核融合炉ブランケットの研究開発の進め方

 

 

平成12年8月21日

核融合会議計画推進小委員会


目 次

1. はじめに

2. 原型炉用ブランケットの要件

3. 各種ブランケットの方式と各極の開発動向

4. 我が国が開発を進めるブランケット方式の特徴

5. 主要な研究開発課題と開発の現状

6. 研究開発の進め方

7. 開発のスケジュール

8. おわりに

 

(参考)本報告書で使用している用語の解説


1.はじめに

 核融合炉ブランケット(以下「ブランケット」という)は、図1に示すように核融合炉の真空容器内部においてプラズマを取り囲むように設置され、1)DT反応の燃料となるトリチウムの生成回収(増殖機能)、2)中性子の運動エネルギーを変換して、良質の熱エネルギーとして回収(発電に適する高温除熱機能)、3)放射線に対する周辺機器・生体の保護(遮蔽機能)の3つの重要な機能を果たす、核融合炉がエネルギー生産システムとなるための中核的な機器である。

 我が国の「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月、原子力委員会)においては、「核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって、その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについては、その研究開発を進める」とし、この視点からブランケット技術に関する研究開発の必要性を記述している。また、ブランケットの研究開発は原型炉や実用炉を目指した長期的な視点に立って実施されるべきものであり、「核融合研究開発の推進について」(平成4年5月、原子力委員会核融合会議、以下「推進について」と呼ぶ)においても「ブランケット・モジュールを実験炉に導入し、熱変換・取り出し及びトリチウム増殖の機能試験を実施する」とされており、核融合実験炉のポートを用いたモジュール試験等が必要不可欠である。この観点から、実験炉を照射ベッドとしてブランケットのモジュール試験を実施することは、現段階から原型炉段階に至る開発の重要な中間ステップと位置付けられる。

 上記背景から、我が国における核融合炉ブランケットの研究開発の進め方を明らかにするため、核融合会議計画推進小委員会においてこれまでに5回の審議を行ってきた。本報告は、そこでの審議を基に、我が国における核融合炉ブランケットの研究開発の進め方について現時点での見通しを示すものであり、以下に、原型炉用ブランケットの要件、各種ブランケットの方式と各極の開発動向の概要を述べ、引き続き、我が国が開発を進めるブランケット方式、主要な研究開発課題と開発の現状、及びこれらの研究開発の進め方と開発のスケジュールを記述する。

2.原型炉用ブランケットの要件

 実用エネルギー源として核融合エネルギーを利用するためには、経済性、信頼性、安全性を含む各種の総合特性が、他の発電方式に比べて優位性を示しうること、もしくは競合できるレベルであることが必要であると考えられる。「推進について」においては、原型炉のミッションとして、「高いエネルギー増倍率の定常炉心プラズマを実現し、これから発生するエネルギーを取りだし、電気エネルギーに変換することが技術的に可能であることをプラント規模で実証する」と掲げており、核融合システムがプラントとして技術的、経済的成立性を有することを実証することが目的となっている。

 原型炉に向けた主要な炉工学課題は、十分なトリチウム増殖性能と高い発電効率を有するブランケットの実証及び中性子照射に耐え得る材料の開発であり、これらの開発には長期間の研究開発を要するため、早期に着手する必要がある。また、原型炉の前段階である実験炉にブランケットのモジュール試験体を設置し、核融合炉環境下でトリチウム生成・回収機能及び発電に適する高温の熱の取り出し等の試験を行うことが不可欠である。

 原型炉の中核機器となるブランケットには、良好なトリチウム生成・回収特性、発電に適する高温除熱特性及び十分な遮蔽特性が要求される他、使用環境下で構造健全性(以下「健全性」という)を保持すると共に、高い安全性や信頼性を有し、かつ環境適合性や経済性にも優れていることが必要である。即ち、

1)トリチウム生成・回収特性:
 ブランケットは、核融合反応の燃料となるトリチウムの自己供給が可能となるよう十分高いトリチウム増殖特性を有すると共に、生成・放出されるトリチウムが適切な規模の系統で回収可能である必要がある。

2)発電に適する高温除熱特性:
 ブランケットは、核融合反応で生成される中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、高い信頼性をもってかつ効率良く系外に取り出す必要がある。特に、高い発電効率を達成するためには、高い冷却材の出口温度を達成する必要がある。

