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委員会の決定等

平成5年版原子力白書

平成5年11月
原子力委員会



第1章 核燃料リサイクルに関する内外の情勢と原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組

 原子炉を運転すれば、その燃料の中にはプルトニウムが必ず生成されており、軽水炉による発電においても、発生する電力の約3分の1はプルトニウムの核分裂によってもたらされている。また、原子力発電所から取り出される使用済燃料にはプルトニウム等再び燃料として利用できる物質が多く残されているため、我が国は原子力開発利用に着手して以来一貫して、使用済燃料を再処理し核燃料物質を回収し再利用する「核燃料リサイクル」を基本方針としてきた。
 我が国においては、青森県六ケ所村の再処理工場が着工し、高速増殖原型炉「もんじゅ」が運転開始に向けた最終段階に入るなど核燃料リサイクルは着実に進展している。
 一方、国際的には、米国、旧ソ連を中心に大規模な核軍縮が具体化しつつあるが、これに伴って解体された核兵器から回収されるプルトニウム等の処理や関連技術の管理、一部の国の核兵器開発疑惑などの問題から、核不拡散体制の強化が国際的課題となっており、このような状況下で核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の延長についての内外の議論が高まってきている。我が国が核燃料リサイクルにおいて利用するプルトニウムは、兵器用プルトニウムに比べプルトニウム239の濃度が低いものであるにもかかわらず、軍事的に機微な物質とみなされているため、これらの情勢は我が国と国際社会との調和や我が国のいっそう慎重な取組を要求するものになってきている。
 このような国際情勢や、欧米において国によっては高速増殖炉開発状況が停滞している傾向が、「あかつき丸」によるプルトニウム輸送ともあいまって我が国の原子力政策に広く内外の関心を集める契機になっている。このような状況を認識しつつ、原子力委員会は、1992年9月より、「原子力開発利用長期計画」の改定作業に各界の意見に耳を傾けつつ取り組んでいるところである。本章ではこのような核燃料リサイクルをめぐる内外情勢とそれらに対する原子力委員会の立場や取組を示した。

1.核兵器の不拡散と核燃料リサイクルに関する国際情勢

 核燃料リサイクルの推進は原子力開発利用の国際的動向のみならず核軍縮など核不拡散に関連した国際的動向に強く影響されることが少なくない。近年の国際情勢は冷戦構造の崩壊など大きく変動しており、核不拡散を図る上での普遍的国際枠組みであるNPTの延長問題に対しても内外の議論が高まるとともに、我が国の対応が注目を集めている。また、核燃料リサイクルの推進に関する各国の動向も的確に認識しておく必要がある。

(1)核兵器の不拡散をめぐる国際情勢

①核兵器の削減の動きと核兵器の拡散に対する新たな懸念
(核軍縮の具体化)
 東西冷戦の終了後、米国及び旧ソ連において大規模な核軍縮の動きが進展しつつある。さらに、先般、ジュネーブ軍縮会議において、明年早々にも包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する交渉を行うことが決定されたが、核不拡散体制の維持・強化の観点や原子力開発利用が円滑に促進される上でも極めて望ましいことと考えられる。また、核弾頭の解体によって取り出された核物質の貯蔵・処理・処分あるいは更に進んでエネルギー資源としての活用等に当たっては我が国としてもこれまで原子力の平和利用で培った技術、経験を活かして積極的に協力していくことが核軍縮と核兵器の拡散防止に貢献する上で重要な意義を持つものと考えられる。
 他方、政情が不安定な地域紛争の当事国には核兵器開発の疑念も生じている。

 (北朝鮮のNPT脱退宣言間題)
 北朝鮮は、1993年3月、国際原子力機関(IAEA)が特別査察の受入れを求めたことに対し、公平性を欠いている等として、NPTからの脱退を決定した。同国は、脱退が発効する直前の1993年6月に脱退を中断したが、脱退の完全な撤回と特別査察受入れには至っていない。
 この問題については、北朝鮮がNPT脱退の速やかな撤回を行うこと等により、核兵器開発の疑念を払拭することが強く望まれる。

(イラクの核兵器開発疑惑問題)
 イラクは従前よりIAEAの保障措置を受け入れていたが、秘密裏にプルトニウムの分離等に関する研究を行っていたことが判明した。これらの施設は、国際連合の管理下で破壊されたが、イラクはその後の国連査察の受入れに非協力的態度をとり続けている。

(南アフリカ共和国の核兵器保有問題)
 南アフリカ共和国は、非核兵器国としてNPTを締結しているが、締結前の1989年末までに核爆弾を製造していたことを1993年3月に明らかにした。同国がこの事実を公表したことは評価されるものの、このような事実そのものは遺憾なことであり、NPT非加盟国の締結促進努力が重要であることを改めて示すものと考えられる。

(ウクライナの戦略核兵器保有問題)
 また、1991年12月のソ連崩壊に伴い、ロシア以外にウクライナ等の3つの旧ソ連共和国にも戦略核兵器が存在することになった。これら3国はSTARTIを批准し戦略核兵器をロシアに移転した上で非核兵器国としてNPTを締結することとなっているが、ウクライナは難色を示している。この問題は米露間の核軍縮の実現に密接に関係するので、早期に解決することが期待される。
 これらの事例は、核不拡散と究極的な核兵器の廃絶への重大な懸念であるばかりでなく、原子力平和利用に抑制的な影響を与えかねないものであり、原子力委員会としても極めて憂慮に堪えないものと言わざるを得ない。

②核不拡散に向けた国際的努力と核不拡散体制の維持・強化に向けての課題
 大規模な核軍縮の具体化は核兵器の解体あるいはその後の核物質の管理等種々の実施上の課題を含んでいるが、核兵器の削減に当たっての核弾頭の解体等は第一義的にはその当事国の責任の下に行うものである。解体等によって取り出される核物質の取扱いについては、まだ、具体的なことは決められていない。また、旧ソ連における核兵器に関連する技術、人材の紛争地域への拡散防止という観点からの対策が重要になってきている。加えて、政情が不安定な地域紛争の当時国において核兵器開発の疑念が生じている事例にかんがみ、核不拡散体制への信頼性を損なわせないように体制を一層強化・充実することが国際的課題となっている。

(旧ソ連の核兵器廃棄への国際協力)
 1993年4月のG7の対露支援閣僚合同会議の議長声明において示された旧ソ連の核兵器解体とその結果発生する核物質の処分と管理に対する支援の重要性は全世界の安全保障に関わる間題であるとの認識に基づき、我が国は核物質の貯蔵、処理等について約1億ドルの無償支援を行うこととしている。このような協力についても、平和目的に限り原子力開発利用を推進するという基本原則に則って遂行されることは言うまでもない。原子力委員会はこうした趣旨を確認するため、1993年5月14日「核兵器の廃棄に係る協力に当たって」と題する委員長談話を発表し、その立場を明らかにした。
 また、旧ソ連の大量破壊兵器に関係する科学者・技術者に民生目的の研究開発の機会を提供する「国際科学技術センター」構想に対しても、我が国は、2,000万ドルの支援等を行うこととしている。

(IAEA保障措置の整備・強化)
 IAEAにおいては、未申告原子力活動の探査能力の向上を目的とした保障措置の整備・強化に関する検討が行われているほか、保障措置の整備・強化の観点からの保障措置そのものの合理化についても検討が行われている。我が国は、「対IAEA保障措置技術開発支援計画(JASPAS)」を行うなど、積極的にIAEA保障措置の維持・強化に貢献している。

(米国の核不拡散政策の公表)
 1993年9月に発表された米国の不拡散政策及び輸出管理政策には、核爆発目的の又は国際的保障措置の枠外の高濃縮ウラン及びプルトニウムの生産を禁止する多国間条約を提案するなどの措置が含まれており、これらは核不拡散体制の強化、核軍縮の一層の促進の観点から評価すべきものである。

(NPTの延長)
 NPTは、1970年の発効以来、新たな核兵器保有国の出現を防止する上で極めて重要な役割を果たし、また近年、締約国が着実に増加しているなど、核不拡散体制の中心的柱としての意義を増している。
 1995年には、NPTが無期限に延長とするか一定期間の延長とするかを決定するための会議が開催されることとなっており、1992年のミュンヘン・サミット及び1993年の東京サミットの政治宣言においては、NPTの無期限延長が支持されている。原子力委員会としては、原子力平和利用推進の観点からNPTの延長問題の帰趨について強い関心を有しており、これらの動向を注視してきたところである。我が国政府は、「NPT無期限延長を支持していく」旨、1993年8月の第127回国会における内閣総理大臣の所信表明演説において表明した。原子力委員会は、この機会をとらえ、このNPTの無期限延長を支持するとの方針が妥当であり、さらに、1995年のNPTの延長を検討する会議に向けて、

 i)NPTが締約国に対し、原子力平和利用による利益の享受を最大限保障するものであることが再確認されるべきである。
 ii)すべての核兵器国が核軍縮努力の責務をより一層重いものとして受け止め、具体的かつ早期に核兵器削減を実行することを強く望む。
 との点を主張していくことにより、NPTの普遍性をより高めることが重要である旨の委員長談話を発表し、この問題に対する立場を明らかにした。さらに、1993年9月にウィーンで開催された第37回IAEA通常総会における政府代表演説で江田科学技術庁長官(原子力委員会委員長)はこの主旨に言及し、世界の原子力関係者に我が国の立場を示した。
 1995年のNPT延長会議までの期間、この会議の成功に向けて、原子力委員会としても引き続き、この委員長談話に示された立場に立って、積極的に対処していく所存である。

