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第128号 原子力委員会メールマガジン 安全文化に関して思うこと


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ No.128 ━━━━━
    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2013年6月7日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 安全文化に関して思うこと
┣ 会議情報   人事案件(非公開)
┃        マンスフィールド財団日米原子力ワーキンググループ会合
┃        について
┃        原子力協定について
┃        高速増殖原型炉もんじゅにおける点検時期超過事案に関す
┃        る関係機関の対応状況等について
┃        鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告について
┃        第46回原産年次大会の報告について
┣ 事務局だより 燃料電池自動車
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━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

安全文化に関して思うこと
                              近藤 駿介

 原子力委員会は、様々な機会に、原子力施設の運営者に対して強い安全文
化の醸成を求めてきた。それにも関わらず、今般、「もんじゅ」において、自
ら定めた機器の点検周期等を遵守していない状態が長く続き、しかもその是
正に向けての取組があいまいであったために、原子力規制委員会から組織の安
全文化に欠陥があると指摘された。このことは誠に遺憾なことである。安全文
化の立て直しに、JAEAの新しい経営陣が不退転の決意で取り組むことを切望す
る。
 ところで、安全文化が原子力分野で語られるようになったのは、1986年に発
生したチェルノビリ事故の原因を調査した専門家が「原子力施設が人と環境に
対して安全であるためには、安全設計がなされ、安全設備が備わっているだけ
では不十分で、その運営組織に安全文化が形成・維持されている必要があ
る」と結論してからである。
 当初は、安全文化の定義に議論が集中したが、これを「原子力施設等の安
全に係る問題に対して、これを最優先事項とし、その重要度に応じた注意を
払う組織や個人の特性や態度の集まり」とすることで議論が一段落すると、組
織の安全文化を評価する方法の整備が主要課題になり、このためには組織観
察の視点が重要であるとして、組織科学や行動科学の専門家を交えた議論が続
いた。
 こうした議論で中心的役割を果たした国際原子力機関(IAEA)では、1991年
頃には、この定義に基づけば、組織や個人の振る舞いや態度において、1)安
全が明確に重要な価値として認識されているか、2)安全確保に対するリー
ダーシップが明確であるか、3)安全確保に対する責任が明確になっているか、
4)安全確保が全ての取組に統合されているか、5)安全確保に関する学習が
制度化されているか、という観点からの着目点を定め、組織を観察し、人々と
面談することにより、安全文化を評価できるはずとして、この取組をASCOT
(後年、SCARTに改名)として制度化し、世界各国から依頼を受けて、原子力
運営組織の安全文化を評価するサービスを開始した。
 その結果、この評価結果は運営組織のリーダーが自分の組織に強い安全文
化を醸成していく際に必要かつ有益であることが理解され、IAEAのみならず、
世界の原子力事業者の組織であるWANOや米国の電気事業者の組織であるINPO、
そして、日本の原子力事業者がJCO事故を契機に設立したNSネット(2005年に
は日本原子力技術協会(JANTI)に組織替えされ、2012年には原子力安全推進協会
(略称JANSI)として新発足)などが、それぞれに上のような強い安全文化の
原則・属性・特性ともいうべき着眼点を定め、安全文化の評価活動を積極的に
推進してきて、今日に至っている。
 原子力安全規制行政、これは、人と健康のリスクが小さく維持されているこ
とを確かにする観点から原子炉や核物質を使用するに当たって遵守されるべき
基準を定め、原子炉や核物質の利用を許可し、許可取得者の取組を検査・評価
し、必要に応じて是正措置を講じることを求めることを任務とするが、この行
政活動と安全文化の関わりについては、組織の安全文化が弱いと不適合や不具
合の発生頻度が高まるはずであるから、規制検査等でそうした指標のトレン
ドを監視し、劣化が確認された時点で、組織運営の在り方に関して是正措置を
要求することが適切とされてきた。
 しかしながら、2002年3月に米国デービス・ベッセ原子力発電所でかなり深
刻な原子炉容器上蓋腐食が検査で発見されたことを契機に、これほど腐食が進
行するまで見いだせなかった原因について、規制当局であるNRCと事業者、
INPOの間で議論が重ねられ、この検出遅れは安全文化の劣化に起因すると結論
され、2006年からNRCの原子炉監査活動(ROPと略称される)に「安全文化の自
己評価活動を確認する仕組み」と「事業者の組織風土等をNRCが評価する仕組
み」が取り入れられた。
 この自己評価にはINPOの「強い安全文化の原則」の活用が推奨されたが、そ
の妥当性は検証されなければならない。そこで、NRCはINPOとの間で、INPOが
有するほぼ全てのプラントにおけるINPOの原則の普及状況に関するデータと
NRCがこれまでのROP活動で積み上げたプラントのヒューマンファクター面の特
徴に関するデータを交換し、双方が独立にそれぞれの間の相関を調査して、
INPOの原則の妥当性を確認した。この結果を踏まえて2011年に発出されたのが、
以下を内容とする安全文化に関する政策声明である。

