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第300号 原子力委員会メールマガジン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ No.300 ━━━━━
    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2020年9月18日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆

┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと
┣ 会議情報
┃  (9月8日) 
┃  ・2019年の米国原子力発電の状況に係るヒアリング(JEPIC)
┃  (9月15日) 
┃  ・リサイクル燃料貯蔵株式会社リサイクル燃料備蓄センターにおける
┃   使用済燃料貯蔵事業の変更許可ついて(諮問)(原子力規制庁)
┃  ・第64回IAEA総会の開催方針及び放射線治療に関する
┃   サイドイベント開催について
┣ 原子力関係行政情報
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━・・・━━ 委員からひとこと ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
グランドチャレンジ:日本の原子力の大挑戦、その4:帰納的に考え、エビデンスに
基づく原子力利用を。原子力発電の役割。
                                岡 芳明 

原子力政策について説明してきたが、今回は、その過程で気が付いた、共通する課題と
考察を述べる。原子力発電の役割について最後に述べる

演繹型ではなく、帰納型の思考を
日本の原子力利用で生じている問題は、演繹的思考法が原因である。原子力利用はこう
あるべきとか、人材育成はこうあるべきとか、演繹型の政策提言は、美しいので、
受け入れられやすい。国の予算を獲得するのにも好都合である。しかし、目標が曖昧で
あるのみならず、現場の経験や、過去の教訓を考慮できてないので、狙いどおりの実践を
生んでいない。

「演繹型の政策思考は現実より理念が先行し、目標が具体性を欠く。未来志向の政策提言
は抽象的であるために受け入れられやすいが、目標達成できたか測定できない。帰納型の
政策立案には、エビデンスが不可欠で、目標も具体的である。日本の大学改革が迷走する
のは、根深い演繹型思考が背景にある」との鋭い指摘がある(参考1、2)

この指摘は、日本の原子力利用の問題にも当てはまる。現実から得た事実から帰納的に
思考し、計画してこなかったのではないか。集団で議論した結果、海外の原子力政策を
形だけ理解して適用しようとしたところがある。演繹型の計画や提言は、抽象的に
ならざるを得ない。形をまねて、ロードマップを作っても、目標が具体性を欠くと、
達成できたかどうかが曖昧になる。

根拠や、事実や歴史を基にする帰納型の思考が必要である。帰納型の政策にはエビデンス
が不可欠で、目標も具体的である。エビデンスベースの原子力政策を進めたい。

上から目線では帰納型の思考ができない
原子力政策を考える際、上から目線の場合は、現場に注意が払われないので、演繹型の
思考になりやすい。現場の経験や、海外を含む失敗の教訓から学ぶことができない。

技術者の場合は、自分の担当する技術に対する自信と、職業上の責任感のようなものから、
技術至上主義的思考になりやすく、結果的に上から目線になっていることがあるので
注意が必要である。原子力の問題を、一般人・非専門家の目線で、相対化して考えてみる
とよいのではないか。

帰納型の思考には、現場の知識・経験が必要である。エビデンスベースの政策とは、
過去の反省をし、その教訓を生かすことでもある。上から目線ではこれらができない。

日本では、演繹型で、何が良いか、ビジョンは何かなどを、皆で議論し、集団で決定する
形が多かったので、結果的に欧米を形だけまねる追随型になったのではないか。皆で議論
すると、日本では、海外に先例のあることになりやすい。

原子力はこうあるべきと演繹的に考えるのではなく、根拠や、事実や歴史を基にして
帰納的に考える必要がある。

研究や技術や安全の話に偏りすぎ
原子力関係者の意見や視点が、研究や技術や安全の話に偏っていると感じることは多い。
コミュニケーションと関連する問題に、技術の視点で対応するのは無理である。
原子力安全に対する国民の信頼ついては、以前のメルマガ(2019年7月26日号)で述べた
ので、繰り返さないが、安全性さえ説明すれば原子力への理解が進むはずとの考え方が、
逆効果になってしまったところがある。