(2)核燃料リサイクル政策をめぐる世界の動向
 核燃料リサイクルの選択はそれぞれの国ごとの事情によってなされるものであるが、核不拡散の動向やエネルギー資源の条件によるところが大きく、また、経済性の比較、環境への負荷度も重要な要素であると考えられる。
 米国では、1993年1月に民主党のクリントン大統領が就任し、同年4月に発表されたエネルギー省1994年予算政府原案においては、財政問題等との関連もあり、新型炉関係研究開発予算がアクチニド・リサイクル計画、施設閉鎖費を除いてすべて削減されるなど、原子力予算は削減された。下院本会議においては、アクチニド・リサイクル計画を廃止する修正案が可決され、その後上院での審議が行われ、高速炉等の新型炉関係研究開発予算が復活し、下院とは逆の決定となった。今後、両院協議会で調整される。
 また、1993年9月に発表された米国の不拡散政策及び輸出管理政策においては、「米国は西欧と日本の民生用原子力計画におけるプルトニウムの利用に関し、従来からのコミットメントを維持する。」と述べられており、我が国のプルトニウム平和利用に対する理解が示された。
 欧州諸国については、フランス、英国は自国内に再処理工場を操業中及び建設中であり、自国内で発生した使用済燃料のみならず外国からの委託再処理を行っている。英国政府は、THORPの運転開始を判断するための第2回公開審議を1993年10月に終了した。また、同年9月からTHORPにおける天然ウランを用いた試験が開始された。
 また、高速増殖炉について、運転停止状態にあるフランスの実証炉スーパーフェニックスは、原子力施設安全局による安全性に関する検討を考慮した上で運転再開を支持する判断を出すことを条件に、運転再開を支持する報告が1993年9月になされたところである。英国、ドイツなど高速増殖炉開発計画を中止又は縮減する例も見受けられるが、これらの国々においては、既に高速増殖炉技術の開発成果を蓄積しており、短期的なエネルギー事情、財政事情等から高速増殖炉への更なる開発投資を控えているものである。
 プルトニウムの軽水炉による利用については、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の使用により、欧米で実績が積み重ねられている。
 また、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は、核燃料リサイクルの経済性について評価を行っており、1985年に公表したデータによると、再処理を行った場合がウラン燃料を1回で使い捨てる場合(ワンス・スルー)に比べて核燃料サイクルコストは約10%高く、発電コストでは約2%高いとの結果になっている。現在行われている最新のデータに基づく評価でもほぼ同様の結果である。

2.核燃料リサイクルヘの我が国の取組と核燃料リサイクルの必要性

 1.に述べたように、核不拡散の観点からのプルトニウム利用をめぐる国際情勢は厳しく、また、国によっては核燃料リサイクルに係る活動が停滞する傾向も生じている。しかしながら長期的観点に立てば、核燃料リサイクルはウラン資源の寿命を大きく延ばすことなどから、原子力開発利用を進める上で、人類にとって必要不可欠なものであり、このような視点に立って、核燃料リサイクルの確立に向けて技術開発を進めることは、将来を展望した国際貢献として、エネルギーの無資源国・多消費国であり原子力分野の技術先進国たる我が国の国際責務と認識することができる。
 我が国においては、核燃料リサイクルは、着実な進展を見るに至っており、今後の更なる進展を図っていくに当たっては、我が国を取り巻く国際情勢に適切に対処していくとともに、内外の理解を得ながら核燃料リサイクルを推進していくことが肝要である。

(1)我が国における核燃料リサイクル関連計画等の進捗状況
①使用済燃料の再処理
 日本原燃(株)は、フランス等からの技術導入とともに、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場の運転により培われてきた技術蓄積を活かし、青森県六ケ所村において年間800トンの処理能力を持つ再処理工場の計画を進めてきており、1993年4月に工場の建設に着工した。本工場は2000年に操業開始予定であり、我が国のプルトニウム平和利用において、プルトニウム供給面で中心的役割りを果たすことが期待されている。
 一方、この再処理工場が運転するまでの間、我が国で使用するプルトニウムは、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場における再処理から得られるもの及び電気事業者がフランス、英国の再処理事業者へ委託している再処理により得られるものを用いることになる。なお、海外再処理委託については、フランス及び英国と併せて5,600トンの軽水炉燃料及び1,500トンのガス炉燃料の再処理を契約している。

図1 日本原燃(株)再処理工場敷地
図1 日本原燃(株)再処理工場敷地

②プルトニウム輸送
 1992年11月から1993年1月にかけて、プルトニウム輸送船「あかつき丸」によりフランスから我が国へのプルトニウムの海上輸送が行われた。
 この輸送は1988年に新しい日米原子力協力協定が締結されて以来最初のものであったが、同協定に基づく実施取極で合意されている回収プルトニウムの国際輸送のための指針に示された措置が的確に実施されて輸送は無事終了し、この協定の新しい基本的枠組みである「包括同意方式」が円滑に機能することが示された。ここで輸送されたプルトニウムは我が国の原子力発電所で発生した使用済燃料を前述のフランスヘの委託再処理によって再処理することにより得られたものである。

図2 プルトニウム輸送船「あかつき丸」
図2 プルトニウム輸送船「あかつき丸」

③高速増殖炉の開発
 動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖原型炉「もんじゅ」の建設は、1994年の臨界を目指し、着実に進められている。「もんじゅ」は我が国で最初の高速増殖炉の発電炉(28万キロワット)であり、運転が開始されれば長期的な高速増殖炉開発のための種々の研究開発を行う施設となるため、国際的にもその役割が期待されている。
 高速増殖炉の実証炉計画の進め方については、実証炉の設計・建設・運転は電気事業者が動力炉・核燃料開発事業団との密接な連携の下に、主体的役割を果たすこととし、関連する研究開発については、電気事業者、動力炉・核燃料開発事業団等がそれぞれの役割に即し、整合性をもって進めることとされている。なお、今後の実証炉計画等高速増殖炉の実用化に向けての進め方については、原子力委員会の高速増殖炉開発計画専門部会等の場においても検討しているが、原子力開発利用長期計画の改定作業においても重要な課題の一つとして審議している。

図3 高速増殖原型炉「もんじゅ」
図3 高速増殖原型炉「もんじゅ」

④高レベル放射性廃棄物対策の推進
 再処理工場において使用済燃料からプルトニウム等を分離する際に生じる高レベル放射性廃棄物については、ステンレス製の容器に安定なガラス状態にガラス固化し、30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後、地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。現在、研究開発については、動力炉・核燃料開発事業団を中心に取り組んでいるところであり、処分については、1993年5月に高レベル事業推進準備会が発足した。

(2)核燃料リサイクルの必要性と核燃料リサイクルの推進条件
①核燃料リサイクルの必要性
 核燃料リサイクルは使用済燃料を再処理し、ウラン、プルトニウム等を回収して、核燃料として再利用することであり、リサイクルしなければそのすべてが廃棄物となってしまうものの中から有用なものをエネルギー資源として再利用していくという点に資源論的観点からの意義があるものである。リサイクルによりウランの寿命は千年オーダーに延びることになることから、これにより原子力のエネルギー源としての長期的供給安定性が飛躍的に高まることとなる。
 また、核燃料リサイクルによって、有用な資源と放射性廃棄物を分別、回収し、しかも放射性廃棄物の中で放射能レベルの高いものは量が少なく、安定な形態に固化しやすくなり、放射性廃棄物の管理をより適切なものとすることができる。
 そもそも原子力は高度な技術により少量の資源から大量のエネルギーを生み出すものであるが、核燃料リサイクルはこの原子力の特長を最大限に活かすものと言える。このことは、核燃料リサイクルによるエネルギーの供給安定性と経済性は、主に技術の成熟度によって決定されることを示しており、その意味では、原子力、特に核燃料リサイクルは科学技術の活用による技術エネルギーとも言うべきものである。エネルギー多消費国であり、かつ、科学技術先進国でもある我が国が核燃料リサイクルを推進することは、国際的な責務と認識することができ、また、それにより石油資源等が開発途上国や次世代のために温存されることを考えれば、開発途上国や次世代への貢献でもあると考えられる。

②核燃料リサイクルの推進条件
(安全性の確保)
 核燃料リサイクルに限らず、原子力平和利用の推進に当たっては、安全性の確保が大前提である。核燃料リサイクルにおいて中心となる物質であるプルトニウムは、α線を放射する放射能の高い放射性元素であるため、この点等を踏まえた安全対策が必要である。このため、プルトニウムを取り扱う施設においては、グローブボックスなど密閉された容器内で人体と隔離した状態でプルトニウムを扱い、吸入や作業環境の汚染により体内に取り込まないように厳重な対策が採られている。また、核燃料リサイクルの施設である再処理工場、高速増殖炉等については、建設、運転の各段階において厳格な安全規制がなされているほか、核燃料物質の輸送についても厳格な安全規制の下に実施されているところであり、これらの施設の安全性の実績の積み重ねが核燃料リサイクルの円滑な推進の上で不可欠である。

