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昭和51年原子力年報(総論)


昭和51年11月26日
原子力委員会決定

第1章 原子力開発利用の現状と課題

(原子力開発利用の20年)

 我が国の原子力開発利用は、昭和31年1月1日施行された原子力基本法に基づいて、平和の目的に限り、民主、自主、公開の原則のもとに進めてきており、今年で20年目を迎えるに至った。そこでまず、この20年間における原子力開発利用の大きな流れを振り返ってみる。(なお、この20年間の主要な事項は〔資料編〕に「原子力開発利用年表」として示した。)

1 昭和30年代は、我が国原子力開発利用のようらん期として、その骨格が形成された時期であった。すなわち、原子力基本法の施行と同時に、原子力行政の民主的運営を図るための原子力委員会と、原子力行政の総合的推進を担当する原子力局(昭和31年5月科学技術庁発足に伴って同庁に移管)が総理府に設置された。その後政府は、日本原子力研究所(昭和31年6月)、原子燃料公社(昭和31年8月)、放射線医学総合研究所(昭和32年7月)、日本原子力船開発事業団(昭和38年8月)等の原子力関係研究開発機関を設置し、また、民間においても、(社)日本原子力産業会議(昭和31年3月)、日本原子力発電㈱(昭和32年11月)等の原子力関係機関の設立、原子力産業体制の編成、電気事業者における原子力関係組織の整備等が行われた。これらの政府及び民間の原子力関係機関等は、今日、我が国の原子力開発利用の中核的役割を担っている。また、この時期には、原子炉等規制法(昭和32年12月施行)、放射線障害防止法(昭和33年4月施行)、原子力損害賠償法(昭和37年3月施行)等の原子力関係法令が整備されるとともに、放射線審議会(昭和32年6月)が設置された。さらに、国際原子力機関(IAEA)への加盟(昭和31年10月調印)、日米、日英原子力協力協定の締結(昭和33年6月調印)等により、国際協力の素地ができた。さらに、米国からの技術導入により建設された日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)が我が国で最初の原子力発電に成功した(昭和38年10月)。

2 昭和40年代に入り、電気事業者により原子力発電施設の建設が本格的に開始されるとともに、国のプロジェクトとして新型動力炉等の開発を進めることとなった。

 すなわち、まず日本原子力発電㈱が英国から導入したコールダーホール改良型原子炉が昭和41年7月、我が国初の商業発電を開始するとともに、電気事業者は、米国からの技術導入により、軽水型原子力発電施設の建設に本格的に取り組み始め、同年には、日本原子力発電㈱の敦賀発電所、関西電力㈱の美浜発電所、東京電力㈱の福島第一原子力発電所と建設が相ついで開始された。その後、我が国の原子力機器メーカーはその導入技術の消化に努め、逐次国産化率を高めていった。一方、昭和30年代に蓄積された原子力研究の成果をもとに、我が国独自の技術による新型動力炉を自主開発しようとする気運が高まり、政府は、昭和42年、原子燃料公社を母体として動力炉・核燃料開発事業団を設立し、高速増殖炉実験炉「常陽」、新型転換炉原型炉「ふげん」等の建設を開始した。また、日本原子力船開発事業団において原子力船「むつ」の建造を行った。さらに、我が国に適した核燃料サイクルの確立をめざして、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物の処理処分等の研究開発を動力炉・核燃料開発事業団等において実施した。

3 最近数年の状況をみると、昭和48年末の石油危機を契機に、石油代替エネルギー源として原子力発電に対する期待が急速に高まったが、一方、昭和48年頃より原子力発電所の立地をめぐって反対運動が拡大してきた。さらに、ここ1~2年来、核拡散防止のための保障措置強化をめぐって国際的な動きが活発になってきており、原子力開発利用をとりまく環境は内外ともに非常に複雑になってきている。


(エネルギー政策上の必要性)

 我が国経済社会の発展と国民福祉の向上を図るためには、安定したエネルギーの供給を確保することが不可欠である。我が国における国民一人当たりの年間エネルギー消費量は、昭和49年度で約3.2Kl(石油換算)で、これは米国の1/3程度、西ドイツの1/2程度であり、今後の経済発展と国民生活の向上に伴い、エネルギー節約のため最善の努力をしても、なおエネルギー需要の増大は免れないと考えられる。

 また、我が国一次エネルギーに占める石油の割合は約75%(発電量の約63%)にも達し、これは米国の約46%、フランスの約66%、西ドイツの約52%に比べて極めて高く、この結果、我が国は世界における石油の取引量の10数%を占めるに至っている。世界の石油需給関係は、石油危機後一時沈静化の状況にあるが、長期的にみると、米国の石油輸入量の増大傾向、中東産油国での生産制限の動きなどから、世界的に需給関係がひっ迫することが予想され、将来の石油の安定確保が懸念される。また、石油危機の経験に照らしても、予測しがたい状況の下に、突然需給関係がひっ迫することも懸念される。他方、石油はエネルギー源としてだけでなく、生活に欠かせない化学製品等の原料として極めて有用な資源であり、この人類の貴重な財産である石油資源を発電のために大量消費することは、人類にとって大きな損失であるとの考えが強くなっている。このような観点から、昭和48年末の石油危機を契機として、石油に代替しうるエネルギー源の開発が極めて重要であることが世界的に広く認識されるところとなり、昭和50年に国際エネルギー機関(IEA)が設立され、代替エネルギー源の開発についての国際協力の強化が図られてきている。このような国際協力強化の動きと並行して各国においても、省エネルギー化への努力とともに、石油に代替するエネルギー源の開発に真剣に取り組んできている。海外の石油資源に大きく依存している我が国としては、他のいずれの国にも増してこのような努力を傾注すべきことはいうまでもないところであり、エネルギー供給構造における石油への依存度を極力低減させていくことがエネルギー政策上の最重要課題となっている。

 これらの事情を背景として、昭和50年12月の総合エネルギー対策閣僚会議は、輸入石油依存度の低減、エネルギー源の多様化、原子力発電の推進、省エネルギー化等を内容とする総合エネルギー政策の基本方向を明らかにした。政府は、これまでも石油に代替しうる新エネルギー源として、原子力、太陽熱、地熱等の研究開発を強力に推進してきているが、このうち、太陽熱発電は未だ研究開発段階にあり、また、地熱発電等は大規模開発が困難であり、近い将来においては、ともにエネルギー源として多くを期待できない。これに対し、原子力は、ウラン-235 1gが完全に核分裂した際に得られるエネルギーが石油の約2Kl分に相当するなど、比較的少量の核燃料により豊富なエネルギーが得られるため、燃料の輸送及び備蓄が化石燃料に比べて容易であること、消費した燃料以上の燃料を生ずる高速増殖炉の開発により資源枯かつの不安を解消することも期待できること、経済性の面でも在来火力発電に比べてすでに優位にたち、発電コストに占める燃料費の割合が小さい(石油火力では約70%原子力では約25%)ため、今後予想される原油等エネルギー資源価格の値上りに対しても発電コストへの影響が少ないこと、環境への影響が少ないことなどの利点を有している。このように多くの利点を有する原子力は、エネルギー資源に乏しい我が国にとってエネルギー供給の安定化を図る上で特に大きく貢献しうるものである。原子力発電は、軽水炉を主流としてすでに実用段階にあり、世界全体で約700基、約5億6,300万KWが運転または建設、計画中で、そのうち約180基、約8,300万KWが運転中である。我が国でも全発電設備量の約6.6%を占め、その運転状況も安定化しつつあることから、今後最も期待できるエネルギー源と見なすことができる。

