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昭和53年度原子力開発利用基本計画の決定について


昭和53年3月10日
原子力委員会

 昭和53年度原子力開発利用基本計画を別紙のとおり定める。

 なお、本基本計画は、昭和53年度予算案及び関連法案の成立を前提として定めるものである。

※本基本計画は、3月31日付をもって、日本原子力研究所法第24条及び動力炉・核燃料開発事業団法第25条第2項に規定する基本計画として決定された。

(別紙)

昭和53年度原子力開発利用基本計画

Ⅰ 基本方針

 エネルギーの安定確保は、国民生活の維持向上及び社会経済の発展にとって必要不可欠の課題である。国内エネルギー資源に乏しく、一次エネルギー供給の大宗を輸入石油に依存している我が国は、他のどの国にもましてエネルギー消費の節約を図りつつ、石油代替エネルギーの開発を進めていく必要がある。石油代替エネルギーとしては、石炭、太陽エネルギー等もあるが、最も重要なものは、燃料の輸送、備蓄が容易であるなどの利点を有し、現在、発電分野で大規模な実用化が図られつつある原子力である。

 このような観点から、政府は、原子力の開発利用をエネルギー政策上の最重要課題として総合的かつ計画的に推進してきたところである。

 しかしながら、我が国の原子力開発利用をとりまく現下の内外情勢には極めて厳しいものがあり、これに対する適切な対応が求められている。

 すなわち、国内的には、原子力の安全性に対する不安などから原子力施設の立地が難行し、原子力発電開発計画が遅延しつつある。ウラン濃縮、高速増殖炉、新型転換炉、核融合などの大型研究開発プロジェクトについては、それぞれ着実に進展し、その成果が得られつつある一方、これらのプロジェクトの本格化に伴い、所要資金の確保、研究開発成果の実用化などについて、一層の配慮が必要となっている。

 さらに、国際的には、東海村の再処理施設の運転をめぐる昨年の日米原子力交渉に代表されるように、原子力平和利用に伴う核拡散への懸念から、再処理、プルトニウム利用等に対する国際的規制が強化されつつあり、この問題について国際的検討を行うため、昨年10月から国際核燃料サイクル評価(INFCE)が進められている。

 このような内外情勢に適切に対処しつつ、長期的展望に立って、原子力政策の積極的展開を図るため、原子力委員会は、原子力開発利用長期計画を改訂することを決定し、本年夏頃に新長期計画を策定することを目途に、審議を進めているところである。

 昭和53年度においては、原子力開発利用長期計画改訂の審議を踏まえつつ、次章の具体的施策を講じ、原子力開発利用の総合的な推進を図る。その際の基本方針は次の通りである。

 1 安全確保対策の強化

(1) 原子力開発利用を進めるにあたって、政府は、従来から原子力に関する厳重な規制と管理を実施し、原子力の安全確保に万全を期してきたところであり、原子力施設においては、周辺公衆に放射線障害を与えるような事故は一度も起こさないという実績を積み重ねてきている。今後、さらに、原子力に対する国民の不安を解消し、原子力開発利用の本格的進展を図るためには、原子力発電所等の安全な運転実績を集積しつつ、原子力の安全確保対策を一層拡充強化する必要がある。

(2) このため、国会に上程中の原子力基本法等の一部改正法案により原子力安全委員会を新設するとともに、原子炉の設置、運転等に関する安全規制行政の一貫化を実施することとしている。この新しい安全規制行政体制の下に、原子炉、核燃料サイクル関連施設等に関する安全規制の一層の充実、原子力施設従事者の線量管理の強化等原子力安全行政の強化拡充を図る。

(3) また、安全規制の裏づけとなる各種データを蓄積するとともに、各種安全審査基準、指針等の一層の整備に資することを目的に、軽水炉等原子力施設の工学的安全研究、放射線障害防止に関する研究、環境放射能の調査研究等原子力に関する安全研究を推進する。

