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「むつ」総点検・改修技術検討委員会第一次報告


昭和50年11月25日     
「むつ」総点検・改修技術検討委員会

 当委員会は、本年8月以来、日本原子力船開発事業団(以下「事業団」という。)から「むつ」の安全性の総点検実施計画及び遮蔽改修計画について説明を聴取し、これらについて慎重な検討を行った。
 その結果、当委員会は下記のとおり、事業団の遮蔽改修・総点検計画は妥当であり、この実施にあたっても本計画に従い慎重な配慮をもって行うことにより「むつ」の周辺環境の安全は充分保持しうるものと判断する。
 当委員会は、今後とも事業団における作業の進捗に伴い、随時、その内容を事前にチェックし、安全の確保に万全を期することとする。


1 遮蔽改修


 改修計画の概要は、別添1(原子力船「むつ」の遮蔽改修について)に示すとおりである。すなわち、圧力容器と1次遮蔽体間の空隙部および圧力容器の上部と下部に速中性子を吸収する遮蔽体を追加し、格納容器上部の鉛とポリエチレンからなる遮蔽体を重コンクリートに変えることとしている。
 これについて検討を加えた結果、技術的に概ね妥当なものと判断され、事業団としてはこの計画に沿って基本設計に着手することとして差し支えない。当委員会は、今後、基本設計の進捗に応じてその内容についてさらに検討を加えることとする。
 なお、基本設計に資するデータを得るための遮蔽実験などの内容も適当なものと認める。当委員会は、これらの実験結果が得られ次第評価を行う予定である。


2 総点検

 事業団は別添2(原子力船「むつ」の安全性総点検について)のとおり、原子炉部を中心とし「むつ」の安全性確認のための総点検を行うこととしている。
 これらの点検においては単に機器の点検にとどまらず、最新の設計思想に照らし、実験を含めた設計面の再評価及び陸上炉の故障例に鑑み、「むつ」に対する入念な点検等を実施することとしており、当委員会としては、かかる事業団の総点検計画を妥当なものと認める。
 今後、個々の点検内容を計画の進捗に応じ、詳細にチェックするとともに総点検項目自体の見直しも適宜行うこととする。


3 スケジュール

 以上の作業スケジュールは別添3(原子力船「むつ」総点検・改修スケジュールの概要)のとおり、遮蔽改修については51年度末までに基本設計を完了し、52年度に必要に応じ安全審査を受け、53年度に改修工事を行うこととしており、総点検については52年度までにほぼ終了し、53年度には所要の補修工事を行うとともに総合機能確認試験を行うこととしている。当委員会は、現時点では当該スケジュールを妥当なものと考えるが、今後とも安全確認を第1として慎重に作業を進めていくことを要望する。


4 その他

 「むつ」の原子炉は昨年の出力上昇試験以来、長期冷態停止の状態で維持されている。
 現在炉心内の放射能は極く微量であり、また一次冷却水の放射能濃度も飲料水レベル程度にとどまっている。
 かかる事情を考えれば、「むつ」の遮蔽改修・総点検にあたり、周辺環境に何らかの影響を及ぼすような事態は考えられない。


(別添1)

原子力船「むつ」の遮蔽改修について

 昭和50年11月25日
 日本原子力船開発事業団


1 基本的な考え方

 「むつ」放射線漏れの原因である圧力容器と1次遮蔽体間空隙部からの速中性子を遮蔽するため、船内各区域の基準線量率を満足し、かつ遮蔽改修によって船体および原子炉に既に確保されている安全性が損われないことを基本方針とし、事業団は遮蔽改修計画を策定した。これにあたっては、遮蔽設計、安全性、遮蔽の構造強度・材料、原子炉機器の保守点検、燃料交換の容易性、改修施工、載貨重量等の諸点から検討を行い、最も合理性を有する改修案を作成することとした。
 このような観点から総合的な比較検討を行った結果、上方向に漏れる速中性子を格納容器内部に設置する遮蔽性能の高い遮蔽体を置き、格納容器の上部の遮蔽を従来の鉛とポリエチレンから重コンクリートにかえて、格納容器内部の遮蔽体とあわせて、漏洩中性子を遮蔽することとした。
 下方向にもれる速中性子に対しては格納容器下部に設ける遮蔽体によって抑えることとした。
 事業団は、以上に述べた遮蔽改修の方法に基づき、今後の計画を進めることとする。