 原子力委員会としては、石炭等のエネルギー資源に比較的恵まれている米国、フランス、西ドイツ等欧米各国においても、脱石油化をめざして原子力発電に傾斜したエネルギー政策(1985年での原子力の一次エネルギーに占める割合の目標は、米国:12.1%、西ドイツ:14.6%、フランス:25.0%、日本:9.6%)をとっていることを考慮すると、エネルギー資源に乏しい我が国としては、エネルギー政策上の最重要課題として原子力開発利用を進めていく必要があると考える。


(原子力開発利用をめぐる現状)

1 我が国の原子力発電の現状は、運転中のものが12基、約660万KW、建設中のものが12基、約1,053万KW及び国の計画に組み入れられているものが4基、約366万KWの、合計28基、約2,079万KWであり、昭和58年頃までにはこれらがすべて運転に入ると予想されている。

 我が国の原子力発電所は、昭和49~50年度にかけて、配管クラック等の点検、修理等のため発電を停止したことにより、全体として低い設備利用率となったが、昭和50年度後半から、修理や点検を終了して逐次運転を再開し、その後は比較的順調な運転を行っている。この結果、原子力発電所の設備利用率は、昭和49年度の48.2%、昭和50年度の41.9%から昭和51年度前半(4~9月平均)の63.4%と飛躍的に向上してきている。(原子力発電所は毎年一回定期検査を行うため、設備利用率はフル稼動の場合でもおおむね85%が限度である。)これまでに起こった機器のトラブルはその状況、原因等からみると、新技術の実用化の初期には一般によく見られる機器の不具合等による初期故障と考えられ、原子力発電所の基本的安全設計の不備または、公衆に放射線による影響を与えるような事象につながる可能性を示すものとは考えられない。しかし、安全確保を大前提とする考え方から、早期に原子炉を停止して慎重な点検、修理を行っているものであり、その後の官民あげての信頼性向上の努力により、次第にこれらのトラブルの発生も少くなりつつあるものと判断される。しかし、運転経験の短かい現状においては、あらゆるトラブルに適切に対処しつつ、慎重な運転に努める必要がある。

2 天然ウランの確保、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物の処理処分等のいわゆる核燃料サイクルについては、世界的に見ても、原子力発電の進展とともに逐次整備されつつある状況である。

 我が国も、これまでウラン濃縮、再処理等を海外に依存する一方、それぞれの研究開発を進めつつ、原子力発電の進展を図ってきたが、ウラン資源を海外に依存する我が国としては、今後の原子力発電の本格化に対処していくためには、我が国に適した核燃料サイクルの確立が必要である。一方近年、核拡散防止の強化の観点から、従来の核燃料物資等に対する保障措置強化に加えて、再処理技術等の輸出規制の動きが出てきており、このような国際情勢の動きに留意しつつ、我が国の核燃料政策に取り組むことが必要となってきている。

3 研究開発の分野では、我が国の核燃料サイクルの現状にかんがみ、国のプロジェクトとしてこれまで進めてきた高速増殖炉及び新型転換炉の開発、再処理施設の建設、濃縮技術の開発がそれぞれ進展し、これまでの開発成果が評価される段階に至っており、今後、この評価を踏まえて、新たな開発段階を迎えようとしている。また、安全研究、信頼性実証試験、放射性廃棄物の処理処分研究等当面緊急を要する研究課題があるほか、核融合、多目的高温ガス炉の開発等新たな研究開発課題が生じている。

4 原子力開発利用への期待が高まるなかで、これに対する反対も強まっていることは否定できない。すなわち、昭和49~50年度に生じた原子力発電所の機器のトラブルにより、その点検修理に慎重を期し、このため運転停止が長期化したことが原子力発電の安全性への不安感、経済性に対する疑問等を国民に与える結果となったことは否めない。昭和40年代後半における環境問題に対する関心の高まりと呼応して、原子力施設の立地に対する反対運動も一層強くなり、一部は原子力発電所の設置許可に対する異議申し立て、あるいは、設置許可処分の取消しを求める行政訴訟にまで至っている。さらに、原子力船「むつ」についても、昭和49年9月に出力上昇試験の過程で生じた放射線漏れ問題から、漁民を中心とした反対運動に直面している。

 こうした動向は、原子力開発の進んでいる諸外国においても、程度の差はあれ同様である。例えば、米国の一部の州では原子炉設置許可をめぐる法廷闘争や原子力発電所の建設制限を求める州民投票が行われ、これまでの州民投票の結果はすべて否決されたものの、これらの請求運動は未だ必ずしも終焉したとはいえない。また、西ドイツでは、冷却塔からの水蒸気による農業に対する影響を主な問題点として環境保全をめぐる反対運動等の動きが、活発化してきている。このような諸外国における反対運動の動きは、それぞれの国の置かれているエネルギー事情や環境と密接に関連し合っており、そうした背景となるエネルギー事情等の違いを十分理解して評価すべきであるが、間接的に我が国にも影響を与えていることは否めない。

 これら反対運動の論点は、従来の原子力発電所の安全性の問題に加えて、使用済燃料の輸送、再処理、プルトニウム利用、放射性廃棄物の処理処分等核燃料サイクル全般についての安全性問題、原子力発電のエネルギー源としての評価の問題等にまで広がってきていることが指摘されよう。

5 国際情勢として注目すべきことは、昭和49年のインドの核実験を契機として、世界的に原子力利用に伴う核拡散への懸念が急速に高まり、核物質等の輸出規制の強化、核物質防護の要請等、核拡散防止を強化しようとする動きが活発になってきていることである。我が国では本年5月、核兵器不拡散条約(NPT)が国会で承認され、平和の目的に限って原子力開発利用を進めるとの我が国の姿勢を改めて内外に明確に示したところであるが、我が国としては、今後とも国際協調を図り、核拡散防止及び原子力の平和利用の確保のために努力していく必要がある。

6 原子力行政体制については、政府は、本年1月、科学技術庁に原子力安全局を設置し、安全の確保に関する責任体制の明確化を図った。また、昭和50年1月に発足した内閣総理大臣の私的諮問機関である「原子力行政懇談会」は、開発と規制を分離するため原子力委員会と原子力安全委員会に分割すること、安全規制行政の一貫化を図ること、国民の意見を原子力行政に反映させるため公開ヒアリング等を実施すること、等を骨子とする原子力行政体制の改革、強化に関する意見を、本年7月にとりまてめており、その具体化が今後の課題となっている。


(原子力開発利用推進のための課題)

 このように我が国の原子力開発利用をめぐる現状は厳しく、国際的にも極めて流動的な状況となってきている。このような状況下にあって、国民の理解と協力を得つつ、原子力開発利用の着実な推進を図っていくことが原子力委員会に課された責務と考えるものであるが、その際、原子力委員会としては、

 第1に、平和利用に徹し、流動的な国際情勢に適切に対処すること(第2章)

 第2に、原子力発電所をはじめとするすべての原子力施設について、総合的な安全対策を一層強化すること。(第3章)

 第3に、原子力発電の開発計画と整合性のとれた、我が国に適した核燃料サイクルを確立すること(第4章)

 第4に、当面する問題の解決から将来のエネルギー源獲得まで広範多岐にわたる課題について、研究開発を総合的計画的に推進すること(第5章)

 第5に、原子力開発利用の必要性、安全性、進め方等について、国民の理解と協力を得ること(第6章)

