資料第10−2号



高速増殖炉研究開発の在り方

(案)





平成9年  月  日

原子力委員会
高速増殖炉懇談会




目 次


1.はじめに
(1)背景
(2)本懇談会について

2.現状認識
(1)エネルギー情勢
(2)非化石エネルギー技術の開発
(3)我が国の高速増殖炉研究開発の現状
(4)国際的な高速増殖炉研究開発の動向

3.高速増殖炉研究開発の意義

4.今後の課題
(1)立地地元住民及び国民の理解促進と合意形成
(2)安全の確保
(3)コスト意識の醸成と計画の柔軟性
(4)核不拡散の努力

5.「もんじゅ」による研究開発の実施

6.実証炉以降の開発

7.おわりに

<付記>
 ○高速増殖炉開発中止を求める立場で(少数意見)(案)
<別紙>
 ○高速増殖炉懇談会の設置について
 ○高速増殖炉懇談会審議経緯
<参考資料>
 ○高速増殖炉の主な特徴
 ○データ集


1.はじめに

(1)背景
 平成7年12月8日、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の高速増殖原型炉「もんじゅ」において2次系ナトリウム漏洩事故が発生しました。事故そのものの重大さに加え、動燃の対応が不適切であったことにより、地元住民、国民は不安感、不信感をいだきました。その結果、高速増殖炉研究開発を含む原子力政策全体に対する根本的な問いかけにまで問題は拡大しました。また、その後発生した動燃アスファルト固化処理施設の火災爆発事故は、国民の不安、不信をさらに大きなものにしました。
 ナトリウム漏洩事故後、平成8年4月から9月にかけて、原子力委員会が開催した「原子力政策円卓会議」においては、この事を反映して、我が国における原子力政策について幅広く議論されました。そして、同会議の席上、高速増殖炉開発についての検討の場を設けるべきとの意見が、また、同年10月には同会議モデレータ(進行役)から高速増殖炉に関する懇談会設置の提言が出されました。こうした意見を受けて、原子力委員会は、平成9年1月末に本懇談会を設置する事を決定しました。

(2)本懇談会について
 本懇談会は、「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉開発の在り方について幅広い審議を行い、国民各界各層の意見を政策に的確に反映させることを目的として設置されました。このため、本懇談会は、原子力の専門家の他、広く我が国各界各層からの有識者から構成しました。また、同様の趣旨から、審議に当たっては、地方自治体の代表、エネルギー全般、安全性の専門家、海外(英・仏・独)の高速増殖炉専門家を招いて意見を伺い、また、批判的な意見の方からも直接意見を伺いました。
 会合は平成9年2月21日から平成9年  月  日まで、合計  回開催されました。(開催状況及び委員の構成については別紙参照。)
 なお、本懇談会開催に当たっては、審議の経過を明らかにするために会合全体を公開の場で行いました。また、議事要旨を含む、会合に提出された資料について、インターネット上に公開しました。さらに、報告書案の段階で一般の方々の意見を募集し、検討の上、報告書に反映しました。
 以下に本懇談会における審議の結果について報告します。
(なお、本報告書の参考となるデータについて、参考資料2として添付しております。)

2.現状認識
(1)エネルギー情勢
 現在、世界のエネルギーの需要と供給のバランスは緩和基調にあり、エネルギー価格も比較的安価に推移しています。今後新たな化石燃料資源が発見されて、このような緩和基調がかなり長期にわたって続くとの見方もあります。しかしながら、中国、東南アジア諸国などにおけるエネルギー需要の急激な伸びが予想されています。また、中東地域への石油依存度はアジア50%、日本75%ときわめて高く、一地域に過度に依存している状態となっています。さらには、酸性雨や温暖化などの地球環境問題がますます深刻となり、国際的にその対策についての強化が一層強く求められ、化石燃料の使用に対する制約が強まることが予想されています。したがって、今後省エネルギー努力が相当あったとしても、国民生活の利便性とのバランスの問題もあり、長期的なエネルギー情勢は予断を許さない状況にあると言えます。