(4) さらに、原子力発電の安全性、信頼性の一層の向上を図るため、軽水炉の改良、標準化を実施し、我が国の国情に適した日本型軽水炉技術を確立する。

 2 核燃料サイクルの確立等

(1) 原子力発電が将来の安定したエネルギー供給源として輸入石油に代替しうる地位を確保するためには、天然ウランの確保から、ウラン濃縮、再処理及び放射性廃棄物処理処分まで一連のいわゆる核燃料サイクルを自主性をもって確立することが必要不可欠である。

(2) 東海村の再処理施設の運転をめぐる日米原子力交渉、ウラン資源国の天然ウラン輸出規制政策など、昨今の核燃料サイクルをとりまく国際情勢には極めて厳しいものがあるが、我が国としては、核不拡散条約(NPT)に基づく保障措置の実施、国際核燃料サイクル評価(INFCE)への積極的な参加などを通じて、核拡散を防止しつつ原子力平和利用を推進する国際的秩序の形成に貢献する。

(3) 以上のような国際的な対応をふまえつつ、天然ウラン及び濃縮ウランの確保、ウラン濃縮技術の開発、使用済燃料の再処理対策、放射性廃棄物の処理処分対策等の積極的展開を図り、我が国における自主的核燃料サイクルの早期確立に努める。

 特に再処理体制の確立に関しては、再処理事業を行うことができる者の範囲を拡大することなどを内容とする法令の改正を行う。

 3 新型動力炉等の開発

(1) 今日、我が国の原子力発電計画は、軽水炉を中心に進められているが、今後長期にわたりこのまま軽水炉のみに依存しつづけることは、ウラン資源の確保の観点から極めて困難である。このため、長期的観点に立って、プルトニウムの利用などにより軽水炉に比べて格段にウラン資源の効率的利用を図りうる新型動力炉の開発を進める必要がある。

 原子炉の運転により核燃料を増殖し、軽水炉に代り次代の主力を担うべき高速増殖炉については、実験炉の出力上昇試験及びそれに引き続く運転試験を実施するとともに、原型炉建設のための諸準備を行う。

 高速増殖炉より早期に実用化が可能で、軽水炉に比べ核燃料利用効率の高い新型転換炉については、原型炉の起動試験を行い、昭和53年度末には定出力運転に入る。

(2) また、現在、発電のみに利用されている原子力を製鉄、水素製造、船舶の推進機関等の非電力部門にも利用し、これらの分野でのエネルギー源の多様化を図る必要がある。

 このため、直接製鉄等への利用を図る多目的高温ガス炉については、大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を行うなど研究開発を強化する。

 また、将来の原子力船時代に備え、我が国としての技術蓄積を図る原子力第一船「むつ」については、安全性の総点検等を行うとともに、原子力船の研究開発体制の整備について検討を進める。

(3) さらに、海水中に無尽蔵に存在する重水素を燃料とし、人類の未来を担う究極のエネルギー源として期待される核融合については、その研究用地を取得するとともに、臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を本格的に進める。

 4 原子力開発利用の基盤整備

(1) 基礎研究は新しい技術開発の芽となるとともに、大型研究開発プロジェクト推進の基盤として極めて重要であり、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において、大学との緊密な連携のもとにその推進を図る。また、所要の研究を民間に委託して行う。

(2) さらに、原子力開発利用にたづさわる科学者、技術者等の確保及びその養成訓練に努める。

(3) 既に述べたように、国際核燃料サイクル評価、ウラン資源国のウラン輸出に対する規制の強化など、核燃料サイクルをめぐる国際問題が極めて重要になっており、これまで以上に二国間交渉あるいは国際的な検討に適切に対応し、我が国の原子力平和利用の円滑な推進を期する。また、安全研究・核融合等の研究開発分野においても、国際協力が重要な課題となっており、これらに対処するため、従来にも増して、多国間協力及び二国間協力を推進する。

 5 国民の理解と協力を得るための施策の推進

 原子力開発利用の円滑な推進のためには、原子力開発利用について、立地地域住民はもちろん広く国民の理解と協力を得ることが極めて重要である。このため、政府は、以上述べた原子力の安全確保対策等を推進する一方、原子力開発利用の必要性を強く国民に訴えるとともに、原子力知識等の広報活動及び国民の意見の吸収に努める。また、電源三法の運用を改善し、周辺地域住民の福祉向上に一層資するよう措置する。

