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時の話題

JT-60高性能化計画の概要

(昭和62年9月1日第88回核融合会議資料)

原子力局技術振興課



 JT-60における臨界プラズマ条件達成以降において、JT-60の現有設備を最大限に活用しつつ、一部設備の改造や機器の追加を行い、JT-60のプラズマ性能の大幅な向上をはかる高性能化研究を実施し、核融合炉心の先端的開発を進めるとともに、次期装置のデータベース確保に務める。

 この計画は、昭和65年度以降、JT-60が世界の核融合研究開発に応分の貢献を果たし、米欧の大型トカマクに見劣りしない意義を保つためにも重要であり、改造に必要なリードタイムからも、63年度より発足させる必要がある。

 高性能化研究においては、臨界プラズマ条件達成以降の最も重要な炉心プラズマ開発課題である大電流化による閉じ込め性能の向上と高密度高効率電流駆動によるトカマク定常化の開発研究を中心として進める。

 また、高性能化研究のそれぞれの段階において、プラズマ特性に適した高度計測装置の整備をすすめ、質の高い炉心プラズマ研究の進展をはかる。

 JT-60の大電流化は、真空容器及びポロイダル磁場コイルを全面的に改造して、6MAクラスのD断面ダイバータプラズマを生成・制御し、閉じ込め特性の向上(Hモード化)とベータ値の大幅な改善をはかる。

 非誘導電流駆動によるトカマク定常化研究は、現有の高周波加熱装置を活用した2GHzのLH波を主として用いる低密度高効率電流駆動の段階から、周波数のより高いLH波やあるいは速波等を用いる高密度電流駆動装置を導入する実験段階に進むことによって、定常炉心の先端的研究を進める。

 JT-60の臨界プラズマ条件達成によって、炉心プラズマ性能を大型トカマクプラズマで確認し、次期装置の基本設計、ついで詳細設計を開始するが、JT-60の大電流化研究によって、次期装置の炉心運転条件により近いプラズマ形状、プラズマ電流値における核燃焼以外の炉心プラズマ制御技術を確立し、次期装置建設に着手出来るデータベースを確保する。さらに、トカマク定常化研究の推進によって、次期装置運転の第2段階に計画されている定常炉心を目指す運転の基礎技術を開発することができる。

1.はじめに

 JT-60は、臨界プラズマ条件の達成を目指し、加熱条件の最適化、不純物の制御、及び磁場配位の最適化等の実験研究を進めて来た。臨界プラズマ条件の達成以降においては、JT-60の装置設備を最大限に活用しつつ、一部設備の改造や機器の追加によって、JT-60のプラズマ性能を飛躍的に向上させる高性能化研究を実施する。

 この研究においては、臨界プラズマ条件達成後の最も重要な炉心プラズマ開発課題である大電流化による閉じ込め性能の向上と高密度高効率電流駆動によるトカマク定常化の研究を行い、核融合炉心の先端的開発を進めるとともに、次期装置のデータベース確保に努める。

2.目的と意義

〈大電流化〉
 近年のトカマク研究において、プラズマの閉じ込め時間やベータ限界値が、プラズマ電流の増加とともに向上することが実験的にほぼ確立してきた。

 また、炉心プラズマの形状についても、大きなプラズマ電流によって閉じ込め特性を向上させるために、ダイバータ付D断面プラズマの採用が最も有効であることが明らかになってきた。したがって、JT-60においても、最小限の改造によって、従来の2~3MAを大幅に上回る6MAレベルの電流値をもつD断面プラズマによって次のような研究開発を優先して行い、核融合炉心プラズマの一層の高性能化に努める。

(1)閉じ込め特性の向上(Hモード化)と加熱の最適化
(2)高ベータ化
(3)長パルスD断面プラズマ制御

 なお、わが国の核融合次期装置をはじめ、各国の次期装置設計においても、近年、その炉心設計では、ダイバータ付D断面プラズマを選定し、プラズマ電流値も数年前の設計値5MAから10MA程度に増大している。

〈トカマク定常化〉
 トカマク炉の定常化は、核融合炉開発における重要課題であり、わが国の次期装置計画や国際熱核融合実験炉ITERにおいても、定常化研究の強力な進展を見込んでいる。したがって、トカマクにおける定常化運転を目指して、JFT-2M、ダブレットⅢ等で得られた成果を踏まえて、JT-60において研究開発を行う。

 定常化研究は、炉心構造を最もよく模擬できる6MAレベルのダイバータ付D断面プラズマにおいて研究開発を推進することが技術的に最も妥当であり、その成果は今後の核融合研究開発を進めるうえで、極めて貴重である。なお、JT-60における予備的な電流駆動実験においては、電子密度1×1019m-3以下の低密度のプラズマについて高効率電流駆動を2MAレベルで実現しており、これを高密度、大電流領域に拡張することが最大の課題である。