3)十分な遮蔽特性:
 ブランケットは、真空容器等と共に、超伝導コイルを始めとする周辺機器や生体に対する放射線防護の役割を担うため、十分な遮蔽性能を有することが必要である。

4)健全性の保持:   ブランケットには、高い熱負荷や中性子負荷、強大な電磁力等の機械荷重が作用するため、それらに対して十分に耐え得ると共に、運転中に想定される高い中性子照射量や運転サイクル、及び化学的環境効果に対しても健全性を保持する必要がある。従って、ブランケットは、十分なデータに基づいて、信頼性の高い設計がなされると共に、その製造に関しては、一般工業技術レベルに基く産業基盤が存在することが不可欠である。

5)高い安全性、信頼性及び環境適合性:
  ブランケットは、高い信頼性と十分な設計裕度を持つことが必要であり、また、内包する化学的エネルギーや放射性物質保持量を可能な限り低減することが望ましい。また、安全性を向上し廃棄物の処理処分を軽減するために、可能な限り誘導放射能を軽減することが必要である。

6)高い経済性:
  経済的に魅力ある核融合炉を実現するため、高温のブランケットを使用することにより発電効率を高めると共に、製作コストの低減やトリチウム増殖材料等の再利用に関する見通しを得る必要がある。

3.各種ブランケットの方式と各極の開発動向

 過去に提案されたブランケット方式はトリチウム増殖材・中性子増倍材、構造材、冷却材の組み合わせにより多岐に渡るが、これまでに実施されてきた設計検討や研究開発の成果を反映して、大きく、固体増殖方式と液体増殖方式(リチウム鉛増殖方式、液体リチウム増殖方式、溶融塩増殖方式)に絞り込まれている。 第1表は国際熱核融合実験炉(InternationalThermonuclearExperimentalReactor,ITER)を用いたモジュール試験としてITER参加3極(日本、EU、ロシア)から提案されている方式と、それらの主要な構成と特徴をまとめたものであり、開発の主流は固体増殖方式になりつつある状況である。

 従来の研究開発は、材料開発(照射試験含む)、増殖材からのトリチウム生成放出基礎過程の研究、トリチウム増殖材・中性子増倍材ペブル(4.(1)参照)の製造技術開発等が主であったが、ITERでのモジュール試験に向けてより工学的な研究開発が必要な段階に至っており、各極とも研究開発を進めている。

4.我が国が開発を進めるブランケット方式の特徴

 前章で述べられた各種候補概念のうち、我が国では、高い安全性、豊富なデータベース、及び実用炉への見通しと高性能化の可能性に重点を置いて開発を進める必要があり、これに沿った方式の選定を行うことが重要であると考えられる。このような視点に基けば、我が国では、固体増殖方式を主な開発目標として研究開発を進めることが妥当であると考えられる。本方式は、実用炉へ向けて高い実現可能性を有しているだけでなく、一層の高性能化の可能性を有している。一方、液体増殖方式は、一般的に増殖材の放射線損傷が軽微であり、かつシンプルな構造が採用できる可能性が高いことから魅力ある方式であると共に、慣性核融合炉のブランケットや強力中性子源のターゲット技術から見ても重要な技術である。これらの観点から、固体増殖方式と並行して基礎研究・要素技術開発を実施すると共に、国内外の研究開発の動向を適切に評価することにより、技術的な見通しを得るものとする。以下にそれぞれの方式の特徴を述べる。

(1)固体増殖方式
 一般的に固体増殖方式のブランケットにおいては、箱形のブランケット容器の中に直径1mm程度の固体ペブル(微小球)形状のトリチウム増殖材及び中性子増倍材を充填する方式が採られている。トリチウム増殖性能を高めるため、トリチウム増殖材の前後(周囲)に中性子増倍材が配置される。生成されたトリチウムは、増殖材・増倍材層内を循環するヘリウムガス(スイープガス)によってトリチウム回収系に運ばれる。中性子とトリチウム増殖材、中性子増倍材及び構造材との反応により生じた熱は、冷却管あるいは冷却パネルにより除熱される。プラズマに面する第一壁は高い熱負荷を受けるため、内部に冷却流路を埋め込んで効率的な除熱を行う。ブランケットとしては、製作性、遠隔保守性及び電磁力低減を考慮した小型モジュール型を採用する。