Ⅱ 具体的施策

 1 安全確保対策

(1) 安全確保のための規制

 安全確保のための規制については、原子力委員会から分離して新たに原子力安全委員会を設けるとともに、安全規制行政の一貫化を実施することとし、このため原子力基本法等の改正を行う。これに伴い、原子力安全委員会の事務局機能の強化を図るとともに、関係行政機関における安全審査体制の強化を図る。

 さらに、安全規制に必要な各種安全基準、指針の整備を進めるとともに、原子炉等に関する国際的な安全基準作成計画に引き続き参加する。

 これらを踏まえ、原子炉施設に対する安全規制及びウラン濃縮、核燃料の加工、使用済核燃料の再処理、プルトニウムの利用、放射性廃棄物の処理処分、核燃料の輸送等核燃料サイクル全般に対する総合的安全規制並びに放射性同位元素、放射線発生装置等に対する安全規制の一層の充実を図る。

(2) 安全研究

 安全規制の裏づけとなる各種データの蓄積及び原子炉施設等の各種安全審査基準、指針のより定量化、精密化を図ることを目的として、以下に述べる安全研究を推進する。

 (イ) 軽水炉の工学的安全研究

 軽水炉に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所を中心として、国立試験研究機関、民間等の協力の下に、総合的、計画的に実施する。とくに、日本原子力研究所においては、一次冷却材喪失事故時の緊急炉心冷却装置の効果に関する実験及び原子炉安全性研究炉(NSRR)を用いた反応度事故時の燃料の安全性確認実験を継続して実施するとともに、燃料安全研究、構造安全研究、耐震安全研究等を実施する。

 また、実用原子炉燃料を試験、検査する実用燃料照射後試験装置(大型ホット・ラボ)の建設整備を引き続き行う。

 他方、安全研究の国際協力を推進するため、LOFT計画、ハルデン計画、インターランプ計画、オーバーランプ計画等に参加するほか、PBF-NSRR計画、PNS-NSRR計画により、日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)と、米国及び西独の安全性実験施設との間の研究員の相互派遣、情報の交換等を行う。

 (ロ) 放射線障害防止に関する研究

 放射線による人体の障害を防止するための研究については、放射線医学総合研究所を中心に、国立試験研究機関等において総合的、計画的に実施する。

 放射線医学総合研究所においては、低レベル放射線の人体に及ぼす影響に関する研究として、放射線による晩発障害及び遺伝障害並びに内部被曝の障害の評価に関する調査研究を強力に推進する。

 放射線医学総合研究所以外の国立試験研究機関等においては、低レベル放射線による哺乳動物系における突然変異の検出法に関する研究、植物における突然変異の誘発と回復に関する研究等を実施する。

 (ハ) 環境放射能に関する調査研究

 放射線医学総合研究所、その他の国立試験研究機関、日本原子力研究所、地方公共団体試験研究機関等において、環境モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究並びに一般環境、食品及び人体内の放射能の挙動と水準の調査を行う。

(3) 原子力事業従業員の線量管理

 原子力事業従業員の線量管理については、原子炉等規制法、放射線障害防止法、労働安全衛生法等に基づき、引き続き厳重に行うこととするほか、原子力事業における従業員の放射線量記録の集中的管理、線量前歴の把握の強化等を行うことを目的として昭和52年11月に発足した線量登録管理事業を引き続き強力に推進する。

 さらに、原子力発電施設の改良標準化の一環として、定期検査等における従業員のうける放射線量の低減化を目的に、原子炉等の配置、構造の適切化又は遠隔操作、遠隔監視の導入について検討を進める。

 2 核燃料サイクルの確立等

(1) ウラン資源の探鉱開発

 海外ウラン資源の開発については、引き続き動力炉・核燃料開発事業団が、アフリカ諸国、カナダ、オーストラリア等の有望地区における鉱床調査及び海外機関との協力による共同調査を推進する。

