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第165号 原子力委員会メールマガジン 「原子力:7つの常識と3つの非・常識」(その5)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ No.165 ━━━━━
    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2014年12月26日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 「原子力:7つの常識と3つの非・常識」(その5)
┣ 会議情報 
┃  (12月16日)
┃   ・委員長代理の指名について
┃   ・原子力委員会委員長及び委員の倫理等に係る行動規範について
┃   ・原子力委員会議事運営規則等の改定について
┃   ・原子力委員会委員長談話について
┃  (12月24日)
┃   ・地層処分技術調査等事業(地層処分回収技術高度化開発)
┃   ・基本的考え方について
┣ 事務局だより 3条委員会と8条委員会
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

「原子力:7つの常識と3つの非・常識」(その5)

                              阿部 信泰

 前回(10月31日)に続きまして今回は常識の5について考えてみたいと思い
ます。
 常識の5番目「使用済み燃料の累積的な処理費用と重大事故があった場合の
対策費用を考えなければ原子力は最も安価な発電方法の一つだ。前2者につい
ては不確定要素が多く計算がむずかしい。」
 関西電力のサイトには、「石油を使った火力発電と、太陽光発電が1kWh
あたり30円以上と高い傾向にあります。天然ガスを使った火力発電は10.7円
程度、石炭を使った火力発電は9.5円程度です。原子力の発電コストは、8.9
円程度と他の発電方法と比較しても遜色ない水準です。」とあります。原子力
委員会が詳細な分析の結果、2011年11月に発表した報告を簡単な表にすると
以下のようになります。(詳細は下のグラフをご覧ください。)右側には参
考・比較のために電気事業連合会のサイトに掲載されている数字を掲載しまし
た。(単位は1キロワット当たり円)さらに一番右側には後述の米エネルギー
省の数値を参考までに示しました。

発電コストの比較表

 発電コストの比較は、建設費などの初期投資を耐用・運用年数を何年とし、
金利をどう設定するか、操業率を何%と設定するか、石油・天然ガスなどは将
来の市場価格をどのくらいに設定するかなどによってかなり結果に差が出てき
ます。原子力委員会の報告には小規模水力しか出ていなくてかなり高価になっ
ていますが、一般には比較的安い電源と考えられています。小規模に限定した
ため高価になったのではないかと見られます。原子力委員会の報告では石油が
意外と高価です。価格の不安定性を考慮にいれたのかもしれません。電気事業
連合会の数字では太陽光の価格が断然高いのが特徴的です。原発反対派からは
とかく、電気事業連合会の数字は意図的に原子力を安くしているという声が聞
かれますので、比較のために米国のエネルギー省が今年始めに出した報告書の
数字を一番右側に掲載しました。こちらは1キロワット当たりセントです。現
在の1ドル120円前後の為替レートですと、1セント1.2円ぐらいに当たりま
す。2019年に導入したと想定した場合の2012年ドル価額での表示です。大体
のところ、原子力委員会の試算結果と一致していると言えるかと思います。

発電コストの比較表

 原発反対派・批判派の方々からは原発の発電コストは安いと言うけれども、
(1)使用済み燃料を処理したときにできる高レベル放射性廃棄物の処分などに
要する巨額の費用、(2)そして最近の東電福島原発事故によってもたらされた
避難・災害復旧・賠償・廃炉・除染などの膨大な費用、(3)さらにさかのぼっ
てこれまでに原発受け入れなどのために費やした直接・間接のコストなどが含
まれていないとの指摘があります。
 2011年には立命館大学の大島堅一教授が原発の発電コストは従来言われてい
た1kWh当たり5円前後の2倍の11〜12円程度だと論じました。
 使用済み燃料を再処理してから高レベル放射性廃棄物を地下深度に埋設処分
した場合と再処理せずに使用済み燃料をそのまま埋設処分した場合のコスト比
較は2011年に原子力委員会が公表した核燃料サイクルのコスト計算の一つの中
心テーマでした。核燃料サイクルで燃料を使用した後の処理などのコスト(い
わゆるバックエンド・コスト)は直感的には再処理せずに直接処分した方が安
いと考えられます。そのとおり2011年の資料では、割引率(金利)3%として再
処理モデルが1.98円/kWhに対し直接処分が1.00〜1.01円/kWhとほとんど半額
になっています。