 固体増殖方式のブランケットの主要緒元の一例を第2表にまとめ、また構造の一例を図2に示す(日本原子力研究所での設計例)。

本方式は以下の特徴を有している。

1)固体増殖方式の選択:
基本的に使用される構成材料の化学的活性度が低く、系統内部のトリチウム保有量も低く抑えることが可能である。また、トリチウムの生成・放出特性や照射特性に関するデータベースが比較的豊富であると共に、トリチウム回収技術の開発が最も進んでおり、基盤技術はほぼ確立されている。

2)ペブル形状でのトリチウム増殖材・中性子増倍材の使用:
固体増殖方式で懸念される中性子照射損傷の緩和や耐熱応力性も良好であることが期待でき、各種開発概念の中で主流となっている。

3)冷却材として加圧軽水(超臨界圧水など)が主案:
軽水炉や火力発電で豊富な実績があり、高い信頼性を有する基盤技術が確立している。

4)構造材として低放射化フェライト鋼の使用:
フェライト鋼は、良好な耐照射特性と高温特性を有すると共に、広範な産業基盤を有する材料である。また、添加元素の調整により低誘導放射化特性を具備させることにより、廃棄物処理処分のシナリオを軽減できる可能性が示されている。また、ODS化(酸化物分散強化)等によりさらに高温特性の改善を期待できる。この材料に関しては、日本原子力研究所(F82H鋼)及び大学(JLF-1)の開発実績は世界的にも高く評価されている。

5)高性能化の可能性:
冷却材としてヘリウム・ガスを使用し、構造材料としても先進材料(SiC/SiC複合材等)を用いることにより、より高い発電効率の達成が可能になると共に、固有の安全性をより高められる可能性がある。また、これらの先進構造材料を使用することにより、より魅力ある低誘導放射化特性を実現することが可能である。なお、これらの高性能化に関しては、基本的な炉型や開発項目の大幅な変更は不要である。

(2)液体増殖方式
 液体増殖方式のブランケットは、基本的には固体増殖方式のブランケットにおけるトリチウム増殖材・中性子増倍材層を液体増殖材で置き換えた構造と考えてよい。発生した熱の取り出し方法としては、液体増殖材を循環させることにより除熱する自己冷却方式と固体増殖方式と同じく冷却管あるいは冷却パネルにより除熱する方式がある。液体増殖材は常時循環されており、液体増殖材内で生成されたトリチウムは、炉外で分離・回収される。

 液体増殖方式のブランケットとしては、第1表に示す通り、世界的には、液体リチウム自己冷却方式(構造材料:バナジウム合金)、リチウム鉛増殖方式(構造材料:フェライト鋼、加圧軽水冷却)の開発が進められてきている。これらの方式は、放射線損傷がない、もしくは軽微である(リチウム鉛の場合、照射核変換に伴う組成の変化、ポロニウムの生成等が課題)特徴を有する。また、基本的に増殖材の温度を制御する必要がないことから、ブランケット内部の構造が簡素化される可能性がある。一方、液体増殖ブランケットの一方式として検討が進められている溶融塩方式は、液体金属方式の利点の多くを共有すると共に、液体金属方式固有の課題である高いMHD圧力損失や化学的活性度による安全性の問題が大幅に軽減できる可能性を有していることから、文部省核融合科学研究所を中心にシステム設計研究や要素技術開発が進められている。

5.主要な研究開発課題と開発の現状

ブランケットの開発課題は、1)製作技術開発、2)トリチウム増殖・回収技術の開発、3)除熱技術の開発、4)照射特性を中心とする健全性保持に係る開発、及び5)安全性や環境適合性を高める開発に分類できる。以下に、まず固体増殖方式に係る開発課題と開発の現状を記述し、次に液体増殖方式について課題と現状をまとめる。

