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東北電力株式会社女川原子力発電所の
原子炉の設置変更に係る安全性について


昭和49年1月28日
原子炉安全専門審査会

昭和49年1月28日
原子力委員会
 委員長 森山 欽司殿
原子炉安全専門審査会  
会長 内田 秀雄
東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置変更に係る安全性について

 当審査会は、昭和48年7月10日付け48原委第244号(昭和49年1月24日付け49原委第23号をもって一部訂正)をもって審査の結果をもとめられた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置(原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「女川原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(原子炉施設の変更)」(昭和48年6月28日付け申請、昭和49年1月24日付け一部訂正)等に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更内容

 本変更は、原子炉の付属施設の位置、構造および設備の1部を変更しようとするもので、変更内容は次のとおりである。

1 復水器冷却水排水口の位置を敷地南東の海岸線から敷地南東海域の沖合約260mの海底に変更する。

2 気体廃棄物廃棄設備のうち復水器空気抽出器系排ガスの処理設備を、ガス減衰タンクから希ガスホールドアップ装置に変更する。また、タービン軸封用蒸気は、原子炉蒸気からタービン軸封蒸気発生器で生じる蒸気を使用するよう変更する。

3 液体廃棄物廃棄設備にランドリトレン系の廃棄処理設備等を追加する。

Ⅲ 審査内容

 本変更は、復水器冷却水の放出方法および放射性廃棄物の放出の低減に係るものであり、この変更によって原子炉の安全性が損われることはない。

1 復水器冷却水の排水口の位置の変更について

 復水器冷却水の取水口は、発電所前面に設ける防波堤内に位置し、排水口は、敷地南東海域の沖合深さ約10mの海底に設けられる。
 本海底排水管は、管径約2.4m2条、長さ約260mであり、海底に沿って敷設される。
 復水器冷却水は、循環水ポンプにより取水され、復水器を冷却した後、放水路を経て放水路水槽から海底排水管に入り、その先端から深層放水される。
 循環水ポンプは、最大流量に対して全揚程約15mであり、取水口から排水口までの全損失水頭は、経年変化を見こんでも約14mであるので、冷却水は、十分海中に放流される。

2 気体廃棄物廃棄設備の変更について

(1)活性炭式希ガスホールドアップ装置について 
 気体廃棄物の主要部分を占める主復水器空気抽出器系排ガスは、排ガス中の水素、酸素を再結合させたのち、減衰管、活性炭式希ガスホールドアップ装置で放射能を減衰させ、排気筒から大気中に放出される。
 活性炭式希ガスホールドアップ装置は、除湿装置、粒子用フィルター、活性炭吸着塔寺より構成され、希ガスが同装置を通過するさい、吸着離脱を繰り返すことにより、希ガスの滞溜時間を延ばし、放射能の減衰を行なわせるものである。
 本装置に使用される活性炭の性能については、活性炭の動的吸着係数およびそれに及ぼす温度、含水率、圧力の影響ならびに設備容量等について検討した結果、キセノンを約27日、クリプトンを約40時間保持するに十分な性能を有する。
 また、平常運転時には、装置の前後に設けられる放射能検出器によりその性能が維持されていることが確認される。

(2)タービンの軸封について
 タービン軸封用蒸気発生器で生じた蒸気をタービンの軸封に使用するが、タービン軸封用蒸気発生器への給水は、放射能の少ない復水貯蔵タンク水を使用するので、変更前にくらべ軸封蒸気排ガス中の放射能は無視できる程度に減少する。
 また、蒸気発生器の熱源は、タービン第2油気の蒸気を使用し、蒸気発生器で熱交換したあと低圧給水加熱器を経て、タービン主復水器に入る。
 蒸気発生器の1次側(加熱蒸気側)の圧力は、約4kg/cm2gで、2次側(軸封蒸気発生側)の圧力は、約3kg/cm2gである。
 万一、軸封蒸気発生器に不具合が生じた場合には、所内補助ボイラの蒸気に切替えて運転することになっている。