海外情報の紹介は科学の作法に従う必要
前回のメルマガで英語での検索を勧めたが、更に注意点がある。原子力委員会に届いた
ある業界誌が、フランス国家評価委員会が2020年7月に出した報告書の紹介をしていた
ので、元の報告書(参考3)を探して、その結論を読んだが、紹介記事の内容を確認
できなかった。

更に探すと、この業界誌の内容は、ある日本の調査機関がHPで発表した上記報告書の
紹介記事をもとにしていることが分かった。

報告書の結論を注意深く読むと、フランスにおける高速炉実用化時期の延期とそれに関係
する考察を柔らかく述べており、調査機関が紹介した内容と異なっている。

海外情報を紹介する側、翻訳者の頭の中に、日本で流布されてきた情報
(例えば全量再処理・高速炉路線)が刷り込まれているので、偏った海外情報になった
のではないか。業界誌はこれをもとに記事を書いたため、結果的に偏った情報を広めた
ことになる。

業界誌の編集者がどのような意見を持つかは自由であるが、影響は大きい。業界誌は省庁
や大学教員や地方自治体に届くものがある。偏った情報が含まれていることに気が付く方
は極めて少ない。自分も大学にいた時は、届けられる業界誌を読んで、その内容が原子力
政策だと思っていた。

原子力委員長になって、英語で検索し、欧米の政府機関等の報告書を参考に、大学で研究
していた時と同じ方法:根拠を確認して自分で考える方法で、原子力政策を考えてきた
のだが、その結果を申し上げても、なかなか理解が進まないと感じていた。なぜ、日本は
変なのか、根拠を挙げて説明してきたのにと思っていたが、その原因の一端がわかった
気がする。

今回紹介した例だけでなく、似た経験がほかにも複数ある。情報を調査した方が意図的に
そうしたというより、無意識のうちにそうなったのではないか。

海外情報の紹介は、報告書の記述内容(特に結論)と齟齬がない必要がある。
元の報告書の記述との対応を確認して紹介記事を書く必要がある。翻訳者の意見と
紹介する情報とは区別して発表することが、科学的態度として必要である。日本において
ロバストな原子力利用を進めるためには、これがまず必要である。実験データから自分の
都合の良いデータだけ選んで研究の結論を書いてはいけないのと同じである。意図的か
どうかにかかわらず御法度である。

欧米政府の会計検査院、行政監察院等の報告書は日本ではあまり知られていないが、
担当省庁とは異なった視点で作成されており、日本の原子力政策を考える上で参考になる。
これらに類する調査報告は見たことがない。偏った情報ではエビデンスベースの政策を
進めることはできない。

省庁は偏らない海外情報の入手を心掛ける必要がある。

餅は餅屋に。餅屋がいなければ育てるしかない
「餅は餅屋に」との言葉がある。どの分野も経験を積むのに10年はかかる。仕事とそれに
伴う責任は分担するしかない。現場で汗をかく経験者が必要である。海外の先行例の形を
まねても、汗をかく経験者(餅屋)がいなければ、進まない。対話のファシリテーション
を技術者が行うのは無理である。餅屋がいない分野は餅屋を育てるしかない。

英国の地層処分の対話活動では、長年、原子力分野で対話活動に参画してきた
コンサルタントのほかに、環境問題の対話・ファシリテーションを仕事にしている10名
程度のコンサルタントの会社が、会合の運営を担当するのみならず、対話活動に参画し、
報告書もまとめている(参考4)。

餅屋を育てるためには、餅屋(ファシリテータ)が食べていける顧客が必要で、彼らを
原子力分野だけで賄うことが難しいなら、他分野との協力や、すでに餅屋的な仕事して
いる集団、例えばビジネススキルとしてファシリテーションの研修をする集団との協力
などの工夫が必要ではないか。

さらに、英国の地層処分の対話活動を調べると、この対話活動の評価を地球環境関係の
起業を助けるのを仕事にしているコンサルタント会社が行っている(参考5)。さらに
他国の地層処分立地活動に関する社会的側面をレビューし、英国の過去の立地活動失敗の
教訓をまとめたのは、大きい調査会社である(参考6)。