(2)非化石エネルギー技術の開発
 このような認識から、今後、資源的制約の緩和に寄与し、温室効果ガスの発生率が小さい、非化石エネルギーの供給量とシェアを増していくことが人類にとって重要です。当面、水力資源等従来の非化石エネルギーの有効活用や利用促進、省エネルギーに一層の努力を払うことが望まれます。また、新たなエネルギー源の開発には相当期間を要することから、将来世代の選択に供するべく新エネルギー、原子力などといった新しい非化石エネルギー技術を複数開発していくことは現世代の責任と考えられます。
 このうち、太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などの新エネルギーによる発電は、その利用可能量やコスト高の制約があると見られますが、今後とも積極的に開発する必要があり、我が国としても「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」などを通じての開発努力を続けているところです。
 原子力については、軽水炉による発電が現在我が国電力供給の3割以上を占めるなど、化石燃料の代替エネルギーの中でその供給力と経済性において有力なエネルギー源となっていますが、放射性廃棄物処分や立地に課題を有しています。
 また、国際機関の評価によれば、世界でこれまでに確認されているウランの量は約450万トンであり、軽水炉からの使用済燃料を処理することなくウランを使った場合、現在、世界で使われているウラン量(約6万トン)の70〜80年分でしかありません。もちろん、今後新たな利用可能なウラン資源が開発される事も想定されますが、それでも有限であり、無尽蔵にあるわけではありません。また、原子力発電の規模も増大する可能性があります。したがって、使用済燃料を再処理して、その中にある未だ使えるウランやプルトニウムを再利用することは重要と考えられます。プルトニウム利用のための方策として、既に技術の確立している軽水炉での利用(プルサーマル)の準備が進められていますが、将来的な目標である高速増殖炉の研究開発がこれまで進められてきました。高速増殖炉は軽水炉と比べて、きわめて高いウラン利用効率を有しています。(高速増殖炉の主な特徴については参考資料1参照。)

(3)我が国の高速増殖炉研究開発の現状
 原子炉の研究は一般的に、原理をプラント規模で確認し、燃料・材料照射データを蓄積するための「実験炉」、発電プラントとしての性能を確認し、大型化への技術的可能性を評価するための「原型炉」、経済性の見通しを明らかにするための「実証炉」と、実用化に向けて段階を踏んで進められてきました。
 我が国の高速増殖炉開発においては、実験炉「常陽」は、動燃により茨城県大洗町に建設され、昭和52年に初臨界を達成し、実験炉としての当初の目的である、高速増殖炉プラントとして安全かつ安定的に運転をすることが実証されました。「常陽」は、昭和57年に高速中性子炉としての特徴をいかした照射用炉心に改造され、燃料・材料の照射データを蓄積しながら、現在まで順調に運転されています。
 次の原型炉「もんじゅ」は、動燃により福井県敦賀市に建設され、平成6年に初臨界を、平成7年に初送電を行いました。その後、発電プラントとしての性能を確認し、大型化の可能性を技術的に評価していくこととしていましたが、前述のとおり、平成7年12月に2次系ナトリウム漏洩事故を起こしたため、現在、運転を停止し、原因の究明を踏まえて安全総点検を実施中です。
 そして、実証炉1号については、高速増殖炉の経済性の見通しを明らかにするために、電気事業者が中心となって、現在電気出力約66万kWのプラントの設計研究が進められています。

(4)国際的な高速増殖炉研究開発の動向
 英国においては、原型炉の運転を通じて、技術蓄積を図りましたが、北海油田といった豊富な石油資源を背景に、経済性が現状劣っていることなどから、その先は英国独自の研究を中止し、欧州全体の高速増殖炉の研究開発に参加しています。
 ドイツの場合は、実験炉の運転に続き、原型炉の建設を目指しましたが、立地している州政府の安全性を理由とした反対により、プロジェクト費用の負担が困難となり、完成間近で建設を放棄しました。
 フランスは、最近の政権交代に伴い、経済的理由から実証炉(スーパーフェニックス)放棄の方針を決定しましたが、原型炉及び高速増殖炉研究開発は継続すると見られています。
 米国は、実験炉の30年にわたる発電及び大型実験炉の13年にわたる運転により、高い技術レベルを有しているものの、核不拡散、経済性などの観点から高速増殖炉研究開発を中断しており、プルトニウムの商業利用は行わないとしています。
 ロシアでは、実験炉の20年にわたる運転、カザフスタンにある発電海水脱塩二重目的炉の25年にわたる運転、原型炉の15年にわたる運転を進めています。また、次の実証炉建設計画も有していますが、財政事情からその建設は中断しています。
 このように各国高速増殖炉の研究開発は長い歴史がありますが、実証・実用段階の移行については主に各国のエネルギー事情、ウラン需給、政治経済事情等を背景として停滞している状況にあります。