 また、金属鉱業事業団の出資制度、成功払い融資制度を活用して、民間の海外探鉱開発活動を促進する。

 国内探鉱については、動力炉・核燃料開発事業団が、東濃地区の月吉鉱床の精密試錐を行うとともに、東濃周辺の有望地区の探鉱を進めるほか、各地において、低品位鉱床の探鉱を行う。また、人形峠において露天掘りを進める。

 さらに、ウラン資源開発のための試験研究については、動力炉・核燃料開発事業団の人形峠鉱業所において、鉱石処理試験、UF6までの製錬転換試験等を行うとともに、PNCプロセスパイロットプラントの建設を開始する。また、リン鉱石中、海水中のウラン等低濃度ウラン資源の回収技術に関する研究等を進める。

(2) ウラン濃縮技術の研究開発

 遠心分離法によるウラン濃縮技術の研究開発は、動力炉・核燃料開発事業団を中心に推進しているが、昭和53年度においては、将来のウラン濃縮実用工場の建設、運転に必要な技術を確立するため、ウラン濃縮パイロットプラントの建設を進めるほか、引き続き、カスケード試験、遠心分離機の開発、安全工学研究、量産技術開発、寿命試験等の研究開発を進める。

 レーザー法及びイオン交換法によるウラン濃縮の研究については、日本原子力研究所において、基礎的研究を進める。

(3) 使用済核燃料の再処理

 核燃料の有効利用のためには、核燃料サイクル確立の鍵となる国内再処理体制の確立が肝要である。このため、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の運転を行い、再処理技術の実証と確立を図る。

 昭和53年度においては、年度前半に実際の使用済燃料を使うホット試験を進めて施設の性能及び安全性を十分確認し、年度後半には操業を行う。さらに、再処理施設内の運転試験設備(OTL)において、混合抽出法の研究を行う。

 また、将来の再処理需要に対応するため、国内第二再処理工場建設計画を進めることとし、原子炉等規制法を改正して再処理事業を行うことができる者の範囲を拡大するほか、所要の準備を行う。また、当分の間の国内再処理能力を上回る再処理需要については、経過的な対応策として、海外再処理委託を推進する。

(4) プルトニウムの軽水炉利用

 プルトニウムの軽水炉利用に関する研究については、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム燃料の照射試験、解析評価等を行う。

 また、日本原子力研究所において、プルトニウム軽水炉利用に関し炉物理等の基礎研究を実施する。

 さらに、日本原子力発電㈱敦賀発電所においてウラン-プルトニウム混合燃料を照射する計画を推進する。

(5) 放射性廃棄物の処理処分

 原子力発電所、再処理施設等の原子力施設から発生する放射性廃棄物については、環境への放出量の低減化を図るため、放射性希ガスの除去技術等の研究開発を一層推進する。

 低レベルの放射性固体廃棄物については、今後発生量の増加が予想されており、その一層の減容化に努めるとともに、最終的処分方法としては海洋処分及び陸地処分を組み合わせて実施する方針とし、(財)原子力環境整備センターを活用するなどして、所要の準備を進める。特に、海洋処分については、昭和54年頃から試験的海洋処分に着手し、本格処分の見通しを得る予定であり、昭和53年度にはこのための準備をすすめる。あわせて、陸地処分についても処分技術に関する調査研究を進める。

 高レベルの放射性廃棄物については、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において、、固化処理及び地層処分に関する研究開発、処理処分に伴う安全性評価試験等を実施するとともに、国際協力を積極的に推進する。

(6) 保障措置

 核不拡散条約(NPT)の批准及びこれに基づく保障措置協定の発効に伴い、核物質分析体制の整備等同協定を実施するための国内保障措置体制の充実強化を図る。

 また、保障措置に関する試験研究を日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団で実施する。なお、核物質の防護措置(フィジカル・プロテクション)については、動力炉・核燃料開発事業団の施設をはじめとする各種原子力施設の防護措置を強化するとともに、核物質防護のための研究開発を進めるほか、我が国に適した核物質防護制度のあり方に関する検討を進める。

