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資料

軽水炉高度化推進委員会海外調査概要報告書

通商産業省



1 日程と訪問先
調査の日程と訪問した相手先は次のとおりである。
9月14日
15日
 フランス  CEA、EDF、およびフラマトム
9月16日  フランス
 西ドイツ
 CEAカダラシュ研究所
 EWU
9月18日  西ドイツ  BMFT(連邦研究技術省)
9月21日  米  国  DOE及びNRC
9月22日  米  国  WH
9月23日  米  国  GE
9月24日  米  国  EPRI

2 調査団の構成
団 長  秋山  守  東京大学教授、通商産業省軽水炉高度化推進委員会委員長
副団長  世古 隆哉  東京電力原子力建設部長
団顧問  都甲 泰正  東京大学教授
団 員  園田 直樹  関西電力原子力企画部長
 〃  寺垣 鐡男  中部電力原子力管理部原子力技術課長
 〃  東  有恒  日本原子力発電技術開発部次長
 〃  福本  弘  電力中央研究所軽水炉技術プロジェ〃トチーム次長
 〃  川上 昭二  原子力工学試験センター理事耐震部長
 〃  小貫 亮一  原子力工学試験センター開発部新技術調査課長
 〃  小野 隆裕  発電設備技術検査協会原子力技術部
 〃  益田 恭尚  東芝エネルギー事業本部首席技技監
 〃  藤林  徹  東芝原子力事業部原子炉設計部主幹
 〃  杉野 榮美  日立製作所原子力事業部次長
 〃  西村  章  日立製作所日立工場原子力計画部主任技師
 〃  玉尾 重雄  三菱重工業原子力事業本部軽水炉技術課長
 〃  岩井 正三  三菱原子力工業技術開発統括部長

3 調査結果の概要
3.1 既存炉の高度化
(1)長期サイクル運転
 各国とも長期サイクル運転の実績があり、24ケ月程度までならば技術的に大きな問題はなく、また規制上の問題も特にないとしている。実際に採用されている運転サイクルの長さについては、国あるいは電力会社ごとの種々の事情によって差が出ている。

 米国の電力会社は長期サイクル運転を積極的に実施している。電力会社の採用するサイクルの長さは、各社の置かれた環境、すなわち原子力の比率、季節需要パターン、代替電力発電原価等により変わり、12ケ月から24ケ月まで広く分布している。最近では約3分の2のプラントで18ケ月サイクル運転が採用されている。定検期間が長く、長期サイクルの採用による稼働率向上の効果が大きく、また技術的な問題もないことから、長期サイクルを指向する電力会社が多い。

 EPRIによる最近の調査では、プラントの稼動率はグロスの分析ではあるが、長期サイクルル採用したプラントの方が12ケ月サイクル運転のプラントよりも高くなっており、また長期サイクルを採用しても計画外の炉停止率も高くなっていない。

 尚、長期サイクルを採用する場合、定検時にBOP機器の点検・保守について配慮する必要があるとの見解を示した会社があった。

 フランスは12ケ月サイクル運転を基本としている。かつて18ケ月サイクルの炉心設計の検討を行ったこともあったが、最近、長期的にみた火力を含む全電源設備の経済運用について検討したところ、原子力発電は冬期の電力需要期を避けて、夏期を中心にして定検を行うのが好ましいという結果が再確認された。また燃料費についても評価したところ、3.7%濃縮の燃料を15ケ月(340EFPD)毎に3分の1炉心ずつ取替えるよりも、12ケ月(275EFPD)毎に4分の1炉心ずつ取替える方が有利であることも確認された。この様なことから、今年から4分の1炉心取替用の燃料装荷を開始している。

 西ドイツも、電力需要が冬ピーク型のため、燃料取替を夏期に実施したいという事情がある。又、定検項目が少ないため、通常の定検期間が既に40日以下と極めて短くなっているので、長期サイクルを採用した場合、停止回数は減るが一回あたりの停止期間を多少長くする必要が出てくる可能性があり、稼働率の向上にあまり寄与しないと考え、12ケ月サイクルを標準としている。