1.安全文化とは、リーダーと構成員が一緒になって、人と環境の保全を確か
 にするために、競合する目標を超えて安全を強調することにコミットするこ
 とから生じる中核的価値と態度である。経験からすると、安全文化を有する
 人や組織には、以下のような特性がある。
 1)リーダーの決定や行動に、安全に対するコミットメントが見て取れる。
 2)安全に影響を与える潜在性を有することが迅速に同定され、完全に評
   価され、その重要性に応じた是正措置が迅速に講じられている。
 3)全ての構成員がそれぞれに安全に対する責任を果たしている。
 4)様々な活動の計画と制御が、安全が維持されるようになされている。
 5)安全を確保する方法について学習する機会が探し出され、実施されて
   いる。
 6)個人が報復、脅迫、いじめ、差別の恐れなく、安全に関して気になる
   ことを自由に問題提起できる職場環境が維持されている。
 7)安全に焦点をおいたコミュニケーションができている。
 8)組織に相互の信頼と尊敬が行き渡っている。
 9)各人が、自己満足を避け、活動の現状に対して絶えずこれでよいかと
   問いかけ(新しい科学的知見やプラントの状況に現状の取組の不適合を
   感じ取り:私補)過誤や不適切な活動を惹起するかもしれない不適合を
   見いだしている。
2.NRCは被規制者(原子炉のみならず、放射線利用の現場も含まれる:私補)
 に対して、その活動の安全と核セキュリティの観点からの重要性(安全と核
 セキュリティが一体として扱われていることに注意:私補)や、組織の機能
 や複雑性にふさわしい、強い安全文化を確立し、維持することを期待する。
 NRCスタッフは被規制者と強い安全文化の重要性について対話し、この声明の
 価値についてのフィードバックを得ていく。

 この声明には「安全文化の強化と維持はNRCの最優先課題である。効果的な
安全文化が確かに存在することはあらゆる原子力施設の運営の根底になければ
ならない。」というマックファーレン委員長のメッセージが添えられている。

 こうした取組に接するとき、企業文化という言葉の創始者として知られる
MITのシャイン教授が、組織文化は深く、広く、容易には変え難いものである
として、文化の浅薄な定義と理解に警鐘を発し、その上で、組織文化は、
1)組織の外形から読み取れる組織の考え方や行動規範、2)そこに働く人々
が大事にしているとする価値、3)そこにいる人々あるいは職種グループがそ
れぞれに暗黙のうちに大事にしている気風ともいうべき考え方や組織の歴史で
培われ、あるいは創業者やリーダーの成功体験などを通じて組織・グループに
醸成されている信念や性格、という三層構造をなしていることを認識するべき
としたことを思い出す。彼は、この第三層の信念は、経営層、研究者、運転者、
補修員がそれぞれに異なるサブカルチャーをもっていることに根ざしてそれぞ
れに異なることが多いが、これはそれぞれのグループの身上とも云(い)うべ
きもので作り替えることができるものではない、したがって、リーダーにとっ
て大切なことは、これら異なる職種の人々(の代表)が一堂に会し、それぞ
れのサブカルチャーに尊敬の念をもちつつ、組織の使命や社会的責任に照らし
てそれらの連携をはかるようにすることであるとしている。
 安全文化の話題に触発され、記憶を整理した。今はこのことを踏まえ、福島
での事故の根本原因について思いを巡らせ、あらゆる機会を捉えて、原子力活
動に関係する経営者、運転者、研究者、補修員、行政、学協会に対して、お互
いがそれぞれのサブカルチャーを尊敬しつつ、上に示したような強い安全文化
の原則の実現に向けて連携し、人々の信頼に応えていくよう求めていかなくて
はと,考えているところである。

●次号は鈴木委員長代理からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は原則として霞ヶ
関にある合同庁舎4号館で開催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内
や配布資料は、すべて原子力委員会ウェブサイトで御覧いただけます。

●5月30日(木)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。
【議題1】人事案件(非公開)
<主なやりとり等>
 人事案件を審議することから非公開とした上で、文部科学大臣より、独立行
政法人日本原子力研究開発機構法第12条の規定に基づき、原子力委員会の意
見を求められた件について審議を行い、異存の無い旨回答することとしました。