英国では調査報告書の作成が、この分野の俯瞰的知識を持つ人材を育成することになる
点にも注目すべきである。日本でもこのような委託によって他分野や関連分野の人材に
原子力分野の理解をしてもらって、人材を育成する方法がある。重要なことは、単なる
政策の調査ではなく、現場で汗をかける人材の集団に、調査や報告書作成の委託がなされ、
調査と人材育成がつながっている点である。

これらの調査報告書が作られ公開されることで、経験が継承され、立地問題の社会的側面
に関する知識基盤を構築に役立っていることにも着目すべきである。

自己改善の仕組みを持つのが良い
日本は改善の仕組みが弱い。外部評価も必要だが、自己改善の方が、経営的には機能する。
恥の文化、集団主義の日本においては特にそうではなかろうか。

上場企業には社外取締役がいて、経営の改善の仕組みになっている。これは自己改善の
仕組みである。企業は利益という評価の指標がはっきりしており、倒産するので、改善は
経営の中で機能している。省庁や国立の研究開発法人や国立大学法人など、税金で
予算・給与がでている組織等ではこのような仕組みは弱いが、自己改善を機能させることは
できるのではないか。

例えば、英国は、地層処分立地の過去の失敗を受けて、大きい調査会社が担当省庁の
委託で評価報告書を作っている(参考6)。表題は“Geological disposal, Working
with communities, Literature Review“となっていて、評価という言葉は出てこないが、
中身は教訓と英国の政策への助言がまとめられている。その後の立地活動の社会的側面の
考え方の中核になっている。

米国大学の工学系の教育では、7年ごとにABET(技術士認定機関)による教育評価が
行われている。これは、技術士資格を卒業生に付与するために行われているが、教育の
自己改善の効果が大きいと考えられる。日本では、資格付与のためではなく、自己改善の
ために評価を受けると大学の教育・運営に効果があるのではないか。

大学の場合は、企業の利益のような指標がないと思う方がいるかもしれないが、そうでは
ない。各教員の論文の総被引用件数、優秀な人材を国内外から集める大学の機能を
発揮しているかどうかの指標としての、出身国の国費で留学してきた大学院生の
教員当たりの数、大学や学科・専攻の国内外でのプレゼンス(ランキング)などがある。

世界では大学ごとのランキングが良く知られているが、専門分野ごとのランキングは
各教員の努力と直結するので、改善には効果的である。米国では学科ごとのランキングを
全米科学アカデミーが作成しており、同じ分野内での競争と改善に役立っている。

日本において改善を促すには、これらの指標を“見える化“する方策がある。
学科・専攻ランキングは算出担当組織が必要になるが、それが無くても、ランキング算出に
米国が用いている指標を”見える化“する方策がある。日本は”偏差値“のようなものに
一喜一憂しがちな国民性なので、これらの指標を、少し”見える化”するだけで効果が
あるのではないか。

原子力委員会は司令しない。なぜなら原子力関係組織の置かれた状況をすべて知ることは
できなので、適切な司令・指示はできないと、以前のメルマガで述べた。自分の組織の
ことは自分が一番知っている。「よい」と言ってもらうための評価ではなく.組織が
置かれた状況を経営に取り入れ理解するための仕組みと、自己改善の仕組みを持って、
それらを機能させるのがよいと考える。

外部評価についても、その機会を、組織が置かれた状況や多様な視点を経営陣が取り入れ
るための仕組みとして活用すべきである。海外の先行例とその考察も参考になる。

会計検査院や、行政監察院の報告書は国民の金(税金)が効率的・効果的に使われたかを
視点として、政策に賛成・反対の観点を排除して、事実に基づき論理的に調査が行われ、
報告書が公開されている。さらに、チャレンジャーや原油大量流出など大きい事故の際
には、アカデミーによる独立した調査報告書が作られている。

生き残りをかけて努力する必要がある。
原子力発電所の輸出について、輸出先国と最初の発電所の運転開始年を調べて、表に
まとめて原子力白書に記載した(参考7)。その結果、原子力発電利用を国内で大規模に
展開した国々(原子力発電所を国産化し、多数国内に建設した国々)の中で、輸出した
ことがないのは日本とインドだけであることに気が付いた。