図

 再処理と廃棄物の最終処分については、2005年に使用済燃料の再処理等のた
めの積立金が立法されて原発を運転する企業がこうした経費を予め積み立てる
ことが義務付けられました。(それまではこの経費を社内留保として取り置く
ことが義務付けられていました。)この結果、現在、約2.5兆円近くの資金が
経費としてこの口座に蓄積されています。(各社の社内留保も含めるともっと
多くなるでしょう。)この結果、普通なら再処理工場の完成・稼働が遅れ、最
終処分地の選定が遅れてバックエンドの作業が遅れると経費がかさんでコスト
増になりそうなものですが、この場合、逆に積立金の運用益が出るので、使用
済み燃料の貯蔵経費を払っても遅れた方がプラスという不思議な計算になって
います。
 また、六ヶ所の再処理施設の建設費が当初予算から大幅に増えて2兆円超に
なり、最終処分にも相当経費がかかりそうですが、それでも電力単位kWh当た
りにすると2円になるかならないかとなります。これは再処理・最終処分に40
年以上をかけ、それを全国の総原発発電量(2010年時点で約2,900億kWhだっ
た。)で割り算するので、単位電力当たりのコストはこのように小さくなるの
です。しかし、だからと言って少しくらい大きな額でも何十年もかけて大量の
電力に薄く割り振れば高くないと考えるべきではないでしょう。いくら長く伸
ばして薄く広めてもそれは確実に日本経済全体の負担としてかかってきてその
分だけ経済発展を減速することになるからです。
 これだけ長期の展望で比較するとなるとその間の金利負担をどう見るか、石
油・天然ガス・ウランなどの国際市場価格をどう予測するかなど予測し難い不
確定要素の幅が大きく、正確な定量的比較検討はなかなか難しいと言わざるを
得ません。
 この発電コストの比較で私が一番大きい問題と思いますのは、各電源が環境
に及ぼす負担、つまり地球温暖化をもたらすと言われる二酸化炭素を生成する
ことのコストが計算に入っていないことです。現在いろいろなところで出され
ている電源別コスト比較は電力会社に直接かかるコストの比較にはなるかもし
れませんが、電源が社会全体、あるいは地球全体に及ぼすコストを公平に比較
できるとは言えません。
 二酸化炭素が地球温暖化に及ぼすコストをどう計算するかは難しいところで、
私には確たる知識はありません。排出権取引について少し調べてみましたが、
価格がどれほどかということは見出せませんでした。私の限られた知識ですが、
2012年にオーストラリアが炭素1トン当たり23オーストラリア・ドルの炭素税
を導入したと言われます。これで下の電事連作成の1kWh当たり二酸化炭素排出
量で計算しますと各々以下の額の炭素税がかかることになります。

     石炭火力 CO2 943g/kWh ・・・・ 2.17 cents
     石油火力 CO2 738g/kWh ・・・・ 1.70 cents
     天然ガス CO2 599g/kWh ・・・・ 1.38 cents

 これを各々の発電コストに上乗せしたとしてもまだ他の再生可能エネルギー
よりは安いような感じです。ということは二酸化炭素を出して炭素税を払って
もまだ化石燃料で発電した方がよいと考える電力会社があるかもしれません。
一つの考え方は電力会社などが行動を変えるほど高い炭素税をかけなければ温
暖化阻止の目的は達成できないという考え方です。しかし、それは経済活動に
影響が大き過ぎるのでむしろ温暖化ガスを出さない電源に補助金・奨励金を出
した方がよいという考え方もあります。これも財政負担が大きい(最終的には
国民の負担)ので規制によって温暖化ガス排出を規制した方がよいというのが
第三の考え方です。
 そもそもこのように一つ一つの国が設定する炭素税では、その国の産業の競
争力を犠牲にしてまで炭素税をかけるとは思えないので、世界的に平等に例外
なく炭素税をかけなければ効果がないという考えがあります。今、出されてい
る地球温暖化による世界全体の被害額を炭酸ガスの総排出量で割り算すれば排
出炭素1トン当たりの税額が出てくるはずです。
 原発事故が起こった場合の損害賠償その他のコストについては東電福島事故
直後の2011年に原子力委員会が試算結果を公表しました。賠償その他のコスト
を総額約11兆円と見て、福島第一原発の1号機から3号機までの3基が事故を
起こしたので、これを3基で分割負担し、事故の起こる確率を原発1基当たり
500年に1回というかなり高めの想定をして計算するとこれだけの損害賠償に
耐えるためには1kWh当たり約1.2円を積み立てなければならないという計算を
しました。ただ、この損害額の中には現在福島県内で広範に行われている除染
の費用・除染で発生した汚染土壌などの廃棄費用は含まれていませんので、全
体のコストは11兆円を越えると見込まれます。ここでも前のバックエンド・
コストの場合と同じで、11兆円という巨額でも、長い年月を経て、大規模な発
電量でkWh単位に割り算をすると1円程度という意外と低いコストに収まるとい
うことです。
 立命館大学の大島堅一教授が指摘したもう一つの点は、原発を受け入れても
らうために電力会社・政府が受け入れ自治体に払っている補助金・交付金など
の負担です。教授はkWh当たり10.25円と計算しました。平成26年の原発立地
自治体への交付金は1,000億円弱で、その財源として電力会社から徴収される
電源開発促進税は1kWh当たり0.375円ですので、これだけだとkWh当たり
10.25円には積み上がりません。他にも無形・有形の財政的支援があるという
指摘もあるかもしれませんが、そもそも文部科学省の原子力関係年間予算が約
1,700億円、経済産業省が1,600億円ですからそれほど大きい数字にはなりませ
ん。原発のお蔭で新幹線ができたというような議論まで行くと別ですが・・・