2 計画内容

(1)改修基本計画の作成
 昭和49年9月に放射線洩れが発見されて以来、現在迄にその原因究明、改修案の作成ならびにこれらの改修案の比較検討がおこなわれた。今後事業団は、1.に述べた改修案の構想(別紙参照)を基本として、これを具体化するとともに現在迄に挙げられた問題点を解決し、50年度末には基本計画を完成する。

(2)遮蔽材料試験
 遮蔽改修に用いる遮蔽性能をもった保温材、蛇紋砂と水素化ジルコニウムの混合物および蛇紋コンクリートなどについて諸試験をおこなう。

(3)遮蔽モックアップ実験
 遮蔽改修設計に役立たせるために、事業団は日本原子力研究所と船舶技術研究所と共同で、日本原子力研究所東海研究所のJRR-4研究用原子炉を用いた遮蔽モックアップ実験を昭和51年2月から4月にかけて行う。

(4)遮蔽構造試験
 遮蔽を改修することにより、原子炉設備及び船舶の機能と安全性が損われないことを確認するため、51年度において次の諸試験を行う予定である。

(イ)1次遮蔽体への伝熱試験

(ロ)船底部耐座礁構造強度試験

(ハ)船体動揺及び振動に対する確性試験

(ニ)工事施工法モックアップ試験


(5)改修基本設計
 昭和51年度は、(1)の基本計画に遮蔽モックアップ実験及び材料試験の結果をとり入れて基本設計を行なう。基本設計は、遮蔽構造試験と並行させて、試験結果を適時設計に反映させて進める。
 51年度に実施する基本設計では、主として下記の項目について検討を行う予定である。

(イ)渡蔽設計計算
 1次遮蔽体全体について再設計計算を行うとともに遮蔽体接合部、貫通部からの放射線ストリーミングに対する補償遮蔽設計計算を行なう。また格納容器上部遮蔽などの設計計算をおこなう。

(ロ)遮蔽改修に関連する安全解析
 遮蔽の改修によって変更される原子炉構造及び船体構造部分等について安全性の検討および解析をおこない、安全性が確保されていることを確認する。

(ハ)遮蔽体及び改造部分の構造設計
 圧力容器フランジ部遮蔽体、圧力容器蓋部遮蔽体および上部コンクリート1次遮蔽体など改修する遮蔽体の構造及び強度設計をおこなう。

(ニ)材料仕様の作成
 水素化ジルコニウム及び蛇紋砂コンクリートなどの遮蔽材料について諸特性を調査するとともに材料の製造・試験検査などについて仕様を作成する。

(ホ)改修工事計画
 遮蔽の改修の手順、工事中の安全性を検討するために改修の工事計画の概要を作成する。

(ヘ)その他改修により変更される部分の見直し
 遮蔽の改修によって、従来から変更される計画、たとえば燃料交換および運転計画について検討をおこなう。

(6)改修工事
 事業団は、昭和52年度には、国による安全性の審査ならびに所要の検査をうけて、昭和53年度に改修工事にとりかかる予定である。


3 遮蔽改修のスケジュール




(別添2)

原子力船「むつ」の安全性総点検について

 昭和50年11月25日
 日本原子力船開発事業団


1 基本的な考え方

 日本原子力船開発事業団(以下事業団という。)は、原子力船「むつ」(以下「むつ」という。)の遮蔽改修と並行して原子炉プラント設備を中心とする安全性の確認を行い、「むつ」が十分な安全性をもって、実験船としての使命を全うし、今後の原子力船開発に役立つよう努める。
 安全性確認については、原子炉プラント機器等を対象とする点検にとどまらず、原子炉プラントの設計等の再検討を併せて行い、この際内外の情報を十分に参考にし、「むつ」設計当時より一段と進歩した現在技術による検討を加える。
 更に、陸上原子炉に対する新安全基準等からのバック・フィットについてはプラント事故解析等の重要事項を対象として検討する。
 すなわち

(1)原子炉プラント機器の点検については、安全上重要な系統、コンポーネント等に対してその健全性を確認し、且つ設計上の機能が維持されているかどうかをチェックするが、また長期冷態停止に伴い経年変化を考慮する必要があると思われるものについては、早期に点検する。その他の項目については、定期的自主的に点検を行うか又は、通常の維持管理の下で実施する。

(2)「むつ」の設計当時の安全に関する基本的な考え方は、詳細設計、建造、据付、検査、試験、保守等に十分に反映されていると思われるが、その中の主要な系統については再検討を行い、出力を上昇させた時の状態を現設計についての検討結果から細心の注意を以て推測し、その結果、不具合を生ずる懸念がある場合には、それに対する改善策を講ずる。

