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関西電力(株)美浜発電所第1号機の燃料体の損傷の原因について


昭和52年8月
科学技術庁
通商産業省

 関西電力株式会社美浜発電所において、昭和48年に発生した同発電所第1号機(加圧水型、定格出力34万kW、運転開始昭和45年11月)の燃料体の損傷については、その原因究明のため、昨年12月以来、同発電所第1号機への立入調査、同社からの事情聴取及び日本原子力研究所ホットラボにおける本件折損燃料棒片の試験を行うとともに、海外における本件と類似の事象の調査、燃料棒の振動に関する実験等を行ってきたところである。

 科学技術庁及び通商産業省は、これらの調査報告等をもとに慎重に検討を重ねてきた結果、本件燃料体の損傷の原因等については次のように考える。

1 本件燃料体の損傷の原因について

 本件に関しては、以下の理由により、原子炉の運転中に、炉心バッフル板接合部の間隙から横流れの水流により燃料棒が振動し、バッフル板又は他の燃料棒に打ち当たったため、折損に至ったものと判断される。

(1) 日本原子力研究所の「美浜発電所1号機燃料棒片に関する調査報告書」(昭和52年3月28日報告)から次の点が明らかである。

 ① 被覆管には、軸方向に減肉した多数のフラット面、摩耗による開口等を生じている。(図1)

 ② 被覆管及び燃料ペレットは、2で述べるとおり、溶融はなかったと判断される。

 ③ 被覆管の非フレッティング部は金属組織及び機械的性質に異常はみられない(燃料体の材料、製造方法等に問題があったとは認められない。)。

(2) 本件燃料体の損傷箇所及びそれに近接する炉心バッフル板接合部の間隙の状況は、次のとおりである。

 ① 本件燃料体C-34は、炉心バッフル板のコーナー部に位置し(図2)、これを構成する燃料棒のうち炉心バッフル板の最コーナー部に位置しているもの及びその隣のものが折損している。

 ② 折損箇所は、燃料棒の上部であるが(図3)、この部分では、炉心バッフル板内外の圧力差が大きくなっている。

 ③ 炉心バッフル板接合部には、その組立て方法から、本来微小な間隙(0.1mm程度以下)が存在するものであるが、燃料体C-34の損傷箇所に近接する炉心バッフル板接合部には0.3~0.5mm程度の間隙が測定された。

 ④ また、炉心バッフル板接合部の間隙からの横流れの水流による燃料棒の振動に関する実験及び計算コードによる解析結果からみて、燃料体の損傷が発生した炉心バッフル板上部にこの程度の間隙があれば、この間隙からの横流れの水流により燃料棒が振動し、バッフル板又は他の燃料棒に打ち当たる可能性は十分考えられる。

(3)① スペインのゾリタ発電所においても昭和46年及び昭和47年に同様の事象が発生したが、その原因は、炉心バッフル板接合部の間隙からの横流れの水流によるものと判断され、昭和47年に炉心バッフル板接合部の間隙調整が行われた結果、その後特に異常は認められていない。

 ② また、アメリカのポイント・ビーチ発電所においても昭和50年に同様の事象が発生したが、そのまま運転を再開したところ、次の燃料取替時(昭和51年)にも同じ炉心位置に装荷されていた燃料体に同様の事象が認められたため、炉心バッフル板接合部の間隙調整が行われている。

(4) なお、炉心上部の一次冷却水(320℃程度)と炉心バッフル板接合部の間隙から流入する横流れの水(290℃程度)とが、炉心バッフル板接合部付近で混合するが、その際生ずる温度変化による被覆管及び支持格子のスプリングの熱応力の解析結果からみて、この熱応力のみで燃料棒が折損する可能性があるとは考えられない。

図1 日本原子力研究所の「美浜発電所1号機燃料棒片に関する調査報告書」

(1)外観検査の例

(2)被覆管の金相試験の例

(3)UO2ペレットの金相試験の例

図2 炉心バッフルと燃料体C-34の位置関係

図3 燃料体C-34の損傷の状況

図4 ゾリタ発電所、損傷燃料体位置

図5 ポイントビーチ発電所第1号機損傷燃料体位置


2 本件燃料体の被覆管及び燃料ペレットの溶融の有無について

(1) 日本原子力研究所の「美浜発電所1号機燃料棒片に関する調査報告書」において次の点が明らかにされており、本件燃料体については、被覆管及び燃料ペレットの溶融はなかったと判断される。

 ① 被覆管の外面及び内面の観察並びに縦断面及び横断面の組織観察の結果、被覆管には溶融の跡及び再結晶・結晶粒の成長の跡が認められないのみならず、燃料ペレットとの直接的化学反応の跡もみられない。

 ② 燃料ペレットの縦断面及び横断面の組織観察の結果、中心部の一部にUO2組織とは異なってみえる組織(白色異相部)がみられるが、その外側近傍にUO2の大きな柱状晶の生成が認められないこと及び燃料ペレット端面の跡がみられることから、燃料ペレットの溶融温度に達した可能性はない。

(2) なお、上記白色異相部は、UO2の溶融組織とは明らかに異なっている。

3 今後本件と同様の事象が発生する可能性について

 我が国の加圧水型原子力発電施設については、以下の理由により、再び本件と同様の事象が発生するおそれはないと判断される。

(1) 既設の加圧水型原子力発電施設については、炉心バッフル板接合部の間隙を測定し、所要の間隙調整を行っている。

(2) 現在建設中の加圧水型原子力発電施設については、建設時に炉心バッフル板接合部の間隙調整を十分行うこととしている。

(3) なお美浜発電所第1号機については、昭和48年当時炉心バッフル板接合部の間隙調整を行っており、その後の燃料検査の結果では、特に異常は認められていないが、再度炉心バッフル板接合部の間隙の測定を行うこととしている。

 また、本件折損燃料棒片のうち未確認のものについては、現在詳細な調査を実施して、その確認を急いでいるところである。

(4) 以上の対策のほか、今後とも一次冷却水の放射能濃度の監視及び定期検査時における燃料検査の徹底を図ることとする。


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