●次号は中西委員からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は原則として霞ヶ
関にある合同庁舎8号館で開催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内
や配布資料は、すべて原子力委員会ウェブサイトで御覧いただけます。

●12月16日(火)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイ
トに掲載される議事録を御覧ください。

【大臣御挨拶】
 委員会冒頭、山口大臣よりご挨拶があり、見直し後の新しい原子力委員会で
取り組むべきこと、期待すること等のお話がありました。

【議題1】委員長代理の指名について
<主なやりとり等>
 岡原子力委員会委員長が、原子力委員会設置法第4条第2項に基づき、阿部
委員を委員長代理に指名しました。

【議題2】原子力委員会委員長及び委員の倫理等に係る行動規範について
<主なやりとり等>
 原子力委員会委員長及び委員の倫理等に係る行動規範(平成26年4月8日
原子力委員会決定)について、改めて確認を行うとともに、委員長及び委員本
人の自己申告を、原子力委員会のホームページにおいて公表することとしまし
た。

【議題3】原子力委員会議事運営規則等の改定について
<主なやりとり等>
 平成24年8月の原子力委員会決定文を合併し、新たに原子力委員会議事運
営規則を原子力委員会決定することとしました。

【議題4】原子力委員会委員長談話について
<主なやりとり等>
 今後の原子力委員会の活動に関し、岡原子力委員会委員長より談話の発表が
ありました。

●12月24日(水)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイ
トに掲載される議事録を御覧ください。
【議題1】地層処分技術調査等事業(地層処分回収技術高度化開発)
<主なやりとり等>
 公益財団法人 原子力環境整促進・資金管理センターより、地層処分技術調
査等事業での、地層処分回収技術高度化開発の実施状況について説明がありま
した。

【議題2】基本的考え方について
<主なやりとり等>
 基本的考え方の策定に向けて、各委員より意見の発表があり、その後討論を
行いました。

※資料等は以下のURLで御覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●次回は1月13日(火)に会議を開催する予定です。詳しくは、以下の開催案内
を御覧ください。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

+-+-+-+-+-+-+ 事務局だより +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

3条委員会と8条委員会

 政府には、有識者が構成員となる様々な合議制機関があります。これらの名
称には、委員会や審議会、調査会等様々なものがありますが、大別すると行政
委員会と審議会に分類できます。
 行政委員会は「省」や「庁」同様の行政機関であり、国家行政組織法第3条
を設置根拠とするため、“3条委員会”とも呼ばれます。一方、審議会は、行
政機関に諮問機関としておかれる機関であり、国家行政組織法第8条を設置根
拠とするため、“8条委員会”とも呼ばれます。
 行政委員会としては、公正取引委員会や運輸安全委員会、原子力規制委員会
があり、審議会としては原子力委員会をはじめ、法務省の法制審議会、文部科
学省の中央教育審議会等があります。
 行政委員会、審議会とも、個々の機能や権限は設置根拠となる法令を確認す
る必要がありますが、例外的な規定も多く、両者の差異は必ずしも明確ではな
いとの指摘もあるようです。また「委員会」との名称については、行政委員会
制度が日本に導入された昭和20年代には行政委員会に限って使われていました
が、原子力委員会が昭和31年に設置されて以降、8条委員会にも使われるよう
になりました。
 原子力委員会に似た名前の組織として、原子力規制委員会、原子力小委員会
がありますが、前者は、「原子力利用における安全の確保を図ること」(原子
力規制委員会委員会設置法第3条)を任務とする行政委員会であり、後者は経
済産業省資源エネルギー庁の審議会である総合資源エネルギー調査会の中の一
部会になります。

(田川)

●次号配信は、平成26年1月16日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
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○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
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