(3)陸上原子炉に対する新安全基準等からのバック・フィットについては、必要な設計の再評価を行うほか、ECCS解析再評価などを含むプラント事故解析を対象に検討する。その際解析上必要なデータ確保の為には所要の実験を行う。

 以上の点検、検討を行うに当っては内外の原子力発電所及び原子力船の運転経験、トラブル等を調査検討し点検計画に反映させる。
 なお、出力試験再開に当っては、事前にプラント機器の総合機能試験及び入渠工事を行って万全を期するものとする。

遮蔽改修案概念図


-改修案-



2 計画の内容

(1)原子炉プラント機器の点検

 制御棒駆動機構試験の他、主要系統及び関連機器のうち、ⅱ)に列挙する10項目に対しその信頼性確認の観点から早期にその機能試験を実施する。
 また、最近の陸上原子力発電所における諸経験に鑑み蒸気発生器伝熱細管の探傷試験並びに一次冷却系配管主要部の探傷試験も重要と思われるので、これを実施する。その他蒸気発生器及び圧力容器の内部点検も必要に応じ考慮する。

ⅰ)制御棒駆動機構試験

ⅱ)主要系統及び関連機器の機能確認試験
 下記(a)~(j)の10項目については、その信頼性確認の観点から早期に機能試験を行うことが必要と考えられるので、これを実施する。
 作動試験は冷態で行うものとし、試験用制御回路には実信号又は模擬信号により行う。

(a)補機及び弁関連回路作動試験
(b)補機(タンク、熱交換器)類の点検
(c)プロセス計測器単体性能確認試験
(d)自動制御系設備作動試験
(e)核計装系動作確認試験
(f)安全保護回路動作確認試験
(g)放射線監視盤作動試験
(h)自動遮断弁作動試験
(i)ECCS系総合作動確認試験
(j)通風換気系統性能試験

ⅲ)蒸気発生器伝熱管探傷試験

ⅳ)一次冷却系配管の探傷試験

ⅴ)その他


(2)原子炉プラントの設計の再検討
 昭和50年度においては、国内外の原子力発電所及び先行原子力船の基準の調査、不具合点の摘出を行い、原子力船「むつ」との照合等を行い改善点の検討を行っているが、51年度には、前記検討を続けるとともに「むつ」設計当時の設計基準並びに安全基準がその通り設計、施工、機能等に実現されているかどうかについて、特に重要且つ早急に取り上げる必要ありと思われる下記諸項目について再検討する。

(a)炉心特性の再評価
(b)燃料特性の再評価
(c)制御保護系の再検討
(d)給水制御系の再検討
(e)一次冷却系漏洩検出系の検討
(f)格納容器圧力バウンダリーの改良の検討
(g)安全施設の試験対策
(h)放射線モニタの配置と感度の検討
(i)一次冷却系配管及び余熱除去配管の熱応力再評価、配管の熱膨張、支持構造に基く外部荷重等により発生する設計二次応力の検討。
(j)原子炉機器のASME基準との比較評価
(k)その他

(3)原子炉プラントの事故解析
 安全性確認の一環として「むつ」炉の設計当時より一段と進歩した現在技術並びにその後の新安全基準等により、検討を加えることは既述の通りであるが、特に新安全基準等の「むつ」炉への適用の問題については原子炉プラント事故解析に重点をおくべきものと判断される。
 この際、採り上げるべき事故解析としては所謂ECCS解析再評価を最重要項目とし、他に各種配管破断事故解析等を採上げる。

ⅰ)ECCS解析再評価

ⅱ)各種配管破断事故解析

ⅲ)蒸気発生器の細管破断事故解析


(4)関連実験研究
 ECCS解析再評価に当り、解析過程で必要になる実験的データを確保する為、次のような実験を行う必要があり、これを51年度より実施する。

ⅰ)ステンレス鋼被覆管の高温強度に関する実験

ⅱ)ステンレス鋼被覆管のスウェリング及びバーストに関する実験

 その他、検討の結果必要となれば停電時における一次冷却系の自然循環に関するモックアップ実験を行う。



3 スケジュール

 安全性確認作業の大半を51年度に終了させ、それらの結果から、不具合点、改善点への対策を整理し、必要な場合には52年度後期に原子炉施設の設置変更許可手続を経て53年度前半には改修工事に着手する。改修工事終了後主要機器のオーバーホール及び原子炉プラントの総合機能試験を行って、54年度から出力上昇試験を再開する。



原子力船「むつ」安全性総点検スケジュール





別添3

原子力船「むつ」総点検・改修スケジュールの概要

 昭和50年11月25日
 日本原子力船開発事業団






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