(2)定検の合理化
 各国とも法定の検査項目は限られており、その検査周期はおおむね10年というような長い期間で規定しており、毎年発電所を停止した定検を実施させる制度はない。このため、具体的な実施に当たっては各国とも燃料取替計画を基本とし、その中へ検査を折込む形で計画を立てている。

 フランスにおける近年の平均定検期間は約45日(1984年実績、初回定検を除く)である。90万級プラントにおいては定検を3タイプにパターン化し、これらを組合わせて、統一的に計画、実施している。すなわち、初回定検及びその後10年毎に行なわれる完全定検(10週間)、原子炉圧力容器の供用期間中検査の一部を実施するための5年毎の定検(8週間)、燃料取替期間に実施可能な保守点検作業を行う短期定検(5週間)の三つである。

 回転型燃料取替機等、多くの作業用機器が採用されており、定検作業の効率化が図られている。

 尚、EDFでは中央に保全部門を設け、運転・保守の経験を分析・評価し、設計や保守にフィードバックさせている,また、プラントの改造・補修計画立案のための組織としてUTO(運転技術部)内にPWRプラント主要作業計画グループを設け、効率的にこれを行っている。

 西ドイツの定検期間は、1970年代では約60日であったが、着実に減少を続け、1986年では改良工事を含めなければ約5週間である。コンボイシリーズではこれを約3週間に短縮する事を目標にしている。

 コンバインド・スタッド・テンショナー、及びセントラル・マスト・マニピュレータによるUT検査の自動機器の採用により、定検期間短縮及び被ばく低減が図られている。ルース・パーツ・モニター、振動/漏洩/疲労モニター等、各種のオンラインのモニタリング装置が実用化されている。これらのモニタリング・システムの設置によって、要求される検査数を減少させるには至っていないが、運転中に問題の箇所が特定されることにより、定検の準備が十分にでき、定検作業の効率化に役立っている。

 一方、米国における1985年の軽水炉の定検に要した日数は、最良のプラントで42日、平均で130日であった。GEは130日の停止期間の内訳は修繕工事に50日、検査に50日、訓練不足のため15日、さらに計画性の欠如のために10~15日と分析している。

 従って、定検短縮のため、ロボット等の開発に努めてはいるが、これ以外に装置の保修及び取替作業に定検期間が支配されているので、工程短縮のための対策として、検査やサーベイランスの多少よりはむしろ、修繕工事の減少、作業員の訓練及び分りやすい定検計画の作成が重要であるとGEは考えている。

 尚、EPRI,は1970年代から航空産業で使用され効果をあげている信頼性中心保全方式(RCM:Reliability Centered Maintenance)の原子力発電設備への適用について検討しており、RCMはプラントの予防保全に有効であるという結果がでている。一部のプラントでは特定の系統の保全作業をRCMで分析し、予防保全作業の見直しを進めている。

(3)プラントの長寿命化
 フランスにおいては、既に発電電力量の70%を原子力が占めており、原子力発電所の寿命延長が必要となることが予想される。設計寿命以上で運転する場合、その妥当性を規制当局にデータをもって説明する必要がある。そのためには今から検討に着手し、長期にわたる豊富なデータを蓄積する必要があると考えている。

 このために、Long Life Programというプラント長寿命検討計画が進められている。Phase 1は、方針策定及び体制確立であるが、すでに完了している。現在進めているPhase 2では機器の選定、規制面での考察と経済面からの評価を行っており、今年中に報告書がまとまる予定である。Phase 3は、長寿命化の妥当性の確認方法と監視方法を確立するもので、1990年もしくは1991年までに取まとめを行う予定となっている。

