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第178号 身のまわりの元素の安定同位体について(その2)


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    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2015年7月10日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 身のまわりの元素の安定同位体について(その2)
┣ 会議情報 
┃  (6月30日)
┃   ・原子力利用の「基本的考え方」について(長崎大学名誉教授、(公
┃    財)放射線影響協会理事長 長瀧重信氏)
┃  (7月6日)
┃   ・国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の原子
┃    炉設置変更許可(FCA(高速炉臨界実験装置)施設の変更)につ
┃    いて(諮問)(原子力規制委員会原子力規制庁)
┃   ・「原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言」及び「軽
┃    水炉安全技術・人材ロードマップ」について(経済産業省資源エネ
┃    ルギー庁)
┣ 事務局だより 就任挨拶
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━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

身のまわりの元素の安定同位体について(その2)

                              中西 友子

 元素に含まれる放射性でない安定同位体の比については、酸素(酸素16、
17,18)の他、窒素(窒素14,15)や水素(水素1,2)などの同位体比が知られ
ている。各同位体は同じ元素でも少し重さが異なるので、種々な化学反応過程
で僅かだが挙動が異なる場合がある。前回は水の蒸発時や雨水として降る場合
の水素の同位体比の変化や、海水中の酸素の同位体比の変化とそれからわかる
ことなどについて述べたが、今回は生物の代謝過程で起きる窒素や水素の同位
体比の変化について紹介したい。

 私たち人間を含め生きているものは全て周囲のものを食して生きている。言
いかえれば環境中の元素を体内に取り入れてその形体を作りあげている訳であ
る。当然、環境中に含まれる元素に種々の同位体が存在する場合には、体内に
取り込まれた元素にも同様な同位体が存在することになる。しかし体内では
種々の化学反応が起きている。単に周りから元素を含む化合物を取り入れて蓄
積しているのではなく、吸収した元素は代謝過程と呼ばれる化学反応を経て必
要な骨格の形成や再構築を行っているのである。

 植物を考えてみよう。植物は空気中の見えない二酸化炭素を取り込み、光合
成と呼ばれる過程を経て様々な炭素を含む化合物を作り出し植物体を作り出し
ている。いわば見えないものから見える形を作っているともいえるだろう。た
だ、その代謝過程では元素の各同位体の反応性が非常に僅かではあるが異なる
ため、出来上がった植物体中の元素の安定同位体比が異なってくる。例えば、
イネやムギの中に固定されている炭素の安定同位体比(*注)は、標準物質(ベ
レムナイト化石)の同位体比と比較して2.5から3.0 %ほど異なってくる。イ
ネ・ムギなどを含むほとんどの植物はC3植物と呼ばれるが、トウモロコシやス
スキに代表されるC4と呼ばれる分類の植物ではこの値は約半分となる。植物は
光合成の代謝過程により、今述べたC3、C4に分類され、炭素の同位体比はこれ
らの種類によって少し異なるものの、それを食した動物中での炭素の同位体比
はほとんど変化しなくなることが知られている。

 一方、窒素の同位体比(15N/14N)は食物連鎖の中で大きく変化していく。
最初の窒素の同位体比よりも捕食が進むにつれて重い窒素の割合が、0.1%の
オーダーではあるが、だんだんと多くなるのである。つまり植物よりもそれを
食した小動物の方が、またその小動物を食した大動物の方が次第に高い窒素同
位体比を示すことになる。このことは食物連鎖によって何が起きているかを調
べるのに役立つ。例えば福島原発事故で降ってきた放射性核種に生物濃縮があ
るのかどうかも窒素同位体比の測定から予測することができる。まず、環境中
の色々な生き物の窒素同位体比を測定する。そしてそれらの生き物を窒素同位
体比の値によって食物連鎖に沿った順序付けをし、次にその順序に沿った生物
中の放射性核種の濃度を測定する。もしある生物中の放射性核種の濃度が他の
生物と比較して高い場合には、その捕食段階の生物がその核種を濃縮している
ことになる。これは一例であるものの、食物連鎖の研究には窒素同位体比の測
定は欠かせない。

 また窒素同位体比は食物連鎖が進むにつれて大きくなることから、人の食生
活も予測することができる。例えば遺跡から人の遺体が出てきた場合、その人
の窒素同位体比を測定することにより、その人が草食系であったか肉食系で
あったかを推測できることになる。肉食系の人の方が窒素の同位体比が大きく
なるからである。