どの国も国内利用の展開と時間を置かず輸出活動を開始している。これらの
国(英独仏瑞中国)との比較で考えると、日本のこの時期は1970年代であったということ
になる。しかし、当時、日本で原発輸出の努力がなされていたと聞いた記憶はない。
日本では国内の建設で忙しかったためと考える方がいるかもしれないが、例えばフランス
では1978年からの5年間で20基の原発が運転開始している。

当時は団塊の世代と呼ばれた、多数の優秀な人材が原子力分野に来た。彼らはその能力を
生かしたのだろうか。市場に向かって努力する必要性は、技術開発・研究開発の考え方に
書いてあり、グローバルには当たり前のことである。

日本の原子力利用は国に頼りすぎではなかったか。現在もそうではないか。
国(政府と行政庁)の役割と民間企業の役割は異なる。国の研究開発機関や大学の役割も
これらとは異なる。それぞれが、役割分担し、共有できる情報は共有して、責任を果たす
必要がある。

9月2日に、菅官房長官が自民党総裁選挙に立候補を表明する記者会見で、「自助、共助、
公助」の考え方を示していた。まず自らが努力することが基本で、その次は役割分担し
つつ協力する。それでも無理な場合は国が助ける、公助になる。日本の官僚組織は組織的
な活動に優れている。自ら行うことを基本に協力することで、原子力利用も発展できる
のではないか。

大学教員だったので、優秀な学生を多数見てきた。教員冥利に尽きたと思っている。
優秀さにはいろいろあることも経験した。彼らは就職後、十分にその能力を発揮したのだ
ろうか。原子力の人気は上下してきたが、原子力分野を志望する優秀な学生はいつも存在
する。彼らが、能力を十分発揮できる必要がある。

優秀な人材だけに頼る考え方もおかしい。人の能力は多様である。一人で経験できること
は限られる。餅は餅屋である。それぞれの役割とそれに伴う責任を分担しつつ、全体が
ロバストに進むようにしたいものである。原子力分野だけで収入を賄うに足る仕事がない
場合は、英国の地層処分の例のように、コミュニケーション、ファシリテーションで
他分野を仕事にしている人材やコンサル会社と協力する方法もある。

負けに不思議の負けなし
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」との、野球の野村監督の言葉が
ある。しかし、負けの理由を理解しないと、負けを繰り返すことになる。

何度も繰り返すが、日本の原子力利用の停滞や事故を生じた問題を理解することが、
原子力利用の新展開のために必要ではないか。

問題を理解して、提案してきた解決の方策の例も参考に、グローバルな視野で、生き残り
をかけて、個人と組織が努力するのがよいのではないか。

日本では、そうした方がよいとわかっていても、実行できないことがある。それらを実行
することは、日本では大変な努力と意識改革を必要とする。グランドチャレンジである。

原子力発電の役割
日本において原子力利用の停滞や事故を生じた原因を理解し、対策することがまず必要と
考えて、メルマガでもそれを主に述べてきた。

原子力利用をすることは、原子力委員会設置法に定められているように、原子力委員会の
活動の前提である。

原子力発電や放射線等の利用の意義や役割については、原子力利用の基本的考え方やその
参考資料、原子力白書のコラムなどで述べてあるが、メルマガではほとんど触れることが
できなかった。最後になったが、原子力発電の役割について述べる。

原子力発電は建設投資額が大きいが、発電コストに占める燃料費の割合が少なく、長期間
利用すればするほど、安価な電力供給に貢献できる。ライフサイクルでみると、米国など、
どの国でも、原子力発電は安価で安定な電力供給に貢献している。

日本において、東電福島原発事故後、20年運転延長しても新規制基準に適合するための
投資が回収できないため、多くの原子力発電所が廃止措置に移行することを選択したのは、
国民経済の観点でマイナスであり、残念である。