 西ドイツのKWUは自社のPWRは炉心と圧力容器内壁との間の水ギャップが大きいこと等から、長寿命化は技術的に問題ないと考えている。

 更に、オブリハイムのような最も古いプラントでもまだ20年程度の運転期間であり、設計寿命に達するまでの間のバックフィットに対する規制当局の将来動向が予測できない現時点で、長寿命化計画に投資することはメリットがないとKWUは考えていて、具体的な計画はない。

 米国では原子力発電所の運転許可期間は建設認可時点から40年と決められている。現在15年から20年経ったプラントも多く、2000年に入ると次々と許可期限が切れるが、新規プラントの建設が困難なこと、建設費が高騰していること等から、長寿命化による電力安定供給、経済性の向上を図ることが重要視されている。

 EPRI及び電力等からなる長寿命化委員会(NUPLEX)を1985年に設置し、官民一体となって検討が進められている。DOEと産業界の協力でPWR(サリー1号)、BWR(モンティセロ)各一基をパイロットプラントに選んで、フィージビリテイ・スタデイを実施し、本年度末(1987年度末)にその結果が取纏められる。

 引き続き、Phase 2として、1991年までの計画で技術面、規制面における具体的検討が進められる。1991年にNRCによる寿命延長に関する安全規制の方針(Policy Statement)が発表される予定である。

 Phase 3はデモンストレーションの段楷であり、パイロットプラントについて運転許可の変更申請をNRCに出し、1993年にはNRCの承認を取得する計画となっている。

 WHは長寿命化の目的は現在の寿命である40年を50年あるいは60年に長期化するのみならず、寿命中期以降に下がる傾向のあるプラントの稼働率を下がらないように高く維持して経済性を一層高めることであるとしている。

 経済性の効果は、寿命と稼働率の向上による利得と、長寿命化のために実施する工事に必要な経費と工事のための停止期間による損失との差によって決まるが、現在の評価では長寿命化はメリットがある。稼働率の低下を防ぐために工事を寿命中に分散して実施する必要があることを考えると、プラントの運転開始後18年位から計画を進める必要がある点を強調していた。

3.2 改良炉と改良技術
(1)改  良  炉
 フランスではフラマトムを中心に150万KW級の新型PWRとしてN4プラントを開発した。

N4プラントは既に1基が1984年、もう1基が1987年より建設されており、運開は夫々1991年10月および1993年10月の予定である。

 従って、N4は既存炉に近いが、フランスで今後建設される原子力プラントの中心となるので、以下にN4の開発目標を示す。
・経済性向上(プラント全体の投資額5%低減)
・利用率向上(現在のフランスの値以上)
・運転性向上(負荷追従、AFC性能、定検短縮)
・被ばく低減(200マンレム/年以下)
・実積を反映した合理化および安全性向上
・大容量化(P4、P4 130万KW級→N4 150万KW級)
 西ドイツにおける新型軽水炉としては、130万KW級のBWR2基が既に運開しており、コンボイと味ばれる130万KW級のPWRは既に3基が建設中である。従って、コンボイPWRも既存炉に近いものであるが、西ドイツにおいては当面BWRの建設計画は無く、今後建設されるのはコンボイPWRが主力とみられるので、以下にコンボイPWRの開発目標を示す。
・経済性向上(建設費、運転費、燃料サイクル費の低減)
・運転性向上(運転自動化)
・保守性向上(検査業務の簡単化)
・被ばく低減
 西ドイツにおいても規制の強化等の理由から建設期間が長期化し、建設費の増大を招いていたため、コンボイプラントでは建設標準化を行うとともに、計画、設計、及び許認可の各段階でも標準化をおこなった。これらの標準化作業には規制当局、電力、および西ドイツの原子力産業界が加わって合意したものである。

