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第92号 原子力委員会メールマガジン 社会的安全目標


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    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2011年12月22日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 尾本委員からひとこと  社会的安全目標
┣ 定例会議情報 東京電力(株)福島第一原子力発電所における中長期措置に
┃        関する検討結果について
┃        東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置変更(
┃        1号、2号及び3号原子炉施設の変更)について(諮問)
┃        第12回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合
┃        について
┃        “普通”の産業技術としてみた軽水炉発電
┃        近藤原子力委員会委員長の海外出張報告について 等
┣ 部会情報等  第10回新大綱策定会議の開催について 
┣ 事務局だより エネルギー選択に係る議論を深めるために
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●メールマガジンや、原子力委員会の活動に関するご意見・ご感想等を、
https://form.cao.go.jp/aec/opinion-0017.htmlまで、ぜひお寄せください。

━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━

社会的安全目標
                               尾本 彰

 事故で避難生活を余儀なくされている人にとって非常事態は終わっていない
のは明らかだが、事故を起こしたプラントの廃炉に向けた道筋を順番に歩んで
ゆく上で、安定化段階から次の燃料取出しの段階へと進める事が先週発表され
た。これを契機に避難地域の見直しも進み、帰還できる人が少しでも増える事
を願いながら、今回は「社会的な安全目標」とでも呼ぶべき事項について書い
てみたい。

 私は非常勤の原子力委員である。所属する大学で、事故後、長く原子力に係っ
て来た人(大学、政府、電力、産業界、NPO) から「何故、原子力界は事故を
防げなかったか」をテーマに何回かに分けて「ご意見を聞く会」を開催し、先
日大学のシンポジウムで発表したところである。原子力界自身の自己省察は、
1)原子力界に潜む体質/文化/思考様式などに係る原因に迫り、2)将来に向けた
原子力界内部からの改善に繋げ 、3)異なった起因事象による原子炉事故の未然
防止に資するところありと考えた為である。
 「安全文化向上のための活動が有効でなかった」「津波に関する問題意識が
希薄だった」「事故は日本の行政のしくみや文化と深く関連」等の原子力運営
体制/体質/意識に関する指摘を得ている。国内外の著書や講演等でも「想定外
を想定しなかった問題」「ノーと言えない文化の中で欧米型安全文化の定着に
問題」「国策を遂行する電力への国による暗黙の保護」などの指摘が見られる。
指摘を見るに、今までの我が国の「工学」と「原子力利用システム」のあり方
に関して、a)認識科学(自然災害に関して言えば理学)、社会、国際基準等と
の繋がり、b)達成すべき目標の意識、c)リスクマネジメント活動の中での緊張
感と様々な情報への敏感さという3点で「弱さ」を指摘との印象を持つ。
 その中のb)に関しては、事故後未だに多数の人々が避難生活を強いられてい
るなかで、従来論議されてきた原子力の安全目標について再考すべき点がある
ように思う。この安全目標とは、米国で1979年のスリーマイル島原子力発電所
事故後、「原子力発電所はどこまで安全であるべきか」という問題意識のもと、
原子力規制委員会が検討し1988年に公布されたものである。あらゆる発電技術
は必要とする設備の生産過程も含めて考え、リスクに無縁ではない。公布され
た安全目標は、「一般社会のリスクより十分に低い」、具体的に「一般社会で
人が晒されているリスク(急性死亡および晩発性がん死亡)の千分の一以下」
と定め、炉心損傷頻度/炉年、大規模な放射性物質放出頻度/炉年という工学的
目標が付随する。しかし、原子力委員会の原子力発電・核燃料サイクル技術等
検討小委での検討で明らかなように、今回の事故による社会的損失(事故その
ものによる急性死亡は無いものの)は、土地除染、機会喪失、精神的苦痛、更
に化石燃料による代替発電コスト増等を含め膨大である。公衆の健康と環境を
守るという安全規制の観点からは、代替発電コストや損害賠償はビジネスリス
クとして直接の考慮の対象からは外れるから、規制上の安全目標は今まで通り
で良いとの指摘もあろう。しかし、今迄の炉心損傷対策には土地汚染防止策も
含まれるが、防止すなわち炉心損傷確率を減らす事に注意が向かった程には土
地汚染防止の確実性確保への配慮が不足していた。
 そこで、工学は社会に価値を提供するものであるとの原点に立ち、社会が技
術の利用につき求める安全目標として「社会的安全目標」を、事故がおきた場
合の社会的損失を考慮して策定し、その目標の下での対策具体化があると思う。
 炉心損傷確率を減らす努力にも拘らず炉心損傷がありうると考え、敷地外の
防災としてはセシウムやヨウ素を殆ど外に出さず、希ガスをやり過ごす一時的
な退避/避難程度を超えない様に緩和策の層を厚くすることが必要になる。具体
的には、格納容器内の水による除染を経たベントが動力等によらず確実に行わ
れるようにし、追ってフィルター設置や格納容器外水素対策に万全を期すこと
であろう。