東電福島第一原発事故後、原子力発電所が停止し、化石燃料の輸入が増えて、巨額の
国富が海外に流出し、電気料金が高騰した。再生可能エネルギー利用は必要だが、
固定価格買取り制度による国民の電気料金負担が増加しており、今後も累積する。

米国では、温暖化ガスを放出しない電源が、既に40%を超える電力を供給している。その
中でも、原子力発電は、50%以上の電力を供給しており、最も貢献している。(参考8)。

英国では、再生可能エネルギーと原子力発電所の新規建設を進めるための政策がとられて
いる。

地球温暖化問題だけが重要なわけではない。再生可能エネルギーだけで電力を安定的に
賄える状態にはない。猛暑だったので、もし停電して、エアコンが使えないと多数の
死者が出たのではないか。セメントや鉄鋼生産などに必要な電気以外のエネルギーの
脱炭素化をどう考えるかという課題もある。

電源のベストミックスが重要と言われているように、それぞれの電源の長所・短所を
組み合わせて用いる必要がある。エネルギー自給率の向上は、日本にとって必須の課題
なので、再生可能エネルギーのみならず原子力発電を用いる必要がある。

現在は主として火力発電による電力供給行われている。原子力発電所が停止しているので、
それを補うために化石燃料を輸入し多額の国富が失われている。

もし、将来、天然ガス価格が高騰したり、円安になって輸入価格が高騰したりすると、
電気代が高騰し、経済が打撃を受ける。経済弱者の生活が脅かされるのみならず、
電気代の高騰によって、輸出競争力が失われ、雇用も失われる。冷房が使えなくて猛暑で
死亡する方も出てくる。

我が国の高いエネルギーコストは、経済活動に負の影響を与えてきた。(参考9)。日本
では、原子力発電所が再稼働したため、電気料金を下げた電力会社があった。しかしなお、
多くの発電所が再稼働に至っていない。

日本においては、原子力発電所の再稼働を進め、できるだけ長く利用する必要がある。
電気の低炭素化にも原子力は大きい役割を果たせる。

米英では、電力自由化が1980年代後半から進んだ。自由化によって、投資の回収期間が
短く、建設費が小さい発電方式である天然ガス複合火力発電が1990年代から多量に導入
されている。2000年代半ばからは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが多量に導入
されている。これらの建設費は小さいが、発電コストは高かった。しかし電力自由化後の
投資環境と適合が良いため多量に使われるようになっている。発電コストよりも電気料金
が高ければペイするのである。なお、現在はシェールガスが生産されるようになり、
米国では天然ガス価格が低下したためや、大量生産の効果で、天然ガス複合火力や
再生可能エネルギーの発電コストも低下してきている。なおそれでも、原子力発電や
水力発電の発電コストは安価である(参考10)。

日本では小売り自由化に続いて、発送電分離が今年4月に行なわれ、米英に30年遅れで
本格的な電力自由化が行われた。再生可能エネルギーは、日本においても電力自由化後の
投資環境との適合が良いため、今後も多量に導入されていくと考える。将来は、
電気自動車の使用済み蓄電池を電力貯蔵に再利用することなどで、安定供給性が高まる
可能性がある。

再生可能エネルギーについては、自由化後の投資環境との適合性が良く、今後も導入が
進むので、騒ぎすぎる必要はないと考える。大量に用いる場合は、自然任せであること、
広い敷地が必要なことなど、その短所が顕在化する恐れがあることも頭の隅に置いておく
必要がある。日本では再生可能エネルギーの適地は、北海道や九州など大電力消費地とは
遠い地方に多いことも知っておく必要があろう。

なお、米国では、電力自由化後、大停電が起きて、自由化にブレーキがかかり、自由化州、
部分自由化州と非自由化州が存在する。平均すると電気料金は自由化州の方が高い。
もともと電気料金が高かった州が自由化を選択したためとも聞いたが、いろいろな条件が
あるので、その理由の分析は今後の課題である。

米国の水力発電所や原子力発電所は、電力自由化以前に作られたものが多く、建設投資の
回収も終わっている。発電コストは低く、自由化州か非自由化州化にかかわらず、安定で
安価で、温暖化ガス放出防止にも役立ちつつ電力供給に貢献している。米国では20年ごと
に運転期間の延長申請が可能で、80年までの運転期間延長の許可を得た原子力発電所も
出てきている。

