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昭和54年原子力年報(総論)


昭和54年12月
原子力委員会

 はしがき

 「昭和54年原子力年報」は、昭和54年12月18日の原子力委員会において決定され、同12月25日の閣議に提出の後、公表された。

 本年報は、例年のとおり、総論、各論、資料編から構成されている。

 総論

第1章 原子力をめぐる内外の諸情勢

 昨年10月、原子力の安全確保を目的とした体制の充実を図るために原子力安全委員会が新設され、それに伴い原子力委員会も新たな体制で発足して以来はや1年を経過した。

 この一年間に、世界は、いわゆる第二次石油危機に伴うエネルギー情勢の一層の緊迫化と、米国のスリー・マイル・アイランド原子力発電所における事故の発生という、いわば原子力の研究開発利用を「促進する方向」と「抑制する方向」といったふたつの相反する働きをもつ大きなでき事に遭遇することとなった。このふたつは、我が国だけでなく、世界各国にも同じように大きな影響を与え、原子力の研究開発利用に関する賛否の議論の拡大とも相まって、原子力に対する関心を一層強めることとなった。

 原子力委員会は、昨年9月、新しい原子力研究開発利用長期計画(以下「長期計画」という)を取りまとめ、今後約10年間を目標とした原子力研究開発利用の長期的ビジョンと施策の重点を明らかにしたところであるが、これから1980年代以降の原子力政策を進めていくに当たりこのような情勢をも十分考慮しつつ対処していくこととしている。

1 エネルギー情勢と原子力

〔エネルギー情勢の緊迫化〕

 昭和53年秋の石油労働者のストライキに端を発するイラン政変に伴い同国の石油供給力は著しく低下し、これを契機として世界の石油供給は不安定性を増し、第二石油危機ともいうべき状態となり、世界的な石油供給の逼迫と大幅な価格上昇をもたらした。

 世界の石油供給に関しては、今後とも新たな石油資源の探査開発等が進められるであろうし、直ちに世界の石油が欠乏してしまうというものではないが、現在の自由世界のエネルギー供給の過半を石油が担い、今後とも相当期間は石油への依存が必要であることを考えれば、エネルギー問題が世界的に重要な課題であることは避けえないものとなっている。

 3月には、当面の措置として、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)理事会において、各参加国が約5%の石油消費節減を進めることが合意され、また5月の閣僚理事会においては、長期的な措置として石油火力発電所新設の原則禁止等を内容とする石炭利用拡大等を図ることが合意された。

 このような情勢の中で、6月に東京で開催された第5回主要国首脳会議(いわゆる東京サミット)では、エネルギー問題が最重点議題として取りあげられることとなった。同サミットでは、各国の石油輸入目標の設定について合意がなされ、我が国に関しては、昭和54年及び昭和55年には1日当たり、540万バーレル(年間約3.13億キロリットル)、昭和60年には1日当たり630~690万バーレル(年間3.66~4.02億キロリットル)とすることとなった。この量は、昭和53年9月に原子力委員会が長期計画を決定した際の基礎資料のひとつとなっていた通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会による長期エネルギー需給暫定見通しにおける所要輸入石油量の見通し(年間約4.32~5.05億キロリットル)をかなり下回るものであり、近年の経済停滞によるエネルギー需要の伸びの鈍化を考慮しても、あらためて一層の省エネルギー努力、石油代替エネルギー開発努力の強化を必要とする厳しいものである。

 政府は、このような情勢を踏まえ、8月に新経済社会7カ年計画を決定するとともに、これを基に、前記総合エネルギー調査会需給部会においても従来の長期エネルギー需給暫定見通しが改訂されることとなった。

 このような意味で、今回の石油危機は、原子力を含む石油代替エネルギー開発の重要性に対する認識を一層強めることとなった。

〔各国のエネルギー政策と原子力〕

 世界の各国は、前回の石油危機以後、従来以上にエネルギー政策に真剣に取り組んできた。これらの政策は、石油危機後の世界的な経済の停滞をも踏まえつつ、着実な、かつ、可能な限り海外石油への依存の低減を指向するものとなっている。

 かかる観点から、各国とも石油代替エネルギーの開発に熱心に取り組んでいるが、これを特に原子力ついてみると、昭和60年の各国の原子力発電規模は、昭和52年実績に比した場合、フランスの約10倍を筆頭に各国とも大きく拡大する計画となっている。フランス政府は、米国の原子力発電所の事故の後も新たに9基1,050万キロワットの原子力発電所の建設計画を承認するとともに、従来からの原子力発電計画である昭和60年4,000万キロワットの達成をめざして積極的に推進していくことを明らかにしている。

 また、米国は、昭和54年4月5日にカーター大統領が新しいエネルギー政策を発表したが、この中で当面の施策として石炭等の一層の活用を図る一方、原子力についても安全性の向上を図りつつ、発電用に使っていくことを明らかにしている。更に、石炭資源に恵まれ、かつ、北海油田の開発成功により、現在は石油輸出国となっている英国においても、昭和70年頃以降は再度エネルギー需給が逆転するとの認識に立ち、昭和54年6月、改良ガス冷却型原子力発電所の建設計画を新しく承認するとともに、今後とも原子力発電計画を拡大していくとの意向を明らかにしている。

 他面、次節でも述べるように米国の原子力発電所で事故が発生したこともあり、最近、各国で原子力推進の是非について政治問題としての議論も活発に行われている。米国では、この原子力発電所事故の後、各地で原子力反対の集会が開催され、西ドイツでは、総合核燃料サイクルセンターの建設計画に関し、連邦政府及び州政府の間で考え方が対立した。また、スエーデンでは、昭和53年9月連立政府の原子力政策の違いから内閣が総辞職し、昭和55年春に、原子力発電の拡大の可否に関し国民投票を行うこととなったほか、オーストリアでは、昭和53年11月国民投票の結果1%という微差によって既に完成済の同国初の原子力発電所の運転開始が中止されることとなった。更に、スイスでは、昭和54年2月及び5月の2度にわたり国民投票が行われた結果、いずれも原子力の推進を図ることが支持されたものの、その得票差は僅かであった。

 原子力政策に関する選択に関しては、それぞれの国における国内エネルギー資源の賦存量、エネルギー需要量等の種々の国情の違いも勘案しなければならないが、世界の主要国においては、東京サミットの合意にみられるように、今後数十年において原子力発電能力が拡大しなければ、経済成長及び高水準の雇用の達成が困難となろうということが共通の認識となっている。特に我が国のようにエネルギー資源に恵まれないにもかかわらず世界のエネルギー消費量全体の約1割(オーストリアやスエーデンの約10倍)を消費している国においては、安全確保に万全を期しつつ原子力発電の拡大を図ることが不可欠となっている。

2 米国原子力発電所の事故と我が国の対応

〔事故の反響〕

 昭和54年3月28日未明(現地時間)、米国ペンシルバニア州のスリ・マイル・アイランド原子力発電所2号機で、周辺環境への放射性希ガスの放出を伴う事故が発生した。

 その後の調査の結果、放出された放射性物質による周辺住民の健康に対する影響は、幸いにしてほとんど識別できない程度であったことが確認されたものの、事故直後には、事態の把握が十分でなかったことに加えて情報の混乱も重なり、一時は予防的な手段として妊婦及び就学前の児童の退避が州知事によって勧告される等の事態を招いた。