(核不拡散と透明性の確保)
 軽水炉の使用済燃料から再処理によって取り出されるプルトニウムは、プルトニウム239の濃度が低く、また、高速増殖炉のブランケット燃料等から取り出されるプルトニウムについては、核分裂性プルトニウムの純度を低くして用いられるが、いずれのプルトニウムについても軍事的に機微な物質とみなされている。したがって、核不拡散に対する国際的な関心の高まりの中で、原子力発電に用いる核物質の供給をほとんど海外に依存している我が国において、円滑に核燃料リサイクルを進めていくためには、関係各国からプルトニウム利用に対する十分な理解を得ることが必須であり、我が国が核燃料リサイクルを推進していく上で、計画の透明性に配慮し、核不拡散について厳格に対応していくことが極めて重要である。
 我が国は従来からNPT及び核物質供給国との間で二国間原子力協力協定を締結し、原子力の平和利用を国際的に約束しており、これらの条約・協定により、我が国のすべての核物質には平和利用を担保するための措置である「保障措置」が義務付けられている(フルスコープ保障措置)。さらに、核物質防護条約も締結し、核物質の盗取等による不法な移転等が生じないよう、厳格な核物質防護措置も採られるなど核不拡散のための厳重な管理がなされている。
 また、IAEA保障措置の強化等の国際的検討及びその実施に対し積極的に貢献しており、我が国が核燃料リサイクルを進めるに当たっては今後ともこれらへの努力を傾注することが重要である。
 さらに我が国は、核燃料リサイクルの推進に当たって必要な量以上のプルトニウムを持たないようにするとの原則に則って、整合性のある合理的な核燃料リサイクル計画を示すよう努めているところである。
 全世界に存在するプルトニウムは、ストックホルム国際平和研究所等の試算によれば、1990年末時点で軍事用が約257トンHM、民生用が約654トンHMである。民生用のうち、使用済燃料中のプルトニウムが約532トンHM、分離貯蔵されているプルトニウムが約72トンHM、これら以外は核燃料サイクルの工程中に存在しているものである。我が国においては、1993年6月末時点で、約1.6トンの原料プルトニウム(核分裂性)を保有している。この中には1993年1月にフランスより輸送されたプルトニウム(核分裂性)約1.1トンも含まれている。これらの原料プルトニウムは高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替用燃料等に加工される予定である。
 さらに、米国、旧ソ連における核軍縮の進展に伴い、解体された核兵器から生じるプルトニウム等の核物質の蓄積・貯蔵・利用・処分問題が深刻化することが予想される。また、核燃料リサイクルで利用するプルトニウムによって核兵器を製造することは困難と考えられるものの、これらの将来の蓄積傾向に関して国際的関心が高まっており、IAEAにおいては、プルトニウムの蓄積量予測や適切な国際管理の在り方に関する非公式な検討が進められている。我が国としては、核燃料リサイクル計画の透明性を一層確保する等の観点から、このようなプルトニウム国際管理の在り方についての具体的な構想を検討しており、関係国間及びIAEAとも綿密な検討を重ねていくこととしている。

(情報公開及び内外の理解と協力)
 核燃料リサイクルの推進に当たって、国民の理解と協力を得ていくためには、まず、安全確保の実績を積み重ねることが極めて重要である。その上で、事業者、地方公共団体及び国が、それぞれの役割に応じた重点的な広報活動を行うとともに、積極的な情報公開に努めつつ、正確かつ分かりやすい対応に努めていくことが必要である。
 また、最近の国際情勢ともあいまって、「あかつき丸」によるプルトニウム輸送について、想定された輸送ルートの沿岸諸国から懸念が表明され、この際には沿岸諸国の政府に対して、輸送の必要性・安全性等の説明を行った結果、各国からの公式の抗議はなかった。このように、核燃料リサイクルの推進は核不拡散問題はもとよりプルトニウムの国際輸送など大きな対外的側面を有している。このため、我が国の計画や安全性確保策、核不拡散への取組等に関し国際的な理解と協力を得ていくことが一層必要であり、前述の核不拡散への積極的対応や透明性の確保とともに、我が国の政策や計画についての国際的な情報提供が極めて重要である。

3.原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組

 原子力委員会は、原子力開発利用を国民の理解と協力の下に計画的かつ総合的に遂行していくため、原子力開発利用に関する指針の大綱と基本的な施策の推進方策を記した原子力開発利用長期計画(以下「長期計画」という)を1956年以来、ほぼ5年ごとに数次にわたり策定してきている。
 現行の長期計画は、1987年6月に策定されたものであるが、原子力委員会においては、青森県六ケ所村における核燃料サイクル事業を始めとした我が国の原子力開発利用の着実な進展、東西冷戦の終了、核兵器の拡散に対する懸念の高まり、地球環境問題に対する意識の向上等原子力をめぐる内外の情勢が大きく変わってきていることにかんがみ、1992年7月、長期計画の見直しを行うことを決定し、原子力委員会の下に長期計画専門部会を設置した。
 同専門部会の下には5つの分科会及び5つのワーキンググループが設置され、現在、これらの分科会等において検討を行っている。
 また、原子力政策について、国民的関心が高まっている状況にもかんがみ、長期計画専門部会に原子力の専門家以外の有識者から構成される長期計画懇談会を設置し、我が国の原子力開発利用の在り方について、今回の長期計画の改定をめぐって審議を行っている。
 長期計画の見直しに当たっての主要検討事項は、
  • 21世紀を展望した長期的かつ整合性ある原子力開発利用体系の構築
  • 東西冷戦後の新たな世界秩序における核不拡散と原子力平和利用との両立
  • 原子力の技術先進国の一員としての国際貢献、科学技術立国にふさわしい先導的プロジェクト、基礎研究・基盤技術開発の推進
  • エネルギー問題、地球環境問題等の世界的課題に取り組む上での原子力の必要性等に対する国民の理解の増進
 等である。
 また、核燃料リサイクルという観点から、重要と思われる検討課題としては、
  • 2.(2)で述べたような核燃料リサイクルの必要性とその意義を再確認すること
  • 高速増殖炉開発計画を始め全体として整合性を持った合理的な核燃料リサイクル計画を示すこと
  • 核不拡散をめぐる国際情勢等を踏まえ、内外の理解を得られるよう透明性に配慮して核燃料リサイクル計画を示すこと
 等を挙げることができる。
 本章において述べたように激動する国際情勢の中、原子力基本法の理念に則って、国民的また国際的理解を得つつ核燃料リサイクルを始めとする原子力開発利用を推進し、エネルギー安定供給の確保と先端的な科学技術の振興を図るとともに原子力の更なる可能性を切り開き、原子力平和利用先進国として国際社会に積極的に貢献していくために、今回の長期計画の見直しは極めて重要なものである。
 原子力委員会は、21世紀を見据え、時代環境に即応した我が国が採るべき原子力開発利用の基本方針及び具体的推進方策としての新長期計画の策定に向けて、各界の意見に耳を傾けつつ、全力を挙げて取り組む所存である。

第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

 世界のエネルギー需要は、1983年以降増加の一途をたどっており、特に開発途上国のエネルギー需要増大が顕著である。また、電力に関しても、世界全体としては消費量が増加してきており、特にアジア地域等の開発途上国における伸びが著しい。国内のエネルギー需要も着実な伸びが予想され、原子力のエネルギー供給に果たす役割はますます重要になってきている。地球環境問題への対応の観点からも、発電の過程で温室効果ガス等を排出しない原子力は重要である。
 1993年6月末現在、世界で416基、3億4,390万キロワットの原子力発電所が稼働している。
 国内においては、1993年に4基の原子力発電所が運転開始したことにより、46基、3,736万1千キロワットの原子力発電所が運転中となっている。1992年度の我が国における総発電電力量(電気事業用)に占める原子力発電の割合は28.2%であった。また、核燃料サイクル事業が大きな進展を見せているほか、放射線利用の面では、生活者の立場を重視した科学技術の活用の観点からの貢献も大いに期待されている。
 また、国際協力、大型放射光施設(SPring-8)等の先導的プロジェクト、基礎研究・基盤技術開発にも積極的に取り組んでいる。
 本章では、これらの内外の原子力開発利用動向を外観するとともに、資金、人材等の研究開発基盤の強化、原子力関連施設の立地推進、原子力に対する国民の理解の増進についてもその状況を記述する。

1.原子力の役割

 原子力は、大量の電力を経済的、安定的に供給でき、しかも発電の過程においては二酸化炭素等を排出しないという特長を有し、今後も増大すると予測される電力需要を賄う主力電源としての役割を担うことのできる重要な電源と考えられる。
 また、放射線利用は、生活者の立場を重視した科学技術の活用という観点においても、その貢献が期待されている。
 本節では、最近の内外のエネルギー情勢を踏まえ、地球環境問題への対応という観点も併せつつ、エネルギー供給における原子力の役割を概観するとともに、原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱である放射線利用の役割について述べる。