原子力発電は初期投資額が大きいが、長期安定に使うことで、発電コスト低減や
エネルギー自給率向上や安定供給に貢献する。

原子力発電所の地元の雇用・経済効果は、発電所そのものの雇用のみならず、保守や
工事の会社による雇用、商店や食堂や宿泊施設の従業員など、極めて大きい。

OECD/NEAとIAEAが合同で出した報告書は「100万キロワットの原子力発電所1基は
ライフサイクルを通じた平均で、1年当たり平均2000人の雇用を生み出している」と
述べている(参考11)。日本では、複数基立地が多いので、雇用効果はこれより大きい。
さらに雇用効果は通勤が可能な周辺自治体の住民にも及んでいる。

大学にいた時は、茨城県東海村の研究炉施設に長年勤務していた。職員には、水戸市、
ひたちなか市、常陸大宮市、友部市など、東海村から30㎞圏にある周辺自治体から通勤
される方々が多かった。その中でも兼業農家の方が多かった。雇用効果が周辺自治体に
及ぶことは実感している。このことは日本の全ての原子力発電所にも当てはまるのでは
ないか。原子力発電所の再稼働に対しては、地元自治体のみならず、周辺自治体の理解を
お願いしたい。

エネルギー資源のない日本では、原子力発電は安価で安定な電力供給に貢献できる。
原子力発電は、発電にともない炭酸ガスを放出しないので、地球温暖化防止に貢献する。
英国には再生可能エネルギーとともに、原子力の新規建設を支援する枠組みが工夫
されている。

参考
1.苅谷剛彦:「政府主導の大学改革迷走:根深い演繹型思考背景」
  日経朝刊2019年4月1日 
2.佐藤郁也編著「50年目の大学解体、20年後の大学再生」刈谷剛彦第1章
  終わりに、批判的思考力と帰納型の思考
3.Le rapport d’evaluation No. 14, Juin 2020
  https://www.cne2.fr/telechargements/RAPPORT_CNE2_14_2020.pdf
4.Public dialogue on geological disposal and working with communities: report by 3KQ, March 2016
5.Evaluation of public dialogue on geological disposal and working with communities: report by URSUS Consulting, April 2016
6.Literature review on geological disposal and working with communities: report by Equitis, April 2016
7.令和元年度版 原子力白書 令和2年8月 原子力委員会 	182頁
8.Nuclear by the numbers, Nuclear Energy Institute, April 2020
9.原子力利用に関する基本的考え方、参考資料pp.27,31,32など、原子力委員会 平成29年7月20日
10.Average Power Plant Operating expenses for Major Investor Owned Electric Utilities, 2008 through 2018, 
  https://www.eia.gov/electricity/annual/html/epa_08_04.html
11.OECD/NEA,IAEA “Measuring Employment Generated by the Nuclear Power Sector” 2018


━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・

●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は霞ヶ関周辺で開催しており、
どなたでも傍聴できます。開催案内や配布資料は、
すべて原子力委員会ウェブサイト(以下URL)で御覧いただけます。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●9月8日(火)の会議の議題は以下の通りです。

【議題1】2019年の米国原子力発電の状況に係るヒアリング(JEPIC)

<主なやりとり等>
2019年の米国原子力発電の状況について、JEPICからご説明いただき、その後、
委員との間で質疑を行った。

●9月15日(火)の会議の議題は以下の通りです。

【議題1】リサイクル燃料貯蔵株式会社リサイクル燃料備蓄センターにおける
使用済燃料貯蔵事業の変更許可ついて(諮問)(原子力規制庁)

<主なやりとり等>
リサイクル燃料貯蔵株式会社リサイクル燃料備蓄センターにおける使用済燃料貯蔵事業の
変更許可ついて原子力規制庁よりご説明いただき、その後、委員との間で質疑を行った。