 米国では、1970年代後半から、原子力発電所の新規発注が途絶えており、この中断により、軽水炉技術の健全な発達が阻害されるとの危ぐが高まった。このため、軽水炉技術の連続的発展を維持し、1990年代後半に予想される新規発電所発注に備えるため、米国としての新型軽水炉計画が始められた。本計画では、EPRI、電力、および原子炉メーカーが主体となり、開発の一部をDOEが、安全評価をNRCが分担する形で進められている。
国(DOE)の方針
・1991年までに電力の要求に満足するような130万級の標準設計を固め、NRCの設計認定(Certificate)をとる。

・単純化された、より一層受動的(Passive)な安全性を持つ中小型炉プラントの開発を推進する。1989年までにその可能性を検討し、結果が良好であれば、1995年までにNRCの設計認定を取得する。

・これら新型軽水炉の設計はデモプラントを必要としない既存技術を最大限活用したものとする。
 以上の計画実現のため、DOEはGEと日本のABWR、およびCEのSystem 80をベースデザインとした大容量プラント、ならびにGEとWHの中小型炉の開発を支援している。

EPRIの取組み
・規制の安定化
・電力側からの、ALWRの設計や性能に関する要求仕様の取纏め
・60万KW以下の中小型軽水炉が在来の大型軽水炉の代替(オプション)として成立しうるか調査し、可となれば引き続き開発を支援等を中心として計画を推進している。
(2)改良技術
 各国とも信頼性向上、稼働率向上、運転性向上、被ばく低減、定検短縮等に努力している。高度計装制御技術、新型中操盤、ロボットの研究開発を進めており、その多くが実用化されている。知識工学(AI)の原子力への適用について関心が持たれているが、未だ研究開発の段階にあると言える。

(a)高度計装制御技術
 運転員の負担を軽減し、より適切な運転操作を可能とするようディジタル方式の、マイクロコンピュータを用いた計装制御システムの開発が各国で進められている。この例としては、フランスと米国WHでのSG水位制御、GEのプラント制御系としてのNUMACシステム等があり、この他西ドイツではルースパーツや振動、漏洩等をオンラインで監視できるモニタシステムを開発している。さらに、マンマシン・インターフェース面で改良を加えた改良型の制御室設計、例えば西ドイツのPRINS(制御盤)やフランスのS3C(シミュレータ)等の開発も進められている。

(b)ロボット応用技術
 定検短縮あるいは被ばく低減にすでにロボットが活用されている。フランス、西ドイツ等のマスト式クレーンによる燃料、制御棒の取扱い、西ドイツの圧力容器や配管用の溶接部のUT検査用ロボット、米国や他の国々での蒸気発生器細管点検補修用ロボット、さらに検査のみでなく、配管溶接加工等多用な機能を持つロボットも開発され、一部は実用化されて、被ばく低減、工程短縮に大きな効果をあげている。

(c)プラント運転操作の自動化
 自動化は運転員の負担軽減を主目的とした通常運転時用のものと、事故時の適切な収束をはかる異常時対応用のものとが開発されている。

(d)知識工学の応用技術
 運転操作の補助機能、特に監視機能への応用が試みられている。フランスの燃料操作クレーンの運転補助、西ドイツでのFBR監視制御用エキスパート・システム、米国でもWH、GEとも異常時の対応とアラーム等にAI応用技術が開発されている。いずれのシステムも基礎的段階で、今後の発展が期待されるところである。
(3)負荷追従運転
 負荷追従運転は、全発電量に占める原子力発電割合の大きいところほど盛んに行われている。特にフランスでは原子力の発電量が70%程度を占めるため、主力の90万KW級PWRで多数の負荷追従逆転が行われている。これに対し、米国と西ドイツ等ではプラント毎に事情が異なり、一部のプラントでは季節によって日負荷追従運転がなされている。

 プラント側の能力としては、いずれの国も現状の要求に対し十分対応可能であるとしている。燃料の改良については、GEではバリア燃料を開発しているが、PWRではこのために特別な設計改良は行っていない。