3 ランドリドレン廃液の処理設備について

 ランドリドレン廃液は、ランドリドレンタンクに集められたのち、前処理装置に入り、粉末活性炭を加えた凝集処理により、界面活性剤および濁質分が除去される。
 前処理により得られた上澄水は、ろ過後、強制循環形蒸発濃縮装置で蒸発処理され、発生する蒸気は、凝縮されてランドリサンプルタンクに集められる。蒸発濃縮廃液、ランドリ廃スラッジ等はそれぞれ貯蔵タンクに貯蔵されたのち固化しドラム詰めされて固体廃棄物貯蔵所に貯蔵、保管される。
 前処理装置および強制循環形蒸発濃縮装置の性能については、模擬実験で得られたデータを検討した結果、本装置は残留界面活性剤の濃度が1ppm以下になるので、蒸発濃縮装置内で発泡現象を起こさずに濃縮率を100倍以上、放射能除染係数を100以上とすることができる。

4 放射性廃棄物の放出管理

(1)気体廃棄物
 気体廃棄物の主要なものとしては、復水器空気抽出系排ガス、起動時に発生する復水器真空ポンプ系排ガス、原子炉建家、タービン建家等の換気系排ガスがあり、これらはいずれも単独あるいは系統別に常時モニタにより監視されて、放出される。
 これらの系統から放出される希ガスの量は、燃料破損の程度により異なるが、制限値である650mCi/s(30分減衰換算値)の場合には、以下のとおりである。

① 掛気筒からの連続放出
 原子炉の平常運転時に排気筒かう連続放出される希ガスの放出率は、下記のとおりである。
(イ)復水器空気抽出器系排ガスは、活性炭式希ガスホールドアップ装置でキセノンを約27日間、クリプトンを約40時間保持し、ろ過処理後、排気筒から放出される。
 この系の希ガスの放出率は、約1.1mCi/sである。
(ロ)原子炉建家、タービン建家、廃棄物処理建家等の換気系排ガスは、一部ろ過処理後、排気筒から放出される。
 この系の希ガス放出率は、約0.04mCi/sである。

② 排気筒からの間けつ放出
 原子炉およびタービン起動時における復水器真空ポンプ系の排ガスは、原子炉およびタービンを停止したあと、比較的短時間に再起動する場合に放出され、ダクトを通り、ろ過処理後、排気筒から放出される。
 この系の希ガスの放出量は、年間8,750Ciである。
 気体廃棄物の放出は、これらの値を目標に管理することになっている。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は、機器ドレン廃液、再生廃液、建家の床ドレン廃液およびランドリドレン廃液である。
 機器ドレン廃液、再生廃液および床ドレン廃液は、液体廃棄物処理設備において処理され、処理済液は、廃棄せずに原則として再使用される。
 ランドリドレン廃液は、液体廃棄物処理設備において処理されたのち放出されるが、1部再使用される。
 これらの系統から発生する廃液のうち、環境に放出されるものは、以下のとおりである。

① 床ドレン廃液の発生量は、約10,000m3/yであり、蒸発濃縮装置、脱塩装置等で処理されたのち、復水貯蔵タンクに回収し原子炉施設の補給水として再使用されるが、定期検査等に発生する余剰水約1,000m3/y(約10mCi/y)は、環境に放出される。

② ランドリドレン廃液の発生量は、定期検査等を含めて約6,000m3/yであり、前処理装置、蒸発濃縮装置で処理されたのち約2,000m3/yは、再生純水タンクに回収し雑用水として再使用されるが、約4,000m3/y(約4mCi/y)が環境に放出される。
 廃液の放出に当っては、あらゆる場合一且サンプルタンクに貯え、その放射能濃度をモニタし、復水器冷却水路中における放射能濃度が原子炉等規制法に定められた水中許容濃度以下になることを確認し、さらに、魚貝、海藻等による放射性物質の濃縮および蓄積の効果も考慮して放出することとしている。
 なお、周辺環境における海産生物への影響を監視するため、適宜モニタリングを実施すろことになっている。