3.高速増殖炉研究開発の意義
 世界的に見ても独自に高速増殖炉の研究開発を進めている国はフランス、ロシア等少数ですが、それだけをもって、我が国も研究開発を中止するとの態度をとるのでなく、我が国としては独自に意義を検討して、高速増殖炉研究開発の是非を判断すべきと考えます。

 当面は化石燃料と同時にウランの需給バランスも緩和基調であり、現時点で直ちに高速増殖炉の実用化が必要であるとか、何年までに必要であるという厳しいエネルギー需給、ウラン需給ではありません。
また、これまでの長年の高速増殖炉開発の努力にもかかわらず、未だ高速増殖炉の経済性などについて実用化見通しが得られていないことから、これ以上開発を続けるべきでないという意見が有ります。

 しかしながら、2.(2)で述べたとおり、ウランが今後とも豊富に有り、安価で提供されることが21世紀後半以降も長期的に保証されているわけではありません。高速増殖炉を軽水炉と併用することによりウランをきわめて効率良く利用することができ、原子力の長期安定利用を図ることが可能となります。このように燃料資源を徹底的にエネルギーに変えるといったことから、廃棄物による社会への負担の低減も同時に実現することができます。
 高速増殖炉の実用化見通しについては、現時点で判断することは尚早であり、原型炉「もんじゅ」を用いた研究開発などにより、その可能性について、より確度高く追求できると考えます。
 さらに、高速増殖炉は、その転換比(新しい燃料を作り出す効率)を柔軟に変えることができるため、余剰プルトニウムを発生させないように転換比を下げて運用できるとの観点から、プルトニウムを軍事利用させないという核不拡散性向上の手段としても有効な原子炉です。
 また、地球環境問題の観点からも非化石エネルギーとしての原子力の長期安定利用は重要であり、そのため高速増殖炉が必要となります。
 我が国にとって、これまで高速増殖炉開発を含む、多くの研究開発において常に先導者(国)がいました。しかし、先導者がいなくなった今、我が国の独自性を発揮し、世界に貢献していくことの意義は大きいと考えます。

 上記のとおり、資源のない我が国にとって、高速増殖炉の研究開発を継続して、次世代への対応を準備しておくことは重要です。そして、非化石エネルギーの一つの有力な選択肢として高速増殖炉の実用化の可能性を新エネルギーなどとともに追求し、もし高速増殖炉による化石燃料の代替が困難であれば、他のエネルギーによる化石燃料からの脱却を図らなければならないと考えます。

4.今後の課題
(1)立地地元住民及び国民の理解促進と合意形成
 立地地元住民の方々には、これまで高速増殖炉研究開発に格別の理解を持って、立地に協力してきていただいたにもかかわらず、「もんじゅ」事故をはじめとした動燃の一連の事故、不祥事により、その信頼を裏切ることになりました。地元住民の方々の不安、不信は強いものがあります。これに対して、国及び動燃は、動燃改革を着実に進めるとともに、さらに実効性のある安全管理策を立てて、それを着実、誠実に実行することはもちろん、地元住民の方々に対しては、これに対する理解を得るための広報活動をさらに進めることが必要です。また、特に、これまで高速増殖炉研究開発の意義や進め方について必ずしも十分な説明がされてこなかったとの反省に立ち、その点について理解が得られるよう、今後よりわかりやすく説明していくことが必要です。高速増殖炉研究開発を推進するに当たっては、その意義及び進め方についての国民レベルでの合意形成なくしては、地元住民の方々の理解を得ることは難しいと言えます。したがって、今後とも、説明会、シンポジウムなどの活動に対して、不断の努力を払うことが必要です。

(2)安全の確保
 高速増殖炉の研究を担う機関は、当然のことながら、安全確保を最優先にできる体制であることが必要です。一方、個々の研究者にあっては、まず一人一人の責任感の徹底を図るとともに、研究開発の途上にある技術に対しては、事故は絶対起こらないという態度で臨むのではなく、事故は起こりうるものであるが、その発生を未然に防止するための万全の対策を講じるとともに、仮に起きたとしても人体・環境への影響を与えないようにするという、謙虚かつ慎重な姿勢が必要です。