3.3 燃料改良
(1)高燃焼度化
 フランス、西ドイツおよび米国とも、高燃焼度化の方向は日本と同じであるが、そのインセンティブは各国で多少の差がある。

 フランスは前述の通りプラントの運転は1年サイクルを基本とする方針を再確認した。また西ドイツは従来から1年サイクルでプラントを運転している。このため、両国とも長期サイクルに対応する炉心燃料の高燃焼度化という目的ほ無い。1年サイクルでは、長期サイクルに比べて取替燃料体数が少なく、取出し燃焼度が高めになり有利であるが、それでも燃焼度を高めて使用済み燃料体数を減らし、燃料サイクル費を低減することが目的となっている。

 米国では、多くの電力会社が18ケ月サイクル運転を実施し、この点がフランス・西ドイツと異なるので、高燃焼度化の目的も違ってくる。すなわち長期サイクルで同じ濃縮度の燃料をそのまま使用すると取替燃料体数が多くなり、取出し燃焼度が低下して燃料サイクル費が高くなる。従って、取替燃料体数が多くならないように保つため、濃縮度を上げて高い燃焼度が得られる燃料が必要となる。

 現在の高燃焼度の目標値については、フランスでは従来の低濃縮度の燃料を1年サイクルで使用し続ける場合(ケース1)をベースとして、長期サイクル(15ケ月)のもとに1/3炉心程度の高濃縮度の燃料取替を行う場合(ケース2)と1年サイクルで1/4炉心程度の同じ高濃縮度の燃料取替を行う場合(ケース3)とを比較評価して、ケース3が42GWD/Tの高燃焼度が得られ経済的に有利であると評価し、この採用を決定したものである。
ケース 炉心取替 e GWD/T EFPD
1 1/4 3.25 33 290
2 1/3 3.70 39 340
3 1/4 3.70 42 275
 西ドイツの取出平均燃焼度の目標値は次の通りである。(GWD/T)
PWR 現在 35~40 目標 45~50
BWR 30~35 38~45
 米国での目標値は次の通りである。(平均燃焼度GWD/T)尚、PWR(WH)の場合は18ケ月に対応した約1/3炉心取替である。
現 在 5年後 10年後
PWR 36~40 40~45 45以上
BWR 32 38 45
 フランスのEDFは将来、1/5炉心取替を考慮して、~60GWD/Tの高燃焼度化を考えている。フラマトムでは燃料棒の改良、集合体の構造改良、材料の見直し等、幅広い検討を進めているが、先行燃料の照射を1990年から、生産を1994年から始める目標である。

 西ドイツのKWUは燃料サイクル費からみた最適燃焼度は55GWD/T程度と考えている。しかしながら、一度にそこまで高燃焼度化を進めるのではなく、段階的にステップ毎の開発を進める方針である。高燃焼度化に伴う技術的課題としては、PWRにおいては被覆管の腐食、BWRではFPガスの放出率があり、又、その他の条件としては、新燃料での濃縮度が4%という再処理工場の受入れ仕様がある。

 米国では以前から高燃焼度の燃料照射を積極的に進めている。従来設計の燃料では前述の目標値をほぼ満足する実績がある。更に、高燃焼度用に最適設計された新型燃料の先行照射も進められている。45GWD/T以上の燃焼度を目標とした燃料開発は、電力会社のニーズに合せて進めるが、例えば、WHのVANTAGE+燃料は約50GWD/Tの燃焼度に耐えるよう改良し、1990年代に供給できる目標で開発を始めている。

 米国では各電力会社が個々の経済パラメータを用いて最適燃焼度の評価を行っているが、ウランの手配状況、資金の調達金利などで最適点が異なる。WHが解析した18ケ月サイクルでの1例では、最適点が45GWD/T程度で、他の例より低めである。

 その他、フランス、西ドイツ、米国とも省ウランを含めた経済性向上を意図して、設計および運転方法を積極的に進めている。天然ウランの低減効果を西ドイツの例で述べると、高燃焼度化による約6%の他に、天然ウランブランケットのような設計改良により2~4%、またコーストダウンのような運転方法の改良により約9%等、かなりの効果を上げている。