を重要な課題と考え、そのための施策を積極的に推進することとしている。


第2章 核兵器不拡散条約の批准と原子力平和利用の推進

 我が国における原子力開発利用は、原子力基本法に基づき一貫して平和の目的に限って進めてきたところである。国際的には、昭和45年3月、核兵器不拡散条約(NPT)が発効したが、我が国は、同条約の署名に際し、核軍縮が促進されること、同条約に加盟した非核兵器保有国の安全が効果的に保障されること、原子力の平和利用面において他の締約国との実質的な平等性を確保すること等の点において強い関心を有する旨の声明を発表した。

 これらの問題については、その後、米ソ間の核軍縮への努力や国際連合安全保障理事会における「非核兵器保有国の安全保障に関する決議」の採択等、事態の進展がみられた。さらに、NPTに基づく保障措置の受入れに関する国際原子力機関(IAEA)との協定に関して、我が国は、IAEAとの間で数次にわたって予備的交渉を重ねた結果、昭和50年2月、原子力平和利用面における他の締約国との平等性確保の見通しを得ることができた。

 このような事態の進展を背景として、我が国は、本年5月、第77回国会においてNPTを承認し、本年6月、批准書を米国、英国、ソ連の3カ国に寄託し、97番目の加盟国となった。

 このことにより、核燃料等の利用にあたり、その供給国、我が国及びIAEAとの間で三者間協定を結び、IAEAによる査察を受け入れてきた従来の保障措置体制から、今後はNPTに基づく保障措置体制へ移行することとなり、政府において、現在、そのための自主査察体制の整備等を進めているところである。

 一方、石油危機以降、発展途上国がエネルギー源として原子力へ強く指向しているなかで、インドの核実験等を契機として、世界的に核拡散への懸念が急速に高まり、核拡散防止体制の強化の動きが活発になってきている。

 すなわち、NPTに基づく核拡散防止に関する規制を一層効果的にするため、NPT締約国による再検討会議が昭和50年5月、同条約発効後初めて開催された。その結果、核燃料、原子力資材等の提供に際しては、NPT締約国を優遇する旨の決議が採決されている。

 すでに、米国は、このような国際的な動きの主唱者として、これまでにも原子力関係機器24品目の条件付輸出規制を実施する一方、核燃料サイクルセンター構想を提唱するとともに、輸出規制に関する他の輸出国との協議等を通じて、核拡散の危機を防止するための国際協力を積極的に呼びかけている。

 原子力委員会としては、我が国がこのような時期にNPTを批准し、原子力開発利用を平和の目的に限ることを基本理念とする我が国の姿勢を内外に明確に示したことは、今後の原子力開発利用を円滑に進める上において時宜を得て非常に好ましいものと考えている。

 また、核拡散防止を強化するため、核物質防護の措置が強く要望されるところから、原子力委員会は、本年4月、「核物質防護専門部会」を設置して、核物質防護対策の検討を進めている。

 しかし、最近は、核拡散防止の観点から保障措置及び核物質防護を強化するとともに、再処理技術、濃縮技術、原子力資材等の輸出制限の措置を国際的に一層強化する動きが活発になってきており、これらの動きが、非核兵器保有国の核燃料政策に影響を及ぼす恐れが出てきている。ウラン資源に恵まれない我が国が原子力開発利用を円滑に進めるためには、我が国に適した核燃料サイクルの確立を図っていくことが必要であり、このような最近の新たな国際動向に十分留意しつつ、国際社会の一員として適切に対処していく必要があると考える。


第3章 安全の確保

(安全確保の基本的考え方)

 原子力委員会は、原子力開発利用の推進にあたっては、従来から、国民の健康と安全を確保することを大前提として、原子力施設の安全を十分に確保するとともに、原子力施設から出される放射性物質によって周辺公衆に影響を及ぼさないことを最優先するという立場を一貫して堅持してきたところである。

 すなわち、原子炉の設置にあたっては、以下の基本的考え方に基づいて安全審査を行った上で、その許可をしている。

 ① 当該立地環境において予想される地震、高潮等の自然事象に十分耐えること、原子炉の運転に際し異常な状態の発生を極力防止すること、仮に異常が発生しても周辺公衆の安全を確保できる施設であること

 ② 平常時に放出される放射性物質による周辺公衆の被ばく線量は、国際放射線防護委員会(ICRP)の“容易に達成しうる限り低く保つことが望ましい”との考え方のもとに、できる限り低くするよう管理しうる施設であること

 ③ 万一の事故時においても、公衆の安全を確保できるように、安全防護施設との関連において十分に公衆から離隔している等の立地条件を備えていること

 この基本的考え方が、原子炉施設等の詳細設計、建設及び運転にあたって具体化されつつ、行政庁による規制が行われている。

 このような設計から建設・運転に至る各段階での種々の安全対策により、我が国においては、これまで原子力施設周辺の住民や財産の安全を脅かすような事故は全く発生していない。故障が発生しても、その故障に対する安全システムが正常に作動し、初期の段階で異常が発見され、所要の点検、修理を経て運転再開に至っているなど、これまでとってきた安全確保の措置が適切であったことを示している。

 原子力委員会としては、今後の原子力発電の拡大に対処して、国民の健康と安全を確保するため、原子炉の標準化、安全基準の定量化、安全研究の推進等によって、安全性の一層の向上を図るとともに、規制の強化を図ることとし、国民の理解と協力を得つつ、原子力開発利用の健全な発展を期するものである。


(原子力安全局の設置)

 原子力開発利用の進展に伴い、原子力安全に係る行政の責任体制を明確にし、総合的な安全対策の強化を図るとの観点から、政府は、本年1月、科学技術庁に安全規制を担当する原子力安全局を設置し、行政体制の強化を図った。

 原子力安全局は、本年3月、安全確保策の当面の基本方針として、①原子力の安全確保に関する総合的な施策の企画立案機能の強化を図ること ②原子炉施設についての安全確保、信頼性向上に努めること ③再処理や放射性廃棄物対策等を含めた核燃料サイクル全般に関する安全確保に万全を期すること、及び ④環境放射能の監視や放射線管理に万全を期すること、を明らかにした。原子力委員会としては、この方針を了承し、今後これに沿って安全確保に万全を期することを強く求めるところである。


(安全審査の充実強化)

 原子炉の安全審査については、原子炉等規制法に基づき、従来から「原子炉安全専門審査会」において専門的な調査審議を行わせ、その審議結果を踏まえて、原子炉の設置について原子力委員会として最終的な判断を行ってきた。

 他方、原子炉以外の施設についても、原子炉等規制法に基づき科学技術庁が主管して規制を行ってきた。原子力委員会としても「再処理施設安全審査専門部会」において、再処理施設の安全性の評価及び核燃料加工施設等についての安全審査指針を定めてきた。

 また、核燃料物質等の輸送についても、国際原子力機関(IAEA)の放射性物質安全輸送規則が1973年に改訂されたことに対応して、昭和50年1月、「放射性物質等の輸送に関する安全基準」を決定し、これを受けて科学技術庁原子力安全局では本年3月、「核燃料輸送物審査検討会」を設置して輸送物の審査体制の強化を図っている。

