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第176号 再生可能エネルギーの利用と原子力

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    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2015年6月12日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 再生可能エネルギーの利用と原子力
┣ 会議情報 
┃  (6月3日)
┃   ・原子力利用の「基本的考え方」について(一般財団法人電力中央研
┃    究所原子力リスク研究センター所長 アポストラキス氏)
┃   ・四国電力株式会社伊方発電所の発電用原子炉の設置変更許可(3号
┃    原子炉施設の変更)について(諮問)(原子力規制委員会原子力規
┃    制庁)
┃   ・長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に
┃    関する報告について(経済産業省資源エネルギー庁)
┃  (6月4日)
┃   ・原子力利用の「基本的考え方」について(一般財団法人電力中央研
┃    究所原子力リスク研究センター顧問 メザーブ氏)
┃   ・岡原子力委員会委員長の海外出張について
┣ 事務局だより 着任の挨拶
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

再生可能エネルギーの利用と原子力

                               岡 芳明

 再生可能エネルギー利用の拡大は、国民の希望である。その政策課題は「国
民負担を押えつつ、いかに多くの再生可能エネルギーを導入できるか」である
はずである。しかし、すでに計画されている固定価格買取り(FIT)だけで、F
ITの賦課金の累積額が50兆円から85兆円と、とんでもなく膨大なものにな
ることを最近まで知らなかった。多数の国民も知らないのではないか。

 この賦課金は、電気料金に上のせされて徴収される。国民の負担は、すでに
始まっている。10年間は同じ額で買取る制度なので、既に国が認めたものの
運転開始に伴って、電気料金上のせ分が増加し、2020年には今年の2.5
倍になる。新規買取りは、まだ停止されていない。すぐそれを停止しても運転
開始した設備の稼働期間(20年間)が終了するまで、国民の負担額は減り始
めない。もし、新規買取りを20年間続けると、2032年には2015年の
4倍になる。若い世代に大変な負担を残したことになる。

 大規模な需要家はFIT賦課金の8割を減免される制度なので、家庭用電気料
金が適用される小規模な事業者や家庭がまともに負担することになる。すでに
ビルの一角を借りている個人事業者から毎月の電気代が3万円台から5万円台
になったとの声も聞いた。これは原子力発電所を停止して新規制基準適合審査
を行っているために化石燃料購入で電気料金が上昇したこと、FITの賦課金が
2012年から始まり、その負担額が年々増えていることがその主な理由であ
る。

 FITの制度は導入促進にはよいのだが、問題は、再生可能エネルギー毎の導
入量に上限が設けられなかったために、コストは高いが導入の容易な太陽光発
電に片寄ったこと、買取り価格が高すぎたこと、太陽光のうち非住宅用太陽光
が87%を占めてしまったことなどである。結果として1番の問題は、一般市
民や零細な事業者を電気料金の値上がりが直撃する。言いかえれば、目端が利
いて非住宅太陽光に参入した企業が、多くの一般消費者が負担する賦課金を受
け取る構造となっている。

 FIT買取りは法律で定められており、買取りを停止する法律改正を今すぐ
行っても、既買取決定分は法的に拘束されるので、それは法律改正によっても
さかのぼって適用できない。賦課金額は運転開始プラントが増えるので毎年増
加する。

 法律を見直すとともに、できる範囲で対策をする必要がある。「国民負担を
押えつつ、再生可能エネルギーをいかに導入するか」に知恵を絞る必要がある。
しかし、賦課金の見積額はあまりに巨額である。

 再生可能エネルギーの導入には、もう1つ重要な課題、コスト上昇要因があ
る。それは、自然エネルギーは自然まかせなので、需要に合わせて発電するこ
とができない。この特性に対策が取れないと停電する。系統安定化費用と呼ば
れる。対策にはもちろんコストがかかる。自然エネルギーの発電の不足分を火
力発電で発電したり、それが地域的に遍在している場合は、送電線を作ったり
することが必要である。これによってさらに国民負担が増えることになる。賦
課金とこの対策費用で、家庭の電気代が2倍になる可能性もある。