(2)MOXの軽水炉利用
 フランスでのMOXの軽水炉利用(プルサーマル)計画は積極的なものである。すなわち、今年(1987年)saint-Laurent B1炉に16体(約8トンMOX)を装荷し、1988年には32体、1989年には64体と増加して、1992年以降は128体程度(約60トンMOX)とする予定である。このため、100トンMOX/年規模の新工場(MELOX)を1992年運開予定で建設することを考えている。

 尚、プルサーマルの経済性については、この燃料の成型加工費と再処理費が夫々ウラン燃料の3~5倍と1.25倍であっても、ウラン費と濃縮費の節約により成立つと考えている。

 西ドイツにおけるMOXの計画はフランスより先行している。1985年頃からこの燃料の生産量も増え、今年(1987年)は約20トンMOX程度となっている。

 従来の計画ではPWRでの利用に限定されていたが、BWRでの利用も新たに計画され、16体のBWR MOX燃料を1988年に加工する。

 尚、30%以上のMOX炉心(高MOX)については、技術的には可能であるが、高転換炉の開発もあり、現在は考えていない。

 米国ではかつてMOX利用の開発をおこなった実績があるが、現在は再処理路線にないため、計画はない。

3.4 高転換型軽水炉
 フランスは再処理路線を採り、最終的にFBRによるプルトニウムの有効利用を考えているが、この実用化の遅れが予想されるため、プルトニウムを軽水炉で利用する方向である。しかし、プルトニウムの一層の有効利用を図る目的で、短期的にはスペクトロシフト・ウラン炉心、長期的には準ちよう密プルトニウム炉心を狙ったRCVS(reactor Convertible & Variable System)のフィージビリティ研究及び基礎実験をフラマトム、CEAで進めている。

 1984年に始まった研究は1987年末に終了の予定で、フラマトム、CEAから報告書が出され、EDFがこれを評価し、次の開発ステップに進むべきか判断する予定となっている。

 開発計画としては、フラマトムが設計開発を担当し、ウラン体系でもプルトニウム体系でも使えるN4プラント(150万KW級)ベースのPWRの構想を作り、CEAは格子体系、炉物理、熱水力、安全性などの基礎研究を行なって、両者が一体となって研究を進めてきた。EDFの評価が良ければ次の計画で進める予定である。
1988年  予備概念設計
1989年~1992年  予備設計
1996年~1997年  着   工
2000年初  導   入
 経済性についてのEDFの考え方は、短期的には発電コストが低いこと、長期的には天然ウランの節約であると言っているが、フラマトムの試算は在来のPWRに対比して、次に示す運りである。
燃料サイクル費  30%減
プラント建設費  N4と同等目標
天然ウラン節約  50%(2,050年時点で、U、Puの組合わせで)
 開発中の炉型は、プルトニウム燃料でもウラン燃料でも使用できるスペクトル・シフト炉心で、前者の場合はブランケットを用いた準ちよう密炉心により高転換率を狙い、後者の場合は転換・バーナー炉心を目指している。
 西ドイツはKWUを中心としてカールスルーエ研究所(KfK)、スイスの原子炉研究所(EIR)、ブランシュバイク大学の共同による体制で、基礎研究と設計開発を1985年から進めている。この炉型(KHCR:KWU HCR)は余剰プルトニウムの有効活用と天然ウラン節約の上で高転換率のものが開発できれば1995年~2000年までに導入する考えを持っている。更に、経済性(燃料サイクル費)向上のため、70GWD/Tの燃焼度を目指している。
 開発計画として、次のステップで進める構想である。
1985年~1988年  炉物型、熱水力に関する基礎研究
1985年~1990年  安全性のコード開発及び評価
1985年~  炉心、燃料要素、照射試験
1995年~2000年  導入
 経済性については、燃料サイクル費は在来PWRと同等、プラント建設費は在来PWRの103%以内を目標としている。この炉心の特徴としては、プルトニウム燃料を専焼するちよう密炉心で、被覆管はステンレス鋼を用い、プルトニウムの装荷量が多い。

