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JT−60プロジェクトの現況



日本原子力研究所

 21世紀のエネルギーとして期待される核融合の研究は、今、世界で急速なピッチで進展している。そのトップレベルに並んで、我が国で開発を進めているJT−60(臨界プラズマ試験装置)は、日本原子力研究所の手により、昭和59年度半ば完成を目指して、その建設の最盛期を迎えようとしている。


 1. JT−60とは

 昭和50年7月30日、原子力委員会は、我が国の核融合研究開発の一層の飛躍を求めて、「第二段階核融合研究開発基本計画」を定め、これを「原子力特別研究開発計画」に指定した。

 JT−60はその計画の中心となるもので、核融合動力炉実現の前提となる臨界プラズマ条件の達成を目標とした試験装置である。

 臨界プラズマ条件とは、重水素と三重水素(トリチウム)でプラズマを造った場合、核融合反応で発生するエネルギーとそのプラズマからの損失が釣り合う状態をいい、発電プラントの炉心条件に至る一里塚ともいうべき重要な段階である。これに達する条件は、プラズマの温度、密度及び閉込め時間の3つの量で与えられ、温度〜1億度、密度×閉込め時間〜5×1013個・秒/cm3程度とされている。図1にこれまでの進展の状況を示す。

 この段階を目標とする核融合装置としては、我が国のJT−60のほか、アメリカのプリンストン大学プラズマ物理研究所のTFTR(Tokamak Fusion Test Reactor)、ヨーロッパ連合(EC)がイギリス、カラム研究所に建設中のJET(Joint European Tokamak)、ソ連、モスクワのクルチャトフ研究所のT−15がある。何れも核融合研究装置として最も進んでいるトカマク型を採用しており、世界の四大トカマクと呼ばれている。

 現在のところTFTRが最も早く建設が進んでおり、T−15、JT−60がややおくれているが、何れもほぼ昭和60年頃までには臨界条件の達成が確実視されている。


図−1 トカマク型閉込め性能進展


TFTRとJETは最終的には実際に重水素とトリチウムを燃料として入れ核融合反応を起させることを考えているが、他の2つは核融合反応を起こさせないで、むしろ物理実験を詳しく行うことを目標としている。T−15は超電導コイルを使用し、JT−60は長パルス実験、不純物対策を重視した装置となっており、それぞれ相補的な特徴を打出している。

 JT−60とはJAERI TOKAMAK60の略称で、プラズマの体積が約60m3あるのでこの名がある。

 その本体は図2に示すが、その中心は、ドーナツ型真空容器で、この中に、太さ1.9m、ドーナツのさしわたし6mのプラズマを作る。このプラズマを安定に閉込めるための各種のコイル、プラズマの温度を約1億度まで上げるための加熱装置、容器内を真空に引くための真空排気設備、これらを支える架台等から成り、全体として径約15m、高さ約13m、総重量約4,500t、費用は、建物その他を加えて約2,000億円の規模である。


 2. JT−60開発の経緯と現状

 JT−60は、昭和50年度から詳細設計と一部主要コンポーネントの試作開発を開始し、実機製作の技術的見透しを得たのち、本体製作の契約準備に入った。この試作開発は世界に先がけて実施したため、その成果は国際的に高く評価され、日本の核融合を世界的レベルまで引上げた源動力となった。

 JT−60はその規模、予想される多額の開発費からみて、その設計の妥当性のチェックが必要とされたが、原子力委員会に設けられた核融合会議に、JT−60分科会を設置してこれを検討し、昭和51年2月、同分科会は、JT−60の規模および設計の大綱は妥当との結論を出した。

 これらの経過を経て、昭和53年4月、JT−60装置の最も主要な本体について、日立製作所と契約を締結、コイル、真空容器等の製作を開始した。

 JT−60はその規模は大きいが、性格としては一般的な真空、電気機械であって、とくに原子力関連法規制の適用はうけない。しかし装置の健全性を確保するための技術検討と、環境、作業員の安全確保のための評価を、原研が自主的に行い、その万全を期している。

 JT−60の設置場所としては、核融合研究のための新らしい用地を考え、早くからこの確保につとめていたが、53年7月、茨城県那珂郡那珂町向山団地に設置することを茨城県知事に申入れ、用地取得の具体的交渉を開始した。


図2 JT−60鳥瞰図


 茨城県は直ちに、知事の諮問機関である原子力審議会に諮り、JT−60の安全性等を検討し、その安全を認めた。その後引きつづき用地取得契約の交渉が進められ、54年10月1日、茨城県開発公社と原研との間に契約調印されるはこびとなった。

 これをもつて、那珂町へのJT−60建設着工が確定し、59年度完成への見透しが得られるに至った。

 54年12月6日起工式を経て、55年2月実験棟工事に着工、同3月電源棟にも着工して、現在は、地下掘削工事が進行中である。(写真1)

写真1 急ピッチで進む核融合施設の掘削工事

 日立製作所において製作中の本体の製作は順調に進み、トロイダル磁場コイル18ケ中10ケが既に完成し、真空容器、架台等が続々と製作されている。(写真2)

写真2 製作中の真空容器の一部

 本体以外の設備としては、電源関係を東芝及び三菱電機、全系制御系を日立と契約を終了、JT−60装置の主要部分はほぼ一斉に製作段階に入ることとなった。

 今後は、那珂町における建家工事の進展に合せて、埋込金物、アンカーボルトの設置等、現地工事が本格化し、文字通り建設最盛期を迎えることとなる。

 核融合の開発は、世界的に急ピッチで進んでおり、現在建設中の四大トカマクにつづく次の装置の設計がIAEAの手によって国際的に進められるまでに至った。

 これはINTOR(International Tokamak Re-actor)と呼ばれ、日、米、ソ、ECの4ケ国が共同で建設することの可能性をも含めて設計検討を行う国際プロジェクトで、日本がその議長国となり、森原研東海研究所副所長が議長をつとめている。

 アメリカも、INTORへの協力の他に、独自の装置ETF(Engineering Test Facility)の開発計画を打ち出し、我が国も、この新しい展開に呼応して、JT−60以降の核融合炉開発路線の検討を具体的に進めている。

 このような環境の中で、本来の自主開発路線に乗つて国際的レベルの技術で進められているJT−60は、一刻も早く完成することが待ちのぞまれており、そのあかつきには、原子力分野において、我が国が世界の主導権を握ることも夢ではない。



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