 このように、原子力委員会としては、原子炉以外の核燃料サイクル関連施設の安全性についての調査審議を行ってきたところであるが、今後の原子力発電の進展に対応した核燃料物質等の利用の本格化に対処して、核燃料の再処理、製錬、加工及び使用の各施設並びに核燃料物質の輸送等核燃料サイクル全般にわたって、専門家による安全性の調査審議を行う体制の整備が急務であると判断し、前述した「再処理施設安全審査専門部会」を発展的に解消して、本年4月、常設の「核燃料安全専門審査会」を設置した。これにより、原子力委員会としての安全審査については、「原子炉安全専門審査会」と「核燃料安全専門審査会」との二本立てによる安全審査体制を確立した。

 また、政府は、安全審査体制のより一層の強化を図るため、科学技術庁及び通商産業省の安全審査担当官の増員を行ったほか、日本原子力研究所に「安全性試験研究センター」を設置して、従来から進めてきた安全研究を強化するとともに、情報の提供、電子計算機による安全解析プログラムの開発、安全審査に係る安全解析等の安全審査補佐機能の強化を図った。


(原子炉安全規制の一貫化)

 原子炉施設については、原子炉等規制法に基づき、原子力委員会の安全審査を経て内閣総理大臣の設置許可がなされるが、その後の建設・運転に際しての安全規制については、研究炉、発電炉、舶用炉についてそれぞれ、科学技術庁、通商産業省、運輸省が分担して行っている。これについては、原子炉の設置許可から建設・運転に至るまでの安全規制体制における一貫性に欠けるという批判があり、「原子力行政懇談会」においても、これについての意見が出されている。原子力委員会としては、このような要請を受けとめ、当面の措置として、詳細設計以降の許認可にあたって、必要に応じ、関係省庁は原子力委員会の「原子炉安全専門審査会」の意見を求めることとし、原子力委員会において安全規制体制の一貫化を図ることとした。


(安全審査に係る基準及び指針の整備と安全研究の実施)

 原子炉施設の安全審査に係る基準や指針については、原子炉等規制法、それを受けた原子炉の設置、運転等に関する規則に基づく、「許容被ばく線量等を定める件」さらに、これらの法令上の基準を具体化するためのものとして、「原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて」、「原子炉安全解析のための気象手引」、「軽水炉についての安全設計に関する審査指針」等があり、原子力委員会は、これらの基準や指針に基づいて原子炉の安全審査を行ってきたところである。

 これらの基準や指針の整備については、原子力委員会に「原子炉安全技術専門部会」を設置し、内外の研究成果、実証試験結果を集め、その整備を図ってきたところであり、例えば、昭和50年5月に「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」を内外の知見を結集して決定した。

 さらに、日本原子力研究所を中心に反応度安全、熱工学的安全、燃料安全、構造安全等各分野にわたって安全研究を積極的に進めてきており、このような安全研究の成果や原子力発電所の建設・運転の経験の評価、安全研究についての国際的情報交換を踏まえて、より精緻な安全基準や指針の整備を進めている。


(原子力発電の信頼性向上)

 原子力委員会としては、原子力発電施設の信頼性向上が、原子力発電の安全性に対する国民の不安を解消する上で極めて重要であると考えている。

 この信頼性の指標とも言える設備利用率は、電気事業者や原子力関係メーカーの努力により最近向上してきているが、未だ十分とは言えず、引き続き、民間における原子力発電の信頼性向上の努力に期待するものである。また、政府においては、通商産業省において「原子力発電設備改良標準化調査委員会」等を設置し、原子力発電設備の改良標準化を推進するとともに、(財)原子力工学試験センター等において各種試験を実施し、原子力発電の信頼性向上に努めている。


(従事者被ばく管理の強化)

 原子力施設従事者の被ばく管理については、従来から、放射性同位元素取扱施設等について放射線障害防止法により、また、原子炉施設等について原子炉等規制法により、厳しく行っている。今後の課題としては、下請け従業員を含め、原子炉施設等で従事する従業員の被ばく線量を一貫として把握することにつき、単に規制の手段によりその把握を図るだけでなく、一元的な被ばく線量登録管理システムを整備して一層的確な障害防止を行うことが重要である。さらに、従事者の被ばく線量の低減化を図ることそのものが重要であり、通商産業省で進めている原子力発電施設の改良標準化の一環として、定期検査等の作業に際して従事者に対する被ばく線量を低減するような原子炉等の配置、構造又は遠隔操作や遠隔監視について検討が行われている。


(環境への放射性物質放出の低減化)

 原子炉施設等から、気体、液体状で環境に放出される極く微量の放射性物質による施設周辺公衆の被ばくについては、従来から、原子炉等規制法等により、施設周辺公衆の許容被ばく線量を年間500ミリレムと定め、厳重な規制を行っている。

 さらに原子力委員会は、放射線による被ばくは“容易に達成しうる限り低く保つことが望ましい”とする国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方に沿って、できる限り低く押えるよう措置してきたところである。このような観点から、昭和50年5月「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を決定し、発電用軽水炉を設置し、運転する者に環境への放射性物質の放出をできる限り少くする努力を進めさせるための定量的な目標を定めた。これは、今後新設される発電用軽水炉から放出される放射性物質による周辺公衆の被ばくを全身被ばく線量で年間5ミリレム以下、甲状腺被ばく線量で年間15ミリレム以下とするものであり、この値は、全身被ばくの場合、ICRP勧告の1/100であり、また、自然放射線レベルの約1/20で、その変動の範囲に入るものであり、長期にわたって実質上公衆に放射線による悪影響はないといえるレベルである。これらの目標値は、被ばく線量と障害との関係からの障害発生の可能性をどこまで低減するかという観点から検討したものではなく、発電用軽水炉施設のこれまでの設計、運転の経験から見た場合の実現可能性の評価に基づいて定めたものである。

 原子力委員会は、さらに、この指針を適用するにあたっての必要事項を「原子炉安全技術専門部会」で検討させ、本年9月、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」を作成した。本評価指針は、放射線審議会においても了承されている。


(環境放射能調査等)

 原子力委員会は、国民の健康と安全の確保、環境保全を原子力開発利用の大前提としているところであるが、政府においても、環境放射能の監視体制を強化するため、原子力施設設置者が行う原子力施設周辺のモニタリングに対する指導の強化、電源三法による地方公共団体の行う周辺モニタリングに対する助成等を積極的に進めている。また、国自ら行う環境放射能調査については、昭和38年以来、関係機関の協力を得て実施してきており、原子力委員会は、原子力施設周辺の放射線監視の結果を環境放射線モニタリング中央評価専門部会において評価することにより、原子力施設周辺の地域住民の健康と安全を確認するよう努力しているところである。現在まで、原子力発電所の運転に伴って周辺公衆に影響を及ぼしたという事実は生じておらず、周辺住民の健康と安全は十分に確保されている。

 また、環境放射能に関する研究、低レベル放射線の影響研究等これらを支える研究についても、放射線医学総合研究所、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等で進めているところである。


(温排水対策)

 原子力発電所から排出される温排水については、水質汚濁防止法等により規制されており、原子力発電所の立地に際し、通商産業省においてその影響審査を行っている。温排水の環境に及ぼす影響については、原子力発電所特有の問題でなく、火力発電所等でも共通の課題であり、科学技術庁、通商産業省、環境庁、水産庁、地方公共団体、民間等において種々の調査検討が進められている。

 さらに、(財)海洋生物環境研究所が昭和50年12月に設立されるなど、影響解明のための体制が整備されつつあり、今後、関係省庁、関係地方公共団体及び民間で一層調査研究が推進されることを期待するとともに、原子力委員会としても、必要に応じ、所要の措置を講じていく考えてある。