 これまで身のまわりの元素について色々な面を紹介してきた。環境中の元素
の同位体、つまり、放射性同位体と安定同位体の両方について、それらの解析
を行っていくことは、自然環境だけでなく生きている物そのものの状態も含む
今までの長い歴史を知ることができる。特に放射性同位体とは、「固有の半減
期という時計」を持った核種であるということができる。つまり、私たちの周
りにはあらゆる形の「時計」が自然に存在しているのである。これらの時計の
物性や化学的な性質を知ることにより、私たちの住んでいる地球や宇宙につい
てさらに多くの知見を知ることができるだろう。

(*注)炭素安定同位体比(δ13C)は、【サンプルの13C/12C】÷【標準試料の
13C/12C】−1の1000倍と定義されている。単位は‰:パーミル(0.1%)

●次号は岡委員長からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は霞ヶ関周辺で開
催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内や配布資料は、すべて原子力
委員会ウェブサイト(以下URL)で御覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●6月30日(火)の会議の概要は以下のとおりです。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】原子力利用の「基本的考え方」について(原子力利用の「基本的考
え方」について(長崎大学名誉教授、(公財)放射線影響協会理事長 長瀧重
信氏)
<主なやりとり等>
 原子力委員会で議論を進めている原子力利用の「基本的考え方」の策定に向
けて、長崎大学名誉教授、(公財)放射線影響協会理事長 長瀧重信氏より御
意見を聴取しました。長瀧氏からは、原子力災害の健康影響として、放射線の
影響と災害の影響、緊急時対応の教訓等の説明がありました。
 委員からは、被ばく等の影響に対して不安を抱く方々にどのように対応する
か、精神面や社会的な影響による健康影響について研究されているか等の質問
がありました。

●7月6日(火)の会議の概要は以下のとおりです。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の原子
炉設置変更許可(FCA(高速炉臨界実験装置)施設の変更)について(諮
問)(原子力規制委員会原子力規制庁)
<主なやりとり等>
 平成27年7月2日付けで原子力規制委員会から諮問のあった、国立研究開
発法人日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の原子炉設置変更許可(FC
A(高速炉臨界実験装置)施設の変更)について、原子力規制庁より変更内容
等の説明がありました。原子力委員会は、本諮問内容の検討を行い、後日答申
を行うこととしました。

【議題2】「原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言」及び「軽
水炉安全技術・人材ロードマップ」について(経済産業省資源エネルギー庁)
<主なやりとり等>
 経済産業省資源エネルギー庁より、総合資源エネルギー調査会原子力小委員
会自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループにおいて取りまとめられ
た、「原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言」及び日本原子力
学会安全対策高度化技術検討特別専門委員会との連名によって取りまとめられ
た「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」について説明がありました。
 委員からは、新しい規制基準ができた中で自主的な取組をどのように行って
いただくか、グッドプラクティスを共有する仕組み、研究炉が止まっている中
での大学の人材育成等についての質問がありました。

●次回の委員会開催については、以下の開催案内から御確認ください。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

━・・・━ 事務局だより ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━

就任挨拶

 本年4月より原子力政策担当室でお世話になっております横井と申します。
よろしくお願い申し上げます。今回、初めてメールマガジンを担当させていた
だくにあたり、少しだけ自己紹介をさせていただきたいと思います。
 私自身は、平成2年に科学技術庁(当時)に入庁して以来、主として原子力
施設の安全規制を担当する部署を経験して参りました。平成10年には科学技術
庁六ヶ所原子力安全管理事務所(当時)にて高レベル放射性廃棄物貯蔵管理セ
ンターの監督業務、平成23年3月11日の東日本大震災の際は、発災直後に福
島県大熊町のオフサイトセンターへ派遣されたこともございます。その後は原
子力分野を離れ、前職では、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課にて脳
科学研究の推進に関する業務を2年ほど担当いたしました。
 原子力委員会は、安全規制とはまた異なる立場ではございますが、これまで
の経験を活かしつつ、事務局の一員として努力して参る所存です。今後ともよ
ろしくお願い申し上げます。

(横井)

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●次号配信は、平成27年7月24日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
○メルマガへの御意見・御感想はこちらへ(お寄せ頂いた御意見に対しては、
原則として回答致しませんが、今後の原子力委員会の業務の参考とさせていた
だきます。)
 https://form.cao.go.jp/aec/opinion-0017.html
○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/melmaga/index.htm
○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
○このメールアドレスは発信専用のため、御返信いただけません。
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