 しかし、国民の中には、そもそも脱原子力を目指すべきで、こういう議論は
無用との意見があろう。先日、あるフランス人が、脱原子力を決めたドイツと
原子力を重視するフランスとの間には根本的な見方の相違がある、すなわち「
ドイツ人にとって原子力は核兵器を含め脅威である一方、フランス人にはそれ
は安全保障を意味する」と言っていた。ドイツは10年後迄に原子力を廃止する
事を決めた。少なくとも短期的には原子力発電シェアの多い仏とチェコからの
電力輸入に頼るであろうが、島国日本はそうはゆかない。日本は、独仏その両
面を味わって来た。原爆の洗礼を受けたが、資源のない島国としてエネルギー
と環境に関するセキュリティの観点から原子力発電を進めたものの、今は事故
の脅威の前に立ちすくんでいる。私個人は、独仏に代表される原子力の扱いの
相違を日本の事情に照らして議論の上、「社会的安全目標」を新たな安全確保
の目安とし、原子力を捨てさることなくオプションの一つとして確保しておく
ことが必要ではないかと考える者である。

●次号は原子力委員会委員からの新年挨拶の予定です!

━・・・━━ 定例会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━
●12月13日(火)第49回定例会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはホー
ムページに掲載される議事録をご覧下さい。

【議題1】東京電力(株)福島第一原子力発電所における中長期措置に関する検討
結果について
<主なやりとり等>
 東京電力(株)福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会の部会
長である山名氏より、同専門部会が行った、中長期措置の取組のあり方、研究
開発課題の抽出、研究開発の推進体制、等の検討結果をまとめた報告書の説明
がありました。同報告書に対する原子力委員会の決定(案)について審議した結
果、決定(案)どおり原子力委員会の決定としました。
 
【議題2】東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置変更(1号、2号及
び3号原子炉施設の変更)について(諮問) (原子力安全・保安院)
<主なやりとり等>
 原子力安全・保安院より、東北電力(株)が女川原子力発電所における固体廃
棄物貯蔵所の増設を図るための設置変更許可申請を行っており、審査の結果、
原子力・安全保安院は同申請を問題ないと判断していることから、当委員会に
意見を聴きたいとして諮問の説明がありました。

【議題3】近藤原子力委員会委員長の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 近藤委員長より、11月30日から12月4日まで米国へ出張した結果について説明
がありました。委員長は、ワシントンDCにおいて米国原子力関係者と面談し、
東京電力(株)福島第一原子力発電所事故への対応に関して、米国側から頂いた
支援に感謝をするとともに、取組の現状と今後の計画を説明しました。さらに、
日米における原子力研究開発利用の動向に関して意見交換を行いました。

【議題4】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理より、12月13日から14日まで韓国へ出張する旨の説明があり
ました。委員長代理は、韓国水力原子力公社において、我が国の原子力政策並
びに東京電力(株)福島第一原子力発電所事故の現状、得られた教訓等に関する
講演を行うとともに、同公社の社長と意見交換を実施する予定です。

