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廃棄物安全試験施設(WASTEF)の完成



日本原子力研究所

1. はじめに

 日本原子力研究所東海研究所に廃棄物安全試験施設(WASTEF:Waste safety Testing Facility)が完成し、ホット運転前のコールド総合試運転の段階に入った。本施設は、高レベル放射性廃液処理処分の安全性に関する試験研究を、実際規模の放射能濃度の試料を用いて行うための施設として、昭和53年度から整備を進めて来たものである。


第1図 完成したWASTEF建家


 本施設における試験の中心であるガラス固化体の安全性評価試験について、原研は、昭和48年度からコールド模擬廃液を用いたガラス固化試験、容器封入試験、固化体のRI浸出試験、熱的特性試験、落下衝撃試験等を行って基礎技術及びデータを蓄積して来た。本施設の完成によって、本格的な安全性評価試験が可能となった。原子力委員会・放射性廃棄物対策専門部会の報告「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」(昭和55年12月)においても本施設におけるホット試験の成果をガラス固化体及び固化・貯蔵パイロットプラントの安全審査及び運転管理上の規制基準の作成に反映させることが期待されている。


2. 施設の概要

 施設は、高レベル放射性廃棄物固化体の長期貯蔵及び処分時の安全性評価試験を最大5lの実廃棄物ガラス固化体を用いて実施可能な様に、5基のコンクリートセル、1基の鉛セル、その他グローブボックス、実験室等を配置している。

 建家は、地上2階、地下1階、延床面積約3,300m2の鉄筋コンクリート及び一部鉄骨造りである。構成は第2図のように、セル、操作室、サービスエリア等を1階に配し、地下に廃液貯槽室、ホット機械室などを配したホットラボラトリィとなっている。

 セルは、No.1~3セルがβγ取扱いセルで負圧維持管理がされており、No.4,5及び鉛セルがαγ取扱いセルで気密維持仕様となっている。No.1セル内には固化体貯蔵ピットがあり、最高106Ciの廃棄物固化体を空冷貯蔵することができる。

 セル付属設備としては、セル内試料の分析などを行うグローブボックスをNo.5セル背面に、α汚染廃液の分析及び処理を行うサンプリングボックスを鉛セルの横にさらにNo.4及びNo.5セル天井に、αγセル内使用機器の保存のためにメンテナンスボックスを設けている。


3. 試験項目と内容

 本施設で実施する主要試験項目を第1表に示した。これらの項目は、高レベル放射性廃棄物ガラス固化体を貯蔵し処分する各段階に対応して各種の条件下におけるガラス固化体の廃棄物閉じ込め機能を評価する項目として基本設計の段階で十分に検討し、計画したものであり、ホット試験の特徴を考慮しこれまでのコールド模擬廃棄物固化体による試験結果に対して次の三つのアプローチを採用している。

① 放射性物質を用いて初めて正確に試験評価できるもの貯蔵試験の固化体内温度分布、α加速試験の全項目等。


第2図 WASTEF1階平面図


② 放射性物質及び実廃液を用いてより正確な評価ができるもの-貯蔵試験の高温時揮発率、処分試験の岩石内核種移行速度等。

③ 放射性物質及び実廃液を用いてコールド試験結果を確認するもの-固化体物性試験のほとんどの項目、ガラス固化体作製時の溶融るつぼの腐食率等。


第1表 WASTEF主要試験項目


1) ガラス固化体試料の作製

 試験試料は、第3図に示したガラス固化体作製装置で作製される。本装置は、抵抗加熱ヒーター付の金属製溶融るつぼを持ち、1バッチ1lのガラス固化体を作製することができる。その仕様は安全評価試験に供する試料を作製する目的から、溶融るつぼからの溶け込みが少なく、均質な固化体が得られるようにした。溶融したガラス固化体は、フリーズバルブを通して焼なまし炉中の容器に流し出す。徐冷した固化体は、試験の目的及び方法に応じて溶接封入或いは切断研磨される。このガラス固化工程は、すでに40回以上のセル外及びセル内でのコールド試運転を実施した。


第3図 No.2セルに設置されたガラス固化体作製装置

(左:前処理系  右:ガラス溶融系  右奥:オフガス処理系)

2) 貯蔵試験

 高レベル放射性廃棄物ガラス固化体を数十年以上長期貯蔵した時の平常時及び異常時の安全性を試験するのが目的であり、本施設に置設した貯蔵試験装置では1lの固化体を用いて発熱量、温度分布等の基礎的な試験から、高温時の揮発、急冷時の破損、容器との両立性等の固化体及び容器からの廃棄物の漏洩の可能性についての試験ができる。


3) 処分試験

 地層処分の安全性評価を実施するにあたって、廃棄物核種の固化体から地層への移行率及び地層中での環境への移行挙動が重要なデータとなる。ここではそれらに対応した試験を、処分試験装置と放射性物質含有固化体とを用いて実施する予定である。


4) α-加速試験

 ガラス固化体の長期耐久性に関連して、廃棄物閉じ込め機能の放射線による劣化が心配される。ここでは最も影響が大きいと考えられるα線について試験する。実際の廃棄物に含有されるPu-239等のα放射体は、半減期が長く、数千年以上の長期間に亘って崩壊するが、Pu-238,Cm-244等半減期の短い核種を固化体に混合することで、時間を短縮し1年の試験で千年以上の影響を試験することができる。


5) 固化体物性試験

 各種試験の前後における物性の変化を測定するものであり、密度、熱伝導率、浸出率等についての安全性評価の基礎データを得るものである。


4. 試験スケジュール

 建家が完成した昭和56年8月以後、セル設備及び試験機器の整備に応じてコールド試運転を実施しており、コールド総合試運転を経て本年11月にホット試験に入る予定である。

 ホット試験は段階的に進める。第1段階ではCs-137等の放射性核種を単一或いは数種混合した合成廃液を用いた試験によって基本的データを蓄積し、第2段階において数十の放射性核種を含む実廃液を用いて確認試験を実施する予定である。


5. 安全な処理処分システムをめざして

 我が国における高レベル放射性廃棄物処理処分の問題では、現在動燃事業団東海工場からの廃棄物及び海外委託再処理からの返還廃棄物への対応技術が検討されている。この問題は多くの課題を持っており、原研では安全性評価の立場から、すでに動燃事業団との共同研究及び電力10社からの受託調査等によって、この課題と取組んで来ているが、本施設の完成によって、さらに本格的な安全性評価試験ができることになり、我が国の処理処分システムの確立に大きく寄与するものである。


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