(1)固体増殖方式
 固体増殖方式のブランケットに係る開発の現状は以下の通りである。

1)製作技術開発:
開発課題は、構造材料の製造技術、さらに、それを用いたブランケット容器(第一壁を含む)の製作技術、及びトリチウム増殖材、中性子増倍材ペブルの製造技術に分類される。第4章で述べた通り、フェライト鋼は広範な産業基盤を有すると共に、候補材料である低放射化フェライト鋼に関して、ブランケットへの適用が見通せるレベルの性能を有する候補材料が得られつつある。また、有力な候補材料の一つであるF82Hに関しては、低放射化を考慮して微量不純物を制御した5トンレベルの溶解インゴットの製造実績を有している。低放射化フェライト鋼によるブランケット容器の製作技術開発に関しても、拡散接合を適用した技術開発が進められつつあり、既に第一壁パネルの試作に成功している。なおフェライト鋼をブランケット構造材として用いる場合には、その強磁性がプラズマ閉じ込めに及ぼす影響を評価し、対応する必要がある。一方、トリチウム増殖材や中性子増倍材ペブルの製造技術に関しても、これまでの材料開発の成果として、転動造粒法やゾルゲル法(いづれも増殖材ペブル)、回転電極法(増倍材ペブル)等の製造技術が開発されてきている。これらの成果は、より高温特性に優れた構造材や増殖材・増倍材を開発していく基盤となるものである。

2)トリチウム増殖・回収技術の開発:
固体増殖材から生成されるトリチウムを回収するためには、運転中の増殖材の温度を適正範囲に保持する必要があり、そのためにはペブル充填層の熱特性を正確に把握する必要がある。また、増殖材中で生成されるトリチウムを適切に放出させ、回収する技術を確立する必要がある。これまでに行われてきているペブル充填層の熱特性試験により、増殖材・増倍材ペブル充填層の熱特性データが蓄積されつつある。一方、トリチウムの生成・放出特性に関しては、国際エネルギー機関(IEA)の下での国際協力として実施されたBEATRIX-II実験や生成放出機構に係る基礎研究等により、生成されたトリチウムを固体増殖材から有効に回収するためには回収ガス(ヘリウム)に水素を添加することが効果的であることが明らかにされると共に、酸化リチウムに関しては、5%リチウム燃焼度(原型炉条件:約10-15%)までの照射下でも良好な放出特性が保持されることが明らかにされている。また、回収技術に関しては、TPL(日本原子力研究所)やTSTA(米国ロスアラモス国立研究所)でのトリチウム燃料循環系統の運転経験から、低温吸着や膜分離などのトリチウム分離回収技術に係る基盤技術が得られている。

3)除熱技術の開発:
高磁場中でのMHD効果等の困難な課題を有する液体金属増殖方式と異なり、加圧軽水(超臨界圧水など)及びヘリウムによる冷却技術は、各々軽水炉や火力発電及び高温ガス炉で長年にわたって培われた技術が基本的に転用でき、基盤技術は確立している。

4)健全性保持に係る開発:
想定される使用環境下においてブランケットの健全性を保持するためには、材料の照射劣化、熱サイクルや長期高温運転による材料の劣化、高熱負荷に対する第一壁健全性、及び化学的環境効果(腐食、質量移行等)に対する健全性を十分に評価し、必要な対策を講じる必要がある。低放射化フェライト鋼に関しては、照射試験により、既に約30dpaを上回る(原型炉条件:100dpa)照射によっても適切な引張り特性が保持されることが確認されると共に、低照射ながら破壊靭性試験からも良好な特性を示唆する結果が得られている。また、トリチウム増殖材(酸化リチウム)に関しても、BEATRIX-II実験により5%リチウム燃焼度までの照射健全性が確認されると共に、アウトパイル熱サイクル試験により1万サイクルまでの耐久性が確認されている。

 

5)安全性や環境適合性を高める開発:
安全性や環境適合性を高める観点からの開発課題として、系統内でのトリチウム保持量の低減、異常時や事故時の挙動評価、生成トリチウムの冷却水中への漏洩を防止するためのセラミックスコーティング技術、低誘導放射化特性を有する材料の開発、及び廃棄物量の低減と再利用技術の開発が挙げられる。前述の通り、増殖材を適切な温度範囲に保持することにより増殖材中で生成されたトリチウムを回収することが可能であり、系統内での保持量は200グラム以下に抑え得る見通しが得られている。また、低放射化フェライト鋼の開発も、前述の通り5トン溶解インゴットの製造実績があり、小規模なレベルでの製造技術が既に実証されている。