【議題2】第64回IAEA総会の開催方針及び放射線治療に関するサイドイベント開催について

<主なやりとり等>
第64回IAEA総会の開催方針及び放射線治療に関するサイドイベント開催について
事務局より説明を行い、その後、委員との間で質疑を行った。

●次回の委員会開催については、以下の開催案内から御確認ください。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

━・・・━━ 原子力関係行政情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・

原子力関係の他の行政における委員会等のリンク情報は以下のとおりです。

※URLが改行されてリンクが認識されない場合
URLはクリックせず、文字列全体をURL欄に Copy & Paste してください。

■首相官邸
┗原子力防災会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/)
┗原子力災害対策本部会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/)
┗原子力立地会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/index/gensiryoku/)

■内閣官房
┗原子力関係閣僚会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/)
┗最終処分関係閣僚会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisyu_syobun_kaigi/)
┗原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_songaibaisho/index.html)
┗「もんじゅ」廃止措置推進チーム
(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/monju/index.html)


■経済産業省
┣高速炉開発会議
(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html)
┣エネルギー情勢懇談会
┣高速炉開発会議戦略ワーキンググループ
(http://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/kosokuro_kaihatsu/kosokuro_kaihatsu_wg/index.html)

■資源エネルギー庁
┣総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会
(http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html)
┗原子力小委員会
(http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/index.html)
┣自主的安全性向上・技術・人材WG
┣放射性廃棄物WG
┣地層処分技術WG
┗原子力事業環境整備検討専門WG
┗電力基本政策小委員会
┣総合資源エネルギー調査会基本政策分科会
(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/)
┣長期エネルギー需給見通し小委員会
┣発電コスト検証WG
┗電力需給検証小委員会
(http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/18.html#denryoku_jukyu)
┗電力システム改革貫徹のための政策小委員会
(http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system_kaikaku/001_haifu.html)
┗エネルギー情勢懇談会
(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/#ene_situation)
┗使用済燃料対策推進会議
(http://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shiyozumi_nenryo/index.html)

■原子力規制委員会
(https://www.nsr.go.jp/)
┗原子力規制委員会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/index.html)
┣原子炉安全専門審査会・核燃料安全専門審査会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/roanshin_kakunen/index.html)
┣放射線審議会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/houshasen/index.html)
┣国立研究開発法人審議会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/nrda/index.html)
┣量子科学技術研究開発機構部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/nirs/index.html)
┣日本原子力研究開発機構部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/jaea/index.html)
┣原子力規制委員会政策評価懇談会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/seihyou_kondan/index.html)
┗原子力規制委員会行政事業レビューに係る外部有識者会合・公開プロセス
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/gyousei_gaibu/index.html)
┗原子炉安全専門審査会 原子炉火山部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/roanshin_kazan/00000002.html)

■文部科学省
┗原子力科学技術委員会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/055/index.htm)
┣原子力人材育成作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/079/index.htm)
┣原子力研究開発・基盤・人材作業部会
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/099/index.htm)
┣核融合研究作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/056/index.htm)
┣核不拡散・核セキュリティ作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/076/index.htm)
┣原子力バックエンド作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/099/index.htm)
┗核融合科学技術委員会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/074/index.htm)
┗原型炉開発総合戦略タスクフォース
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/078/index.htm)
┗調査研究協力者会議等(研究開発)
┗「もんじゅ」廃止措置評価専門家会合
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/022/index.htm)

■復興庁
┣福島12市町村の将来像に関する有識者検討会
(http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/20141226184251.html)
┗原子力災害からの福島復興再生協議会
(http://www.reconstruction.go.jp/topics/000818.html)

■環境省
┗東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関す る専門家会議
(https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01.html)

■厚生労働省
┗薬事・食品衛生審議会(食品衛生分科会放射性物質対策部会)
(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji.html?tid=127896)


●次号配信は、2020年10月9日(金)午後の予定です。
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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
原子力委員会:岡 芳明委員長、佐野 利男委員、中西 友子委員
○メルマガへの御意見・御感想はこちらへ(お寄せいただいた御意見に対しては、原則として
 回答致しませんが、今後の原子力委員会の業務の参考とさせていただきます。)
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