【議題5】第12回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合の開催について
<主なやりとり等>
 事務局より、12月16日に東京で開催される第12回アジア原子力協力フォーラ
ム(FNCA)大臣級会合について説明がありました。
 同会合では、人材育成と広報に関する今後の基盤整備、及び放射線・アイソ
トープ応用促進のためのさらなる協力、等について討議がなされる予定です。
また、今回は、東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故に関する特別セッシ
ョンを設ける予定です。

●12月20日(火)第50回定例会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはホー
ムページに掲載される議事録をご覧下さい。

【議題1】“普通”の産業技術としてみた軽水炉発電(一橋大学大学院経済学研
究科教授 齊藤誠氏)
<主なやりとり等>
 一橋大学大学院経済学研究科教授の齊藤誠氏より、産業技術としての軽水炉
発電の特徴や東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に対する考察などについ
て紹介がありました。軽水炉発電は産業技術として決して筋は悪くない、事故
の考察として、経営者や投資家にも一定の責任があるのではないか、との説明
がありました。
 委員からは、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故を防ぐための企業ガバ
ナンスとはどのようなものであるべきか、今回の事故対応における国と企業の
役割分担のあり方はどのようなものが望ましいと考えるのか、等の質問があり
ました。
 
【議題2】第12回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合の開催結果
について
<主なやりとり等>
 12月16日に東京で開催された第12回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣
級会合の結果について説明がありました。
 参加国は大臣級代表(大臣5カ国、副大臣2カ国、原子力行政機関長他)を含
む12カ国であり、我が国からは細野内閣府特命担当大臣を始め、原子力委員会
委員等が参加しました。
 同会合における討議の結果、アジア地域における原子力の平和利用のために、
FNCA各国の原子力施設に最高の安全基準を適用することを目指し、原子力安全
の分野で協力を強化すること、等を決議しました。
 また、翌17日には、大臣級4名を含む各国代表が、福島県南相馬市における除
染活動や津波及び地震の被害状況を視察しました。

【議題3】鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 鈴木委員長代理より、12月13日から14日まで韓国へ出張した結果について説
明がありました。委員長代理は、韓国水力原子力公社において、東京電力(株)
福島第一原子力発電所事故の教訓と今後のエネルギー・原子力政策について講
演を行った後、韓国の有識者4人とのパネルディスカッションに参加しました。
その後、同公社の理事及び副社長と日本の原子力政策が韓国の政策に及ぼす影
響について意見交換を実施しました。

【議題4】大庭原子力委員会委員の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 大庭委員より、12月4日から11日までドイツ、ベルギー等へ出張した結果につ
いての欧州におけるエネルギー政策や研究開発体制の検討や対策の実態を把握
するため、原子力を推進するイギリス及び脱原発を決めたドイツの政府関係者
と意見交換を行うとともに、欧州連合としてのエネルギー及び原子力に関する
多国間での対応、また長期的なエネルギー見通しの中での原子力の位置づけの
検討動向等について、欧州連合関係者等と意見交換を行いました。

【議題5】原子力防護専門部会の構成員について
<主なやりとり等>
 事務局から、原子力防護専門部会の構成員の変更について説明を行い、同部
会構成員の変更を決定しました。

※資料等は以下のURLでご覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●次回定例会議は12月27日(火)に開催します。議題は以下のとおりです。
(1)福島とチェルノブイリ:差異と教訓(福島大学理事・副学長 清水修二氏)
(2)その他

●定例会議を傍聴にいらっしゃいませんか。定例会議は通常毎週火曜午前、霞ヶ
関にある合同庁舎4号館で開催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内や
配布資料はすべて原子力委員会ホームページでご覧いただけます。

━・・・━━ 部会情報等 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━
●原子力委員会には、調査審議組織として専門部会や懇談会等が設置されてい
ます。これらの部会や懇談会等は原則として一般に公開しており、どなたでも
傍聴することができます。開催案内や配布資料はすべて原子力委員会ホームペ
ージでご覧いただけます。

