前頁 |目次 |次頁

放射性同位元素等の取扱事業所に係る総点検の実施結果


昭和49年8月
科学技術庁原子力局


Ⅰ 総点検の実施

1.趣旨

 最近における放射性同位元素等に関する事故発生、法律違反等の状況にかんがみ、放射性同位元素等の取扱事業所(以下「事業所」という。)をして放射線障害防止について認識を新たにさせ、法令の遵守状況等を点検して自主的に改善を行わせる等のため、去る5月20日大臣名の文書により関係の全事業所に対して、総点検を自ら実施し、問題点の改善を行い、その結果を報告するよう求めたものである。

2.概要

(1)昭和49年3月31日現在の放射線障害防止法上の許可・承認・届出の全事業所(3,231所)を対象とした。

(2)昭和49年5月20日付大臣名文書によって行った。

(3)同文書に示した「総点検の実施及び報告書作成の要領」に基づき、111項目の点検項目(注)について各事業所において直ちに自ら点検をさせた。

(注)点検項目、

イ 関係書類 46項目(手続関係23,管理状況23)
ロ 施設 37項目
ハ 使用等基準 18項目
二 その他 10項目

(4)この点検により判明した改善すべき点を至急に改めるとともに、点検時の状況と改善結果を6月30日を期限として報告させた。

Ⅱ 総点検の結果

1.点検の実施状況

 期限までに対象事業所の大部分から報告が提出されたが、なお未提出であった事業所に対しては、「放射線障害防止関係省庁連絡会議」の構成省庁が分担して点検の実施及び報告の提出を督促し、7月15日までに3,035事業所(全事業所(注1)の96.6%)から点検結果報告書が提出された(第1表)。

第1表事業所の種類別報告提出状況(49.7.15現在)

 以下の2及び3は、これらの事業所についての分析である(注2)。
 なお、7月16日以降も96事業所(注3)から報告の提出があり、提出事業所は合計3,131所(全事業所の99.7%)となっている。

(注1)今回の総点検の結果、放射性同位元素等の使用を廃止していることが判明した事業所が90所あり、それらについては廃止届を提出させるとともに今回の集計対象から除外した。

(注2)今回の総点検の結果報告の集計、分析の過程において事業所の種類別に抽出した12事業所に対し放射線検査官による立入検査を実施し、報告の記載内容の確認を行ったところ、ほぼ実態に基づいた報告がなされていることが認められている。

(注3)今回の集計には含めていない。

2.点検の結果判明した状況

(1)何らかの問題点があった事業所の状況
 点検項目のいずれかに放射線障害防止法、同法に基づく許可・承認・届出の内容と乖離があった等の問題点(注)があった事業所は、全事業所(3,035所)中2,357所(77.7%)であった。

(注)点検項目ごとの点検結果は、該当する事実の有無又は事実の適否に応じて次のように符号で報告された。「問題点」とは、△印又は×印が付されているものをいう。

(2)×印の付された項目数別事業所の状況
 各事業所別にみて×印の付された項目数が最も多かった事業所は、民間製造所に属する事業所で62項目あった。×印の付された項目数別事業所の分布状況をみると、1項目もなかった事業所が46パーセント,1~5項目あったところが43パーセントあり全点検項目の10パーセント以上に相当する11項目以上について×印の付された事業所は3パーセントであった(第2表)。


第2表 ×印の付された項目数別事業所数とその割合(全事業所)

(3)点検項目別問題点があった事業所の状況
 点検項目別に問題点があった事業所の状況をみると、書類関係の点検項目について問題点があった事業所が実数としても割合としても大きくなっている。また、障害防止に関する実体的な事項である施設の状況や使用等の基準の遵守状況については、「インターロック装置がなかった」(305所、30.3%)とか「排気の濃度の確認をしていなかった」(191所、31.0%)というような項目に対して問題点があった事業所がかなり高い率を示している(第3表)。


第3表 点検項目別問題点のあった事業所数とその割合(大項目別に上位5位まで)

(4)都道府県別問題点があった事業所の状況
 都道府県別に問題点があった事業所の状況をみると、その割合の最も大きかったところは奈良県(92.9%)であり、最も小さかったところは佐賀県(61.9%)であった。また、60パーセント台が1…県、70パーセント台が17都道府県、80パーセント台が16府県、90パーセント台が2県であった。なお、これらの差は、主として当該都道府県における事業所の種類別構成の相違によるもので、点検項目別には地域別に目立った特徴はみられない(第4表)。

第4表 都道府県別問題点があった事業所数とその割合(全事業所)

(5)事業所の種類別問題点があった点検項目の状況
 ① 問題点があった点検項目数の延点検項目数に対する割合をみると、「全事業所」平均では6.5パーセントであるが、事業所の種類別にみると、「教育機関」と「その他機関」においては、それぞれの平均の割合が「全事業所」平均の割合を上まわっていることが目立っている(第5表)。

第5表 事業所の種類別問題点があった点検項目数の割合

 ② さらに、事業所の種類別に、問題点があった点検項目について、どういう種類の項目に特に問題点があったのかをみると、「全事業所」については、大項目の「その他」に属する点検項目について問題とされる項目数の割合が最も大きく(87%),「施設」関係の点検項目についてその割合が最も小さく(5.2%)なっている。
 「教育機関」については、施設関係は割合問題点が少ないものの、書類関係、使用等の基準の遵守状況及びその他の状況について他の種類の機関に比べていずれもかなり問題点が多い状況といえる。「医療機関」については使用等の基準の遵守状況及びその他の状況について割合問題点が少ない。「民間製造所等」については、施設関係及びその他の状況について他の機関に比べて最も問題点が多いという特徴がみられる(第6表)。