 3 新型動力炉等の開発

(1) 新型動力炉の開発等

 高速増殖炉及び新型転換炉については、「動力炉開発業務に関する基本方針」及び「同第2次基本計画」に基づき、動力炉・核燃料開発事業団を中心に以下の研究開発を推進する。

 なお、これら研究開発の効率的な推進を図るため、日本原子力研究所、民間、大学等の協力を得るとともに、米国、西独、英国、カナダと情報の交換を行うなど海外との研究協力を推進する。

 また、重水炉の技術基準等の確立のための調査検討を進める。

 (イ) 高速増殖炉

 高速増殖炉実験炉については、出力上昇試験を行い、昭和53年度夏頃に定格熱出力5万KWに至らせる。また、原型炉については製作準備設計等を進めるとともに、原型炉に関する炉体構造、燃料材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を行う。

 さらに、原型炉建設の準備を進める。

 (ロ) 新型転換炉

 新型転換炉原型炉については、臨界に引き続き、起動試験等を進め、53年度末に定常運転を開始する。また、燃料材料、部品機器、安全性等の研究開発を進めるとともに、実証炉の設計研究を行うなど評価検討を行う。

 (ハ) 共通事業

 動力炉開発に共通な施設として、プルトニウム燃料製造施設の整備、運転を行うとともに廃棄物処理施設の建設等を進める。

 さらに、ウラン-プルトニウム混合溶液の混合酸化物への転換技術(コプロセス技術)の開発、高速増殖炉燃料の再処理技術の研究開発のための高レベル放射性物質処理技術開発施設の建設等を行う。

(2) 多目的高温ガス炉の研究開発

 多目的高温ガス炉の研究開発については、日本原子力研究所における研究開発の充実を図ることとし、昭和53年度は大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の製作に着手する。

 また、多目的高温ガス実験炉システムの総合設計を行うとともに、高温伝熱流動、耐熱材料、燃料などに関する研究開発を進める。

(3) 核融合の研究開発

 核融合の研究開発については、大学の協力を得つつ、原子力委員会の「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づき、日本原子力研究所を中心として、理化学研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等において総合的、計画的に推進する。

 日本原子力研究所においては、第二段階研究開発の主装置である臨界プラズマ試験装置(JT-60)の製作を進めるとともに、核融合研究に必要な用地を取得する。また、中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)、高安定化磁場試験装置(JFT-2a)による研究等を進める。非円形断面トーラス試験装置(JT-4)に関しては、設計を行う。

 さらに、長期的観点から核融合動力実験炉等に必要とされる炉物理、超電導マグネット、トリチウム等の核融合炉心工学技術及び核融合炉工学技術に関する研究を実施する。

 理化学研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等においては、プラズマ診断技術の研究、高ベータプラズマの研究、超電導マグネットに関する研究、材料に関する研究等を行う。

 核融合の国際協力に関しては、従来からの国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)による研究者交流、情報交換等の協力に加え、昭和53年度から、OECD-IEAの超電導コイルの共同開発計画(LCT計画)及びプラズマ壁面相互作用研究計画(TEXTOR計画)への参加等を推進する。

(4) 原子力船の開発

 原子力第一船「むつ」の開発は、日本原子力船開発事業団において従来より進めているが、昭和53年度においては、安全性の総点検を実施するとともに、遮蔽改修工事のための準備等を行う。

 4 原子力開発利用の基盤整備

(1) 基礎研究等

 日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関においては、我が国独自の創意による技術開発を進めるにあたってその基盤となる基礎研究を、大学における研究との密接な連けいのもとに推進する。また、これらの研究のため、日本原子力研究所の施設の共同利用等を積極的に行う。