 ドイツやイタリアでは電気料金が高騰した。化石燃料資源がなく、原子力発
電もチェルノブイリ事故の時に廃止してしまったイタリアでは、特に高い。そ
れぞれ何倍になっているかはネットで調べればわかる。

 太陽光発電(PV)の固定価格での買取りは、欧州でPVバブルを生んだ。すで
に買取りを停止した国もあるが、電気料金は高止まりしている。日本はその教
訓を生かせていない。再生可能エネルギーの固定価格買取りは、国会で審議さ
れ2012年7月に法律として施行されている。東電福島事故の直後の時期
だったので、冷静で多角的な検討や、国民への情報開示や説明は十分になされ
たのであろうか。

 日本の国民は、再生エネルギーに期待しているが、電気料金が高騰してもよ
いとは考えていない。20%以上高騰するなら原子力発電を廃止しない方が良
いとする国民が大部分であるとの世論調査結果もある。

 エネルギーは現代生活に必須であるので、エネルギー問題は甘くない。エネ
ルギー価格の高騰により、顧客が離れ、産業やサービス業が衰退し、失業者が
増えれば、犯罪も増えるので、恐ろしいといってもよい。今後の教訓としてま
ず生かすべきは、国民負担の視点で、欧米の先行例や教訓、検討結果を調べ、
買取りにかかわる様々なケースの検討を行い、それを国民に周知することであ
る。

 再生可能エネルギーか原子力かの二者択一的な思考プロセスが、問題を見失
う原因だったと認識する必要もある。再生可能エネルギーの産業振興に目をう
ばわれて国民負担の視点が弱かったのではないかとの反省も必要ではないか。
高すぎる買取価格は国際的に競争力がありグローバルに貢献できる可能性を持
つ再生可能エネルギー産業の体系を育成する観点からもマイナスである。

 今回のエネルギーミックスや発電コストの検討結果は、担当省庁のHPにあり、
民間の研究所はFITの賦課金の見直しについての論文を公表している。

 FIT賦課金の将来にわたる国民負担は大変巨額であるが、似た誤りを今後生
じないための教訓としては、次が挙げられる。

1.国民負担の視点で政策を検討する
 今回行われたのは、それぞれの電源を新規に作る場合の発電コストである。
実際は、既に建設されている発電プラントと、今後建設される電源で電気が作
られる。実際の国民負担の予測を示すには、こうした検討とその公表が必要で
ある。これを正確に計算するのは複雑だが、今回の発電コストの計算方法でも、
入力値を変えればおおよその傾向は把握できるはずである。

2.根拠のある検討・研究結果をもとに、政策を検討する。
 委員に意見を求めるだけでなく、その意見の根拠となる報告書や研究結果を
それらの短い解説とともに示してもらって、それを開示する。これによって、
海外の教訓となる事例を参考にすることや、国民負担の点での定量的な検討結
果を政策立案の参考にできるので、より良い政策を作れるであろう。国民の理
解も進む。

3.国の制度の設計が補助金より重要
 日本では、特に高齢世代を中心に賛成派も反対派も国にたよる意識が強く、
国の補助や支援に過大な期待をしがちである。しかし、税金の所得に対する割
合を考えれば、国ができることは限られる。民間活動がうまく機能することが、
本質的に必要である。国の制度の設計が、補助金よりはるかに重要である。
 FITの賦課金は、制度設計がまずいために、国民に多大な負担を生じてしま
う。国会で法案が修正されてそうなったとの事であるが、国民負担の視点での
検討がなされ、その情報が充分届いていたかは反省点ではないか。

4.世論調査の設問を国民負担の視点で工夫する
 単なる賛成か反対かではなく、電気料金が何%上昇しても賛成するか、を問
う等の国民意識を細かく理解する調査や工夫が必要である。
 業界団体や反対派の声は政府に届きやすいが、一般国民の声は届きにくい。
世論調査の設問を工夫することで、国民の意識の内容をより詳しく理解できる
のではないか。国民負担が増えてもかまわないと考える国民は多くはないだろ
う。