 この事故は、商業用の原子力発電所で、これまでに経験した事故としては最も大きな反響を呼んだ。このため米国では、原子力規制委員会(NRC)をはじめ、同国政府、州政府等の関係機関が全力を挙げて事態の収拾と事故原因の究明、対策等に努めることとなった。また、米国大統領によって設置された「スリー・マイル・アイランド事故に関する大統領諮問委員会」等、関係機関により積極的な事故調査が行われ、既に各種の報告が取りまとめられている。

 今回の事故に対する受けとめ方は、各国政府により若干の差はあるものの、事故の重大性を真剣に受けとめ、各国とも事故原因の究明、それぞれの国の原子力発電所の安全性に対する再点検等を進めるとともに、今回の事故の教訓を踏まえて安全性の一層の向上を図ることとしており、また、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)など国際機関においても、これを契機に安全対策面での国際協力を強化しようとしている。

 しかし、東京サミットにおける合意にもみられるように、この事故の後においても世界の主要国においては、国民の安全を保障することを前提とした上で、原子力開発を進めることは不可欠であるという点について認識が一致している。

〔我が国の対応〕

 我が国では、事故発生直後から、数次にわたり、米国へ専門家を派遣し、現地で直接の情報収集に努めたほか、原子力安全委員会を中心として事故状況の調査、事故原因の究明、我が国の原子力発電所の安全確保に事故の経験を活かしていくための検討等が進められた。

 政府は、原子力安全委員会の要請を踏まえ、我が国の原子力発電所の安全確保に万全を期するため、原子力発電所の管理体制の再点検を実施した。また、今回の事故の教訓として、加圧水型原子炉において、加圧器の水位計の指示に基づく緊急炉心冷却装置(ECCS)の作動に関する問題について、より一層の安全解析を行う必要があるとの判断にたち、原子力安全委員会は、4月14日、この安全解析と安全解析に基づく措置がとられるまでの間、当時運転中であった大飯発電所1号機の運転を停止するとの通商産業省の申し出を受け入れた。この安全解析の結果、現状でも十分安全性は確保されることが確認された。当時定期検査のため停止していた加圧水型炉については、解析結果に基づきより一層の安全確保を図るとの観点から、所要の改善措置がとられた。

 また、我が国の原子力発電所における防災対策については、従来から災害対策基本法に基づいて地域ごとに必要な応急対策が行われるようになっているが、これを円滑に実施しうるように防災体制の再点検が進められた結果、7月12日には、中央防災会議(議長、内閣総理大臣)において、当面とるべき措置等が取りまとめられた。

 今回の事故の詳細については、我が国でも、事故直後に原子力安全委員会によって設けられた「米国原子力発電所事故調査特別委員会(設置当初は、原子炉安全専門審査会のTMI事故調査特別部会として発足)」において、一次(6月28日)及び二次(9月13日の2回にわたり、詳細な報告と52項目にわたる要検討事項の摘出が行われた。これらについては、引き続き、検討が進められている。また、11月26日には、本件事故に関する学術的な論議を行うため、原子力安全委員会及び日本学術会議の共催により、はじめての学術シンポジウムが開催された。

 前述の原子力安全委員会の「事故調査特別委員会」報告や米国大統領諮問委員会の報告においては、今回の事故が2次給水系の故障に端を発し、一部設備の不良、機器の故障に運転員の不適切な操作などが重なってもたらされ、また、機械とそれを扱う人間の相互間の十分な連携体制と必要な訓練、そしてそれ以上にこれら全体の総合的な管理をめぐり問題があったとされている。我が国における原子力安全規制体制については、先年来格段に強化されてきており、また原子力関係施設の技術職員の教育訓練や運転技術の習熟についても、一般的に高い水準にあると考えられているが、前述の報告書等での指摘にみられるように、なお一層の改善努力を要する点もあるとされており、我が国としては今後原子力安全委員会の判断を基に十全の措置を講じていくこととしている。

3 核不拡散をめぐる国際的動向

〔INFCEの進捗〕

 昭和52年10月に発足した国際核燃料サイクル評価(INFCE)は、原子力平和利用と核不拡散の両立の方途をめざし、核燃料サイクルの全分野における技術的、分析的作業の実施を目的として、2年間の作業予定で開始されたが、昭和53年11月に開催されたINFCE中間総会において、作業期間を更に約半年間延長し、昭和55年2月末までとすることが決定され、引き続き、作業が進められている。

 原子力委員会は、INFCEの開始に当たって、「INFCEに臨む我が国の基本的な考え方」(昭和52年10月14日決定)を示し、また、INFCEに適切に対処するため、「INFCE対策協議会」を設け、INFCEへの対応策を検討してきた。また、我が国は、再処理、プルトニウムの取扱い及びリサイクルを検討するINFCE第4作業部会で英国とともに共同議長国を努めるなど、関係機関及び関係者の協力を得ながら、上記「INFCE対策協議会」での検討結果を踏まえて各作業部会の作業に積極的に参加し、貢献を行ってきた。

 INFCEでは、現在、各作業部会の報告書及びその要約が完成し、技術調整委員会(各作業分野の調整等を行うために設置されている委員会)において、これらの報告書等の総括的な取りまとめ作業が進められている。これらが昭和55年2月に開催される予定のINFCE最終総会で承認されれば、約2年半にわたるINFCE作業は終了することとなる。

 INFCE作業に入る前段階においては、昭和52年の東海再処理施設の運転に係る日米交渉に象徴されるように、核不拡散に関する国際情勢は我が国の再処理及びプルトニウム利用を前提とした原子力政策にとって極めて厳しいものであったが、我が国の積極的な取り組みの結果、INFCEにおけるこれまでの検討結果に照らして考えると、国によっておかれている技術的経済的立場による相異はあるにせよ、少なくとも我が国にとっては好ましい方向、いわば「曙光の見える」状況になりつつあるといえよう。一方、このINFCEを含め、従来から関係諸国間において核不拡散のための国際的努力が真剣に続けられてきているが、これらの努力にもかかわらず、遺憾ながら、特に一部の核不拡散条約非加盟国における核拡散への潜在的危険性が依然として指摘されるような情勢が存在している。原子力委員会は、世界の恒久平和の理念と、それを達成するためのあらゆる努力を払うことにより、原子力平和利用と、核兵器の不拡散及び将来におけるその廃絶とは、両立は可能であると考えており、今後とも原子力平和利用を推進していくための新たな国際的秩序の形成に、積極的に貢献していくこととしている。

〔二国間及び多数国間協議〕

 我が国は、上記INFCE作業への貢献と並行して二国間及び多数国間の国際協議を進めてきた。

 まず、二国間国際協議としては、米国との間で、昭和54年2月、日米原子力協力協定改訂問題についての非公式協議を開始し、また、核不拡散に関する各種の日米間協議〔東海再処理施設の運転に関する日米技術専門家会合)(昭和53年9月、昭和54年1月及び同年10月)等〕を行い、更に、オーストラリアとの間では日豪原子力協力協定改訂に係る協議(昭和53年8月、同年12月及び昭和54年7月)を行った。