(1)内外のエネルギー・電力の情勢と原子力
①世界のエネルギー・電力の情勢と原子力
(エネルギー情勢)
 世界の一次エネルギー需要は、1983年以降増加の一途をたどっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、この傾向は将来にわたっても継続し、2010年には1990年の1.5倍の需要が見込まれている。
 地域別には、急激な人口増加及び生活水準の向上等により、開発途上国におけるエネルギー需要増大が顕著であり、2010年には、1990年の2.2倍ものエネルギー需要が見込まれており、世界のエネルギー需要の約4割を占めるまでになると見通されている。また、全世界における化石燃料需要の2010年までの増加分のうち、3分の2は開発途上国によるものと見通されている。
 先進国におけるエネルギー需要は、1992年には1.0%の伸びであるが、2010年には、1990年の1.3倍のエネルギー需要が見込まれている。また、先進国においては、石油依存度は低下するが、化石燃料への依存度は2010年においても1990年レベルを維持すると見通されている。
 旧ソ連、中・東欧諸国におけるエネルギー需要は、1989年以来減少が続いているが、1995年以降の旧ソ連の経済回復を受け、2010年には、1990年レベルを少し超える程度に回復すると見通されている。

図4 世界のエネルギー需要の推移
図4 世界のエネルギー需要の推移

図5 エネルギー源別消費割合
図5 エネルギー源別消費割合

 このように世界のエネルギー需要の伸びが見込まれる中で、中東産油国への依存度の高まりが見込まれるなど供給には制約が考えられる。
 一方、エネルギー資源の地域分布状況を比較すると、原油や天然ガスは中東地域等に偏在しているが、石炭は比較的広範に存在している。ウランについては、アフリカ、北米、オーストラリアなどに比較的分散して産出する。また、確認可採埋蔵量を単純に年生産量で割った可採年数は、石油が45年、天然ガスが58年、石炭(高品位炭)が219年、ウランについても核燃料リサイクルを考慮しなければ、わずか74年分しか存在しない。
 なお、多くのIEA加盟国は、エネルギー源の多様化と柔軟性は、長期的なエネルギー安全保障の基本的な条件と位置付けており、原子力が大きな貢献を果たしていると改めてその役割を評価している。
(電力需給状況)
 世界の電力消費量は、世界全体としては増加してきている。中でも開発途上国、特にアジア地域においては生活水準の向上、工業化の進展等により伸びが著しい。世界の発電電力量は、1971年から1990年までの平均年率4.3%という高い伸びで増加しており、一次エネルギー供給の増加率及び経済成長率を上回っている。
 また、先進国においては、原子力発電が着実に増加しており、石油火力発電等の火力発電の割合が激減している。旧ソ連、中・東欧諸国においては、火力発電の割合は減ってきているが依然として大半の割合を占めている。開発途上国は比較的水力発電の割合が大きいが、火力発電が増大している。
 さらに、IEAによると、世界の電力需要は1990年から2010年まで平均年率2.8%の伸びで推移し、最終エネルギー消費に占める電力の割合も1990年の19%に対し、2010年には22%まで増加すると見込まれている。先進国においては、平均年率2.2%の伸びが見込まれているが、火力発電の依存度が大きくなり、旧ソ連、中・東欧諸国においては、経済混乱の影響から平均年率1.2%にとどまると見込まれている。開発途上国においては平均年率5.5%の伸びが見込まれているが、石炭火力発電の依存度が増加すると見込まれている。

②我が国のエネルギー・電力の情勢と原子力
(エネルギー情勢)
 1992年度の我が国の最終エネルギー消費は、原油換算で3.60億キロリットル、対前年度比0.5%となり、円高不況に見舞われた1986年度以来の低い伸びとなった。産業部門はマイナスの伸びとなった一方、運輸、民生部門は対前年度比2~4%増と比較的堅調であった。
 一方、1992年度の一次エネルギー供給は、原油換算5.41億キロリットル、対前年度比2.0%の低い伸びとなった。一次エネルギー供給に占める石油の割合は、58.2%であり依然として高い。原子力は対前年度比4.6%増、一次エネルギーに占める割合は1987年に記録した最高値の10.0%に再び達した。
 このように着実に延びるエネルギー需要に対し、我が国は一次エネルギー総供給の8割以上を海外に、6割近くをほぼ全量を輸入に依存している石油に存在している。また、輸入原油の約7割を中東地域に依存しており、エネルギーの安定供給確保が極めて重要である。
 また、1992年の世界のエネルギー貿易量に対する我が国の輸入量の割合は、石油及び天然ガスがそれぞれ16%であり、我が国のエネルギーの安定供給は、世界のエネルギー安定供給に大きく貢献することになる。
 さらに、エネルギー安定供給に加え地球環境問題への対応の観点から、政府は1990年10月「石油代替エネルギーの供給目標」を決定し、総合エネルギー政策を推進している。

図6 一次エネルギー供給量
図6 一次エネルギー供給量

図7 年間発電電力量(電気事業用)
図7 年間発電電力量(電気事業用)

図8 主要国のエネルギー輸入依存度(1991年)
図8 主要国のエネルギー輸入依存度(1991年)

(電力需給状況)
 1992年度の総需要電力量は7,978億キロワット時、対前年度比1.0%と円高不況の1986年以来の低い伸びとなった。1993年度電力施設計画によると、総電力需要は1991年度から平均年率2.2%で増加し、2002年度には1兆62億キロワット時に達すると見通されている。
 一方、発電電力量(電気事業用)の実績は、1992年度7,883億キロワット時、伸び率0.7%となった。この中で、原子力発電は着実に増加し、1992年度末には、商業用発電設備容量が3,441万9千キロワットとなり、設備利用率が74.2%と順調に稼働したことから、発電電力量が2,223億キロワット時に達し、原子力発電の総発電電力量に占める割合は28.2%と8年間連続で25%以上を占める。
 原子力発電の設備容量は、1993年に新たに4基に発電所が加わっため、46基、3,736万キロワットとなり、建設中及び着工準備中のものを含めると約4,600万キロワットが確保されているが、「石油代替エネルギーの供給目標」の基礎となるエネルギー需給見通しに示された2000年の開発目標5,050万キロワットの達成に向けて格段の努力が必要である。

(2)地球環境問題と原子力
 近年、地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題が大きくクローズアップされている。これらは、人類の生存基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあることから、その解決が国際的にも強く望まれているが、今後の世界的に見たエネルギー需要の増大を化石燃料への依存によって賄うことは、これらの問題を一層深刻化させることになる。
 1993年3月にまとめられた産業構造審議会、総合エネルギー調査会、産業技術審議会合同会議の報告書によれば、一定の経済活動に必要なエネルギーは確保するものの、省エネルギーに取り組むとともに、非化石エネルギー供給の促進を柱とする「エネルギーの需給構造の改革」に取り組む必要性を指摘している。
 このような中で、原子力は地球温暖化を始めとする地球環境問題の解決に当たって重要な役割を果たすことが期待されている。原子力については高レベル放射性廃棄物の環境面における懸念を指摘する向きもあるが、極めて少量であり、処理処分対策が近い将来確立することが期待されている。
 1993年6月に開催されたIEA閣僚理事会での共同声明において、いくつかの加盟国の主張によって、放射性廃棄物が環境面における懸念を相殺しないという意見も盛り込まれたが、多くの加盟国は、原子力が地球環境問題の対応に必要なエネルギー源との見解を示している。
 我が国は、二酸化炭素排出量を2000年以降おおむね1990年レベルで安定化させることを目標とする地球温暖化防止行動計画を1990年10月に策定した。また、1991年7月に内閣総理大臣決定したエネルギー研究開発基本計画の中でも、原子力を地球環境問題への対応にも重要な役割を果たすものとして、その開発利用の重要性を強調している。
 さらに、環境保全の原子力分野における技術開発の一環として、電子線照射による脱硫・脱硝技術の開発も行われている。

(3)放射線利用への期待
 放射線利用は、原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として位置付けられており、その利用範囲は、医療分野、農業分野、工業分野、環境保全分野及び研究分野といった幅広い分野にわたっている。
 また、近年、加速器施設等の先端的研究開発施設が整備されつつあり、これらを活用した研究開発促進のための体制整備が求められているほか、生活者の立場を重視した科学技術の活用の観点からの放射線利用の貢献も大いに期待されている。

2.世界の原子力開発利用の状況

(1)世界の原子力発電の状況
①概況
 現在、原子力発電国は29か国(地域)であり、1993年6月末現在、416基、3億4,390万キロワットの原子力発電所が運転中である。総発電電力量については、1992年実績では2兆276億キロワット時に達し世界の総発電電力量のほぼ6分の1を占めた。近年ではチェルノブイル原子力発電所事故の影響等から、一部の国では原子力政策の見直しや新規原子力発電所の建設中止の決定が行われる等、原子力開発は停滞傾向が続いていた。しかし、原子力発電は、エネルギー源の多様化に貢献するとともに、地球温暖化防止のための有効な手段の1つとして、その役割及び必要性が再認識されている。

図9 各国(地域)の総発電電力量の内訳(1991年)
図9 各国(地域)の総発電電力量の内訳(1991年)

