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昭和61年原子力年報(3)



(3)プルトニウム利用に向けた研究開発の進展
イ)高速増速炉
 動力炉・燃料開発事業団において、現在、原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の昭和67年度臨界を目指した建設工事が進められている。

 実証炉の開発については、原子力委員会は、昭和61年5月、高速増殖炉開発計画専門部会を設置し、現在高速増殖炉の開発の長期的な進め方、研究開発に関する推進方策、実証炉の基本仕様等の評価検討等について、調査審議を進めているところである。

 また、我が国としての高速増殖炉開発を一本化して推進するため、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力発電(株)、日本原子力研究所、(株)電力中央研究所の四者は、昭和61年7月、高速増殖炉研究開発運営委員会を発足させ、実証炉以降の諸課題を四者で協議・調整し効率的に分担して進めることとしている。

ロ)新型転換炉及び軽水炉によるプルトニウム利用
 実証炉「大間原子力発電所」については、昭和61年8月のATR実証炉建設推進委員会においての建設計画の了承に基づき、建設・運転の実施主体である電源開発(株)は、昭和66年4月着工、昭和72年8月運転開始を目指して、建設準備を進めている。

高速増殖炉の開発経緯及び今後のスケジェール


新型転換炉の開発経緯及び今後のスケジュール


 一方、軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)については、日本原子力発電(株)敦賀1号機(BWR)に昭和61年7月MOX燃料体2体が装荷された。

ハ)MOX燃料加工及び高速炉燃料の再処理
 MOX燃料加工については、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」用(5トンMOX/年)の燃料加工施設の建設が進められており、また、新型転換炉実証炉用(40トンMOX/年)の燃料加工施設の建設準備が進められている。

 また、高速炉燃料の再処理技術については、東海再処理工場の経験を踏まえ、燃料の溶解、溶媒抽出等のプロセス評価試験、モックアップ試験等の研究開発が進められている。

プルトニウム燃料加工の開発スケジュール


(4)その他主要な研究開発の進展
イ)高温ガス炉
 原子力委員会の高温ガス炉研究開発計画専門部会は核熱利用の需要の動向、高温ガス炉研究開発の意義、今後の高温ガス炉研究開発の進め方等について検討を行い、昭和61年8月、高温ガス試験研究炉を早急に建設することが適当である旨等を述べた中間報告をとりまとめた。

ロ)放射線利用
 放射線利用は、医療、工業、農林水産業等の幅広い分野で利用されている。昭和59年度から放射線医学総合研究所において、重粒子線がん治療装置の研究が行われているほか、先端科学技術分野へのイオンビームの利用等放射線利用の高度化等を進めるため、日本原子力研究所等において、放射線ハイテク研究に着手している。

ハ)原子力船
 現在、むつ市関根浜に新定係港が建設されており、港湾施設については、昭和62年度末の完成、また附帯陸上施設については、昭和63年度末の完成を目途に建設が進められている。

ニ)核融合
 日本原子力研究所の臨界プラズマ試験装置(JT-60)については、昭和62年4月には加熱装置の据付調整が完了され、本格的加熱実験が開始される予定であり、昭和62年末には臨界プラズマ条件を達成できる見通しである。

(5)原子力産業の状況
イ)昭和59年度における原子力関係の売上高は前年度比26%増の1兆7,200億円余りとなっており、原子力市場は急増しており、4年間で2倍以上の伸びを示している。また、原子力関係輸出は、前年度の147億円から238億円へと急増した。

ロ)我が国の原子力産業による研究開発状況を調査すべく科学技術庁は昭和61年4月に原子力開発利用状況調査を実施した。その概要は以下のとおり。

 我が国の鉱工業と電気事業者による原子力関係研究開発支出高(外部からの委託費を含めない実質額)は昭和59年度において約1,110億円にのぼる。このうち鉱工業が790億円、電気事業者は320億円である。

 鉱工業において、研究開発支出高と原子力関連売上高との比で示される研究投資率は4.5%であり、一般産業のそれが2.3%(昭和58年度)であることを勘案すると高い値といえ、原子力産業は研究開発により積極的に取り組んでいる産業と考えられる。

