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原子力船「むつ」問題についての原子力委員会の見解




昭和50年6月10日
原子力委員会

1 「むつ」放射線漏れ問題調査委員会は、去る5月13日、政府に対し、調査報告書を提出した。当委員会は、同報告書の調査報告および提言を貴重な見解として尊重するとともに、今後の施策にできるだけ反映させていきたい。

2 昨秋の原子力船「むつ」からの放射線漏れは、極めて微量であったとはいえ、これを一つの契機として原子力行政について国民全般に広く不信感が発生したことは当委員会の極めて遺憾とするところであり、今後の原子力平和利用の推進のために、かかる不信感を払拭することが是非とも必要であると考える。
 本来、技術開発の過程においては、多少の失敗も絶対にないということは言えない。しかし、その反面において、失敗もやむをえないという安易な気持で技術開発に臨むことは許されない。この点に十分な自覚をもって、安全性、信頼性、主要特性など、重要な点につき問題点を可能な限り予測し、それに対する十分な対策をたてるとともに、責任ある指導者の一貫した指導の下に、積極的な開発を推進することが一方において技術開発を成功させ、ひいては国民の信頼を獲得する道であると考える。

3 「むつ」に関して当面とるべき措置に関して、当委員会は、次のように考える。

(1)原子力第1船を国産技術によって開発することの大きな意味は、将来実用船の原子力推進の可能性を判断し、かつそれに必要な技術を蓄積することである。この意味において第1船「むつ」の開発計画は、当然継続すべきである。

(2)現在「むつ」の原子炉内の放射能は極めてわずかで、改修に際して危険はないと判断される、また「むつ」自体も、適切な改修が不可能ではないと考える。しかし、改修を成功させるためには、「むつ」放射線漏れ問題調査委員会の提言の趣旨も踏まえていくつかの前提条件を満たすことが必要である。

① 事業団の事業遂行能力を強化するために首脳人事の刷新のみならず、全般的に技術水準の向上をはかること。

② 「むつ」の技術的総点検と必要な改修は、事業団の責任において行うものであるが、その結果については国の責任において十分な審査を行う等、遮蔽だけでなく原子炉の性能その他主要な点において再び同様の失敗を繰り返さないための綿密な計画をたて、それを慎重に実行すること。

③ 原子力行政の抜本的改革は将来に譲るとしても、当面「むつ」の点検、改修に当たっての施工が一元的な責任体制のもとに行われ、かつそれに関する監督官庁間の協力、民間関係業界との有機的道路等の体制が確立されること。
4 原子力船開発の基本方針の見直しについては、当委員会は、さきに原子力船懇談会を設け、ひろく識者、関係者の意見を聞きつつ、検討を進めているところである。日本原子力船開発事業団の存続期間の延長問題を含む諸般の問題については、この懇談会の結論をまって、当委員会としての方針を決定する予定である。
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