図10 世界の原子力発電設備容量
図10 世界の原子力発電設備容量

②各国(地域)の動向
 米国は、世界第1位の原子力発電設備容量を有し、1993年6月現在、108基、1億337万キロワットの原子力発電所を有している。
 1993年1月、クリントン大統領が就任したが、原子力への依存度を現状以上とすることについて反対しており、将来の選択肢として原子力を残すべきとしている。
 同年4月に発表されたエネルギー省1994年予算政府原案においては、軽水炉関係研究開発予算は昨年とほぼ同等であるが、新型炉研究開発予算はアクチニド・リサイクル計画、施設閉鎖費を除いて、すべて削減された。この予算案については、下院においては、新型液体金属炉計画(アクチニド・リサイクル計画を含む)を廃止する案が可決されたが、その後上院での審議では、新型液体金属炉予算及びアクチニド・リサイクル予算が復活するという下院とは逆の決定となったため、今後両院協議会において調整されることとなっている。
 カナダは、従来から自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU炉)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。オンタリオ州議会は1990年11月、少なくとも3年間原子力の開発を一時停止することを決定したが、建設中の発電所は予定通り運転開始することとしており、ダーリントン1、3号機は既に運転開始し、4号機は年内の運転開始を目指している。
 フランスは、エネルギー資源に乏しく、原子力発電を積極的に導入している。1993年6月末現在、55基、5,898万キロワットの発電設備を有し、総発電電力量の約73%を原子力発電により賄っている。また、総発電電力量の約12%に当たる538億キロワット時を近隣諸国へ送電している。
 フランスは高速増殖炉開発においても先進的な地位にある。実証炉スーパーフェニックスはトラブルにより運転停止状態にあるが、施設の安全性についての公聴会は、1993年9月原子力施設安全局が、施設の安全性に関する検討をした上で運転再開を支持する判断を出すことを条件に運転許可の更新を支持することを表明する報告をした。
 英国では、1993年6月末現在、ガス冷却炉(GCR)及び改良型ガス冷却炉(AGR)を中心に、37基、1,316万キロワットの原子力発電所が運転中である。
 1992年11月、英国政府は、経済的理由等により現在運転中の高速炉原型炉(PFR)を1994年に運転を終了することを発表した。また1993年3月以降、欧州統合高速炉(EFR)計画への資金拠出を取りやめることを発表した。ただし、高速炉開発の意義、必要性を否定したものではなく、PFRでの知見等を通じて同計画へ貢献する旨を表明している。
 ドイツでは、多くの州で社会民主党が政権を握り、これらの州では原子力開発利用が大幅に規制され、現在ドイツにおいては建設中、計画中の原子力発電所は1基もない。
 また、連邦環境大臣は、原子力エネルギーの利用促進を図る条項の削減、使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立等を含んだ原子力法の改正案を1991年2月に発表した。これに対し更に厳しい改正案を示した州もあり、エネルギー事業者との調整が必要となっている。
 これらの状況を踏まえ、1992年10月コール首相の提案により、エネルギー事業者と連邦及び州の政党代表者とのコンセンサス形成のための協議が実施されることとなった。
 旧ソ連で運転中の原子力発電所は、主としてソ連型加圧水型炉(VVER)、黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK)である。
 ロシア政府は、1992年12月に2010年までの新規原子力発電所建設計画を承認した。本計画では2000年までを安全性向上の段階と位置付け、2010年までに約2,000万キロワットの設備容量を増加させる予定である。
 中・東欧では、ソ連型原子力発電所を運転する国が多い。近年、旧ソ連、中・東欧諸国のソ連型原子力発電所(VVER-440/230)の安全評価、安全性改善に関するプロジェクトがIAEAを中心に進められてきた。
 韓国は、エネルギー資源に乏しく、国際的なエネルギー情勢の不確実性に対処するためには、長期的に原子力主導の電源開発を引き続き推進すべきであるとしている。
 台湾では、近年の電力需要の増大に伴い、新たな電源確保が急務となっている。
 インドでは、カクラパー1号機(CANDU炉、23.5万キロワット)は、1992年9月に臨界に達し、1993年5月に運転を開始した。
 中国は、深刻な電力不足から発電設備の増強に力を入れており、原子力発電にも積極的に取り組んでいる。同国で最初の原子力発電所秦山1号機(PWR、30万キロワット)は、現在試運転中であり、1994年には営業運転に入る予定である。また、建設中の広東1、2号機(PWR、各98.4万キロワット)は1993年から1994年にかけて送電を開始する予定である。
 インドネシアは、石油や石炭等のエネルギー資源に恵まれているが、石油については輸出商品として温存する必要性、石炭については地球環境問題からの制約等を考慮し、今後2015年までに700万キロワット程度の原子力発電所の建設を検討している。

(2)世界の核燃料サイクルの状況
①ウラン濃縮
 OECD/NEAの統計等によると、OECD諸国のウラン濃縮設備容量は、33,350トンSWU/年である。1992年の需要はOECD諸国が25,477トンSWUであり、供給能力が需要を大幅に上回っており、この傾向は2000年以降も続くものと見られている。
 米国のウラン濃縮事業はエネルギー省(DOE)の所管であったが、1993年7月に発足した米国ウラン濃縮公社にすべて移管された。原子レーザー法(AVLIS)等の研究開発中の代替濃縮技術はDOEの所管となっているが、AVLISについては開発権は公社のみが保有し、公社の依頼によりDOEが研究開発を継続することになっている。
 フランスでは、ユーロディフ社がガス拡散法による工場を、英国ドイツオランダでは、ウレンコ社が遠心分離法による工場を操業している。

②再処理
 米国は、カーター政権時の原子力政策により商業用再処理及びプルトニウム利用計画を中止した。
 フランスは、自国内で再処理を実施するとともに、海外からの委託再処理も実施している。また、軽水炉でのプルトニウム利用、高速増殖炉の研究開発等、核燃料リサイクルを積極的に推進している。フランスの商業用再処理工場は、コジェマ社が所有し、マルクールとラ・アーグの2か所にある。
 英国も、自国内で再処理を実施するとともに、外国からの委託再処理も実施しており、軽水炉でのプルトニウム利用を図っていく方針である。
 英国の再処理工場は、英国核燃料公社(BNFL)が所有しており、セラフィールドに外国からの委託再処理のためTHORPの建設を終了した。1993年9月には天然ウランを用いた試験が開始され、同年10月には運転開始を判断するための第2回公開審議が終了している。
 ドイツは、再処理・プルトニウム利用の推進が基本であったがEC統合等の背景の下、英仏に再処理委託を行う方針に変更している。

③MOX燃料加工
 ベルギー及びフランスでは、MOX燃料の製造が行われており、ともに新工場を計画中である。
 ドイツでは、軽水炉向けのMOX燃料を製造しており、新工場も建設中であるが、訴訟のため操業目処は立っていない。
 英国では,現在工場を建設中であり、1993年中に操業を開始する予定である。

④放射性廃棄物処分
 米国では、商業用発電所からの使用済燃料は、一定期間貯蔵したのち地層処分することが考えられている。DOEは、2010年の地層処分開始を目標としたネバダ州ユッカマウンテンにおけるサイト特性調査を実施している。
 フランスでは、使用済燃料を再処理し、高レベル廃液はガラス固化し貯蔵した後、地層処分する計画である。
 ラ・アーグでは、実用規模の固化プラントが完成し、1989年より操業を開始している。
 英国では、使用済燃料を再処理し、高レベル廃液はガラス固化し貯蔵した後、地層処分する方針であり、セラフィールドにおいてガラス固化施設を操業中である。
 ドイツでは、高レベル廃液のガラス固化体は、貯蔵した後、ゴアレーベン(岩塩層)に地層処分する計画であるが、直接処分の技術開発も並行して行われている。ドイツでは、原子力法により再処理・プルトニウム利用が義務付けられているが、1992年7月に連邦環境大臣より提案された原子力法改正案には使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立が含まれている。
 スイスでは、使用済燃料は、すべて外国で再処理し、返還されるガラス固化体を国内で地層処分する計画である。
 スウェーデンでは、使用済燃料は地下貯蔵施設において40年間程度貯蔵した後に地層処分する計画である。
 ベルギーでは、使用済燃料はフランスに再処理を委託し、その返還ガラス固化体を国内で地層処分する計画である。

3.我が国の原子力発電、核燃料サイクル、プルトニウム利用等の開発利用の状況

(1)我が国の原子力発電の現状と見通し
 1963年10月26日、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR、軽水型、1万2千5百キロワット)が運転を開始し、我が国初の原子力発電が始まり(後にこの日を「原子力の日」と決める)、今年で30年になる。この間、我が国の発電設備容量は順調に伸び、米国、フランスに次ぐ世界第3位の設備容量を有している。

①原子力発電の状況
 我が国の原子力発電は、1993年に入って新たに4基が運転を開始したことにより、1993年9月末現在、新型転換炉原型炉「ふげん」を含めると、46基、3,736万1千キロワットとなっている。また、原子力発電は、1992年末現在、総発電設備容量(電気事業用)の18.7%、1992年度実績で、総発電電力量(電気事業用)の28.2%を占め、主力電源として着実に定着してきている。

②原子力発電の経済性
 通商産業省の1989年度における試算結果では、発電原価は原子力発電が9円/キロワット時程度、石炭火力発電及びLNG火力発電が10円/キロワット時程度、石油火力発電が11円/キロワット時程度となっている。
 また、(財)日本エネルギー経済研究所の試算結果までは、1992年度運転開始べースでの発電コストは原子力発電が10.14円/キロワット時、LNG火力発電が10.64円/キロワット時、石炭火力発電が10.94円/キロワット時、石油火力発電が11.51円/キロワット時となっている。
 なお、近年の動向としてはエネルギー需給緩和によりエネルギー価格が相対的に低く推移するとともに、円高の影響等により火力発電の燃料費は低下傾向にあるものの、長期的には石油輸出国機構(OPEC)依存度の高まり、地域紛争、世界経済の動向等により不安定要因があることから、原子力の経済性の長期安定性は変わらないと考えられる。