第6表 事業所の種類別点検項目(大項目)別問題点があった項目数とその割合

③ また、従来とかく問題ありとされた非破壊検査業の事業所の状況についてみると、第5表の「民間製造所等」のうち、非破壊検査業の事業所の△又は×印の付された項目数の割合は、非破壊検査業以外の民間事業所のそれに対してほぼ2倍であることからみて、この業界についてはかなり問題点があったものといえる(第7表)。


第7表 非破壊検査業の事業所(民間)とそれ以外の民間製造所等別問題点があった点検項目数とその割合

(6)点検項目別問題点の質的程度の状況
 問題点があった点検項目についてその問題点の質的程度をみると、「全点検項目」としては×印の付された項目数の割合が△印の付された項目数の割合より若干大きい程度である。
 また、大項目別に問題点の質的程度をみると、書類関係については部分的、一時的又は軽微な状況が強く、施設関係、使用等の基準の遵守状況及びその他に関する状況については、いずれも問題の程度が強いものといえる(第8表)。

第8表 点検項目(大項目)別問題点の質的程度別の状況(全事業所)

3.問題点の改善状況

(1)改善した事業所の状況
 点検の結果問題点が判明した事業所のうち、特定20項目(注1)について、各項目ごとに×印の付された事業所の改善状況(注2)をみると、改善事業所数の割合が90パーセント以上になった点検項目は8項目となっているほか、障害防止のために特に重要な項目は、いずれもかなり高い改善率を示している(該当事業所数が特に少ない「許可等に基づく使用場所で使用していなかった」項目を除く。)。しかしながら、改善した事業所数の割合の低い項目もあり、また、これらの事業所全体の平均でみた改善事業所数の割合が77パーセントにとどまっていることは問題である(第9表)。
(注1)「特定20項目」は、障害防止の観点から特に重要な項目として放射線安全課において選定した10項目のほかに、点検の結果×印が多く付された項目を上位10位までとったものである。
(注2)「改善」とは、点検項目に×印を付した事業所の報告を検討した結果当該項目についての改善状況又は改善計画等の内容が適当と認められたものをいう。

第9表 特定20項目の改善事業所数の割合

(2)改善事例
 ① 各事業所からの総点検の結果報告には、各点検項目について△又は×印を付した場合にはその備考欄に「改善の状況・計画」を要約して記入させることになっていた。これにより、各事業所の報告に改善の状況・計画が記入されていたが、それらのうち、特定項目について得られた改善事例は、第10表のとおりである。

第10表特定項旨の改善事例

 ② 3,035事業所からの総点検の結果について個別に検討した結果、点検時においてはかなりの点検項目について問題点があったが、それらの点検項目についての改善状況・計画がよく、今回の点検により、事業所として全体的に非常に良く改善されたと認められる事業所の例(注)をあげると第11表のとおりである。
(注)本判定の基準は次によった。

1.△印又は×印の付されている点検項目(「問題点項目」)の数が比較的多く、かつ、その項目中に施設又は安全管理体制等の重要な項目が含まれていろこと。

2.問題点項目の全部について改善されたか、又は改善計画があること。なお、改善計画については

① 書類手続事項にあっては、既に実行に着手していることが明白であること。

② 施設基準の項目にあっては、工事着手、設備業者等への発注又は具体的な改善計画が明らかにされているものであること。

③ 使用基準の項目にあっては、改善されるまでは使用しない旨が記述されていること。

3.問題点項目の全部について、改善の方法及び内容が法令に照らして適当であること。


第11表改善状況が良好な事業所の例

(3)改善が不十分と認められる事業所等
 各事業所からの総点検の結果報告を個別に検討した結果、△印又は×印の付された点検項目について未改善若しくは改善計画のない項目、又は改善が十分でないと認められる事業所等が相当数があった。
(注)これらの事業所及び報告未提出の事業所については、「放射線障害防止関係省庁連絡会議」の構成省庁において、各所管分野につき立入検査等を行うこととしている。

Ⅲ 総点検の効果

 今回の総点検の結果は以上のとおりであるが、この総点検の実施及び結果を通じて,全体として次のような効果があったものと考えられる。

1 放射線障害防止法上の許可、承認、届出事業所のほぼ全事業所において、みずから自己の事業所の法令の遵守状況等の現状について点検が行われたこと。

2 この点検の結果、何らかの問題点があったことを発見、自覚した事業所が77.7パーセント(注)あったこと。
(注)昭和49年1月の行政管理庁の「放射線障害の防止に関する行政監察結果報告書」において放射線障害防止法の各条項に照らし不適切な事項を有するとされた事業所の割合は78.2パーセントであった(このことからも今回の総点検がかなり高い信びょう性を持った内容となっていることが推定される。)。
(参考)調査対象事業所数の比較
① 行政管理庁の調査事業所数261所
② 今回の総点検集計事業所数3,035所

3 これらの問題点を発見、自覚した事業所においては、かなりの高率でこれらの問題点の改善が行われたと考えられること。

4 少数の放射線検査官による立入検査では、およそ不可能であった全事業所の同一項目についての同一時点における状況の把握が行われたこと。

5 総点検の結果、90事業所においては、既に放射性同位元素の使用を廃止していることが把握され、これらの事業所については、法令に基づき、別途使用の廃止届を提出させることができたこと。

6 今回の総点検の結果把握された全般の状況及び問題点等は、当庁のみならず関係省庁にとっても、今後の放射線障害防止関係行政の運営において参考となると考えられること。
※放射性同位元素の取扱事業所に係る総点検結果集計表を資料編に掲載しました。


前頁 |目次 |次頁