 一方、多数国間の国際協議については、国際原子力機関(IAEA)の場で行われている「国際プルトニウム貯蔵」等に関する専門家会合等の場で、プルトニウム貯蔵の国際制度の検討等に積極的に協力するとともに、「核物質防護条約策定検討会議」に参加し、国際的な核物質防護体制の確立のために努力を行った。

 これら二国間及び多数国間の協議は、INFCEの結果を十分に考慮して対処すべきものが殆んどであり、INFCE終了後も継続して協議が行われていくものである。

第2章 原子力研究開発利用の進展

 昭和53年10月から昭和54年にかけての約一年間は、原子力発電規模についていえば新たに6基が運転を開始して合計21基約1,500万キロワットとなり、また、高速増殖炉「常陽」の順調な運転、新型転換炉原型炉「ふげん」の本格運転開始、ウラン濃縮パイロット・プラントの運転開始等、我が国が従来から続けてきた自主技術開発が将来の実用化をめざして着実に進展した年であった。以下これらの研究開発利用の進展状況について概説する。

1 原子力発電

 昭和53年10月から現在までに新たに6基617.4万キロワットの原子力発電所が新たに運転を開始し、昭和54年12月の原子力発電設備は21基1,495.2万キロワットとなっている。この結果、国内の総発電設備の中で原子力発電設備の占める比率は、約12%となった。

 新しい原子力発電所の計画については、昭和53年10月及び12月に新たに2基226万キロワットが電源開発調整審議会での決定を受け、正式な計画として組み入れられた。これにより我が国の運転、建設及び建設準備中の原子力発電規模の合計は35基2,788.1万キロワットとなった。また、新規立地地点における立地が難航していること等から、長期計画に示した昭和60年度の原子力発電規模の目標については、約1年余の遅れが見込まれるに至っている。このため、昭和54年8月の総合エネルギー調査会需給部会の中間報告では、原子力発電について昭和60年度3,000万キロワット、昭和65年度5,300万キロワット、昭和70年度7,800万キロワットと見通しの修正を行っており、この見通しの達成のためにも今後とも計画的な立地対策の努力が必要とされる。

 原子力発電所の立地に関しては、昭和54年から原子力発電所の安全規制を一貫して行うこととなった通商産業省によって電源開発調整審議会の前に行われる第一次公開ヒアリングと、原子力安全委員会における安全審査に際して行われる第二次公開ヒアリングという形で、地元の意見を十分聴取しつつ進めることとされ、そのための体制整備が行われたほか、電源開発促進対策特別会計の効果的運用等、地点に即したきめ細かい対策を講じ地元住民の理解と協力を得るための施策が推進された。

 原子力発電所の設備利用率については、昭和53年度には56.6パーセントとなり、また、発電電力量も589億キロワット時となって全発電電力量の12.8パーセントを占め、前年度に比べると好稼動率を示した。しかしながら、その後、加圧水型炉における燃料ピンの破損等の故障に加え、米国原子力発電所の事故の重要性にかんがみ各原子力発電所の安全点検に万全を期すための措置をとったこともあって、昭和54年度の設備利用率は約50パーセント程度にとどまると見込まれている。

 なお、昭和54年10月には、大飯発電所1号機で緊急注水ポンプのトラブルが発見されるとともに、11月には高浜発電所2号機で多量の一次冷却水洩出事故があるなど、大過には至らなかったものの遺憾な事故が発生しており、関係者における安全確保のための一層の努力が期待される。

2 安全研究と軽水炉の改良・標準化等

〔米国原子力発電所事故の教訓と安全研究の強化〕

 原子力施設等の安全研究については、原子力安全委員会の原子力施設等安全研究専門部会において、従来からの安全研究年次計画の見直しを行い、国及び民間の安全研究実施分担、研究推進体制を含めた計画的総合的推進方策の検討が進められていたが、昭和54年3月に発生した米国原子力発電所事故の教訓を踏まえ、配管等の小破断による冷却材喪失事故に関する研究等を強化することを内容とした昭和54年度及び昭和55年度の安全研究年次計画が、昭和54年7月、取りまとめられた。

 また、環境放射能に関する安全研究についても、原子力安全委員会の環境放射能安全研究専門部会で検討が進められ、昭和54年7月、原子力施設の安全研究と同様、米国の事故を踏まえた環境放射能予測システムに関する研究の強化等を内容とした昭和54年度及び昭和55年度の年次計画が取りまとめられた。

 原子力委員会としては、これらの年次計画に沿った研究が円滑に実施され、所期の成果を挙げることができるよう必要な資金、人材等の確保に努めることとしている。

 更に、米国原子力発電所事故を契機として、安全対策に対する国際協力の機運が高まっており、東京サミットにおいても国際原子力機関(IAEA)を中心とした協力を進めることの必要性が確認されたが、我が国もこれらの国際協力には積極的に参加していく方針である。

〔工学的安全研究〕

 原子力施設の冷却材喪失事故時の安全性、軽水炉燃料の安全性、構造の安全性、地震時の安全性、放射性物質の放出の低減化対策、核燃料施設の安全性、核燃料輸送容器の安全性等の工学面を中心とした安全研究が、引き続き日本原子力研究所ほか関係機関の下で研究が進められた。冷却材喪失事故に関する研究のため、昭和44年度から進められてきたROSA計画については、加圧水型炉を対象としたROSA-Ⅱ計画を経て、現在沸とう水型炉を対象としたROSA-Ⅲ計画が進行中であるが、先の米国原子力発電所事故の教訓を踏まえ、配管等の小破断時の影響等についても十分留意して研究を進めることとしている。

〔環境放射能安全研究〕

 環境放射能に関する安全研究については、放射線医学総合研究所を中心として、着実に研究が進められた。

 特に同研究所では、昭和52年度に完成した晩発障害実験棟に加え、昭和54年度からは新たに内部被ばく実験棟の建設が開始された。これらの施設の整備によって、低線量及び低線量率被ばくの問題や内部被ばくの問題に関する研究の一層の進展に大きく貢献することが期待されている。

〔原子力施設の安全性実証試験〕

 昭和49年に新設された電源開発促進対策特別会計により原子力発電施設の立地の円滑化を図ることを目的として進められている安全性等の実証試験については、日本原子力研究所における格納容器スプレイ効果実証試験、(財)原子力工学試験センターによる大規模耐震実験装置の整備等が順調に進められている。

 また、国際協力面では、従来からの協力に加え、新たに日本原子力研究所における大型冠水効果実証試験施設を使用した日米独3カ国による安全研究協力を進めることとしている。

〔軽水炉の改良・標準化〕

 軽水炉技術の一層の信頼性の向上、検査の効率化等を目的とした第二次改良標準化計画については、昭和55年度終了を目途として昭和54年度も引き続き通商産業省によって進められた。この改良・標準化の成果は、逐次現在安全審査中の軽水炉に取り入れられてきている。また、産業界においてもこの改良・標準化に積極的に参加した。なお、軽水炉技術のより一層の向上に関しては、民間企業間による国際的な協力の試みも進められた。