 以上の通り、これまでに材料開発や照射研究を中心に、固体増殖方式のブランケット概念の成立性に見通しを与える多くの成果が得られてきている。このため従来の要素技術開発から工学規模での研究開発や実証試験に移行できる段階に到達している。原型炉へ向けた開発の重要な中間ステップと位置付けられる実験炉のポートを用いたモジュール試験に向け、今後の主要な開発課題は以下の通りである。

1)製作技術開発:
大型ブランケット容器の製作技術の開発を行うと共に、トリチウム増殖材・中性子増倍材ペブル製造技術の低コスト化を図る。

2)トリチウム増殖・回収技術の開発:
固体増殖材からのトリチウム生成回収機構に係る現象の理解をさらに深めつつ、効率的なトリチウムの分離回収技術の研究開発を進めて、その確立に見通しを得ると共に、より高バーンアップ領域での増殖材からのトリチウム生成回収特性を評価し、原型炉条件への見通しを得る。また、ペブル充填層の温度制御に重要な充填層の熱機械特性評価を進め、その成果を基にインパイル機能試験を実施し、中性子照射下での温度制御性やトリチウム生成回収特性の実証を行う。

3)健全性保持に係る開発:
構成材料(トリチウム増殖材、中性子増倍材等)の重照射特性や化学的環境効果の評価を進めると共に、第一壁の高熱負荷試験を行い、使用環境下での構成要素の健全性の確保に見通しを得る。さらに、実規模レベルのプロトタイプ試験体を用いたアウトパイル試験により総合性能を実証する。また、供用期間中のブランケットの健全性を確保していくため、複雑な構造物に対応できる検査技術の高度化が必要である。

4)安全性や環境適合性を高める開発:
中性子増倍材からのトリチウム放出特性や冷却材とブランケット材料との相互作用の評価を進め、安全性の評価につなげると共に、長期的には、先進構造材料の開発や構成材料の再利用技術の開発を進め、高性能化や環境適合性を高める開発に見通しを得る。

(2)液体増殖方式
 液体増殖方式に関しては、これまでに、先進構造材料としてのバナジウム合金の開発や評価、MHD圧力損失の評価(以上、液体リチウム増殖方式)、コーティング膜の開発、構造材と増殖材との共存性(以上、リチウム鉛増殖方式)、トリチウム化学形制御(溶融塩増殖方式)等の基礎研究において下記の進展を見ている。

1)バナジウム合金の開発・評価:
幅広い組成成分の合金について照射、非照射のデータ取得が進められ、強度等の観点から、バナジウム合金(V-4Cr-4Ti等)が代表的な合金であるとの知見が得られている。

2)MHD圧力損失の評価:
磁場中を流動する液体金属のMHD圧力損失について、液体金属を用いたループ実験及び解析の両面から評価が進められており、様々な評価式が得られている。また、液体金属と配管壁との間に電気絶縁材を挟むことにより圧力損失を低減し得ることが、実験、解析の両面から示されている。

3)コーティング膜の開発:
トリチウム不透過性及び耐食性等の観点から、コーティング膜の開発及び評価が進められており、その製造技術、機械的特性、トリチウム透過特性に関する基礎データが取得されている。

4)構造材と増殖材との共存性:
各種構造材に対してリチウム鉛が激しい腐食性を有することが知られているが、これは鉛に対するニッケル、クロム等の溶解度が高いことに起因していること、従って、系統内での質量移行が問題であること、更に、リチウム鉛中の不純物(窒素、炭素等)が腐食を促進するため、不純物管理が重要であること等が明らかにされている。

5)溶融塩中のトリチウム化学形の制御:
フリーベ(FLiBe)中のトリチウム化学形(TFあるいはT2)はトリチウムの透過、材料との共存性を評価するうえで重要であるが、これについて、溶融塩の成分の核変換、添加物、スイープガス組成の効果が明らかにされている。