③軽水炉技術の研究開発
 我が国では、政府、電気事業者及び原子力機器メーカー等が協力して、自主技術による軽水炉の信頼性、稼働率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し、軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
 これらの成果は、現在運転中又は建設中の在来型軽水炉(LWR)の一層の改良に反映されるとともに、特に第3次計画においては、日本型軽水炉を確立するために、改良型軽水炉の開発が進められた。

(2)我が国の核燃料リサイクルの事業化の進展
①ウラン濃縮
 日本原燃(株)は、1992年3月に青森県六ケ所村において濃縮工場の操業を開始し、1993年9月現在の分離作業能力は450トンSWU/年となっている。この工場は、最終的には1,500トンSWU/年の規模とする計画となっている。
 研究開発としては、動力炉・核燃料開発事業団は新素材を用いた遠心機の開発を進めている。一方、ウラン濃縮に関する新技術としては、レーザー法及び化学法の研究開発が進められてきた。
 なお、六ケ所濃縮工場以降の国内濃縮事業規模の拡大及びその時期については、内外の動向等を考慮しながら今後の検討を進めていくことが必要である。

②軽水炉使用済燃料再処理
 我が国で発生する使用済燃料の再処理については、東海再処理工場のほか、英国及びフランスに委託しており、1993年3月末現在、軽水炉使用済燃料については、約5,600トンU、ガス炉使用済燃料については、約1,500トンUの委託契約が締結されている。
 将来的には、国内の再処理需要については、現在操業中の動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と、日本原燃(株)が建設を進めている青森県の六ケ所再処理工場により対応することとしている。六ケ所再処理工場についてはフランス等より技術を導入したが、動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の操業によりこれまで培ってきた技術蓄積をも活かして所要の検討を進め、1992年12月の事業指定を受けて、1993年4月に着工した。本格操業開始は2000年の予定である。

(3)我が国の新型動力炉開発とプルトニウム利用の展開
①高速増殖炉
 動力炉・核燃料開発事業団では民間の協力を得て、福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めており、1994年4月の臨界を目途に、性能試験を行っている。
 実証炉については、電気事業者を中心に、実証炉関係の研究開発、基本仕様の選定等を行うこととしている。今後の実証炉計画の進め方については、原子力委員会高速増殖炉開発計画専門部会等の場において検討しており、1993年9月現在、いわゆるトップエントリ方式ループ型炉の選定等基本仕様の妥当性、関連研究開発の進め方等について審議を行っている。

②軽水炉によるプルトニウム利用及び新型転換炉
 軽水炉によるプルトニウム利用は電気事業者を中心に進められており、既に少数体規模実証計画が実施されている。
 新型転換炉(ATR)の実証炉については、電源開発(株)が2002年3月の運転開始を目指して、青森県大間町において、電気出力60万6千キロワットのATR建設のための準備を進めている。

③高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉使用済燃料の再処理については、動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が実施されてきている。今後、工学規模のホット試験によりプロセス・エンジニアリングの確立を図るため、リサイクル機器試験施設の建設が予定されており、1993年8月に設置変更承認がなされた。

④MOX燃料加工
 MOX燃料加工は、これまで動力炉・核燃料開発事業団が行ってきており、1993年3月の累積製造実績は約123トンMOXを達成している。
 また、軽水炉による核燃料リサイクル利用計画及び2000年に予定されている六ケ所村の再処理工場の操業開始を踏まえ、年間約100トン程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があり、現在、民間関係者を中心として、事業内容に関し具体的な検討が進められている。

⑤プルトニウム輸送
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替燃料製造に使用するプルトニウムのフランスから日本への海上輸送については、1992年11月上旬輸送船「あかつき丸」(総トン数:約4,800トン)がプルトニウム約1.1トン(核分裂性プルトニウム量)を積みフランスを出港し、1993年1月5日東海村の日本原子力発電(株)東海港に入港した。
 この「あかつき丸」によるプルトニウム輸送は、新日米原子力協定の海上輸送のガイドライン(回収プルトニウムの国際輸送のための指針)に基づく最初の輸送であり、日米政府間及び日仏政府間の協議が行われるとともに、動力炉・核燃料開発事業団が主体となり、海上保安庁の巡視船「しきしま」(総トン数:約6,000トン、35ミリ機関砲、20ミリ機銃装備)による護衛を始め、関係機関の協力の下に行われた。
 輸送の経路はシェルブールを出て大西洋を南下し、インド洋、南大平洋と通過するものであり、約2か月に及ぶ航行であったが、慎重な計画の下に実施され、無事終了した。

(4)我が国の原子力バックエンド対策の状況
①高レベル放射性廃棄物処理処分
(処理処分の基本的進め方)
 高レベル放射性廃棄物処分対策の進め方に関しては、まず、処分方策については、2030年代から2040年代半ばの処分場の操業開始に向け、2000年を目安に処分の実施主体の設立を図っていくことが適当である。一方、研究開発については、その進展状況及び成果を適切な時期に取りまとめ、深地層の研究開発の計画を処分場の計画と明確に区別して進めることとする。また、関係各機関は適切な役割分担の下に進めていくことが不可欠である。
 今後は、上記の方針に従い、着実にその対策を実施していくこととしているが、1993年5月、高レベル放射性廃棄物に関する調査・研究及びその成果の普及・活用等を通じて、国民の理解と協力を得つつ、高レベル放射性廃棄物処分事業の準備の円滑な推進を図るため「高レベル事業推進準備会」が発足し、活動が行われている。

(研究開発の状況)
 ガラス固化技術、高レベル放射性廃棄物の地層処分については、動力炉・核燃料開発事業団が中核機関となっている。北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は、処分場の計画と明確に区別したものであるとの認識の下、着実な推進を図っていくこととしている。

②低レベル放射性廃棄物処理処分
 低レベル放射性廃棄物については、日本原燃(株)が、青森県六ケ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する低レベル放射性廃棄物埋設センターを建設しており、1992年12月に操業を開始した。
 なお、1993年4月に、ロシア政府が、国際的合意に反し、旧ソ連・ロシアがバレンツ海やカラ海の北方海域及び日本海等に、液体及び固体の放射性廃棄物を長年にわたり海洋投棄していた事実を白書として発表した。さらに、10月中旬に至り、ロシアは日本海に液体放射性廃棄物の海洋投棄を行った。これに対し、我が国は強い懸念を伝えるとともに直ちに、このような投棄を中止するよう強く申し入れたところ、ロシアは予定されていた第2回の海洋投棄を中止することとした。なお、我が国は、4月から6月の海洋環境放射能調査に加え、独自に海洋環境放射能調査に着手した。

③放射性廃棄物の輸送
 低レベル放射性廃棄物については、専用運搬船「青栄丸」(総トン数:約4,000トン)により、全国の原子力発電所よりむつ小川原港まで海上輸送され、低レベル放射性廃棄物埋設センターまで陸上輸送されている。
 英国及びフランスでの再処理に伴って発生し、我が国へ返還される高レベル放射性廃棄物については、1995年2月に操業を開始する予定で建設が進められている日本原燃(株)の廃棄物管理施設に輸送する計画である。

④原子力施設の廃止措置
(原子炉の廃止措置)
 原子炉の廃止措置に関する技術開発については、日本原子力研究所が動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいるほか、(財)原子力施設デコミッショニング研究協会が、研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行っている。また、(財)原子力発電技術機構は、廃止措置に関する技術の確証試験を進めている。

(その他の原子力施設の廃止措置)
 動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所において技術開発が進められている。

(廃止措置により発生する廃棄物)
 もともと放射能レベルが極めて低い解体コンクリート廃棄物の処分に関しては、1992年9月に原子炉等規制法施行令の改正が行われて以来、素掘りトレンチヘの埋設処分による廃棄物埋設事業の道が開かれた。

4.放射線利用の状況

(1)放射性同位元素及び放射線発生装置の利用状況
 放射性同位元素(RI)又は放射線発生装置の使用事業所は着実に増加しており、1993年3月末現在、4,958事業所に達している。

(2)放射線利用技術の実用化等の状況
 ①医療分野
  医療分野においては、放射線は診断及び治療等で利用されている。また、医薬品の体内徐放化や医用材料の合成・加工にも放射線が使われている。
  重粒子線を利用したがんの治療に関する研究も進められており、放射線医学総合研究所において、照射治療に関して優れた性質を持つ重粒子線による治療法の研究及び重粒子線が治療装置(HIMAC)の建設が進められ、1993年度中に重粒子線がん治療の臨床試行を開始する予定である。
 ②農業分野
  農業分野では、品種改良、害虫防除及び食品照射といった分野において放射線が利用されている。
  害虫防除については、不妊虫放飼法によるウリミバエ根絶防除を沖縄、鹿児島両県で実施しており、沖縄県久米島、宮古群島等に続き、奄美諸島全域、沖縄本島及び周辺諸島で根絶を達成した結果、果実類の移動規制が解除され、他地域市場への出荷が自由となった。残る八重山群島でも、1993年10月に、ウリミバエが根絶された。
 ③工業分野
  工業分野での放射線利用には、放射線の物質透過を利用した計測・検査、放射線と物質との相互作用による品質の改良及び医療器具の滅菌といった分野がある。
 ④環境保全等の分野
  日本原子力研究所等では、電子線照射による燃焼排ガスの脱硫・脱硝技術の実用化を目指し、石炭火力発電所等からの排ガスを電子線処理するパイロット試験を実施しているほか、下水処理等から発生する汚泥の放射線処理による殺菌・処理等に関する技術開発が進められている。
 ⑤研究分野
  ライフサイエンス分野では、DNA塩基配列の構造解明等の研究開発に活用されているほか、考古学分野にも利用されている。