さらに、海外への技術提携支出高は116億円であり、研究開発支出高(790億円)に対し高い比率を示している。

 鉱工業による分野別の研究開発支出高をみると軽水炉が420億円と全体の53%を占め、以下、再処理・廃棄物処理処分が70億円(8.8%)、RI・放射線機器、利用が67億円(8.4%)、高速増殖炉が59億円(7.5%)、ウラン濃縮が47億円(5.9%)と続いている。また、研究投資率については、軽水炉は3.6%と全体平均をやや下回り他分野に比べ研究開発段階から事業化の段階により進んでいると考えられるのに対し、高速増殖炉が30.7%、ウラン濃縮が19.7%、燃料が14.0%、RI・放射線機器、利用が13.2%とこれらの分野においては研究開発投資率が高いことが示されている。

原子力関係研究開発支出高

各産業の研究投資率


(6)国際協力と核不拡散
イ)国際協力
 軽水炉技術については、我が国の軽水炉運転実績が極めて良好なことから、我が国に関心を寄せる国が多く、昭和61年4月には、OECD/NEAの「原子炉スクラム頻度低減化シンポジウム」、日米原子力学会の「原子力プラントの熱流動と運転についての国際会議」、日本原子力産業会議の「軽水炉技術高度化に関する国際会議」が相次いで開催された。

 核融合分野では、昭和61年1月に、日本、米国及び欧州共同体(EC)が、大型トカマク装置について情報交換、人材交流等の国際協力を進めるための「三大トカマク協力取決め」に署名した。

 原子力施設の廃止措置については、昭和60年9月、OECD/NEAのもとで、各国での解体技術に関する情報交換を内容とした国際協定がとり決められた。

 また、日中原子力協力協定は、昭和61年7月10日協定の効力発生のための外交上の公文の交換が行われ同協定は同日から発効した。

ロ)核不拡散
 日米原子力協議については、第13回協議(昭和60年11月)以降「包括同意方式を導入し、我が国として十分な利点を得ることを前提として協議改定に応じる」との方針で協議に臨むこととし、15回協議(昭和61年6月)においては、包括同意方式を導入した日米間の新しい枠組の検討が大きく進展した。

 保障措置の改良や核不拡散に関する新しい国際制度についてIAEAの場を中心として、検討・協議が引き続き行われている。

 保障措置については、昭和61年5月に開催された第7回目・IAEA保障措置合同委員会等を通じて、IAEAと意見交換を行う等、密接な連携を図っている。

 核物質防護については、近い将来発効することが予想されるため、我が国としても早期の署名、締結を目指し、諸般の準備を進めているところである。

2.新長期計画への取り組み

 現行の原子力開発利用長期計画は、昭和57年6月に改訂されたものであるが、原子力委員会においては、我が国の原子力開発利用が本格的な着手以来30年という一つの節目を迎えていること、現行長期計画策定以来約4年間の研究開発の進捗状況、昨今のエネルギー情報の変化等を踏まえ、本年4月長期計画の見直しを行うことを決定し、原子力委員会長期計画専門部会が設置され、鋭意検討が進められている。

 今回の新長期計画取り組みの背景及び分科会等の設置の背景となった主要検討事項を述べれば、以下のとおりである。

(1)軽水炉時代が、従来考えていたより長期化するものと考えられ、原子力発電が今後、経済性、供給安定性に優れた主力電源として大きな責任を果していくためには、核燃料サイクルを含めた軽水炉利用の体系的整備、高度化方策を策定することが必要である。

(2)我が国は、経済性を含め総合的に軽水炉利用に勝る技術体系として、FBRを中核とするプルトニウム利用体系の確立を積極的に目ざす必要があり、このための基本指針及び推進方策を策定することが必要である。

(3)近年、我が国の原子力技術水準が向上し、欧米にも比肩すべきものが出てきており、今後は諸外国にモデルを求めることはできず、むしろ世界にも貢献しうる創造的技術開発を積極的に推進していく必要がある。

(4)我が国は、原子力の研究開発を積極的に進め、国内のニーズに対応するという観点だけでなく、国際的に貢献していくという役割を果していくことが必要である。

(5)原子力開発利用政策の柱である、軽水炉の高度化、核燃料サイクルの確立、及び高速増殖炉等新型動力炉の開発は相互に密接に関連しており、研究開発と事業化のための基本的目標を明確にし、各分野における開発計画との間に整合性を有する総合戦略を確立することが重要である。

(6)これまで国の研究開発機関を中心に進められた研究開発が進展し、実用化移行段階を迎えたことを踏まえ、今後の研究開発体制のあり方を検討すべき状況に至っている。このため、事業者、メーカー、国の研究開発機関が各々の技術能力を生かし得る効率的な官民協力体制の確立が大きな課題となっている。

(参考)昭和61年度原子力関係予算総表



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