3.計画の概要

3.1 全体計画
 高性能化研究は、第1図の全体計画に示す通り、3段階に分けて実施する。

 第1段階は、臨界プラズマ条件の達成後ただちに開始するものであり、すでに62年度より製作を開始したペレット入射装置及び63年度に導入する高効率電流駆動部をJT-60の既設機器と組合せ、プラズマ高密度化、高効率電流駆動等の研究を進める。

 第2段階では、JT-60の真空容器及びポロイダル磁場コイルを全面的に改造し、6MAのD断面ダイバータプラズマを生成して閉じ込め特性とベータ値の大幅な向上をはかる。そのために、63年度より改造に着手する。

 また、第3段階では、高密度電流駆動装置の導入により、トカマク定常化の先端的研究を展開する。

 一方、ポロイダル電源及び第一壁の増強によって、放電の長パルス化(5秒→10秒~20秒)を目指す。

 以上の高性能化研究のそれぞれの段階において、プラズマ特性に適した高度計測装置の整備を進め、質の高い炉心プラズマ研究の進展に努める。

第1図 JT-60高性能化計画


3.2 大電流化計画
 JT-60のトロイダル磁場コイルの内径(4m)にほぼいっぱいの真空容器を新に設置し、プラズマ電流の励起と平衡維持に必要なポロイダル磁場コイルも全面的に改造して大型D断面プラズマ(ダイバータ付、電流値6MA)の発生を可能にする。また、ポロイダル電源と制御系の一部改造も同時に実施する。改造後のプラズマ断面の一設計例を第2図に示す。

 この大電流化計画においては、核融合炉に類似の炉心形状と炉心パラメータをもつプラズマの閉じ込め特性、特にHモードの発生と高ベータ化についての研究を進め、炉心プラズマ性能の大幅な向上を図る。大電流化により、JT-60のプラズマは、体積で約2倍、電流値で3倍弱となる。また、その性能は、第3図に示すように、閉じ込め時間について2~3倍、核融合積<nτET>に関して5倍強の向上が期待出来る。


第2図 大電流化計画図


第3図 電流増強に伴なう性能向上

3.3 トカマク定常化計画
 非誘導電流駆動方式によるトカマク定常化研究は、2GHzのLHの波を主として用いる低密度高効率駆動実験の段階と、周波数のより高いLH波やあるいは速彼等を用いる高密度電流駆動実験の段階に分かれる。

 現有の2GHz帯LH波による予備的電流駆動実験において、JT-60はすでに、駆動電流2MAの電流駆動を低密度領域(1019m-3以下)で実現し、トカマク定常化研究における最先端の位置を占めた。今後、JT-60に現在設置されているこの周波数帯のLH加熱装置用ランチャーを電流駆動用ランチャーに逐次置換して行くことによって駆動用入力を増加させ、駆動電流の増大(~2.5MA:高性能化実験(1)→~5MA:高性能化実験(2))と高密度化(1×1019m-3→2×1019m-3)に努める。

 高性能化実験(3)においては、高密度電流駆動装置の導入による高密度領域(3~5×1019m-3)での大電流駆動実験によって、トカマク定常化を目指す研究開発を進める。2GHzLH波電流駆動の密度上限は2~3×1019m-3であるので、高密度電流駆動の方式としては、4GHz帯のLH波あるいは速波を当面の候補とし、その選択は、JFT-2MやDⅢ-Dにおける成果、さらには、JT-60のその前段階での予備的研究の結果により決定する。

 以上に述べた定常化研究の段階毎の電流駆動のパラメータ領域を第4図に示す。



第4図 電流駆動のパラメータ領域

3.4 高度計測装置の開発整備計画
 高性能化研究のそれぞれの段階において生成されるプラズマの挙動をより詳細に計測し、プラズマ性能の一層の向上をはかるため、高度計測装置の開発整備を段階的に進める。本高度計測装置の整備により、以下のような炉心プラズマ開発上の重要課題の解明を行う。
a.電流駆動プラズマの解明
 非誘導電流駆動は、プラズマ粒子の非マックスウェル速度成分によって生じる。したがって、電流駆動の機構・特性の定量的把握と一層の高効率化を図るためには、速度分布の高精度計測が不可欠であり、このマックスウェル分布の計測系を整備する。

b.プラズマ閉じ込め特性の解明
 トカマクプラズマ閉じ込め特性、特にHモード発生機構の解明のためには、電子流分布、イオン流分布の詳細な測定、及び閉じ込め特性を強く拘束していると考えられるプラズマ電流分布の高精度計測が重要である。従来の計測装置では、イオン流に関してはプラズマ中心部しか計測できず、また、プラズマ電流も径方向の平均値しか計測できない。このためプラズマ断面での電流分布計測系及びイオン流分布計測系の高精度化をはかるための開発整備を行う。