第4章 核燃料政策の強化

 我が国の原子力発電は、現在、運転中、建設中及び国の計画に組み入れられているものの合計で約2,079万KWに達している。これに必要な天然ウラン、濃縮ウラン及び使用済燃料の再処理については、海外に依存しながらも、全体として原子力発電計画との整合性がとられている。しかし、今後の原子力発電計画の拡大に対処していくためには、我が国に適した核燃料サイクルを今後の発電計画と整合性をもって計画的に進めていくことが必要である。

 このような観点から、原子力委員会としても我が国に適した核燃料サイクルの確立のための努力を重ねてきたが、現状においては燃料加工分野以外ではその事業形成が遅れている。今後はウラン濃縮、使用済燃料の再処理、放射性廃棄物の処理処分等に関し、事業として確立させることが必要となっている。

 原子力委員会は、このような核燃料サイクルの確立の重要性にかんがみ、本年3月、「核燃料サイクル問題懇談会」を設置して、審議を進めているところであるが、米国を中心とする核拡散防止の強化をめぐっての最近の国際情勢は、極めて厳しい状況となっており、これを踏まえて、今後諸施策を進めていく必要があると考える。


(天然ウランの確保)

 国内のウラン資源に乏しい我が国としては、必要な天然ウランの供給を海外に依存せざるを得ない。各電気事業者は、昭和60年頃までに必要とする天然ウランを、長期買付契約等によりすでに確保しているものの、近年新たな追加買付契約はなされていない。このことから、昭和60年以降に必要とする天然ウランについては、最近の資源ナショナリズムの傾向、ウラン市場の動向等を考慮すると、供給の不安定が懸念されている。このため、原子力委員会としては、海外探鉱による天然ウランの確保について、この数年、予算面で強化を図ってきており、今後の成果が期待されるところであるが、さらに、今後一層、ウラン資源の長期的安定的確保を図る観点から、民間における海外ウランの長期購入契約に期待するとともに、政府としても開発輸入の比率を高めるため、資源国との協調を図ることが必要であると考える。具体的には、動力炉・核燃料開発事業団による先駆的な海外調査探鉱を拡充強化するとともに、民間企業の探鉱開発に対する融資制度を改善していく必要がある。また、さらに長期的観点から、海水からのウラン採取も、注目されており、研究開発を実施している。


(ウラン濃縮)

 軽水型原子力発電に必要なウラン濃縮役務については、二国間原子力協定に基づき我が国電気事業者と米国エネルギー研究開発庁(ERDA)及びフランスを中心とするユーロディフ社(EURODIF)との契約により、すでに発電設備容量で約6,000万KWに相当する量が確保されている。

 しかし、1980年代前半にはERDAの濃縮能力が限界に達すると予想されるので、自由世界の中で濃縮需要の大きい我が国としては、長期的にみて濃縮ウランの安定確保を図るための方策を講ずる必要がある。原子力委員会としては、米国等の国際的動向を見極めつつ、国際共同濃縮事業への民間の参加による供給源の多様化を図るとともに、将来、国産工場を建設して新規需要の大部分を国内でまかなうことを目標に技術開発を進める必要があると判断し、昭和48年以来、動力炉・核燃料開発事業団において遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を、原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)として進めてきた。遠心分離法によるウラン濃縮技術は、今日、大きな進展を見せており、「核燃料サイクル問題懇談会」での評価検討を踏まえ、今後、将来の実用工場の設計、建設、運転に必要な技術を確立するために、濃縮パイロットプラントの建設を行うこととしている。


(核燃料の加工及び輸送)

 軽水炉用核燃料の加工については、民間においてすでに事業として行われている。また、加工工場から原子力発電所への新燃料の輸送については、これまですべて安全に実施されており、使用済燃料の輸送については、国内の再処理工場の運転開始に備えて現在事業化が図られているところである。原子力委員会としては、民間における事業活動の活発化に対応して、量産体制に対応した安全規制の強化、安全基準の整備等を進め、安全の確保を図るとともに、これら事業の健全な発展を期することとしている。


(使用済燃料の再利用)

 使用済燃料の再処理、プルトニウム利用等をめぐる近年の国際情勢は、核拡散防止の観点から極めて厳しいものがある。使用済燃料を再処理して、回収されるプルトニウム及び減損ウランの再利用を図ることは、我が国にとって極めて重要である。当面、使用済燃料の再処理は、昭和53年度から操業に入る予定の動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設において行うほか、この能力を上まわる分については英国等に委託することとしている。

 しかし、英国をはじめとする諸外国の昨今の情勢を考慮すると、引き続き長期にわたって再処理を海外に依存することは困難であり、さらに前述のように、核燃料サイクル確立の必要性の見地から動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設に続いて民間による第二再処理工場の建設を推進する必要がある。

 再処理から得られるプルトニウムの利用については、原子力委員会としては、その核特性から高速増殖炉に利用するのが最も適当であると考えているが、高速増殖炉が実用化されるまでの間、資源の有効利用等の観点から、可能な限り熱中性子炉での再利用を積極的に進めることとし、新型転換炉においてプルトニウム利用の実証を行うとともに、軽水炉での利用についても、諸外国の利用状況を参考にしつつ、所要の実証を経て実用化に進むことが適切であろうと考え、従来から努力を重ねているところである。


(放射性廃棄物の処理処分)

 原子力発電所等原子力施設で発生する放射性廃棄物については、原子炉等規制法等により厳重に規制されており、気体状、液体状、固体状の放射性廃棄物それぞれについて、性状、放射能レベルに応じて所要の措置がなされ、安全に管理されている。

 しかし、低レベル固体廃棄物が今後の原子力発電の進展に伴って増加するほか、動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設の稼動が近づいており、放射性廃棄物の安全な処理処分システムの確立が緊急な課題である。(動力炉・核燃料開発事業団の再処理工場のフル稼動時(210トン/年)でも年間約100m程度(固化後はさらに10数mに減少する。)と量的には少ないが、放射能レベルが高く、半減期の長い核種も含まれているので慎重な配慮が必要である。)このため、原子力委員会としては従来より専門部会等で検討を進めてきたところであるが、昭和50年7月「放射性廃棄物対策技術専門部会」を設置し、放射性廃棄物処理処分のあり方と並行して、研究開発計画の策定等技術的側面について検討を進めるとともに、国と民間との責任分担、体制問題について関係各界と適宜懇談会を開催し、また、核燃料サイクル確立の観点から「核燃料サイクル問題懇談会」においても、重要問題として諸施策の検討を急いできた。

 これらの検討を踏まえ、原子力委員会は、本年10月、放射性廃棄物対策についての基本的方針を定めた。すなわち、高レベル廃棄物については再処理事業者が処理及び一時貯蔵を行い、永久的処分及びこれに代る貯蔵については国が責任をもつとの基本的考え方のもとに、政府は今後10年程度のうちに安全な形態への固化処理と貯蔵についての実証試験を行うことを目標として必要な準備を進めることとし、処分については今後3~5年間で方向付けを行い、さらに、昭和60年代からの実証試験を行うこととした。また、低・中レベル放射性廃棄物については、ドラム缶等にセメント等で固化した後、その固化処理形態に応じて海洋処分または陸地処分を行う方針とし、このため(財)原子力環境整備センターを設立するとともに、民間において必要な体制整備を行うとことした。特に海洋処分については、これまでに行ってきた海洋環境調査及び経済協力開発機構(OECD)原子力機関(NEA)の10年間に及ぶ海洋処分の経験等に基づく海洋処理に伴う環境への影響に関する事前の評価を踏まえ、内外の協力を得て国の責任のもとに安全性を確認し、また処分技術を確立することを目的として、昭和53年頃から試験的海洋処分に着手することとしている。このため、原子力安全局は試験的海洋処分の環境安全評価に関する報告書を本年9月とりまとめたが、この評価の妥当性について「放射性廃棄物対策技術専門部会」で審議検討している。