 教訓を生かすことが必要だが、この大きい“つけ”をどうするか、の問題は
残る。申し込まれた発電事業が必ずしもすべて建設されるわけではないようで
あるが、国民負担があまりに大きくなる可能性があり、何とかしなくてはいけ
ないのではないか。大学教員だったので、問題が見つかると何とか解はないか、
と考える習慣がついている。以下は、全くの思いつきである。

 既に約束した買取りをとり消すことは法律上できない。しかし、社会の常識
に訴えることはできるはずである。「非住宅太陽光買取り」を申込んだのは、
再生可能エネルギーの利用を事業として推進したいと考えた進取の気性の企業
家が多いはずである。「生活弱者がやっと支払った電気料金で利益を得ている」
と言われるのは、心外であろう。「融資した銀行も同罪である」と言われては、
企業イメージに傷がつく。どんな企業が参入しているかは、国の制度であるの
で公開である。日本の固定価格は、欧米に比べても高すぎた。企業努力によっ
て、発電コストを削減し、それを固定価格より安い適切な価格で売ることはで
きるはずである。たとえばそうした企業を表彰してはどうか。

 検討から国際的な視点が抜けがちなのはいつもの教訓だが、このアイデアで
もそうである。昨年東北地方に行った時に、休止したスキー場で欧州の企業が
太陽光発電を始めると聞いた。欧州の企業に日本向けの「社会の常識」は通用
するのであろうか。

 エネルギー問題は、国際的視点で歴史の教訓も踏まえて考えなくてはいけな
い。好ききらいで考えると失敗する。その結果は、若い世代や日本の将来を直
撃する。

 原子力との関連であるが、発電コスト上昇を押え、エネルギー自給率向上と
温暖化防止を同時にすすめるためには、再生可能エネルギーと原子力の割合を、
ともに増加する必要がある。原子力の割合が多いほどコストは下がる。両者を
対立的に考えるのは、ドラマとしては面白いかもしれないが誤りである。理由
は、再生可能エネルギーはまだコストが高い、技術革新も進むはずなので20
年後には建て替えも必要になるであろう。原子力発電は、建設費が高く燃料費
が少ないので、長期間利用するほど発電コストが安くなる。建設費を除いた米
国の原子力発電コストは約2セント/kWh強であり、7割以上の発電所は40年
を越えて20年間のライセンス更新認可を得ており、うち34基は実際に延長期
間に入っている。審査中も含めると99基のうち92基が40年超えの運転を志向
している。さらに60年を超える運転も視野に入りつつある。火力発電所や原
子力発電所は一般的に長寿命で、米国の石炭火力発電所で1950年代に運転開始
し現在も稼働しているものは400基以上あり、一番古いものは1920年代に
運転開始している。日本にある原子力発電所も、原子力規制委員会の40年運
転制限の規制に適合すれば、長く運転でき発電コストは下がり、電気料金を下
げる方向に寄与できる。しかし再生可能エネルギーの賦課金はあまりに巨額で
あり、現在の日本の原子力発電所の稼働だけでは、電気料金の上昇を防ぐこと
はできない。なお日本の電気料金は現状でも先進国の中でも高い。原子力発電
を廃止すると発電コストは上昇し、エネルギー自給率向上と温暖化防止もむず
かしくなる。その例は、イタリアである。再生可能エネルギーと原子力を共に
進めようとしているのは英国である。
 再生可能エネルギーの利用は「国民負担を押えつつ、いかに多くの再生可能
エネルギーを導入できるか」が政策課題であることを念頭に、新しい制度を導
入する時は、欧米の先行例や検討結果も参考に、多面的によく考慮して進める
必要がある。

