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第146号 原子力委員会メールマガジン
確率論的リスク評価(PRA)に関する日米ラウンドテーブルに参加して


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ No.146 ━━━━━
    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2014年3月14日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 確率論的リスク評価(PRA)に関する日米ラウンドテー
┃          ブルに参加して
┣ 会議情報 
┃  (3月4日)
┃    ・核融合エネルギー研究分野における幅広いアプローチ(BA)活動の
┃     進捗状況
┃    ・第15回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター
┃     会合の開催について
┃    ・鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張について
┃  (3月13日)
┃    ・帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策
┃     パッケージについて
┃    ・核融合原型炉開発のための技術基盤構築の中核的役割を担うチー
┃     ム 中間報告について
┃    ・鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告について
┃    ・鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張について
┃    ・近藤原子力委員会委員長の海外出張について
┃     
┣ 事務局だより 哲学の道
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

確率論的リスク評価(PRA)に関する日米ラウンドテーブルに参加して

                              近藤 駿介

 先月、東京で確率論的リスク評価(PRA)に関する日米ラウンドテーブルが開
催され、小生は、米国原子力規制委員会(NRC)のアポストラキス委員、我が
国の原子力規制委員会の更田委員、PRAコンサルタントのガリック氏に続いて、
基調講演のしんがりを務めた。ガリック氏は実務家として、アポストラキス氏
は大学の研究者として、それぞれに1980年頃から原子力施設の事故の重大
さや事故に伴う周辺環境に対する影響の大きさとその発生確率の関係、即ち原
子力施設のリスクの様相を明らかにするPRA手法の確立に貢献してきている。
 アポストラキス委員は、最近もNRCのリスク管理タスクフォースをリードし
て「リスク管理に基づく規制のアプローチ」と題する報告書を取りまとめた。
委員の合議体として機能することが法定され、事務局とは事務局長を通じて意
思疎通が行なわれることになっているNRCにおいて、委員が事務局員を構成員
とするタスクフォースをリードするのは異例である。この報告は、原子炉施設
のみならず燃料サイクル施設も対象とする包括的なリスク管理型規制体系は如
何に実現されるべきかに関するビジョンを述べたものであり、NRC福島事故教
訓タスクフォースの勧告1にある「規制体系の改良に向けた(1)設計基礎の拡
張、(2)深層防護の哲学とリスク管理アプローチの整合的運用、(3)産業界の自
主的安全向上取組の規制体系上の位置づけの明確化」という今後数年を掛けて
の取組の設計に反映されるといわれている。
 彼は、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)委員を長く務めたので、法律がNRC
に求める「国民の生命財産の適切な防護」の「適切な」を安全余裕の大きさや
深層防護の厚さに関して具体的に判断するのは自分たちの仕事(厳密にはNRC
委員が合議して決めるもの)と自負しているNRC職員が、そうしたものの判断
規準を明確化することになるリスク管理型アプローチの提案に対して示す警戒
感を熟知している。そこで、各所における講演で彼は、「貴方が話しておられ
ることを数字で示してくれたなら、私はそれについて貴方が確かに何か知って
いると認めるけれども、それを数字で言えないなら、それに対する貴方の知識
は乏しく、不満足なものと言わざるを得ない」というケルビン卿の発言を引用
したり、系統・機器の分離独立という信頼性確保の工学原理の適用を機械的に
求める1980年の火災防護指針に対して、新技術を工夫して導入することに
より、そうした原理を教条的に適用しなくても炉心損傷の発生確率に火災が与
える影響を小さくできることを明らかにした火災PRAを根拠に、リスク情報に
基づく火災防護の取組を受け入れるとした2004年指針の登場を紹介するこ
ともある。しかし、今回は、時間が限られていたこともあってか、リスクの定
量的評価の取組が安全性の向上、規制体系の合理性の向上、そして今や様々な
分野の規制活動において世界標準になっている性能基準型の規制の推進という
利益をもたらしてきていることをいくつかの事例で示し、関係者に前向きな取
組を慫慂するに留めていた。
 一方、若くして、原子炉PRAの古典に位置づけられる「ラスムッセン研究」
やシカゴに近いインデアンポイント炉の運転差し止め要求に対するNRCの判断
に影響を与えたこの炉のPRAに有力メンバーとして貢献したガリック氏は、そ
の後も重要なPRAプロジェクトのリーダーとして活躍する一方、「統計学は
データを扱う学問であるのに対して、確率論はデータのない状況を扱う学問で
ある」とか「世の中には完全なデータがないとこぼす学派と、有しているデー
タを十分に使えていないことを恥じる学派がある」といってPRAに対する批判
に応えたりもして、いまなお歯に衣着せぬ正鵠を得た発言を厭わず、リスク学
界の長老として尊敬されている。
 彼は、「福島第一の事故は我々に対し、リスク管理の在り方を改良するのみ
ならず原子力安全に対する人々の信頼性を再構築するために、原子力安全評価
の手続きを変更すること(改良)を求めている。」と語り始めた。彼はその理
由を、我々はしばしばなされるPRAの不完全性(あらゆるリスクをカバーして
いないという)批判に対して、「完全なカバーは神ならぬ身にとって無理難題。
だが、よりましな方法がない以上、これを上手に使うことが大切ではないか」
と反駁してきたが、そう唱えてばかりで、完全を追求する努力を怠ってはいな
かったか、もっと真摯にこの努力を行なっていれば、この事故の被害もかほど
には大きくなかったかもしれないからだとした。そして、それは日本問題とい
うより関係者全員の問題であり、この反省に立って、今、我々は「ラスムッセ
ン研究」の現代版の作成に挑戦するべき。その作業は日本のリードでなされる
べきであり、学界はこぞって応援すると結んだ。
 小生は、電気事業者は知見の不確かさを確率論で扱うことを厭わず、福島事
故がもたらしている事態を踏まえて原子炉事故の被害をしっかり捉え、自らの
プラントのリスクを評価し、そのリスク管理の課題をPRAを通じて絶えず明ら
かにするべきである。3.11以来の原子力委員会見解で幾度か述べているよ
うに、リスクとその管理の取組を自ら語ることが安全確保に第一義的責任を有
する者の責任だとした。
 その後の議論では、不完全性とならんでしばしばPRAを遠ざける議論に使わ
れるPRAの不確かさの問題について意見が交わされたが、ガリック氏は、不確
かさの大小はPRAに内在する問題ではなく、関係学問分野の問題。問題は、PRA
を使わないとき、それが裁量で処理されることだ。また、例えば地震リスクは
不確かさが大きいという発言がしばしばなされるが、規制者や国民にとっても
大切なことは、地震に関する知見の不確かさが原子炉のリスクの不確かさに大
きく寄与するか否かである。自分がかつて関与したPRAでは、地震によるその
炉の炉心損傷確率の95%範囲は数桁に及んだが、炉心損傷確率の絶対値に対
するその寄与が小さいとわかってからは、その不確かさの大きさを言挙げする
する専門家はいなくなった。敷地における地震動の推定の不確かさを減少し、
リスク管理の観点から合理的なその不確かさを考慮した安全設備等の設計基準
地震動の設定方法について検討を深めることは重要であるが、とした。
 一昨年、国会は「安全の確保」に関する定義のなかった原子力基本法に「安
全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及
び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、
行うものとする。」という条項を付加した。小生は、後任が決まったので近く
委員会を離れるが、我が国においてこの条項に適合する安全確保の取組が行な
われることを確かにするため、今後も微力ながら力を尽くさねばと考えている。