 一方、これらの方式には、以下の技術的な課題があり、実験炉のポートを用いたモジュール試験に向けて技術的な見通しを得るための研究開発を進める必要がある。

1)液体リチウム増殖方式
・MHD圧力損失低減のための技術開発(自己修復性のある電気絶縁コーティング膜の開発、電気絶縁材挿入によるMHD圧力損失低減技術の開発)
・強磁場下での液体リチウムの伝熱流動特性の評価
・液体リチウムからのトリチウムの回収技術の開発
・液体リチウムと構造材との共存性評価
・液体リチウムの安全取扱技術の確立
・バナジウム合金素材の製造に係る産業基盤の育成と容器製造技術の開発
・バナジウム合金の重照射データの取得

2)リチウム鉛増殖方式
・トリチウム透過防止用コーティング膜の開発
・トリチウム増殖材との構造材との共存性評価
・増殖材と水との反応性の評価
・トリチウム回収技術の実証

3)溶融塩増殖方式
・構造材との共存性評価(共存性の優れた低誘導放射化材料の開発、トリチウム化学形制御、表面コーティング)
・放射線分解の評価と誘起起電力の評価
・トリチウム回収・透過抑制技術の開発
・高融点対策の検討

6.研究開発の進め方

 第4章で述べた通り、我が国では、高い固有の安全性を有し、比較的データベースが豊富であることから、固体増殖方式を主な開発目標として研究開発を進めることが妥当であると考えられる。また、放射線損傷が軽微であり、かつ高いトリチウム増殖特性を達成できる可能性があり、魅力ある方式である液体増殖方式に関しても、並行して基礎研究や要素技術開発を実施すると共に、国内外の研究開発の動向を適切に評価することにより、継続して技術的な見通しを得ていくものとする。

 ブランケットは、実験炉の運転初期からモジュール試験体として炉本体のポートに挿入され、核融合炉環境下での総合的な機能試験が実施される計画である。実験炉でのモジュール試験は、原型炉を目指したブランケット開発の重要かつ不可欠な中間ステップである。一方、実験炉では試験時間や試験空間が制限される。そのため、実験炉でのモジュール試験に先立ち、各種材料データや設計データの取得、製作技術の開発などの要素技術開発、及び部分モジュールを用いたインパイルでの機能試験やモジュール試験体・プロトタイプを用いたアウトパイルでの総合性能試験を実施し、あらかじめ信頼性の高いモジュール試験体を開発しておくことが不可欠である。

 固体増殖方式に関しては、まず、構造材料として、低放射化フェライト鋼を基軸に据えた研究開発を進めると共に、より高性能化を目指した先進構造材料についても、長期的な観点から基礎研究・要素技術開発を実施する。本開発は「中期的展望に立った核融合炉第一壁構造材料の開発の進め方について」(平成12年5月、原子力委員会核融合会議計画推進小委員会)と整合を取って実施する。一方、トリチウム増殖材は、酸化リチウムや3成分系セラミックス(リチウム・タイタネート等)について各種照射データを取得する。また、照射データが乏しい中性子増倍材についても照射データの取得を進める。これらのトリチウム増殖材と中性子増倍材の照射データを系統的に取得するため、非密封トリチウムを内蔵するとともにガンマ線も放射する材料を取扱うことができる国内に未整備の照射後特性試験設備の整備が望まれる。照射試験は、材料試験炉「JMTR」及び高速実験炉「常陽」を含めた国内の既存設備を最大限に活用すると共に、国際協力も有効に利用する。

以下に実施すべき具体的な項目を示す。

材料の開発や照射データの取得、照射試験技術に係るインパイル要素技術の開発、トリチウム増殖材からのトリチウム生成放出機構を中心としたトリチウム増殖材と中性子増倍材の基礎研究・要素技術開発、およびD-T中性子による核データ・原子分子データの評価を中心とした中性子工学研究と並行して、製造技術の開発や設計の基本となる各種工学データの取得を進める。特に、ブランケット容器の製作技術開発と高熱負荷に対する健全性評価及びペブル充填層の熱機械特性の取得や健全性評価を早急に進める。

上記評価の成果を反映し、小規模な部分モジュールを用いたインパイル機能試験を実施することにより、中性子照射下でのトリチウム増殖材の温度制御性及びトリチウム生成回収特性に係る機能の検証を行う。インパイル機能試験は、日本原子力研究所の材料試験炉JMTR(試験体の設置空間:直径約10cm、長さ約1m)を中心的な試験設備として実施する。