3 核燃料サイクルの確立

〔天然ウランの確保〕

 ウラン資源の乏しい我が国としてはその需要の大部分を輸入に頼らざるを得ず、現在カナダ、フランス、オーストラリア等と長期及び短期契約を締結し、これらの契約により、昭和60年代後半までの必要量については既に確保済みとなっている。しかしながら、天然ウランの海外からの輸入は、ウラン供給国の国情や政策の変動等により、影響を受けるおそれがあり、我が国としては天然ウランの長期安定供給の確保を期すべく、海外における自主的なウラン資源開発を進めており、動力炉・核燃料開発事業団及び民間企業によって海外調査探鉱が活発に進められている。この一環として日仏等による合併事業で採鉱を行ってきたニジェールのアクータ鉱山からの開発輸入(総量約2万1,000ショート・トン)が昭和53年度から開始され、昭和54年度には年間ウラン供給量の約1割を供給するようになるなど、我が国の開発努力が徐々に実りつつあるが、他の探鉱については、開発輸入までには、まだかなりの期間を要し、今後とも一層の努力が必要と考えられる。

〔ウラン濃縮〕

 ウラン濃縮役務については、我が国の電力会社と米国及びフランスとの長期契約により、既に昭和65年度までに必要な量を確保している。しかし、それ以降の分については、安定供給の確保の観点から国産化を推進する必要がある。

 ウラン濃縮技術については、動力炉・核燃料開発事業団が我が国の自主技術により建設していたウラン濃縮パイロット・プラントの第1期分が昭和54年9月完成し、1,000台の遠心分離機による部分運転が開始された。このウラン濃縮パイロット・プラントの運転開始により、我が国は自主的な核燃料サイクルの確立に向けて更に一歩前進したが、今後とも、パイロット・プラントの完成を図るとともに、この成果の実用化を積極的に推進することとしている。

〔再処理〕

 使用済燃料の再処理については、我が国は、当面動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設並びに英国及びフランスへの海外委託により、賄うこととしており、これによってほぼ昭和65年度までの必要量を確保している。

 東海再処理施設については昭和53年8月に発生した酸回収蒸発缶の故障以来運転が停止していたが、修復作業が進められた結果、昭和54年11月からホット試験が再開された。

 また、昭和52年9月の日米共同決定及び共同声明でとりあえず2年間とされた当初の運転期間については、国際核燃料サイクル評価(INFCE)の期間延長にあわせて昭和55年4月末まで延長することが日米間で合意された。更に前記日米共同声明の了解事項に基づき、ウラン及びプルトニウムの混合抽出、混合転換等核不拡散を目的とする技術の研究開発が進められた。

 一方、長期計画で昭和65年度運転開始を目途とすることとした民間再処理工場の建設については昭和54年6月、原子炉等規制法が改正されたことにより再処理事業の民営化のための法令が整備され、これに応えて産業界においては昭和54年7月「再処理会社設立準備委員会」が発足し、昭和55年2月に再処理会社を設立すべく準備が進められている。

〔放射性廃棄物処理処分〕

 低レベル放射性廃棄物については、試験的海洋処分を昭和55年度に実施することを目標に準備が進められており、原子力安全委員会の下で試験的海洋処分の環境に対する安全性の評価が行われた結果、昭和54年11月、環境への影響は問題ないことが確認された。また、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄を進めるために原子炉等規制法及び原子力損害賠償法等の関係法令の整備が進められた。更に、陸地処分についてもその基準を確立するとの観点から検討が進められている。

 高レベル放射性廃棄物の処理処分については、動力炉・核燃料開発事業団等によって高レベル放射性廃液固化技術、高レベル放射性廃棄物地層処分技術等の研究開発が実施されており、今後更にこれらの成果を踏まえてホット試験に移行すべく高レベル放射性物質研究施設の建設が進められている。また群分離、消滅処理等の新処理技術に関する基礎的な研究及び固体化の安全性に関する研究が日本原子力研究所を中心に進められている。

 なお、原子力委員会には放射性廃棄物対策専門部会が、また原子力安全委員会には放射性廃棄物安全技術専門部会が設置され、政策面及び技術面での検討が積極的に進められた。

4 新型動力炉の開発

〔炉型選択〕

 新型動力炉の開発は、従来から我が国の原子力開発の中で最も重要な課題のひとつであり、その進展に応じ逐次検討を行ってきたところであるが、近年において、核燃料サイクルをめぐる国際環境の変化、新型転換炉に関する研究開発、CANDU炉に関する調査の進展等がみられた。

 このため、原子力委員会は、高速増殖炉の本格的実用化時期までの過程における中間炉として、現在我が国が自主開発中の新型転換炉と昭和51年の新型動力炉開発専門部会で論ぜられたCANDU炉のあり方について審議することとし、両炉について核燃料サイクル上の評価、技術的問題、経済性の見通し等について検討させるために昭和53年4月に新型動力炉開発懇談会を設置した。

 同懇談会における審議結果は、昭和54年3月、新型動力炉開発懇談会報告書として取りまとめられたが、原子力委員会としても独自に関係行政機関、関係機関及び関係者から意見を聴取するなど幅広い意見を基に慎重な審議を行った。

 このような審議を踏まえ、昭和54年8月10日、原子力委員会は、「原子炉開発の基本路線における中間炉について」の決定を行い、原子力委員会としての見解を明らかにした。

 原子力委員会はこの中で、軽水炉から高速増殖炉に移行する基本路線に対する中間炉のあり方として、新型転換炉開発についてはこれを精力的に進める必要があり、早急にチェック・アンド・レビューに取りかかるものとするとの考えを示すとともに、CANDU炉を導入することについての積極的な理由を現段階において見出すのは難しいと判断せざるを得ないとの結論を下した。

 この中間炉についての決定に対しては、一部にCANDU炉導入についての強い要請もみられ、また、CANDU炉導入問題について更に詳細な原子力委員会の見解を求める向きもあった。このため、原子力委員会としては、その考え方についてより一層の理解を得ることが必要との見地から、エネルギー・セキュリティとの関係、日加関係並びにCANDU炉の改造・定着化問題、経済性、資金人材問題及びCANDU炉の試験的導入に関する技術的問題についての補足見解を明らかにした。

〔高速増殖炉〕

 動力炉・核燃料開発事業団が開発中の高速増殖炉は、その実験炉である「常陽」が昭和52年4月の初臨界以来、順調に運転されている。すなわち「常陽」は昭和53年7月に第1期目標の熱出力5万kWを達成の後、昭和54年2月まで5万kWの定格運転を続けてきたが、同年7月、第2期目標の熱出力7.5万kWへの出力上昇に成功し、現在各種性能試験を実施している。これらの実験炉「常陽」での運転経験及び各種試験データは、今後の高速増殖炉開発、特に原型炉「もんじゅ」の設計、建設に反映されつつあり、高速増殖炉の自主開発技術の取得、蓄積という所期の目的を達成しつつある。

 原型炉「もんじゅ」は、その設計、建設、運転の経験を通じて高速増殖炉の性能、信頼性等を確認し、更に将来の実用発電炉としての経済性の目安を得ることを目的としているが、その設計については現在までの研究成果を踏まえた製作準備設計が引き続き実施された。また、建設準備に関しては、現在通商産業省及び福井県において立地点周辺の環境審査が実施されるとともに、それに続く安全審査のための準備作業が、進められている。長期計画に示した昭和60年代初頭の臨界をめざすためには今後とも財源問題、立地問題等に積極的に対処しなければならない。