 米国は再処理によるプルトニウムのリサイクルを基本方針にしていないので、政府機関、電力、メーカーとも高転換型軽水炉への関心が無い。

3.5 中小型炉
 米国では前述のDOE、EPRI及び産業界が進めているALWRプログラムの一環として、60万KWの軽水炉の研究開発が進められている。

 これは大多数を占める中小電力会社から、電力需要の低成長に沿った、初期投資が少なく、建設と運転が容易で、石炭火力と競合しうる中小型原子力発電所を望む声が起り、これに応えることがアメリカの原子力産業の活性化につながるという官民の一致した判断にもとずくものである。このような事情はアメリカ特有のものであり、現在GEとWHがそれぞれ60万KWの新型BWR(SBWR)と新型PWR(AP-600)の概念設計研究を進めている。

 この概念の特徴は、プラントの単純化でコストダウンを図り、安全系統の静的化で事故時の運転操作の不要化を図ったものであるが、いわゆる固有安全炉とは異なり、在来の軽水炉技術を最大限に活用して、実証炉を必要としない設計のものである。1989年に研究成果を取りまとめ、技術面、許認可性、市場性の点で成立しうると評価されたならば、引き続き1995年までにNRCの設計認定(Design Certification)を取得する計画で設計検討が進められることになっている。

 以下にSBWRとAP-600の技術的な特徴を示す。
SBWR  自然循環(コスト低減、システム単純化)
 非常用復水器(液体の放出なしに圧力上昇保護)
 蒸気インジェクタ(小破断に有効なPassive手段)
 重力落下式炉心冷却系(Passiveな安全系、コスト低減)
 Passiveな格納容器冷却系“ウオータウォール”
(運転員の緊急操作不用)
AP-600  低出力密度炉心(燃料サイクル費低減、熱的余裕大)
 大型加圧器(過渡特性改善)
 高慣性キャンドモータ(信頼性向上、十分な実績)
 ループ配管の単純化(ISI単純化、圧損低減)
 静的な格納容器冷却系

 フランスと西ドイツでは、かつて中小型軽水炉が検討されたことはあったが、両国とも電力会社が全く関心を示さなかったので、具体的な検討に入らないまま現在に至っている。

(参 考)

軽水炉高度化推進委員会の設置について

1 軽水炉改良標準化計画の推進

(1)我が国の軽水炉は、米国からの技術導入によりスタートしたが、導入の初期段階において運転上数多くのトラブルを引き起こし、稼動率が低迷する状態となった。このため、軽水炉を我が国において定着化させ、安定した運転を維持するとの観点から、昭和50年に通産省に原子力発電機器標準化調査委員会及び原子力発電設備改良標準化調査委員会(機械情報産業局長及び資源エネルギー庁長官の懇談会)が設置され、自主技術による軽水炉の信頼性、稼動率の向上、従業員の作業放射線量の低減等を目指した改良標準化計画がスタートした。

(2)第1次(50~52年度)、第2次(53~55年度)改艮標準化計画においては、信頼性の向上、被ばく量の低減等の成果を挙げたが、さらに56年度からスタートした第3次(56~60年度)改良模準化計画においては、第1次及び第2次の成果を踏まえつつ、我が国に適した軽水炉の確立を目指して、内外の優れた技術を集大成し、信頼性、経済性、被ばくの低減等に関して一段と高い水準を目指して130万KW級の改良型軽水炉(A-BWR、A-PWR)の開発を行った。

