昭和50年9月11日
原子力委員会原子力船懇談会
原子力船懇談会構成員
芥川 輝孝 |
日本船舶振興会理事長 |
浅井 栄資 |
日本海技協会会長 |
安藤 文隆 |
運輸省船舶技術研究所所長 |
安藤 良夫 |
東京大学教授 |
大山 義年 |
東京工業大学名誉教授 |
菊地 庄次郎 |
日本船主協会会長 |
黒川 正典 |
日本郵船(株)常務取締役 |
古賀 繁一 |
三菱重工業(株)会長 |
真藤 恒 |
石川島播磨重工業(株)社長 |
堤 佳辰 |
日本経済新聞論説委員 |
福田 久雄 |
大阪商船三井船舶(株)会長 |
松根 宗一 |
経済団体連合会エネルギー対策委員長 |
水品 政雄 |
日本海事協会会長 |
村上 行示 |
全日本海員組合組合長 |
村田 義夫 |
三菱原子力工業(株)会長 |
森 一久 |
日本原子力産業会議常任理事 |
山下 勇 |
日本造船工業会会長 |
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(関係官庁等) |
生田 豊朗 |
科学技術庁原子力局長 |
後藤 茂也 |
運輸省海運局長 |
内田 守 |
運輸省船舶局長 |
島居 辰次郎 |
日本原子力船開発事業団理事長 |
(敬称略、五十音順)
審議の経過
本年3月18日、原子力委員会に別紙のとおり、原子力船懇談会が設置され、以来7回にわたり審議が行われた結果、9月11日原子力委員会委員長あて同懇談会報告が提出された。
第1回 4月18日
佐々木原子力委員会委員長より原子力船懇談会に対し、(1)わが国の原子力船開発の進め方、(2)原子力第1船「むつ」の措置、(3)日本原子力船開発事業団のあり方、について諮問があり、座長に福田久雄氏(大阪商船三井船舶(株)会長)が選出された。
第2回 5月16日
「むつ」の遮蔽改修の見通し、および海外の原子力船開発の現状について、同事業団の説明が行われた。
第3回 6月11日
原子力委員会松井委員より、「原子力船「むつ」問題に関する原子力委員会の見解」について報告があり、同事業団より、「むつ」の遮蔽改修概念案の説明および本年5月、ニューヨークで開催された原子力商船国際会議の動向についての説明が行われた。
第4回 7月14日
上記諮問に対する各委員の意見が発表され、報告案骨子の検討が行われた。
第5回 8月1日
各委員の意見をもとに事務局がまとめた報告案についての審議が行われた。
第6回 8月22日
各委員の意見をもとに事務局がまとめた第2次案についての審議が行われた。
第7回 9月11日
前回提出の報告案を各委員の意見にもとづき修正した第3次案について審議した結果、修正意見なく承認された。
(別紙)
原子力船懇談会の設置について
昭和50年3月18日
原子力委員会
1. 設置の目的
最近における原子力第1船「むつ」の事態にかんがみ、わが国における原子力船開発の今後のあり方を検討するとともに、それをふまえて原子力第1船の開発計画、日本原子力船開発事業団のあり方等について抜本的な見直しを行うため、原子力委員会に原子力船懇談会を設置する。
2. 審議の内容
(1) わが国における原子力船開発のあり方
(2) 原子力第1船の今後の措置
(3) 日本原子力船開発事業団のあり方
(4) その他
3. 審議期間
懇談会は、昭和50年3月から開催し、昭和50年7月までに一応の審議を終えることを目途とする。
4. 運営の方法
懇談会の運営は、科学技術庁と運輸省が協議して行う。
1. はじめに
わが国における原子力第1船の開発は、昭和38年に策定された「原子力第1船開発基本計画」に基づき、日本原子力船開発事業団(以下「事業団」という。)を中心に官民協力のナショナルプロジェクトとして進められてきた。
しかしながら、原子力第1船「むつ」(以下「むつ」という。)は、昨年9月出力上昇試験の初期段階において、たとえ僅かであるが放射線漏れを起こし、以来、母港の岸壁に係留のままとなっており、昭和50年度末完了を予定した開発スケジュールを予定どおり進めるのは困難な事態に立ちいたっている。
他方、諸外国においては、一昨年秋のいわゆる石油危機を契機として原子力船開発に対する関心も昂まりつつあり、舶用炉の研究開発、大型原子力コンテナ船の開発計画等、意欲的な研究が続けられている。
本懇談会はかかる情勢を踏まえて、「むつ」の今後の措置、事業団のあり方、およびわが国における今後の原子力船開発の進め方について検討を行った。
2. 原子力第1船の今後の措置
「むつ」の放射線漏れの原因について、総理府に設置された「「むつ」放射線漏れ問題調査委員会」(以下「調査委員会」という。)は、技術的な面のみならず、開発体制をも含む幅広い観点から調査を進め、問題点を指摘するとともに「むつ」は適当な改善・改修によって十分所期の技術開発の目的に適合し得るものとの判断を示している。調査委員会はさらに資源・エネルギー問題との関連において、一日も早く原子力船開発研究が十分な成果をあげるよう期待し、今後「むつ」の研究開発計画を進めるにあたって考慮すべき点や施策について提言を行っている。