 高速増殖炉に関する国際協力としては従来に引き続き日独仏の3国間協力、及び日ソ間協力を進めたほか、昭和54年1月日米高速増殖炉協力協定の改訂が行われ、協力分野の拡大等、協力の緊密化が図られた。

〔新型転換炉〕

 同じく動力炉・核燃料開発事業団が開発を進めている新型転換炉は、原型炉「ふげん」が昭和53年3月の初臨界に引き続き、昭和54年3月電気出力16.5万kWの定格出力運転に入り、順調に運転、送電を続けている。今後定常運転を続けながら信頼性評価に必要な運転保守関係データの集積を続けることとしている。「ふげん」の本格運転開始により、将来軽水炉から高速増殖炉への基本路線を補完するものとしての同型炉の技術的見通しが得られつつある。

 原型炉「ふげん」に続く実証炉については、動力炉・核燃料開発事業団において概念設計が終了し、現在調整設計及びこれに関連する研究開発が進められている。更に、昭和54年2月には、電気事業者と動力炉・核燃料開発事業団との間で、原型炉の運転実績、実証炉の設計方針等の検討を行い、電気事業者の意見を実証炉に反映させ新型転換炉の評価に資する目的で、ATR合同委員会が発足している。また昭和54年8月の中間炉に関する原子力委員会決定に沿って、実証炉建設についてのチェック・アンド・レビューを促進することとしている。なお、これらと平行して、実証炉の建設主体、所要の体制の整備に関しても引き続き検討を進め、早急に結論を得ることとしている。

5 核融合、原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発

〔核融合〕

 核融合については、我が国のほか、米国、EC、及びソ連においてそれぞれの特徴を生かしつつ、核融合動力炉実現の前提となる臨界プラズマ条件の達成を目標とした大型実験装置の建設を含む大規模な研究開発が進められている。

 我が国における臨界プラズマ試験装置(JT-60)の製作も順調に進捗しており、昭和54年10月にはこのJT-60を含む今後の核融合研究施設の敷地を茨城県那珂町とすることが正式に決定され、現在昭和58年の完成をめざして建屋の建設、機器の据え付け等の準備を急いでいる。

 一方、これらの核融合研究開発は、21世紀までにわたる極めて大規模なものであることから、人的、物的資源の効率的利用及び相互啓発の観点から国際協力に対する関心も高く、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)、国際原子力機関(IAEA)における多数国間協力及び日米、日ソの二国間協力が積極的に進められている。特に、昭和53年5月の日米首脳会談の合意を踏まえて検討が進められていた日米核融合研究協力については、昭和54年5月2日、日米エネルギー等研究開発協力協定を締結し、この協定の下で、8月から米国のプラズマ試験装置ダブレットⅢでの共同研究等が開始されたが、我が国における原子力研究開発分野での国際協力としては、その規模の面においても内容の面においても画期的なものといえる。

〔原子力船〕

 原子力第1船「むつ」は、昭和53年10月、長崎県佐世保港へ回航され、昭和54年1月からは、従来から進めてきた安全性総点検の一環として、新たに原子炉プラント機器の点検が開始されたほか、7月には船底等船体の点検も実施された。また、遮へい改修については、所要の準備が行われるとともに、原子力委員会及び原子力安全委員会の審査を経て、昭和54年11月、その実施に必要な原子炉の設置変更が許可された。

 日本原子力船開発事業団の研究開発機関への移行については、日本原子力船開発事業団を廃止するものとする期限を昭和55年11月まで延期するという日本原子力船開発事業団法の改正(昭和52年11月)の趣旨を踏まえて現在検討が進められており、原子力委員会においても、昭和54年2月原子力船研究開発専門部会を設置し、同部会において原子力船研究開発の課題、研究開発体制のあり方等について審議を進めている。

 「むつ」の開発計画は、昭和49年9月の放射線洩れ以来、当初の予定がかなり遅れているが、今後なお解決すべき問題もあり、関係者の協力を得つつ本計画の所期の目的が達成されるよう一層努力を続けて行く必要がある。

〔多目的高温ガス炉〕

 最近の厳しいエネルギー情勢に対処するため、石油代替エネルギーの開発が大きな課題となっているが、電力以外の分野での核熱エネルギーの利用に対する関心も高まりをみせている。

 我が国においては、従来からこの分野での調査研究を進めてきており、特に日本原子力研究所は昭和44年から多目的高温ガス炉の研究開発に取り組んできた。同研究所においては、昭和53年度には新たに実験炉用の機器の実証試験を目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を開始するとともに、実験炉の機能を発揮し、かつ安全性を確保、保持することができる全プラントシステムの総合設計が行われた。

 また、通商産業省においては「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」の第一期計画が進められたほか、民間においても産業用エネルギー源としての多目的高温ガス炉及び熱利用系の開発に対し関心が示された。

 一方、国際協力の面においては、二国間の協力が進展しつつあり、特に西ドイツとの間では、高温ガス炉の研究開発協力に関し、日本原子力研究所と西ドイツユーリッヒ原子力研究所との間で協力協定が昭和54年2月に締結された。

6 放射線利用

 放射性同位元素や放射線は医学、農学、工業等の分野で広く利用され、今や国民生活に欠くことのできない役割を果たすようになっている。昭和54年3月には放射性同位元素や各種放射線発生装置を利用する事業所数は、3,822機関にのぼっているが、これは20年前の昭和33年度の304機関に比較すると約13倍に増加している。

 最近の特徴としては、医学分野における利用がめざましく、中でも診断用の放射性同位元素は年20~25%の増加を示している。特に治療面においては、サイクロトロンの速中性子線によるがん治療の臨床研究が軌道に乗り成果をあげているほか、診断面においては機器の改良等による診断の効率化、医療被ばくの低減等も進んでいる。

 工業利用の分野では、測定・分析技術の精度向上、電子線照射による各種材料の工業化に努力が払われた。食品照射においては、玉ねぎ等の保存期間延長を図るため照射効果、健全性試験の研究が進められた。このほか、近年になり、農林水産分野での利用として放射化分析法を用いた魚類の動態解明の分野で成果をあげている。また、廃煙、廃水の無公害化等環境保全の技術への応用も期待され、研究開発が進められている。

 このような近年の放射線利用の拡大を踏まえ、これに対処するため、放射線障害防止法の改正について検討が進められた。

 放射線利用に関する国際協力としては、従来からフランスとの間で放射線化学分野での研究協力が進められてきたほか、昭和53年8月からは国際原子力機関(IAEA)が東南アジア地域の協力の一環として進めている「原子力科学技術分野における地域協力協定(RCA)」に加盟している。この加盟を機に我が国の進んだ放射線利用技術を学びたいという東南アジアの開発途上国からの要望に応え、我が国は、昭和54年10月に日本原子力研究所及び国内の食品照射関連機関を中心にして約1カ月にわたるワークショップを開催し、また、本協定に基づく今後の協力活動の具体策を検討するため、加盟国政府特別会合を昭和54年10月に東京で開催する等の協力を行った。東南アジア地域の開発途上国に対する協力は我が国としての方針となっており、原子力分野においても今後積極的にこれを進める必要があるが、当面は、放射線利用の面で協力を進めて行くことがこれら諸国の要望に応えることにもなると考える。