2 軽水炉を取りまく環境の変化とそれへの新たな対応

(1)我が国の軽水炉は、改良標準化計画を通じ、石油代替エネルギーの中核として開発・導入が進められ定着段階を迎えるに至ったが、今後我が国原子力発電の一層の推進を図っていくためには、以下のような最近の状況を踏まえ、軽水炉の技術開発について新たな対応策が必要となってきている。
① 電源構成に占める原子力発電のウエイトの増大
 昭和41年に我が国で初めて商業用原子力発電が開始されて以来、これまでその開発が着実に進められてきた結果、昭和61年度において、原子力の発電量シェアは全国ベースで27%を占めるに至り、今後予定されている新たなプラントの稼動をも考慮した場合、この傾向はさらに増大するものと見込まれる。

② 軽水炉時代の長期化
 前回の原子力委員会原子力開発利用長期計画において2010年頃と想定されていた高速増殖炉の実用化時期は、ウラン需給の緩和、経済性向上のための技術開発の必要性等の要因から相当程度遅れる見通しであり、軽水炉が電力供給の主力である期間は長期化するものと予測される。

③ 核燃料サイクルの進展
 核燃料サイクルは、総合的な原子力システムの中で、炉型戦略と整合性をとりつつ推進する必要があるが、軽水炉時代が長期化することが予想される中で、プルトニウムの利用を軽水炉において如何に図るかが今後の課題となっている。

④「安全性」の一層の確保
 昨年4月、ソ連チェルノブイル原子力発電所4号機で発生した事故により、原子力の安全確保の重要性が一段と認識されるようになり、安全性・信頼性の一層の向上を図る必要がある。

⑤ 経済性の向上
 原子力発電は燃料比率が小さいことから、燃料費の変動に対し安定性があるとともに、プラントの運転年数経過に伴いその発電コストは有利になる特色を有しているが、電力コスト全体に与える影響等を考慮し、今後とも一層の経済性向上が望まれる。
(2)新たな対応の方向
 軽水炉を取りまく環境の変化に対処し、今後とも準国産エネルギーである原子力就中その中核となる軽水炉の開発・導入を着実に進めていくためには、以下の観点を踏まえた軽水炉技術の一層の高度化を推進していくことが必要である。
① 安全性・信頼性の向上
ア)安全設計概念の高度化・・・高度安全システム、新立地技術、免震構造、高度耐震技術等の確証、実証

イ)運転管理システムの高度化・・・マンマシンシステムの開発

ウ)被ばく量の低減・・・インスペクションフリー材料の開発
②電力供給の中核となる上での要請
ベースロードから負荷追従へ・・・負荷追従対応燃料の開発、確証

③ 核燃料サイクルへの対応
核燃料サイクルとの整合・・・燃料、再処理、廃棄物に関する量的、技術的評価・検討
プルトニウムの利用・・・プルサーマルの推進、高転換型軽水炉に関する評価、検討
④ 経済性の向上
ア)既存炉、改良型炉の高度化・・・各種実証試験の推進
イ)運転サイクルの長期化・・・高燃焼度(長寿命)燃料の開発、確証
⑤ その他(国際協力の推進)
地域の実情に応じた適正炉・・・中小型軽水炉に関する評価、検討

3.軽水炉高度化の推進体制及び検討事項

 上記の観点から、通産省において軽水炉技術の高度化を推進するため、機械情報産業局長及び資源エネルギー庁長官の懇談会である「原子力発電機器標準化調査委員会」及び「原子力発電設備改良標準化調査委員会」を改組し、「軽水炉高度化推進委員会」とし、軽水炉技術の高度化に資する国(原工試等)及び民間(電力共研等)で行われている研究について総合的に評価・検討するとともに、国が支援すべき施策についても検討する。

 なお、軽水炉高度化の進捗状況、特に政策決定を必要とする事項については、適宜、総合エネルギー調査会原子力部会軽水炉高度化小委員会に報告する。

(1)構 成
(総合エネ調原子力部会)
(部会長:山下 勇)


(2)検討事項



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