第5章 研究開発の推進

 我が国は、原子力の研究開発がエネルギー政策上の重要課題であるとの認識のもとに、原子力基本法制定以来、これを自主的に進めるとの基本方針を一貫して堅持してきたところである。

 すなわち、我が国の原子力開発利用が欧米各国に比べて遅れて着手されたこともあり、昭和30年代は、日本原子力研究所、大学等を中心として原子力の基礎的研究を進めるとともに、諸外国の原子力技術の消化を図り、原子力の研究開発基盤の整備に努めた。これらの技術蓄積を踏まえ、昭和40年代に入ってから、我が国独自に新型動力炉や原子力船を自主的に開発するとの方針のもとに、これを動力炉・核燃料開発事業団や日本原子力船開発事業団において国のプロジェクトとして進めてきた。今日、これらのプロジェクトは、その開発に着手して以来、すでに約10年を経過し、これまで建設してきた施設が運転を開始しつつあり、その開発成果が具体的に評価される段階に至っている。今後その評価を踏まえ、実用化へ向けて新たな開発段階に移行しようとしている。

 また、多目的高温ガス炉、核融合等、新たな研究開発の芽が、これまでの基礎研究の成果によって自主開発プロジェクトとして飛躍しようとする段階に達してきている。

 一方、現在原子力発電の主流を占めている軽水型原子炉については、民間による米国からの技術導入あるいは日本原子力研究所で進められた研究開発の成果を基礎として、軽水炉技術の消化を図り、今日、我が国電力供給の一翼を担うまでに発展してきている。しかし、なお、原子力発電については、第3章、第4章で述べたごとく、安全の確保と核燃料サイクルの確立を図り、我が国社会に原子力発電を事業として定着化させる努力が必要である。このため、原子力委員会としては民間における一層の努力の傾注を期待するとともに、政府においても、安全研究並びにウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物の処理処分等の核燃料サイクル確立のための研究開発を強力に推進することが必要と考える。

 また、放射線利用は、今日これまでの研究の成果により、医療、工業、農業等の分野において、国民生活の身近なところにまで広く普及し、国民生活の向上に大きく寄与するに至っており、利用分野の拡大のための研究開発が進められている。

 さらに、安全確保の観点から、昭和30年代より放射線の人体及び環境への影響について放射線医学総合研究所を中心に研究が進められ、今日、原子力開発利用の進展に伴い、ますますこの分野の研究が重要となってきている。

 このように、今日広範多岐にわたる研究開発課題を総合的、計画的に推進することが要請されている。

 原子力委員会としては、これらの研究開発課題の緊急性とその規模の大きさから、従前にも増して膨大な資金と人材を確保する必要があるとの認識に立ち、以下のような基本的方針のもとに、開発目標、開発時期を明確にし研究開発を計画的、効果的に推進していく考えである。

 まず、当面の最重要研究開発課題としては、軽水炉及び環境放射能に関する安全研究並びにウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物処理処分等、核燃料サイクルの確立のための研究開発を進め、安全で整合性のとれた原子力発電体系を確立して、原子力発電の定着化を図る。

 次に、中期目標としては、これまでの研究開発の成果を踏まえて、軽水炉に比して核燃料の有効利用をめざす新型転換炉及び高速増殖炉の開発、非電力分野への原子力エネルギーの利用を図る多目的高温ガス炉の開発、さらには原子力船の開発等、軽水炉による発達のみにとどまっている現状から、原子力エネルギーの利用の多様化、高度化を図り、原子力利用の飛躍的拡大による本格的な原子力時代招来のための研究開発を進める。

 さらに長期目標としては、21世紀の実用化をめざし、人類究極のエネルギー源として期待されている核融合の研究開発を進め、エネルギー源としての可能性の実証を行う。

 これらの研究開発を進めるにあたっては、近年、安全研究、放射性廃棄物処理処分研究、核融合研究開発等についての、国際協力の気運が急速に高まってきており、これを十分考慮して進めることとしている。また、原子力の研究開発に果たしてきた基礎研究の役割を十分に認識して、人材養成を含め、研究開発基盤の整備充実を積極的に図り、大学及び各研究機関との連けいを一層深めていく必要がある。

 さらに、今日、高速増殖炉・核融合等の研究開発を進めるに際して新たな研究施設の用地が必要となっているが、近年、このような用地の確保が難しい状況となっているが、将来のエネルギー源獲得をめざした研究開発の重要性、緊急性にかんがみ、その計画的推進のため早急に円滑な立地確保のための対策を進めていくことが必要である。


(軽水炉に関する安全研究)

 現在、実用段階にある軽水型原子炉の安全性は、極めて高水準にある。安全の判断を行うに際して十分な知見の得られていない場合には、特別に厳しい安全基準を課することによって不足している知見を補うこととしており、今後は、安全研究や実証試験を行うとともに、運転経験の蓄積を図ることによって安全基準のより精密化、安全裕度の定量化を進める必要がある。

 また、極めて小さい確率ではあるが、理論的には想定されるような大規模な事故、事象に関しては、本来、実証することが困難なものが多いが、できるだけ実証的研究を進めることによって設計上の裕度を確認する努力を続ける必要がある。さらに、原子炉施設等の建設運転にあたって、科学技術の進歩を踏まえ、最新の技術水準をとり入れることによって安全技術の向上を図る必要がある。

 このような観点から、原子力委員会は、従来からこれらの安全研究の推進を図ってきたところであるが、さらに、これを総合的、計画的に推進するため、「原子炉施設等安全研究専門部会」を設置して、原子炉施設等の工学的安全研究の推進方策について検討を進め、本年6月「原子炉施設等安全研究5ヶ年計画」を策定し、原子炉等の安全研究を強力に推進することとした。

 すなわち、原子炉施設等の安全審査基準のより定量化、精密化を図るために必要な試験研究については、反応度事故に関する研究、冷却材喪失事故に関する研究等を、日本原子力研究所を中心に推進してきている。その成果は、国際的にも高く評価されるに至っており、特に昭和50年度には、日米協力として冷却材喪失事故研究計画(LOFT計画)への参加、出力異常事故研究計画(PBF計画)と我が国の原子炉安全性研究炉計画(NSRR計画)との相互協力、国際エネルギー機関(IEA)を中心とする安全性情報交換協力等を行い、各国と活発な国際協力を図った。このような国内での安全研究の成果や国際協力による情報交換等により、電子計算機による我が国独自の安全解析プログラムの作成も逐次進み、安全審査のより充実化に寄与し得る段階を迎えている。

 また、軽水炉技術の信頼性の一層の向上を図るための研究開発として、日本原子力研究所において軽水炉用燃料の健全性、信頼性の向上を図るための実用燃料照射後試験施設の建設等を進めている。さらに、原子力発電の安全性に対する不安を解消するため、配管信頼性、格納容器スプレイ効果信頼性、耐震信頼性、核燃料信頼性等について、できるだけ実規模に近い形での安全実証試験を行うに必要な経費を、昭和50年度から、電源開発促進対策特別会計に計上(昭和50年度約45億円、昭和51年度約76億円)し、日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター等において実施されている。