7 原子力産業

 近年の原子力研究開発利用の進展に伴い、国内における昭和53年度の原子力産業分野の鉱工業売上げ高総額が5,800億円余に達する等、着実な事業規模の成長がみられる。

 しかしながら、一部の企業でようやく売上げ高が支出高を上回る傾向をみせてきてはいるものの、受注が安定しないということもあって事業収支は依然として不安定であり、また累積赤字解消の見通しがたたない企業が多い。

 一方、技術面についてみれば、最近建設された軽水炉では国産化率が95%に達するものもあり、また近年進めてきた軽水炉の改良・標準化等の努力の成果もあって、今後着工が予定されるものについては、原子炉プラント全体としてのシステム設計についても相当の能力を持つに至っているが、海外への技術依存から完全には脱しきれていないのが現状である。

 原子力関係機器の輸出についても、原子力圧力容器、蒸気発生器、原子力材料、発変電設備等、主要部品を中心に伸びを示してはいるものの、総合プラントとしての輸出実績はなく、昭和53年度の輸出額において前述の原子力産業分野における鉱工業売上げ高総額の4%強にすぎない。海外における原子力発電所建設のテンポが鈍化していることを考慮すれば、輸出の急激な伸びは予想し難いが、次第に技術力を蓄積し、国際競争力をつけてきた我が国の原子力産業界としては一層の企業努力を続けることにより将来の輸出産業として発展することが期待される。

第3章 1980年代以降への展望と今後の課題

 我が国の原子力研究開発利用は、第2章に述べたとおり着実な進展をみせており、また核不拡散の強化をめぐる国際的動向についても、国際核燃料サイクル評価(INFCE)の進捗をみる限りにおいては曙光の見えた状態にあり、1980年代以降における我が国の原子力研究開発利用について展望が開けつつある。

 これら国内的な研究開発利用の進展と、核不拡散についての国際的動向というふたつの要素は、研究開発利用の進展による国内基盤の強化があってはじめて国際的な折衝の場において日本の立場が主張できるというように、いわば我が国の原子力利用の推進にとっては車の両輪ともいうべきものである。

 このような背景の下で今日の我が国の原子力政策が抱えている今後の課題について1980年代以降を展望しつつ述べてみたい。

1 原子力発電の見通し

〔原子力発電計画〕

 第1章で述べたように、今日、我が国におけるエネルギー消費の大部分を占める石油に関しては、その使用量の節減並びに輸入量の上限に関する国際約束の実施といった課題を抱えており、石油に代替するエネルギー源の採用、とりわけ原子力発電の推進を中心としたエネルギー政策の強力な推進が1980年代以降の最重要課題となっている。

 1980年代を迎えるに当たって全原子力発電規模をその10年前と比較してみると、国内の総発電設備容量は約2倍となり、また、電気エネルギーが、エネルギー供給全体に占める比率も約3ポイント増加した。このように国民経済を支えていく上で、近年における電気エネルギーの役割はますます重要となってきている。

 これを原子力発電についてみると、10年前の設備容量の約10倍余に当たる約1,500万キロワットが運転中であり、当時2パーセントであった原子力発電の比率も10パーセントをゆうに上回る程に成長している。このため1980年代に向けての原子力政策においては、特に原子力発電を通じてエネルギー問題への貢献を図っていくことが緊要の課題となっている。


 将来の原子力発電規模に関しては、昭和54年8月に総合エネルギー調査会において立地の難航という現状を考慮した結果、昭和60年度3,000万キロワット、昭和65年度5,300万キロワット、昭和70年度7,800万キロワットとの見通しを立てており、長期計画における昭和60年度3,300万キロワット、昭和65年度6,000万キロワットという目標からは、約1年余の遅れが見込まれるものの、1970年代を原子力発電の導入及び実用化時代であったと称するならば、1980年代という今後の10年間は定着化及び拡大時代であるといえよう。しかしながら、長期計画にも示したように、この規模を達成するに当たっての当面の最も大きな課題は立地問題であり、今後ともその打開のために政府及び民間による最大限の努力を必要としている。

 一方、エネルギー政策あるいは原子力政策という観点からは、10年間という期間は比較的短いものであり、当面の1980年代への展望は同時に21世紀につながる総合的な政策の一環となるものでなければならない。

 原子力委員会としては、先の長期計画の決定に際してもこのような点に十分留意してきたところであるが、近年においては、かかる観点から、原子力政策あるいはエネルギー政策策定のために、更に長期にわたるエネルギー需給予測の評価をしようとする試みが国際機関をはじめ内外で進められるようになっている。このような試みによれば、今後の石油供給の制約下において我が国がある程度の経済成長を続けて行くことを前提とすると、原子力発電は、2000年には規模にして1~1.5億キロワット、21世紀前半には2億キロワット以上になり、我が国のエネルギー供給の4分の1ないし3分の1を賄うことが必要であり、また、21世紀以後の原子力発電所は高速増殖炉が主体となっていくとの予測調査結果が示されている。

 今後は、これらの調査結果をも参考とし、将来の高速増殖炉、新型転換炉等の技術開発の進展をも踏まえながら我が国の発電規模の見通しをより具体化していく必要がある。

〔原子力発電の経済性〕

 原子力が我が国のエネルギー供給の中で大きな比重を占めるようになるに従って、単に安全性のみならず、その経済性を含めた総合的な評価が改めて問い直されるようになってきている。

 我が国のようなエネルギー資源に乏しい国にとっては、原子力利用はエネルギーの安定供給という目的に沿ったエネルギー源の多様化という観点に立って推進されるという側面も大きいが、我が国のエネルギー確保に要する費用は、原子力の比重が大きくなるに従いその経済性のいかんに大きく影響されることとなるので、他により経済性が高く、供給の大きいエネルギー源があれば、原子力の導入には自ずから限度が生じてくることとなる。

 原子力発電に代表される原子力利用の経済性については、発電所の建設費、運転費、燃料費、金利等を勘案して行う一般的な発電コスト評価では、石炭火力発電や石油火力発電より安いと従来から見積られてきている。一方、原子力発電においては、原子力利用に固有の課題である放射性廃棄物の処理処分や、寿命のきた原子力施設の廃止(いわゆるデコミッショニング)等の問題があり、このため経費見積りについて正確な見通しが把握しにくいものも含まれることから、原子力発電の経済性を懸念する指摘もみられる。


 原子力委員会としては、これらの経済性の評価について従来から大きな関心を有し、調査分析を進めているが、最近の調査の結果及び他の諸外国等で行われた調査等をみると、これらの要素を勘案しても現在及び将来の原子力発電の経済性が他のエネルギー源に比較して問題があると考えねばならない徴候は認められていない。

 したがって、経済性の問題が前述の原子力発電計画に影響を与えることはないと考えるが、前述の原子力利用に固有の諸課題の解決については、安全性確保の観点に加え、経済的な見通しの一層の明確化等の観点からも、今後とも一層の努力を重ねていくこととしている。

〔軽水炉の定着化〕

 軽水炉は、今日世界で最も一般的に広く利用され、またその設計、運転に至る諸技術データも蓄積完備し、かつ、安全研究の進んだ信頼度の高い炉型であるとされている。我が国においても、高速増殖炉及び新型転換炉の実用化までの間は、この軽水炉が前述のような規模の原子力発電の大宗を担っていくこととなる。