●12月22日(木)に第10回新大綱策定会議を開催しました。
詳しくはホームページに掲載される議事録をご覧下さい。
<主なやりとり等>
 政府・東電中長期対策会議より、12月21日に公表された東京電力(株)福島第
一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップについて説明があり
ました。続いて、資源エネルギー庁より、12月20日に公表された総合資源エネ
ルギー調査会基本問題委員会における議論の論点整理の紹介、並びに、国家戦
略室より、12月21日に公表されたエネルギー・環境会議の基本方針について説
明がありました。
 その後、事務局より、これまでの新大綱策定会議における各専門委員のご発
言を分類・整理、今後の原子力発電とそれに関連する事項に対する重要課題と
その基本方針に関する論点(案)について説明しました。
 専門委員からは、原子力発電のあり方の選択肢を示すためには、今後必要な
原子力発電所の数と電気料金の関係等、定量的なデータを出して議論をすべき、
核燃料サイクルについては、これまで十分に議論が行われていないため、高速
炉の開発を含めて集中的に議論を行う時間を作るべき、等の意見がありました。
 新大綱策定会議の議論に検討材料を提供するため、原子力発電・核燃料サイ
クル技術等検討小委員会において専門的な議論を定性的・定量的に行うことと
しました。

●次週の専門部会等開催情報
・次週は専門部会等の開催は予定されていません。

+-+-+-+-+-+-+ 事務局だより +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

エネルギー選択に係る議論を深めるために
 
 師走に入り、クリスマスシーズンになりました(個人的にクリスマスイベン
トはあまり好みませんが)。たまたま休日にテレビのクリスマスソング特集を
見ていると、広瀬香美さんの「絶好調〜♪」と懐かしい曲が流れ、まだバブル
の余韻が残る90年代半ばを思い出しました。

 さて、失われた10年と呼ばれた90年代に、パソコンとインターネットの性能
向上と価格低下が急速に進んだことは皆さんご存知のとおりです。最近発生し
た液晶テレビの価格低下には驚かれた方も多いかと思います。

 これらの性能向上と価格低下は、半導体製造技術と電気信号のデジタル処理
技術の技術革新に支えられて進展しました。一方、エネルギーとしての電気の
生産、貯蔵、輸送等に関する技術は、この20年の間、アナログのままで目立っ
た技術革新は見当たりません。確かに発電効率はかなり向上しましたが、これ
も流体のコンピューターシミュレーションによる設計改良や、デジタル制御の
製造装置による加工精度向上の積み重ねの結果であり、電気エネルギーに直接
関係する技術革新の成果ではありません。

 エネルギー選択を巡る議論で意見の隔たりが埋まらない背景の1つには、この
電気エネルギーに係る技術に対してもIT革命的な技術革新が起こり得ると、考
えるか否かの相違があると思われます。例えば、スマートグリッドは、アナロ
グな電力技術が根っこにある送配電ネットワーク上で電気エネルギーをデジタ
ル的に取り扱うことをイメージして構想されている技術と考えられます。確か
に、パケット通信的に電気エネルギーを送配電ネットワーク上で制御出来れば
大革命ですし、擬似的な実現であっても大きな社会的効果を得られる可能性が
あります。

 そこで、新技術を電力インフラの一部に取り込んで社会実験的にその効果を
検証することが重要になるのですが、我が国ではなかなかこの社会実験が進ま
ないようです。インフラ側の技術者が保守的に過ぎるのも一因とよく言われま
す。もちろん、社会実験に際しインフラの安定運用は前提となりますが、挑戦
できることは多々あるはずです。その効果検証を踏まえれば、エネルギー選択
に係る議論も深まるのではないでしょうか。
(吉野)

●次号配信は、平成24年1月13日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
○ご意見、ご感想、ご質問などはこちらへ 
 https://form.cao.go.jp/aec/opinion-0017.html
○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/melmaga/index.htm
○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
○このメールアドレスは発信専用のため、ご返信いただけません。
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