 さらに、外国技術への依存から脱却し、自主開発に基づく、我が国に適した軽水炉技術の確立をめざすため、通商産業省において、軽水炉の改良、標準化の施策を進めている。

 以上の軽水炉の安全性、信頼性向上のための試験研究の努力は、原子力発電の定着化に大きく寄与するものと期待される。


(環境放射能に関する安全研究)

 原子力開発利用に伴う放射線の人体及び環境への影響に関する研究については、国民の健康と安全の確保及び環境の保全を一層堅持する立場からその推進を図ることは極めて重要である。原子力委員会は、環境放射線による被ばく線量評価研究及び低レベル放射線の影響研究の総合的な実施を図るために、「環境放射能安全研究専門部会」においてその進め方について、審議、検討を進め、本年9月、「環境放射能安全研究年次計画」を策定した。この計画に基づいて、放射線医学総合研究所、日本原子力研究所、大学等において、引き続き強力にこれらの研究を推進することとしている。


(核燃料サイクル確立のための研究開発)

 我が国の原子力開発利用は米国、ソ連、英国、フランスに遅れて始まったこともあり、これまでウラン濃縮、再処理等核燃料サイクルの一部を西ドイツ、イタリア等の国々と同様海外に依存してきたが、我が国の原子力発電の規模の拡大に対処していくためには、我が国に適した核燃料サイクルを確立する必要がある。このため、従来から、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物の処理処分等の研究開発を推進してきたところである。

 すなわちウラン濃縮技術については、動力炉・核燃料開発事業団における遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を進めてきたが、これまでのカスケード試験の開発成果に基づき、原子力委員会としては「核燃料サイクル問題懇談会」での評価検討を踏まえて、昭和52年度から濃縮パイロットプラントを建設することが妥当と考えている。

 再処理技術については、動力炉・核燃料開発事業団が我が国最初の使用済燃料再処理工場の建設を行い、昭和53年度の操業をめざして、現在、天然ウラン及び劣化ウランを用いた試験を進めている。

 放射性廃棄物の処理処分技術の研究開発としては、低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分を実施する上で必要な処分固化体の健全性を調査確認するため、日本原子力研究所、(財)電力中央研究所等において放射性物質の深海外500気圧下における浸出試験、健全性試験が実施されるとともに、深海底までの健全な降下及び着底について追跡するための技術の開発が行われている。

 また、高レベル放射性廃棄物の処理処分技術については、各国とも調査研究の段階にあり、原子力発電の進展に伴って各国共通した課題となっている。我が国では、高レベル放射性廃棄物は現在までのところ発生しておらず、動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設が稼動する予定の昭和53年度以降に生じてくるものである。この処理技術については、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において、ガラス固化等の処理技術の研究を進めており、今後10年程度のうちに実証試験を行うことを目標としている。処理後の方策としては、厳重な管理が可能な工学的貯蔵を当面の方策と考えているが、最終的な処分については、当面地層処分に重点をおき、我が国の社会的地理的条件に見合った処分方法の調査研究を早急に進め、今後3~5年のうちに処分方法の方向付けを行うものとし、さらに昭和60年代から実証試験を行うことを目標としている。このような研究開発の進め方については「放射性廃棄物対策技術専門部会」において検討し、研究開発計画を策定した。今後は、これに沿って、総合的、計画的に対策を推進することとしている。


(新型炉の研究開発)

 発電用原子炉としては、現在、軽水炉が世界の主流を占めており、今後とも当分の間は、この傾向が続くものと思われるが、世界的な原子力発電の開発規模の拡大に伴って、将来にわたって軽水炉による開発に中心を置く限り、昭和70年代頃を境に、ウラン資源の不足が生ずることが予測される。このため、先進諸外国においては、核燃料(ウラン、プルトニウム等)を有効利用することを目的とした新型炉の開発を進めている。

 我が国としても、原子力が、将来、各産業分野の中で大きな比重を占めることとなること、自主技術の蓄積が安全性、信頼性の向上に不可欠であること等から、独自の技術開発を進めることが必要であるとの認識に立ち、政府は、動力炉開発に関する基本方針及び基本計画を定め、動力炉・核燃料開発事業団において昭和42年度より、国のプロジェクトとして、新型転換炉及び高速増殖炉の開発を進めてきたところである。高速増殖炉実験炉「常陽」はすでに施設の建設を終えて運転に入る段階にあり、また、新型転換炉原型炉「ふげん」は建設の大づめを迎えており、今後、これらの開発成果が具体的に評価される段階に至っている。

 また、原子力エネルギーの非電力部門への利用を図るための多目的高温ガス炉については、その研究が日本原子力研究所で進展し、実験炉の建設計画について具体的に検討するまでに至っている。

 原子力委員会は、このような新型炉開発の進展により、新たな段階を迎えた現時点で、改めて、長期的な新型炉開発についての政策の見直しを行うため、「新型動力炉開発専門部会」を設けて審議を進め、本年8月、次のような内容の報告を受け、今後これに沿って我が国の新型炉開発を進めることとした。

① 発電しながら新たな核燃料(プルトニウム)を生み出し、ウラン資源を最大限に有効利用する高速増殖炉については、昭和70年代に本格的に実用化することをめざして、これまでの実験炉の開発の知見を踏まえて原型炉の開発を強化推進する。

② 天然ウラン及び濃縮作業量を節減し、プルトニウム燃料を利用できるなど、優れた面を有している新型転換炉については、高速増殖炉の実用化時期如何によっては重要な意義を持つと考えられるので、これに備えて原型炉の運転による技術の蓄積を図り、実証炉の概念設計及びこれに必要な研究開発を進める。

③ 軽水炉の数倍の高温(1,000℃)をとり出すことを目標とした多目的高温ガス炉は、熱効率が軽水炉に比べて高く、また、原子力利用分野を非電力部門にまで拡大し、非電力部門における化石燃料に対する代替を図ることを目的としたものであり、昭和50年代末までに実験炉を運転することを目途に研究開発を進める。

④ 海外で開発が進められている新型炉の我が国への導入については、安全性、経済性、核燃料サイクルに及ぼす効果等について、今後とも調査・検討を進めるものとする。

 以上の新型炉開発を進めるにあたっては、新型炉の安全性の確保、及び環境の保全に努力を注ぐことがこれまで以上に要請されるので、それぞれの開発計画の中で、これらの研究開発を推進するとともに、実用化に備えて安全評価等に関する諸データの蓄積を図る。


(原子力船の研究開発)

 我が国では、「原子力第1船開発基本計画」に基づき、日本原子力船開発事業団を中心に原子力船「むつ」の開発を進めてきたが、昭和49年9月、原子炉の出力上昇試験の際生じた放射線漏れのため、この開発が一時停滞の止むなきに至った。

 このような事態に対処し、政府においては、「「むつ」放射線漏れ問題調査委員会」を開催し、放射線漏れの原因を明らかにした。一方、原子力委員会は、「原子力船懇談会」を設け、我が国における原子力船開発の在り方、「むつ」の今後の措置等について、抜本的な見直しを行った。その結果、我が国においては今後とも原子力船開発を積極的に行うべきこと、「むつ」は適切な改修を行うことにより、所期の目的を達成させることができることなどを明らかにするとともに、今後とも「むつ」の開発を積極的に推進することとし、日本原子力船開発事業団法の改正等に関し所要の措置をとるべきことを決定した。