 我が国における軽水炉技術については、米国からの技術導入を基礎として、逐次国内での安全研究や安全性試験、改良・標準化等、その定着化のための努力が進められてきた。この結果、近年では必要な自主技術の確立が達成されつつあるが、これが真に自己のものとして消化されているか否かについては、なを改善の余地があると思われる。上述のように、当面は軽水炉の拡大を図らねばならないことを考えれば、今後とも軽水炉技術定着化のための努力を払うことが必要である。

 安全研究の実施や改良・標準化の指導等を推進することにより、政府において引き続きこの面で貢献していくことが可能と思われるが、民間においても関連企業を中心として一層の自主的な技術開発努力を蓄積するとともに、電気事業者においてもこれらの技術開発の成果を積極的に取り入れる努力が必要である。

 このような自主的な技術の蓄積と電気事業者の協力を通じて、はじめて軽水炉技術を自家薬篭中のものとし、安易に海外技術に依存することなく、独力で所要の性能の保証を行いうる力を身につけていくことが可能になると考える。このことが、ひいては安全性、信頼性の一層の向上を図ることにも貢献することとなり、我が国に適した軽水炉としての定着化を促進することとなろう。

2 研究開発成果の実用化

〔研究開発利用に関するプロジェクト推進の意義〕

 前章にその進展状況を示した研究開発利用は、先に策定した長期計画に沿って進められているものであるが、近年において大きな進展を遂げ、その利用化へ向けての展開が課題となっているものも多い。特に、前節で述べたような、今後の我が国のエネルギー供給の一端を担っていくという観点から、国が中心となって進めているこれらの研究開発利用に関するプロジェクトのうち、高速増殖炉、新型転換炉、ウラン濃縮等主要なものについて、あらためてその推進の意義を述べることとしたい。

 原子力を長期にわたり利用していくためには、その燃料となるウラン資源の長期的、かつ、安定的確保を図る必要がある。このため、海外探鉱等にも努めているが、ウランの資源量については、全世界で430万トン程度と見込まれるなど、絶対的な資源量にも限界があり、軽水炉のように天然に存在するウランの中に0.7%しか含まれていないウラン-235のみを燃料としていたのでは、2000年以降の早い時期に資源面から大幅な制約を受けることが予想される。

 現在、鋭意研究開発を進めている高速増殖炉は、天然ウランの99.3%を占めるウラン-238を有効に利用できることから、ウラン利用効率がウラン-235のみを利用する現在の軽水炉等に比べて約60倍にも飛躍的に増え、その結果、高速増殖炉の実用化により、このウラン資源のもつ制約を事実上取り除くことができる。また、高速増殖炉の実用化によって、事実上核燃料の海外依存から脱却できウラン価格の変動にも大きく左右されないで済む等、その実用化は早い方が効果も大きい。

 高速増殖炉の本格的実用化の時期としては、昭和70年代を目標としているが、新型転換炉は軽水炉から高速増殖炉への基本路線を補完する中間炉として、高速増殖炉と同様に軽水炉の使用済燃料から回収されるプルトニウムや減損ウランを有効に利用でき、高速増殖炉の実用化の時期との関連において重要な意義を持つものである。

 これらの新型動力炉は、軽水炉の使用済燃料を再処理することによって回収されるプルトニウムを利用することを前提としており、かかる観点からも再処理を事業として確立することが不可欠である。東海再処理施設の運転経験を通じて蓄積された技術と経験を活用しつつ民間再処理工場の建設・運転を進めようとしているのもこのためである。

 また、当面の原子力発電の主流を占める軽水炉の燃料製造に必要不可欠なウラン濃縮については、我が国は現在のところ全面的にその役務の供給を海外に依存しているため、自主性の確保と供給の安定化の観点からウラン濃縮技術の開発を推進し、ウラン濃縮実用プラントの保有を急がねばならない。

 これらの研究開発利用に関するプロジェクトは、長期的観点に立った国家プロジェクトとして推進され、我が国の自主的な技術基盤の蓄積を図るとともに、その実用化を通じて原子力の研究開発利用における我が国の自主性の確保に貢献していくことが期待されている。

 これまで、我が国においては、自主的に研究開発を進めた場合のリスク負担を避ける等の観点から、海外からの導入技術に依存する傾向がみられた。しかしながら、近年、特に原子力分野においては、核不拡散強化の観点から機微な技術の国際的移転が制約を受けてきており、安易な導入期待が許されなくなってきているなど、我が国の原子力研究開発利用を安定的かつ円滑に進めるためには、必要な原子力関連技術を自主的に保有することが不可欠となっている。かかる観点からすれば、それぞれの研究開発の成果については民間への円滑な移行を通して積極的に実用化されうるよう努力すべきである。このことは巨大な資金を投入した国家プロジェクトとしての所期の目標を達成するという観点からも大きな意義を有している。

〔研究開発成果の産業化〕

 我が国の原子力分野における研究開発の多くは、当初より国と民間との円滑な交流を図ることを目的として特殊法人による研究開発機関を中心として推進するという方策をとってきているが、これらの機関における研究開発成果が現われてくるに従い、プロジェクトによっては、これまでの政府主導型の研究開発から民間主導による産業として移行していく時期を迎えている。

 このため、これまでの国の研究開発の成果を受け継ぐべき産業界にあっては、それぞれの役割、分担に応じて、適切な体制の整備を図る等所要の検討を進めることが期待される。

 また、これらの研究開発プロジェクトは、それぞれの特性に応じ、いずれも産業化に当っての需要量等の見通しについて一層明確化していくことを必要としており、また、民間への円滑な技術移転のための性能保証等、海外での事例も参考としつつ、制度面、体制面の諸施策の検討に積極的に取り組む必要がある。

 高速増殖炉については、技術的、経済的データの整備を行うとともに、実用化時期、開発規模、実用化方策等についての検討が必要であり、また製造産業としての自立のため、原型炉の建設段階からメーカー体制等の諸準備を進める必要がある。新型転換炉については、チェック・アンド・レビューを急ぐとともに、その結果に基づく実証炉の建設計画、実用化後の導入規模等について検討を進める必要がある。

 再処理事業については、新型転換炉、高速増殖炉等の実用化時期と導入のテンポ、軽水炉でのプルトニウム利用等についての見通しを踏まえ、民間再処理施設の建設に必要な資金の確保、技術の確証、立地の推進等について所要の措置を強力に講じていく必要がある。

 ウラン濃縮事業については、技術的な見通しは得られたと考えるが、今後は遠心分離機のコストの低減化を図るなど、事業化のための条件整備が求められている。我が国としては、自主性の確保等の観点から海外依存度の低減を図り、加えて我が国の原子力産業の基盤の強化等をも十分配慮し、将来の国内需要の相当部分を満たすとの基本的考え方の下に今後積極的に検討を進める必要がある。

〔研究開発利用の財源確保と計画的・効率的推進〕

 我が国の原子力関係経費は、昭和54年度には、一般会計予算が約1,700億円、電源開発促進対策特別会計が約281億円、合計約1,982億円に達し、一般会計予算全体0.45のパーセントを占めるまでに至っている。

 このような、近年の我が国の原子力関係経費の規模は、米国には及ばないが、ほぼ英、仏、独等の欧州先進国の水準に達し、研究開発成果もこれら諸国と比肩しうるまでになっており、一般的には、必ずしも過少と評価されるものではない。