(3)先端的研究開発の状況
 ①放射線同位元素(RI)に関する研究開発
  RIを用いたより高度な医療利用として、PET装置による代謝・血流分布等生理学的データの定量的画像情報化技術等の研究開発が進められている。
 ②放射線ビーム発生・利用技術に関する研究開発

(放射光の発生・利用技術)
 高輝度・短波長のシンクロトロン放射光は、物質・材料系科学技術、ライフサイエンス、情報・電子系科学技術等の広範な基礎研究分野のための有力な研究手段であり、現在、日本原子力研究所及び理化学研究所が大型放射光施設(SPring-8)の建設を進めている。

(イオンビームの発生・利用技術)
 日本原子力研究所において、イオンビームを用いた耐放射線性極限材料、新機能材料の研究等の放射線高度利用研究が開始された。基礎研究分野では、理化学研究所において重イオン加速器を用いた原子核物理等の研究が行われている。

(RIビームの発生・利用技術)
 近年、RIビームの利用により加速粒子の種類が飛躍的に拡大し、物質・材料研究、生物研究、基礎医学の研究等の幅広い研究分野への研究開発が期待されている。

(陽電子ビームの発生・利用技術)
 陽電子の利用は、高密度化する半導体素子の微小・微量の欠陥の評価等に不可欠な分析手段として、電子技術総合研究所等で研究開発が進められている。さらに、原子・分子物理学の基礎理論の新展開などの分野でもその利用が期待されている。

(陽子ビーム、中性子ビーム等の発生・利用技術)
 理化学研究所等において、研究開発が行われている。

5.国際協力の状況

 先進国との協力に関しては、従来の我が国の技術力向上のための協力から脱却して、協調のための協力を推進していくとともに、我が国の研究開発の成果を広く世界に還元していくことが特に重要である。
 また、開発途上国に対しては、単に原子力分野にとどまらず、基礎科学技術、産業技術、安全規制等の様々な分野において積極的な協力の推進が必要であり、また、安全確保に係る基盤強化、核不拡散に十分配慮して協力を行う必要がある。
 原子力の安全確保及び国民の理解促進は、原子力の国際的共通課題として、各国が協力して取り組むことが重要となっている。

(1)核兵器の不拡散に係る国際協力
 我が国は、核不拡散の観点から、IAEAにおいて行われている保障措置関連のプロジェクトに積極的に参加している。
 また、旧ソ連の大量破壊兵器関連の科学者・技術者等の能力を平和的活動に向ける機会を提供することを目的とした「国際科学技術センター」構想に対し、2,000万ドルの支援等を行っていく予定であるほか、1993年5月には旧ソ連の核兵器廃棄等に関する支援として約1億ドルを拠出することを決定した。

(2)国際協力による研究開発の推進
 核融合研究開発については、1988年4月よりIAEAの支援の下で、日本、米国、EC及びソ連(ソ連崩壊後はロシア)の4極共同により国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計活動が行われており、1992年から工学設計活動が実施されている。
 また、核種分離・消滅処理技術に関しては、情報交換を行う国際協力計画(通称オメガ計画)が我が国の提案によりOECD/NEAにおいて実施されている。

(3)近隣アジア諸国との協力
 我が国の提唱に基づき、近隣アジア諸国との協力が行われており、原子力委員会の主催で第4回アジア地域原子力協力国際会議が1993年3月に東京で開催された。本会議においては、近隣アジア諸国の原子力事情について、広く関係者の理解を深めるため、各国の関係者による各国の原子力平和利用政策、原子力開発の現状及び国際協力についての発表等が行われた。
 また、我が国はIAEAの支援の下、「1987年の原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の締結国として積極的に広くアジア・太平洋地域諸国との協力を行っている。
 加えて、政府関係の協力のみならず、民間の協力として、中国、韓国、台湾及びフィリピンの原子力発電技術協力等を行っている。

(4)旧ソ連、中・東欧地域等に対する原子力安全に関する協力
 旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電の安全性確保は、世界的に重大な懸念材料であるとして、国際的に支援方策が検討されている。
 1993年7月の東京サミットではミュンヘン・サミットの行動計画の実施状況が評価された。経済宣言において、短期的措置については二国間支援、原子力安全支援基金の設置、G24の支援調整機構の整備等で進展があることを評価するとともに、今後の課題として支援を遅滞なく実行に移し、安全性の向上を図るとことが重要としている。また、長期的措置については、世界銀行及びIEAによるエネルギー研究報告を参考にしつつ今後の支援の枠組みを策定することとし、各当事国が危険な原子力発電所の早期閉鎖を可能とするようなエネルギー戦略の策定を支援し、世界銀行等がそのための融資政策の調整を図れるようにすることを目標としている。

①旧ソ連、中・東欧地域の原子力安全対策に対する我が国の協力
 我が国は、IAEAのソ連型原子力発電所の安全性評価プロジェクトのために1992年度から特別拠出を実施するなどしている。また、旧ソ連、中・東欧諸国及びアジア諸国からの原子力技術者の受入れを行っているほか、原子炉の配管からの冷却水漏洩を検知するための運転中異常検知システムをソ連型原子力発電所に設置し、当該技術を適用することにより、安全性の向上を図ることとしている。

②原子力安全条約の検討
 旧ソ連、中・東欧地域の原子力発電所の安全間題を契機として、各国の原子力施設の安全確保を目的とした原子力安全条約の策定が検討されている。
 我が国としては、原子力の安全性に関する基本原則からなる世界共通の理念としての原子力安全条約が、旧ソ連、中・東欧諸国を含む現在の原子力利用国の安全の確保・改善とともに、アジア諸国等が今後原子力開発利用を進めるに当たっての適切な原子力の安全確保に資するとの観点から重要であると認識し、早期作成に向けて積極的に対応している。

③原子力安全支援基金の設立
 G7各国は、1993年3月、二国間支援を補完する多国間支援基金を欧州復興開発銀行(EBRD)内に設立することに合意し、我が国は本基金に対し3年間で1,200万ドルの資金を拠出することを決定するとともに、初年度分として400万ドルを拠出した。

④その他の協力
 世界原子力発電事業者協会(WANO)は、その活動の一環として、旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電事業者の啓発のため、事業者間の交換訪問を実施している。

6.先導的プロジェクト等の推進

(1)核融合研究開発
 核融合研究開発は、軽い元素の原子核同士が衝突してより大きな原子核に融合する際に発生するエネルギーを取り出して利用しようとするもので、燃料となる重水素等が海水中に豊富に存在するために人類の恒久的なエネルギー源となり得る、原理的に高い安全性を有する、地球環境問題の原因となる物質を排出しないなど多くの長所を有している。
 1992年6月、原子力委員会により、実験炉の開発を始めとする第三段階核融合研究開発基本計画が策定され、現在この計画に基づき日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関等により研究開発が推進されている。
 日本原子力研究所では、臨界プラズマ試験装置(JT-60)により1993年3月には、核融合積で世界最高の成果を得ているほか、大学共同研究機関である核融合科学研究所等でヘリカル型、逆磁場ピンチ型及びミラー型等の各種磁場閉じ込め方式等の基礎研究が進められている。
 また、日本、米国、EC及びロシアの4極の国際協力による国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動が、1992年7月より進められている。

(2)加速器技術
 日本原子力研究所及び理化学研究所は、兵庫県播磨科学公園都市において、1998年の供用開始を目指し、世界最大(8ギガエレクトロンボルト)の大型放射光施設(SPring-8)の建設を推進している。高指向性・高輝度の放射光は、物質・材料系科学技術、情報・電子系科学技術、ライフサイエンス等の広範な分野のための研究・技術開発に飛躍的な発展をもたらす有力な分析・解析手段であり、供用開始に対する研究者の期待は大きい。また、本施設は、放射光利用研究の中核的研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)とすることを目標に、我が国の産学官の研究者はもとより、国外の研究者に広く開かれた施設として整備運営を行うことが重要であり、施設の利用を促進するための体制整備が期待されている。
 放射線医学総合研究所では、重粒子線によるがんの治療法の研究を行っている。重粒子線は、局所進行がんや低酸素がん細胞に対しても治療効果が高く、かつ重粒子線のエネルギー分布をがん患部に合わせて調整することにより患部周辺の障害を最小限に抑えられるなど優れた性質を有している。このため、同研究所では重粒子加速器を用いた重粒子線がん治療装置(HIMAC)の建設を進めてきたが、1993年度にはこれが完成し、臨床試行が開始される。
 このほか、日本原子力研究所では、イオンビームを用いた宇宙環境材料、核融合炉材料、バイオ技術及び新機能材料等に関する研究などを推進している。理化学研究所では、重イオン科学の研究促進のためのリングサイクロトロンを用い、従来の加速器では困難であった原子核物理等の基礎研究が行われている。また、動力炉・核燃料開発事業団は大電流電子加速器の研究開発を行っている。