●次号は阿部委員からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は霞ヶ関周辺で開
催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内や配布資料は、すべて原子力
委員会ウェブサイト(以下URL)で御覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●6月3日(水)の会議の概要は以下のとおりです。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】原子力利用の「基本的考え方」について(一般財団法人電力中央研
究所 原子力リスク研究センター所長 アポストラキス氏)
<主なやりとり等>
 原子力委員会で議論を進めている原子力利用の「基本的考え方」の策定に向
けて、一般財団法人電力中央研究所 原子力リスク研究センター所長 アポスト
ラキス氏より御意見を聴取しました。アポストラキス氏からは、規制には最新
の知見を反映させる必要があるが、規制を安定して運用することも必要である
こと、バックフィットの実施にあたっては、費用対効果の説明が必要であるこ
と等の説明がありました。
 委員からは、交通などの便益を実感できるものによるリスクと、放射線など
の便益を実感しにくいものによるリスクの許容度の違い等について質問があり
ました。

【議題2】四国電力株式会社伊方発電所の発電用原子炉の設置変更許可(3号
原子炉施設の変更)について(諮問)(原子力規制委員会原子力規制庁)
<主なやりとり等>
 平成27年5月20日付けで原子力規制委員会から諮問のあった、四国電力
株式会社伊方発電所の発電用原子炉の設置変更許可(3号原子炉施設の変更)
について、原子力規制庁より変更内容等の説明がありました。原子力委員会は、
本諮問内容の検討を行い、後日答申を行うこととしました。

【議題3】長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に
関する報告について(経済産業省資源エネルギー庁)
<主なやりとり等>
 経済産業省資源エネルギー庁より、長期エネルギー需給見通し小委員会に対
する発電コスト等の検証に関する報告について説明がありました。
 委員からは、電源種別のコスト計算に際しての前提をどのように置いたか、
太陽光発電や風力発電等の今後のコスト低下をどのように考えたか等の質問が
ありました。

●6月4日(木)の会議の概要は以下のとおりです。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】原子力利用の「基本的考え方」について(一般財団法人電力中央研
究所 原子力リスク研究センター顧問 メザーブ氏)
<主なやりとり等>
 原子力委員会で議論を進めている原子力利用の「基本的考え方」の策定に向
けて、一般財団法人電力中央研究所 原子力リスク研究センター顧問 メザーブ
氏より御意見を聴取しました。メザーブ氏からは、経済的・社会的影響を考慮
してエネルギー政策を作るべきであること、安全文化の確立が重要であること、
緊急時の計画を事前に作成しておく必要があること等の説明がありました。
 委員からは、保険料により事業者に安全確保のインセンティブを持たせる仕
組み等について質問がありました。

【議題2】岡原子力委員会委員長の海外出張について
<主なやりとり等>
 岡原子力委員会委員長は、平成27年6月7日(日)から10日(水)にか
けて米国・サンフランシスコを訪問し、カリフォルニア大学バークレー校で開
催される「環太平洋フォーラム」にて講演した後、ローレンス・リバモア国
立研究所を訪問し、国立点火施設の視察及び有識者との会談を行う予定です。

●次回の委員会開催については、以下の開催案内から御確認ください。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

━・・・━ 事務局だより ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━

着任の挨拶

 本年4月1日に原子力政策担当室に着任しました大島俊之と申します。原子
力損害賠償制度の見直しを担当しております。まず、担当している原子力損害
賠償制度の見直しについては、5月13日に専門部会の設置が決定され、5月
21日に第1回会合が開催されました。この専門部会では、今後万が一発生し
た場合の原子力事故に適切に備えるための原子力損害賠償制度の在り方につい
て、専門的かつ総合的な観点から検討を行って頂くこととなっており、しっか
りとした検討が行えるよう事務局の一員として準備を行っていく所存です。
 ところで、原子力を利用して色々な研究が行われていますが、今回、加速器
を利用した研究を紹介させていただきます。それは、理化学研究所の仁科加速
器研究センターの生物照射です。その成果の一部が理研の一般公開などでも紹
介されていますが、身近なものとして、アサガオの種に炭素イオンビームを当
て、「世界で一つだけの花」を咲かせるプロジェクトが行われています。ご興
味のある方は、今年の和光での一般公開は終わってしまいましたが、是非、参
加してみてください。

(大島)

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●次号配信は、平成27年6月26日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
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○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/melmaga/index.htm
○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
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