 しかしながら、その内容については過去からの総合的な技術力の蓄積の差があるほか、他のエネルギー資源の賦存量の違いもあり、原子力に対する依存度も自ずと異ってくる。

 我が国においては、昨年9月の長期計画において示したように、1980年代以降における原子力利用の一層の拡大という要請に応え、国民にその成果の還元を図っていくためには、なお一層の研究開発努力を必要としている。特に当面は、国のプロジェクトとしてのウラン濃縮原型プラント、高速増殖炉、原型炉「もんじゅ」等の大規模な施設の建設、運転を行い、研究開発成果を実用化していくための基盤の整備を行う段階にきており、そのためには、研究開発資金の急増は避けられず、昭和53年度から昭和62年度までの10年間で総額約4兆円(昭和52年度価格)の資金が必要であると見込んでいる。

 現下の厳しい財政事情の下にあっては、このような資金の確保に困難が予想されるが、資金の不足による研究開発の遅れは自主的な核燃料サイクルの確立の遅れ、高速増殖炉等新型動力炉の導入の遅れ等をもたらし、結果としてエネルギー供給の不安定をもたらすことを考慮すれば、今後の原子力研究開発利用が長期計画に沿って総合的、計画的に推進されるよう、特段の財政措置を講ずることにより所要の資金の確保が図られることを強く期待するものである。

 一方、これらの原子力関連経費の執行に厳正を期すことは言うまでもないが、今日の財政逼迫下では、特に研究開発プロジェクトの性格、優先度に応じ、重点的、効率的な配分をすることが重要となってくる。原子力委員会としても、今後各プロジェクトの進捗状況、実績を踏まえ適宜これを再評価し、研究開発機関、産業関係各界の体制をも考慮しつつ、原子力研究開発利用に投入される資金、人材その他の資源が我が国全体として効率的、計画的に遂行されるよう努めていくこととしている。

3 INFCE後の国際情勢への対応

 第1章で述べたように、過去2年余にわたってのINFCEの場において、再処理及びそれによって得られるプルトニウムの利用を前提として原子力平和利用を推進する必要があるとする我が国の基本的立場については、国際的な理解が得られる方向にある。しかしながら、昭和52年10月のINFCE設立総会の最終コミュニケで述べられているように、INFCEは交渉の場ではなく、核不拡散強化と原子力平和利用の両立のための方途の探究をめざした技術的・分析的研究の場であり、またINFCEの結果は参加国政府においてその国の原子力政策の立案や関連する国際的な討議に際して活用されるべきものであるが、必ずしもこれに拘束されるものではない。

 これに対し、INFCE終了後、その結果を踏まえて行うこととなっている二国間原子力協力協定改訂交渉や東海再処理施設の運転に関する日米交渉等の二国間協議、国際プルトニウム貯蔵制度策定等のための多数国間協議等の場合にあっては、その協議結果いかんによっては我が国の自主的な原子力平和利用活動の遂行に対し国際約束等の形で不都合な制約が課されないとも限らないという性格をもつものであることに留意する必要があり、これらのINFCE後の各種協議に対して慎重かつ、適切な対処が要請される。

 そのためには、まず前節で述べたように、高速増殖炉、新型転換炉、再処理、ウラン濃縮等の研究開発成果の実用化を目的とする諸施策を更に積極的に進め、また我が国の原子力発電規模の見通しをより具体化する等、原子力研究開発利用についての確固たる国内基盤を背景として我が国の立場を強く主張し、国際的にも原子力研究開発利用先進国としての地歩を固める必要がある。

 また、かかる我が国の立場を主張するに当たっては、保障措置、核物質防護、機微な技術の移転管理等、所要の国内対応策を更に充実する等、国際協調の観点も踏まえつつ核拡散防止のための一層の努力を続ける必要がある。

 このように、核不拡散をめぐる国際問題への適切な対処によってはじめて高速増殖炉、新型転換炉、再処理、ウラン濃縮等の研究開発成果の実用化と産業化が円滑に進められることとなるが、先にも述べたように、これらの研究開発利用の進展という国内基盤の強化があってこそ我が国の立場が強く主張しうるという側面もあり、今後はこれらを車の両輪として総合的に推進していくことが不可欠である。

4 より一層の国民の協力のもとで

 第1章でも述べたように、今日の厳しいエネルギー情勢の中にあって、エネルギー資源に乏しい我が国が、石油代替エネルギーの確保を図っていかなければならないことの重要性は論をまたない。この中にあって、原子力は、従来からの研究開発利用の成果が実り、既に実用化から定着化及び拡大の段階を迎え、石油代替エネルギーとして当面最も現実的なものとなっている。

 我が国においては、原子力研究開発利用の必要性、重要性という点に関する限り、国民の相当の理解を得てきているとみられるが、個別の原子力発電施設等の立地に際しては、必ずしも十分な地元住民の支持が得られず、立地が難航する面もあり、いわゆる総論賛成、各論反対の傾向が指摘されてきた。また、国民の完全な支持が得られない最大の理由としては安全性に対する種々の不安が完全には払しょくできないことがあげられており、特に自分の居住地域への原子力発電施設等の立地に対して、反対の傾向が強い。

 こうした傾向をみると、原子力発電所における故障等の発生、低い設備利用率等の現象が不安を招く原因のひとつとなっていることは否めないし、3月の米国原子力発電所の事故もこの不安感を一層助長する結果になったと考えられる。

 そもそも原子力は、放射性物質及び放射線を扱うという他の技術分野とは異なった特殊な性格を有しており、このためにこそ、その研究開発利用については、当初から安全性の確保を大前提として推進しきている。我が国としては、今後とも安全性の確保に一層の努力を傾注することにより、原子力をより信頼度の高い実用技術として定着させていかなければならない。

 ところで、国民の一層の理解と協力を求めるためには、第1に国民の持つ原子力の安全性に対する不安に応える必要があり、国民が安全性を実感として理解できるようにすることが重要である。このためには、安全性の実証試験等の成果を蓄積し、また安全研究の推進等、国及び民間が一体となって安全性の確保、信頼性の向上に努め、これらを通じ、原子力発電所の安全運転の実績を積み上げることが必要である。そのためには、原子力安全委員会を中心とする国による適切な安全規制を強力に実施するとともに、原子力発電施設等の設置者はこれを十分に遵守することが肝要である。

 第2に、原子力発電施設等の設置者と国民との間をはじめ、政府、地方自治体、産業界等関係者相互の信頼関係を築いていくことが大切である。このためには、常に地元住民及び一般国民との、或いは関係者相互の意思疎通に努め、国民が不安となるような事項について情報の提供を行うとともに、相互の意見交換を尽くすようにしていくことが必要である。

 第3に、個別の立地地点においては、それぞれの地元における個有の事情に配慮しつつ、地点に即したきめ細かい対策を講じることもその理解と協力を得る上で極めて重要なことである。

 このように、安全性の確保を大前提としつつ、相互の信頼関係を築いていくことが、我が国全体として、原子力の研究開発利用に対する国民のより一層の理解と協力を得る上で最も要請されるところであり、原子力委員会としても関係者の協力を得て今後とも最大限の努力を払っていく所存である。


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