当懇談会は上記報告を斟酌し、事業団からも遮蔽の見通しについて説明を聴取し、検討した結果、「むつ」は技術的に改修が可能であると考えるが、この場合、十分な技術的検討および厳正な評価が行われる体制を整備する必要がある。
したがって、わが国としては「むつ」を初期の基本方針に則して完成させ、国産技術による原子力船建造の貴重な経験を積むと同時に、実際の運航状態における原子炉特性の解明、信頼性の確認、各種の改良研究・安全研究の実施に資するべく官民協力して「むつ」の開発を推進すべきである。その際、今回の放射線漏れを貴重な教訓とし、かつ安全性の確保を最重点とし、以下に述べる基本的な考え方に基づき実施する必要がある。
(1) 遮蔽改修
調査委員会によれば、「むつ」放射線漏れの原因は「主として高速中性子が遮蔽体の間隙を伝って漏れ出るいわゆるストリーミングと称する現象に起因するものである」と報告されており、このため、今後の遮蔽改修を進めるに際しては、中性子の挙動に十分配慮して使用材料および構造等について、遮蔽、耐熱、耐振動、耐動揺等の効果を確認するための各種試験を行い、その結果を反映させて設計を行うとともに、円滑かつ確実な施工を図るために、工事施工のモックアップ試験等予備試験を行うべきである。
なお、設計および施工については、綿密な計画のもとに一頁した責任体制により実行される必要があり、また設計から施工・完成までの各段階のすべてにわたって実施の主体および責任の所在を明確にすべきであると考える。
(2) 総点検
調査委員会も指適しているように、「むつ」の出力試験を前に安全性確認の目的でその原子炉部分を中心に全般的な技術的再検討を行うべきである。この場合には、機器類のチェックのみではなく、設計面についてもできる限り最新の設計思想・計算方法により検討を加え、出力を上昇させたときの状態を細心の注意をもって推測し、要すれば十分な改善策を講ずるべきである。
なお、核燃料の抜取りの必要性の有無については後述の如く総点検の具体的作業方案の一環として安全面・技術面を含め総合的に検討すべきものであると考える。
(3) 出力上昇試験
遮蔽改修および総点検の結果、安全性を十分確認した上、綿密かつ慎重な計画のもとに出力上昇試験を行い、「むつ」の所期性能を確認すべきである。
(4) 実験航海
将来、原子力船の実用化を図るためには、「むつ」の実験航海の実施を通じて原子炉の船舶への適合性およびその安全性に関する試験研究を行い、安全性を始めとする原子力船評価のための各種データの蓄積を図るとともに、機器の改良試験を行うなど「むつ」を効果的に活用する必要がある。
(5) 安全確保のための措置
総点検・改修を経て、今後「むつ」の開発を安全かつ効率的に進めるにあたっては、まず第一に、その実施主体である事業団が自らの技術水準を高めることが不可欠であり、そのためには、後述の「日本原子力船開発事業団のあり方」の項で指摘するような組織体制の強化を図るべきである。第二に、「むつ」の総点検・改修計画については、現在事業団がその策定を行っているところであるが、科学技術庁及び運輸省合同の「「むつ」総点検・改修技術検討委員会」において、同計画について安全性の確保を最重点とした検討があらゆる角度から行われることを期待する。第三に総点検・改修の過程において原子炉設置変更に伴う安全審査を受けることが予想されるが安全審査を含む原子力行政のあり方については、内閣の原子力行政懇談会において現在検討が進められており、その結論を得て適切に対処すべきである。その際基本設計から工事施工にいたる各段階の規制の一貫性の確保と責任分担の明確化にとくに留意すべきである。
(6)地元住民の理解と協力
「むつ」の開発推進にあたっては、定係港近隣の地元住民を中心とする国民の理解と協力を得ることが大前提である。このため、政府および事業団は、きめ細かな対応を通じて地元住民の理解と協力を得るよう最善の努力をすべきである。
なお、「むつ」を所期のとおり完成させ、運航経験を積み重ねることが原子力船に対する国民の不安を取り除く最上の道であると考える。
3. 日本原子力船開発事業団のあり方
(1)事業団の役割
事業団は、原子力船の開発を行い、もって、わが国における原子力の利用の促進並びに造船および海運の発達に寄与することを目的として昭和38年に設立され、爾来わが国の原子力船開発を担ってきた唯一の専門機関であり、今後とも事業団が中核となり「むつ」の開発を引き続き推進し原子力船開発のために必要な技術の蓄積を図り、将来の実用化に備えるべきである。
(2)組織体制の強化