実験炉に装荷するモジュール試験体のプロトタイプに関しては、アウトパイル試験設備を整備して総合性能試験を実施し、ブランケットの伝熱流動特性、熱機械特性、疲労寿命及び安全性に係る総合特性を実証する。

 一方、液体増殖方式に関しても、MHD圧力損失低減のための技術開発、増殖材からのトリチウムの回収技術の開発、トリチウム透過防止用コーティング膜の開発等、技術的成立性を見通すために鍵となる技術に関して基礎研究・要素技術開発を進める。さらに、今後の多様な研究開発の展開を念頭に置き、他の増殖方式に関しても調査、基礎研究を継続して実施する。

 以上述べたブランケットの開発に際しては、産・学・官の協力と計画的な推進が不可欠である。特に、密接に関連する核融合炉第一壁材料の開発で得られる成果がブランケットの開発に適切に反映されるよう、効率的な開発を展開することが肝要である。固体増殖方式のブランケットに係る材料研究開発、炉工学技術の研究開発及び設計研究はこれまで日本原子力研究所を中心に展開されてきており、上述の固体増殖方式に関しても、引き続き日本原子力研究所が中核的な機関として研究開発を推進する。ここでは、他の機関で実施する研究開発から得られる広範な知見が研究開発に適切に反映されるように留意する必要がある。

 一方、他の国立研究機関及び大学等においては、従来から固体増殖方式及び液体増殖方式の両者に係る広範な材料開発や基礎研究が有機的に実施されてきており、引き続き、液体増殖方式の見通しを得るための基礎研究、及び固体・液体増殖の両方式に係る先進的な概念につながる応用研究や高度安全性研究を実施すると共に、人材育成への貢献が期待される。さらに、ブランケットの製作技術開発や高性能機器の製作等は産業界のポテンシャルに負うところが大きく、今後の機器の大型化、高性能化に向けて、研究開発機関と産業界とが密接な連携を保ち、効率的な開発を行う必要がある。

 これらの炉工学技術の開発においては、IEA核融合炉工学協力協定を始めとする国際協力も有効に活用し、同様の開発を実施する極との協力、競争により、成果の信頼性を高めることも重要である。また、より魅力ある核融合炉を目指して、先進構造材料の開発や先進的な冷却方式の基礎研究等も継続して実施する。

7.開発のスケジュール

 核融合炉ブランケットの開発においては、実験炉を用いたモジュール試験が重要な中間ステップである。この観点から、核融合炉ブランケットの開発は、実験炉でのモジュール試験を中間目標とし、実験炉スケジュールと整合をとって遅滞なく進めることが肝要である。図3は、核融合炉ブランケットの研究開発の進め方を模式的に示したものである。
 実験炉(ITER)建設開始時に想定されるモジュール試験計画の確定に向けて、製作技術開発や各種材料データ及び設計工学データの取得を進めると共に、トリチウム増殖材・中性子増倍材のインパイルでの照射試験を実施し、照射データの取得を進める。我が国はこれらのデータに裏付けされた試験計画案を提示することで、国際協力の下で実施されるITERでのモジュール試験に主体的に参画することが可能となる。

 さらに、引き続き、2010年代の早い段階と想定されるITERの運転開始に向けて、工学的な研究開発を展開することが必要となる。すなわち、モジュール試験体・プロトタイプの開発とプロトタイプを用いたアウトパイル総合性能試験及び部分モジュールを用いたインパイル機能試験を進め、実機モジュール試験体の開発へと展開する。ITERでは、その運転の全期間を通して、中性子照射環境下におけるブランケットの機能試験が実施される予定であり、原型炉に向けたブランケットの各種特性データの取得と総合的な機能の実証が図られる。

 一方、これらと並行して、液体増殖方式の基礎研究・要素技術開発を進めると共に、その進展に応じて工学的な研究への展開を図りつつ、さらに、高性能化研究や他の方式に係る研究開発も推進する。

 モジュール試験でのブランケットに係る総合的な機能の実証と、高エネルギー中性子照射施設等を用いて行われる構造材料の工学実証を通して、原型炉用ブランケットの実現が図られる。