 政府は「むつ」の総点検、改修に関し、原子力委員会の決定に基づき国の立場からチェックを行うため、「「むつ」総点検・改修技術検討委員会」を設け、審議を行っている。また、「むつ」の点検、改修を行う修理港について長崎県及び佐世保市に対し、受入れ方の協力を要請し、地元の理解と協力を得るよう努力を重ねているところである。

 原子力委員会としては、エネルギー政策のみならず造船、海運政策の観点から、原子力船開発を今後とも積極的に推進し、世界の大勢に遅れることのないよう配慮すべきであると考えており、この意味から修理港さらには新定係港の決定が地元の理解と協力を得て、円滑に行われることを期待するものである。


(核融合の研究開発)

 我が国のエネルギー供給を長期的に展望すると、人類究極のエネルギー源として期待されている核融合の研究開発を積極的に進める必要がある。原子力委員会は、昭和43年以来、原子力特定総合研究として、日本原子力研究所、電子技術総合研究所、理化学研究所、金属材料技術研究所等において進めてきたが、これらの研究の成果に基づき、昭和50年7月、21世紀の実用化をめざして、昭和50年代中頃に臨界プラズマ条件を達成することを目標とする「第二段階核融合研究開発基本計画」を策定した。

 これに基づき、日本原子力研究所では、第二段階の主装置である臨界プラズマ試験装置(JT-60)について、その詳細設計を進めるとともに主要機器の試作開発を行い、本年度中にその建設に着手する予定である。

 また、原子力委員会としては、我が国の核融合研究開発を総合的、計画的に推進するため、昭和50年11月、「核融合会議」を設置して、大学、国立研究機関等の研究を含め、総合的な研究開発の進め方について審議検討を行っている。


第6章 国民の理解と協力を得るために

 我が国の原子力開発利用は、第1章に述べたごとく、現在、広汎多岐にわたる課題に直面しているが、この課題の克服のためには、何よりもまず、国民の理解と協力を得ることが欠くことのできない前提である。

 新しくかつ複雑な科学技術が社会に導入され定着するまでには、概して社会の一部にある種の違和感がかもしだされるという事実からみて、原子力開発利用をめぐってさまざまな意見が提起されることは、それが巨大科学技術であり、かつ、最先端のものであるということからみて、また、過去に、我が国民が不幸な体験を持ったという事実からして十分理解していかなければならない。

 しかし、原子力についての理解の不足等のため、我が国の原子力開発利用が円滑に進展できないような事態に陥り、将来の我が国エネルギー供給に不安を残すことがあってはならないと考えている。我が国のエネルギー事情、原子力の必要性、安全性等について広く議論が行われ、その結果原子力についての理解が深まることを期待するものである。

 このため、原子力委員会としては、政府、関係地方公共団体、原子力施設設置者及び関係産業界が、原子力の知識について広く国民一般及び地域住民に対して正しい知識を提供し、原子力開発利用に対する国民の不安や疑問に応えるため十分な努力を払うことを強く要望するものである。

 しかし、真に国民の理解と協力を得ていくためには、上述した関係者の努力だけでは十分ではなく、科学者、専門家、報道関係者等国民各層の協力に依るところが極めて大きいと考えるものである。

 原子力委員会としては、原子力年報、原子力委員会月報等の編集、安全審査関係資料の公開等を通じ、我が国における原子力開発利用の進め方、考え方、安全審査の内容、原子力委員会の活動状況等を国民に明らかにすることによって、これまでも、原子力に関する正しい知識の普及、理解の向上に努めてきたところであるが、今後は、これらの一層の充実に加えて、科学者、専門家による意見の交流の場として原子力シンポジウムの開催、国民及び地域住民の意見を反映させるための公聴会制度の改善、国民の不安解消を図るための安全性実証試験の推進等、国民の理解と協力を得るよう所要の措置を講じていく決意である。


(不安感解消のための努力)

 我が国における原子力開発利用は、その当初から安全の確保と環境の保全を大前提として進めてきたところであるが、国民の間には、原子力の安全性に対する不安感が依然として存在しており、今日、その立地を困難なものとしている。

 このような状況を打開していくためには、原子力発電所等の設置者が、その信頼性向上に努め、原子力発電等の安定した運転実績の蓄積を図るとともに、原子力委員会としても安全性実証のための試験研究を推進することによって、国民が原子力の安全性を実感として理解しうるよう努めることとしている。また、政府においては、原子力開発利用の進展に対応して、安全規制行政をこれまで以上に充実し、さらに国民の原子力に対する理解を助けるため、普及啓発活動をより一層強化する必要がある。


(国民の意見の反映)

 国民或いは原子力施設立地地域住民の中には、原子力開発利用をめぐって、原子力の安全性、環境保全、地域開発等について、国民との意思疎通を十分に行い、これを原子力行政に反映させるべきであるとの意見が高まっており、最近では住民参加についても要望されている。

 原子力委員会においては、このような要請に応えるため、昭和48年5月に「原子炉の設置に係る公聴会開催要領」を決定し、同年9月、福島第二原子力発電所の設置に際し、公聴会を開催した。さらに、本年には、柏崎・刈羽原子力発電所の設置に関して公聴会を開催すべく前述の開催要領を改正し、開催時間の延長、開催者側としての説明追加及び見解表明を行う機会の増加等の改善を図ったが、地元開催には至らず、これに代えて、地元利害関係者の意見を文書で聴取し、安全審査に反映させることとした。この種の公聴会については、今後「原子力行政懇談会」の意見をも踏まえて、我が国の法制、社会制度をも考慮してその性格等を再検討し、適切に国民の意見が反映されるような施策を講じていくこととしている。

 また、科学者、専門家により、原子力開発利用をめぐる基本的問題についての討論を行うため、原子力シンポジウムの開催を計画し、日本学術会議の協力を得て、昨年末より準備を進めてきたが、以来、約1年を経た現在においても諸般の事情によりその開催には至っていない。原子力委員会としては、このようなシンポジウは、今後の原子力政策にとって、極めて有意義であると考えるので、極力、その実現に努力していく考えである。

 さらに、科学技術庁では、原子力開発利用全般についてより良く国民の考え方を聴くため、原子力モニター制度の発足についての準備を進めている。


(きめ細かい地域対策の実施)

 原子力施設の立地を円滑に進めるためには、何よりもまず立地周辺住民の理解と協力を得ることが不可欠である。原子力発電による電力供給に伴う利益は、広く享受されるのに対して、立地に伴う地域独自の問題があることを充分認識して、電源開発の立地対策の一環としてきめの細かい地域対策を進める必要がある。

 政府においては、地元の協力を得て、原子力発電所等の立地の円滑化を図るため、いわゆる電源三法を制定した。これは電気事業者から販売電力量に応じた電源開発促進税(1,000KW時につき85円)を徴し、これを財源として、発電用施設周辺の地域における道路、港湾、公民館、診療所等の公共施設の整備のほか、原子力発電所周辺の放射線監視、温排水影響調査、広報対策事業等を行うための経費を関係地方公共団体等に対して交付するものである。また、国と地方との連絡及び地元との対話の増進を図るため、原子力連絡調整官を原子力施設立地地域に配置し、その拡充を図ってきている。

 原子力委員会としては、このような政府の施策を一層強化し、関係地方公共団体の協力に応えうるよう努めるとともに、地域住民に直接接する原子力施設設置者自身が、地域住民に対して、より一層きめ細かく配慮するよう望むものである。


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