5 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は、次のとおりで、前提に用いた条件は妥当であり、その結果は、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。
(1)気体廃棄物

① 気体廃棄物申の希ガスによる被ばく評価

(a)連続放出の場合

(イ)復水器空気抽出器系排ガスおよび原子炉建家、タービン建家、廃棄物処理建家等の換気系排ガスについては、排気筒から連続して放出されるものとし、その希ガスの放出率を0.08mCi-Mev/sとする。

(ロ)排気筒(地上高125m、標高約175m)の実効高さについては、吹上高さおよび地形の影響を考慮して流線計算から求められた値を用いる。

(ハ)気象条件は、敷地における1年間の気象観測の毎時の実測値を用いる。

(ニ)原子炉の年間稼動率を80%とする。

(b)間けつ放出の場合

(イ)復水器真空ポンプ使用時1回あたりに放出される希ガスの量は、350Ci-Mevとし、放出回数は、年間5回あるものとする。

(ロ)排気筒実効高さの求め方は(a)の(ロ)と同じとする。

(ハ)着目地点への影響回数は、風向出現頻度、年間放出回数とから二項確率分布で評価する。

(ニ)風速は、着目方位の逆数平均風速を使用し、大気安定度はD型とする。
 以上の各条件を用いて計算した結果、周辺監視区域である敷地境界外でガンマ線による全身被ばく線量が最大とする地点は、排気筒から南東約790mの敷地境界であり、その線量は、約1.0mrem/yである。

② 気体廃棄物申のよう素による被ばく評価

(イ)よう素の放出率は、先行炉の実測値をもとに、希ガス放出率の制限値に対応する放出率を年平均00.2μCi/sとする。

(ロ)排気筒の実効高さの求め方は、(a)の(ロ)と同じとする。

(ハ)気象条件は、敷地における1年間の気象観測の毎時の実測値を用いる。

(ニ)被ばく評価には、最高濃度地点における呼吸による摂取ならびに、その地点で生産される葉菜および牛乳の摂取を考慮する。
 この場合、呼吸量は成人で2×107cm3/dとする。また、牛乳の摂取量は乳児で1,000ml/d、成人で200ml/dとし、葉菜の摂取量は成人で、100g/d、乳児は無いものとし、この量を毎日摂取するものとする。
 以上の条件で計算した結果、敷地境界外で、よう素の濃度が最大となる地点は、排気筒より西南西約800mの敷地境界である。その地点における甲状腺被ばく線量は、牛乳を飲む乳児が最大で約6.1mrem/yである。

(2)液体廃棄物

① 放出放射性物質の量は、トリチウムを除き約14mCi/yと見込まれるが、ここでは100mCi/yとする。
 トリチウムについては、先行炉の実績を参考とし、100Ci/yとする。

② 放射性核種と組成は、先行炉の実績を参考とする。

③ 液体廃棄物は、復水器冷却水のみによって希釈されるものとし、放出後の海水により混合希釈は考慮しない。また、復水器冷却水ポンプの年間稼動率は、80%とする。

④ 海産物による濃縮係数は、現在報告されているもののうち厳しい値を用いる。

⑤ 海産物の摂取量は、魚類200g/d、海藻類40g/d、甲殻類10g/d、軟体動物10g/dとし、この量を毎日摂取するものとする。

⑥ よう素の甲状腺被ばく線量の計算は、比放射能法による。
 以上の条件を用いて計算した結果、全身被ばく線量は、約0.06mrem/y、甲状腺被ばく線量は約0.12mrem/yである。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和48年7月18日第116回審査会において次の委員からなる第103部会を設置した。

審査委員


調査委員
高島 洋一(部会長)
竹越 尹
渡辺 博信
伊藤 直次
東京工業大学
動力炉、核燃料開発事業団
放射線医学総合研究所
日本原子力研究所

同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和48年8月3日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに審査を開始した。
 以後部会において審査を行なってきたが、昭和49年1月24日の第7回会合において部会報告書を決定し、同年1月28日の第122回審査会において本報告書を決定した。


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