●次号は鈴木委員長代理からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は原則として霞ヶ
関にある合同庁舎4号館で開催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内
や配布資料は、すべて原子力委員会ウェブサイトで御覧いただけます。

●3月4日(火)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。
【議題1】核融合エネルギー研究分野における幅広いアプローチ(BA)活動の進
捗状況
<主なやりとり等>
 独立行政法人日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門長 森 雅博氏よ
り、核融合エネルギー研究分野における幅広いアプローチ(BA)活動の進捗状況
について説明があり、委員からは、国際プロジェクトの運営での課題等につい
ての質問がありました。

【議題2】第15回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会
合の開催について
<主なやりとり等>
 3月11日(火)から3月12日(水)にかけて、三田共用会議所(東京都港区)
において、第15回アジア原子力協力フォーラムコーディネーター会合を開催し、
12カ国が参加してプロジェクトの活動報告、評価及び今後の計画について議
論をする予定です。

【議題3】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理は、3月4日から3月6日にかけて、中国の北京で開催される
英国国際戦略研究所(IISS)及び中国国際問題研究所(CIIS)共催の「東アジ
アにおける戦略的核問題」と題するワークショップに出席し、日本の核燃料サ
イクル政策に関して講演を行うほか、各国からの有識者と意見交換を行う予定
です。

●3月13日(木)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。
【議題1】帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策
パッケージについて
<主なやりとり等>
 復興庁、環境省より、帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関す
る施策パッケージについて説明があり、委員からは、施策の実施に当たり、関
係省庁間の有機的な連携とその継続が重要である。また、リスクコミュニケー
ションの結果から得られた地元の方々の声を反映していくことが重要との意見
が出されました。

【議題2】核融合原型炉開発のための技術基盤構築の中核的役割を担うチーム
中間報告について
<主なやりとり等>
 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 核融合科学研究所教授 山田 弘司
氏、文部科学省より、核融合原型炉開発のための技術基盤構築の中核的役割を
担うチーム中間報告について説明があり、委員からは、核融合原型炉開発を進
めるに当たっては、国民への情報発信が大事であり、そのような取組による社
会のニーズの反映が重要との意見が出されました。

【議題3】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理より、平成26年2月に米国・ホノルルで開催された国際会議
及び3月に中国・北京で開催された国際会議についての報告がありました。

【議題4】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理は、3月19日から3月23日にかけて、ドイツ連邦共和国で開
催されるドイツ物理学会春季大会に出席し、東京電力福島第一原子力発電所事
故後の日本の原子力政策について講演を行うほか、各国からの有識者と意見交
換を行う予定です。

【議題5】近藤原子力委員会委員長の海外出張について
<主なやりとり等>
 近藤委員長は、3月24日から25日にかけて、オランダのハーグで開催される
核セキュリティ・サミット2014において、我が国の政府代表を補佐するほか、
26日から27日にかけて、ドイツミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所の
廃止措置の状況の視察、ドイツ原子炉安全協会(GRS)との意見交換を行う予
定です。

※資料等は以下のURLで御覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●次回は3月31日(月)に会議を開催する予定です。詳しくは、以下の開催案内
を御覧ください。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

+-+-+-+-+-+-+ 事務局だより +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

哲学の道

 京都に住んでいる人間の特権に朝の散歩があります。観光で訪れている人々
が起き出す前に起き出して、春は哲学の道、夏は糺の森、秋は東福寺、冬は嵐
山を散策するのです。

 その中でも、特別のお気に入りは、春の哲学の道です。桜の中を、渡り切る
のを惜しむ様にして、すれ違う桜の枝をよけながらゆっくりゆっくり歩をすす
めます。桜は散る間際に、歩く人々の髪や肩にふわりふわりと留まって、なん
て優しい花なのだろうと思いました。

(河野)

●次号配信は、平成26年3月28日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
○メルマガへの御意見・御感想はこちらへ
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○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
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○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
○このメールアドレスは発信専用のため、御返信いただけません。
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