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就任に際して



原子力委員会委員
渡部 時也



○ 原子力委員をやるんだそうだな。しかし、水力屋が本職ではなかったのか。

△ 何屋かわからなくなってしまったんだ。色々なことをやらされて来たのでね。

○ ほんとにやれるのか。

△ コンモンセンスでやるしかない、専門知識がないからな。

○ 頼りないことだ。それで委員会は何をやる所だ。

△ 原子力の研究開発及び利用に関する行政の民主的な運営を図る目的で設置すると書いてある。

○ 行政の民主的運営?

△ 具体的にはわからない。が、委員の任命は両院の合意を得なければならないので、委員は民主的に選ばれると言えよう。

○ その委員会がきめるから、行政も民主的になると言うことか。まあいいとしよう。所で、上京は。

△ 週2回会議がある。朝早起きして、帰宅は夜8時過ぎになる。あまり楽ではないよ。○ 年とってから忙しくなったわけか。せいぜいゴルフでもやって健康につとめるんだな。


 いささか低調な話で気がひけるが、電力以外の知人達と話すとこんなことになる。彼等も原子力を必要とすること、立地難でそれ程うまく進んでいないこと等は承知しているが、開発目標に達しなかったらどうなるかは考えてみないらしい。外の手段で補うとしても、電力経済と必要とする外貨に影響が出ることになる。仮りに補うことができないで供給力不足に陥ったとすれば、立地難の時代に年々の需要増加を賄い、その上更に不足分を解消するだけの開発を行わねばならない。これは誠に至難のことでもあり、回復には長期を要するであろう。

 私共の会社は必死になって立地に取り組み、主務官庁は諸施策を用意し専門担当官を置いて努力を重ねているが、それでもはかばかしい進展は見られない。立地交渉は当事者がねばり強い対話を重ねて地元の了解を取りつける以外に、きめ手はないのであるが、それにしても、各省庁、県、市長村、電力の間に合意があって、連繋して推進を図る体制の構築が望ましいことである。

 大方の識者が言われるように、内には安定政権に支えられた内閣の成立を見、外にはサミットで原子力推進が合意されるなど、情勢は原子力推進政策を確立するチャンスであると言ってよいであろう。

 就任以来会議にはつとめて出席しているが、何にしても原子力には広範な問題が多いことに驚いている。基礎的研究、応用研究、開発、産業ベースへの移行等各段階に極めて多くの問題があって、夫々の機関によって進められている。国際関係が複雑にからまっている問題もある。これ等総ての内容を知り、緩急を見、対外関係を考慮し、調整しつつ長期のシナリオに乗せて行くようなことは、私の狭い経験からは気の遠くなるような難事に思える。委員並にスタッフに敬意を表し、私も驥尾に付して、幾分なりともお手伝ができれば幸と思っている。




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