事業団は今後「むつ」の総点検・改修から実験航海にいたるまで長期間にわたる事業を完成させる必要がある。このため、事業団の組織体制について、上記の事業が責任ある指導者の一貫した指導の下で確実かつ円滑に行われるとともに事業団が主体的に技術の修得・蓄積を行い得るように強化整備すべきである。
(3)事業団法の改正
現在の事業団法は昭和51年3月31日をもって廃止されることとなっているが、前述の事業を遂行し得るよう同法に所要の改正を加えることが必要である。
なお、当面「むつ」開発計画の完遂を第一とするが原子力船が実用化にいたるまでには技術的な面のみならず国際協調等においても解決すべき要因が相当残されているため、これらの問題点等の解決を中心となって推進する組織について配慮する必要がある。
4. 原子力船開発の今後のあり方
(1)原子力船開発の必要性と各国の動向
原子力船は少量の核燃料で長期間にわたって航行できること、高出力になるにつれて経済性が良くなること等の特徴を有している。わが国としてもエネルギー資源が乏しいことに加え、基幹産業の1つである造船・海運の将来に備えるため、原子力船開発を積極的に推進する必要があることは、今さら論を待たないところである。
欧米諸国においては、既に主要国において原子力第一船を建造し、これを実用運航に供しつつ、原子力船としての長期的データの収集に努めている現状にある。今後の開発の方向として、将来の商業ベースに乗った原子力船を開発するため、実船運航のデータをふまえて、舶用炉の小型化、遮蔽の軽量化等の研究開発を鋭意進めているもの、あるいは既存の軍事目的による開発成果をベースとして、原子力商船の開発を効率的に進めようとしているもの等それぞれの国情に応じた開発推進方策がとられている。
なお、1975年5月、ニューヨークで開催された「原子力商船に関する国際会議」において欧米先進国は、原子力船実用化の見通しについては、経済性の実証、市場解析、外国港における受入れ等、未解決の問題点を指摘しながらも、本格的な原子力商船時代はほぼ共通して1980年代後半に到来するものと見込んでおり、また、米国海事局の出席者は今世紀末には200隻程度の原子力船が出現するという予測を発表している。
(2)原子力船開発の今後のあり方
わが国としても世界の大勢に伍し、原子力船の将来における実用化に備え今後とも開発を進めて行く必要があるが、その過程においては単に「むつ」の計画を完成させるのみならず、安全性、経済性の点で優れた舶用炉の開発を進めるとともに、国際自由航行等原子力船実用化のための諸条件の整備に努めなければならない。すなわち、基礎研究、設計研究等原子力船開発のための基盤を固めるに必要な研究を継続して行うべきことはいうまでもないが、同時に実際に「むつ」を実験船として設計・建造・運航することにより、原子力船開発の総合的な安全性・信頼性を確認するための技術の蓄積を図らなければならない。さらに、原子力船の実用化にいたるまでには、改良舶用炉、関連機器の開発等舶用炉プラントとしての広範にわたる研究開発とともに、経済性の解明等も進めてゆくことが必要となろう。
したがって、今後の原子力船の研究開発は原子力船開発技術を総合した長期間にわたる研究開発と多額の資金を必要とするものであり、原子力船実用化の見通しを明確にするため、基礎研究、安全基準作成のための研究、舶用炉の研究開発等を政府が中心となり民間の協力を受けて効果的に進めることとし、これらの成果を受けて将来民間企業における実用原子力船の開発に円滑に移行することが望ましい。
また、将来、原子力船の運航にあたっては全世界の港への自由出入の保証ならびに原子力船の安全に関する国際基準の確立が必要である。現在、国際海洋法会議において、原子力船の領海航行に関しても審議が行われ、また、OECD(経済協力開発機構)において、原子力船の安全性について検討を行う動きが出てきている。今後、わが国としてはこのような場を利用し、国際的な基準の早期確立に積極的な役割を果すべきである。
5. むすび
「むつ」開発計画は、わが国におけるエネルギーならびに造船・海運に関する政策を長期的展望のもとで策定するための重要な根拠となるべきものである。「むつ」は放射線漏れにより、その開発計画が一時中断の状況にあるが、適せつな改修を施すことによって所期の目的を達成させることが可能であり、したがって、当面「むつ」を改修し、開発の軌道に乗せ、国産技術による原子力船建造の貴重な経験を積むことに関係者は最大の努力を傾注すべきであると考える。
また、現時点において第2船以降実用化にいたるまでの長期計画を明確にすることは困難であるが、将来の実用化に備えるため、「むつ」の開発と併行して改良舶用炉・関連機器の開発等舶用炉プラントとしての広範な研究開発等を進めるとともに、これらの研究開発および「むつ」開発計画の進展に応じ、かつ、世界の趨勢にも十分留意しつつ将来の計画を策定して行くよう対処することを期待する。
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