 核融合炉ブランケットの研究開発の進め方については、核融合会議の下の計画推進小委員会において、適切な段階においてチェック・アンド・レビューを実施する。チェック・アンド・レビューでは、それまでのブランケット開発で得られた各種増殖方式の成果と以降の技術的見通しに関して評価を行うと共に、我が国の核融合開発長期計画や核融合炉第一壁構造材料開発計画との計画上の整合性の視点からも評価を行い、モジュール試験計画に対する増殖方式や以降のブランケット研究開発に対する方針を具体化する。

8.おわりに

 当小委員会においては、「第三段階核融合研究開発基本計画」で示されている「核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって、その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについては、その研究開発を進める」との考えに基づき、ブランケットの研究開発を効率的に推進するため、その進め方に関する検討を行ってきた。本報告では、それらの審議結果を中心に、原型炉用ブランケットの要件、各種増殖方式と各極の開発動向、我が国が開発を進めるブランケット方式、主要な研究開発課題と開発の現状などを調査・検討し、これらの研究開発の進め方と開発のスケジュールをまとめた。

 我が国では、高い固有の安全性を有し、比較的データベースが豊富である固体増殖方式を主な開発目標として研究開発を進めることが妥当であると考えられる。一方、液体増殖方式は、MHD圧力損失低減のための技術開発やトリチウム回収・閉じ込め技術の開発等の技術課題はあるものの、本質的に増殖材の放射線損傷が軽微であり、かつ構造が簡素化できる可能性が高く、魅力ある方式であることから、並行して基礎研究・要素技術開発を実施すると共に、国内外の研究開発の動向を適切に評価することにより、技術的な見通しを得るものとする。

 ブランケットの開発は、これまでの材料研究から工学規模の開発へと展開しつつある段階にある。実験炉(ITER)を照射ベッドとして用いるブランケットのモジュール試験は、原型炉以降を目指したブランケットの開発の中で最も重要な中間ステップである。これに向けて、設計工学データの取得や製造技術開発を含めた各種工学規模の研究開発を進めることにより、主体的に実験炉(ITER)での工学試験に参画することが可能となるものと考えられる。

 また、これらの研究開発は、関連分野との連携・協力が不可欠であり、とりわけ、国立研究機関や大学等での基礎研究や材料研究、産業界での製造技術開発や機器の大型化、高性能化に向けた開発とは密接に連携・協力しつつ、効率的な開発を行う必要がある。国際的には、欧州などが我が国と同規模のブランケットの開発計画を推進しているので、IEA協力などの枠組みを活用し、我が国の開発計画が適切な幅とバランスを確保するように努めるものとする。


図1 ブランケットの役割


図2 固体増殖方式のブランケットの構造概念の例


図3 核融合炉ブランケットの研究開発の進め方


核融合会議計画推進小委員会の設置について

平成5年5月20日
原子力委員会核融合会議

1. 目的及び設置
 第三段階核融合研究開発基本計画に基づく研究開発を効率的に推進するため、当会議に計画推進小委員会(以下「小委員会」という。)を設置する。

2. 開催頻度及び任期

①  小委員会は、必要に応じ開催する。
②  委員の任期は、2年間とする。但し、再任を妨げない。

3. 小委員会の構成
①  小委員会に主査及び顧問を置く。
②  小委員会の委員は、核融合会議の座長が指名する。
③  必要に応じて、小委員会に、技術的事項の検討を行い、又は意見を聴取するため、関連する分野の学識経験者を参加させることができる。

4.その他
①  小委員会の主査は、小委員会の検討結果を適宜核融合会議に報告を行うものとする。
②  小委員会の庶務は、科学技術庁原子力局技術振興課が行う。


原子力委員会核融合会議計画推進小委員会構成委員(平成12年5月)

主査 
 東京大学大学院工学系研究科 教授宮 健三
  
 大阪大学レーザー核融合研究センター 三間 圀興
  
 核融合科学研究所大型ヘリカル研究部研究総主幹本島 修
  
 日本原子力研究所炉心プラズマ研究部 菊池 満
 炉心プラズマ計画室長 
  
 日本原子力研究所核融合工学部西 正孝
 トリチウム工学研究室長 
  
 核融合会議座長井上 信幸
 京都大学エネルギー理工学研究所 教授