 理化学研究所においては、重イオンを用いて物理、化学、生物学、材料試験等多分野の研究を推進するため、重イオン科学用加速器の建設を引き続き進める。

 また、日本原子力研究所においては、20MVタンデム型重イオン加速器の建設を引き続き進めるなど、物理、化学等基礎研究の充実を図る。

 さらに、国立試験研究機関の筑波研究学園都市への移転に伴う所要機器の整備等を進める。

 このほか、地下立地方式など原子力発電所の新しい立地方式に関する調査検討を行う。

(2) 放射線利用

 日本原子力研究所、理化学研究所、放射線医学総合研究所、その他の国立試験研究機関等において、工業、医学、農業等の各分野におけるラジオアイソトープ、加速器等の利用技術の研究を推進する。

 特に、放射線医学総合研究所においては、引き続き医用サイクロトロンを用いたガンの治療及び各種疾病の診断等医学的利用に関する研究を行う。

 また、食品照射については前年度に引き続きその研究開発を推進する。

 さらに、放射線化学の研究については、日本原子力研究所高崎研究所を中心に推進する。

(3) 国際協力

 核不拡散と原子力平和利用との両立を図るべく昨年10月から進められている国際核燃料サイクル評価(INFCE)は、我が国の今後の原子力開発利用に重大な影響を及ぼすことも考えられるので、我が国は全作業部会の検討に参加するほか、特に再処理、プルトニウム利用に関する作業部会の共同議長国をつとめるなど、積極的に対応する。

 また、最近、米国、カナダ及びオーストラリアが核不拡散強化を目的とする政策を発表し、関係諸国に協力を求めてきているが、我が国は、国際的な核不拡散への努力には積極的に協力するとともに、我が国の原子力平和利用の円滑な推進に支障なきよう適切に対処していく。

 研究開発協力については、新型動力炉の開発、核融合の研究開発、原子炉の安全研究、使用済核燃料の再処理技術、保障措置技術等の各分野に関し、米国、英国、フランス、西独等との二国間協力等を通じて行う。

 また、濃縮ウラン、天然ウラン等の供給については、各原子力協定に基づいて、引き続きその安定確保に努める。

 さらに、原子力平和利用の各分野にわたり、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)、同原子力機関(OECD-NEA)等の国際機関の活動に積極的に参加する。

 発展途上国に対する技術援助については、適切な協力に努める。

(4) 科学技術者の養成訓練

 原子力関係科学技術者を海外に留学生として派遣し、その資質向上に努める。また、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等において原子力関係科学技術者の養成訓練を行うとともに、各大学等においても、原子力関係講座及び実験施設を更に充実し、関係科学技術者の教育、訓練を行うことを期待する。

 5 国民の理解と協力を得るための施策

 国民の理解と協力を得て原子力開発利用を進めていくため、前述の安全対策、核燃料対策等を進めるほか、以下の施策を講ずる。

(1) 広報・広聴活動等

 原子力発電等原子力の平和利用に対する国民の理解と協力を得るため、関係諸機関の協力のもとに、テレビ、出版物等による広報活動及び各種セミナーの開催、関係各界代表等による意見交換、資料の公開、広く国民の意見を聴するためのモニター制度の活用等の施策を引き続き進める。

 また、原子力施設の主要な立地地域に原子力連絡調整官を配置し、国と地方との連絡調整を進める。

(2) 電源三法

 原子力発電施設等の立地円滑化のため、「発電用施設周辺地域整備法」、「電源開発促進税法」及び「電源開発促進対策特別会計法」のいわゆる電源三法により、原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の建設を進めるとともに、施設周辺の環境放射能の監視、温排水の影響調査、原子力に関する広報事業等を推進する。特に、昭和53年度においては、電源立地促進対策交付金、放射線監視交付金の単価引き上げなど、電源三法の運用の改善を図る。

 また、原子力発電施設等の安全性に対する国民の不安感を解消するため、日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター等において、格納容器スプレー効果実証試験、蒸気発生器信頼性実証試験、使用済核燃料輸送容器信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験等各種実証試験等を行う。

 6 昭和53年度原子力関係予算の概要

 昭和53年度における原子力開発利用を推進するために必要な原子力関係予算及び人員は次表のとおりである。

(1) 一般会計

(2) 電源開発促進対策特別会計 総理府、大蔵省及び通商産業省所管


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