c.大電流D型断面プラズマの高精度計測
 プラズマ断面の非円形化に伴う2次元分布計測の高精度化、プラズマ電流の増強に伴う境界プラズマ計測の充実、及び高ベータ特性計測の導入等をはかる。

d.先端計測技術開発
 将来の核融合次期装置の計装につながる核反応粒子計測、定常磁場計測、実時間電流分布計測等の計測技術開発を推進する。
3.5 ペレット入射実験計画
 ペレット入射により、燃料粒子をプラズマ内部から供給してプラズマ性能の向上(高密度化、閉じ込め向上)をはかることが期待できる。JT-60のペレット入射装置は、
  ペレット寸法:2.3mmφ×2.3mm~4.2mmφ×4.2mm
  ペレット速度:1.9km/s
の性能を有し、63年度後半の高性能化実験(1)において稼動を開始する。

4.次期装置開発計画との関連

 JT-60は、臨界プラズマ条件の達成から高性能化研究の推進によって、次期装置に必要な炉心プラズマ開発の中枢的役割りを果す。その主要な関連を第5図に示す。

(1)JT-60の臨界プラズマ条件達成による次期装置基本設計の開始
 JT-60における臨界プラズマ条件の達成により、閉じ込め則やベータ値限界等の炉心プラズマ性能を大型トカマクプラズマにおいて確認し、次期装置の基本設計及び詳細設計の開始を可能にする。

(2)JT-60大電流化研究により、炉心プラズマ 制御技術を確立し、次期装置建設に着手
 JT-60の大電流化研究により、次期装置炉心を構成するダイバータ付非円形プラズマ模擬し、次期装置運転条件により近いプラズマ電流値における核燃焼以外の炉心プラズマ制御技術を確立することによって、次期装置の建設に着手する。あわせて、安定制御(電流分布制御、ディスラプション回避等)の向上による次期装置炉心改良に寄与する。

(3)JT-60の定常化研究推進による次期装置定常炉心の基盤技術の確立
 次期装置運転の第2段階においては、定常炉心を目指す運転が計画されており、その実現に向けて、JT-60において定常化研究を推進し、基盤技術を確立する。


第5図 JT-60高性能化研究と次期装置開発

5.他の大型装置における高性能化計画

 トカマク研究の進展に伴い、世界の中・大型トカマク装置で各種の高性能化が計画され実施に移されている。そのなかでもとくに、プラズマ電流増強による閉じ込め特性とベータ限界値の向上並びにダイバータの採用によるHモード化が顕著である。これを第6図の3大トカマクについて比較すればより明らかである。
* 米国はTETRの改造によるCIT計画を推進し、プラズマ電流を2.5~3MA(リミタ)から一気に9MA(ダイバータ)、10MA(リミタ)に引き上げ短パルスながら自己点火条件の達成を目指している。TFTR/CITの稼動は1993年である。

* ECのJETではLモード閉じ込めの困難を克服するため、1985年急拠ダイバータ放電を導入し、3MAのHモード生成に成功した。その後電流増強工事に着手し、3MA(ダイバータ)/5MA(リミタ)→4MA(ダイバータ)/7MA(リミタ)の高性能化工事を今夏には完了する。

 さらに、1990年には、6MA(ダイバータ)への改造計画が予定されており、閉じ込め特性の一層の向上を目指している。JETの最終性能は、JT-60の高性能化後のものとほぼ同等であるが、弱磁場(3.5T:4.2T)であり、小アスクペクト比(2.4:3.1)である点で次期装置の模擬として不十分な面がある。
 一方、定常化研究については、現在JT-60が世界に抜きん出た地歩を占めている。JT-60のLH波設備は、発振周波数が2GHzであり、これによる電流駆動プラズマの密度上限は2~3×1019m-3であるが、今後、高密度プラズマに対する効率の良い電流駆動方式を開発することが、トカマク定常化の主要課題である。そのため、外国の中・大型装置(JET,TORE SUPRA;仏、FTU;伊)では、3.7~8GHzの高い周波数のLH波によって、5~10×1019m-3程度の高密度プラズマの電流駆動実験が計画されている。

 また、速波(100GHz帯)や電子サイクロトロン共鳴波(100GHz帯)を用いて高密度高効率電流駆動実験がJFT-2MやDIII-Dで進められており、一方、NBIによる電流駆動についても、すでにJETで600kA程度の駆動電流を得ている。


第6図 三大トカマクの開発計画




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