(3)高温工学試験研究
 高温工学試験研究については、高温の熱供給、高い受動安全性、燃料の高燃焼度等の優れた特長を有する高温ガス炉技術の開発及び高温工学に関する各種先端的基礎研究を推進しており、その中核となる研究施設として、高温工学試験研究炉(HTTR)の建設が日本原子力研究所において進められている。
 さらに、研究の効率的な推進を図るために、ドイツ、米国及び中国等との国際研究協力を行っている。

(4)原子力船の研究開発
 日本原子力研究所においては、原子力船「むつ」による研究開発を実施してきた。「むつ」は、1991年2月、我が国初の原子力船として完成した後、おおむね1年間の実験航海を実施し、成功裏に実験を終了した。1993年5月より使用済燃料の陸揚げ作業を開始、7月にはすべての燃料体の陸揚げを完了した。

(5)新しい型の原子炉の研究
 受動的安全性を具備した中小型炉、モジュール型液体金属炉及び高転換軽水炉等の新しい型の原子炉については、幅広く基礎的・基盤的研究を推進し、将来の原子炉技術の飛躍的発展の可能性の検討を行っている。

7.原子力分野における基礎研究・基盤技術開発の推進

 原子力の基礎研究については、研究者の自由な発想を重視し、今後ともより一層の充実を図っていく必要があるが、現在、我が国は、12基の研究及び教育のための原子炉を有し、日本原子力研究所、大学及び国立試験研究機関等が、幅広く、創造的成果に向けた研究を行っており、1992年おおむね1年間に国内の学会誌、図書及び特許等に掲載された原子力関連論文数は4,200件余に達している。
 原子力基盤技術に関しては、21世紀に向けて原子力技術体系の飛躍的発展を目指し、1988年度から、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、理化学研究所及び国立試験研究機関を中心に、原子力用材料技術、原子力用人工知能技術、原子力用レーザー技術及び放射線のリスク評価・低減化技術の4領域の技術開発が行われてきた。
 これらの基盤技術のうち、多岐にわたる技術要素から構成されており、複数の研究機関のポテンシャルの結集が必要な研究については、「原子力基盤技術総合的研究」(原子力基盤クロスオーバー研究)というシステムにより、関係研究機関の連携・協力による効率的・効果的な研究開発が行われている。さらに、1993年4月原子力委員会基盤技術推進専門部会が基盤技術研究開発の新たな推進方策を取りまとめたが、この中では、前述の4領域についてなお一層の研究の深化を図るとともに、放射線ビーム利用先端計測・分析技術、原子力用計算科学技術及び原子力分野における人間の知的活動支援技術という3つの新しい技術領域を取り上げ、その積極的推進を図ることとしている。

8.原子力開発利用の推進基盤の強化

 我が国の原子力開発利用の一層の進展のためには、研究開発資金・人材の確保、研究開発体制の整備等の研究開発推進基盤の強化が重要である。
 研究開発関連資金の確保に当たっては多様な手段を用いるとともに、研究開発計画の遂行に当たっては、研究開発の効率化、資金の効率的な活用に努めることとしている。
 人材の確保に関しては、今後の原子力開発利用の拡大に伴い必要となる人材の充実を図るとともに、原子力研究開発の国際化に対応するため、各種国際協力への我が国関係者の積極的な参加、国際機関への幅広い人材の派遣等を行っている。
 原子力関係の研究者・技術者の要請については大学の果たす役割が大きく、原子力発電所等の技術者については、民間において所要の人材を確保し、基本的には民間自身による養成訓練が主体となっている。
 今後、我が国では近年の出生率の低下を背景に、労働力市場全般における人材不足が懸念されている。加えて、青少年の原子力への関心の低下が目立つことから、原子力委員会は学生及び教員等の原子力分野への就職・進学に関する意識調査を行うなど、原子力分野における人材確保及び育成等について検討を進めている。
 研究開発体制については、官民の原子力関連研究開発機関がそれぞれの役割と技術を活かし、効率的な官民協調体制を形成している。

9.原子力施設の立地の促進

 我が国の総合エネルギー政策の指針である「石油代替エネルギーの供給目標」の中で、原子力発電の設備容量としては、2000年度に5,050万キロワット、2010年度に7,250万キロワットの設備容量とすることが目標とされている。一方、1993年9月現在、運転中、建設中及び着工準備中の原子力発電所は合計4,635万3千キロワット(55基)を確保している。
 立地地域の振興対策の拡充を図るため、電源三法(発電用施設周辺地域整備法、電源開発促進税法及び電源開発促進対策特別会計法)の活用が図られており、1993年度には、新たに、電源三法による交付金により、放射線に対する理解の増進等を図るため、放射線利用試験研究推進のための施設整備を行うとともに、電源三法による補助金を利用した広報活動の対象地点に北海道幌延町が追加された。
 また、電気事業審議会では、「地域共生型発電所」という新しい概念を打ち出し、電源地域振興を推進することを提唱しており、これを具体化するための交付金制度が1993年度に創設された。電源開発調整審議会では、電源立地を「国を挙げて支援すべきプロジェクト」と位置付けるとともに、電源開発調整審議会に上程される前の段階(初期段階)における取組が重要であるとし、1993年3月同審議会の下に電源立地部会を設置した。
 立地に関する最近の動向としては1993年度の電力施設計画において、新たに6基の原子力発電所の立地計画が盛り込まれた。
 核燃料サイクル関連施設については、再処理工場が1993年4月に着工したことにより、同社が計画しているすべてのプロジェクトが働きだしたことになる。

10.国民の理解の増進

(1)原子力開発利用に対する最近の世論の状況
 1990年に行われた総理府の世論調査によると原子力発電の必要性について国民の一定の理解は得られていたが、原子力発電の安全性については、半数が安全ではないと考えていた。さらに、信用できる説明主体としては、「テレビ・ラジオなどの報道」等が挙げられている。
 また、1993年に行われた(社)エネルギー情報工学研究会議の世論調査によると、8割近くが原子力発電所を重要であると考えており、7割近くが原子力発電の安全性が確保できると考えている。また、信頼できる説明主体として「テレビ・新聞などのマスメディア」を挙げた人は6割以上であった。
 原子力をテーマとした民間のシンポジウムもいくつか開催されており、1993年9月には大阪市において、プルトニウム利用について推進を主張する人々と反対を主張する人々による初めての討論会が開催された。

(2)原子力に対する国民の理解の増進のための活動の状況
 国や事業者は、安全確保の実績を積み重ねるとともに、その時点で分かり得る情報を迅速、正確に提供することはもちろん安全管理体制の全体構造、当該事故の状況、影響度及び対策について分かりやすい説明に引き続き努力し、原子力に対する正確な理解を求めるとともに、日頃からの誠実な対応により信頼感の醸成を図っていくことが求められている。
 このため、現在、国、地方自治体及び事業者などによって、原子力に対する国民の理解の増進のための活動が種々行われている。また、我が国では、広く国民一般の原子力平和利用についての理解と認識を深めることを目的として10月26日を「原子力の日」と定めている。この日は、1956年に我が国が国際原子力機関憲章に調印した日であるとともに、日本原子力研究会が1963年に我が国で初めて原子力による発電に成功した日である。今年は、30回目を迎える記念すべき年に当たることから、「原子力の日」を従来にも増して広く普及させるため、科学技術庁と通商産業省資源エネルギー庁が共同し、「原子力の日」のシンボルマークを公募、選定し、一般に公開した。
 加えて、現在見直しを行っている原子力開発利用長期計画についても原子力委員会長期計画懇談会の場で、原子力の専門家以外の有職者の意見も参考にするなど、各界の意見を取り入れている。

(3)安全確保の実績の積み重ね
 原子力発電等の円滑な推進を図るためには、安全の確保が大前提である。我が国は、他の国に比べても厳格な安全規制等を行うことにより原子炉施設の安全確保を行っており、安全規制、運転管理及び防災対策について高い実績を持っている。
 今後とも厳重な安全規制と万全な運転・管理の実施、安全研究の充実・強化に積極的に取り組み、より国民の信頼感を得られる体制の強化を図ることが重要である。

(4)原子力分野における情報公開への取組について
 1992年11月から1993年1月にかけて行われた、プルトニウム輸送船「あかつき丸」によるフランスからのプルトニウム輸送等によって、輸送関連情報等の公開についての関心が高まった。原子力基本法におけるいわゆる「公開の原則」とは、原子力の研究、開発及び利用に関する成果を公開することにより、原子力の平和利用を確保するとともに、原子力の安全性等についての国民の理解を深め、原子力開発利用の促進を図るものである。
 他方、核物質防護の観点から、例えば輸送情報(日時、ルート等)は慎重に取り扱われる必要がある。盗取等による不法移転及び妨害等の障害から核物質を防護することは、原子力平和利用を進める上で必要なことであるが、防護のためには警備と情報管理の両面による対応が必要である。また、これらの対応は核不拡散の観点からも重要なものである。
 また、民間企業等が財産権の保護の観点から公開できない技術情報等は、所有者の許諾なしに国が公開することはできないため、申請書の内容でも公開できない部分が生ずることがある。
 しかしながら、いずれにしても、核物質防護、核不拡散、財産権の保護に係る情報といった機微情報等の名を借りて、いたずらに非公開とすることは避けるべきであり、原子力開発利用に関する情報については、可能な限り公開することを基本としている。

(参考)1993年原子力関係予算総表
(参考)1993年原子力関係予算総表


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