●5月31日(金)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】マンスフィールド財団日米原子力ワーキンググループ会合について
(一橋大学大学院法学研究科 教授 秋山信将氏)
<主なやりとり等>
 秋山氏から、5月初めに開催されたマンスフィールド財団日米原子力ワーキ
ンググループ会合においてとりまとめられたステートメントについて説明いた
だきました。
 委員からは、我が国が核不拡散、原子力安全の面でリーダーシップを取るた
めには原子力を維持すべきとの趣旨か、「福島と、ワシントン州ハンフォード、
サウス・カロライナ州サバンナリバーのコミュニティとの交流を促進すべき」
等としている「トモダチ・エネルギー・コミュニティ連合」について具体的な
議論が行われたか等の質問がありました。

【議題2】原子力協定について(外務省)
<主なやりとり等>
 外務省軍縮不拡散・科学部国際原子力協力室から、最近署名されたアラブ首
長国連邦(UAE)との原子力協定、トルコとの原子力協定等について説明いた
だきました。
 委員からは、東京電力福島第一原子力発電所事故により交渉の内容や対応に
変化はあったのか、UAEとトルコの協定におけるウラン濃縮と再処理の移転の
規定の違いについて等の質問がありました。

【議題3】高速増殖原型炉もんじゅにおける点検時期超過事案に関する関係機
関の対応状況等について(文部科学省、独立行政法人日本原子力研究開発機構
高速増殖炉研究開発センター 廣井博 所長)
<主なやりとり等>
 事務局から原子力規制委員会の評価及び今後の対応について説明の後、文部
科学省から同省の対応について説明いただき、その後、独立行政法人日本原子
力研究開発機構も加え、質疑応答が行われました。
 委員からは、高速増殖原型炉もんじゅは現在運転していないが、ナトリウ
ムが常に入っており、大丈夫なのか確認したい、また、今後の対策として、点
検を行い、保安規定を遵守するようになれば安全の確保はできるのか等の質
問がありました。

【議題4】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理は、5月12日から14日にかけて米国へ出張し、カリフォルニ
ア大学バークレー校バークレー国立研究所で開催された「STS Forum on 
Fukushima」と題する国際ワークショップに参加し、東京電力福島第一原子力
発電所事故後の日本の原子力政策について基調講演を行いました。

●6月4日(火)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに掲
載される議事録を御覧ください。

【議題1】第46回原産年次大会の報告について(一般社団法人日本原子力産業
協会 企画総務部長 鈴木良典氏、情報・コミュニケーション部長 木下雅仁氏)
<主なやりとり等>
 鈴木氏から、第46回原産年次大会の概要として、基調講演、各セッション出
席者の発言概要等について説明いただきました。
 委員からは、今後のリスクコミュニケーションの在り方と科学者の役割、日
本原子力産業協会が行っている福島支援活動の今後の取り組みの考え方につい
て等の質問がありました。

※資料等は以下のURLで御覧いただけます。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●次回は6月13日(木)に会議を開催する予定です。詳しくは、以下の開催案内を
御覧ください。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

+-+-+-+-+-+-+ 事務局だより +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

燃料電池自動車

 5月1日付けで事務局に着任しました遠藤と申します。どうぞよろしくお願い
いたします。
 これまでいわゆるエネルギー関係の業務としては、電気機器等の省エネ基
準を定めるトップランナー制度などの省エネルギー関係、原油マーケットの動
向調査や国内のガソリンや灯油などの石油製品の需要と供給の動向統計調査の
実施など石油関係業務を担当してきました。
 ところで、これまでかかわった業務の中で、燃料電池自動車のインフラの普
及に向けた検討がありますので、燃料電池自動車について簡単に御紹介した
いと思います。燃料電池自動車は、燃料である水素と空気中の酸素の反応に
よって発電する燃料電池の電力で走行する車のことで、走行中に排出するのは
水素と酸素が反応した水だけ、つまり走行中には二酸化炭素を出さないという
特徴を持っています。航続距離は600km以上で電気自動車よりも長いなどの特
徴があり、次世代の車の一つと言われていますが、コストダウンやインフラの
普及が今後の大きな課題の一つです。車の市販はもう少し先になりそうですが、
車好きの一人として、今後の動向にはとても期待をしているところです。自動
車の展示会等で実物を見ることもできますので、機会があればちょっと未来の
自動車を覗いてみてはいかがでしょうか。
(遠藤)

●次号配信は、平成25年6月21日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
○メルマガへの御意見・御感想はこちらへ
 https://form.cao.go.jp/aec/opinion-0017.html
○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/melmaga/index.htm
○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
○このメールアドレスは発信専用のため、御返信いただけません。
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