和利用と核不拡散とが両立できると考える我が国は,日加協定改訂交渉において,カナダの主張する規制そのものの必要性は,その程度は別として認めることが出来るが,実質的に,「二重規制」につながることは慎重にならざるを得ないと考えている。
ロンドン協議において,二重規制問題を検討する作業部会が,我が国提案により設置されたことはこの問題の重要性を示している。
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