(3)コスト意識の醸成と計画の柔軟性
 我が国の財政事情はきわめてひっ迫した状況です。そのため、財政構造改革が重要な政治課題となっている中、原子力開発を含め科学技術の大型プロジェクトについても必要性、緊急性を問われています。したがって、研究開発自体の経済性、すなわち研究開発投資とその効果について定期的に評価して、研究開発計画を逐次見直すことが必要です。また、高速増殖炉の実用化にあたっては、プラント建設費などの徹底したコストダウンが必要であり、研究開発の重要な目標の一つです。さらに、高速増殖炉は、その他の再処理や燃料製造などと燃料サイクルを形作ることによって、初めてウランの飛躍的な有効利用を図る事ができるので、炉とサイクルの調和が重要です。これらの観点からも計画の見直しが必要です。
 上記の検討を通じて、高速増殖炉の研究開発計画に重大な問題が発見された場合には、直ちに同計画を見直して修正するようにしなければなりません。そのためには計画自体を柔軟な対応が可能な計画とし、定期的に評価して適切に軌道修正を行うことを制度化する必要があります。

(4)核不拡散の努力
 原子力基本法では、我が国の原子力の研究・開発及び利用は、平和の目的に限っています。核不拡散については、我が国は国際原子力機関(IAEA)の厳しい監視(保障措置)を受け入れ、余剰プルトニウムを持たないことを世界的に宣言しています。また、プルトニウム等が盗まれないようにする核物質防護については、核物質防護条約に加盟し、世界の国々と協力して対策を取っています。
 高速増殖炉によるプルトニウム利用に当たっては、保障措置、核物質防護により、今後とも各国からの疑念を招かないようにする努力を続けることが必要です。

5.「もんじゅ」による研究開発の実施
 動燃の「もんじゅ」事故については、初歩的な設計管理上のミスに起因するものである上、事故後の対応の不適切さが動燃に対する社会的信頼を失わせました。また、その後のアスファルト固化処理施設における事故の対応にもその反省はいかされませんでした。これらは動燃の体質の問題であり、抜本的な改革が必要であり、動燃改革検討委員会においてその基本的方向がまとめられ、現在その具体化作業が行われています。
 「もんじゅ」はこれまで約5900億円の建設費と12年の建設期間をかけ、設計・建設段階で数多くの知見を蓄積してきました。高速増殖炉の研究開発を進めるに当たって、これまでの蓄積に加え、「もんじゅ」の運転データを加えることはきわめて重要であり、これにより、発電プラントとしての性能を確認し、大型化への技術的可能性を評価する「原型炉」本来の目的を達成することができます。仮に「もんじゅ」を中断し、今後必要な時に再び研究開発を始めることは費用の面からも人材の面からも大きな損失です。したがって、「もんじゅ」を使い、研究開発を続けることが必要です。このためには、動燃改革や安全総点検を通じての安全性向上の状況等を地元住民の方々などにわかりやすく説明し、着実に理解を得ることが必要です。そして、動燃の改革が確実に実現され、研究開発段階にある原子炉であることを認識した慎重な運転管理が行われることを前提に、「もんじゅ」での研究開発が実施されることが望まれます。
 「もんじゅ」の研究開発に当たっては、実用化につなげるデータの取得を急ぐのではなく、原型炉の特徴をいかしたあらゆる角度からのデータを着実に蓄積する慎重な態度で臨むことに重点を置くべきです。すなわち、ナトリウム取扱い技術や高燃焼度燃料開発など実証炉以降の開発のための幅広いデータを蓄積することが課題です。

6.実証炉以降の開発
 実証炉については、「もんじゅ」の運転経験を反映することが必要であり、「もんじゅ」で得られる種々の実績、研究開発の状況と成果などを十分に評価した上で、その具体化のための計画の決定が行われるべきものと考えます。
 高速増殖炉の実用化にあたっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を見ながら、柔軟に対応していくことが必要です。

7.おわりに
 高速増殖炉の研究開発計画を進めるにあたっては、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、柔軟な計画の下に高速増殖炉の可能性を追求する研究開発を進めることが必要です。原型炉「もんじゅ」は、この研究開発の場の一つとして位置付けられます。そして、何より、高速増殖炉研究開発の意義や進め方について、広く国民に理解を得る努力をすることが重要です。